真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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「よっしゃ、六がでた! これでもう勝ちは決まったね」「まだまだ・・・サイコロを三角錐で割れば七が・・・」「頭大丈夫?」「きっと大丈夫」

それでは、どうぞ。


第十三話 賭けと器と総力戦と

あの後、桃香達と共に演習の反省や後始末、政務をこなしている朱里と交代して政務をこなしたりと、ずっと部屋に籠もっていた。

俺と桃香で果たして今日中に終わるかな、と不安に思っていたが、詠やねね、愛紗が手伝ってくれたのでいつもより早く終わっていた。

雛里だけは、朱里と共に終わらせておく仕事があるとのことだったので、そちらに向かわせた。

その時の雛里の申し訳なさそうな顔は忘れられない。後で様子でも見に行こうと思う。

桃香から、相談があると誘われたのは、それから数日した後の夜であった。

 

「・・・んーと。・・・お、いたいた」

 

真面目な顔をして「今日の夜、お話したいことがあるの」と言われてしまっては断れまい。・・・あれ、最近そんなのばっかりか。

まぁとにかく。一人城壁から外を見ていた桃香に近づき、声を掛ける。

 

「あ、お兄さん」

 

夜とはいえ空気は暖かい。場所を変える必要は無さそうだな。

・・・そんなことを思っていると、桃香が口を開いた。

 

「あの、ね。お兄さんにはいろいろとお世話になってると思う。前に聞かせて貰った聖杯戦争のこととか・・・いろいろ」

 

昔のことを懐かしむように目をつぶる桃香。俺と出会ってからでも思い出して居るんだろうか。

毎日のように政務してたまに街に連れてかれた事くらいしか思い出せないが、桃香には桃香なりの何かがあるんだろう。

 

「それでね、お兄さんが忙しくて、出てなかった会議で・・・私、三国のみんなで仲良くしたいって言ったんだ」

 

そうだったのか。確かに、言われてみれば街に魔力を感じ始めたあたりから会議には出てなかったな、と思い出した。

 

「みんなが仲良くするなんて無理だって反対されたんだけど、朱里ちゃんが天下三分の計って言う案を出してくれたんだ」

 

桃香が説明してくれたその案は、原作でも朱里が提案していたものだった。

曹操、孫策、劉備の三人がそれぞれの地を治め、お互いに監視をする・・・と言うような内容だったはずだ。

魏と呉が全面戦争に入った後、朱里達は蜀呉同盟を呉に提案する機会をうかがっていたらしい。

しかし、蜀には聖杯戦争というもう一つの・・・規模は小さくとも、世界の運命を左右するほどの戦争を抱えている。

そんな状況でこの三国の対立に首を突っ込むなんて不可能。

そこで、俺に何か良い案は無いか相談したい、とのことだった。

 

「・・・聖杯戦争が一瞬で決着のつく戦争なんて思ってないよ。でも、お兄さんから聞いた話だと、卑弥呼さんって言う凄い人まで参戦したんだよね?」

 

「そうだな。・・・魔法使いは、それだけで理から外れた存在になる」

 

「・・・蜀から主だった将や・・・お兄さんや、正刃さん達が居なくなったら、多分槍兵さんたちや魔術師さんが黙ってないよね・・・」

 

・・・そっか。

今から蜀呉同盟をするにしても、天下三分の計を目指すとしても、蜀はサーヴァントという爆発物を抱えているような物なのだ。

そのうち、俺やセイバーは将や兵士として蜀を離れるかも知れない。

そんなときにサーヴァントという爆弾が自分たちの懐で爆発してしまっては、もはや三国の戦争どころではないだろう。

多分、朱里達はここ数日の内に蜀呉同盟について策を発動させるだろう。数日で敵対しているサーヴァントを探し出し対処するなど不可能に近い。

更に魔法使いや過激派の事もある。

 

「蜀の内政に詳しくて、聖杯戦争にも精通してる人・・・私には、お兄さん以外にこんな事聞けないと思ったんだ」

 

なにか、私たちに案を下さい。平和に向けての第一歩として。そう言って、桃香は頭を下げた。

 

「天下三分の計を成功させるためにも、蜀呉同盟っていう一歩を踏み出せないとどうにもならないの・・・」

 

俺は、桃香に頭を上げて、と言った。

その間も、俺の頭はフル回転していた。

何か、何か無いのか。此処まで頑張る桃香を助ける策は・・・

まず、何をしたいのかを考える。

蜀に抱えている問題・・・ランサー、キャスター、魔法を使う卑弥呼、過激派のこと。

過激派は多分蜀にはいないと思う。灯台もと暗しとは言うが、単独で聖杯を動かそうとしているのだ。

それなりの広さを持った土地、更に霊脈も必要になってくる。そんな場所が少なくとも蜀にあるとは思い当たらない。

次に魔法使い卑弥呼。彼女は管理者の卑弥呼にご執心だ。管理者卑弥呼に何処かに行って貰えばそれを追っていくのではないか・・・

 

「・・・ん?」

 

「ふぇ? どうかしたの、お兄さん」

 

唐突に疑問の声が出た俺に、桃香が不安そうに聞いてくる。

 

「いや、もしかしたら、あるかも知れない。蜀から聖杯戦争を遠ざける策が」

 

策と言っていいかすら分からないけれど。

今の俺の実力と、セイバーやランサーの助け、管理者の手助けがあればいける。

 

「聞いてくれるか。・・・ああいや、朱里も居るところで話したい。朱里は何処にいる?」

 

・・・

 

