真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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自分の旗になんて文字を入れようか迷う主人公君。貯にしようとして全力で副長に反対される主人公君。

それでは、どうぞ。


第十五話 火計と演技と告白と

部隊はすでに外に整列している。

後は俺が準備するだけだが、さてどうしようか。

 

絶世の名剣(デュランダル)にするべきか・・・蛇狩りの鎌(ハルペー)も捨てがたいんだよなぁ・・・」

 

俺は、宝物庫の中から持っていく武器を思案している。外で兵士達も待ってるし、早くしないといけないんだけど・・・。

あ、乖離剣・・・でも、回転する剣って不思議がられるよなぁ・・・。

赤い槍(ゲイボルグの原典)もリーチがあって良いんだけど・・・。おお、原罪(メダロック)もある。

 

「・・・全部持って行くか。めんどくさい」

 

鞘を左の腰に付け、絶世の名剣(デュランダル)を収める。片手に蛇狩りの鎌(ハルペー)を持ち、もう片方の手に赤い槍(ゲイボルグの原典)を持つ。

右の腰には一応と言うことで原罪(メダロック)を鞘に入れて収めておく。鞘はもちろん全て遠き理想郷(アヴァロン)ではない普通の鞘だ。

こうして、普通の魔術師が見たら卒倒するくらいの神秘の塊達を装備して、天幕から出る。

陽光が黄金の鎧にあたり、きらきらと派手すぎない豪奢さを主張していた。

うむ、この格好のことをフルアーマー英雄王と名付けよう。

 

「部隊長! 総員整列完了しております!」

 

俺が天幕から出て近づくのを見た副隊長が報告してくれる。

 

「分かった。・・・これより、船に乗り川を下り・・・赤壁へと向かう」

 

兵士達は静かに俺の言葉を聞いていた。直立不動というか、キヲツケの状態から微塵も動かない。

 

「君たちは俺の部隊と言うことだが、今回の戦いの指揮は呉の軍師、周瑜殿に一任されている。まぁ、無茶な命令は無いと思うから安心して欲しい」

 

一切俺を疑うことなく信じきっている瞳が、部隊の人数分向けられる。

 

「ま、難しいことはいわない。死なないように戦って、きちんと俺の指令を聞く事。それだけしてくれればいい」

 

応! と異口同音に返事が返される。返事すらも一糸乱れないとか凄いなカリスマ。

 

「それでは、出撃する!」

 

こうして、俺達は船に乗り込んでいった。

 

・・・

 

船になれていない蜀の面々は手こずっていたものの、呉から派遣されてきた船の操縦士に操縦を教えて貰いながら海にしか見えない川を船で進んでいった。

少し遠くには曹魏の船が見える。こちらよりも数が多く、圧倒されそうな光景である。

 

「船を近くにつけ、乗り込むぞ。撤退の合図を見逃すな」

 

「応!」

 

「君たちを直接指導したことはないが、君たちが頑張って訓練しているのを俺はよく見ていた。・・・信じているぞ」

 

「応ッ!!」

 

先ほどより大きく、はっきりとした声で返事をされたのを聞いて、満足する。

この士気ならば、魏に打撃を与えつつ整然と撤退をすることが出来るだろう。

船が近づき、将や兵士達がお互いの船へと侵攻していく。

 

「行くぞっ!」

 

俺が魏の船に飛び移ると、兵士達も雄叫びを上げながらついてくる。

自軍の兵士達の損害を減らすため、両手に持つ蛇狩りの鎌(ハルペー)赤い槍(ゲイボルグの原典)を魏の兵士へと振るう。

鎌は簡単に兵士を分断し、槍は俺のステータスの筋力値を反映して兵士をなぎ倒していく。

幾つか矢や剣の直撃を受けたが、神秘もなにも付加されていない物がこの金色の鎧を貫くはずもなく。

 

「セイ、ヤァッ」

 

声を上げ、自身と後続の部隊へと気合いを入れつつ両手の獲物を振るっていく。

 

「・・・やっぱりかっ」

 

次の兵士は、と周りへ目を配ると、声が聞こえた。

懐かしい響きのそれは、戦場で様々な音が響く中でも不思議と俺へ届いた。

 

「・・・久しいな、ギル」

 

「霞か」

 

流石に船の上に馬を持ってくるようなことはしていないようだが、飛龍偃月刀を構えた霞は戦闘態勢を取っていた。

自然と、俺と霞の周りは兵士達が居なくなっていく。余計なとばっちりを食らいたくはないからだ。

 

「めきめき力上がってるみたいやんか。ちょっとウチとやりあおうや」

 

「良いぞ。今回は素手でもなく、刃がつぶれた武器でもない・・・本気の戦いだ」

 

「望むところやっ! ギルッ!」

 

一番最初に戦った頃よりも更に磨きのかかった神速の突きが俺に向けて放たれる。

片手の槍を迎撃に向かわせ、軌道を逸らすが、それを予見していたらしい霞は偃月刀を槍に絡めると、そのまま槍を放り投げるように外側に逸らした。

当然俺の体も逸らされた方に引っ張られるので、右側ががら空きとなってしまった。

 

