とあるお姫様のまちがいだらけな青春ラブコメ 作:ぶーちゃん☆
あっぶない、危うく前回の更新から2ヶ月経っちゃうとこだった……!
これの更新に限らず、他のを含めても最後に更新したの元日だし('・ω・`;)
書かなくなると、ホント書かなくなっちゃうもんですね(遠い目)
お久し振りの更新ですが、今回もゴミ人間が華麗に舞い踊ります☆
「……ふぁぁ」
お姫様職人の朝は早い。
朝も早くから、手がちぎれるほどに冷たい水も我慢し念入りに洗顔し、寝癖のついた髪を一旦濡らしてから、ドライヤーを当てて美しく整え艶を出す。
そして、貴重なお小遣いの中からなんとか算出した金額で揃えたメイクセットで美しくメイクアップし、大切な商品といっても過言ではない自分自身を極限まで磨きあげる。職人は、自分を可愛く魅せる為、可愛い臣下達に愛させてあげる為には労力は惜しまない。
──まぁ好きではじめた趣味ですから。やっぱり一番嬉しいのは臣下達からの感謝のちやほやよね。
と、脳内でそんなナレーションを流しつつ、今日も朝も早よからせっせと鎌倉まくらを作りあげる。
「チッ……あー、毎朝毎朝めんっどくさ……」
薄くリップを塗り塗りしつつ、鏡を覗いて嘆息する私。
ホントなら、あと五分あと十分と自分を甘やかしつつ、布団と格闘する微睡みタイムを楽しみたいっつうのに、なんでこう朝からこんなにめんどくさい事しなきゃなんないのよ。
ま、私の場合朝からここまで張り切らなくたって十分美少女なんですけど。メイクだってナチュラル程度だし。
キモオタってのはギャルに恐怖心抱いてるから、バッチリメイクとか見るとビビッちゃうのよね。だからメイクは薄くナチュラルに。でも唇だけは念入りに艶々ぷるるんにしておかねばならない。あいつらいつかチュウ出来んじゃないかと身の丈に合わない夢を見て、テントおっ立てて唇ばっか見てくるからね。
アホかっちゅーの。キモオタに奪わせる安い唇なんか持ち合わせてねーんだよ。
そんなわけでいつもと同じように自然に薄〜く…………、あ、いや、今日は気分を変えて、ちょっとだけバッチリ目なメイクにしとこうか。
んで、メイクを終えたらお次はヘアセット。朝からドライヤー当てて艶っ々の黒髪に仕立てたから、いつも通り二つのテールを作って、ゴスロリちっくな黒レースリボンでー…………、あ、いや、今日は気分を変えて、たまには違う髪型にしようかな。
たまにはアレにしよう。ハーフツインテ。オタサーの姫と言ったらツインテかハーフツインテと相場は決まってんの。だから今日はハーフにしとこう。なんかこう、ね。気分を変えてハイにしようよ、ハイに。
なんかこう、気分変えて気持ちアゲてかないとやってらんないってゆーの? 酒でも飲まなきゃやってらんねぇよ、ってアレ。
「……はぁぁぁ〜」
溜めた息を深く深く吐き出しながら、えっちらおっちら慣れない髪型に整えてゆく私。どうやら全然アゲられていない模様。
「……あ、私これ結構似合ってね? やべぇ可愛い超モテそう。……うし、負けてない負けてない」
しかし、出来上がったハーフツインテ姿を見た瞬間にはしっかりアガる事が出来ました。お手軽な尻軽女か。
でも……そう。私は負けてなんかいないのだ……!