朱里は未だ寝ていなかった。そりゃそうだ。蜀呉同盟のことでいろいろと詰めることがあるだろうし、蜀を回しているのは実質的に彼女だ。

真夜中と言っていいほどの時間に尋ねたというのに、どうぞと椅子を勧めてくれ、お茶を煎れてくれた彼女は優しい子だと言わざるを得ない。

 

「それで・・・その、何のご用でしょうか」

 

真剣な顔をした桃香を連れてやってくれば、流石に何かあると分かるのだろう。

前置きもそこそこに、朱里が話を切り出してくれた。

 

「ああ。桃香から聞いたよ。天下三分の計とか、蜀呉同盟とか・・・そのために聖杯戦争の存在が不確定要素の塊で困ってるっていうことも」

 

「そう、ですか・・・」

 

朱里の顔が暗くなった。

聖杯戦争が邪魔になる・・・言い換えれば、俺達サーヴァントが邪魔になってきている、と言うことだからだ。

彼女たちは遠回しにでもそう言うことを言いたくなかったんだろう。優しいからなぁ。本当に。

甘い、と言う人達もいるのだろうが、現代っ子の俺としてはその優しさが心地よいと思った。

 

「だから、蜀から聖杯戦争関係を全て離せる策・・・と言うか、賭の話しを持ってきた」

 

「賭・・・ですか?」

 

「そうだ。成功すれば蜀から魔術師達を引っ張り出せるし、失敗すれば蜀で本格的な聖杯戦争が起きる」

 

「――――っ!」

 

それこそ、街が燃え血で血を洗うまさに英霊同士のぶつかり合いと言った戦争が、だ。

俺のあまりにもハイリスクハイリターンな賭に、桃香と朱里の息をのむ音が聞こえてきた。

優しい彼女たちにこのことを言うのはとても躊躇われたが、動かなければ事態は何も動かない。

ならば、賭だろうと何だろうとやってみる価値はあると思い、二人に話しを持ちかけたのだ。

少し考えるそぶりを見せた後、桃香はゆっくりと口を開いた。

 

「・・・内容を、聞かせて。お兄さん」

 

「桃香さま・・・!?」

 

「みんな仲良く・・・そのために、やらなきゃならないことがあるっていうなら、多分ここからなんだと思う。だから私は」

 

桃香は目をつぶって深呼吸し、目を開いた。そこには、力強い光を讃えた瞳があった。

 

「そのためなら、賭でもやらなきゃならないんだよ、朱里ちゃん」

 

「・・・桃香さま・・・。・・・そうですね・・・。何もせずにいるよりは・・・。分かりました。ギルさん、教えてください。その策を」

 

二人の許可が出たので、俺が考えついた賭の内容を伝えた。

管理者に聞いた聖杯戦争の制限、歪み・・・今の状況と、聖杯戦争のルール。それらを鑑みたその策を伝えたとき、二人は言葉を失った。

 

「そ、その賭は・・・危険すぎます! 成功するためには・・・」

 

身を乗り出して声を荒げる朱里を手で制して、ゆっくりと伝えた。

 

「安心していいぞ。何てったって俺は、幸運スキルのおかげで賭に負けたことがないんだ」

 

それだけは、自信を持っていえることだった。

 

・・・

 

朱里と桃香、朝になってから雛里とねね、詠も呼んで、蜀呉同盟の詰めの作業をしてくれるように頼んだ。

俺は、セイバーやライダー達に賭の内容を話しに向かった。

桃香に伝えて、月と響以外の聖杯戦争組は今日の仕事を休んで貰っている。

 

「・・・で、急に呼び出して何のようだ?」

 

セイバーが開口一番そう言った。せっかちだなぁと苦笑しつつ、口を開いた。

 

「この蜀から、サーヴァントを引っ張り出す。その作戦を手伝って貰いたい」

 

「なんだと? ・・・ギル、そんなことが可能なのか?」

 

「可能・・・かどうかは、賭が成功するかどうかにかかってる」

 

「その内容をきこーじゃねーか。そうしないと始まらんからな」

 

多喜がせっついてくる。まぁまぁと窘めてから、賭の内容を説明する。

説明が終わると、全員が複雑そうな顔をしていた。そりゃそうか。

 

「ギルが月殿を連れてこなかった理由が分かった気がするよ。・・・彼女は、猛反対するだろうからな」

 

「そうだなぁ。俺もその光景がありありと浮かんだから、月と詠、響は呼ばなかった。アサシン、内緒だぞ?」

 

こっくりとアサシンが頷く。彼も、響に余計な心配を掛けたくはないんだろう。

 

「・・・で、いつ決行だ?」

 

「明後日。明日には朱里達が蜀呉同盟を提案しに、呉に出立するからな」

 

朱里達が蜀呉同盟を締結しに出立した後。残りの将全員で蜀を守護して貰う。

その上で、賭を発動させる。

 

・・・

 

朱里達が出立した。

月達メイド組は、桃香の近くで仕事をして貰っている。

もしもの時、月達を止められる人が必要だからだ。

 

「本当に良いんだな、アーチャー」

 

「良いんだよ。それに・・・こうでもしないと、聖杯戦争も進まないからな」

 

「違いない。・・・さて、やるか」

 