「隙だらけやでっ!」

 

偃月刀を戻す勢いを利用した横薙ぎが胴体へと迫る。

だが、こちらも英霊である。一瞬で判断を下して偃月刀の刃のないところまで踏み込み、偃月刀の刃ではなく柄を体に受ける。

ぎぃん、と痺れるような音が鎧と偃月刀から響く。

そのまま右膝を打ち上げ、霞の腹部へ膝蹴りを繰り出す。

 

「ッ!」

 

俺の体に柄が当たった瞬間に何かを感じ取ったらしい霞は、体をくの字に曲げるように後ろに跳んだ。

猫のようにしなやかに着地した霞は、偃月刀を回し、再び構える。

 

「・・・やるなぁ、ギル。あそこで一歩踏み出すっちゅうの、結構出来ないもんなのに」

 

「こっちには良い師匠が沢山いたからな」

 

恋とかセイバーとか愛紗とかエトセトラ・・・。

うん、かなり豪華な面々だな。

俺の言葉に霞はにぃっ、と嬉しそうに笑みを浮かべる

 

「そか。んじゃあ、次からはもっと激しく行くでっ!」

 

再び船の甲板を踏み込み、こちらに迫る霞。

先ほどと違うのは、踏み込んだ部分の甲板が砕け、へこんだことくらいである。

それは、霞の突きも、霞の速度も、さっきよりも加速していることを現している。

 

「食らいやァッ!」

 

「なんのっ!」

 

突き・・・をフェイントとして、俺の右下から逆袈裟切りに迫る偃月刀に槍を叩き付ける。

しかし、霞は更にその軌道を変え、逆袈裟切りではなく俺の足下を払うような横薙ぎの攻撃に変化させた。

目標を見失った槍が甲板に刺さり、鈍い音を立てると同時に、俺は上に跳んだ。

偃月刀は足下を通り、すぐに霞によって引き戻される。

霞は俺が着地する瞬間までを計算に入れ、着地後の一瞬の隙をつき、俺の頭を目掛けて突きを繰り出した。

防げないと感じた俺は両手の獲物を離して、身をかがめる。

そのまま中腰の姿勢で霞の懐まで潜ると、偃月刀を突き出したことによって伸ばされた腕を下から掴んだ。

そして霞の羽織っている羽織の襟をもう片方の手で掴むと、俺は自身の体を一気に反転させる。

霞に背中を押しつけるようにして持ち上げ、勢いを以て前方に投げ飛ばす。

 

「受け身は取れよッ!」

 

「んなっ!?」

 

一本背負い。柔道の技の一つで、おそらく柔道と言えば一本背負いと言うぐらいに知名度が高い技だろう。

もちろんこの時代に柔道があるわけではないので、霞はなすすべもなく俺に投げられることとなった。

そろそろ撤退の時間なので、魏軍の無事な船へとぶん投げることにし、途中で霞を掴んでいた腕を放した。

 

「うにゃああああぁぁぁぁ・・・」

 

だんだんと遠くなっていく絶叫を聞きながら、朱里の合図を聞いた。

 

「皆さん、頃合いですっ! 退きましょうっ」

 

「了解だっ! 総員、退けッ! 関羽、張飛、そして俺の旗に続いて整然と後退するんだっ!」

 

「応ッ!」

 

俺はカリスマの能力で部隊がいつもより更に整然と撤退させていくのを見て、満足感を感じた。

よし、後は朱里達の策を発動させる手伝いをするだけだ。

 

・・・

 

後退した後、軍師達が天幕の近くに集まっていた。

朱里、雛里、ねね、周瑜が次の策をどう発動させるべきかとうんうん唸っている所へ、桃香に引っ張られて近づく。

桃香が言うには、呉の周瑜さんにあいさつくらいはしておいた方が良いとのことだが・・・。

・・・まぁ、あいさつしておいた方が良いのは同意できるので、大した抵抗もせずに引っ張られるままにされている。

黄金の鎧はすでに着替えていて、今の俺は黒いライダースーツに身を包んでいる。

そんな俺に気付いた孫策が声を掛けてくる。

 

「あら? ギルじゃない」

 

「ん? ・・・あー、孫策か。久しぶり・・・になるのかな」

 

「どうだろ? 微妙な所ね」

 

前に出会ってから少ししか経っていないので、なんだか微妙なあいさつになってしまった。

そんな俺達を見て、周瑜が不思議そうにこちらを見て口を開く。

 

「・・・雪蓮、誰だ?」

 

「あー、冥琳は知らないのよね。ほら、前にシャオを助けてくれた人がいるって言ったじゃない」

 

「ほぉ。・・・初めましてだな。私は周瑜という」

 

薄い微笑みを浮かべた周瑜が自己紹介してきたので、俺も自己紹介する。

 

「蜀で将をやっているギルガメッシュだ。ギルと呼んでくれ」

 

みんながギルガメッシュをきちんと発音できないので、もう自分から愛称の方を教えることにした。

そちらの方が面倒が少ない。

 

