真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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私は気がついたらロリに目覚めていました。いまだ眠る気はないようです。

それでは、どうぞ。


第十話 進攻と管理者と目覚めと

ついに、曹操と孫策がぶつかるときが来た。

北方より大軍を率いて行動を開始した曹操が、すさまじい勢いで東方の国境線を突破した。

対する孫策も、素晴らしい素早さで全土に総動員例を発し、徹底抗戦の構えを見せる。

まさに風雲急を告げる。そんな動きは、俺達にも無関係な事ではないらしい。

・・・と、言うことを朱里から聞いた。

何故他人事かのように言うのかというと、最近俺にはそんなことには構っていられない案件があるからだ。

街から最近、魔力が感じ取れるようになってきているのだ。

この時代には魔術を使える人間はそこまでいないはずなので、確実に聖杯戦争関係のものだと思う。

それから、俺達は敏捷の早いアサシンとライダーに交代で街の様子を見て貰い、セイバーと俺で、マスター達を守ることとなった。

口で言うのは簡単だが、実行すると大変なのである。

月、詠、響の三人はメイドの仕事があるのでたいていまとまっていて守るのは楽だ。

問題は銀と多喜だ。銀はセイバーと一緒に兵士をやっているが、当番が違うと守りにくくなる。

更に多喜は自称正義の味方と言う名のニートなので、何処にいるのかがわかりにくい。

ライダーからは

 

「・・・あー、マスターは多分大丈夫だろ。アーチャーは自分のマスター達を守っておけ」

 

と言われているので半放置状態だが、いつ襲われるか解らない状況でその行動は心配だ。

そんな中、朱里達があわただしく何かの出発準備を整えている中、事件は起きた。

 

・・・

 

「・・・なんだ、この感じ・・・?」

 

嫌な予感、と言うのを感じた。

俺に直感スキルがあるかは分からないが、流れている空気に不穏なものを感じる。

月達を起こそうかどうか考えて、やめる。

まだマスターが誰かはばれていないから、かえって連れて行かない方が良いだろう。

寝室から抜け出し、城を見て歩く。

途中、ライダーと多喜に出会った。

 

「ライダー。お前、何で・・・」

 

「・・・おいおい、ギル、お前も気づいてるんだろ?」

 

嫌な予感を、ライダーも感じたと言うことだろうか。

 

「セイバーは?」

 

「分からん。おそらく気付いているとは思うが、どう動いているかまでは・・・」

 

「取り敢えず、一通り見て回ろ・・・っ!?」

 

俺とライダーは、一瞬で戦闘態勢に入る。

この感じは・・・! 

 

「魔力! サーヴァントか!」

 

「あっちだ!」

 

ライダーが走り出し、多喜と俺がついていく。

これだけの魔力を発すると言ったら・・・キャスターくらいしか思いつかない。

あの失敗作を生み出している姿を思い出すと抜けているように感じるが、この魔力は馬鹿に出来ない。

キャスターがどんな魔術師か知らないが、これだけの魔力があれば大魔術も発動できるだろう。

犠牲を問わずに城にでも打ち込まれたら・・・考えたくもない。

兎に角、急がないと! 

 

・・・

 

魔力が一際濃い場所に出る。

こちらに近づく度に何かが打ち合う音が大きくなっていたので、そうではないかと思っていたが・・・。

 

「セイバー!」

 

セイバーは、両手に持った雌雄一対の剣で、水の塊やら火の玉やら風の弾丸なんかを弾いていた。

暗闇から発射されていて、しかも四方から放たれているようなので、セイバーも攻め込めないらしい。

きゃ、キャスターらしい戦い方をするじゃないか・・・。

少しずれた驚き方をしていると、こちらにも敵意が向けられる。

 

「はぁっ!」

 

「せいっ!」

 

俺は横に飛んで避け、ライダーは多喜を抱えて横に転がった。

 

「助太刀するしか無さそうだ」

 

「そうだな」

 

俺は宝物庫から蛇狩りの鎌(ハルペー)を取り出す。

ライダーは外套をもぞもぞとさせている。戦闘準備でもしてるんだろうか。

 

「セイバー! 待っていろ!」

 

ライダーは炎を使ってで攻撃を弾きながら、セイバーの元へと向かう。

多喜は早速何処かへ行ったらしい。少し前から姿が見えない。

俺も向かうか、と思った瞬間、目の前に巨体が。

一瞬バーサーカーかと思ったが、見覚えのある肌の色、何というか物語の中にしかいないだろこんなの、と言う造形。

間違いない。キャスターのホムンクルスだ。

だが、纏う雰囲気が違う。前回の失敗作から、性能は上がっているんだろう。いや、上がってないと逆に怖ろしい。

っていうか、この大きさだとホムンクルスと言うよりゴーレムじゃないだろうか、と思う。

 

「・・・そんな事考えてる場合じゃないか」

 

気付けば、ホムンクルスが三体になっている。・・・三体? 

 

「んなばかな!」

 

慌てて『王の財宝(ゲートオブバビロン)』を射出できるようにする。

だが、ホムンクルスはそれを見た瞬間に射線から外れる。早い! 

 

「クソっ! 当たれっ!」

 

一体に狙いをすませて打ち込んでみるが、木や東屋に紛れてかわし始める。

 

「ちっ! バージョンアップしすぎだろ・・・!」

 

愚痴っている間に狙われていなかった二体が両側から迫る。

両手に棍棒を持ち、それで挟むように打ち込んでくる。前と後ろから迫る棍棒に往来のホラー映画登場人物のような恐怖を感じつつ慌てて伏せる。

ぶぉん、と空気が悲鳴を上げる音が聞こえた。

 

「これはまずいって・・・!」

 

身体を起こすと、最初に攻撃を仕掛けて何処かに消えていた一体が迫っていた。

 

「ああもう!」

 

十発程度を範囲を広げて打つ。

当たる数は少なくなるだろうけど、地道に当てていくしかない! 

