真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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第二話です。
全二十五話の予定ですので、すぐに投稿できると思います。

それではどうぞ。


第二話 魔術と連合と魔術師と

霞との手合わせの翌日、凄い勢いで華雄が突貫してきた。

いや、比喩とかじゃなくて。扉を金剛爆斧で吹き飛ばして、開口一番

 

「手合わせだ!」

 

だって。

その後、呆然としている間にズルズルと引き摺られ、昨日霞と手合わせした中庭へと連れてこられた。

 

「さぁ、いざ!」

 

「阿呆!」

 

金剛爆斧を構えて突進しようとした華雄を、霞が頭にげんこつを落として止める。

・・・助かった・・・。

 

「何をする!」

 

「何をするやあらへんっ。歩いてたらギルが引き摺られてるからなんやろかと思って付いてきてみたら・・・ああもう、華雄っちの阿呆!」

 

もう一発華雄にげんこつが落ちる。

今度のは相当強かったらしく、華雄は頭を抑えてうずくまってしまった。

・・・何この生き物。凄い可愛い。

 

「はぁ・・・ギルなんかあんたの勢いに押されっぱなしだったやないか!」

 

霞の説教が始まった。

・・・今なら、逃げられるか・・・?

アサシンの気配遮断を少しだけ羨ましく思いながら、抜き足差し足忍び足。

何とか戦線を離脱することに成功し、街へと逃げる。

こちらに来てからというもの、城で宝具の練習するか月からの魔力がどうやったら来るかを調べるくらいしかしてないからなぁ。

それに、もしかしたらマスターとかサーヴァントとか居るかもしれないし。

 

「・・・あ」

 

そういえば。

なんで他のサーヴァントは召喚されないんだろう。

セイバーとランサーは召喚されてるし、アーチャーはこの俺だ。

他の四体が召喚されてないなんて・・・おかしいな。

まぁ、恋姫の世界で聖杯戦争がある時点でおかしいんだけど。

この時代には魔術師はかなり少ないだろうし、召喚する人がいないのかな? 

だとしたら聖杯戦争が始まるのはもう少し先だろう。

ふと街の喧噪が耳に入ってくるのを感じて、我に返る。

いつのまにか、城の外に出ていたようだ。

 

「おっ、兄ちゃん、珍しい服着てるな!」

 

屋台のおっちゃんに声を掛けられる。

まぁ、珍しいだろうよ。ポリエステルの服だし。

・・・それにしても、本物の天の御使い君はどうしているのだろうか。

蜀に落ちてたら会えるかもな。

 

「まぁ、会ったら会ったで向こうは混乱しそうだが」

 

一人呟く。

独り言が出てしまうと言うことは、結構寂しいのだろうか。

うーむ、誰か連れてくれば良かった。華雄と霞以外を。

 

「わう」

 

「・・・犬?」

 

って、待て。この首に巻かれた赤い布は・・・。

 

「セキトか?」

 

「わうっ」

 

「おっと」

 

名前を呼ばれたからか、セキトが飛び込んでくる。

少し身をかがめてセキトを受け止める。

まぁいい。この道中のお伴としては最高だ。

 

「少し月からお小遣いを貰っているし、何か奢ってやろう」

 

「わふっ」

 

先ほどとは少し違う鳴き声。喜んでいるのか? 

・・・と言うか、俺の言葉が分かるのか・・・? 

だとしたら、なんて末恐ろしい犬なんだ。

 

「お、ちょうど良いところに」

 

恋姫の原作で幾度も出てきた中華まんの屋台。

取り敢えずこの先金を使う予定もないだろうし、買えるだけ中華まんを買う。

どんなに少なくても、本気を出せば黄金律で何とかなる。

 

「あいよ、毎度あり!」

 

屋台の人から中華まんを受け取り、何処か落ち着けそうなところに向かう。

多分、こうやって大量に中華まんを持ってセキトを連れていれば・・・。

 

「・・・」

 

「やっぱりか」

 

呂布が現れた!コマンド? 

・・・取り敢えず、どうぐで。

中華まんを目の前に出して左右にフリフリと。

 

「・・・」

 

ゆらゆらと顔が左右に揺れてる・・・!

月の微笑みに負けず劣らずな癒しの存在だな・・・。

 

「あーん」

 

中華まんを呂布の口の近くへと持って行く。

 

「・・・ん」

 

あー、と呂布が口を開けて、中華まんに食いつこうとした瞬間、背筋を何か寒い物が走る。

自分の直感を信じて中華まんを呂布の口に放るように離すと、次の瞬間中華まんは消えていた。

俺の前には、口をもぐもぐと動かす呂布。

・・・食った・・・のか・・・? 