「そうさせて貰おう。これから宜しく頼むぞ、ギル」

 

「ああ。よろしく」

 

俺が周瑜にそう返したあと、うんうんうなる朱里達に視線を移す。

ええと、赤壁だから確か・・・ああ、火計を最大に生かす状況を生み出そうとして居るんだっけ。

 

「はわわ・・・どうしましょう~・・・」

 

うるうると瞳をうるおわせ、朱里がこちらを見上げてくる。

そんな朱里を撫でてあげつつ、これからの出来事を思い出す。幸いギルガメッシュのチート頭脳ですぐに思い出せた。

あー、そっか。これは・・・

 

「なんじゃ。また軍議か。下手な軍議、休むに似たりじゃな」

 

ふん、と鼻を鳴らしながらやってきたのは呉の将・・・黄蓋だった。

もちろんこんな言葉を聞いて周瑜が黙っているわけがない。

 

「黙れ黄蓋。たかが前線の一指揮官が、偉そうな口を叩くな」

 

その一言をきっかけとして、周瑜と黄蓋はお互いを罵り合い、激しい口論となっていく。

それを見た桃香達はあまりの迫力に息をのんでいるようだ。

この出来事の裏を知っている俺でさえあまりの凄みに一歩退きそうになるぐらいだし・・・。

結局、黄蓋は将としての役をはぎ取られ、一兵卒として立場を落とされた。

その後、周瑜は黄蓋を天幕に返し、周泰に黄蓋の部隊を解散させ、他の将の部隊へ預けるように手配させた。

 

「あ、あのぉ~」

 

周泰が走り去った後に、桃香がおそるおそるといった感じで声を掛ける。

 

「この時期に喧嘩するの、良くないと思うんですけど・・・」

 

そう言った桃香に、孫策はいつも通りの笑みを浮かべて放っておけばよいと声を掛ける。

その言葉に納得いかなさそうな声を上げる桃香や、不満そうな声を上げる愛紗達蜀の面々を周瑜に内政干渉はするな、と突き放すように言った。

それでも引き下がらない彼女たちに、俺は聞くかどうか分からないカリスマを発動させながら声を掛ける。

 

「・・・周瑜の言うとおりだ。内政干渉になる。これ以上は踏み込むべきじゃない」

 

「ギル殿・・・!?」

 

「お兄さん・・・」

 

今にもつかみかかりそうな愛紗を止める意味で片手を横に挙げて蜀の面々を制止させる。

 

「・・・お兄さんがそこまで言うなら、従うけど・・・」

 

カリスマが効いたのか、渋々と引き下がる蜀の面々。

孫策にその後の予定を聞くと、周瑜から休憩を言い渡される。本日の軍事行動は全て終了するらしい。

それならば此処にいる意味はないだろう。桃香達に説明もいるし、月に帰ってきたことを報告しないといけない。ありがたく休憩させて貰おうじゃないか。

 

「決戦は明日だ。みな、休息を取れ」

 

そう言ってきびすを返す周瑜。その後ろ姿に何か反論しようとする愛紗達を再び手で制する。

不満そうな・・・・というか確実に不満を抱いている蜀の面々を連れて、俺は軍議の場から立ち去った。

 

・・・

 

それからは、みんなの不満を解消するために周瑜と黄蓋の喧嘩の真意を説明する。

そっと宝物庫から取り出した持ち主に悪意を持つ物を探知する水晶で周りに間諜が居ないかを確認しておくのも忘れない。

朱里や雛里が補足してくれた説明で、みんな納得してくれたらしい。それならば仕方がないか、と引き下がってくれた。

 

「何か起こるなら夜・・・。みなさん、すぐに対応できるよう、心の準備だけは怠らないでくださいね」

 

最後の朱里の一言に全員が頷きを返す。

・・・さて、俺は月の元へ行かないとな。

そう思ってきびすを返そうとすると、朱里に声を掛けられた。

 

「・・・あのっ、ギルさんが居てくださって助かりました」

 

「・・・ん?」

 

体の動きを止め、朱里に向き合う。

朱里ははわわっ、といつも通り慌ててから、続きを話した。

 

「あの状況では、もしかしたら私たち蜀と呉が不仲になる事態もあり得ました。それを事前で防いでくださったのは、とても助かりました・・・」

 

「ぎ、ギルさんは一瞬でその場の空気を掴み、人々に影響を与えるのがお上手なので、少し無理矢理にでも軍議を終わらせることが出来てよかったです」

 

「あ~・・・」

 

カリスマA+は呪いの域に入った自動的な人心掌握術と言っても過言ではない。

かなりの時間を掛けて自分の宝具、スキルはほとんど使いこなせるようになったので、愛紗達にも効果を上げることが出来たのだ。

将である愛紗達には精神的な防御行動が出来るために効きづらいが、それでも無理矢理場を治めるには十分だ。

朱里と雛里はその事を言っているのだろう。

 

「気にしなくて良いよ。出来ることをしたまでだからさ」

 

「あわわ、で、でも、ギルさんが気付いていてくれて本当に良かったです・・・。私と朱里ちゃんでは、気付いていても将の皆さんを抑えられそうにありませんでしたから・・・」