こうして最高の自分作りを終えた私は、一路ダイニングへと向かう。
「……クララおはよー」
「あらまくらおはよ〜……じゃなくて、いい加減クララはやめなさいってば。てかあんた、毎朝毎朝そんな低っくいダミ声でやる気のない挨拶しないの! もっとシャキっとしなさい? シャキっと」
朝からうっさいなぁ、このオバサンは。もやしじゃないんだから、そんなにシャキシャキしないっつの。
「あー、はいはい。チッ、朝からウッザ……」
「まったく、お母さんにウザイとか言わないのー。ほら、もうごはん出来てるから早く食べなー」
「へーい……」
この見るからにオバサン丸出しのおばちゃんは鎌倉くらら。なにを隠そう私の母親である。母娘そろってDQNネーム乙。
これはアレだわ。血統が悪いのね、血統が。命名センスがヤバイんだわ、うちの家系。
そんなDQNネームな母に促され、頭をがしがし掻きながら所定の位置に腰掛ける。
今日の朝ごはんは味噌汁と納豆、焼き鮭にお新香か。言わば吉牛の朝定食の牛皿無しバージョンみたいな……、とでも言えば分かりやすいのだろう、ありふれた日本の朝の光景が並んでいる。
「……あれ? 蔵太はー……?」
「お父さんならもう会社行ったわよ。なんかゆうべの残業だけじゃ終わんない仕事があったんだってー」
「へー」
それはそれは、朝からご苦労様なことで。お姫様職人の朝は早い……とか言っといて、その父親の方がよっぽど早いっていうね。
ま、お父さんの朝が早かろうがすでに出社した後だろうがどうでもいいんだけど。
さ、メシメシ。
「あら? まくら今日はいつもと髪型違うじゃない! なんかいつもよりは大人っぽくていいわね」
食事はまず汁物からでしょってことで、わかめと豆腐の味噌汁をずずっと啜っていると、ごはんをよそって持ってきてくれたクララが、普段と違う娘の姿を目ざとく発見。
「それにメイクもいつもよりバッチリ目じゃない。なに? どしたの?」
「……べっつにー。気分よ気分」
「へぇ、あんたずっとツインテ? だったっけ? あの小学生の女の子みたいなの。高校入ってからずっとアレだったのにねぇ」
「小学生とか余計なお世話だから……。アレは男子ウケがいいんだってば」
「そうなの? お母さん、ちょっと痛いなって思ってたんだけど」
うっせぇ……超余計なお世話すぎでしょ……
「でも今日の方がずっとマシよねー。あんた、明日からもずっとそれにしたら? なんならもっと大人っぽい髪型の方がいいけど。あ、でもメイクはもうちょっと薄い方が好みねぇ。なんか今日はちょっと派手すぎない?」
「……あー、マジ鬱陶しい……」
朝から食らう母親のお節介ほど面倒なものはない。うちのクララはただでさえ余計なお世話が多くてうざったらしいから、髪型変えたりメイク変えたりすると、心の底から鬱陶しくてたまらない。
まぁ今日は朝からうっせーんだろうなと覚悟はしてたからいいんだけど。だから無視無視。全力で無視して、無心で味噌汁を啜る。
「あ! もしかしてぇ、ようやく彼氏でも出来たぁ!?」
「ぶっ!」
「ちょ、きったないわねー。ホラ、ティッシュティッシュ。でもその慌てようは図星だな? ようやくあんたにも春が来たかー。あんた高校に入ってからそんな変なカッコ……、なに? ゴスペル? って言うんだっけ? そんなカッコばっかしてたから全っ然モテなかったもんねー。まぁ中学生の頃もワカメみたいな髪型とダっサい眼鏡で、地味すぎて全然モテなかったけど」
「は、はぁ? なに言ってんの!? 私いま学校じゃめっちゃモテモテだっての! モテ過ぎてとっかえひっかえ過ぎて、男一人に絞るなんて無理ってくらいモテてっから! あとゴスペルってなんだよ、天使にラブソングでも歌っちゃうのかよ。ゴスロリだからゴスロリ!」
ホントなんなんだよ朝から……。マジでどんだけウザイのよ、うちの母親……。あと中学の頃の話は本当に勘弁してくださいすいませんでした。
「はいはい。まくらはモテモテで凄い凄ーい」
「チッ……」
このオバサン絶対信じてないでしょ。普通にめっちゃモテてるから。
まぁ? 家に男連れてきたことないし? しょうがないっちゃしょうがないんだけども。
……てゆーか──
「……つかさ、モテるとかモテないとか、彼氏出来たとか出来ないとか、今の私の状況は、そんな甘いモンじゃないのよ……」
……そう。私にはそんな甘ったるい事を言っている余裕など、無くなってしまったのだ。
彼氏……ではなく、いつも通りちやほや要員を軽〜くこさえて愉しんでやろうと気楽に考えていた昨日までの平和なまくらはもう居ない。今居るのは、危機感と焦燥感に駆られた一人のか弱き乙女なまくら。
ねっばねばな糸をたっぷり引かせた腐った豆をぐちゃぐちゃ掻き混ぜていると、嫌でも思い出してしまう。引きつった笑顔のまま意識を失いかけている私に向けて、この納豆と同じように腐った目を向けてきたあの男のシケた顔を。
……いや、あの瞬間だけは、私の目と心の方が間違いなく腐っていたのだろう。この納豆とおんなじように、ねばねばで腐った糸を全身に絡ませて……
× × ×
──え、……あれ? ここどこ?
