真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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にじファン閉鎖に伴いこちらに移転することになりました。
再投稿するたびに拙作の粗い部分が沢山見つかって鬱になるのもだんだん慣れてきたので、こちらでも出来る限りの力を出していきたいと思っております。

それでは、どうぞ。


第一話 外史と転生と始まりと

気がつくと、俺は白い空間に立っていた。

何処だろう。変な夢見てるのかな。いやだなぁ・・・。俺、そう言う悪夢とか苦手だし・・・。

キョロキョロとまわりを見回すと、少し離れたところに長身の男の人が立っていた。

近づいてみる。

 

「・・・嘘だろ・・・?」

 

思わず呟く。

あの黄金の鎧・・・。

なんだかボーッとしている様だが、間違いない。

憧れの英雄王、ギルガメッシュじゃないか!

少し興奮気味になりつつも、夢の中だから、と自分に言い訳をして勇気を出して話しかけてみる。

 

「初めまして・・・」

 

俺の声に、ギルガメッシュが振り向く。

 

「・・・誰だ?」

 

「あ、えっと、その・・・」

 

まさかの状況に、言葉が出て来ない。

 

「・・・まぁよい。この状況で名前など意味を持たんからな」

 

こちらから視線を外すギルガメッシュ。

怒らせてしまっただろうか? 

・・・いや、怒っていると言うよりも、何かもっと他の・・・。

虚しさを感じている顔、と言うのだろうか。愁いを帯びた顔をして、遠くを見ている。

俺が見る限りでは白い空間しか無いのだが、彼には何か見えているのだろうか。

 

「そう言えば、貴様はなんの英雄だったのだ?」

 

急に話しかけられる。

表情から察するに、暇つぶしと言ったところだろうか。

 

「英雄なんてそんな・・・。ただの一般人ですよ」

 

「そんなわけが無かろう。『此処』にいるのだから」

 

は? 『此処』? 

 

「いや、本当に解らないんですよ。・・・えっと、夢とかじゃないんですか?」

 

もし本当に夢だったら起きた瞬間に腹を抱えて笑うであろう質問を繰り出す。

 

「夢? ・・・まさか、貴様、本当に英雄ではないのか・・・?」

 

「ええ・・・。えっと、普通に生活していた筈なんですけど・・・」

 

俺の言葉に、目の前のギルガメッシュは少し思案した後、口を開いた。

 

「まさか、死した後にこのような余興に出会うとはな。・・・興が乗った。此処の説明をしてやろう」

 

「は、はぁ・・・」

 

夢の登場人物に夢の世界を説明して貰うのも悪くないかもな。

 

「此処は英雄が死後、『座』に押し上げられる際に立ち寄る休憩所のような所だ」

 

「成る程・・・。だから、英雄かどうか聞いてきたんですか」

 

「そう言うことになる。本来此処にはただの一般人などこれないのだ。一握りの例外を除いてな」

 

ならば、俺はその一握りの例外、と言う奴なんだろうか。

・・・あれ? 

そういえば疑うことなく此処は夢だと思ってたけど、俺、寝た記憶無いなぁ。

 

「生前の記憶が頭をよぎり始めたか」

 

ギルガメッシュはふ、と鼻で笑った後。

 

「深く思い出してみろ。貴様が此処で気がつく前、何をしていたかを」

 

ギルガメッシュの言葉は何故か冗談と笑い飛ばせない深刻な何かを含んでいた。

むむ、この夢に来る前か。

目をつぶって、集中する。

此処は無音なので、ギルガメッシュが何かしない限りは集中が乱されることはない。

脳裏に火花が散る様な衝撃を受けて、俺に記憶が集ってくる。

 

・・・

 

ふわふわと空中に浮かびながら、俺を後ろから見下ろす。

追体験、と言う物を体験しているらしい。

いつもバイトに行く前歩いている道を歩く俺。

この後横断歩道を渡って少し歩けばバイト先だ。

今日はどんな仕事をするんだっけな、と予想しながら歩いていたと記憶している。

ふぅ、と息を吐いて、今日も頑張るか、と意気込みを新たにしたところで

 

「えっ・・・?」

 

目の前から突っ込んでくる車のヘッドライトが見えた。

 

・・・

 

「・・・あー・・・」

 

あれ? これ、今日の俺? 