 

そう言って帽子を目深にかぶってしまった雛里を帽子ごと撫でる。

 

「ま、こうやって役に立てて嬉しいよ。何か困ったら頼ってくれ。出来る限りで何とかする」

 

「あわわっ・・・! ふぁ、ふぁいっ!」

 

「良い返事だ。じゃあ、俺は天幕に戻るよ」

 

「あ、はいっ。お休みなさいっ」

 

「おやすみ、朱里、雛里」

 

ゆっくりと手を振ってくれる二人に手を振り返しながら、今度こそ天幕へと向かった。

 

・・・

 

侍女組が寝泊りしている天幕の中で、俺は座りながら眠っていた。

一応意識はきちんと警戒しており、何かが近づけば分かるようになっている。

虫の声すら聞こえない深夜。外で蠢く気配で目を覚ました。

こっそりと天幕から外を覗き見ると、黄蓋が兵士を連れてこそこそと動いていた。

このまま魏の駐屯地まで行くんだっけ。凄い行動力だよな、あの人。

まぁ、これは放っておいて良いだろう。黄蓋が魏に行かなければ火計は成功しないんだしな。

 

「・・・ふぁ・・・。ギルさん、どうかしたんですかぁ・・・?」

 

俺が動いている気配を感じ取ったのか、月が起きた。

寝ぼけ眼でうとうととしているが、上半身だけを起こして目を擦る姿はとてつもないかわいさである。

 

「ん、何でもないよ」

 

「そうですか。・・・うぅん・・・なんだか目が覚めちゃいました」

 

「無理にでも休んでおいた方が良いぞ。明日は決戦だと言っていたし、負傷者の数も増えるだろうから」

 

「・・・はい。・・・あ、だったら、ギルさん、眠くなるまでお話相手になって下さい」

 

「話し相手? 構わないぞ」

 

一緒の天幕で寝ている詠や響、孔雀を起こさないように二人で天幕を出る。

後で黄蓋追撃のために忙しくなるだろうが、騒がしくなってから向かえばいい。今は外に出てても問題はないだろう。

天幕の周りはアサシンが守っているし、天幕の周りには孔雀特製の魔術結界がある。バーサーカーでも突っ込んでこない限り、対処は出来るだろう。

 

「ん、この辺で良いだろ」

 

資材が入っていたりする木箱を見つけ、すっと布をかぶせる。このくらいは紳士のたしなみである。

 

「どうぞ」

 

「あ・・・ありがとうございます」

 

照れながらもはにかみを返して木箱に座る月を見て、俺も笑顔を返した。

木箱は幾つか隣り合わせておいてあったので、月の隣に俺も腰掛けた。

 

「寒くないか、月」

 

「大丈夫ですよ」

 

そう言って微笑を浮かべる月に、そっか、と呟く。

 

「・・・明日、決戦なんですよね」

 

それから少し間があったものの、話しを切り出したのは月だった。

 

「ああ。・・・多分、今までで一番大きい戦になると思う。・・・いや、なる」

 

「そう、ですか・・・」

 

辛そうな表情を浮かべる月。おそらく、明日傷つく兵士達のことを思って居るんだろう。

下手に声を掛けるのはよろしくないと判断し、黙って月の言葉を待った。

 

「天下三分の計・・・そのためには、仕方ない戦い・・・なんですよね」

 

「そうだな。桃香が望んでいるもののためには、避けられない戦いだ」

 

「あの、聖杯戦争の方は・・・どうなって居るんですか?」

 

今までうつむき加減に喋っていた月が顔をこちらに向けて、そう聞いてきた。

俺は今まで月を出来る限り聖杯戦争には近づけないようにしていたが、月はその状況に我慢できなくなったんだろう。

だから一緒に戦場に行きたいと桃香に頼んだんだろうし、自分が蚊帳の外であることがいやだったんだと思う。

 

「孔雀の様子から分かってるかも知れないけど、バーサーカー組はキャスターを手に入れた」

 

「・・・はい。孔雀さんの腕が片方無い理由は聞きました。無理矢理にでも令呪を奪うなんて話、最初は信じられませんでしたけど・・・」

 

「後は・・・ランサーは成都から撤退したと思う。魔力反応が成都から離れるのを感じたから」

 

「ええと、槍兵さんは・・・あ、増える人ですね」

 

「そうそう。後は蜀にいる奴らだから分かるよな」

 

「はい。・・・そう言えば・・・聖杯戦争って、どうすれば勝ちなんですか?」

 

きょとんと小首を傾げる月を見て、あれ、説明してなかったっけと俺も首を傾げる。

端から見たらお互いに首を傾げ合う変な人に見えたに違いない。

 

「説明してなかったな、多分。ええと、聖杯戦争って言うのは、マスター七人、サーヴァント七人で行われるのは分かるよな?」

 

「はい。それは最初に聞きました」

 

うんうん、その説明は忘れてなかったな、と自分で納得して、話を進める。

 

「簡単に言うと、勝利条件は聖杯を所持して、全てのサーヴァントを生け贄に捧げること。それで聖杯は起動して、願いを叶えてくれる」

 