「……ハッ?」
……あ、あっぶない、危うく意識が飛ぶとこだった。確か私は奉仕部とかいう可笑しな部活の部室に意気揚々と入ってきたはずよね? そしてそこで待って居るのは、今回のターゲットでもあり、この私に弄ばれるという幸せな被害者でもある比企谷、そしてその比企谷にちやほやされて悦んでいる二人のブサイクプリンセスだったはず。
ええ。確かに比企谷は居るのよ。昼休みに会った時と同じくらいの腐った目を私に向けてきているから。だからここが奉仕部で間違いはないはずなの。
「どうぞ。そこに掛けて」
「ようこそ奉仕部へ!」
……でも、なに? なんでこいつらが居んの? 底辺なブサイク女は? なんちゃってオタサーの姫は? どこ? ねぇ、どこ?
……な、なんでブサイクな底辺どころか、よりにもよって頂点が居んの……!?
雪ノ下雪乃
この学校でこの女を知らないヤツなんて居ない。
頭脳明晰容姿端麗質実剛健。おおよそ現実の人間とは思えない、まるでアニメやラノベのヒロインじみた才能と美貌を持つ超有名人であり、疑う余地の無い我が校の女王。
美少女でありながらも、常に学年二十位前後をキープしているのが自慢のこの私でさえも、負けを認めざるを得な…………いやいや、私が負けるわけないじゃんなにいってんの馬鹿じゃないの? べ、別に負けてるって思ってるわけじゃないし? 思ってなんかないし?
別に負けてるワケじゃないんだけども、むしろ勝ってるけども、……でも、まぁ、なんていうの……? か、かなり最上位レベルの、とてもとても嫌〜な女。
まくら的関わりたくないランキングで言えば、圧倒的一位二位の内の片割れである。
由比ヶ浜結衣
この男好きのする可愛い童顔と可愛くないおっぱいで、学年で……いやさ学校でも指折りのモテ女。リア充の中でも最高位に位置する存在でありながらも、人当たりが良くて明るく元気。誰からも愛される人気者……とかいう、反吐が出そうな存在。
さすがのこの私を持ってしても完全に負けを認めている。……お、おっぱいだけだから。
もともとそんなに有名人ってワケではなかったが、十一月の生徒会役員選挙で由比ヶ浜結衣という二年が会長に立候補するとかしないとかの噂が立った事に加え、その噂の立候補予定者が、実は優れた容姿とリア充っぷりを兼ね備える人物だった──という事で一気に注目を集め、今や学校の有名人として名が上がった女。
まくら的関わりたくないランキングで言えば、まぁベスト5には余裕で入るだろう。
憎たらしいけど認めざるを得ないそんな校内カースト頂点に立つ女共が、なんでここに居るのだろうか……?
