真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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はわわ、ご主人様、敵が来ちゃいました!

それでは、どうぞ。


第十四話 呉と蜀と同盟と

小蓮の案内もあり、すぐに朱里達の元へ案内して貰うことが出来た。

 

「・・・お、朱里」

 

「はい? ・・・ぎ、ぎぎギルさんっ!? 何で此処に・・・!」

 

「いや、しゃおれ・・・孫尚香を拾ったから、届けに」

 

「孫尚香・・・えと、そちらの方が、ですか?」

 

俺の隣に並び、腰に抱きつくようにしている小蓮を見て、朱里が胡散臭そうに聞いてくる。

いや、うん、まさかここまで懐かれるとは思ってなかったんだ。

 

「そうだよ。孫策か孫権に会いたいな。何処にいる?」

 

「えと、あちらの天幕で先ほどまでお話してました。まだそこにいらっしゃるかと」

 

「ありがと。セイバー、確率は低いけどバーサーカーが来たときのために此処で警戒しててくれないか?」

 

「了解した。・・・早めに片付けろよ。長引くと・・・月殿が泣く時間が長くなるぞ?」

 

「う・・・善処する」

 

ほら、小蓮行くぞ、と声を掛け、二人三脚のように天幕を目指す。

 

・・・

 

「・・・はわわ、また新しい女の子と仲良くなってるです・・・」

 

アーチャーが去っていった後、朱里がそう呟く。

朱里はその後に、帰ったら政務を増やさないと。そうしないと呉の人まで参戦してきそうですし。と一人ぶつぶつと呟く。

セイバーは生前三顧の礼をしてから共に乱世を駆け抜けてきた軍師の懐かしい顔を思い出していた。

・・・諸葛亮よ。私は乱世を駆け抜け、英霊とまでなったが・・・未だ世界には分からないものがあるのだな。

 

「朱里! ギル殿が此処に来たという報告を受けたが、真か!?」

 

セイバーがとりとめもなくそんなことを考えていると、朱里の元へ、愛紗と恋がやってきた。

 

「はい。先ほど、孫尚香さんを拾ったと言って孫策さんに会いに行きました」

 

「孫尚香・・・弓腰姫の異名を持つ孫家の三女だったな・・・。全く、ギル殿は次から次へと・・・」

 

「・・・ぎる、人気者」

 

「ふぅ、ギル殿には困った物だ。蜀へ戻ったらお話しなければならんな」

 

「あ、あははー。愛紗さん、お手柔らかにしてあげてくださいね? ・・・私たちも、言いたいことはたっぷりあるんですから」

 

最後に一瞬だけ黒い笑みを浮かべた朱里は、すぐにいつも通りの外見相応の笑顔へと戻っていた。

 

「・・・恋も、ぎるとお話、したい」

 

「大丈夫だ、恋。蜀の国境まで戻り、桃香さまの軍と合流すれば、移動の時間はほとんど話せるぞ」

 

「・・・楽しみ」

 

再びセイバーは過去の義兄弟や蜀を裏切った将の顔を思い浮かべる。

・・・ああ、関羽よ。聞くところによると商業の神となったらしいが・・・嫉妬の神にもなるんじゃないかな。

呂布と共に蜀の主力だったが、英霊をも超越するとは・・・。

将や軍師達がギル殿はあーだ、ギルさんはこーだと言い合っているのを右から左へ受け流しつつ、セイバーは遠い過去へ郷愁を感じていた。

 

・・・

 

天幕の前で、小蓮に待っててと言われた。

別に急いで会う用でもないので、分かったと返し、小蓮が天幕の中へ消えていくのを見届けた。

中から驚いた声が聞こえたり、怒っている声が聞こえたりしたが、余り聞き耳を立てるのも無礼だと思い、天幕から少し離れる。

魏の大軍が迫っていると言うこともあってか、兵士達は忙しそうだ。

 

「ギールっ。入って良いよー」

 

しばらく兵士達を眺めていると、天幕から顔と右手だけ出した小蓮が俺を呼んだ。

笑顔で俺を手招きする姿を見て、あの時守ってあげられて良かったと改めて思うのだった。

 

「ああ。今行くよ」

 

俺も笑顔を返して、天幕へと歩き出す。じゃり、と靴が鳴るのを聞きながら、孫策と孫権が怖い人じゃありませんようにと内心で祈った。

 

・・・

 

「この人が、シャオを助けてくれたのっ!」

 

此処まで来る道中でとても懐いた小蓮が姉二人に俺を紹介した。

 

「初めまして・・・だよな。ギルガメッシュという」

 

「初めましてよ。私は孫策。山賊に囲まれたシャオを助けてくれたんだってね。ありがと」

 

え、そう言う設定になったのか。

事前に話してくれよという無言の抗議を視線に乗せて小蓮を見る。

小蓮はえへへ、と笑ってからぺろっ、と舌を出した。たぶん「ごめんねー」とでも思っているのだろうか。

そんなことをしていると、孫策の隣に居た頭に飾りを付けた少女が話し始める。

 

「私からも礼を言う。・・・あ、私は孫権。宜しくな、えーと、ぎ、ぎるがめしゅー?」

 

「・・・言いづらいなら、ギルで良い。みんなもそう呼ぶからな」

 

「そ、そうか。済まないな。改めて宜しく。ギル」

 

その後、孫策と孫権に小蓮を助けたときの状況なんかを聞かれて、山賊と戦った事を想像力を働かせて話した。

あなた強いのね、ウチに来ない? と誘われたが、蜀に属しているからそれは無理だと断った。

 

「そう。残念ね。まぁ、同盟の相手に強い人がいると安心だし、いっか」

 

間違っても魏には行かないでよね。と人なつっこい笑みを浮かべながら孫策が言った。

今のところその予定はないよと返しつつ、無駄にひっついてくる小蓮をこねくり回す。

 

「さて、それじゃあそろそろ俺は帰るよ」

 

そう言ってきびすを返す。小蓮がえー、帰っちゃうのー? とだだをこねるが、孫権がお姉さんらしくびしっと言ってくれた。

 

「こら、余り我が儘を言うんじゃない。すまないな、ギル。妹が迷惑を掛けた」

 