「すべて・・・? ギルさんも・・・ということですか・・・?」

 

静かにそう聞いて来る月の言葉には、驚きが含まれていた。

・・・そういや、言ってなかったもんなぁ。

 

「ああ」

 

「そんなっ。じゃあ、勝ち残っても意味が無いじゃないですかっ」

 

「勝ち残って、何か叶えたい願いが出来たのか?」

 

俺がそう聞くと、月は俯きながら答えた。

 

「勝ち残って、聖杯を手にして・・・その時、聖杯にお願いしたらいいと思ったんです。・・・人々が永遠に平和に暮らせるように、と」

 

・・・成る程。いきなり聖杯のことを聞いてきたのは、それが知りたかったからか。

聖杯戦争で勝ち残り、聖杯を手に入れれば人々は死なずに平和になるのではないか、と言うことだな。

だが、確か貂蝉は汚れた聖杯の欠片を持ち込んだと言っていた。

ならば、それは『破壊でしか望みを叶えられない』聖杯だろう。

貂蝉に聞かされたことも混ぜてその事を説明すると、月は驚いていた。

 

「じゃあ、もしその過激派の人達が勝ってしまったら・・・」

 

「うん。過激派の望みは『外史全ての破壊』。あの聖杯に望むには、ピッタリな望みだな」

 

「そうだったんですか・・・」

 

「ああ。・・・でも俺の宝具なら聖杯を壊すことも出来るから、それを目標に聖杯戦争を戦っていくのが良いだろうな」

 

「そうですね・・・。聖杯が何処にあるのかは分かってるんですか?」

 

「・・・いや、過激派が何処かに隠してるんだとは思うけど・・・」

 

そこまで説明すると、月がそっと体を寄せ、俺に寄り掛かってくる。

月のぬくもりと幽かな重みを感じていると、月が口を開く。

 

「・・・ギルさんは、一人で世界の危機と闘ってたんですね」

 

「そんなかっこいいものじゃないよ。最初は本当に何が何だか分からなかったんだし」

 

「それでも、凄いです」

 

そう言って、月は立ち上がり、俺の真っ正面に立った。

どうしたんだ、と思うが、何か言おうとしているのは纏う雰囲気で分かった。

緊張したように胸の前で両手を絡ませているものの、その瞳には決意が宿っていた。

 

「・・・以前、その・・・言ったまま逃げてしまったのですが・・・」

 

言葉を発する度に真っ赤になっていく月の話を聞いていると、あることを思い出す。

以前勝手にサーヴァントを成都から引き離したときに怒られ、その後に告白されたことを。

 

「わ、私は、その・・・ギルさんの事が、好きです」

 

「・・・ありがとう」

 

「それで、その、ギルさんは、私のことをどう思っていますか」

 

そこまで言い切った月は顔を真っ赤にしているが、目は逸らさなかった。

月のことはもちろん好きである。

だがしかし、多分俺はこの聖杯戦争が終われば消える存在である。曹操に対する一刀くんみたいなものである。

後で月が泣くのは想像に難くない。月が泣くのは駄目だ。

 

「・・・俺も、月のことは好きだよ」

 

だけどまぁ、此処で答えないのは更に駄目だろう。此処まで思いっきり想いを告げられて断れる程、俺の人格は歪んでない。

 

「っ!」

 

次の瞬間、月の顔に笑顔が浮かび、涙を浮かべながら俺の元へ飛び込んでくる。

それを受け止めて、うわぁ月柔らかいなぁ、と空気にそぐわないことが頭の中に浮かんできた。

 

「う、嬉しい、ですっ・・・!」

 

抱きつく力を強くする月を抱き返しながら、断らなくて良かったと思った。

しばらくすると、落ち着いたのか月が俺から離れる。ぬくもりが無くなったことに寂しいと思いつつも、笑顔の月はやっぱり可愛いなと再確認。

 

「えへへ、なんだか照れますね」

 

「そうだなぁ・・・」

 

「あ、こんな事言うのもアレかも知れませんけど・・・」

 

「ん?」

 

「その、私だけじゃなくて、他の人の想いにも答えてあげてくださいね?」

 

・・・ええと、どういう事だろうか。

嫌な予感のみに発動する直感スキルが警鐘を鳴らしている。

 

「? どうしたんですか、ギルさん」

 

「いや、ちょっと待ってくれ。他の人の想いって・・・?」

 

「言葉通りの意味ですよ。ギルさんの事を想っている人はいっぱい居ますから。・・・本当に、いっぱい」

 

月の最後の方の発言はとてつもなく黒いオーラを纏っていた。なんだこれ。月オルタ? 黒月? 