全身から血の気が引いていくのが分かる。軽くガクブルしちゃってるし。それなのに未だ笑顔を絶やさずにいる私って凄くない? ピシィッと固まっちゃってるだけだけど。
教室間違っちゃったんだろうなと思い込みたいにも関わらず、その希望的観測は決して許してはもらえない。なぜなら他ならぬ比企谷がそこに座ってやがるから。
こいつは、顔を引きつらせながらも私に気付かないフリをして、知らん顔を通そうとしているのだ。
「は、はひ……」
しかしどんなに惚けていようとも、我が校の女王に席に促されてしまってはいつまでもただ突っ立っているわけにもいかず、若干小刻みに震えはじめた足を引きずって、一路促された席へと向かうしかない。
……これはアレだ。不測の事態発生だ。
どうやら私は思い違いをしていたらしい。比企谷がオタサーの姫にちやほやしてるとか、オタサーの姫が比企谷にちやほやされてるとか、この部活はそういうのじゃなかったんだ。
どんないきさつでこうなってるのかは知んないけど、比企谷はオタサーの姫に可愛がられているわけではない。こいつは女王達の単なる奴隷であり、部活の備品として扱われているに過ぎない。
こいつらクラスになれば、たかだか陰キャひとりを奴隷として使ってる程度の悪い噂であれば、名声と権力で軽くはねのけてしまえる。だからこんな陰キャなんかをここに置かせてやっているんだろう。
そしてそんな惨めな待遇にも関わらず、比企谷はそれを好機と捉えて利用してるのだ。
くっそ……! 比企谷にまんまと騙された! だからこいつはあんなにも所属している部活を言い淀んだのだ。だからこいつは、この私に簡単になびかなかったのだ。
……こいつ、この二人のどっちかのストーカーとかだったんでしょ。だからこの部活に入部したんだ。そうに違いない。そしていざ入部してみたら奴隷扱いありがとうございますブヒブヒってとこか。うっわ引くわー、やっぱキモいなコイツ。
とにかくコレは気持ちを切り替えなければならない。計画は一旦白紙に戻そう。そうだそうしよう。
もちろん比企谷を堕とすという計画に変更はない。なぜならお姫様が一度決めた事なのだから。
ただしそのプランを実行する場所は、別にここでならなければならないワケではないのである。
べ、べべべ別にここで堕とさなくたって、比企谷ごときを堕とすチャンスなんていつだってどこだってあるし……!? なにもここで堕とす必要なんかどこにもないわけよ!
ほ、ほら、アレよアレ。省エネよ省エネ。ここだと無駄なエネルギー使っちゃいそうだから、比企谷ごときに必要以上の労力を割いてあげるなんて割りに合わないのよ。
よっし、今後の計画は即座に組めた。さすが私。
とりあえずここは戦略的撤退の一択しかない。これは敗走ではない。勇気ある撤退に過ぎないのである。
逃げ……勇退を選んだ私の頭は途端にクリアになる。いつまでもブルッてる場合じゃない。とにかく今は逃げることのみに全力を注ごう。
となると次なる問題は、ここの扉を叩いてしまったこの現状を、どう打破するかの一点のみ。
なにせ相手はクソ女王とクソリア充。会話したことなんてないけど、性格とか超悪いに違いない。十中八九、ただの冷やかしで見学に来ちゃいました♪では済ませてはもらえないに決まってる。
しかし、そこら辺のしょっぱいパンピーなら慌てふためく場面なのであろうが、そこもさすが私。青ざめて震えている間にも、すでにどう誤魔化すかの算段は考えていたのだ。それは、比企谷から聞いたこの部活の特性を上手く利用すること。
利用して誤魔化して、そして煙に巻いてさくっと立ち去る。やはりさすが私。
となれば、まずはこの張り詰めた空気を自分のペースに持っていってやろうではないか。鎌倉まくらが存在する場所は、いつだって鎌倉まくらを中心として空気が流れなければならないのだ。それがお姫様としての譲れぬ尊厳。
先程からがっつり固まってしまったままの引きつり笑顔を精一杯ナチュラルスマイルに矯正した私は、てくてく席まで歩いて行くと、元気にすとんっと腰を下ろした。
「わ、わぁー! どんな人達の部活なんだろって思ってたら、まさか雪ノ下さんとか由比ヶ浜さんがやってる部活だったなんて超びっくりー! ウチ、可愛い女の子とか大好きだから、めっちゃテンション上がっちゃうよぉ!」
ただし自分より下のランクの可愛い女の子に限る。なぜなら優越感を味わえるから。てか女が女を可愛いと褒めそやす時、そこに純然たる好意などありはしない。自分の方が優っているからこその自信の現れか、もしくは周りに居る男に対してのアピール──容姿が優れた同性に素直に可愛いと言えちゃう私って素敵でしょ?──くらいのもの。
故に今の私のテンションはだだ下がりである。
いや別にこいつらに負けたとかは一切思ってないから。思っちゃったら負けまである。
「……」
「ほえ? や、やー、か、可愛いなんて……えへへ」
私からの先制パンチに、乳に栄養を全部持っていかれてるのだろう頭の弱そうなリア充が嬉しそうに照れる中、雪ノ下雪乃はつまらない物でも見るかのような冷めた視線をびしばしぶつけてきた。
……ハッ、可愛いなんて言われなれてるってか? お高くとまりやがって。……び、びびってなんかねーし。
「二年A組、鎌倉まくらさんね」
そして褒め殺しなんかカケラも興味が無さそうなこの女は、私の言葉を完全に無視して淡々と業務を進める。本当にいけ好かない女。
……って、……は?