 

「がああああああ!」

 

右腕に命中し、血が噴き出す。

きらきらと魔力に還っているのを見ると、血ではないらしい。赤いけど。

 

「くっ!」

 

地面に影が出来たのを見て、慌てて後ろに跳ぶ。

俺がさっきまでいた場所に、棍棒が墜ちる。

おいおい、地面が陥没してるぞ・・・なんつー重さだ。

土煙の中から何かが跳んでくる。・・・棍棒! 

 

「嘘だろっ!?」

 

蛇狩りの鎌(ハルペー)を咄嗟に盾にして、受け止める。

ぶつかった衝撃が身体に伝わっていく。

 

「っつぅ・・・!」

 

久しぶりにこんなに動いたかもしれないな・・・! 

威嚇射撃程度に宝具を射出する。

悲鳴が聞こえた。・・・当たったか!? 

土煙が晴れると、怪我をしているホムンクルスが増えていた。

脇腹が損傷してる。まだ浅い方だけど、希望が増えた! 

しかも、棍棒は投げたから、武器もない! 今ならいける! 

思いっきり地面を蹴って、前に飛び出す。狙いは武器を投げたホムンクルス! 

狙いに気付いたらしいホムンクルスが避けようと動くが、甘い。

 

「『天の鎖(エルキドゥ)』!」

 

四方から伸びた鎖がホムンクルスを拘束する。

だが、『天の鎖(エルキドゥ)』は神性を持つ物は拘束が強くなるが、それ以外には強いだけの鎖だ。

すぐにでもこいつは引きちぎるだろう。だが、拘束するのが目的じゃない。足を少しでも止められれば・・・! 

 

「おらああ!」

 

蛇狩りの鎌(ハルペー)で胴体をまっぷたつにする。

一瞬再生するかもと思ったが、すぐに魔力へと還ったため安心した。

後二体・・・。いけるか・・・? 

ちらりとライダー達の方を見てみると、向こうにもホムンクルスがいるらしい。少なくとも・・・二体はいる。

うぅむ。これはまずいか・・・? 

 

「ぐおおおおおおおおお!」

 

「でやああああああああ!」

 

蛇狩りの鎌(ハルペー)をぶつけ、棍棒を反らす。

じんじんと手が痺れるが、気合いで無視する。

蛇狩りの鎌(ハルペー)を宝物庫へ戻し、乖離剣を取り出す。

回すだけで魔力を持って行かれるこの剣をだすのは気が進まないが、ちまちまやるよりは短期決戦を狙った方が良いだろう。

乖離剣が刀身に魔力を帯び、回転し始める。柄の部分から白い蒸気のようなものが噴出する。

 

「一気に決めさせて貰うぞ!」

 

そのまま隙だらけのホムンクルスに乖離剣を振りかぶる。

袈裟切りに切ろうと振り下ろすと・・・。

 

「何ッ・・・!」

 

「ぐおおおおおおおおお!」

 

隙だらけのホムンクルスの前に、もう一体のホムンクルスが割り込んできた。

乖離剣を受けたホムンクルスは、身体をえぐり取られ、魔力に還った。

・・・成る程。

最初に切ろうとしていたホムンクルスは無傷のホムンクルスだ。

その代わりに怪我をしている自分が身代わりに攻撃を受けることで、無傷のホムンクルスを残して少しでも有利に戦いを進めようと思ったのだろう。

凄いな。早いだけじゃなくて、どうすればいいかも考えられるなんて・・・。

 

「があああああああああああ!」

 

仲間がやられたことに対してか、雄叫びを上げるホムンクルス。

もう一体が残した棍棒を拾い、両手に棍棒を持った。

 

「こい・・・」

 

「ぐおおおおおお!」

 

お互いに走り、相手に獲物をたたき込む。

結果は・・・俺に軍配が上がった。

一瞬早くホムンクルスの懐に潜り、乖離剣を突き刺すことに成功したのだ。

突き刺した場所から魔力へと還っていくのを見て、ようやく勝ったのだと息をついた。

瞬間。ホムンクルスに開けた穴から、狂気に満ちた目が見え、次に煌めく刃が見えた。

危ないと思って避けようとしたときには、すでに身体に衝撃と痛みが走っていた。

 

・・・

 

セイバーとライダーが双剣と拳で魔術の弾丸とホムンクルスを迎撃し始めて数分。

 

「流石に・・・辛いな・・・」

 

「おうよ・・・。ギルは大丈夫かねぇ・・・?」

 

「これに後れを取るとは思えん。俺が鍛えたのだからな」

 

ライダーはセイバーに「違いねぇ」と返すと、火炎弾を外套の中に吸収した。

 

「しっかしキリがないぜ」

 

「ああ・・・。ライダー」

 

「ああん?」

 

「此処は私が受け持とう。ライダーには、この魔術の弾丸を何とかしてきて欲しい」

 

「・・・いいねぇ、そういう熱いの、嫌いじゃないぜ。死ぬなよぉ!」

 

「当たり前だ!」

 

セイバーがホムンクルス二体に蹴りと体当たりを当て、飛んできた風の弾丸を双剣で弾くと、ライダーはその間を縫って暗闇へと駆け出した。

ライダーが暗闇に消えてから、火の弾丸と土の弾丸が飛んでこなくなった。おそらく、ライダーの迎撃をしているのだろう。

ならば、この弾丸はそれぞれ別の砲台から撃たれているのか・・・? 