と言うかもしかして・・・いや、もしかしなくても俺が蜀の一刀くん的な存在になってしまったんだろうか。

いやいや、うん、希望は捨てちゃ駄目だよね。それに、まだ起こっていないことを恐れていても仕方あるまい。

 

「ま、まぁ・・・その時に考えることにするよ」

 

「はい」

 

にっこりと笑う月に若干の恐怖を感じていると、呉の陣営が俄にあわただしくなってきた。

 

「どうか、したんでしょうか?」

 

「ん、なにか想定外の事態が起きたんだろう。取り敢えず行ってみようか、月」

 

「は、はいっ」

 

月を横抱きにして、足に魔力を回らせて脚力を跳ね上げる。

そのまま一歩目を踏み出すと、それだけで景色が後方に吹っ飛んでいくように錯覚する。

 

「口は閉じてろよ! 噛むぞ!」

 

注意したとおり口を閉じてコクコクと頷いているのを確認し、二歩目を踏み出す。

一歩で数メートルは進んだだろう。兵士にぶつからないように加減はしているが、それでも英霊の脚力は半端じゃない。

すぐに蜀の陣営が見えてくる。桃香を中心に、将達が集まっているようだ。

 

「あ、お兄さん! 月ちゃんも! 大変なんだよっ!」

 

「桃香さま、一体どうしたんですか?」

 

抱えていた月を降ろすと、月はすぐに桃香に何が起こったのかを聞いた。

 

「呉の宿将、黄蓋が脱走したらしい」

 

桃香の代わりに、星が答えた。愛紗は言わんこっちゃない。と呆れているようだ。

やっぱり、黄蓋が脱走したか。多分これが火計に繋がっていくんだろうな。

 

「この混乱を曹操が見逃すはずがない。至急臨戦態勢を整えた方がよいだろう」

 

「そうだな。星、愛紗と一緒に動いてくれ」

 

桃香が未だにあたふたとしているので、俺が代わりに指示する。

 

「分かりました」

 

「了解した」

 

二人が返答し、走り出す。

その後ろ姿を見ながら、朱里が口を開く。

 

「これが周瑜さんの考えている策の一端なんでしょうか?」

 

「多分そうだろうな」

 

それから、紫苑と桔梗に火矢の準備をしておくように頼んでおく。

呉がせっかく作ってくれるチャンスを棒に振ることだけは避けなければならない。

 

「桃香」

 

「は、はいっ!」

 

「・・・落ち着けって。この混乱を見て兵士達が状況が解らずに混乱してると思うから、俺と一緒に部隊を統制するぞ」

 

「わ、わかったっ!」

 

俺のカリスマがあれば何とかなるだろう。軽めに統制をかければ暴走することはなくなるとは思うが・・・。

後は愛紗達に任せれば勝手に迫真の演技をしてくれるだろう。

 

「朱里、雛里。取り敢えずこの状況に乗っかっておくぞ。曹操を騙すために少し落ち着く程度に統制してくる」

 

「はわわっ、このままでは混乱して勝手に動き出す兵が居るかも知れません」

 

「あわわ・・・。慌てている様に見せ、曹操さんを騙すのは良いのですが、本当に混乱してしまっては危険です。・・・お願いします」

 

「頼まれた。朱里と雛里は紫苑と桔梗の手伝いをしてきてくれ。月、桃香、行くぞ」

 

「あ、はいっ」

 

「待ってよお兄さーん!」

 

こんな状況なのに嬉しそうな顔をして小走りについてくる月と、置いて行かれそうになっている桃香に合わせて歩調を調節して、兵士達が寝泊まりしている場所へと向かう。

 

・・・

 

「敵の奇襲なのだー! 鈴々の蛇矛が火を噴くのだー!」

 

「あ、おいこら、馬休、馬鉄! 突撃命令なんて出してないぞ! 何処行くつもりだ!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ! 敵は何処だっ! この魏文長の鈍砕骨が唸って光るっ!」

 

「ええい! 皆落ち着け! 敵が奇襲してきた訳じゃない! 落ち着いて隊列を整えろ!」

 

・・・うわぁ、思った以上にカオス。

桃香と月と共に到着した兵達の天幕の近くでは、混乱が混乱を呼ぶ地獄絵図となっていた。

呆然としていると、蒲公英が近づいてきて

 

「ね、ねぇねぇお兄様、演技・・・なんだよね?」

 

なんて、聞いてきた。

 

「・・・はっはっは。・・・もちろんだとも」

 

「自信なさげに言わないでよぉ! あれ素なの!? っていうか素なんだよねみんなっ!」

 

うわーん、脳筋ばっかー、と泣き真似を始める蒲公英。

 

「うわわ、大変なことになってる・・・。お、お兄さん、お願いしますっ」

 

「・・・あんまりスキルに頼るのもアレだけどなぁ。・・・すぅぅぅ・・・」

 

思いっきり息を吸い込み、大声を出す準備をする。

それを見た桃香と月、後ちゃっかり蒲公英も耳を塞ぎ始めた。

 

「落ち着けェッ! それぞれの部隊ごとに整列しろッ! 敵が奇襲してきた訳じゃない! 落ち着いて隊列を整えろッ!」

 

「お、応ッ!!」

 

全ての兵からの応答があり、将もようやく落ち着きを取り戻してきたらしい。自分の部隊をとりまとめに奔走している。

 

「・・・はぁ、演技だって言ってたの、忘れてたな、鈴々達・・・」

 