え、なんでこいつ私のこと知ってんの……? しかも名前どころかクラスまで……?
「え、えっと、雪ノ下さんって、ウチのこと知ってるんだぁ! やばぁい、なんかめっちゃ光栄なんだけど〜」
ふ、ふふん。なんで知ってんのよってちょっとびびっちゃったけども、ま、私のネームバリューなら、あの雪ノ下雪乃に知られてるくらい至極当然て事よね。
べっつに雪ノ下雪乃に知られてたからって、どってことないけどぉ?
「ええ。同じ学年であれば、大体は覚えてしまうものでしょう? 貴女だって私や由比ヶ浜さんの事を知っているくらいなのだし」
「そ、そだよねぇ!」
……チッ、んだよまくらちゃんの認知度が高いのかと期待させといて、ただの頭の出来の自慢かよ。普通覚えられるわけないでしょ。
それと自分らのネームバリュー自慢でもあるわけね。やっぱこいつ性格めっちゃ悪ぅ……!
「えへへ、ゆきのん凄いでしょ! 最初会った時、あたしの事も知ってたんだー」
ゆきのんてなんだよ。あの雪ノ下雪乃をそんな残念なあだ名で呼んじゃうとか、このビッチマジ何者なの? あとなんであんたが胸張ってんの? ああ、また自慢ね、バストサイズの。
こいつらって自慢ばっかよね。美少女だとか勉強も出来るだとか、一見すると自慢出来ることが山ほどあるのに、周りに自分の事を一切自慢気に話さない私みたいな奥ゆかしいタイプとは大違い。絶対に話が合わないタイプだわ。さすがまくら的関わりたくない女子共。
「とはいえ同じ学年でも知らない人は居たわ。……確か、えーと、誰だったかしら。……ああ、そうそう。今日は残念ながら欠席しているようなのだけれど、誠に遺憾ながら我が部に在籍している、なんとか谷? とかいう男の事は、全然知らなかったわ」
この私、鎌倉まくらを前にして、カースト最上位者気取りのあまりの余裕な態度に少しだけイラッとしていると、その雪ノ下雪乃がおかしな事を口走りはじめる。
……本日は欠席? なんとか谷? あれ? この部活ってまだ他にも部員いんの? でも比企谷のヤツ、三人って言ってたなかった……?
頭上に疑問符を浮かべていると、今まで我関せずを貫き知らん顔をしていた男が、ついに口を開く。
「おい、勝手に欠席扱いにすんな。部活始まってからずっと居んだろ。あといい加減名前くらいは覚えてくださいお願いします」
……あ、ああ、なんとか谷ってのは比企谷のことね。
成る程、つまり今のは雪ノ下雪乃から比企谷に対しての辛辣な言葉の暴力だったってわけね。同じ学年の生徒くらい全員覚えられるという記憶力を自慢する雪ノ下雪乃を持ってしても、存在を認知出来ていなかった、と。さらにはずっと部室に居るにも関わらず、またもや存在を認知出来なかった、という、まさに味噌っかすな扱いってわけか。
やっぱ比企谷はここではそういう扱いなワケね。ざまぁ。ようやく……、ようやく私の予想通り!