賭の内容は単純明快・・・何もない荒野で俺の魔力を感知させる。

それも、調子の良い数日でため込んだ桁違いの魔力をだ。

この聖杯戦争は魔力を遣わない限り居場所が分からない。ならば、魔力を遣いまくって居場所を分からせてやればいい。

それならば好戦的なランサーのマスターは誘われてくるだろうし、キャスターも様子を見に来るかも知れない。

過激派も、おそらくバーサーカーを送り出してくるだろう。運が良ければ、魔法使い卑弥呼も来るかもしれない。

そのためにライダーとセイバー、アサシンを動員し、さらに管理者にも来て貰っている。

管理者たちは何処かその辺の森にでも隠れてるんじゃないだろうか。精神衛生的にそっちの方が助かる。

 

「すぅ・・・ふっ!」

 

体から魔力が抜けていく感覚。それでも、月のパスから補給されるのであまり無くなっていっているという感じはしない。

 

「・・・凄い魔力量だな・・・サーヴァントとしても最高値じゃないのか?」

 

「本当に規格外だな、ギルは。・・・さて、くるかな」

 

しばらくすると、北方より魔力反応。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「バーサーカーか!」

 

神出鬼没のサーヴァント、バーサーカーが空から振ってきた。

地鳴りがするほどの着地をした後、こちらへ走り寄ってくる。

 

「セイバー、ライダー! 足止め頼んだ!」

 

魔力放出している間はアサシンと共に感知と索敵に集中したかった。

そのため、二人に足止めを頼み、アサシンには周りの索敵をお願いした。

 

「おおおおおおおおおおおおお!!」

 

「今日こそ・・・今日こそ決着をつける! 『桃園結義』!」

 

詠唱を終えたセイバーが固有結界を展開すると、セイバーとバーサーカーが消える。

おそらく塗り替えられた世界の方へ行ったのだろう。

 

「・・・セイバー・・・頼んだぞ」

 

詠唱の時間を稼いでいたライダーが戻ってくる。

速さ的には次にキャスター、ランサーと来るだろうと思う。

周りを警戒していると、空中に魔力反応が多数感じられた。

 

「挑発に乗ってあげるよ・・・いけ、精霊達! ホムンクルス!」

 

連続して雨のように振ってくる火、水、風、土の弾丸。更にホムンクルスが入っているであろうフラスコ。

地面を蹴って後ろに跳び、何とか魔術の雨を喰らわずに回避する。

 

「何を企んでいるのかと思ったけど・・・まさか、正々堂々の決戦ってやつかい? ・・・面白いねえ」

 

キャスターは腰の剣を抜くと、柄から粉を取り出した。

それが一定量キャスターの手に溜まると、自然と石のように固まった。

 

「これが何か分かるかな? ・・・ま、分かっても分からなくても関係ないけど・・・ねっ!」

 

その石を思い切り投げつけるキャスター。目を潰すための物らしく、激しい光が襲いかかってくる。

 

「くっ、うぅ・・・!?」

 

思わず手で顔を覆う。これは贅沢言ってられないか・・・! 

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

目が光に潰され、ほとんど何も見えないまま宝物庫を開き、発射できる限りの宝具を発射する。

光の向こうで悲鳴が聞こえるから、おそらく当たってはいるのだろう。

 

四大元素の精霊(エレメンタル)!」

 

その宝具の弾丸に対抗するように四属性の弾丸が飛んでくる。

いくつかの弾丸は宝具の雨を通り過ぎ、俺の鎧を掠っていった。

まだだ。まだ耐えなくてはいけない。ランサーも、魔法使いもつり上げなければいけないのだ。

 

「ほう。・・・ランサー、戦闘準備は良いか」

 

「はっ。マスター。危険ですので下がっていてください」

 

「・・・期待している」

 

「はっ!」

 

この声・・・ランサーとそのマスター! 

まさかマスターまで来るとは思わなかったが、これは誤算だ

キャスターとの決着もついていないのに来るとは思わなかった・・・! 

 

「増えたかっ!」

 

俺たちとは視界が違うらしいライダーがそう叫ぶ。

土煙と光でやられた目の所為であまり見えないが、増えてしまったらしい。

 

「装填しろ! 今回は弾丸(まりょく)に糸目をつけない! 一斉射の後、各自十人ずつで行動せよ!」

 

ガチャリ、と金属音が聞こえてくる。

 

「目標! 敵サーヴァント!」

 

目が慣れてきて、ようやく全容を見ることが出来た。

そこには、荒野を埋め尽くすのかと思うほどのホムンクルスと緑の軍勢。

空中には四体の精霊が浮かんでいて、それぞれの属性の弾丸を放っている。

 

「くっ! ・・・まずいか・・・!?」

 

宝具を発射しつつ移動する。

 

「てぇーっ!」

 

撃鉄が落ち、火薬が爆発した音がする。

その瞬間、鎧に横からあられが連続して当たったかのような衝撃を受けた。

 

「ぐ、うっ!」

 

鎧のおかげで怪我はしなかった物の、衝撃は体へと伝わった。

弾丸・・・! 魔力で出来ているから、英霊にも通じるのだろう。あの緑の軍勢の数では、避けきる方が難しいか・・・

 

「総員、走れ! アーチャー、ライダー、キャスターを討ち取るのだ!」

 

「うおおおおおおおお!」

 

緑の軍勢が雄叫びを上げて突撃してくる。

先ほど言っていたとおり十人ずつの隊が数隊、徒党を組んでやってきた。

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

すぐさま宝物庫を開き、雨あられと宝具を降らせる。

 

「ぐあっ!」

 

「うわあああああ・・・!」

 

悲鳴や断末魔が聞こえてくるが、今は気にしない他道はない。

 

「総員着剣!」

 