「別に構わないよ。こうして懐いてくれるのは嬉しいからな。・・・小蓮、蜀の軍と合流したらまた来るから、それまで我慢だ」

 

「うー・・・。分かったわよ。子供みたいに思われたくないし」

 

まぁ、中身も外見も子供だけどな、とは言わなかった。

それじゃあな、と最後にもう一度別れの言葉を残して、天幕を後にした。

 

・・・

 

聞くところによると、これから蜀呉同盟の一つめの共同戦線として黄蓋と言う将を退却させるため、敵の後方を攪乱させる役割になったらしい。

その作戦に俺も参加するらしく、朱里達は未だ出立せずに俺を待っていてくれた。

月が心配で黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)に乗って一人帰りたくなったが、この大人数の前で宝具を晒すわけにも一人蜀に帰るわけにも行かない。

 

「もう、急にこっちに来るから驚いたんですよ?」

 

「あー、うん。確かに急だったな。怒るのも分かるよ」

 

「はわわ・・・べ、別に怒っているわけでは・・・。勝手に心配してただけなので・・・」

 

はわはわと慌てる朱里の頭を帽子ごと撫でる。

心配してくれてありがとう、と撫でながら伝えると、顔を真っ赤にしてしまった。

ああもう、照れる朱里は可愛いなぁ

真っ赤になって照れる朱里を見て和んでいると、後ろから声を掛けられる。

 

「ギル殿」

 

「ハイ、ナンデショウ」

 

思わず背筋が伸び、まっすぐ前を向いたまま後ろからの声に答える。

振り返っても口答えしてもいけない気がしたのだ。

 

「呉の王族の次は朱里ですか。ふふふ、人前で堂々といちゃつけるとは・・・余裕ですねギル殿?」

 

「アハハー、ヤダナァ、ソンナワケナイジャナイデスカアイシャサン」

 

冷や汗だらだらである。何でこんなに愛紗が怒ると怖いんだろうか。

取り敢えずご機嫌を取らねば桃香達と合流する前に消滅する事になり兼ねん。

 

・・・

 

黄蓋のいる江陵へと向かう。桔梗の放っていた細作のおかげで北方五里の所に駐屯している部隊を叩くのが良いと分かった。

更に朱里の案で出来るだけ派手に動いて蜀の参戦を演じるのが良いとも進言された。

いつのまにか決定権を俺に移されていたので、みんなの意見をきちんと自分の中で理解し、方針を打ち出す。

 

「北方五里に駐屯する敵部隊と遭遇した後、愛紗達に一気呵成に攻撃して貰って、撃破の後にすぐ退散。それを基本方針としようか」

 

だてに武官文官両方やらされてきたわけではないのだ。

召喚されてからの日々とギルガメッシュの元々の能力チートのおかげで、おそらくそこらの将よりは有能だという自信がある。

みんながその基本方針に賛成したのを確認してから、出発の準備を進める。

・・・因みに、桃香への伝令は朱里がすでに出していた。国境の近くまで出てきて貰い、すぐに合流できるように伝えてあるという。

流石朱里。諸葛亮の名前は伊達じゃない。

 

「よし、準備ができ次第出発しよう。大国で、しかも天の御使いがいる曹魏だけど、負ける気はしないな」

 

俺もある意味天の御使いなのだ。北郷くん、君が赤壁でやらかすことも全部分かるんだぜ。

未だに話したこともない現代人仲間に若干の哀れみを覚えながら、出立準備が整ったことを知らされる。

 

「よし、出発しようか」

 

「はっ! 全軍、進撃開始! 目指すは北方・・・曹魏の部隊だ!」

 

応! と兵士達の元気な声が聞こえたのを確認すると、カリスマを発動させながら戦闘を進む。

こうすることで士気が上がることは演習の時に確認済みである。呪いのようなカリスマで士気を高められる兵士を見て、申し訳ないとも思ったが。

これも月の・・・ひいては、蜀のためだ。我慢してくれよ。

 

・・・

 

「捉えた! ギルよ! 前方の谷に敵が展開しとるぞ!」

 

桔梗の報告を補足するように焔耶がその後方に砂塵があり、輜重隊であるだろうと教えてくれた。

二つの報告を受け、愛紗は敵部隊突破後に輜重隊を追撃し、殲滅するという方策をとった。

恋が方天画戟を構え、準備が完了したことを知らせてくれると、俺も蛇狩りの鎌(ハルペー)絶世の名剣(デュランダル)を宝物庫から抜き取り、構える。

 

「全軍・・・突撃ぃっ!」

 

馬から降り、前方に展開する部隊に突っ込むと同時にそう叫ぶ

後ろから兵士の雄叫びや愛紗達が応と応える声が聞こえた。

前方で驚いている魏の兵士に向けて絶世の名剣(デュランダル)を振るうと、それを防ごうとした兵士の剣ごと兵士の体が二分割されていく。

真っ正面に居た数人の上半身が地に落ちるのを確認する前に地面を蹴り、更に奥にいる兵士に蛇狩りの鎌(ハルペー)を振るう。

足を刈るように足下に蛇狩りの鎌(ハルペー)を横薙ぎに振るうと、兵士達の足首から下が離れる。

バランスを崩した兵士達は痛みによって踏ん張ることも出来ずに倒れていく。

 

「はあああああああああああ!」

 

愛紗の気合いのかけ声と共に空中に何人かの兵士が吹き飛ぶ。ようやく将達が追いついてきたらしい。

兵士達の雄叫びも近くまで来ているので、すぐに此処も地獄絵図になるだろう。

 

「う、うおおお!」

 

惨状からいち早く立ち直った魏の兵士が剣を振りかぶり、俺を叩ききろうと力強く振り下ろした。

魔力を体に巡らせて、絶世の名剣(デュランダル)の柄を握ったままその兵士へ拳を打ち出す。

 

「へ、ぶっ!」

 

剣をへし折り、そのまま顔面を捉えた拳を振り抜くと、後方にいる兵士を巻き込みながら吹き飛んでいく。

うーむ、やはり英雄王のステータスはチートである。

 