ってことは、嘘、まさか、本当に・・・? 

 

「俺、死んでる・・・?」

 

「らしいな」

 

淡々とギルガメッシュが返してくる。

 

「あー・・・じゃあ、此処ってホントに・・・」

 

「ようやく理解したか」

 

はー・・・。なんだか、現実味がないなぁ・・・。

 

「・・・取り乱さないのだな」

 

「え? ・・・ああ、なんか、夢心地って言うか・・・」

 

「つまらん」

 

そう言ったっきり、また何処かそっぽを向くギルガメッシュ。

俺が取り乱す姿を見たかったらしい。

それに気がついたところで遅いので、ため息をつきつつ地面に座る。

ギルガメッシュは先ほどから腕組みをしたまま虚空を見つめている。

・・・どの位そうしていたのかいまいちはっきりしないが、まぁ体感時間で十分程度。

ギルガメッシュの体が透け始める。

 

「えぇ!?」

 

「何を驚いている」

 

腕組みをしたまま、こちらを振り向くギルガメッシュ。

 

「い、いや、体!透け始めてますよ!?」

 

「・・・さっきも言ったが、此処は英雄が英霊に押し上げられる前の休憩所のような所だぞ」

 

はぁ、とギルガメッシュはため息をついて、出来の悪い教え子に教える先生のような表情で

 

「向こうの受け入れ準備が終わればこうして迎え入れられるに決まっておろう」

 

「はー・・・。あ、俺、どうなるんだろう」

 

英雄じゃないし。

と言うか、普通の人間で、紛う事無き一般人なんだが。

 

「知らん。まぁ、本来(オレ)専用と聞いていた『此処』に入って来たのだ。何かあるだろう」

 

せいぜい足掻くのだな、雑種。と言い残して、ギルガメッシュは消えた。

さっきまでギルガメッシュがいたところには、一振りの剣が。

確証はないが、これは鍵剣と呼ばれる物ではないだろうか。

 

「忘れ物ですよー・・・って、気付くはずがないか」

 

それに、本編のギルガメッシュは右腕をあげただけで『王の財宝(ゲートオブバビロン)』を開いていたし。

英霊となってからは必要のない物なのかもしれない。

取り敢えず拾ってみる。

持っているだけでこれはただの剣じゃない、と言うことが解る。

落とし主はもう知らない何処かへ行ってしまったし、この様子じゃあ交番もないだろう。

ならば、俺が貰っておくことにしよう。

 

・・・

 

再び、しばらくの時間が経った。

時計を見ようと携帯を取り出そうとしたが、ポケットの中には何もなかった。

うーん、困ったなぁ、とギルガメッシュの落としていった鍵剣を見つめて、溜め息を吐く。

もしかしたら永遠にこのままなのでは、と嫌な予感が頭をよぎった瞬間、俺の目の前に何かが落ちてきた。

 

「うおっ!?」

 

びたん、と平べったい物を床にたたきつけたような音がした。

落ち着いてよく見てみると、それは土下座をした人間だった。

頭にわっかが着いていて、ドクロのアクセサリーを身につけているのが目に入った。

・・・死神か天使かどっちかに統一しろ、と思ったが、それは今聞く事じゃない。

 

「あ、あの・・・」

 

顔を上げてください、と言う前に、目の前の人間はとても良く通る綺麗な声で

 

「申し訳っ!ありませんでしたー!」

 

謝ってきた。

 

・・・

 

「ああ、成る程」

 

「すみません、すみませんっ!」

 

俺の目の前では、空中に浮かんだ画面に映る俺の死体が鮮明に映し出されていた。

そして、目の前の土下座娘が俺が死んだときの一部始終を見せてくれた後、こういった。

「手違いで殺してしまった」と。

あれか、二次創作で良くあるテンプレなのか、と一瞬で思い至り、土下座娘の次の言葉を待つ。

 