走りながら彼らは銃に銃剣を装着していた。

そして、近くなるにつれて細部がはっきりしてくる。

 

「・・・まさか・・・」

 

その姿を、俺は見た事がある。テレビで。図書館で。ゲームででも出ているだろうか。

現代で生きていたときの記憶がよみがえった。

 

「大日本帝国のためにっ!」

 

そう。彼らは、大日本帝国兵。自分の国のために神風となり・・・英霊となった人物達であった。

 

・・・

 

「魔力・・・反応・・・?」

 

自分のサーヴァントとのつながりから、戦っているかのような魔力消費を感じる。

 

「一体何処で・・・え・・・?」

 

感知したのは、ここから離れた地図上では荒野とされている場所。

そこに、七つ分のサーヴァントの反応があった。

 

「まさか・・・響ちゃんっ」

 

「月ちゃん! ・・・やっぱり、ギルさん達の・・・!」

 

「う、うん!」

 

詠が二人の会話を聞いて、詳しく話してと詰めより、メイド組は桃香の元へと走った。

 

・・・

 

「弓兵殿。恨みはありません。ですが、我が主のため・・・我が国のため!」

 

ランサーのオリジナルも、俺の方へ突撃してきた。

ライダーとアサシンはキャスターの方へと向かったようだ。

 

「うっふぅぅぅぅぅん!」

 

「ああもう! 何で管理者ってこんなのばっかなのよ! 『合わせ鏡』!」

 

向こうから聞こえてくるのは、貂蝉と卑弥呼が魔法使いの卑弥呼と戦っている音。

全員がこの機会に少しでも相手より上回り、自分の勝利を引き寄せようとしていた。

 

「そろそろ月も気付いてるかな。・・・これだけ派手に戦ってるんだもんなぁ」

 

エアを回し、複製のランサーを切り裂き、宝物庫から宝具を発射し、こちらにやってきていたホムンクルスを貫き、引き裂く。

 

「やはり、とてつもない強さか・・・」

 

指揮を執っていたオリジナルのランサーが、宝具の雨を弾きながら呟いた。

英霊化してランサーのクラスになったことによって、ばらつきのある宝具の雨くらいならば弾いて前進できるくらいの力量はあるらしい。

 

「ならば・・・覚悟っ!」

 

銃剣を構えて突撃してくるランサー。

それに合わせて、俺はエアを構える。やはり、ランサーだけあって敏捷が高いようだ。

彼我の差を数歩で詰め、懐へ入り込んでくる。

 

「これならば宝具の雨は降り注ぐまい!」

 

そう言って突き出される銃剣を、エアで受け止める。

高速回転している刀身によって、銃剣は後方へ逸らされる。

 

「まだっ!」

 

逸れた銃剣を高速で戻し、再び突きを放つランサー。

二度目の刺突は何とかエアを合わせられた、と言うレベルである。

その後、ランサーは急に後ろに跳び去る。なんだ、と疑問を浮かべた瞬間、声が聞こえる。

 

「てぇー!」

 

その瞬間、火薬の爆発音と同時に、体中を衝撃が襲った。

 

「が、ぎっ・・・!」

 

頭部には当たらなかった物の、胴体には何十という弾丸が当たっている。

その衝撃によろついていると、ランサーが銃剣を構えて突撃してくる。

しまった。これが狙いか! 

魔力を体に通して体を無理矢理強化し、腕を動かす。

しかし、次の刺突は俺ではなく、エアを標的とした物らしく、はじき飛ばされはしなかった物の、エアを持った腕ごと上に弾かれてしまった。

がら空きの胴体へ銃剣が迫る。

 

「っく! 『天の鎖(エルキドゥ)』!」

 

銃剣の進行方向に鎖を交差させるように伸ばし、銃剣を受け止める。

 

「なんと・・・! ならば!」

 

すぐにランサーは銃剣を引き戻し、銃として構える。

狙いは・・・頭っ! 

両腕で顔を庇う。至近距離での発砲を食らい、体中に響いたかのような音が聞こえ、腕に弾丸が着弾する。

 

「何という耐久力・・・! その鎧、やっかいだな・・・」

 

宝具の雨で減っていく緑の軍勢を確認しながら、ランサーから目を離さないように注意する。

 

「総員着剣にて突撃せよ!」

 

ランサーのその一声に、複製達が銃剣を構えて走り出す。

宝具の雨を食らおうとも、足が動く限り前へ進む緑の兵士達。

 

「うわあああああああ!!」

 

ほぼ悲鳴のような気合いの声を発しながら、緑の軍勢がこちらにたどり着き、その手に持つ銃剣を突き出してくる。

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

周りに宝具を突き立て、空中で宝具を組み合わせて壁を作り、軍勢を止める。

それでも穴はでき、そこから数人が銃剣を突き出す。

 

「エア! 回転しろ!」

 

魔力を吸い取り、回転力を上げるエア。

ライダー達を巻き込まない様に威力が弱くなるよう調整し、真名開放する。

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

 

目の前の兵士が、宝物庫の宝具と共に吹き飛ぶ。

腕を引き絞る時間も無かったので、威力は低めだ。

それでも包囲を解くには十分だった。兵士が吹き飛んで出来た穴から包囲を抜け出し、赤い槍(ゲイボルグの原典)を取り出す。

細く、すぐに折れそうな槍だが、そこは宝具である。これを上回る神秘がなければ折れないだろう。

 