「行くぞ! ギル様の援護をするんだっ!」

 

「おおおお!」

 

俺を取り囲むように展開していた魏の兵士達を、蜀の兵士が切り裂くように突撃してきた。

人混みの向こうで人が吹っ飛んでいるのが見えるので、愛紗達は無事らしい。このまま魏の軍を二つに裂いて、各個撃破していけばいいかな。

 

「敵部隊を二つに裂き、各個撃破していく! 右翼はそのまま敵部隊を押しのけろ! 左翼は俺と共に突撃する!」

 

このまま右翼が敵部隊を押していけば、愛紗と恋のいる場所へと追い込める。

ならば、俺は左翼をそのまま蹴散らせばいいだろう。

 

「左翼部隊! この俺、ギルガメッシュについてこい!」

 

「応!」

 

カリスマで部隊を引っ張り、曹魏の兵士を切り裂いていく。

近くにいる味方兵を助けたり、敵兵を殴って複数人なぎ倒したりしているのでこちらの損害は思ったより酷くはない。

しばらくすると、敵部隊が後ろに退いた。その後、二つに分かれ、一つは後退を始め、もう一つは再び陣形を整え始めた。

こちらも一度後ろに退き、朱里の意見を聞くことに。

朱里は南方を迂回した輜重隊が気になるらしい。

 

「前線に到着する前に撃破しておいた方がよいかと思います」

 

「成る程。ならばその役目はワタシがやってやる」

 

「お前一人では心許ないな。・・・恋、同行してやってくれるか?」

 

その言葉を聞いた恋は、俺の方をちらりと見る。

・・・そっか、今は俺が決定権を持って居るんだっけか。

 

「そうだな。頼んだ、恋」

 

コクリ、と頷く恋に、不満そうな焔耶。ワタシ一人で十分ですのに、とか呟いて桔梗に窘められてる。

 

「で? あっちに展開してる部隊はどうする?」

 

「気勢を見るに気焔万丈・・・。ああいう部隊と正面切ってぶつかるのは得策ではないかと」

 

その後、ほっとけば良いという結論にいたり、愛紗が最後にあいさつをしたいと言い出した。

 

「蜀呉同盟を示すためにも・・・ね」

 

「・・・成る程。それは良い案だ。だけど、気をつけろよ?」

 

「ギル殿には言われたくありませんが。・・・分かりました。それでは」

 

そう言って駆け出していく愛紗を見送ってから、桔梗にもしもの時の為に待機して貰う。

朱里には愛紗が帰還した後すぐに軍を撤退させるための準備を頼んだ。

俺も兵士を動かし、準備を手伝っていたが、爆音と共に土煙が上がったのにはビックリした。

 

「はわわっ。あ、愛紗さん、大丈夫なのかな・・・」

 

心配そうにはわはわする朱里を撫でて落ち着かせつつ、軍の再編成を急いだ。

途中、輜重隊の撃破が成功したという焔耶からの伝令が来た。時間稼ぎは十分に出来たので、稼いだ時間を無駄にしないためにもすぐに動き出した。

 

「全軍前進! 強行軍になるが、耐えて見せよ!」

 

「応!」

 

兵士の心強い返答を聞きながら、蜀で待つ月に思いをはせた。

・・・月にも詠にも、心配かけちゃっただろうなぁ。

 

・・・

 

「あっ、桃香さま達の軍が見えてきましたよー!」

 

桃香達の部隊が駐屯している天幕を見つけた朱里が、声を上げて周りの人間に知らせた。

江陵から蜀までは兵士の隊列を見たりカリスマを使って兵士達を動かしていると、蜀の国境へとたどり着いた。

 

「よし、桃香さまの部隊と合流した後、兵站や装備を調え、すぐに出立するぞ!」

 

愛紗の声が響き、兵士達が応、と答える。

士気は高いようだ、と安心して桃香達の部隊と合流する。

 

「お兄さん! やっぱりそっちに行ってたんだね」

 

報告のためにと桃香の天幕へ入ると、桃香がぷくりと頬を膨らませて駆け寄ってきた。

まずは突然居なくなったことを詫びる。が、桃香の頬は膨らみっぱなしで、その顔は「私怒ってます」と如実に語っていた。

それから桃香は俺が居ない間の政務がいかに大変だったかを俺に訴え、いきなり居なくなるなら居なくなるって言ってよー! と怒った。

桃香の言葉が少しおかしいと思ったが、今反論しても火に油を注ぐだけだなと思いとどまった。

 

「――――っ!」

 

桃香をどうやって落ち着かせようかと考えていると、下腹部に衝撃。

誰かが前から腰に抱きついているようだ。小柄なぬくもりを感じることが出来た。

視線を下に下げると、誰かはすぐに分かった。いつも撫でているふわふわとしたウェーブの髪の毛。

 

「・・・月」

 

俺の言葉を聞くと、月は俺に抱きつき、顔を埋めたまま口を開いた。

 

「・・・ばか」

 

月からそんな言葉を聞いたのは初めてだ。俺はそんな的はずれな驚きをしながら、月の頭を撫でる。

それでも月は顔を上げずに言葉を続ける。

 

「なんでいなくなっちゃうんですか。心配したんですよ。このまま令呪もつながりも消えちゃって、ギルさんが居なくなっちゃうかと思ったんですよっ」

 

この天幕は桃香の物なので、桃香とその侍女をしている月しか居ないらしい。

気を利かせた桃香がそっと出て行くと、天幕には俺と月だけとなった。

たまに月が嗚咽を漏らし、その時にでた涙が俺の服を濡らしていく。

 

「ずっと私、仲間はずれみたいで・・・今回の作戦だってそうです! ・・・桃香さまに聞いたとき、凄く胸が苦しくなったんです・・・!」

 

顔を埋めているため、月がどんな表情をしているか直接的には見えないが、大体想像できてしまった。

以前とは比べものにならないくらい泣いてくれてるんだろう。無茶をして魔力を使い切りかけた俺みたいなやつの為に。

 

「戻ってきてってお願いしても令呪が答えてくれなくて・・・不安で不安で・・・う、えぇっ・・・ひぐ、ぐず・・・」

 

