真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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何度僧兵と槍兵を打ち間違えたことか・・・。

それでは、どうぞ。


第十六話 東南の風と戦争と槍兵と

月を送り届けた後、侍女組に行ってらっしゃいと送り出され、自分の部隊を編成すべく船を移動していると、なにやら奇妙な行動をしている朱里を見つけた

 

「・・・何やってるんだ?」

 

「あわわっ、ギルさんっ。・・・えと、この作戦のキモは火だけではなく風向きなんです。東南の風が吹かなければ、火計の効果を最大限に生かせません」

 

「むむむ~・・・えいっ」

 

「そのために朱里ちゃんは天の神様にお祈りをして東南の風を吹かせようとしているんです」

 

「成る程」

 

確かにそんなエピソードがあったなぁ。・・・こんなにちっちゃくても諸葛孔明なんだよなぁ・・・。

 

「むむむー・・・えいっ!」

 

一際力のこもった祈りの声が聞こえた瞬間、風の向きが変わった。

って、この方向は・・・。

 

「はわわっ! ギルさん、東南の風が吹いちゃいましたっ!」

 

「・・・凄いな、おい・・・」

 

聖杯戦争がある時点で何が起こっても驚かないと思っていたが・・・。

 

「やった・・・! やったよ、東南の風が吹いてるよ、朱里ちゃんっ!」

 

「うんっ! お祈りが効いたんだね、きっと!」

 

「だねっ!」

 

嬉しそうにきゃっきゃとはしゃぐ二人を見てると、これから戦いがあることなんて忘れてしまいそうになる。

 

「よくやった、朱里。これで作戦は成功するな」

 

一通りきゃっきゃして落ち着いた朱里の頭を撫でる。

 

「わふっ。はわわ・・・あ、ありがとうございます・・・」

 

「よし、俺も負けてられないな。じゃあ、行ってくる」

 

「はいっ! 御武運を!」

 

「ご、御武運を・・・!」

 

笑顔で送り出してくれる二人に手を振って、俺はこの戦いの中で自分に与えられた部隊の元へと走った。

 

・・・

 

しばらくすると、魏の船の中から炎が上がってきた。

 

「燃え始めたか!」

 

だが、向こうの船の中には燃えていない船の方が多い。

・・・そうか。そうだった。何で今まで忘れてたんだか。

 

「魏には・・・天の御使い、北郷くんがいたんだっけな」

 

彼ならば黄蓋の裏切りが演技だと知っているし、何かしらの対策も取れたんだろう。

・・・っていうか、それなら黄蓋が危ない! 

 

「弓兵隊っ! 事前に分けておいた班に分かれ、班長の指示に従って動け! 俺は前に出て道を開く!」

 

「はっ! それぞれの班に分かれろ! もたもたするなっ!」

 

「御武運を! 隊長!」

 

「ありがとな。・・・出るぞっ!」

 

すでに鎧は装着済みで、以前の様にフル装備である。

さらに宝物庫からのバックアップもいくつかあるので、軽く跳ぶだけで船と船の間を移動することが出来る。

取り敢えず、前線にいると聞いた黄蓋を助けなくては・・・! 

 

・・・

 

「ちっ、曹操め・・・よもや見破っていたとはな・・・」

 

黄蓋は舌打ちをしながら弓に矢をつがえ、放った。

前線に配置され、風が変わったと共に火をつけたは良いが、まるでそれが分かっていたかのようにこちらにも火矢や矢が飛んできていた。

それによって何人かが倒れ、予定よりも火の手が弱い。

さらに追撃隊が出されており、おそらく呉の救援が来る頃には自分はやられているだろうと黄蓋は冷静に悟った。

 

「・・・じゃが、ただで死ぬわけにも行かぬ。・・・黄蓋隊! 最後に出来る限り火をつけるのだ! 後に続く蜀呉の為に!」

 

「応!」

 

黄蓋の言葉に、兵士達が気合い十分に答える。

だが、士気が十分とはいえ数が違いすぎる。こちらの兵士は時間を追うごとにに倒れていき、こちらから飛んでいく火矢の数も減っていく。

 

「冥琳、策殿と呉を頼んだぞ・・・」

 

黄蓋が矢を放ちながらそう呟く。すでに自分の周りには片手で数えられるぐらいにしか兵士が残っていなかった。

もはや此処までか、と矢を放ちながら呟く黄蓋。

しかし、次の瞬間に黄蓋は目を見開くほど驚くことになる。

夜空を裂くようにして飛来した赤い流星が、魏の部隊の近くに着弾すると、水面が膨らみ、巨大な水柱が起こる。

いくつかの船は転覆し、魏の部隊は混乱状態に陥ったようだ。

 