セイバーはそう考えつつ、目の前の巨体と向き合った。

 

「さて・・・曲がりなりにも蜀を背負った私だ。少しは粘って見せようじゃないか!」

 

ホムンクルスが振り上げた棍棒に怯むことなく、セイバーは姿勢を低くして飛び出した。

 

・・・

 

「くっ!」

 

火と土の弾丸がライダーを激しく攻め立てる。

城の中でも迷惑のかからなさそうな場所を走ってきているが、明日の朝怒られるのは決定しただろう。

ま、黒髪のねーちゃんはギルに押しつけるとして・・・等と考えていると、目の前には壁。

 

「・・・さぁて、ここからが本番だっ!」

 

壁と水平になるように飛ぶ。敵から逃げられる程度には飛行することも出来る。

そんなライダーを追うように弾丸が城壁に当たる。

ライダーは壁を登り切ると、上空からキャスターの姿を探す。

格好はギルから聞いているし、こんな時間に出歩いているとなれば普通に目につくだろう。

あたりをくまなく探すと、それらしき白衣が。

街を走っているのを見るに、どうやら撤退しているようだ。

 

「見つけたぜ!」

 

自身の身体を中へと投げ出し、城壁から空中へと飛び出す。

ふわりと地面に降り立ち、落下の衝撃なんて感じさせずにキャスターに追いすがる。

大通りを走っていると、目前にキャスターの姿が見えた。不思議なことに、立ち止まっている。

観念したのか? とそのまま近づいていくと、キャスターが立ち止まった理由が分かった。

目の前に広がる緑の軍勢・・・ランサーだ。ランサーは道幅いっぱいに広がり、三列の段を作っていた。

構えるのは、魔力の弾丸が発射される銃。気付いて慌てて止まっても遅かった。

 

「しまっ・・・!」

 

「てえっ!」

 

落下の衝撃は殺せても慣性の法則には逆らえず、トップスピードで飛行したまま銃弾の嵐に突っ込む。

 

「ぐおお・・・!」

 

何とか横に転がり射線から外れるが、何発かは自身の身体を削っていった。

すぐに魔力で治して、物影へと飛び込もうと加速する。

 

「第二射用意!」

 

だが、到着する前にランサーの声が闇夜に響いた。

さっきはキャスターがいたから分散して撃っていたが、今回はライダー一人。向かう場所も分かっているので、数百の弾丸がこちらに向かってくるだろう。

間に合うか・・・!? 

路地裏に逃げるべく、ライダーは全速力で駆けた。

 

「てえっ!」

 

火薬の爆発する音が、夜の街に響いた。

 

・・・

 

夢を見ている。

そう言えばサーヴァントって夢とか見ないんじゃなかったっけなんて思いながらまわりを見回す。

前に見に来た王の財宝(ゲートオブバビロン)の中に似ている・・・。

・・・俺は、どうなったんだっけ? 

 

「キャスターが攻め込んできて、ライダーとセイバーと俺で対処してて・・・ああ、そうだ」

 

ゴーレムに近いホムンクルスを倒して、そこで・・・。

 

「思いっきり攻撃されたんだよな。クソ、あの目と威力はバーサーカーか。遠慮無しにぶっ刺しやがって」

 

はーあ、とため息をつきつつ地面にどっかりと座り込む。

 

「ここ、何処だろ。もしかして、もう一回死んで神様の所に・・・? うわ、嫌な冗談だろそれ」

 

慌てて上空に目をこらしてみるが、神様は降ってこないようだ。

取り敢えず目を覚まして状況を確認したいな、と思って考えを巡らす。

 

「起きろー、起きろー・・・!」

 

出来れば早く起きて、心配しているであろう人達を安心させたいのである。

 

・・・

 

銃弾の音が響いた後。

ライダーは自身の体が宙に浮いているのを感じ取った。

自分は、銃弾に貫かれていない。しかし、逃げるのも間に合っていないはずだ。

視線を上下左右に飛ばしていると、視覚が茶色い物体を捕らえ、聴覚がヒヒーン、という緊張感のない馬の鳴き声を伝えてきた。

 

「すまんな、ライダー。キャスターは逃がした。・・・しかし、お前意外と軽いな」

 

その声の方向を向くと、自身のマスター・・・多喜が、馬に乗って自分を助けたのだと言うことを理解した。

多喜はライダーの腕を掴んだまま、馬を走らせる。

 

「第三射! マスターも出てきている! 逃がすなよ!」

 

その声に、ライダーはようやく行動を起こした。

 

「マスター! 路地裏へ逃げろ! 撒くぞ!」

 

「おうよっ、任せとけ!」

 

「後ろからの攻撃は何とかしてやるからよ!」

 

背後からの銃撃を器用に防ぎながら、ライダーは多喜に声をかける。

多喜はそのまま馬を走らせ、路地裏に入っていく。

 

「こんな狭いところ馬で走るの、初めてだぜ!」

 

「おお、結構上手いじゃねえか。俺よりライダーの資格あるだろ」

 

それもいいかもしれねえな、と言う自棄になった多喜のつぶやきは、風を切る音に紛れていった。

 

・・・

 

「・・・逃した、か?」

 

「はっ。いえ、まだであります」

 

「そうなのか?」

 

「はっ。ただ今、何人かが馬に乗り、追跡中であります」

 

「お前、騎乗スキルあるのか」

 

ランサーのマスターが驚いたように聞いた。ランサーは視線を逸らさないままにはっきりと

 

「ありません」

 

清々しいほどに凛々しい顔で、そう言い切った。

 

「そうだよな。・・・お前、意外と馬鹿か?」

 

ランサーのマスターは、まぁいい、と呟いてから、キャスターが消えた路地を見つめた。

 

「キャスターの方は結構な怪我を負ったはずだ。そちらを先に片付けるぞ」

 

「はっ!」

 

ぞろぞろといた緑の軍勢は消え去り、その場に残ったのは二人だけとなった。

その二人も、すぐにきびすを返し、キャスターの消えた路地へと消えていった。

 