「その、お詫びと言ってはなんですが・・・」

 

「転生させてやる、か?」

 

俺の言葉に土下座娘は目をぱちくりとして驚いた後

 

「そ、そうなりますね。・・・その、転生と言うより、転送、に近いですが」

 

「そうか。・・・場所とかはどうなるんだ?」

 

「えっと、神様が受け入れてくれる場所を探しますね。・・・んしょ」

 

ごそごそと懐を探った土下座娘は、携帯端末を取り出し、ぴ、ぴ、と何かを打ち込む。

 

「あ、えっと、受け入れ先、有りました」

 

なんだそれ。そんなにハイテク化してたのか、死後の世界。

 

「あー・・・。この世界は普通の人間じゃ生きていけませんね・・・。おや?」

 

土下座娘の視線が俺の持つ鍵剣に向く。

 

「それはさっき英霊に押し上げられたギルガメッシュさんの鍵剣? ・・・ちょうど良いです」

 

再び携帯端末に何かを打ち込む土下座娘。

すると、鍵剣が独りでに浮かび上がり、俺に向かって飛んできた。

 

「うわっ!?」

 

思わず顔を覆うが、予想した衝撃は来なかった。

おそるおそる体を見てみるが、剣が突き刺さってるとかそう言うことはなかった。

 

「はい、これで英霊、ギルガメッシュさんのパラメーターをインストールしました」

 

ぱたん、と携帯端末をしまう土下座娘。

 

「本当は英霊をインストールするなんてしないんですけどね」

 

ならなんでこんな事を? と聞いてみると、土下座娘は俺の死体が映し出されている画面を見て

 

「手違いでこのような事をしてしまうなんて初めてのことなので、特別出血大サービスなんですよっ」

 

「いや、出血してるのは俺だろう」

 

「あぅ・・・。・・・とっ、兎に角!これであっちの世界に行っても大丈夫なはずです!」

 

土下座娘がぱちん、と指を鳴らすと、俺の体が先ほどのギルガメッシュのように透け始める。

 

「それでは、二度目の生に幸あらんことを・・・」

 

そう言って送り出してくれる土下座娘さんに手を振って、俺は白い空間から消えた。

 

・・・

 

「なんだろう、これ」

 

書庫にて、董卓は奇妙な本を見つけた。

暇つぶしに何度かここに来ているが、こんな本は初めて見る。

 

「えーっと・・・。英霊・・・召喚・・・?」

 

なんだろう、それ、と首を傾げつつ、董卓はその本に書いてある言葉を読み始める。

暇をもてあました少女は、暇つぶしにと読んだ本がこんな大変なことになるとは、ひとかけらも思っていなかった。

 

・・・

 

暗い地下室。

男が魔法陣に魔力を注いで、サーヴァントを召喚した。

『この時代』の魔術師はその力を乱世の治世に用いることはせず、聖杯へと至るためにその力を振るう。

右腕に光る三画の令呪。

目の前に現れた直立不動の男に、にやりと笑ってから、そのマスターは質問を口にした。

 

「お前は、なんのクラスだ?」

 

「はっ!ランサーです!」

 

きびきびと答えるランサー。

 

「そうか。他のサーヴァントが揃うまでに、貴様の能力を見極めるぞ」

 

「はっ!」

 

地下室でランサーの声が響いた。

 

・・・

 

「・・・セイバーだ。召喚に応じて馳せ参じた」

 

「本物だったのかよ、これ・・・!」

 

男は歓喜に震えながら右腕の令呪を見る。

 

「良し、聖杯を手に入れるぞ、セイバー!」

 

「うむ。マスターに従おう」

 

・・・

 

「わ、わ・・・!」

 

董卓は目の前に起こっている現象が信じられなかった。

急に地面と手の甲が光ったと思ったら、目の前に男が現れた。

 

「此処は・・・」

 

男は呟くと、董卓を見る。

 

「ひぅ・・・」

 

どうしよう、と董卓が頭を働かせ始めると、男が近づいてくる。

 