「ふっ! ・・・はぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

俺に向かって津波のように襲いかかる緑の軍勢をエアで切り裂き、吹き飛ばし、槍で薙ぎ払い、突き刺す。

常に体に魔力を回し、エアを回転させ続け、宝物庫を開きっぱなしにしているため、残りの魔力が全体の三分の一をきった。

再びランサー達が突撃しようとしたとき、いきなりオリジナルが後ろに跳んだ。

数体の複製が驚きながらもそれに続く。

なんだ、と思った瞬間、目の前を光の線が走っていった。

 

「これは・・・卑弥呼の・・・!?」

 

魔力の光線が走ってきた方向を見る。そこには、鏡を構え、思いっきりこちらを睨む卑弥呼の姿が。

 

「その金ぴかはわらわのお気に入りなのよ。わらわの許可無く手を出さないで欲しいわね」

 

「卑弥呼・・・お前、貂蝉達は・・・」

 

「ああ、あいつら? ・・・別に、私が戦う必要は無いじゃない」

 

こちらに近づいてきた卑弥呼は、鏡を構えたまま不敵に笑った。

 

「わらわは世界を移動できるのよ。・・・わらわが此処ではない外史に魔力を打ち込んだから、それで出来た歪みを何とかするためにどっかいったわよ」

 

・・・成る程。世界を移動できるんだから、管理者達が自分に手を出せない状況にすれば・・・つまり外史を危機に陥れればいい。

外史を管理している貂蝉達はその修正に奔走し、卑弥呼の相手はしていられない。

 

「・・・ああ、安心して良いわ。わらわ、流石に世界を破壊するとかそんな気は無いわよ。ただちょっと外史を揺らしただけ」

 

「信じるぞ、卑弥呼」

 

「信じなさい。さて、どうする? わらわと戦うか、仕切り直すか」

 

「仕切り直したい・・・と言いたいところだが、蜀呉同盟を成功させるために、まだ稼ぐべき時間は残っている。戦うよ」

 

ランサーと卑弥呼、俺の三つどもえになるか・・・。

だが、桃香と約束したのだ。天下三分の計の為に、聖杯戦争を蜀から引きずり出すと。

赤い槍(ゲイボルグの原典)を戻し、蛇狩りの鎌(ハルペー)を取り出す。片手にエアを持ち、もう片方の手で蛇狩りの鎌(ハルペー)を回す。

うん、調子は良い。

 

「・・・やっぱやめた」

 

「は?」

 

いきなり、卑弥呼がはふ、と息を吐いた。

 

「なんだか興ざめしちゃった。良いこと教えてあげるから、あんたのしたいようにしなさい」

 

「良いこと・・・?」

 

目の前の卑弥呼からも、ランサーからも目を離さずに話を聞く。

 

「外史を揺らしたっていったじゃない。その所為かこの外史にも影響が出て、剣士と狂戦士の戦ってる固有結界の位相がずれてね」

 

・・・とてつもなく嫌な予感がする。

 

「多分、今あいつら呉と魏が決戦してるところの近くで戦ってるわ」

 

うわぁ、考え得る限り最悪の展開である。

魏と呉をバーサーカーが発見してしまえばきっとそっちにも攻撃を仕掛けるだろうし、今呉に向かっている朱里達にも危険が伴うだろう。

 

「くそっ・・・!」

 

どうすればいい。どうすれば。

・・・そうだ。今の魔力ならば・・・! 

 

黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)!」

 

宝物庫から飛行宝具を取り出す。

黄金の空飛ぶ船は、ところどころに緑色の光を走らせながら、その翼を広げた。

 

「・・・ま、わらわにも責任があるし、偽物に痛打を与えられたから今回だけは手伝ったげる」

 

ふわり、と空中に浮いた卑弥呼が、鏡から光線を発射して緑の軍勢を薙ぎ払う。

俺は黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)に乗り込み、卑弥呼に声を掛けた。

 

「助かる。今度なんか奢らせてくれ。・・・あ、後、その英霊達、邪馬台国の子孫達だから」

 

え? ちょ、うそ、マジで!? と焼き払った荒野と俺を交互に見る卑弥呼を知らない振りして、俺は出発した。

心の中でライダー達に謝罪し、黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)に魔力を流し続ける。

 

・・・

 

桃色の花びら舞う空間で、四人が斬り合っていた。

中心に立つ巨体・・・バーサーカーが、セイバーとセイバーに呼ばれた二人の英霊に囲まれていた。

 

「ふっ、はぁっ!」

 

双剣で薙刀と切り結び、瞬時に後退する。

バーサーカーの横から隙をついて偃月刀が迫る。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

薙刀から手を離し、関羽の上から平手打ちを食らわせようとするバーサーカー。

 

「させるか!」

 

蛇矛が突き出され、バーサーカーの平手を止める。

その一瞬で、関羽は標的の胴体に偃月刀の一撃を食らわせる。

 

「お・・・おおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

三人の連携によって、バーサーカーは消耗させられ、致命傷ではないものの、体中に傷を負っていた。

それでも、ただ狂気によってバーサーカーは突き進む。

 

「くそ、まだ倒れないのか・・・!」

 

セイバーは焦っていた。消耗するのはバーサーカーだけではない。

固有結界という大魔術を維持するこちらも魔力が減り、もう数分と維持することは出来ないだろう。

何か決定打があればいいが、狂化した英霊を相手に致命傷を与えるには火力不足のようだ。

 

「兄者、外の様子も気になる。・・・一度結界を解いて、外の状況も見てからバーサーカーとは当たるべきだと私は思う」

 

バーサーカーから離れて考え事をしていた劉備に、関羽がそう話しかける。

 

「悔しいがその通りだぜ。俺達三人の攻撃に耐えきるとはな。・・・こんな武人は呂布以来だ」

 

二人の元へ張飛もやってきて、溜め息を吐きつつそういった。

 

「・・・仕方がない、か。すまん、二人とも」

 

そう言って、結界を解く。

桃園と関羽、張飛が消え、荒野に戻る。

 

「・・・此処は・・・?」

 

まわりを見渡すが、共に戦っていたはずの英霊達が見えない。

よく注意してみると、戦い始めた荒野とも違うみたいだ。

 

「何が起きた・・・? あれは・・・!」

 

遠くに見えるのは魏の旗と呉の旗。まさか、蜀から此処まで、飛んでしまったというのか!? 