その後はずっと月の嗚咽を聞きながら頭を撫で、時折ぎゅうと俺に抱きつく力を強める月に声を掛けていた。

しばらくすると落ち着いてきたらしく、ごめんなさい、と月が呟くように言った。

 

「ギルさんが頑張って戦ってるのに・・・私、自分のことばっかりで・・・」

 

まだ顔は埋めたままだ。これは月なりに怒っていることを表現しているのかも知れない。

無理に引きはがそうなんて思いは微塵もなく、月が納得するまでどんな言葉でも受け入れるつもりだった。

だから、まさか謝られるなんて思っておらず、驚いてしまった。

 

「勝手な事をしたのは俺だ。月は怒って良いんだよ」

 

「・・・怒るなんて、あり得ないです。ギルさんはいつも私を巻き込まないようにしてくれているんですから」

 

「そっか。・・・ありがとう、月。ごめんな」

 

「ずるいです。そんなこと言われたら、何も言えなくなっちゃうじゃないですか」

 

ギルさん、と月に声を掛けられる。

 

「目を、つぶってください」

 

言われたままに目をつぶる。

すると、するりと月が俺から離れる。

主に涙で濡れた服が空気に触れてひんやりとする。

成る程、泣いて涙に濡れた顔を見られたくなかったのか。女の子はそう言うところ、気にするしな。

ごそごそ、と布がこすれる音がする。きっと涙を拭いているのだろう。

しばらく月が何か動いたりしている音を聞いていると、ことん、と何かを置いた音がした。

 

「目を開けて、良いですよ」

 

先ほどより近くに聞こえた月の声に疑問を感じつつ目を開けると、眼前に広がるのは月の顔。

次の瞬間、俺の唇に柔らかい何かが触れた。

 

「んっ・・・!」

 

俺の首に手を回して飛び込んできた月を抱きしめるように受け止め、しばらく思考停止する。

飛び込んできた月は目を閉じたまま俺に唇を押しつけるようにしていた。

 

「・・・ぷはっ」

 

息を止めていたらしい月が苦しそうに口を離すのと同時に、月を床に下ろす。

月は潤んだ瞳で俺を見上げ、しばらく何かを考えていたが、胸の前で手をぎゅっと組むと、口を開いた。

 

「私・・・ギルさんの事が、好き、なんですっ。・・・そ、その、えと・・・えうぅ・・・!」

 

唐突に告白すると、あたふたとした後に走り去っていってしまった。

取り残された天幕の中で、目の前に椅子があるのを見つける。

 

「・・・ああ、成る程。椅子の上に立ってたのか」

 

そんな見当違いなことを思いつつ、月の唇、柔らかかったなぁと感触を思い出しながら天幕を後にした。

・・・ん? 俺・・・告白された・・・?

 

・・・

 

徹夜明け。不穏な空気を感じてキャスターは目を覚ました。

 

「・・・なんだこれは。マスターの結界に反応・・・?」

 

キャスターのマスターががたがたと工房から様々な物を引っ張り出している。

 

「キャスター!」

 

「マスターか。気付いたみたいだね。侵入・・・いや、侵攻者だ」

 

「うん。魔力の感覚からして・・・」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

マスターが続きを口にしようとした瞬間、外から全ての者を怯えさせるような雄叫びが聞こえる。

 

「・・・バーサーカーだね」

 

「みたいだね。此処がばれてるならとどまって戦うのは不可能だ。・・・逃げるよ」

 

全てを回収し終えたキャスターが窓を開け、飛び降りる。

続いてマスターも飛び降り、キャスターに受け止めて貰う。

次の瞬間、自分たちの拠点としていた一軒の家が崩れていく。それを尻目に、キャスターは口を開く。

 

「取り敢えず、馬を何処かで手に入れよう」

 

強大な魔力が近づいてきているのを感じつつ、夜の街を駆ける

 

「あれ! あの馬貰おう!」

 

「了解した! ・・・剣はあんまり使えないんだけどね!」

 

そう言いつつもキャスターは腰の剣を抜き、馬を繋いでいる縄を切り裂く。

そのまま馬に飛び乗った二人は、真っ先に成都の外へ向けて馬を走らせる。

 

「まずいね・・・。足止めになるかも分からないけど・・・!」

 

剣の柄からさらさらと粉を取り出し、掌の上で固めて石にした後、後方に迫るバーサーカーに投げつける。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

魔力が爆発し、土煙が上がるが、その土煙の中から飛び出して来るバーサーカー。

それを見てから、キャスターはごそごそと目的の物を探し出す。

 

「あんまり効果無いねぇ。・・・えーっと、パワータイプのホムンクルスはっと」

 

「何でそんなに落ち着いてるわけ!? ああもう意味分かんない!」

 

フラスコを取り出して地面に叩き付ける。

巨大なホムンクルスが出現し、バーサーカーに向けて棍棒を振りかぶる。

 

「おおおおおおおおおおおおお!」

 

「がああああああああああああ!」

 

雄叫びを上げてぶつかり合う両者を尻目に、キャスター達は成都を飛び出して荒野を走る。

 

「何処へ行こうか。・・・んー、バーサーカーを倒すまで、アーチャー達の陣営にはいるって言うのもありだね」

 

「・・・成る程。アーチャー達は確か、蜀呉同盟とやらで国境近くまで来てるはず。・・・急ぐよ!」

 

「おうともさ!」

 

・・・

 

「・・・魔力・・・?」

 

方角的には成都の方だな。・・・誰だろうか。

アサシンと響はこっちに来てるし、セイバーと銀もこっちだ。

ライダーと、何を考えてるのか街の警備隊長である多喜もいつのまにかこちらにいた。

ならば、キャスターとランサー・・・あとは、バーサーカー。

 

「どっちにしても、街に被害が出るようなら行くしか・・・いや、でも今の状況じゃ・・・」

 

今の俺は技量的にも魔力的にも黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)はいつでも使えるし。

・・・成都にこちら俺達側のサーヴァントが居ないわけだし、行く理由は十分なんだが・・・。

ふいに、横から声を掛けられる。

 

「・・・ギルさん」

 