・・・

 

「・・・急に攻撃が来なくなったな」

 

雌雄一対の剣でホムンクルスを一体倒し、もう一体も目の前で消えかかっている中、セイバーはそう呟いた。

水の弾丸と風の弾丸が途中から来なくなったのだ。

 

「まぁ、それはそれで助かるのだが。そう言えばアーチャーは・・・」

 

セイバーの声にかぶせるように、地響きのような雄叫びが聞こえてくる。

 

「これはっ・・・! アーチャー!」

 

方向はアーチャーのいた場所からきこえた。セイバーは焦りを隠さないまま、声の聞こえてきた方へと走り出した。

 

・・・

 

右腕で左腕を押さえながら、キャスターは足を引きずって自分の拠点へと帰ってきた。

三回宝具を使ったので、逃げ切れているとは思うけど・・・と、後ろをちらちらと確認しながらの帰宅となった。

 

「キャスター? お帰り、今日は宝具を使いまくってたみたいだけど・・・っ!?」

 

キャスターが帰ってきたのを音で感じ取ったのか、自室から出てきたマスターはキャスターの姿を見て驚く。

 

「大丈夫っ!?」

 

「大丈夫。今のところはね。ちょっと横になりたいかな。肩を貸してくれるかい?」

 

「もちろん。・・・で、誰にやられたの? 何かいっぱい打ち込まれてる・・・アーチャー?」

 

マスターの言葉に、キャスターはフルフルと力なく首を横に振る。

 

「ランサーだよ」

 

「・・・どんな細い槍なのさ」

 

傷口を見たマスターが胡散臭いモノを見るように問いかけてくる。

そんなマスターの姿にほほえましいモノを感じつつ、キャスターはゆっくりと歩を進めていく。

そして、自室の寝台に寝転がったところで、マスターに説明を始める。

 

「で、ランサーにやられたって・・・」

 

「ああ。取り敢えず、ランサーはかなりたくさんいた」

 

「沢山? 待ってよ、聖杯戦争は・・・」

 

マスターの疑問に、キャスターはわかってる、七人だ、だろう? と言ってから答えた。

 

「似た格好をしたランサーが数十人いたんだ。きっと宝具だろうね・・・しかしまぁ、あれはちょっとした恐怖だよ」

 

おまけに武器が強いし、と呆れたようにキャスターは呟く。マスターは魔力の供給を多めにしつつ、キャスターの説明を聞いていた。

しばらくは動けないなぁ、とか、結界を後で確認しておかないと、なんて事が頭をよぎっていく。

 

「そう言えば」

 

「ん?」

 

唐突なマスターの言葉に、キャスターが反応する。

 

「他のサーヴァント達は? ほら、城にいる四人」

 

「ああ・・・。そう言えばそっちが本命だったね」

 

「そうだよ。どうだったのさ」

 

「駄目だったよ。反応を見るに、ホムンクルスは全員やられたし、精霊達も後一歩及ばずってやつかな?」

 

自分がやられたから、撤退させたしね、と続けてから、ふぅとため息をついた。

 

「・・・さて、これからどうしようかな。キャスター、しばらく動けないでしょ?」

 

「そう、だね。私の精霊達も休ませる必要もあるし」

 

「困ったことになったね。・・・どーしよっかなぁ」

 

あんまり困った風に聞こえない口調で、マスターはそう呟いた。

 

・・・

 

「せいっ!」

 

「おおおおおおおおおお!!」

 

セイバーは経験と直感のみでバーサーカーと渡り合っていた。

バーサーカーの向こうには、倒れて動かないアーチャーがいる。こちらに到着したとき、倒れているアーチャーを見て思わず斬り掛かったのがまずかった。

固有結界を発動すればバーサーカー相手でも十分勝機があるが、一人では自分は腕の立つ剣士程度の能力だ。

 

「ちぃっ・・・! まずいかっ」

 

向こうの攻撃に耐えきれなくなってきているのを、セイバーは身体で感じていた。

少しずつ、攻撃が掠るようになってきて、受け流すことも出来なくなってきている。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「五月蠅いぞっ!」

 

叫び声に負けないようにセイバーも叫ぶ。夜にこんなに叫んで何故誰も起きないのかは不思議ではある。まぁ、そっちの方が都合が良いが。

もう何度目になったか分からない薙刀の受け流しの後、バーサーカーはいきなり何もない虚空を薙刀で払った。

その瞬間、薙刀と堅い何かがぶつかった音がして、その堅い何かは四方へと跳んでいく。

 

「おおおおおおおおおおおお!」

 

「・・・」

 

気配遮断のスキルが、攻撃したことによって下がったのだろう。セイバーでもバーサーカーでも発見することが出来た。

 

「アサシンか! ・・・助かる!」

 

その言葉に応えるようにアサシンは再び暗闇へと姿をくらませ、バーサーカーの攻撃がセイバーへと集中しないように牽制のダークを放つ。

 

「狂戦士の名の如く、正気は保てていないようだな!」

 

徐々に出来てきた隙を逃さないように、セイバーはバーサーカーへと斬り掛かる。

その皮膚がすでに鎧のようだが、斬れないと言うことはない。少しずつ、勝利へと向かっているのを感じた。

 

「おおおおお!」

 

「逃がすかっ!」

 

「・・・」

 

後退しようと薙刀を振るいつつ後ずさるバーサーカーに、雌雄一対の剣と、長い右腕を解放したアサシンの左腕が迫る。

しかし、最後まで追いつくことは出来ず、またもバーサーカーを逃がしてしまった。

 

「・・・またか。・・・クソッ。そうだ、アーチャー!」

 

