とあるお姫様のまちがいだらけな青春ラブコメ   作:ぶーちゃん☆

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お姫様はラブコメを始めるようです

 

 

 

「……うげぇ……っ」

 

 

 

 ──私はその日、あてもなく校内を彷徨っていた。

 時は一月中旬。遊戯部退部から一週間以上の時間が経過した日のことである。

 ……なぜ私が校内を彷徨っているのか。それは、教室に居場所が無い時間帯だから。端的に言うと、早くお弁当食べたい。

 

 

 私にとって昼休みという時間は、部活動に勤しんでいない期間は正に地獄。だって教室に居場所がないから。

 部活に所属してる時はいいのよ。部活仲間という名の臣下達に囲まれて、部室で弁当つつきながらちやほやされてりゃいいのだから。

 だけど、部活に所属してない期間は逆にそれが足枷となる。だって普段昼休みになったら颯爽と教室から居なくなる女子が、なぜか自分の席に居座っててごらんなさいよ。どんだけ目立つと思ってんのよ。

 そりゃもう私を快く思ってない女共からすれば、恰好の餌食以外のなにものでもないわけ。

 

 やれ「あれー? なんで今日は居るんだろー? なんか笑えなーい?」やら、やれ「あれじゃね? 媚びてた男に逃げられたんじゃね? ウケる〜」などと、あれやこれやと根も葉もない噂で勝手にヒソヒソ盛り上がられて、危うく素で罵倒騒ぎを起こしてしまいそうになること請け合い。マリアナ海溝くらい深い心を持っていると評判の私を持ってしても、だ。

 

 さらにその足枷は、一緒に食べる女子が居ないんなら、クラスの男子と一緒に食べればいいじゃない、という可能性さえも無に帰すもの。

 普段、私を気に入っているクラスの男子達にはこう伝えてある。「お昼は他のクラスの子と一緒に食べる約束してるんだぁ」と。そしてその『他のクラスの子』とは、もちろん女子を示すもの。

 クラスの女子とは上手く馴染めてないけど、違うクラスには女の子の友達居るんだよぉ? という見栄は、下手に部活の男子に囲まれて食べているという自慢よりも、よっぽど大きな見栄となるのだ。てかそれじゃただのビッチ自慢だし。

 

 やっぱりね、同性の友達が皆無というのは、お姫様としての権威に関わる大問題なのよ。

 だからそんな下らない見栄の為に、部活に所属してない期間は教室で昼休みを過ごすという選択肢は選べないのである。

 

 というわけで、どこにも所属していない期間は私には私の秘密の居場所がある。誰も居ない、誰も来る事のない、特別棟の階段最上段の踊り場という居場所が。

 ちなみに屋上には決して出ない。だって恐いヤンキー女子が縄張りにしてるって評判だし。オタクがこの世で一番苦手なものはDQNなヤンキーなのである。

 

 遊戯部を退部してから今日に至るまで、私は当然のようにその居場所で昼休みをひっそりと過ごしてきた。そして、そんな昼休みは今日という日も当然のように訪れるものかと思っていたのに……

 

 

 ──今すぐその床抜け落ちろ。そして絶望を抱えて奈落へと落ちていけばいいのに。

 

 

 イラつき過ぎて、そんな物騒な思考がなんの抵抗もなく頭に浮かんでしまうくらい、本日の私の居場所は汚らわしく侵されていた。クソカップルに。

 そう。そこでは一組のカップルが、弁当をつつきながらキャッキャウフフと乳繰り合っていたのだ。

 

 『乳繰り合う』とは良く書いたもので、読んで字のごとく、男子が弁当をつつきながら「やだエッチぃ☆」とか言って悦んでる女子の胸をつついていた。てか後ろから揉んでた。死ねばいいのに。

 ウフフ〜、こっそり覗いて何処の誰かしっかり確認しといたから、あとでまくらちゃんが三十路に事細かく報告しといてあげるねぇ? 死人が出ても自業自得だよぉ?

 

 

 はぁ……やはりとっとと次の部活を見つけとくべきだった。三十路に「しばらく部活動を休む」と宣言した手前、三十路を通さない限りしばらく部活入るわけにも行かないしなぁ……とか思って油断してたら、気が付けばあれから数日ほど経過しちゃってたの。

 どうせ昼休みは居場所があるからいっか、なんていう油断のせいでこんな羽目になり、平穏無事なランチタイムを求め彷徨うこととなった私。

 

 しかし探せど探せど、誰にも見つからずひとりでゆっくり弁当食べられる場所なんて、早々あるわけがない。

 いくらなんでも便所飯にまで身を堕とすような真似は、お姫様のプライドが絶対に許さない。かといって部室と階段の踊り場とトイレ以外に、誰の目にも触れられずに食事を済ます事が出来る場所なんて簡単に思い付くわけがないのだ。