「月か」

 

「は、はい。・・・あの、その、魔力を感じたんですけど・・・」

 

「ああ、月も感じたか。成都の方で二人分のサーヴァントの魔力があった」

 

月は俺と目を合わせようとせず、もじもじと手を組み合わせたり組み替えたりしているだけだった。

そうして俯いたまま俺の言葉を聞いていた月は少しだけ上を向き、上目遣い気味に言葉を返してきた。

 

「・・・今の成都にはサーヴァントに対抗できる勢力が居ません。ギルさんには空を飛ぶ船があるんですよね?」

 

「あるよ。・・・行ってきて良いのか?」

 

「はい。今のギルさんがほとんどのサーヴァントに負けないというのはセイバーさんやライダーさんに聞きました」

 

月は一度言葉を止め、だから、と続けた。

 

「安心して、送り出せるんです。離れるのは寂しいですけど、今回はきちんといってらっしゃいって言えますから」

 

「・・・そっか。うん、分かった。行ってくるよ、月」

 

「はいっ。行ってらっしゃい、ギルさん」

 

馬の方向を変え、一人進路を変える。

向こうに見える丘を越えた後に黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)をだすとしよう。

低空飛行すれば目撃されることはないだろう。後は・・・あの金ぴかりんの飛行船が人の目につかないように祈るしかないか。

 

・・・

 

しばらく馬を走らせていると、キャスターが何かに気付く。

 

「・・・まずいね。前から魔力反応!」

 

「嘘でしょっ・・・!?」

 

「取り敢えずは馬を走らせて、出来れば撒こう。最悪でも三つ巴になれば逃げる機会はある」

 

「うぅー・・・賭けだねぇ」

 

そう言っていても馬の速度は落とさないマスター。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

「馬に追いつくなんて、どんな脚力だ・・・!」

 

突如聞こえた雄叫びは、すぐ近くで聞こえた。馬に併走するようにバーサーカーは走っていた。

走るといっても、地面をはねるようにだったが。

そのままバーサーカーは薙刀を振り下ろし、馬を斬りつけた。

英霊とはいえ騎乗スキルの無いキャスターにその斬撃を避けられるほどの操縦は出来ず、馬の首が切り落とされてしまった。

 

「しまっ・・・!」

 

馬の姿勢が崩れ、キャスターは馬ごと倒れ込む。

しかし、身体能力の低いクラスとはいえ、彼も英霊である。すぐに体勢を立て直した。

 

「キャスター!」

 

「ちっ! 四大元素の精霊(エレメンタル)!」

 

襲いかかるバーサーカーに宝具である精霊をけしかけ、何とか距離を取ろうとするキャスター。

キャスターの落馬に気付いたマスターが馬を止めようとするが、止めようとしてすぐに止められる物でもなく、距離が開いてしまった。

マスターは苦労しながらも馬を止め、キャスターの元へ向かおうとする。

 

「させんっ!」

 

「ふえっ!?」

 

しかし、横からきた衝撃によりマスターも落馬してしまう。

地面に体をしたたかに打ち付けるが、奇跡的に腕が少し痛む程度で済んだ。

 

「いつつ・・・。あ、あなたは・・・まさか、バーサーカーの!」

 

構えを取る男の手に令呪があるのを見て、マスターはすぐに立ち上がる。

キャスターが遠くにいる今、自分一人で対処しなければならないらしい。

 

「・・・はは、勝てる気がしないね」

 

「いくぞっ!」

 

彼我の距離を一瞬で詰めてくる男に、マスターは魔術をたたき込む。

マスターの扱う魔術はキャスターの宝具から生み出された石を使っていた。

石には常軌を逸した魔力がつまっており、下手な宝石魔術よりも出力は大きい。

 

「てやっ! いっけぇ!」

 

「ふんっ! せいっ!」

 

マスターの魔術を拳で打ち破りながら、男が迫る。

それを迎撃しようと懐の石を掴み、手を伸ばした瞬間

 

「今だっ! やれ、バーサーカー!」

 

「おおおおおっ!」

 

「えっ・・・」

 

目の前を刃が通り過ぎ、伸ばした腕に衝撃。

 

「あ、うそっ・・・!」

 

腕を切られた。・・・いや、切り落とされた。

それに気付いた瞬間、血が噴き出す。

 

「い、やあああああああああああああっ!?」

 

「よくやった、バーサーカー。キャスターは回収しているな。後は・・・とどめを刺すだけか」

 

肘から下が無くなった腕を押さえるマスターに、男が近づく。

マスターはそれに気づき、涙を浮かべながら、自分に迫る男を見る。

 

「いや・・・やだ、やだよぅ・・・!」

 

「ふん。ま、こんな物か」

 

そう言ってとどめを刺そうと蹴りを繰り出す。

しかし、その蹴りがマスターに届こうとした瞬間、真名開放の声が聞こえ、男の元に宝具の一撃が迫る。

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

「ちっ!」

 

蹴りを中断し後ろに飛び退いた男は、舌打ちをしてからきびすを返した。

先ほどまで男が居たところには、赤い槍が突き刺さっていた。

 

「この宝具・・・アーチャーか。・・・まぁ、こちらの目的は達した。行くぞ、バーサーカー!」

 

「おおおおおおおおおおおおおおお!」

 

肩にキャスターを乗せたバーサーカーは、男を抱えて何処かへ跳んでいった。

 

・・・

 

「大丈夫か!」

 

うずくまる人影に近づく。

少しだけ顔を上げたその顔には涙と苦悶の表情が浮かんでいた。

 

「ひぐ、い、いた、いたい、よぅ・・・」

 

「・・・どうすれば・・・。取り敢えず、止血か」

 

宝物庫から生活用品を取り出す。確か、包帯とか布とか色々あったはず。

えっと、腕の付け根を締め付けるようにして・・・。

 

「う、い・・・っつ・・・!」

 

ぼたぼたと落ちていた血は、すぐに勢いを弱めた。

次だ次。医療用の宝具とかあったかな。・・・あ、真名開放できねえや。

 

「・・・取り敢えず、黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)に連れて行こう。・・・良いか?」

 