慌ててきびすを返し、倒れていたアーチャーの場所へと走り出すセイバーと、その後ろを右腕に包帯を巻きつつ追いかけるアサシン。

ぐったりしているアーチャーを抱え、セイバーは一番近い自分と銀の部屋へと向かった。

 

・・・

 

キャスター、バーサーカー、ランサー達三組に襲撃された翌朝、セイバー組の部屋に月達マスターと、サーヴァント達が集まっていた。

更に、朝からあわただしく動いていた月達から事情を聞いた桃香も心配して月達についてきていた。

 

「お兄さん、大丈夫なのかなぁ・・・?」

 

桃香の心配そうな声に、セイバーが答える。

重傷のアーチャーを寝台に寝かせ、しばらくした頃に安定したが、アーチャーは未だ目を覚まさないでいる。

 

「・・・何ともいえないな。一応ギルのマスターからは少量ながらも魔力が流れている。・・・お互いの接続が不安定だと聞いていたが・・・?」

 

言外にどうなんだ、という質問を含んで、セイバーは月を見た。

 

「えう、えと、ごめんなさい、出来るだけギルさんとのつながりは意識しているんですが・・・時々魔力が全く行かなくなったりします・・・」

 

「そうだったのか? ・・・でもギルって結構遠慮無く宝具使ってた気がするんだが・・・」

 

「おそらく少しずつ魔力をためていっていたんだろう。アーチャーは強力な宝具で戦うクラス。魔力の保有量もかなりあったんだろうし・・・」

 

ライダーが銀の質問に答える。銀はふぅん、と納得したのかどうなのかよく分からないつぶやきを残した。

 

「兎に角、今は待つしかないだろうな」

 

セイバーがそう言って立ち上がる。

それに合わせて全員が退室しようとしたとき、桃香が月に声をかけた。

 

「あ、月ちゃん」

 

「はい?」

 

「今日はお仕事お休みで良いよ。お兄さんに付いててあげて?」

 

「え? ・・・で、でも・・・」

 

「そだね、ギルさんについててあげなよー。アサシン、今日は警戒任務じゃなくて、月の代わりに侍女のお仕事手伝ってね?」

 

「・・・」

 

無言でこくりと頷くアサシンを見て、満足げにうんうんと頷く響。

 

「と、言うわけで、月はギルさんの看病がお仕事! 後は私と詠とハサンにまっかせなさーい!」

 

「そ、そうね。月はギルの近くにいてあげた方が良いわね」

 

「響ちゃん、詠ちゃん・・・」

 

「と、言うわけで、いこっか、響ちゃん、詠ちゃんっ」

 

「りょーかーいっ!」

 

「分かってるわよっ!」

 

「・・・」

 

じゃーねー、と手を振る桃香と響、それじゃあね、と声をかける詠、左手を挙げてフリフリと振って去っていくアサシンを月は見送った。

 

「・・・静かになっちゃった」

 

月は部屋の出入り口から目を離し、寝台に眠るアーチャーへと向き直る。

先ほどまでは苦しそうに唸っていたアーチャーも、しばらくすると落ち着いたのかすぅすぅと寝息を立てていた。

 

「ギルさん、寝顔は子供っぽいんですね」

 

くすくすと笑いながら、月はアーチャーの頭を撫でる。

 

「・・・ギルさん、早く起きてくれないと、駄目なんですからね」

 

めっ、と人差し指でアーチャーの頬をつつく月。

数分後、自分のしたことを冷静に考えて真っ赤になってあたふたするのを、今の月は知るよしもなかった。

 

・・・

 

「・・・はぁ」

 

「まずは水汲みー。ハサン、頑張るよー!」

 

「・・・」

 

コクリ、と頷いて、アサシンは響の後ろについて回る。

 

「・・・ふぅ」

 

「お掃除お掃除ー。ハサン、その長い腕で高いところのお掃除お願いねー」

 

「・・・」

 

コクリ、と頷いて、アサシンは右腕を解放し、ぞうきんを手に取り、掃除を始める。

 

「・・・ギル、大丈夫かなぁ・・・」

 

「うばーっ!」

 

「きゃっ!?」

 

昼食時、ついに響が両手で机をばんばんと叩き、奇声を発した。

いきなりの奇声に驚いた詠は、持っていた箸を落としてしまう。

 

「ギルのことが心配ならそう言えばいいのに! 何なの!? ツンなの!? ツン子なの!?」

 

「な、何を言ってるのよ! 訳分かんない!」

 

「それはこっちの台詞! ・・・ああもう! 今は休憩時間だし、ギルさんの所に行くよ!」

 

そう言うと、響は詠の手を取り、走り出した。

アサシンはかちゃりと箸を置くと、無音で、しかし素早く二人の後を追った。

 

・・・

 

「おお、お前達」

 

「ありゃ、セイバーさん」

 

響が詠を連れて銀とセイバーの部屋に行く途中、セイバーと銀の二人に出会った。

 

「・・・って、アサシン・・・。お前、なんて格好を・・・」

 

「え? だって、侍女はこの服着ないと駄目みたいだから」

 

セイバーの疑問に、アサシンの代わりに響が答える。セイバーと銀の視線はフリフリのメイド服を着たアサシンに向いていた。

 

「アサシン、お前も大変なんだな・・・」

 

セイバーと銀の二人に肩を叩かれたアサシンは、少しだけ肩を落としているように見えたという。

 

・・・

 

目覚めろー、と念じてどのくらい経ったのだろうか。

よく分からないが、未だに目覚められずに白い空間に座り込んでいた。

 

「・・・取り敢えず、夢なら悪夢決定だな」

 

そう呟いてから、黙ってても仕方がないと思い立ち上がる。

適当に歩いて探索してみようと歩き始めた。

 

「・・・ん?」

 

遠くに、何か黒い点の様なものが見える。

 