「まさか・・・君は・・・」

 

「え・・・?」

 

私を知っているんですか? と聞こうとしたが、それよりも向こうの言葉の方が早かった。

 

「サーヴァント、アーチャーだ。これから宜しくな」

 

「え? え?」

 

「・・・やっぱり、説明が必要だよなぁ」

 

「・・・へぅ、お願いします・・・」

 

・・・

 

目の前にいるのは、恋姫の董卓・・・。

それで、左手に令呪が輝いているって事は、俺がサーヴァントで、董卓がマスターで・・・。

うそ、マジか。

取り敢えず、体に異変がないか調べてみることに。

・・・本編のギルガメッシュとほぼ同じパラメーターだ・・・。

姿は鏡を見てみないことにはどうとも言えないが、取り敢えずギルガメッシュをインストールした、とか言う話は本当なんだろう。

聖杯から情報が流れてくる。なんでも、セイバーとランサーはすでに召喚されているらしい。

 

「それじゃ、説明するぞ。俺達サーヴァントのことを」

 

「はい」

 

神妙な顔をして頷く董卓。

なんだか癒される・・・。が、癒されるのは後だ。今は、事情を説明しないと・・・。

 

「まず、俺達サーヴァントは、君みたいな令呪を持ったマスターの元へ召喚される」

 

「召喚・・・? ・・・あ、あの、この本が原因ですか・・・?」

 

「どれどれ・・・?」

 

董卓から本を受け取って、読んでみる。

本の表紙には、英語で『サーヴァントの召喚~初級編~』と書いてあった。

・・・中をぺらぺらと捲って読んでみる。

ああ、間違いない。これは、本物だ・・・。

なんでサーヴァントの召喚に初級編があるのかとか、中級編はどんな召喚の仕方になるんだよ、とか何故この子が英語を読めるんだろうとかいろいろと突っ込みたいことはあるが、それをぐっと飲み込む。

 

「・・・そうだな。この本の呪文を唱えたから、此処に召喚されたんだろう」

 

足下には魔法陣があるし。

・・・説明が長くなってしまったので、要約するとしよう。

董卓には、聖杯戦争のこと、魔術のこと、俺がどういう存在なのかをかいつまんで話した。

と言うか、董卓に魔術回路があることに驚いた。

 

「・・・うん、これくらいかな」

 

「・・・」

 

「どうした?」

 

「少し、驚いてしまいました。私たちの知らないところでそんな事が起こっていたなんて」

 

「そうだろうなぁ・・・」

 

俺も驚いている。まさかサーヴァントになるなんて考えもしなかった。

 

「そう言えば、あなたのお名前はなんなのですか?」

 

名前・・・名前かぁ・・・。

ギルガメッシュで良いよな、もう。

 

「・・・ギルガメッシュ、と言う」

 

「ギルガメッシュさん・・・ギルさんですね!」

 

一瞬で港の子ども達に付けられるような名前になってしまった。

 

「あ、ああ、うん。それで構わない」

 

「私は董卓と言います。真名は月。月と呼んでください」

 

真名って大切な物じゃなかったっけ? 初対面の俺に教えて良い物なのか? 

疑問としてぶつけてみると、月はにっこりと笑って

 

「これから一緒に戦っていく人ですから。これくらいは当然です」

 

と言い放った。

 

「そうか・・・。ありがとう、月」

 

「それじゃあ、みんなに紹介しますね。付いてきてください」

 

「了解」

 

・・・

 

「あんた、だれ?」

 

冷たい声が耳に入る。

 

「この人はね、ギルさんって言うの」

 

俺の代わりに月が答える。

通路を歩いていると、眼鏡を掛けた少女・・・賈駆に呼び止められた。

そして、第一声がさっきの言葉である。

 

「ぎる? ・・・変な名前」

 

そりゃあ、この国には無い名前だろうからなぁ。

 

「ギルは愛称のような物だ。ギルガメッシュが本名になる」

 

「ぎるがめっしゅ? もっと変な名前ね」

 

なんだろう。心が痛い。

 