「あ、あははー・・・。お兄さん、落ち込まないで?」

 

「そ、そうだよっ。お兄様の所為じゃないよっ」

 

「へぅ、元気出してください・・・」

 

しばらく三人に慰められつつ、桃香と共に、愛紗達が部隊を纏めたのを確認していった。

 

・・・

 

カリスマのおかげか早めに混乱を抑えた俺達はこれからのことを相談するために呉の船に移動した。

すでに孫策と周瑜がいて、こちらを待っていたようだ。

 

「ふぅ、中々凄いことになってるじゃないか」

 

「そうよねー。まさか、祭・・・黄蓋が魏に奔っちゃうなんてねぇ」

 

「よくやるよなぁ。んで?」

 

俺の言葉に、孫策は不思議そうに首を傾げる。

そんな孫策に、桃香が声を掛ける。

 

「これからどうするんですか? 呉の宿将と言われる黄蓋さんが魏に行っちゃった以上、こっちの作戦とかもばれちゃうだろうし・・・」

 

「・・・って、劉備が心配そうにしてるけど、これからどうするつもり?」

 

孫策はいつも通りつかみ所のない笑みを浮かべると、悪戯を考えている子供のように周瑜に聞いた。

周瑜は微笑を浮かべると、冗談めかして孫策に聞き返した。

 

「どうする、とは?」

 

「祭が裏切るわけ無いでしょ? ・・・と言うことはこれは何かの策。その策をそろそろ示しても良いんじゃないかしら?」

 

「気付いてたのね。・・・いつから?」

 

「はじめからに決まってるでしょ。馬鹿にしてたら怒っちゃうわよ?」

 

私、怒ったら怖いんだから、とわざとらしく頬を膨らませる孫策。

 

「ふむ・・・流石、と言うべきか・・・。やはり戦の天才なのだな、雪蓮は」

 

「あら。気付いてたのは私だけじゃないみたいだけど」

 

「ああ・・・。孔明も気付いていたのだな」

 

「ギルさんもですよっ」

 

「ほお・・・。見たところ武官らしいが・・・あれに気付くとはな」

 

「・・・どーも」

 

予想外に驚いた表情を見せる周瑜に、なんだか素直に賞賛された気がせず、微妙な返答になってしまった。

武官、と言われたと言うことは俺も鈴々達脳筋に見られていたと言うことだろうか。

 

「うんうん! お兄さんは凄い人なんだよっ。武官も文官もこなせるし、将としてもとっても強いんだからっ」

 

何故か自分のことのように胸を張って答える桃香。

 

「あ、あははー。ギル、あなたってば随分信頼されてるのね」

 

「ああ。嬉しいことだ」

 

「・・・というか、そんなに強いんなら手合わせしてみたいけどなー」

 

「やめておけ雪蓮。これから曹操とぶつかり合うんだぞ」

 

「冗談に決まってるじゃない。もう、冥琳は頭が固いんだからー」

 

「・・・はぁ。話を戻すぞ。黄蓋は今、曹魏の前線に配置されていると聞いた」

 

「あら。あのおチビちゃん、流石の器量ね。あからさまにおかしな降伏をした人間を、そのまま前線に配置するなんて」

 

「そうしなければならん事情があるのさ」

 

「覇王としての評判、ですね」

 

周瑜の言葉を聞いて、朱里が声を上げる。周瑜はそうだ、と頷いて

 

「覇王であるが故に、曹操は常に天下に態度を示さねばならん」

 

「それが曹操さんを覇王たらしめている無形の力・・・風評という奴ですね」

 

「風評?」

 

「はい。風評があるからこそ、曹操さんの元に全て集まってくるんです」

 

「人、もの、そして力が集まる。・・・その全ては、曹操さんを形成している、覇王としての風評がもたらしている者です」

 

「私たちが曹操と聞けば身構えてしまう・・・それも風評と言うことか」

 

そう言うことだろう。実績を残しつつも評判を得れば、その人物は他人の目には大きく映って見えるものだ。

逆に、実績があっても評判の悪い人の所には何も集まってこない、ということだ。

 

「曹操の強力な武器でありながら、一番の弱点、・・・それは覇王としての風評を、常に得なければならないと言うことだろう」

 

「そこをついたんだね?」

 

「そうだ。・・・そしてここから、我らの反撃が始まる」

 

「・・・ってことですよ、亞莎ちゃん」

 

「お帰り、穏。亞莎もお疲れ様」

 

いつのまにか近くにいた陸遜と呂蒙に、孫策が声を掛ける。

 

「はっ。あの・・・まさか黄蓋様の降伏は謀りだったとは・・・」

 

「安心しましたか~?」

 

「はいっ」

 

どうやら呂蒙は黄蓋が本当に脱走してしまったと思いこんでいたようだ。

成る程、敵を騙すにはまず味方からと言う良い例だろう。

 

「じゃ、みんなが安心したところで、そろそろ反撃と行きましょうか」

 

「ああ・・・。深夜、我らは呉の精鋭を率いて隠密行動を取り、曹魏の陣地に接近する」

 