「何が起こった・・・?」

 

そんな黄蓋の呟きに答えるように、兵士の一人が駆け寄ってきて、報告した。

 

「黄蓋様! 後続の部隊から、金色の鎧を纏った将が飛来してきたそうです!」

 

「金色の鎧・・・? 袁紹の手下か誰かか・・・?」

 

「正確には分かりませんが・・・兎に角、この混乱に乗じて後続の部隊と合流すべきかと!」

 

「それしかあるまいな。今の内に後退し、後続の部隊と合流する! 黄蓋隊の他の者にも伝令を急げ!」

 

「はっ!」

 

「しかし・・・くっ・・・! 混乱しているとはいえ、流石は曹魏か・・・!」

 

何隻かは転覆している船を避けて進んできているらしい。先ほどよりは少なくなったものの、矢は飛んできていた。

 

「間に合うか・・・!?」

 

黄蓋の焦りを含んだ言葉は、誰にも聞かれることもなく空気の中へ溶けていった。

 

・・・

 

「・・・うん、一発本番でも出来るもんだな」

 

赤い槍(ゲイボルグの原典)をクー・フーリンのように飛び上がって投擲し、魏の船の近くへ着弾させる。

その後は赤い弓兵さん御用達の壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)で宝具の内包魔力を開放し、爆発させた。

これで赤い槍(ゲイボルグの原典)はしばらく――多分この聖杯戦争中は確実に――使えなくなったが、黄蓋隊の人達を助けるためならば惜しくはない。

その後は黄蓋を助けに向かっている呂蒙の小舟に着地させて貰った。

 

「うわわっ!? ・・・あ、あなたはっ、蜀のっ・・・!?」

 

すでに自己紹介はしているからか、呂蒙は俺にすぐに気付いたようだ。

 

「いやはや、すまんな。だが、何とか黄蓋達が後退する時間は稼いだぞ」

 

「稼いだって・・・あの水柱はギル様の仕業なのですかっ!?」

 

「一応ね。筋力には自信あるんだ」

 

「き、筋力なんて話じゃ説明できない気が・・・」

 

「細かいことは気にしない方が良いよ。・・・お、あれ、黄蓋の船だろ?」

 

「え? あ、ほんとだっ! 黄蓋様ー!」

 

移動用の船を着けると、黄蓋隊の生き残り達がこちらに移ってくる。

すでに黄蓋隊の乗っていた船は燃えさかっており、ギリギリのタイミングだったといえるだろう。

 

「呂蒙か! 助かった!」

 

「いえ! 間に合って良かったです!」

 

「あの赤い流星が飛んでこなければ助からなかったじゃろうな。・・・む? 貴様は?」

 

「初めまして。蜀の将、ギルガメッシュだ。ギルと呼んでくれ」

 

「おお、蜀のか。儂は黄蓋だ。宜しく頼むぞ」

 

「こちらこそ。・・・さて、俺はこのまま魏の船に飛び移るから、呂蒙は黄蓋を連れて後ろに下がってくれ」

 

「は、はいっ! ギル様、お気をつけて!」

 

「済まんが、任せたぞ。儂は部隊を纏め直して後方からの支援を行う」

 

「頼んだ。よっ!」

 

燃えさかる船に飛び移り、甲板まで登る。

炎が近くに迫るが、英霊の体は流石というか何というか、余り暑さを感じない。

飛び移れる距離にある船へと移っていくと、魏の兵士が乗っている船へとたどり着いた。

 

「将が乗り込んできたぞー!」

 

「討ち取れ! 敵は一人だぞっ! 掛かれっ! 掛かれー!」

 

片手にあった赤い槍(ゲイボルグの原典)はぶん投げた上に爆破させて宝物庫で修復中なので、蛇狩りの鎌(ハルペー)を両手で構え一回転するように兵士を薙ぎ払う。

宝具なので切れ味はかなり良く、不死の存在さえも殺す『屈折延命』付きである。たとえ不死の存在が混ざっていても葬れる。

 

「な、こんなすぐにっ・・・!?」

 

「死にたくないなら退くと良い。俺のために道を空けると良い。じゃなきゃ・・・狩るぞ」

 

「く、クソッ!」

 

やけっぱちになったのか、兵士の一人が剣を振り上げる。

流石曹魏の兵だ。蜀の兵に比べて、無駄が少ない。

 

「ふっ・・・!」

 

だが、それだけだ。英霊に追い付く技量ではない。

蛇狩りの鎌(ハルペー)の柄で薙ぎ払い、兵士を吹き飛ばして集団に突っ込ませる。

 