 

 

 だから私は彷徨った。校内だけに限らず、一月中旬にしては暖かい方の今日ならば……と、校舎を出て外にまで足をのばした。もちろんリア充どもの巣窟である中庭は全力で避けて。

 

 そしてようやく人気も無く、一月とはいえ今日であればギリギリ過ごせるくらいの日差しも確保できる一角を発見した。

 ぱこんぱこんと、先程のクソカップルが放課後にどこぞにしけこんで発するであろう不愉快な音とは違う爽やかなぱこんぱこんが聞こえるその場所は、テニスコート脇の麗らかな陽だまりスペース。

 

 

 しかしようやく発見したその場所で私が発した音。それが……うげぇ……、である。

 なぜならそこには先客が居たから。それもそんじょそこらの先客ではない。あの日私をすこぶる不快にさせた、あの憎き陰キャが居たのだ。

 ……そして私は、奴と目が合ってしまった。

 

 

× × ×

 

 

 ヒキタニとかいう嫌われ者と二度目の接触をしてしまった私。まさかこんなところで出会ってしまうだなんて。

 

 ──もう二度と関わる事なんかないと思っていたムカつくあいつ。やだ、これって運命!?

 

 などと頭の悪そうなネタを思い浮かべるような気分にもなりゃしない。ただただ不快。ただただ不愉快。

 この現状を作る要因となった乳繰りカップルに対する恨みは、もう怨みってレベルにまで達する勢い。よし、三十路には乳繰り合っていただけじゃなく、本番に突入寸前だったと報告しておくとしよう。

 

 

 本来であればヒキタニを発見したと同時に回れ右をすれば良かったのかもしれない。でも運の悪い事に、ヒキタニが居ると認識したと同時にあの野郎たまたまこっち見やがって、つい目が合ってしまったのだ。

 まだ距離離れてんのに、なにこっちに視線寄越してんのよアンタ。あー腹立つ。

 何? 普段味わえない可愛い女の子のオーラでも感じとっちゃった? 童貞拗らせすぎて魔法使いにでもなっちゃった? マジきめぇ。

 

 お互いが存在を認識してしまった以上は、もう引き返すという選択は出来ない。だって、それじゃまるで私が負けたみたいじゃん。まるで数日前のあの出来事の負けを認めるみたいじゃん。

 いやいやそんなワケないじゃない。私は負けてないし、あの時はコイツが緊張してただけなんだって結論がとっくに出てるんだから。

 

 だから私は、引きつってしまった顔に即座に満面の笑顔を貼りつけて、とても優雅に、とても愛らしく陰キャへパタパタと駆け寄る。まるで、捜し求めていた愛しい人に駆け寄る、純潔の乙女のように。

 そしてこう声をかけてあげるのだ。嫌だけど。マジで関わりたくないんだけど。

 

「あ! こないだの人だぁ! わ〜、すっごい偶然だねっ! えへへ、なんか超運命的〜! なんちゃってぇ、てへ」

 

 先制攻撃からの会心の舌出しウインクで、一撃で陰キャを悩殺……、いや撲殺。これで落ちないキモオタなんか居るわけがない。

 ほらほら、とっととヘラヘラと厭らしい笑顔浮かべてひざまずいたら?

 ああ、でもアンタって極度の照れ屋さんだったっけ♪ じゃあ恥ずかしげに顔を逸らすだけで許してあげてもいいよぉ?

 

 そして案の定とても動揺したコイツは、とっても戸惑った様子で、お姫様にこうお返事を返してくるのだった。

 

「……は? 誰……?」

 

「……」

 

 ……あっぶない。きちんと貼りつけたはずの仮面が、笑顔のままヒクッと硬直してしまった。

 は? なにコイツ、私を覚えてないとかいう設定にする気? バカじゃねぇの? そんなわけないじゃん。普段女の子と会話なんか出来ないであろうコミュ障陰キャ野郎が、ほんの数日前に会話して下さった美少女様を覚えてないとか、設定に無理ありすぎだっつの。

 嬉しそうにすぐ食い付くと、がっついてるとか思われるとでも心配してんの? んで、知らないフリして会話広げて、「あ、あの時の子かぁ!」とかって抑えきれずにニヤニヤと顔弛めながら猿芝居しようとでも?