俺の目を持ってしても見えなかった・・・。さすがは一騎当千の英雄・・・。

ちょっと面白くなったので、中華まんを三つ持つ。

 

「中華まん三つだ! 手は使うなよ。そらっ」

 

右、上、左の三方向に時間差で投げる。

 

「はむっ。あむっ」

 

二つめまでは成功したが、三つ目は間に合わなかったらしい。地面へと一直線。

危ない、と手を伸ばしかけたが、俺の視界の隅で呂布の足がぶれる。

 

「?」

 

なんだ? と首を傾げる。

・・・あれ? 

 

「中華まんがない・・・。まさか・・・」

 

蹴り上げたのか!? 

セッコより凄いかもしれない・・・。いや、セッコも十分凄いけど。

 

「・・・よしよし」

 

流石に頭を抱きしめて頬ずりはやめておく。

大通りから少し外れているとはいえ、衆人の目があるので、普通に撫でることにする。

・・・この触覚、取ったら黒化するのかな、と妙な好奇心が首をもたげてくる。

本当にやってしまう前に頭から手を伸ばし、さっきから空気を読んで黙っていたセキトに中華まんを半分割って差し出す。

 

「悪いな、ずっとほったらかしで。ほら、食べろ」

 

ばう、と鳴いてから、俺の手に乗った中華まんを食べるセキト。

・・・っていうか、中華まんなんて食べさせて大丈夫なのだろうか。今更だけど。

 

・・・

 

「・・・っあ」

 

「何? どうかしたの?」

 

月達と玉座で作戦会議をしていると、聖杯からお知らせが。

・・・お知らせとか言うとなんか学校の掲示板とかを想像してしまうのは俺だけだろうか。

 

「召喚が確認された。えっと・・・キャスター・・・だな」

 

「魔術師ってやつだっけ? 妖術師みたいなもんでしょ?」

 

どうなんだろう。大分違うと思うんだけど。

 

「とにかく、これで四体目だな」

 

「そうね。後はライダーとバーサーカーとアサシン、で良いのよね」

 

「そうなる」

 

「へぅ・・・。大丈夫なんでしょうか・・・?」

 

不安そうに月が呟く。

 

「大丈夫だって。それよりもさっきの話の続きだ。令呪くらいは使えるようになって貰わないと」

 

「は、はい」

 

「でもまぁ、魔力を流して起動するっていう簡単な物らしいから、ちょっと試してみようか」

 

「試してみるって・・・どうやってですか?」

 

「あー・・・。そっか。魔力の使い方から教えるとしよう」

 

「解りました。頑張りますっ・・・!」

 

「その意気だ!」

 

熱血している俺達のそばで、ため息をつく眼鏡っ娘。もとい詠。

そう言えば、彼女から真名を預かったんだっけ。作戦会議中に賈駆、と呼んでいたら詠がむぅ、と唸って

 

「月だけ真名で呼ばれるのもなんか不憫ね。・・・ボクの真名も預けてあげるわ。詠よ」

 

「・・・場の勢いで教えてしまうのはどうかと。後で冷静になって枕に顔埋めて足をばたばた、なんてされても困るぞ?」

 

「五月蠅いわね。あんたなんか初対面で真名を教えたじゃない」

 

「それはまぁ、価値観の違いって言うことで」

 

「ならボクはボクの価値観であんたに真名を教えたのよ」

 

「はいはい。後で撤回しても聞かないからな」

 

「撤回なんてしないわよ!ふん!」

 

流石ツン子・・・! 怖ろしい子!

ちなみに、後日月から聞いた話だと枕に頭を埋めて足をばたばたさせていたらしい。

もう、うるさくしちゃ駄目だよ、と月に怒られてしょんぼりしていたのが印象的だった。

 

・・・

 

魔法陣の上で、サーヴァントが召喚される。

 

「・・・うーん・・・? 此処は・・・」

 

サーヴァントはまわりを見渡してから、マスターを視界に入れた。

 

「あ。君がマスター?」

 

「そうだよ。君は・・・なんのサーヴァント? どう見てもセイバーとかじゃないのは解るけど」

 

「私? 私はねぇ、キャスターさ」

 

「ホントに? どうも魔術師には見えないけどなぁ」

 

「うーん、だろうねぇ。厳密には、魔術師じゃないし」

 

「へ?」

 

召喚したマスターはキャスターの言葉に虚を突かれたような顔をする。

キャスターはマスターを安心させるように人の良い笑みを浮かべた後

 

「まぁ、安心してよ。君たち此処の住人から見たら、十分私は魔術師さ」

 

「そっか。なら安心した。えっと、真名は教えてくれる?」

 