「助けて、くれるの・・・?」

 

「当たり前だろ。・・・状況から見るに、キャスターのマスターっぽいけど、あってるか?」

 

「うん。・・・令呪、取られたから、元、だけどね・・・」

 

「今は生き残ることが先決だろ。部隊と合流すれば、医療班が居るから何とかなるか・・・?」

 

黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)を再び起動させ、低空飛行を始める。

確か戦闘機と同じかそれ以上の速度で飛ぶので、すぐに追い付くだろう。

 

「ちょっとだけ、我慢してくれ」

 

「・・・うん」

 

声を出すのも辛そうなので、気を遣いつつ操縦席の隣に急遽設置した椅子に座らせて固定する。

これなら空戦でもしない限り落っこちることはないだろう。

 

「はふ・・・う、つっ・・・!」

 

出血も大人しくなり、それなりに落ち着いてきたからだろうか、キャスターのマスターは少しだけリラックスした表情を浮かべた。

 

「やさし、いね・・・?」

 

「・・・どうだろうな。俺のマスターか・・・あの子の影響かな」

 

キャスターのマスターの汗を拭いてあげたり、腕の位置を直したりしながら、桃香率いる部隊へと追い付くため、黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)に魔力を流した。

 

・・・

 

黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)は俺の期待通りの速度で飛行してくれた。

人目につかなかったのは日が暮れかけていたのもあるのだろう。

空中から部隊を見つけた俺は、少し離れたところで黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)から降り、キャスターのマスターを抱えながら馬に跨った。

この馬は部隊から離れた時に乗っていた馬である。今までは黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)に乗せていたので、少し怯えているようだ。

・・・そりゃそうか。どんな馬でも戦闘機並みに早い物体に乗っていれば怯えもする。

 

「・・・済まないけど、頑張って貰うぞ。・・・はっ!」

 

かけ声と共に、馬の腹を蹴る。嘶きをあげて、走り出す馬。

・・・カリスマが効くのは人間だけじゃないのだな、と変な感心をしながら、前に乗せた人物の様子を見る。

止血はしたとはいえ、痛むのだろう。肘から先が無くなった腕をもう片方の腕で押さえながら、時折うめきを漏らしている。

 

「もうちょっとだけ我慢してくれ」

 

月にやっているように、頭を撫でて落ち着かせようとする。

コクコクと頷きながらキャスターのマスターは口を開く。

 

「・・・アーチャーは、優しい英雄なんだね」

 

「そんなことないさ。人を助けるのに英雄も英霊も関係ないと思うよ」

 

俺が英雄でも英霊でもないことは言わなかった。

しばらく無言で馬を走らせていると、部隊の最後列が見えてきた。

 

「よし、追い付いた。・・・医療部隊は何処だ!」

 

部隊に声を掛ける。またまたカリスマの効果に助けられ、すぐに医療部隊の人間はこちらに出てきた。

 

「ギル様、いかがなさったので・・・っ! 怪我人ですね。こちらへ」

 

馬から降り、医療部隊の人間にマスターを手渡す。

伝令を走らせ、桃香に怪我人を一人拾ったことを伝えると、キリが良いので今日はここで一旦休むと言うことだった。

了解した旨を桃香に伝えて貰い、俺は医療部隊へと足を運んだ。

 

・・・

 

「・・・うん、令呪を腕ごと回収できたみたいだね」

 

「さっさと移植しろ」

 

「私に移植するけど良いんだね?」

 

相方の男が確認すると、男はああ、と頷いた。

 

「俺はすでにバーサーカーを持っている。これ以上は養えん」

 

「そう。取り敢えず、令呪で逆らわないように言っておかないとね」

 

そう言うと、相方の男は切り取られた腕から令呪を移植するために魔法陣を描き、呪文を唱える。

しばらくすると、令呪は完全に相方の男へと移っていた。

 

「成功だ。・・・さて、まず一つめ」

 

いまだに気絶しているキャスターに向けて、令呪によって命令を下した。

 

「主の鞍替えを了承せよ」

 

しかし、令呪は反応しない。

相方の男は言葉を換えたりと試行錯誤し

 

「私たちを裏切るな」

 

その言葉を口にした瞬間、令呪の一画が光を放ち、色を無くした。

 

「・・・成功だね。取り敢えず、私はこの令呪を少し研究してみるよ。自分について居るんだったら、解析もしやすいだろうし」

 

「ああ。どんな命令が出来て、どんな命令が出来ないのか。・・・それを、さっさと知る必要があるからな」

 

「一応、キャスターはバーサーカーに見張らせておいてくれるかな」

 

「分かっている」

 

・・・

 

「・・・じゃあ、キャスターは」

 

「うん。・・・多分、敵になった」

 

翌日、何とか血も止まり、顔色は悪いものの自分で立って歩けるくらいに回復したキャスターのマスターは、さらに自分に回復魔術を掛けつつ答えた。

流石に一人で馬には乗れないので、俺の前に乗せている。相乗りという奴だ。

 

「取り敢えず、助けてくれたことには本当に感謝してる。出来る限りの協力はするよ」

 

そういったあと、キャスターのマスターはそうそう、自己紹介を忘れてた、と言って名前を教えてくれた。

 

「ボクの名前は程則。真名は孔雀。これから宜しくね」

 

「ああ。宜しくな、孔雀。俺のことはギルでいい」

 

「うんっ」

 

それから、隣を進む月や詠とも孔雀は自己紹介をしていた。

休憩の度に孔雀と月達から魔力を感知したので、何事かと聞くと月や響に魔力の使い方を教えて居るんだとか。

孔雀曰く、これをやっておくのとやっておかないのとでは生き延びれる確率が違う。らしい。

魔力の総量としては銀が一番大きいらしく、次に月、孔雀、響、多喜と続くらしい。

 

「月はまぁ・・・こんな反則に近い英霊を使役してるんだから総量があるのは分かるけど、銀は意外だったなぁ」

 

マスター達は全員魔術の心得なんて無いので、孔雀から魔術について教えられる度に驚いていた。

月が心配だから、とついてきた詠なんか、さっきから驚きっぱなしである。あ、眼鏡ずれた。

そんな中俺はと言うと、月達が魔術の勉強会をしている間は暇なので、セイバー達サーヴァントと交代でマスター達を守りつつ、他のサーヴァントは自分の業務へと当たっている。