「ぐわっ!? 飛んできたぞっ!?」

 

「なんて馬鹿力なんだ・・・!」

 

「数で押せ! 押し潰せぇっ!」

 

兵士達は恐れつつもこちらになだれ込んでくる。

 

「負けないぜ。・・・ふんっ!」

 

俺を取り囲む兵士達へ、走ってタックルを食らわせる。

それだけで俺とぶつかった兵士達は鎧ごと体がつぶれ、ぐえっ、とつぶれたカエルのような断末魔を残した。

そのまま突き進み、包囲から抜ける。

 

「・・・後は俺の部隊に任せるか。これだけ混乱させれば、負ける戦いじゃない」

 

「待てッ!」

 

次の船に飛び移ろうとした瞬間に聞こえた声に、思わず足を止めた。

戦場には似つかわしくない綺麗で素直そうな声。

声が聞こえてきた方向に視線を移すと、白い髪をした少女がこちらへ駆け寄ってきているところだった。

格闘を主体にしているのか、手には何も持っていない。

彼女を挟むようにして走っている二人は双剣とドリルを持っているようだが。・・・ん? 

 

「ドリルっ?」

 

驚きつつも、迎撃態勢は整える。この辺は訓練の成果である。

 

「このまま華林様の所へは向かわせないッ!」

 

「そうなのー!」

 

「隊長もおるからな! 行かせられるはずないやろっ!」

 

まず先頭を走っていた少女から拳が飛んでくる。

拳で来たのなら拳で受けよう。

俺はハルペーを片手で持ち、開いた片方の手で拳を作って相手の拳を迎え撃つ。

右手で放ったので、手甲同士がぶつかる鈍い音がした。

 

「くっ・・・! 気で硬化している拳と同じ堅さ・・・!?」

 

「凪ちゃんっ! ・・・やらせないのっ!」

 

たん、と軽いステップで双剣の少女は右側から双剣での剣戟を放ってくる。

右腕は目の前の少女とぶつけ合っているので動かせないと判断したんだろう。

肩の部分の鎧で双剣を受ける。ただの鎧ではなく、宝具であろう鎧は魔術だけではなく通常攻撃にも耐性を持っている。

それ故に、双剣を難なく受け止め、それに驚いた双剣の少女は動きを一瞬止めてしまった。

その隙をついて、俺は目の前の少女の腕を掴んだ。目の前の少女もへこみもしない頑丈な鎧に驚いたのか、簡単に腕を取られてしまった。

 

「しまっ・・・!」

 

「ふんっ!」

 

「きゃー!?」

 

「ぐっ・・・!?」

 

右腕で掴んだ少女を、双剣の少女に向けて叩き付けた。

双剣の少女は何とか受け止めたものの、船の甲板を滑っていくように飛んでいった。

 

「凪! 沙和! よくも二人をっ!」

 

ぎゅおお、と回転して俺に迫るドリル。あ、回るんだそれ。どうやって回ってるんだろ。

取り敢えず迎撃しないといけない。形状的には槍の先にドリルがついたような武器なので、柄の部分を弾けばいいだろう。

蛇狩りの鎌(ハルペー)を振り上げてドリルの柄の部分を弾き上げる。

 

「ちぃっ、ウチの螺旋槍も弾くんかいな・・・!」

 

再び回転しながらドリルが迫る。・・・螺旋槍っていうんだ。

しかし、彼女たちの技量は愛紗や恋と比べると劣ってしまうため、簡単に弾くことが出来た。

がら空きになった胴体を切り裂くために蛇狩りの鎌(ハルペー)を振るうが、横からの衝撃で体勢が崩れ、刃は空を切ってしまった。

 

「真桜はやらせない!」

 

「凪か! 助かったわ! ・・・この兄さん、化け物みたいに強いで・・・」

 

「うにゅう~・・・春蘭様と同じぐらいの怪物なの~・・・」

 

気合い十分に拳を構える格闘少女とふらふらしながらも何とか戦線復帰した双剣の少女。

うん、まぁこの三人の名前は予測がつくけど・・・聞いておこうか。

 

「・・・一応名乗っておこう。俺の名前はギルガメッシュ。ギルと呼んでくれ。・・・君たちは?」

 

「私の名前は楽進」

 

「ウチは李典や」

 

「私は于禁なの~」

 

・・・確定である。魏の三羽烏・・・だっけ? 