「ん? んー・・・。真名、思い出せないや。・・・や、どうにも年を取ると駄目だね」

 

「老化で真名を忘れるなんて、凄いキャスターも居たものだ」

 

「大丈夫さ。いつかは思い出すよ。まだ聖杯戦争は始まってないんだろう? なら、気楽に行こうよ」

 

「なんで僕が慰められて居るんだろう。しかもその元凶に」

 

「今からそんなに悩んでたら禿げるよ?」

 

「なら君の髪の毛がふっさふさでぼっさぼさなのは何も悩まなかったからかな?」

 

「うーん、悩みがないのが唯一の悩みだったかなぁ」

 

キャスターの言葉に、マスターが苦笑いしながら答える。

 

「君はキャスターなんだろう? 工房を造ったりとか、準備をしなくて良いのかい?」

 

「大丈夫さ! なんてったって私は、天才なのだから!」

 

キャスターの自信たっぷりな返答に、マスターはやれやれ、降参だよ、と言った後

 

「じゃあ、街を見て回ろうか」

 

「宜しく頼むよ。・・・あ、そう言えば、此処はなんて言うの?」

 

「ここ? ・・・ああ、国ね。此処は曹魏。曹操が収める国だよ」

 

「・・・街の観光が楽しみだよ、マスター」

 

・・・

 

あれから数日。

練習をしていた月は魔力を感じることが出来るようになっていた。

この調子なら、近いうちに令呪を発動させたり、魔術回路に魔力を通すことも出来るかもしれない。

練習が終わり、月は詠に連れられて会議に向かい、俺は暇になった。

・・・街でも行くかな。

 

「おや?」

 

また暇つぶしに街を歩いていると、セキトに出会った。

前に中華まんをあげてから、いやに懐いている。

 

「またなんかたかりに来たか? ・・・って、なんか増えてる・・・」

 

セキトの後ろからぞろぞろと動物たちが。

 

「・・・成る程。軽い気持ちでエサを与えるとこうなる訳か。一つ勉強になった」

 

何故か呂布もいるし。味をしめられたか。

 

「・・・まぁいい」

 

スキルの確認に、と裏通りで賭をやったのだが、イカサマをされていたにもかかわらず勝ちまくってしまった。

黄金律Aと幸運Aは伊達じゃないな、と再確認した次第である。

 

「臨時収入もあったことだし、ごちそうしてやろう」

 

俺がそう言った瞬間、動物たちがわらわらと飛びかかってくる。

 

「うおっ! ・・・な、なんのこれしき・・・俺はともかく英雄王のパラメーターを嘗めるなよ!」

 

一瞬呂布に助けて貰おうかとも思ったが、その肝心の呂布は俺の服の裾を握っているだけで助ける気はないらしい。

飛びかかってこないだけマシか、と開き直って、動物たちを引っぺがす。

 

「おとなしく付いてくるなら良いが、また飛びかかってきたら奢らんぞ」

 

そう注意すると、俺の言葉が分かるのか素直に整列する動物たち。しかもちゃんと背の順に並んでいる。

呂布は今だ俺の裾を掴んでいるのだが、これくらいならどうって事はない。むしろ嬉しいので放置で。

 

「呂布は何か食べたい物のリクエストはあるか?」

 

「・・・中華まん」

 

「よしよし、前回よりも多く買ってやれるからな。楽しみにすると良い」

 

「ん」

 

「わふっ」

 

俺が呂布と話していると、セキトが急かすように鳴く。

 

「はいはい。行くぞ、みんな」

 

様々な鳴き声を背中に受けながら、街を歩く。

少しだけブレーメンの音楽隊を思い出した。

 

・・・

 

呂布達と中華まんやら果物やらを食べていると、凄く和む。

隣でもふもふと中華まんをほおばる呂布を見ていると、遠くから土煙を上げて何かが近づいてくる。

・・・まてよ。この展開・・・もしや・・・!

 

「ち~~~~ん~~~~~きゅ~~~~~・・・」

 

そのまさかだった!