「もう、詠ちゃん、そう言うことは言っちゃ駄目だよ?」

 

「・・・解ったわよ。で、そのギルはなんのようなわけ?」

 

「詠ちゃん、取り敢えず玉座に行こう? そこで説明するから」

 

「・・・解ったわ」

 

二人に先導されるままに、テクテクと歩く。

凄いな、本物の城だよ。

お上りさんの如くキョロキョロしていると、賈駆が扉を開ける。

二人の後に続いて中にはいると、そこは玉座の間。

 

「さて、じゃあ、説明して貰いましょうか」

 

俺は、先ほど月にした説明をもう一度する。

最初は信じていなかった賈駆も、俺が目の前で黄金の鎧を一瞬で装着すると流石に信じるしかないらしく、渋々ではあるが、人智を越えた存在だと理解してくれた。

 

「そして、令呪のことなんだが・・・左手の甲を見てくれ。三画なのは分かるか?」

 

「一、二、三・・・あ、ホントだ」

 

一つ一つ確かめるように数える月。

 

「それは俺への強制命令権だ。三回だけ、俺にどんな事でも命令する事が出来る」

 

「そうなんですか・・・?」

 

「それがちゃんとした令呪ならね。まぁ、本物だろうけど。令呪というのは、聖杯からの聖痕が元になって現れる物だ」

 

「聖杯?」

 

「その杯に至れば願いを叶える万能の杯。俺はそれを勝ち取るためのサーヴァント・・・使いだ」

 

原作の知識を引っ張れるだけ引っ張る。・・・あってるかどうかは定かではないが。

 

「成る程・・・勝ち取るって事は、あんたみたいな英霊・・・だっけ? がまだ居るの?」

 

「頭良いな、君。・・・ああ、居る。剣の扱いを得意とするセイバー。槍を得意とするランサー。弓を得意とするアーチャーがまず三騎士と呼ばれる」

 

「せいばー、らんさー、あーちゃー・・・」

 

「そして、その他にあらゆる物を乗りこなすライダー。暗殺を得意とするアサシン。魔術を得意とするキャスター。理性を無くした戦士、バーサーカーが居る」

 

「そのらいだーとかってあんたの居たところの言葉?」

 

「ん? ・・・ああ、英語は分からないか。・・・そうだな。俺の居たところの言葉だ」

 

セイバーなどの英語の意味を教える。

賈駆はふぅん、と納得したかのような声を出す。

 

「で? あんたはどれなの?」

 

「俺か? 俺はアーチャー。弓兵の役割だ」

 

英語が通じないから、出来るだけ使わないように説明をする。

 

「あの、ギルさん」

 

「なんだ?」

 

月が左手の令呪を見た後、質問を口にする。

 

「マスターって、何をすれば良いんですか?」

 

「そうだな。マスターの役割も説明しよう。マスターというのは、サーヴァントに魔力を供給するのが主な役目だ」

 

「魔力・・・ですか?」

 

よく分かっていないような月の顔。

仕方がないので、魔力の説明もしてやる。

サーヴァントが現界したり、宝具を使用したり、魔術を起動する為の燃料のような物だ、と説明する。

大体のニュアンスは伝わったらしく、ふむふむと頷いていた。賈駆が。

 

「ああ、そうだ」

 

「なんでしょうか・・・?」

 

「事故のような召喚の上、無理矢理な契約のせいかもしれないが・・・月からの魔力が全然来ない」

 

原作のセイバーの様なものだ。

士郎の魔力が来ないセイバーは、真価を発揮できず苦戦していたな。

宝具もあまり使えなかったようだし、睡眠を取って魔力の節約もしていた。

 

「ええっ・・・!? じゃ、じゃあ、ギルさんはいま危ないんじゃ・・・」

 

「結構ね。・・・でも、現界が不可能なほどじゃない」

 

五次でのセイバーのように、なぜか霊体化も出来ないし・・・。

結構制限がきついな。

 

「だけど、宝具はあまり使えない。サーヴァントが攻めてきたときに苦戦するかもしれないな」

 