名称はともかく、これが魏ルートで一刀くんの家計を圧迫する原因の一つなのだろう。

蜀で言うと恋と鈴々みたいなものだろう。・・・改めてスキル黄金律に感謝した。

 

「お前は強い。・・・だからこそ、此処で止める!」

 

「此処で止まるわけにはいかないんだよなぁ。・・・仕方ない、押し通るか」

 

三人相手にハルペーは向かないと判断し、船に突き立てる。

腰の鞘から絶世の名剣(デュランダル)と選定の剣の原典である原罪(メロダック)を抜く。

 

「二刀流かいなっ! 鎌も使えてそれもって・・・器用すぎるやろ!」

 

「一応警告しておくけど・・・左手の剣には触れるなよ」

 

体と宝具に魔力を流しながら、踏み出す。

まずは李典からかな。ドリルから少しだけ魔力に似た何かを感じられるから、俺に直接ダメージを与えられる可能性があるし。

 

「うわっ、こっちきた! ・・・もう、どうにでもなりや!」

 

姿勢を低くして、手に持つ螺旋槍を突き出す李典。

右手の原罪(メロダック)を振り下ろし、螺旋槍を船の甲板にめり込ませる。

これで李典は螺旋槍を抜くまで隙だらけだ。そのまま切り裂けばいい。

そんな考えのもと、絶世の名剣(デュランダル)を振り下ろす。

 

「やらせないのっ!」

 

横から于禁が突っ込んできて、俺の振り下ろした絶世の名剣(デュランダル)に自身の双剣を合わせて当て、軌道を少しだけずらした。

于禁は身軽らしいので、このタイミングで間に合ったのだろう。

絶世の名剣(デュランダル)の切っ先は李典からずれ、船を切り裂いた。

俺が左手に持っている宝具、絶世の名剣(デュランダル)はどんなものでも切り裂く切れ味と、決して輝きを失わない奇跡を宿している。

だからこの剣に対して防御は意味を成さない。絶対に切り裂くという概念が、防御すら凌駕するからだ。

于禁が防がずに弾いたのは良い判断だ。まぁ、一応戦う前に警告はしておいたわけだし。

 

「船が切れるって・・・凄い切れ味なのー・・・」

 

「触れるなとは・・・この切れ味の事を言っていたのか・・・」

 

「正確には防いでも意味無いから避けろよって意味だったんだが・・・まぁいいや。これ以上もたもたしてたらおわっちまう」

 

手っ取り早く無力化するには・・・ああ、そっか。

 

「お前ら、泳げるよな?」

 

「は?」

 

「そりゃ一応ちょっとは泳げるけど・・・」

 

「ならいいや。ま、これも運命。諦めろ」

 

船に絶世の名剣(デュランダル)をつきたて、船を真ん中から前と後ろに二分するように走る。

抵抗もなくするりと斬れていく船を見て、三人娘の顔に驚愕が浮かぶ。

 

「まさか・・・船をぶった切るつもりかっ!」

 

「み、みんなー! 別の船に移るのー!」

 

于禁が兵士達に向かって叫ぶが、多分もう遅い。

甲板の端まできた俺はそのまま飛び降り、船の側面をまっぷたつにしていく。

水の中に落ちるが、呼吸を止めても普通に活動できる俺は身体能力の高さを生かして泳いだまま船の下を通っていく。

もちろん船には絶世の名剣(デュランダル)を突き立てながら、だ。

ぎぎぎ、と鈍い音を立てながら、船が軋み、浸水していく。

 

「『崩れる幻想(ブロークンファンタズム)』」

 

とどめに船の甲板に置き去りにしてきた蛇狩りの鎌(ハルペー)を爆発させる。

蛇狩りの鎌(ハルペー)は俺が切り裂いた所から船の中に落ちたらしく、船底を抉るように爆発した。。

あーあ、これで蛇狩りの鎌(ハルペー)も使い物にならなくなったか。

だが、船にはとどめを刺せたようだ。更に軋む音が大きくなり、沈んできている。

これでこの船に乗っていた兵士達はしばらくは川の中だ。

人の乗っていない小舟を運良く見つけ、そこから再び船の上へと飛び乗る。

次は何処へ飛ぼうかと周囲を見渡すと、魏の船でも蜀呉のものでもない船が向かい合っている俺達の横からやってきた。

その船が掲げている旗は・・・

 

「日章旗・・・!?」

 

それが示すのは、一つだけ

 

「ランサー! 成る程、魔力の回復と共に着々と増やしていたんだな・・・!」

 

どこからあんなに船を調達してきたのかとか諸々の疑問は取り敢えず置いておくとしよう。

ランサーを止めなくては。英霊がこの戦場で動き始めれば、全ての軍が壊滅状態に陥る。

早速俺は船を飛び移り、ランサーが乗る船へと向かった。

 

・・・

 

「ランサー。調子はどうだ?」

 