魔力を感知してみると、遠くでいくつかの魔力を感じ取れた。本当に飛んできたようだ。

 

「く、バーサーカーをあちらに突入させるわけにはいかないか!」

 

今から再び固有結界を展開している暇はない。

自身の能力と、両手に握る双剣のみでバーサーカーをとどめるしかない。

 

「・・・誰かが来てくれると良いがな」

 

高望みしすぎか、と心の中でため息をつく。成都から離れているとはいえあの荒野も蜀なのだ。

蜀からこの国境付近はどんなに早くてもすぐにこれるか怪しい距離なのだ。

バーサーカーがこちらに薙刀を振り下ろしてくるのを、両手に持った双剣で受け流す。

 

「この立ち位置は・・・ギルの役割の筈なんだけど・・・なっ!」

 

ま、いつもと違うのも悪くはない、と呟きながら、荒野にてバーサーカーと打ち合う。

 

・・・

 

黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)で飛んでいると、風景が凄い速さで後ろに流れていく。

俺は空飛ぶ船の甲板にて、地上を見てセイバー達を探す。

更に、この世界の人達に目撃されないようにもしなければいけない。

 

「・・・あれかっ!」

 

千里眼ほどではない物の、視力と動体視力は人間よりずば抜けているので遠くにセイバーとバーサーカーが戦っているのが見えた。

・・・と言うか、二人しかいないのにあれだけ地形を変化させられるのは英霊しかいないだろう。

黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)を宝物庫へと片付け、空中を落下する。

絶世の名剣(デュランダル)を宝物庫から抜き取り、上空からバーサーカーを強襲する。

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!」

 

それに気付いたバーサーカーが薙刀でセイバーを弾き飛ばし、上空の俺に向けて蒐集した刀を投げつけてくる。

バーサーカーはその巨体から刀を片手で十本ほどつかめるので、ショットガンのように刀が飛んでくる。

 

「く、う、はあああああああああ!」

 

顔に当たる物だけ弾き、その他は鎧に魔力を通して耐える。

当たり所が良かったのか、突き刺さることはなく鎧は順調に刀を防ぐ。

止めきれないと悟ったのか、バーサーカーは薙刀を横に構え、絶世の名剣(デュランダル)を防ごうとしている。

地面とバーサーカーが迫る。

落下のエネルギーと魔力で威力を上乗せした宝具がバーサーカーの薙刀とぶつかり合う。

 

「は、あああああ!」

 

「おおおおおおおおおおおお!」

 

お互いの宝具がぶつかった瞬間、フラッシュに近い火花が散る。

その瞬間、俺はバーサーカーを蹴って後ろに飛ぶ。

 

「セイバー、遅くなった!」

 

「構わん! 行くぞ、ギル!」

 

エアを回転させ続ける魔力は残っていないので、絶世の名剣(デュランダル)を両手で構えて突撃する。

 

・・・

 

「・・・あれ・・・?」

 

「ん、どうした、朱里」

 

いきなり明後日の方向を見て首を傾げる朱里に、愛紗が聞いた。

朱里は、いえ、なんだかあちらの方で空飛ぶ金色の船が見えた気がして、と愛紗に返す。

 

「空飛ぶ金色の船・・・? ・・・まさか、ギル殿の宝具では・・・」

 

「それは・・・蜀で戦っているはずですよね? ・・・もしかして、敵さんの内誰かがこちらに来た・・・?」

 

朱里と愛紗は、全軍に急ぐように伝えた。

呉まで後数刻の距離へと迫っていたが、英霊に襲われては数分で殲滅させられてしまうからだ。

 

「兎に角、ギルさん達が引き留めてくれることを願うしかできませんね」

 

「・・・そうだな。ギル殿は強い。信じて大丈夫だろう」

 

「でも・・・心配」

 

二人の会話を聞いていた恋が、愛紗の言葉にそう呟いた。

 

「恋・・・」

 

「ぎる、すぐに無茶する」

 

愛紗も朱里も、恋の言葉に心当たりがあった。

二人はアーチャーが幾度か倒れて床に伏せているのを目撃している。

 

「・・・月も詠も、みんなぎるがいないとだめ」

 

恋はいつもよりしょんぼりとしたような表情でアーチャーの居るであろう方向を見た。

 

「・・・なら、ギルさんのためにも、蜀呉同盟は成功させないといけないですね」

 

「ん」

 

こっくり、と頷く恋は、心配そうな顔で金色の船が見えたという方向を見ていた。

 

・・・

 

バーサーカーも流石に消耗していたのか、絶世の名剣(デュランダル)によって彼の胴体を袈裟切りすることに成功した。

魔力であり動力源である血が噴き出すのが見える。

 

「良し、手応えありだ! セイバー!」

 

「よくやった!」

 