「ど、どうしましょう・・・!」

 

そう言えば、宝具の消費魔力とかってどれくらいなんだろうか。試してみる必要はあるな。

 

「じゃあ、試してみようか」

 

「へっ?」

 

「広い場所ないかな? 出来れば、人気のないところ」

 

・・・

 

詠に案内されたのは木々が生い茂る中庭の一角。

此処なら一般の兵はあまり来ない、とお墨付きを貰った。

 

「よし・・・」

 

気に狙いを定めて、集中する。

どうやったら宝具を使えるのか解らないので、心の中で扉を開ける感覚で使おうと試みる。

 

「わ・・・」

 

後ろにいる月達から声が漏れる。

なんだ? と後ろを振り向くと、王の財宝(ゲートオブバビロン)が展開していた。

できた・・・意外と簡単だったな。

引っ込め、と念じると、ビデオの巻き戻しのように引っ込んでいく宝具達。

 

「と、言う感じなんだけど・・・」

 

場の空気に耐えきれなくなり、口を開く。

二人は驚いているようだ。無理もない。俺も驚いて居るんだから。

 

「それで・・・月、どんな感じだ?」

 

「え? あ、えっと、うーん・・・?」

 

体の何処かに異常がないか確認する月だが、すぐにこちらに向き直ると

 

「特に異常はありませんが・・・」

 

「そっか」

 

こっちは少し気怠い感じがするけど。これは魔力が足りないと言うことなのかな? 

自分の体を解析してみる。英霊は自分に対してならいつでも解析をかけられるらしいので、重宝している。

そして、解析の結果。魔力はかなり欠乏していて、天地乖離す開闢の星(エヌマエリシュ)は撃てないらしい。

王の財宝(ゲートオブバビロン)は使用出来る物の、長時間の展開は不可能。とのこと。

 

「・・・成る程、ね」

 

と言うか、宝物庫の中身までギルガメッシュから受け継いでいるのか。驚きだ。

まぁ、何も入っていない倉庫を渡されても困っていたけど。

 

「まぁ、魔力が足りない程度だよ。戦闘にはあまり問題ない。強すぎるのが出てくると苦戦するかもしれないけど、鎧もあるし」

 

ギルガメッシュの鎧は確かギルガメッシュの低い対魔力を補う物だったはず。

遠坂凛の大魔術も弾いていたし、防御に徹すれば負けることはないだろう。

 

「そうですか・・・。良かった。足を引っ張ってしまわないか不安だったんです」

 

「その気持ちだけでも嬉しいよ。俺は少し此処で練習していく。月達は他の将の人達にも説明しておいてくれないかな?」

 

「はい、解りました。・・・無茶は禁物ですよ?」

 

「解ってる」

 

・・・

 

月と賈駆が去っていってから、俺は王の財宝(ゲートオブバビロン)を使いこなすことを目標に練習を始めた。

・・・と言っても、開いて、閉じて、開いて、閉じての繰り返しだったが。

宝具一つだけの弾丸ならば、展開から発射までのタイムラグがほとんど無かった。

それが十個を越えたあたりからだんだんと辛くなってきて、三十個以上を展開すると発射を行えないという事態に陥った。

これは発射をメインの戦法にするんじゃなく、抜き取って戦う方が良いかな。

空中に波紋が広がり、そこから柄が出てくる。

確か、この鎌の名前は・・・蛇狩りの鎌(ハルペー)、だっけな? 

結構長いし、英霊になったことで格段に上がった身体能力ならどうとでもなるだろう。

・・・よし、基本的な方針は決まったな。

後は・・・鎧の展開も練習しないと。

 

・・・

 

「なぁ、セイバー?」

 

「なんだ、マスター」

 

「お前の真名ってなんなの?」

 

「む? ・・・うーむ・・・」

 

「なんだよ、解らないのか?」

 

「いや、言わない方が良いと思ってな」

 

セイバーの声に、マスターの男は不機嫌な顔をする。

 

「なんだよー、俺のことは信用ならないかー?」

 