「はっ! 魔力の弾丸も行き渡っており、この一戦は持つと思われます」

 

「そうか。狙いは一つ。この戦場の何処かにいる英霊達だ。この状態なら、いかにアーチャーといえど宝具は使えまい」

 

「ええ、そのとおりで・・・っ! マスター! 報告が来ました。こちらへ接近してくる魔力反応が一つ!」

 

「ふん。もう来たのか。その速さだとライダーかアサシンか?」

 

「・・・いえ、そこまでは分からないとのことです」

 

「まぁいい。どちらにしても派手に宝具は使えないのだ。行くぞ」

 

「はっ!」

 

・・・

 

「ほ、報告しますっ!」

 

「どうしたのっ!?」

 

桃香達が乗っている船へ、伝令の兵が息を切らせて駆けてくる。

伝令は肩で息をしながらも自身の役割を果たすために口を開く。

 

「正体不明の船団が迫っております!」

 

「正体不明? 旗とかは見えなかった?」

 

「旗は白地に赤い太陽のようなものが描かれているものでした!」

 

「んー? 文字じゃないよねぇ。なんだろ」

 

「・・・他に、正体不明の船団の情報はありませんか?」

 

桃香の隣で話を聞いていた朱里が伝令に向かって静かに問いかけた。

 

「その他には・・・目の良い兵の話ですが、全員が緑色の服を着ており、鎧はつけていなかったようです」

 

「緑の服・・・桃香さま、もしかしたら前にギルさんから聞いた槍兵さんかもしれません・・・」

 

「それって英霊の!? た、大変! 近くにいる兵士さんを遠ざけないと!」

 

「伝令ですっ!」

 

桃香がそう言った瞬間、二人目の男がぜぇぜぇと息を切らせてやってきた。

 

「どうしたんですか?」

 

「数百人の緑色の服を着た軍勢が近くにいた蜀、呉、魏の船を襲い、乗っている兵士を全滅させ、船を奪いました!」

 

「遅かったようですね・・・全軍に伝達してください! 緑色の服を着た兵士には近づかない様にと! おそらくギルさんが向かっていますので、手を出さないで下さい!」

 

「りょ、了解しましたっ!」

 

二人の伝令はそれぞれ指示を伝えるために走り出した。

 

「でも・・・不味いことになりました・・・」

 

「なんで? ・・・前に聞いた話だと、お兄さんは槍兵さんと相性が良いって聞いたけど・・・」

 

「相性は良いでしょう。槍兵さんの大量の軍勢に対してギルさんは大量の宝具の雨を降らせられますから。・・・でも」

 

「でも?」

 

「ギルさんの宝具を発射する宝具は人目につくところでは使えません。空中に武器が浮いているなんて光景を見れば、兵士さん達は妖術だと思ってしまいます」

 

「あ・・・そっか、お兄さんが英霊で、あの剣は宝具だって知ってるのは私たちだけなんだもんね」

 

「はい。だからギルさんは戦いの前に鎧を着替え、すでに武器を出していました。・・・それに比べ、槍兵さん達の武器は音が大きいだけで妖術とは思われないでしょう」

 

「じゃ、じゃあ、誰かもう一人英霊さんがいないと・・・!」

 

「そうした方が良いのですが・・・今向かえる人はいないです・・・」

 

「そんな・・・」

 

桃香は最悪の状況が頭に浮かび、目の前が暗くなったかのような気がした。

アーチャーの宝具はかなり派手だ。何もない虚空から剣や槍や斧が出てきて飛んでいくのはかなり常識から離れているだろう。

 

「お兄さん・・・・!」

 

桃香に出来ることは、兵士を出来るだけ遠ざけることと、無事を祈ることだけだった。

 

・・・

 

ランサーの船団は船を幾つか襲撃し、兵士の魂をランサーに取り込ませた。

魔力が限られている状況で、出来る限り魔力の消費を抑えようとしているからこその行動だった。

 

「魏の船二隻、蜀、呉の船をそれぞれ一隻ずつ奪取いたしました!」

 

「よくやった。兵士の魂は食ったな?」

 

「・・・は。余り気の進むものではありませんでしたが」

 

「街に住んでいる民ならばともかく、覚悟して戦場に出てきてる兵士のを食ってるんだ。文句は言わせん」

 

「はっ」

 

「船も増えて、魔力も補充できた。さて、後は向かってきたサーヴァントを片付けるだけか」

 

「はっ。・・・む、マスター。接近するサーヴァントの正体が分かりました」

 

「ほう。誰だ?」

 

「アーチャーです。後十秒もあれば先陣の部下達と接触します」

 

「成る程。アーチャーか。あいつの宝具は厄介だが、この兵士達がいる状況で使うほどやつも馬鹿ではあるまい」

 

「ええ。この状況でなら、私たちにも勝ち目はあります」

 

「くくっ、楽しみだ」

 

・・・

 

船の間を跳んで此処まで来たが、周りの目を気にしたために時間が掛かってしまった。

ランサーが乗っているであろう船の甲板に着地する。・・・さて、ランサーは何処かな。

油断せずに両手の剣を構えるが、ランサー達は出て来ない。・・・船を間違えたか・・・? 