「・・・取り敢えずは、あれを目標に歩いてみるか」

 

この真っ白な空間で唯一色がある物を発見し、少し嬉しく思いながらも歩き続ける。

かなり歩いたが、夢の中だからか疲れることはないみたいだ。

 

「・・・人・・・か?」

 

近づいていく度に細部が見えてくる。

黒い人影のように見えるが・・・。あと少し近づけば見えそうだ。

俺は少し小走りで近づいた。

 

「うっ!?」

 

あと少しで全貌が見える。そんなとき、突風が吹いて、俺は思わず顔を手で覆った。

風が収まり、手を下ろしたとき、人影は見えなくなっていた。

 

「・・・何だったんだ?」

 

はぁ、とため息をつく。双六のゴール直前で「振り出しに戻る」を踏んだ気分だ。

さてどうしようかと諦め半分で考え始めたとき、何かが落ちてくる音がした。

 

「まさか、時間差で神様か!?」

 

上を仰ぎ見る。

黒い点が落ちてくるに従ってよく見えてくるように・・・え? 

 

「・・・え?」

 

いや、そんな。まさか。

 

「うっふぅぅぅぅぅぅぅぅん!」

 

上空にあった二つの黒い点が近づいてくると、そんな声も聞こえてくるようになった。

・・・ああ、見間違いとかだったら良かったのに・・・! 

ずどむ、とおおよそ人が着地した音に似つかわしくない音がして、俺の目の前に二人の人物・・・貂蝉と卑弥呼が着弾していた。

・・・断じて着地なんて言う生やさしい物ではなかったと言っておこう。

 

「初めましてだな、弓兵よ」

 

いきなり卑弥呼が話しかけてくるが、あまりの衝撃に反応できない。

 

「あらぁん? 私たちの美しさに、声も出ないみたいねぇ?」

 

断じて違う。そう言いたいが、口はぱくぱくと空気を求める金魚のように開閉を繰り返すだけだった。

フリーズしている俺を尻目に、二人はくねくねと俺に近づいてくる。

なぜか、頭の中で某鮫の映画の音楽が流れた。・・・あれ、死亡フラグ・・・? 

 

「急にお邪魔してごめんねぇ? あなたが困ってるみたいだから、お助けに来たのよん」

 

「うむ。こちらに送り込んだのは我らだからな。少しぐらいは手助けしてやらねばなるまい」

 

・・・ん? 

ちょっと待て。何か今重要な事をさらっと言われたような気がする。

 

「・・・此処に送り込んだのがあんたら・・・? じゃあ、この白い空間はあんたらが作ったのか?」

 

俺の質問に、貂蝉が答える。

 

「違うわよぉ。あなたを聖杯戦争のあるあの世界に送ったのが、私たちってこ・と。うふん」

 

台詞の最後にしなを作ってウインクしてきたので、思わず避けてしまった。

 

「じゃあ、二人と神様は知り合いなのか・・・?」

 

俺に力を持たせて転生させたのはあの土下座神様だったはず・・・。

 

「我らとおぬしの言っている神様とやらは知り合いではない。我らは、ある計画を阻止するためにお主達英霊を集めていたのだ」

 

「ま、あなたは純正の英霊じゃないけどね」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。今頭の中を整理する」

 

ええと、取り敢えず俺が転生するところまでは神様の管轄だったんだろう。

その後、転生している途中でこの二人に捕まって、聖杯戦争や魔術がある恋姫の世界に連れてこられた・・・? 

連れてきた理由は、「とある計画」を阻止するため。

 

「『とある計画』ってなんだ?」

 

「うむ、それはな――――」

 

あれ、急に卑弥呼の声が聞こえなく・・・? 

 

「あら、時間切れみたい。それじゃ、また会えたらいいわねん」

 

なんだと!? こんな気になるフェードアウトで終わりだと!? 

 

・・・

 

「月ちゃぁぁぁぁーん!」

 

「ふぇあうっ!? きょ、響ちゃんっ?」

 

突然の爆音に、月は座っていた椅子から立ち上がった。

椅子が倒れてしまったが、驚いている月はそんな事を気にしている余裕はないようだ。

いきなり扉を吹き飛ばす勢いで開けた響は、ぜぇはぁと息を切らせる詠を連れて、部屋の中へと入った。

 

「詠がギルのこと心配すぎて仕事が手につかないって言うから連れてきた!」

 

「詠ちゃん・・・」

 

月が安心したように、しょうがないなぁと言いながら椅子を戻して座り直した。

もちろん詠は響の言葉に反応し、反論した。

 

「ちょっ! きょ、響! ボクは別にそんな・・・!」

 

「うっさいよツン子!」

 

「ツン子いうな!」

 

「ま、まぁまぁ二人とも。今ギルさんが寝てるんだから、静かにしよ?」

 

月が二人を宥めると、詠は仕方なさそうに、響はてへへと気まずそうに騒ぐのをやめた。

 

「そ、それで? ギルの調子はどうなのよ。・・・べ、別に心配な訳じゃないんだからね! 此処まで来たから、気になっちゃうだけなんだから!」

 

「・・・ツン子だ・・・」

 

「・・・ツン子だね・・・」

 

響と月の二人はぼそりと呟き、顔を真っ赤にして顔を背ける詠をほほえましそうに見ていた。

月は二人に椅子を勧め、寝台のそばに寄り添うように座った。

 

「ギルさん、ずっと寝てる。多分魔力も足りてるんじゃないかな。気持ちよさそうに寝てるよ?」

 

「・・・ふん。月に心配かけてぐっすり眠るなんて、月の護衛だって言うこと忘れてるんじゃないの、こいつ?」

 

「まーまー。ギルさんだって、寝たくて寝てる訳じゃないんだろうし?」

 

三人であーだこーだと話していると、扉がコンコンと叩かれた。

 