「・・・まぁ、そうなるな。マスターは魔術師ではないから、魔術的な拷問を受ければ口を割ってしまうだろう」

 

「あー・・・。そっか、真名ってサーヴァントにとっても大切なんだもんな」

 

「そう言うことだ。弱点にも繋がる真名を知られるわけにはいかない。・・・すまないな、マスター」

 

申し訳なさそうに頭を下げるセイバーに、マスターの男は笑いかける。

 

「良いって良いって。それより、酒でも飲もうぜ」

 

「おお!マスターは解っているな!」

 

さっきまでの暗い雰囲気から一転、二人は実に楽しそうに酒を酌み交わすのだった。

 

・・・

 

鎧を展開して、それをつけたまま動いたりしてみる。

戦いの時に鎧に邪魔されてやられるなんて笑い話にもなりゃしない。

だが、さすがは英雄王の鎧と言ったところか、全然動きの邪魔にならない。

もちろん重さはあるが、英霊の身となった今の俺にとってはあまり変わらない。

鎧をつけたまま蛇狩りの鎌(ハルペー)を振ったりしていると、じゃり、と足音が。

兵士かな? と思って振り返ってみると、そこには肩に偃月刀を担いだサラシ女が居た。

 

「・・・えっと、張遼?」

 

恋姫をやったときの記憶を呼び起こす。

確かそうだったはず。

・・・まぁ、サラシのキャラなんて一人しか居ないから思い出すのは訳もないんだけど。

 

「お、ウチの名前知ってるんか?」

 

「ああ、一応は。・・・ある意味有名、だしね」

 

後半は聞こえないように呟く。

 

「そかそか、それなら話は早いわ。・・・ウチと手合わせせーへんか?」

 

偃月刀の刃をこちらに向けてくる。正直言って怖いのでやめて欲しい。

だが、男のプライドを総動員して、何とか表情を取り繕う。

 

「あー・・・理由を聞いても・・・良いかなぁ、なんて・・・」

 

「決っとるやないか。なんや急に月っちがあんたの事をそばに置くとかいうやん? だったら、実力くらいは見ておかんとなぁ」

 

そう言って、にしし、と笑う張遼。

うーん・・・第五次のランサーみたいなキャラだ・・・。

まぁ、提案は悪くないと思う。

手合わせの理由も理解できない物じゃない。

そりゃあ、自分たちの主のそばに急に怪しい奴が現れたら普通は疑う。

一応恋姫の世界にも妖術はあるみたいだし、洗脳も考える人がいるかもしれない。

 

「・・・よし、分かった。手合わせ、お願いするよ」

 

「ほな・・・この石が落ちたら開始や。ええな?」

 

「異論はない。どうぞ」

 

張遼は俺から少しばかりの距離を取り、少し大きめの石を上に放り投げる。

空中に石が滞空して、落ちてくる間に俺と張遼は構える。

蛇狩りの鎌(ハルペー)は危ないからそばに立てかけておいて、素手で行こうと思う。

素手と言っても鎧があるので、いくら張遼といえど善戦できるだろう。

取り敢えず構えらしい構え・・・ボクサーのファイティングポーズを取る。

そして、石が地面に落ちた。

 

「っ!」

 

張遼の目が鋭くなって、こちらに跳んでくる。

数十歩は距離があったのに、その間合いを一歩で詰めてくる張遼。

 

「は・・・やい・・・っ!」

 

「はああああああああああっ!」

 

気合いの声と共に一閃。

右方向から胴を薙ぐように振られる偃月刀を後ろに跳んで避ける。

・・・っていうか

 

「殺す気で来てないかっ!?」

 

思わず口をついて出てくる文句。

いくら鎧をつけているからってあんなもの喰らったら普通は重傷だ。

 

「避けたやんか」

 

「避けなかったら殺してた、ってことかっ!」

 

「そうとも言うなぁ」

 

「言うなよ・・・」

 

もう文句も出て来ない。

だが、向こうが殺す気ならこっちも本気で行かなくてはまずい。

能力の見極め、とか、取り敢えず物は試し、とか言ってる場合じゃない・・・!