──でも……
「あらごめんなさい、居たのね、気配を感じなくて全く気が付かなかったわ。道理で廊下側からずっと卑猥な視線を感じると思ったわ。気を付けて由比ヶ浜さん。卑猥谷くんがこっそりとこちらを視姦しているわよ」
「歯間? 歯ブラシ?」
「別に見てねぇよ……。さっきからずっと読書してるでしょ? なんならこの本のここまでの内容を話して聞かせてやろうか?」
「無視された!?」
「ネタは上がっているわよ。私達を眺めて興奮している事がバレてもすぐ誤魔化せるように、既に読み終えている本を用意しておいたのね? そうやって本を読むフリをして、ずっと私達の体に厭らしい視線を向けていたのね」
「マジで!? ヒッキー超キモい!」
「……いやなんでだよ」
──でも……、またなんか思ってたのと違うんだけど……ッ。
一見すると確かに辛辣に見えるこのやり取り。これが本当にただ辛辣なだけであったのなら、私の予想には反していなかった。
雪ノ下雪乃が極寒の罵声を浴びせ、由比ヶ浜結衣が引きこもりのごときセンス皆無のあだ名で罵声を浴びせ、そして比企谷が惨めに嘆く。
人を見る目がない人間がこのやり取りを見たら、カースト最上位者がカースト最下層者をただなじっているようにしか見えないかも知れない。少なくともうちのクラスの頭カラッポなクソビッチ共なら、まず間違いなく比企谷が虐められてると思って、一緒になって嗤い者にするだろう。頭カラッポだからって夢ばかり詰め込んでも、それはただの馬鹿でしかないのだ。
──でもこれは……、同じ教室に居るはずの私を完全に空気にしている、この三人の間に漂う嫌な心地悪さは……
「それで鎌倉さん。本日のご用件なのだけれど」
「へあっ!?」
惚けている最中、不意に浴びせられた冷水のような声と問いに、思わず変な声を上げてしまった私。
これじゃまるで私があんたにビビってる格下みたいじゃない。大丈夫? 見下されてないわよね? 私あんたらに負けてるとか思ってないから。格下じゃなくて同格なんで、そこんとこ勘違いしないでもらいたい。
……いやいや、今はそれどころじゃないんだった! 今はこいつらの関係性がどうかとか、奇声を発してしまった羞恥とか、そんなのは二の次三の次でしょうが! 今は一刻も早くこの場から逃げっ……抜け出さなければ!
……いや、どうでもよくはない。私が今まさに思い至った想像が間違いではないとしたら、それこそ早くここから抜け出さねばならないのである。そして上手く逃げ……抜け出せた場合でも、当初の予定だった計画──比企谷を落として堕とす──さえも白紙に戻さねばならないかもしれない。
お姫様が一度決めた事は覆すわけにはいかない? なにそれ美味しいの? 私のお姫様としての自尊心がこれ以上傷付くことに比べたら、そんなもん……比企谷なんかはほんの些細な問題なんだよ! ばーかばーか!
そ、そりゃね? ここに入部するんなら、当然この女共なんか楽勝で打ち負かして、ターゲットを堕として落として趣味を満喫するに決まってるけど、……ま、まぁ? 入部しないんなら、別に比企谷ごときにこだわる必要とかないしー……?
た、だから計画を白紙撤回したって、それは単に比企谷に構うのに飽きちゃったって話なだけで、別に比企谷や雪ノ下雪乃達に対して負けを認めたわけじゃないのよ。うん、大丈夫大丈夫。まだまだ負け知らず。
だから私は、なんの後ろめたさも後ろ髪引かれる思いも感じずに、ただただここから逃げ出すのみ。そしてここから傷を負わずに逃げ出す算段なんて、疾っくの疾うについてんの。
「あ、そ、そうそう! んーとぉ、こちらが生徒のお悩みを解決に導いてくれる部活だって聞いたんでぇ、ちょっと相談してみよぉかなー……って思ってぇ」
──そう。ここは一体なんの部活? 答えは生徒のお悩み相談室です。
つまりほんの過ちでここに足を踏み入れてしまったのならば、入部希望者だとバレる前に依頼者のフリをして、適当な悩みをでっち上げればいいだけの話なのだ。
そして悩み(嘘)を打ち明けている最中に気が変わり依頼をキャンセル。そうすれば、難なくここから逃げ出せるって寸法。
都合のいいことに比企谷も知らん顔してる事だし、私もあんたには触れないでおいてあげる。こいつとの関係を気付かれずにいれば、よりスムーズかつスマートにここを脱出できるってわけ。マジまくらちゃん有能すぎでしょ。
「おー! どんなどんなー?」
と、別に誰もこいつになど言ってないというのに、なぜかビッチリア充が長机に身を乗り出して聞いてきた。
なんでお前がそんなにノリノリなの? ノリノリすぎて机にデカパイがノリノリだから。また自慢かよこのビッチ。一応私もそこそこはあんのよ。少なくともあんたのお隣の絶壁よりはね。
そもそもでかけりゃいいってもんじゃねーんだよこのビッチ。どうせ垂れてる上に黒くてどでかい乳輪とか付けてんでしょ? お隣さんは小粒な黒豆でもくっついてそうだけどぉ♪
デカパイはデカ乳輪、貧乳は黒乳首って相場は決まってんのよ。言っとくけど、色と形なら負けてないから。別に他に勝てそうな部分がなくて負け惜しみ言ってるだけじゃないから。
「えと……」
まぁそれはそれとして、いつまでも負け惜しみ言ってても虚しくなるだけだ。やっぱり負け惜しみなのかよ。
そんなことより肝心の悩みはどうでっち上げようかな。はっきり言って、このお姫様に悩みなんてあるわけないし。
顔もいいし頭もいい。胸はそこまでデカいわけじゃないけどめっちゃ美乳。
男にモテモテで男にちやほやされてて、男から愛されまくっているみんなのお姫様。
女子からハブられてる? どーでもいい。
女子に軽く虐められてるっぽい? どーーでもいい。
女子の友達が出来た事がない? どーーーでもいい。
ヤバイ私完璧すぎじゃない。負けを知りたい。
じゃあ一体なにを依頼しようかしら。
なんでもいいのよ、どうせトランプばりのフェイクニュースなんだし、そもそもどうせ活動実績なんてあるはずのない謎部活なんだし、適当になんか言っときゃ大丈夫。
極力有り得そうで、かつ私の体面も傷付かない。なんならこの女共に対して私の自尊心をも満たしてくれそうな素晴らしき悩み……。モテすぎて困るとか?