 

「てぇー!」

 

俺の頭に疑問が浮かぶと同時に、足下から声が響いた。

 

「しまっ・・・!」

 

床を貫通してこちらに向かってくる弾丸。

地上ではなく船上だと言うことを忘れていた・・・! 

下から囲むように向かってくる弾丸に向かって剣を振るうが、後手に回り反応が遅れている俺にこれだけの弾丸は対処しきれない。

急いで体中に魔力を巡らせ、頭に向かってくる弾丸のみを狙って剣を振るう。

剣と鎧に衝撃が走る。金属がへこむ甲高い音が立て続けに起こり、いくつかの弾丸が鎧を越えて直接俺に当たる。

 

「ちっ、この鎧を貫通するなんて・・・!」

 

このまま黙っていては追撃を受けると判断し、王の財宝(ゲートオブバビロン)を開こうとしてやめる。

蜀呉の船に近づきすぎている。宝具の展開を見られては、シャオの様に妖術師と疑われてしまうだろう。

それは好ましくない。

ならば、と甲板を切り裂く。弾丸で穴だらけになっていた甲板はそれだけで崩れ、俺は船の内部へと落ちる。

 

「・・・おいおい」

 

以前見たランサーとは比べものにならないほどの多さ。

結構な大きさがある船の内部には数百人のランサーが銃口をこちらに向けていた。

 

「てぇー!」

 

二射目は俺が落ちていることもあって余り命中しなかったが、先ほどの攻撃で鎧の防御力も落ちている。

いくつかは腕や足にあたり、血が流れる。

魔力で何とか補強しているが、さっさと片付けないといけないな・・・。

着地地点の周りにいるランサーを切り裂き、自分の場所を確保する。

 

「相手は一人だっ! 掛かれっ! 掛かれーッ!」

 

「おおおおおおおおっ!」

 

船の中でランサーに囲まれるが、落ち着いて宝具を展開する

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

船の船底ごとランサー達へと宝具の雨を降らせる。

目撃者が多い場所では使えないが、此処には俺とランサーしかいない。

何も構うことなく使用できるのだ。

 

「浸水してきたぞっ」

 

「くそ、アーチャーめっ!」

 

何人かが王の財宝(ゲートオブバビロン)から逃れ、斬り掛かってくるが、その銃剣ごと絶世の名剣(デュランダル)で切り裂く。

 

「食らえェッ!」

 

「ぐっ・・・!?」

 

前の敵に集中しすぎたらしく、背後からの一撃に気付けなかった。

何とか致命傷は避けたものの、脇腹に銃剣が刺さってしまった。

 

「くそっ!」

 

「ぐあっ・・・!?」

 

俺に銃剣を刺したランサーの胴体を原罪(メロダック)でまっぷたつにする。

消えていくランサーを最後まで見ずに次の標的へと向かう。

宝具を撃つ。原罪(メロダック)で斬る。また宝具を撃つ。残った敵を絶世の名剣(デュランダル)で斬る。

しばらくその繰り返しをしていると、ランサーの複製達はいなくなった。

ふぅと一息つくと、船が随分浸水していることに気付く。

 

「さて、どうやって次へ向かうかな」

 

甲板を壊して降りてきたために上へ上がる手段は無い。

 

「・・・また泳ぐのか」

 

傷に響きそうだなぁと思いながら出来る限りの修復を施す。

両手の宝具を鞘に戻してから、王の財宝(ゲートオブバビロン)の所為で開いた穴から水中に飛び込む。

中々に泳ぎづらいが、そこは気合いである。

しばらく泳ぐと、次の船が見えてくる。だが水中からでは何処の船かは判断できない。

一度水上へ出ないと。

 

「ぷはっ。・・・うーん」

 

周りを見渡してから小舟を探す。移動手段である小舟は探せば大抵見つかるので足場として重宝している。

あ、あった。

 

天の鎖(エルキドゥ)!」

 

周りに人がいないことを確認してから小舟を鎖で引っ張り寄せる。

小船の上に上がり、次にランサーの乗る船へと天の鎖(エルキドゥ)を放つ。

 