 

「はっ!」

 

右側に回り込むように張遼が駆ける。

張遼が動いた方向を見たときには、すでに張遼は偃月刀を突き出してきていた。

こうなったら、一か八か・・・!

張遼の突きを腕の鎧に擦らせるように流す。

しゃっ、と包丁を研いだような音がして、偃月刀の切っ先は俺の後方へと流れていく。

そこから流した腕とは逆の腕でボディーブローを放つ。

 

「しまっ・・・!」

 

拳が張遼の腹に吸い込まれるように進んで・・・寸前で止まった。

・・・危なかった。

寸止めなんて言う高等技術、ぶっつけ本番で出来るなんて英霊の体に感謝だな。

 

「・・・俺の勝ち・・・で、良いか?」

 

「そやね・・・。・・・っはー!」

 

偃月刀を下ろし、ぷはー!と息を吐き出す張遼。

 

「強いんやな、あんた」

 

「みたいだな」

 

「ギル、やったっけ? 名前」

 

「ん? ・・・ああ、愛称だけど。本名はギルガメッシュという」

 

「そか。ほんならギル」

 

ああもう。なんで誰もギルガメッシュと呼ばないのだろうか。

いや、呼ばれても一瞬迷うかもしれないな。

本当は自分の名前じゃないんだし。

表情には出さずにそんなことをつらつらと考えていると、目の前の張遼がん、と手を伸ばしてくる。

 

「これからよろしゅうなっ」

 

ああ、握手か。

 

「宜しく頼む。・・・お手柔らかにな」

 

その手を掴んで、握る。

・・・この手であんな速度の偃月刀を握っていたとは・・・。

マメはある物の、普通に綺麗な女の子の手だ。

人体の不思議ってこういう事を言うのだろうか。

 

「そや。あんたなら真名を預けても良いかもなぁ」

 

「ん? 良いのか? こんな一回手合わせした程度で」

 

「気に入るときは一発で気に入るし、気に入らん奴は何回手合わせしても気にいらんもんよ?」

 

「そうなのか?」

 

「そや。じゃあ、改めて。こほん。ウチの姓は張、名は遼、字は文遠!真名は霞や!」

 

「霞、か。良い名前だ。改めて、宜しく」

 

「あいよっ!」

 

「そうだ。俺の真名も教えておくよ。ギルガメッシュがそのまま真名だ。宜しく頼む」

 

そう言った瞬間、霞の口からへっ? と間抜けな声が聞こえる。

その後、霞からはなんで最初っから真名を教えてくれたん!? 等と質問攻めにあった。

まぁ、そこは真名の価値観の違い、と言うことで納得させた。・・・納得するのか、それで。

 

・・・

 

「なぁ、ランサー?」

 

「はっ」

 

大陸の何処かにあるランサーのマスターの家の中。

マスターは卓の上の盤に駒を置いていく。

 

「軍人将棋は出来るか?」

 

マスターの言葉に、ランサーは少し考えてから

 

「名前は聞いた覚えがありますが、その遊戯をした事はありません」

 

直立不動で答えるランサー。

 

「そうか。・・・なら、やり方を教える。相手しろ」

 

「はっ」

 

「俺の向かいに座れ」

 

「失礼します」

 

席についても、ランサーは背筋を伸ばし、両手を膝の上に置いていた。

 

「お前は何処でも堅いな。辛くないのか?」

 

「いえ。すでに日常となっていることです」

 

「そうか。・・・なら、説明を始めよう」

 

駒を配置し終えたマスターが盤の上の駒を指さし、説明していく。

全てを説明し終えると、マスターは「どうだ、覚えたか?」とランサーに聞く。

 

「はっ。大丈夫です」

 

「ならば、始めるとしようか」

 

マスターの手が駒に伸びる。

 

・・・




これを始めて書いたのが確か2009年の3月ですから、相当続けていることになりますね。飽きっぽい作者にしては快挙と言っていいと思います。

こんな作品でも、読んで楽しいと思っていただければ幸いです。

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