「……あ、でも……なぁ」
いざ悩みの告白となるとなかなかいいモノが思い浮かばず、どうしようかとウンウン首を捻っていると、なぜかお悩み相談室には最も相応しくなさそうなおバカキャラが、私からの依頼を聞く事に難色を示しだした。
だからなんでお前が主導権握ってんだよとか思いつつも、どうせまだなにも思いついてないし、ん? と可愛いキョトン顔で小首を傾げて、由比ヶ浜結衣の次の句を待ってやる。
「ごめんねゆきのん。あたし、つい勝手に話進めようとしちゃったけど、今って他に依頼ある時だから、あんま無責任に相談とか聞いちゃったらマズいよねっ……」
「……!」
……ふ、ふむふむ、成る程そういう事かー。そりゃ他に依頼があるんなら、ダブルブッキングはよろしくないわよねー。
そういう事なら全然構わないわよ? むしろお断り推奨。こっちとしても願ったり叶ったり。
──そうなんだけど。確かにそうなんだけど。
逆に好都合でしかないこの事態は、二度とこんなとこに近寄るかよボケ! という本音を隠して、「あ、そぉなんだぁ……。うん、分かった。……じゃあなんか奉仕部さんに申し訳ないし、今回はウチ、自分でなんとかしてみるね……っ! もしダメそうなら、またこちらに寄らせて貰うね……っ」と残念そうに言っとけば、なんの後腐れもなく迅速にここから退去出来ること請け合い。
でも、いま私の頭にふと思い浮かんだ思考は、そういう打算的なものではなかったのだ……。そして私は──
「……い、依頼とか、普通にあるんだ……」
背中に一筋の冷や汗をつーっと垂らし、誰の耳にも届かないくらいのぽしょり声で、そう独りごちた。
……なんかもうさ、比企谷の事も奉仕部の事も、私が思ってたものと色々と違いすぎんだけど……
当初は比企谷ひとりのぼっち部かと思っていた奉仕部とかいう変な部活。私はもちろん、誰一人として認知していないふざけた部活。誰も知らなきゃ依頼などあるはずもなく、なんの活動もしてないんだろうと疑わなかった幽霊部活。
でも聞いてみたら、部員は三人居ました。覗いてみたら、そのうち二人は有名人美少女でした。誰一人として認知してないと思っていた部活は、普通に活動してました。
そして、いとも容易く落とせるかと思ってた陰キャぼっち。でも容易くどころか壁が高くて厚すぎて、本音を言うと、これぶっちゃけ無理なんじゃない? とうっかり弱気になっちゃうレベルの相手でした。さらに二人の有名美少女達との、まるで青春群像劇のような胸糞悪い放課後を過ごすサマをまざまざと見せ付けられ、実はこの陰キャが私に簡単になびかなかったのって、そもそも私ごときには端から眼中に無かったんじゃないの? なんて、屈辱的すぎて死ねるくらいの──いや、私が死ぬくらいなら余裕でこいつ殺るけど──考えが頭の片隅にちらほらなんかしちゃったりして、ついにはそこから逃げ出そうとする始末。
──ナニモカモガウマクユカヌ……
……なによこれ。すべてが私の予想してたレールから外れまくってる。てか、予想なんてしようがないくらい次々に予想の範疇を軽々と飛び越えてゆく強烈な連続攻撃。なんか、今更ながらに危険な香りがぷんぷんしてきたんだけど……
全てがここまで予想の範囲を逸脱していると、もう私の思い描く未来予想図なんかは永遠に訪れないんじゃないかって思えるくらいにデンジャラス、かつクライシス。なんなら暗い死す。
……ヤバイヤバイヤバイ! 早く、一刻も早くここから逃げ出そう……!