「これは・・・! 総員! アーチャーが来たっ!」

 

「ちっ・・・!」

 

だが、ランサーに察知されてしまったようだ。鎖をたぐり寄せるのを中断し、王の財宝(ゲートオブバビロン)を開く。

開くと同時に、ランサー達は甲板の縁からこちらに銃を構えた。

 

「てぇー!」

 

火薬の爆発する音がして、弾丸がこちらに迫る。

俺は宝物庫から何かの原典の盾の宝具を取りだし、弾丸を防ぐ。

 

「ちっ、盾の宝具か・・・。アーチャーが乗っている船を沈めろ!」

 

それは拙い。さっさと相手の船を沈めなくては。

俺は王の財宝(ゲートオブバビロン)を一瞬だけ開き、船に穴を開ける一撃を放つ。

 

壊れる幻想(ブロークンファンタズム)

 

船の中に宝具が届いた瞬間に宝具を爆発させる。

ランクの低い宝具を爆発させたので、そこまで目立つものではないだろう。

予想通り船は傾き始め、ランサー達は慌てて水の中に飛び込んだり他の船に移ったりしている。

 

「・・・次だな」

 

今日、此処でランサーを仕留める。

 

・・・

 

「・・・ふむ、ランサーとアーチャーは交戦中か」

 

「どうする? 私たちも参戦するか?」

 

「・・・いや、様子見と行こう。どちらかが聖杯に取り込まれれば我々の計画が一歩前進することになるしな」

 

「そうだね。・・・私たちの駒は五湖の兵と共に動き始めたよ」

 

「それでいい。さて、聖杯はどのような反応を示すか・・・楽しみだ」

 

・・・

 

「ようこそ、アーチャー」

 

次に見つけた船に鎖を引っかけ、そのまま甲板に上がると、隣を併走する船の上にランサーとそのマスターを見つけた。

 

「貴様の宝具はランサーにとって天敵だ。・・・だが、此処まで他の兵士達の近くまで来てしまっては、使うわけにも行くまい?」

 

ランサーとそのマスターを視界に入れたまま周りの様子をうかがう。

船はこの間にも進んでいて、兵士達は肉眼でもこちらを見れる状況になっている。どちらかというと蜀呉の本陣に近い場所らしく、翠や白蓮達の旗が見えている。

将達は俺が英霊だと言うことを知っているが、兵士達は知らないだろう。ばれてしまっては桃香が妖術師を抱えていると勘違いされてしまうかも知れない。

・・・成る程、この状況を待っていたのか、このマスターは。

 

「お前達は、聖杯を望むのか?」

 

「当たり前だろう。ならば何のためにこの戦いに身を投じたというのか」

 

「・・・そうか。聖杯を手に入れるためならば手段を選ばない、と?」

 

「それも当たり前だ。このまま進撃し、蜀の部隊を皆殺しにする。その中に貴様達のマスターもいることだろうしな」

 

「なら、お前は俺の敵だ」

 

「ようやく覚悟が決まったのか? ・・・甘い奴だ。どんな英雄なのか気になるところだよ」

 

「甘くて結構。俺はマスターを・・・蜀の人達を守らなければいけないからな。宝具は派手に使えないが・・・全力で行かせてもらう!」

 

「ああ、そうしろ! ランサー!」

 

マスターの声に、隣に控えていたランサーと複製達は三つの横並びの列を作り、銃を構えた。

お互いの射線を邪魔しないように、膝立ちになったりと撃つ姿勢を列ごとに変えているようだ。

 

「了解しました! 狙えッ! 目標、敵サーヴァント、アーチャー! ・・・てぇー!」

 

こちらに向かって数百を超える弾丸が飛んでくる。

いくら魔術に耐性がある鎧を着ていると言ってもギルガメッシュの対魔力自体が低いため、流石に全ては防ぎきれないだろう。

ならば、速攻でオリジナルのランサーを撃破する! 