バーサーカーは痛みからか、薙刀を振り回しながら刀を投げ始めた。

 

「く、これはまた厄介な・・・!」

 

セイバーがそれを弾きながら距離を取り始める。

俺もそれにならい、刀を弾きながら後退しようとした。

・・・その瞬間、英霊の人間離れした聴覚と感覚が、後ろにある林からガサガサという音と、人の気配を感じた。

 

「やっとでれたー! ・・・って、わわわわわっ!?」

 

急いで背後を確認する。

・・・そこにいたのは・・・。

 

「な、なによなによなんなのよー!」

 

孫家の三女、孫尚香が、白虎に跨り熊猫を引き連れて慌てていた。

そりゃそうだ。俺の後ろにいるとはいえ、流れ弾の刀は当たるかも知れないんだから。

 

天の鎖(エルキドゥ)!」

 

孫尚香と白虎、熊猫を一斉に鎖で絡め取り、俺の近くへ引っ張り込む。

 

「うにゃぁぁぁぁああああああ!?」

 

着地は荒くなってしまったが、白虎が何とかしてくれたようだ。良い子だな。後で謝るから今はおとなしくしていてくれよ・・・! 

絶世の名剣(デュランダル)を握り直し、目の前で暴れるバーサーカーから目を離さずに後ろの少女に話しかける。

 

「なぁ、後で説明はするから、今だけは俺の後ろで伏せててくれ」

 

「う、うぅ・・・。分かった。でも! 絶対後で説明して貰うんだから!」

 

「分かってるって。ほら、伏せて伏せて」

 

セイバーが双剣を操りバーサーカーの気を引いてくれているので、こちらに飛んでくる刀は少ない。

落ち着いて対処しながら、後ろの一人と二匹に当たらないように防御の面積を増やす。

袈裟切りにしたところから魔力が抜けていって居るので、セイバーの攻撃が当たるようになっている。

このまま時間を稼げれば、バーサーカーはダメージを無視しきれずに撤退するだろう。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「ぬ、うおっ!」

 

体当たりを食らい、セイバーが吹き飛ばされる。

空中で体勢を整えられずに地面を転がるセイバー。

バーサーカーは一瞥もせずに誰もいない方面へと跳んで去っていった。

・・・ふぅ、あっちには魏の軍も呉の軍も居ない。

 

「な、なんだったのよ、今のぉ・・・」

 

「がる」

 

ああ、そうだ。・・・忘れてた。

後ろで恨めしそうに涙目で俺を見上げる孫尚香とそんな主人を励ますように一吠えする白虎。まったりしている熊猫が居た。

 

「せつめー、してくれるんでしょうね!」

 

・・・

 

「あの空中に浮く剣とか槍とかは何!? まさか妖術師なのっ!?」

 

こっちに詰め寄る孫尚香は俺の背後を確認したり周りをキョロキョロしたりと忙しそうだ。

そんな彼女を落ち着かせるために、俺は口を開いた。

 

「・・・取り敢えず、自己紹介しようか。俺の名前はギルガメッシュ。宜しく」

 

「あ・・・う、うん。シャオの名前は、孫尚香! 命の恩人だから、真名も預けるわ。小蓮っていうの」

 

「ありがとう、小蓮。俺の真名はそのままギルガメッシュだ。呼びづらかったらギルで良い」

 

「え!? 最初から真名を・・・!?」

 

「ま、あんまり気にしないで良いよ」

 

「そう? ・・・じゃあ、気にしないけど・・・。あ、助けてくれたことにはお礼を言うわ。・・・でもね」

 

孫尚香は頬を膨らませ、まさにぷんすかという疑問がつきそうな表情になり

 

「鎖で引っ張ったのはビックリしたんだからね! もーっ。服にも土ついちゃったし・・・」

 

「あー。・・・それについては済まないな。焦っていてどうにもならんかった」

 

「・・・ふーん。で? さっきの剣とかの説明は?」

 

「分かった分かった。君は呉の人だよな? ・・・送っていくから、その道中で良いかな」

 

小蓮は仕方ないなー、と言いつつも許可してくれたので、空気を読んで・・・と言うか、巻き込まれないように離れていたセイバーを呼び寄せる。

それから、今呉が布陣している場所へと向かう。

 

「私の名前はセイバーだ。宜しく頼む」

 

「正刃? 宜しくね。シャオは孫尚香っていうの!」

 

やはり、クラス名は聞き間違えられる運命にあるんだろうか。

 

・・・

 

「聖杯戦争・・・? そんなことが、起きてるって言うの?」

 

「残念ながら事実だ。そのための使いが、俺達サーヴァントなんだ」

 

セイバーと二人で小蓮に説明をする。

宝具を使用しているところをがっつりと見られているので、下手に誤魔化すよりはきちんと説明した方が小蓮も納得すると思ってのことだ。

もちろん、内緒にして貰うことは約束して貰っている。よい子なので、ちゃんと内緒にしてくれるだろう。

 

「・・・そう言えばセイバー」

 

小蓮が俺の説明を理解しようとうんうん唸っているとき、セイバーに話しかけた。

セイバーはなんだ、ギル。といつものように答える。

 

「ライダー達は無事かな。魔力は感じ取れなくなったんだけど・・・」

 

「・・・おそらく大丈夫だろう。もしもの時は令呪を遣って撤退するように言ってあるしな」

 

ま、私は銀に無事だと念話を送っておいたがな。と続けた。

 

・・・

 