全ての事が上手く行かないからなのか……、全ての事が私の予想を裏切り続けてゆくからなのか……、私の胸には、かつてない程の警報が鳴り響いている。そのけたたましい程に鳴り響く警報音は、最早コーションからデンジャーへと変化している。
ああ、やっぱ比企谷なんかに関わるんじゃなかったよ……。そうなのよ、そもそも今日の昼にこいつに関わっちゃったのがいけなかったのよ。初めっから分かってた事じゃんよ、この最底辺の陰キャぼっちとは関わらない方がいいってさぁ……。なのになんでわざわざ関わりにきちゃってんのよ私。マジ今日はどんだけ無駄な時間と傷を負っちゃったの……?
でも、まだ大丈夫。今なら傷はまだ最小限で済むんだから。
せっかく私が逃げ出し易いようにお膳立てしてくれたんだから、この傷は犬にでも噛まれたと思って早く忘れよう。しばらくは歯を食い縛りながらぬいぐるみを殴ったり蹴り飛ばしたりの毎日が続くかもしんないけど、……今ならまだ、引き返せる!
逃げるという行為は恥ずべき行為であり屈辱である。しかし自我を守るのを最優先とした場合、その恥は未来の光へと繋がるのだ。つまり、めっちゃ役に立つ。
ハンガリーのことわざだか少女漫画だかちょっと前に流行ったドラマだか知らないけど、どうやら結構マジらしい。
そして私は満を持して言う。ついさっき頭に浮かんだばっかりの、この素敵な魔法の言葉を。
「あ、そぉなんだぁ……。うん、分かった。……じゃ──」
「大丈夫よ由比ヶ浜さん。その心配はいらないわ」
しかし私の言葉は見事に遮られる。優しい笑顔を由比ヶ浜結衣に向ける女王によって。
「そなの?」
「ええ」
……チッ、人が喋ってる最中だろうがよ。人が喋ってる時に割り込んじゃいけませんって、お母さんに教わんなかったの?
ま、いいや。この流れ的にいくと、まず間違いなく「今は依頼を請けるつもりはないから」とでも言うつもりなんだろう。
だったら初めからそう言えよ、ったく、使えない乳無しね。
まぁ? 若干イラッとは来たけども? 今回だけは不問にしてあげるから、さっさと言いなさいよ。私の相談を受け入れない旨をさぁ。
「だって彼女の相談は、今すぐどうこうしろという物ではないもの。もっと長い期間を掛けて、ゆっくりと進めて行けばよいものなのだから」
…………ん?
そして私は知る事となる。確かに逃げるは恥だが役に立つ。しかし、その後にはこんな言葉が続くのだということを。
役に立つ。……但し、無事逃げられた場合に限る。
果たして雪ノ下雪乃は、由比ヶ浜結衣に向けていた笑顔を私へと向けた。いや、厳密に言えば、その笑顔の質は明らかに変化した。
その笑顔は、どきりとするほど静かで美しく、ぞくりとするほど嗜虐的で冷酷に……
「なぜなら鎌倉さんの相談は依頼じゃないの。彼女の相談は、……奉仕部への入部についての相談なのだから」
………………………………ファッ!?
続く
静ちゃん「逃げられると思った?残念!いつから手を回されていないと錯覚していた?」
まくら「クハッ(吐血)」
ご無沙汰でしたがありがとうございました!
ちなみに本来は今回と次回で1話になる予定だったので、次回までは頭の中で話が出来ております。つまり次回はこんなに間は開きません!……はず(・ω・)
そして5話目にして平均字数が10000字超えゲットだぜ!
さーせん、なんかまくらちゃん書くといつもいつも長くなっちゃって(白目)
てか今回、こんだけ書いても作中時間5分も経ってないでしょ……
というわけで次回、まくらの身にさらなる試練が降り掛かります♪
ではまた2ヶ月後にお会いしましょうノシノシ