出しっぱなしだった盾の宝具を顔の前に構え、助走をつけて隣の船へと飛び移る。

途中で盾や鎧に銃弾が当たり、いくつかは貫通して来たが、魔力で応急処置をしておく。

 

「構えーっ! 敵サーヴァント、突っ込んでくるぞ! 近接戦闘よーいっ!」

 

ランサー達を越え、船の縁ギリギリに着地する。

すぐに振り向き、盾を捨て、腰の宝具を二つとも抜刀する

いつのまにかマスターは何処かへ行ったようだ。・・・まぁ、当たり前か。

 

「敵の武器はあの二刀のみ! 数で押すのだ! ゆけっ、ゆけーっ!」

 

銃剣を構えた緑の軍勢がこちらに駆けてくる。不安定な船の上だというのによくやるよ・・・。

黙っているわけにも行かないので、両手の宝具を振りかぶりながら俺も駆け出す。

鎧はかなり傷つき、体には表面だけ塞いだ傷口が幾つかある。

だが、負ける気はしない。

 

・・・

 

「ぬ、ぐおおぉぉぉ・・・!」

 

複製の最後の一人を切り裂き、川へと落とした。

消えていく様を近くの兵達に見せるわけにはいかないための処置だった。

その所為で無用な傷を負い、此処まで消耗してしまったわけだが。

 

「・・・よくやった。・・・だが、此処までのようだな」

 

いつのまにかランサーのマスターがランサーと共に立っていた。

 

「その姿ではランサーと一対一でも苦戦するだろう」

 

「・・・ああ、その通りだよ。だけど、苦戦するだけだ。最後には勝つ」

 

「くっくっく、良い啖呵だ。ランサー、こちらも秘匿は最優先だ。魔力があっても複製は作れん。・・・だが、やれるな」

 

「はっ! 数々の同胞の死が無駄ではないことはアーチャーの姿を見れば分かります。・・・その死に報いるためにも!」

 

「よく言った。・・・令呪によって命じる! ランサー! 全力でアーチャーを倒せ!」

 

ランサーのマスターの腕にある令呪が光り、一画が色を失う。

その瞬間、ランサーへと聖杯から魔力が流れる。

 

「・・・全力で当たらせて貰う。卑怯とは言わせん」

 

ランサーは銃剣を低く構えながら俺に向かって呟くようにそう言った。

 

「構わないさ。・・・これも戦争だ」

 

そう言って、両手の宝具を握り直す。魔力はあるが、修復にも限度はある。

至る所から血が流れており、鎧も煤で汚れたりと十全ではない様子を現していた。

 

「戦争とは・・・嫌なものだ」

 

ランサーがそう言葉にした瞬間、こちらに駆け出した。

魔力のブーストがある所為か、かなりの速さだ。ランサーというクラス補正もあるのかも知れない。

向かってくるランサーの動きをよく見て、突き出される銃剣を斬ろうと絶世の名剣(デュランダル)を振り上げる。

だが、ランサーは突き出した銃剣を引き戻し、銃を撃つ態勢に入る。

 

「しまっ・・・!」

 

「食らえ・・・!」

 

他のどんな武器にもない特性・・・弾丸を発射できるという機能を生かしたフェイントに騙され、至近距離で弾丸を放たれる。

何とか振り上げた絶世の名剣(デュランダル)で防ぐが、急な動きの所為か剣の鍔に弾丸が当たり、はじき飛ばされてしまった。

 

「これで全てを切り裂く剣は使えまい!」

 

「・・・く、そっ!」

 

両手で原罪(メロダック)を握り、横薙ぎに振るう。

しかし撃った直後にランサーは後ろにステップを踏んでおり、空振りに終わった。

その後後退しつつ慣れた手つきで弾丸を装填したランサーは再び低く構えてこちらに突っ込んでくる。

 

「二番煎じが・・・通じると思うかっ・・・!」

 

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

裂帛の気合いと共に銃剣を突き出してくるランサー。

俺はその突きがフェイントかどうかに迷い、一瞬行動が遅れてしまった。

結局フェイントではなく、そのままに突いてきた銃剣に原罪(メロダック)をぶつけてギリギリで逸らせたものの、がら空きの腹に蹴りを入れられた。

 

「ぐっ・・・うぅっ・・・!」

 

流石に英霊と言ったところか、脚力が尋常じゃない。

何とか吹き飛ばされるのは防いだものの、かなりの隙になってしまった。

急いで態勢を整えようと顔を上げると、そこには銃を構え、引き金を引こうとしているランサーの姿があった。

 

「詰みだ。後に続く者の礎となれ」

 

引き金を引く指にぐっ、と力が入れられるのが見えた瞬間、咄嗟に原罪(メロダック)を片手で投擲していた。

もう片方の手で頭部を守るために顔の前に挙げた瞬間、火薬の爆発する音と共に衝撃が走り、目の前が真っ暗になった。

 

・・・




天の鎖(エルキドゥ)の先に鏃のようなものを着けて、それを木とかの柔らかい素材に突き刺し、巻き取る動作を利用して高い場所に移動する装置が・・・」「隊長、何をぶつぶつ言ってるんですか?」「ああ、副長か。どうだ、俺の渡した服は動きやすいだろう」「はい。緑は私の好きな色でもありますからね。お気に入りです」

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