セイバーは兵士として。ライダーは敏捷を生かして伝令役を。アサシンは敵の斥候を排除したり、自ら斥候をこなしたりしている。

そんな中、俺の役割と言えば・・・。

 

「ギル殿、もっとしゃきっとしてください」

 

「・・・っつってもなぁ」

 

あふれ出るカリスマと英霊の力を使って一つの部隊を率い、工作や兵站を援護していた。

しかも愛紗達と同列の将として扱われているので、他の部隊の兵士達にもこうして威厳を見せつけつつ行動しなければならなくなったのだ。

・・・どうしてこうなった。

 

「ため息をつかないっ」

 

「りょ、了解っ」

 

何故か俺の近くから離れない愛紗に監視されつつ、朱里や雛里と言った軍師達と相談しつつ、呉との合流点、夏口を目指していった。

 

「全く、ギル殿は少し目を離すとこれですから・・・」

 

「その通りですっ。ギルさんにはもう少し見張りをつけて・・・」

 

「あわわ、いっそ今の部隊をギルさんの部隊として正式に任せてはどうでしょうか」

 

「成る程、ギルさんに部下を着けることによって行動を制限するんだね、雛里ちゃんっ」

 

・・・

 

「・・・やはり、キャスターは・・・」

 

「はっ。キャスターのマスターは腕ごと令呪を奪われ、キャスターも強奪されました」

 

斥候としてランサーの複製を送り込んだランサーのマスターは、報告を聞きながら苦々しい表情を浮かべた。

これで、誰とも組んでいないのは自分の陣営だけである、と決定したからだ。

いくら宝具によってランサーが増えるとは言っても、アーチャーの宝具には勝てないし、バーサーカーの破壊力には敵わない。

さて、どうしようかと思案していると、小さいが、魔力の反応があった。

 

「魔力・・・! 戦いか・・・!?」

 

「ですが、サーヴァントの魔力は感じられません・・・」

 

マスターもランサーも不思議に思っていると、時間をおいて数度、小さい魔力反応があった。

 

「・・・誘い出されているのか・・・?」

 

「いえ、それは考えにくいかと。向こうは大軍団で行動している蜀の部隊です。それを巻き込んでまで戦おうとはしないはず・・・」

 

「ちっ。慎重すぎて悪いことはない、が・・・魔力に余裕も出来た。我々も行くぞ、ランサー」

 

「はっ! ・・・全軍へ告げるっ! 我々はこれより夏口へ進撃する!」

 

森にとけ込んでいた数千人の緑の軍勢が応と声を上げ、夏口へ向けて進軍を開始した。

 

・・・

 

「成る程。私はこちら側につかざるを得ないわけだ」

 

二人の男から説明を受けたキャスターが、目の前の男に向けて口を開く。

男はその通りだとうなずき、すでに令呪によって裏切れないようにしている。と続けた。

 

「こちらにはバーサーカーも居る。もし何かしようとすれば・・・一瞬で聖杯へ送り込んでやる」

 

「・・・分かったよ。おとなしくしてるさ」

 

「懸命な判断だね。さて、取り敢えずは夏口・・・いや、赤壁での戦いを少し、かき回そうかな」

 

その言葉に、キャスターは首を傾げる。

いくらバーサーカーとキャスターが居るからと言って、英霊が四人もいる場所へ特攻を駆けるのは得策ではないと思ったからだ。

 

「ふふ。まぁ、こちらにも手駒はあると言うことだよ、キャスター」

 

「・・・? ・・・まぁ、取り敢えず策はあると言うことだね。それじゃ私は工房でも作成してくる。いろいろと入り用だろうし」

 

「そうしてくれると助かるよ。きちんと手伝ってくれるなら、聖杯を起動させたときには願いを叶えさせてあげよう」

 

相方の男のそんな言葉に微笑を返しながら、キャスターは自分にあてがわれた部屋へと向かった。

 

「さて、移動の時間も含めて、そろそろ動かさねば間に合わんぞ」

 

「そうだね。取り敢えず部隊は動かしておこう。四人ぐらいなら、後で転移させられるから」

 

「ああ。そうしておけ」

 

・・・

 

蜀呉同盟を結んだ俺達は、その足で曹魏の軍勢の後ろを急襲。敵補給路の攪乱を計った。

作戦は見事的中し、後方でゲリラ活動をされた曹魏の進軍速度は目に見えて落ちていく。

腹が減っては戦は出来ぬ、ということだな。

さらに、その後を引き継ぐように呉の部隊が活躍し、曹魏の補給路を次々に遮断していった。

・・・しかし、流石は曹魏。補給が覚束ない軍勢の筈なのに、対曹魏戦で防波堤の役割をしていた江陵を、見事に突破されてしまった。

まぁ、元々作戦としては江陵の城を捨てる判断を下していたのだが、こちらの予想以上に落城が早い。

幸いにも、曹魏は江陵を制圧した後に態勢を整えるためかそのまま進軍を停止していた。

それから半月ほど。曹魏の籠もっている江陵の城の動きが慌しくなったとの報告が入る。

報告を聞くと同時に、桃香は蜀軍に出陣を告げた。

曹魏と蜀呉同盟の戦いの火蓋が、切って落とされる。

 

「成る程・・・夏口は長江の流れに沿って発展してるから、広く、交通の便も良い。此処を指定してくるとは、流石は周瑜と言うことか」

 

天幕の中で、俺は地図を見ながらそう呟く。

そばには月と詠、響と言ったメイド組が居て、おそらくこの天幕の周りをアサシンが徘徊していることだろう。

俺のつぶやきを聞き取った詠がはぁ、とため息をついて

 

「あのねぇ、ギル。このくらいのこと、軍師なら思いついて当然よ?」

 

「へぇ。やっぱり、詠もこのくらいのことはささっと思いついたりするんだ」

 

「と、とーぜんじゃない。ボクにだってこのくらいすぐに思いつくわ」

 