アーチャーが黄金の船に乗って文字通りセイバーの元へ飛んでいった後。

ライダーとアサシンは卑弥呼の圧倒的な力を目の当たりにしていた。

 

「ああもう! なんで自分の子孫達と戦わなきゃならないのよ!」

 

文句を言いつつも鏡に収束した魔力の光線は緑の軍勢の数を減らしていく。

すでにキャスターはライダーとアサシンが重傷を負わせた物の、宝具らしき物で逃げられてしまっていた。

 

「ちっ・・・潮時か。ランサー! 退くぞ!」

 

「・・・はっ」

 

悔しそうに歯がみしながら、ランサーは振り返り、マスターと共に走り去っていく。

 

「・・・ふん。ようやく去っていったわね」

 

卑弥呼は地面に降り立ち、鏡を腰に下げる。

その後、ライダーとアサシンを一瞥する。

 

「早く帰りなさい。金ぴかには伝えとくわ」

 

「・・・おい姉ちゃん、何で俺たちを助けた?」

 

卑弥呼の言葉に、ライダーが静かに問いかける。

そうねぇ、と考えるそぶりを見せた後、卑弥呼は口を開く。

 

「金ぴかの事、気に入ってるからかしらね。大抵の奴は私の力に小細工を弄してきたけど・・・真っ正面からぶつかってきたのはアレが初めてだし」

 

「ふぅん・・・なるほどねぇ。応援してるぜ。それじゃ、俺たちも引くか!」

 

アサシンとライダーは成都へ向かって走り出す。

二人とも敏捷は高いので、あっという間に見えなくなる。

 

「さぁって。金ぴかの所にでも行こうかしら」

 

・・・

 

「・・・ちっ、あれだけの戦力を集めてくるとは・・・予想外だった」

 

「はっ。・・・面目次第もありません」

 

「しばらく成都には帰れんな。魔力を回復させるためにもここは潜伏するぞ」

 

まずは隠れ家へ向かう。と言って歩みを進めるマスターに、ランサーはきびきびとついていく。

 

「・・・しかし、第二魔法、か・・・」

 

「あの力をご存じなのですか?」

 

「ああ。・・・よく知っている。まさか、こんなところで出会うとは思わなかったがな」

 

ランサーのマスターは、後ろを歩くランサーを振り返ってじっと見る。

 

「・・・? いかがなさったのでしょうか」

 

「こんなところで出会うとは思わなかったのは、お前も一緒だなと思ってな」

 

「どういう事でしょうか?」

 

ランサーがマスターの背中に向けて質問をぶつける。

前を向いているマスターは、さも重要では無いことのように

 

「この異世界で・・・『俺と同じ日本人』に出会うとは、想像もしてなかっただけだ」

 

ランサーにとって衝撃の事実を、さらりと口に出した。

 

・・・

 

「・・・キャスター。負けたんだね」

 

「すまないね。ホムンクルスも全体の九割がやられてしまった。様々なタイプを用意したんだが・・・流石は三騎士の一人と言ったところかな」

 

やれやれ、しばらく動きたくないね、と言いつつソファに座り、対面に座るマスターに向けて戦いの内容を話す。

 

「アーチャーは一人でランサーと私を相手できるほどに成長してる。・・・彼の真名さえ分かれば、弱点は分かりそうだけど・・・」

 

「弓兵、かぁ・・・」

 

何処か遠くを見るような目をするマスターに、キャスターが不思議そうに声を掛ける。

 

「どうしたんだい? ・・・ああ、そう言えば以前アーチャーと接触してたんだっけ」

 

「・・・ぇ? ・・・あ、そ、そうだね」

 

キャスターはそんなマスターに首を傾げつつ、次はどうしようかと指針を決め始める。

マスターはたまに上の空になったが、それでもきちんと話し合いは出来た。

 

・・・

 

「くそっ! 発動したりしなかったり・・・何なのだこの令呪は!」

 

蹴り飛ばした卓が派手な音を立てて壁とぶつかる。

右手には一画だけ光を失った令呪が存在し、そばには霊体化しているバーサーカーが待機している。

 

「やはり、不完全な聖杯を持ってきたからかな。制限や歪みがあるんだと思う」

 

「何とか出来ないのか」

 

「・・・何とか出来てたら、最初からしてるよ。だけど、外史でもない世界から持ってきたこの聖杯は、妖術とも仙術とも違うもので出来てる」

 

だから、それを何とかしないと無理だよ。と相方を宥めるように説明する男。

怒りで荒れていたもう一人の男は、次第に落ち着いていった。

 

「で、次はどうする」

 

「そうだね・・・。アーチャー達がサーヴァント四人で組んでるから、ここから先はバーサーカー一人では心許ないね・・・」

 

「ならば、余り・・・キャスターかランサーでも奪うか?」

 

「四人のサーヴァント同盟の中から奪うのも良いかもしれない。・・・でも、どれを奪うにしても難しいよ」

 

「外史を全て破壊するという目的がすでに難しい物なのだ。それを成すためならば、少しの危険ぐらい・・・」

 

男は静かに決意を伝える。相方の男は苦笑しながら、やるだけやってみるかな、と同意を示す。

 

「・・・そうだな、では、どのサーヴァントを奪うか、だが・・・」

 

「いずれにしても、急がないと。蜀呉同盟が成功した後は、赤壁の戦い・・・私たちが最大に干渉できる最後の機会が来る」

 

「そうだな。一番与しやすそうなのは・・・」

 

・・・




主人公。朝はコーンフレーク派。ランサーのマスター。朝はパン派。ランサー。朝はご飯派。

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