「はーい? どうぞー」

 

月が扉を叩いた人物へと声をかけると、かちゃりと扉が開いた。

 

「おじゃまします・・・」

 

「あら、璃々ちゃん」

 

「こんにちわ、月お姉ちゃん。・・・あのね、ギルお兄ちゃんがおびょーきだって聞いて、おみまいにきたの」

 

「そうなの? ありがと、ギルさんも喜ぶね」

 

そう言って、月は自身の膝の上に璃々をのせた。

 

「ギルお兄ちゃん、寝ちゃってるのー?」

 

「うん、そうなんだ」

 

「おきたらげんきになってるかなぁ?」

 

「うん、元気いっぱいになってるよ」

 

月の言葉に、璃々はぱぁっと笑顔になる。えへへ、と嬉しそうにはにかみ、寝台に寝ているアーチャーの頭をぽんぽんと叩いた。

 

「ギルお兄ちゃん、起きたらいっぱいあそぼーね!」

 

そう言って、璃々は月の膝の上から降りて、扉へとたたた、と駆け出した。

 

「おかーさんの所に戻るね!」

 

「うん、気をつけてね?」

 

「うん! ・・・あ、そーだ! とーかさまたちが、お仕事が一段落したらお見舞いに行くって言ってたよ?」

 

「そうなんだ。わざわざありがとね、璃々ちゃん」

 

「んーん、良いよー。それじゃねー!」

 

再びたたた、と駆け出した璃々を手を振って見送った月は、アーチャーに向き直った。

 

「璃々ちゃんに慕われてるんですね、ギルさん」

 

「それに、桃香達にもね。わざわざ見舞いに来るなんて」

 

「ギルさんはいろんな所にお手伝いとかに行ってたから。人気者なんだね」

 

・・・

 

休憩時間にアーチャーの見舞いに来た響と詠、さらにそっとついてきたハサンが部屋の中でアーチャーの様子を見ていると、扉がコンコンと叩かれる。

一応アーチャーがこちらに部屋に入るときは扉を叩くと言うことを広めていたので、ここの人達も部屋に入るときの礼節として扉を叩いている。

 

「あれ、またお客さんかな。はーい」

 

月が答えると、扉を開けて入って来た数人の少女。月は一瞬驚くが、すぐに笑顔になり、少女達の名前を呼ぶ。

 

「桃香さま、愛紗さん、鈴々ちゃん、朱里ちゃん」

 

「やっほー。ギルさんはまだ寝てる?」

 

「邪魔するぞ。・・・ギル殿はまだ寝ているようですね、桃香さま」

 

「そっかー・・・。早く起きて欲しいね。・・・お仕事もあんまり減らないし・・・」

 

「それはおねーちゃんが頑張らないから減らないのだー」

 

「・・・はうっ」

 

鈴々の直球の言葉に、桃香は胸を押さえる。

 

「だ、だってギルさんお仕事処理するのも早かったし、愛紗ちゃんみたく訓練で居なくなったりしないからいつでも質問できちゃうし・・・」

 

「・・・そろそろ、ギル殿には桃香さまの仕事を手伝わないように言っておくべきですね」

 

はぁ、とため息をついて、愛紗が頭を左右に振る。

朱里はそんな愛紗と桃香を見て、おろおろとしている。

月は桃香達の話を聞いて、くす、とほほえむ。

 

「皆さん、取り敢えず座ってください。お茶にしましょう」

 

取り敢えず、一度落ち着いて貰わないと、と心の中で呟いて、お茶の用意をしに部屋を出る。

響と詠も手伝うと言ってくれたので、人数分のお茶を用意するのはさほど大変なことではなかった。

 

「・・・えへへ、本当に人気者だね、ギルさん」

 

月はそうぼそりと呟く。

 

「? ・・・月、なんか言った?」

 

小声で呟いたはずだが、詠には聞こえていたようだ。

首を傾げて聞いてくる詠に、月は首を横に振って答えた。

 

「え? ・・・ううん、何でもないよ、詠ちゃん」

 

「そ?」

 

取り敢えず、みんなに美味しいお茶を煎れなくちゃ。

妙に機嫌の良さそうな月の様子に響と詠が興味津々のようだったが、深くは突っ込んでこなかった。

 

・・・

 

みんなでお茶をしている途中。

アーチャーがいきなりもぞもぞと動き出した。

 

「ぎ、ギルさんっ!?」

 

月は駆け寄って名前を呼ぶが、アーチャーは顔を苦しそうにゆがめ、何かを呟いている。

 

「・・・う、ん」

 

「え・・・? な、なんて言ってるんですか、ギルさんっ?」

 

「ま、さか・・・の・・・」

 

そう言うと、アーチャーは勢いよく起きあがった。

そばにいた月は起きあがるアーチャーにぶつかりそうになり短い悲鳴を上げる。

 

「まさかの貂蝉ッ!? は、ぁ・・・はぁ、はぁ・・・あれ?」

 

「ぎ、ギルさん?」

 

しばらくキョロキョロとしていたアーチャーは、声をかけてきた月を見て、安堵のため息をつく。

 

「・・・夢、だったんだな、やっぱり」

 

「え?」

 

「・・・何でもない。俺はどれくらい寝てた?」

 

「一日とちょっとですね」

 

「そっか」

 

「・・・おはようございます、ギルさん」

 

「ああ、おはよう、月」

 

・・・

 

目を覚ますと、目に飛び込んできたのは見慣れた天井。

あたりを見回すと、驚いた顔をしている月が視界に入る。いつも通り可愛い。

どうやら悪夢からは覚めたようだ。

少しのやりとりの後、月とお互いにおはようと挨拶をかわした。

 

「お兄さんっ!」

 

「桃香?」

 

驚いた。桃香に愛紗、鈴々に朱里まで居る。あ、詠と響もか。なんか大集合だな。

・・・もう一人居るようだったけど、俺は見なかったことにした。

何かフリフリな服を着た黒い人影が見えた気がするけど俺には何も見えてない! 