腕を組み、顔を真っ赤にしつつそっぽを向く詠の頭を撫でつつ、天幕の外の様子を見る。

そこには桃香や朱里と言った蜀の面々が立っていて、呉の人間を待っていた。

しばらく桃香達が雑談していると、派手な衣装に身を包んだ女性二人がやってきた。

桃香が元気よくあいさつしているし、あれが呉の孫策、周瑜で間違いないだろう。

孫策は俺自身挨拶してるからな。間違えはしない。

因みに、何故俺が天幕で待機しているのかというと、この天幕には孔雀の掛けた魔術結界が付与されているからだ。

結界の効果は、内部で発生した魔術、魔力の反応を隠蔽すること。孔雀は成都にいたときもこれを家の周りに張っていたらしい。

そこで、俺は宝物庫の中に入っていた名も無き宝具である杖を手に取り、周りにサーヴァントが居ないかを探査していた。

 

「・・・孔雀、そっちはどうだ?」

 

地図の上に魔力の籠もった石をのせていた孔雀は、大丈夫、近くにマスターは居ないみたいだ、と返してきた。

俺がサーヴァントの接近を監視し、孔雀がマスターの接近を監視する。

そのため、今回の軍議は欠席させて貰った。

 

「・・・お、ハサンがまた間諜を処理したって」

 

響が念話で送られてくるハサンの戦果を報告してくる。

アサシンが死体を片付けに言っている間に、再び天幕から外をのぞき込む。

呉の忍者っぽい女の子がなにやら報告した後、孫策が何かを指示すると、もう一人の忍者っぽい少女が天幕の後ろへと消えていく。

 

「間諜でも処理してるんじゃない? アサシンもあのあたりは範疇外だから」

 

孔雀が地図を見たままこちらを見ずにいった。

ああ、成る程。と納得したと同時に、あれ、心読まれてる? と孔雀に視線を送る。

 

「・・・ふふ、読んでる訳じゃないよ。不思議そうに向こうの天幕を見てたからね。予測はたてられるよ」

 

再びこちらを見ずにそう返してきた孔雀。俺は背中に嫌な汗をかきながら孔雀から視線を外す。

・・・これ以上突っ込むのはやめておこうか。孔雀は魔術でいろいろ知ることが出来るんだろう。素人には踏み込めない領域である。

 

・・・

 

「お兄さん、良いかな?」

 

天幕の入り口から、桃香の声が聞こえてくる。

 

「どうぞ」

 

俺が桃香へそう返すと、入り口の布を手で除けながら中に入ってくる桃香。

愛紗や鈴々、朱里や雛里が後ろに続いている。

 

「話は終わったみたいだな。で、俺は何処に配属された?」

 

「はわわ・・・ギルさんは、混乱し、壊走する部隊ですら一瞬でまとめ上げてしまうほど部隊の統率力が強いので、今回は先頭に立って貰いたいのです」

 

その後雛里から補足として聞いた話では、策を発動させるために敵前で整然と後退し、魏の動きを止める必要があるのだとか。

整然と退却することで魏に何かしらの策があると警戒させ、その警戒につけ込むらしい。

 

「了解した。アサシン」

 

ぬっ、と隣に現れるアサシンに、桃香達はビクリと肩を振るわせる。

 

「・・・うぅん、呉の甘寧さん達も凄かったけど、アサシンさんはもっと凄いんだよねぇ」

 

「・・・ええ、全くその通りですね」

 

桃香達がなにやらこちらをみて引いているようだが、取り敢えずアサシンに月達マスターの防衛をお願いする。

 

「さて、それじゃ行くかな。・・・いってくるよ、月、詠」

 

そう言って、両隣にいた二人の頭を撫でる。

もうほとんどクセとなってしまった行動だが、月は満足そうな、詠はそっぽを向いて恥ずかしそうな表情を浮かべている。

 

「はい。御武運をお祈りします。無事に帰ってきてくださいね」

 

「ああ」

 

「ふんっ。あんただったら傷一つ負わないで帰ってきそうだけど・・・頑張りなさいよね」

 

「ありがとう」

 

杖を響に渡し、これでサーヴァントの接近を監視しててくれ、と頼む。

 

「了解だよっ。その代わり、きちんとやってこないと駄目なんだからねっ。無事で帰ってくるんだよ?」

 

いつも通り明るい笑顔で送り出してくれる響に俺も笑顔を返す。

 

「はいはい」

 

その後、地図と睨めっこしている孔雀の元へ。孔雀も流石に地図から目を離し、にこりと朗らかに笑う。

 

「ま、頑張ってきなよ。もしあれならば、英霊として格の違いでも見せてくると良い」

 

ほら、その方が魔術師としては鼻が高いし? と孔雀は続けた。

腕が痛んだときはすぐに医療部隊の人間を呼ぶんだぞ、と言うと、ボクだって子供じゃないんだから、と拗ねられた。

 

「はは、ま、それだけ元気なら大丈夫か」

 

ぽんぽんとあやすように孔雀の頭を優しく叩き、すでに天幕から出ている桃香達に追い付く。

 

「そう言えばお兄さんっていっつも月ちゃん達のこと撫でてるよね~」

 

「ん? ・・・あー、撫でやすい位置に頭があるし、ああすると月達安心してくれるから」

 

「ふぅん・・・。ね、私もなでなでしてよっ」

 

「えー? 桃香は微妙な位置に頭があるからなぁ」

 

俺がそう言うと、桃香は頬を膨らませて微妙ってなに~!? と怒り始めた。

そんな桃香の頭をを宥めるように撫でてご機嫌を取っていると、蒲公英やら鈴々やらから自分も頭を撫でて欲しいと言ってきたので、しばらく撫でていた。

鈴々達の輪の外でで愛紗もして欲しそうにしていたので、去り際に撫でておいた。

怒られるかな、と少し警戒していたが、愛紗は頭を抑えてぼうっとするだけだった。

その後、兵士に声を掛けられて正気に戻る愛紗を見るのはとても癒された。

 

・・・




冷静なボクっ娘が孔雀、すぐに焦りを見せるボクっ娘が詠と覚えていただければ分かりやすいかと。

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