 いやいやそういうのいいんで。マジでそういうのいいから、とっとと嬉しそうにしろよ。そんなに訝しげに顔歪めるフリしたって、そんなのもうバレバレだから。

 

「えー、ひっどぉい、ウチのこともう忘れちゃったのぉ? 先週廊下でばらまいちゃったレポート拾ってくれたじゃーん……」

 

 でも仕方ないので、コイツの作戦に乗ってやる私って優しすぎじゃないかしら。

 ほら、これでいいんでしょ? 茶番に乗ってやったわよ。せっかく心優しい私がわざわざ切なそうな雰囲気醸し出して付き合ってあげてんだから、せいぜい上手く会話を広げてみれば?

 

「…………ああ。あのうぜぇのか」

 

 

 

 ……しかしコイツの口から出て来たのは、私に聞かせるつもりなんかないくらい、小さな声でボソッと呟いたそんな一言だった。

 普通の人間なら聞き漏らしたであろうそんな小さな呟きも、生憎、普段から承認欲求を満たす為に臣下からの賛辞を聞き漏らさないよう努めている耳聡い私の耳には容易く届いてしまう。

 だから聞こえてしまう。聞こえてしまった。そして私は、羞恥で全身が火照っていくのをまざまざと感じつつ、貼りつけた笑顔のままで視界と心がグニャリと歪んでゆく。

 

 

 ──ああ、やっぱり関わらなければ良かった。目が合っても、気付かなかったフリをして通り過ぎるべきだった。

 薄々気が付いてはいたのよ。いや、薄々なんて可愛らしいもんじゃない。本当はあの時から痛いほど解ってた。

 コイツの……この陰キャ野郎のあの時の「うわぁ」は侮辱のうわぁなのだと。あの時の私に向けた目は侮蔑の眼差しなのだと。

 

 でもそんなこと絶対に認めたくないから、認められるワケないから、だから私は無理矢理気持ちに折り合いをつけて我慢したんだ。

 でも本当は死ぬほど悔しかった。追い掛けてって背中に飛び蹴り食らわせたいくらい悔しかった。だから、せっかくのこのチャンスを生かしたかった。

 今度こそメロメロにしてやれば、心の安寧を図る為に自分を誤魔化したままでいたあの日の屈辱を、綺麗さっぱり清々しいまでに晴らせると思ったから。だから私は嫌々ながらもコイツに声を掛けたのだ。

 

 でも……えへへ、ちょー笑えるよねっ! だってぇ、結果がコレなんだもぉん。

 そしてコイツにとっては、あの日の出来事なんてほんの些末な出来事であり、今の今まで本当にまくらの事なんてすっかり忘れてたんだもぉん。私、めっちゃ傷ついちゃうよぉ。

 

 

 

 

 

 

 

 ──ざっけんなよ……? 認められるワケないだろうが。これが葉山とかいうトップカースト男子だったならいざ知らず、一時期は学校一の嫌われ者とも言われて全校生徒から蔑まれてた、こんなド底辺な陰キャ野郎に侮辱と侮蔑の目で見られるなんて……忘れられてるなんて……この私がそんなの認められるワケ……許せるワケがないだろうが!

 マジで何様のつもりよアンタ。このみんなにちやほやされてみんなに愛される素敵なお姫様が、ぼっちで嫌われ者の最底辺陰キャごときに見下されるなんて、絶対認めない。絶対許さない。

 

 

 ……そして私は決めた。今決めた。絶対決めた。

 ちょっと話し掛けてちょっとメロメロにして、すぐさま放置してやろうと思って近づいただけのそんな計略は、今、正に今この瞬間! あっさりと全て破棄して、第二フェイズへと移行する事を絶対決めた。

 

 

 

 ──嫌われ者のヒキタニと一緒に居るトコを見られて評判が落ちるとか、それでビッチ共にネタを提供して嗤われるとか、そんなつまんない事はもうどうだっていい。

 コイツは、鎌倉まくらのプライドに掛けて、今から絶対に堕としてやる……!

 

 ぞっこんにして、メロメロに骨抜きにして、まくらちゃんが居なくちゃもう生きていけないってくらいまでコイツのハートを根こそぎ奪いとって、……そして……、憐れに、惨めに、ボロ雑巾のように、躊躇いなくポイッと捨ててやる……!

 

 

 

続く






というわけで、太平洋よりも広くマリアナ海溝よりも深い心をお持ちな、史上稀に見る程に心の狭いヒロインがついにラブコメを始めるようです。
え、これってラブコメなのん?


実は今回、この次のシーンのラストまでで1話にする予定だったのですが、あれよあれよと文字数が増えていき、一万二千字を超えて尚おわらなかったので、今回は多少短くともキリのいいここまでで一旦切りたいと思います(^^;)


てなわけで次回はようやくヒロインと八幡の掛け合い回となりますので、また次回、この腐れヒロインと共にお会いいたしましょう!ノシノシ〜


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