 

「桃香達まで居たのか」

 

「うんっ、お兄さんが倒れたって聞いて、お見舞いに来てたの! ね、愛紗ちゃん」

 

「はい。ギル殿にはいつも助けられていますから。この位はお返しさせていただかないと」

 

「そっか。ありがと」

 

お礼を言うと、桃香は照れつつえへへー、とはにかみ、愛紗はいえ、といつもの調子で返された。

そんな二人を押しのけるように鈴々が寝台に近づいて、俺の顔をのぞき込んでくる。

 

「お兄ちゃん元気になったのだ?」

 

「うん、心配かけたな」

 

「別に良いのだ! 元気になったんだったら、また一緒に遊ぶのだ!」

 

「そだな。明日からはまた手合わせしような」

 

「約束なのだっ! 恋にも伝えてくるのだー!」

 

そう言って鈴々は部屋を飛び出していく。

 

「鈴々っ! ・・・まったく。申し訳ありませんギル殿。騒がしくて」

 

「構わないさ。ああいうところも鈴々の良いところだしな」

 

そう言ってから、俺は寝台から降りようと寝台の縁へと移動する。

 

「ちょっと、動いても大丈夫なの?」

 

そんな俺の行動を見て、詠が怒ったような口調で聞いてくる。

口調は怒っているが、しばらく付き合っている内に詠のこの口調は照れ隠しのような物だと学習している俺は、詠の頭を撫でながら答えた。

 

「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 

「ちょっ、べ、別に心配なんか・・・!」

 

顔を逸らしてそう言い放つが、詠の顔は真っ赤だ。照れてるんだろうなぁ。畜生可愛いぜ。

そんな俺達を見て、月がくすくすと笑っている。

取り敢えず詠を撫でるのを一旦止め、立ち上がる。

・・・しばらく寝ていたからか、少しふらついてしまった。

 

「おっとと」

 

「大丈夫?」

 

そう言って響がそっと支えてくれた。小さい体で良く支えられるな、と驚いた。

 

「ギルさんギルさん、歩きづらいなら肩貸そうか?」

 

響がそう言ってくれるが・・・響に肩を貸して貰うと間違いなく響を潰してしまうので、遠慮しておく。

 

「そっかー。ちぇっ」

 

なんだその舌打ち。そんなに肩を貸したかったのか。意外とお節介な性格なのかも知れない。

立ちくらみも収まったので、俺はさてどうしようかと考える。

 

「朱里、仕事ってどれくらい残ってるんだ?」

 

俺が声をかけると、話しかけられると思っていなかったであろう朱里があわてふためく。

 

「はわわっ、お仕事ですかっ!? えとえと、一日とはいえ、ギルさんが抜けたのは大きくて、その・・・」

 

朱里が言いづらそうにちらちらと桃香を見る。・・・ああ、多分桃香が仕事ためちゃってるんだろうなぁ。

少し苦笑しながら、俺は朱里の頭を撫でる。

 

「分かった。まずは残ってる仕事を片付けちゃおうか」

 

「は、はいっ」

 

「ギルさん、お仕事しても大丈夫なんですか?」

 

「うーん、体もそんなに異常は無いみたいだし、大丈夫だと思うけど」

 

魔力を使いまくったせいか宝具はしばらく使いづらいだろうけど、それ以外は不調はない。

今のところは月からの魔力も来てるしな。事務仕事くらいなら問題ないだろう。

 

「そうですか・・・。でも、無理はしないで下さいね?」

 

「・・・ん」

 

ホントに可愛いなぁもう。

 

「よし、じゃあ行くか、桃香、朱里」

 

「はーいっ」

 

「はいですっ」

 

こうして、俺は何とか復活したのだった。

さて、しばらくぶりに頑張るか! 

 

・・・

 

月達侍女組はいつも通りの仕事に戻ることに。・・・因みに、ハサンはメイド服を脱ぎ捨て、颯爽と去っていった。

俺は月達を見送ってから、桃香と愛紗、そして朱里と共に執務室へ。

途中で愛紗が桃香をあまり手伝わないようにと言ってきたが、多分無駄だと分かっているだろう。

 

「・・・まぁ、そんなことを言っても無駄でしょうが」

 

おや、実際に言われてしまった。

 

「そうだな。でもま、愛紗の言うことももっともだ。これからは少し気をつけてみる。・・・これからもう少し自分の力で頑張るか、桃香」

 

そう言って、桃香の頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でる。

桃香ははぅーと唸りながらも頷いてくれた。この子は基本良い子なのである。

 

「それでは、私は訓練の方に顔を出さなければいけないので。失礼します」

 

「ああ。愛紗、あんまり頑張りすぎるなよ?」

 

「・・・分かりました」

 

最後ににこりとほほえんで去っていく愛紗。彼女は最近表情が軟らかくなってきていると思う。

出会った当初なんて・・・うぉぉ、思い出したくない説教の記憶がっ! 

 

「よぉっし、私頑張っちゃうよ、お兄さんっ!」

 

「お、おお! その意気だ、桃香!」

 

「はわわっ、凄い気合いですぅ・・・!」

 

気合い十分の桃香と、おろおろする朱里に挟まれながら、久しぶりの執務室へと向かったのだった。

 

・・・




「ギルさんのところに行くよ!」「ちょっ・・・!」すたたっ「っ!? 変態だー!」すたたっ「へっ、変態よー!」すたたっ「うわぁーん! おかあさーん!」
もちろんアサシンの前を走っている二人は騒ぎに気づきませんでした。

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