周瑜の言葉に、此処にいる全員の表情が引き締まる。

 

「黄蓋殿が曹魏内部で火を放つと同時に、一斉に奇襲を掛けて曹操の本陣を強襲する手はずだ」

 

「狙うは曹操の頸一つ。・・・良いわね、ワクワクしてくるわ」

 

「では私たちは呉勢の奇襲の後、更に奇襲を掛けましょう」

 

呉の策を聞いた朱里が、蜀の将達に作戦を伝える。

 

「我らも隠密行動になるな」

 

「そうですね。・・・しかし、船戦に慣れていない私たちが必要以上に近づいては敵に察知されます。ある程度の距離は置かないと・・・」

 

「そのための時間差奇襲なんです」

 

「成る程、了解した。すぐに編成にかかる」

 

朱里と雛里の二人に伝えられた策を実行するべく、星が自分の部隊が乗る船へ駆けだした。

そのすぐ後、紫苑と桔梗が前に出てくる。

 

「私と桔梗の部隊は、小舟で編成しましょうか」

 

「この戦のキモは火だ。機動力の高い小舟を使えば、効率よく放火できるじゃろう」

 

「そうした方が良いですね。お願いします」

 

「あたし達はどうする?」

 

「翠さんと白蓮さんの部隊は、愛紗さんたちの更に後方で待機しておいてください。第三派は呉勢と共に大軍団で一気に攻勢を仕掛けますから」

 

「了解した。三段構えの戦いか。凄いよなぁ」

 

「でもそれで勝てるのかなぁ~・・・」

 

蒲公英が溜め息混じりで漏らした弱音に、周瑜が答えた。

 

「勝てるかは分からんさ。ただ、勝つための手は打ってある」

 

「て? これ以上、どんな手を打っていると言うんだ?」

 

「我が軍には江賊出身の者が居てな。我らの攻撃が始まり次第、曹魏の軍船を水没させるべく工作を開始する」

 

「四段構えなのか。みんな性格悪いなー・・・」

 

「なりふり構ってられないと言うことだ。では、我らは半刻後に出る。・・・後は頼む」

 

「了解です」

 

朱里に後のことを託した周瑜は、隣に立つ孫策をまっすぐに見つめて口を開く。

 

「雪蓮。あなたの力を貸してちょうだい」

 

「了解。・・・ふふっ、たっぷりと暴れさせて貰うわ」

 

ニヤリ、と笑った孫策の表情は戦闘狂らしい凶暴な色が混ざっていた。

 

「作戦は決まったな。出来ることを精一杯やれば成功するはずだ。桃香、号令を頼む」

 

「あ、うん。・・・みんな、頑張ろうね!」

 

あまりにもいつも通りというか、一国の主とは思えない号令に、みんなが笑顔になる。

 

「ふふっ。相変わらずな号令ですね」

 

「だが、それでこそ我らの盟主だな」

 

「いいもん。みんなが奮い立つような号令は、私じゃなくて孫策さんにお任せだよ」

 

「お任せされましょうか。劉備。・・・私たちの背中、あなたに預けるわよ」

 

「私たちの背中も預けます。・・・頑張ってこの戦いに勝ちましょう!」

 

「そうね。・・・では出るわよ! 各員、迅速に出陣準備せよっ!」

 

「はいっ」

 

呂蒙が元気な声を上げる。

 

「俺達も準備にかかろうか。愛紗、星、雛里の三人が先鋒。その次に紫苑、桔梗、蒲公英の三人で、本隊は桃香、朱里、鈴々、翠、白蓮、焔耶、恋、ねね」

 

「あれ? お兄さんは?」

 

「月のそば・・・と言いたいところだけど、月達侍女組にはアサシンもついてるし、部隊を率いて遊撃隊になるよ」

 

それに、孔雀が加入したおかげでみんな軽くとはいえ治療魔術が使えるようになったしな。

ばれないように気をつける必要はあるが、兵士達の治療が遅れて致命傷になる、なんてことは少なくなるはずだ。

 

「遊撃隊とは言っても・・・」

 

「大丈夫だよ。信じてくれ、愛紗」

 

「あ、え、えと・・・もう、分かりましたよ」

 

いつもの小言が来るかと思ったが、頬を膨らませてそっぽを向かれるだけで終わった。

顔が真っ赤なのは怒っているからだろうか。・・・うわぁ、この戦いの後説教が来そうな勢いである。

 

「お兄さん、気をつけてね?」

 

「分かってる。桃香も気をつけるんだぞ」

 

「うんっ」

 

偉い偉い、と桃香の頭を撫でてから、月を抱えて再び足に魔力を回す。

 

「月を届けてから部隊を動かし始める」

 

「りょーかい! 頑張ろうね!」

 

「ああ!」

 

横抱きにされているのが恥ずかしいのか真っ赤になっている月に癒されつつ、地面を蹴る。

 

・・・




黒月、襲来。判定次第でサーヴァントにダメージを与えられるようになり、感情の起伏によって魔力を増幅させる恐ろしい能力を得る。スキルに言論統制などが追加される。相手は死ぬ。

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