遠くから走り込んでくる小さな影が人間だと解ったときにはすでに彼女は跳んでいた。

ぶわっ、と助走の勢いを殺さずにジャンプ。空中で一回転して、両足をそろえてこちらに突き出す陳宮。

 

「きぃぃぃぃぃぃ~~~~~っっっっく!」

 

「フィィィィッシュ!」

 

突き出された陳宮の足を右手で掴む。

 

「うなぁっ!」

 

逆さづりになった陳宮。

 

「・・・大物が釣れた」

 

「呂布殿っ!?」

 

呂布が呟いた一言に、陳宮がショックを受けている。

だが、すぐに立ち直り、こちらをにらみつけて一言。

 

「いつまでねねをぶら下げているつもりですかっ。さっさと離すのですっ!」

 

この状況で離すと頭から地面に落ちると思うのだが。

そんなことを思いながら、逆さづりのままの陳宮をひっくり返し、脇を持って地面に下ろす。

 

「今日は不覚にもちんきゅーきっくを防がれてしまいましたが、今度はこう簡単にはいかないのですっ!」

 

「ああ、うん、また俺に蹴りを入れるのは確定してるのか・・・」

 

取り敢えず中華まんを与えると、おとなしくなった。

・・・中華まん凄いな。

 

「・・・むっ、用事を忘れるところだったのです」

 

「ん? 何かあったのか?」

 

「はいなのです。詠がギルを呼んでこいと言っていたのです。呂布殿にもお話があるらしいので、一緒に行くのですっ」

 

「・・・ん、わかった」

 

・・・

 

動物たちは解散して、俺と呂布、陳宮は城に戻るため大通りを歩いていた。

詠の用事というのは、反董卓連合結成の檄文が各諸侯に飛んだことについて話し合うためらしい。

連合への対策やらを話し合うため、将は一度集まれと詠が集合を掛けたらしい。

で、呂布を探していた陳宮が俺と呂布一緒にいるのを発見し、ちんきゅーきっくしたとのこと。反省も後悔もしていないらしい。・・・後で躾が必要か。

反董卓連合か・・・。劉備やら曹操やら、孫策やらがいるんだよな。

そのどれかに天の御使いが居る、のかなぁ・・・? 

兎に角、まずはそれを確認したいな。

 

「で、汜水関と虎牢関を通ってくると思うのよ。だからそこに軍を置いて、反撃するわ」

 

詠が将や武官、文官を集めて説明をする。

 

「で、汜水関には華雄と張遼。虎牢関には呂布、陳宮、そして私・・・賈駆がつくわ」

 

「あれ? 詠、俺は?」

 

「月の護衛に決まってるでしょ。もしサーヴァントが攻めてきたらどうするのよ」

 

「・・・それもそうか」

 

「ちゃんと守るのよ。サーヴァント以外からもだからね!」

 

「はいはい。期待には応えるよ」

 

「それならいいけど。・・・じゃあみんな、すぐに準備にかかりなさい!」

 

詠の言葉に、玉座にいた全員が動き始める。

うーむ、確かめに行けないじゃないか。

だが、詠の言うとおり月を一人にするのは危険すぎるからなぁ。

簡単な魔術くらい教えておけば良かったか。使えるかどうか解らないけど。

さて、これが原作通りに行くなら、董卓軍は負けるはず。何が起こるか解らないから警戒は必要だろうが。

負ける、とか言ったらみんな怒るだろうし士気にも関わるので黙っておく。

将は死なないはずだし、何より月と詠が蜀に入るのは必要だろう。洛陽で命を狙われるよりは、蜀で匿って貰った方が安全性は高い。

それに、洛陽とは違う場所ならばマスターも見つけられるかもしれないし。

 

「・・・よし」

 

そこまで決まったのなら、後はみんなの無事を祈ろう。

兵士達が一人でも多く生き残り、生き延びることを祈ろう。

まぁ、今は・・・沈んだ顔をしている月を励ますことから始めようかな。

 

・・・

 

「セイバー、なぁなぁセイバー」

 

「なんだマスター」

 

「反董卓連合って奴が結成されたらしいぜ。うちらも参加するらしい」

 

「だろうな」

 

「なんだ。わかってたのか?」

 

「うむ。・・・それでマスター。一つ頼みが」

 

「なんだ? 酒か?」

 

「違う。その、兵士に志願したいのだが、許可をしてくれないか?」

 

「は? なんでまた」

 

「・・・今は言えぬ」

 

「ま、いっか。あんたにも考えがあるんだろうし。信じておくよ。条件をのんでくれたら、許可する」

 

マスターの言葉に、セイバーが驚く。

 

「なぁ、何故私をそこまで信じるのだ、マスター」

 

「なんでって・・・数日しか過ごしてないけど、俺とお前はもう家族みたいなもんじゃないか。それに、今は言えないって事は後で教えてくれるんだろ?」

 

「・・・まぁ、そうだが」

 

セイバーが気まずそうに答える。マスターは杯に入った酒を飲み干して続ける。

 

「なら今は聞かないさ。あんたのおかげで俺もかなり楽しい毎日を送れてるし。・・・で、条件だけど」

 

「・・・ああ、私に出来ることなら聞こう」

 

「俺も一緒に志願する」

 

「・・・なに?」

 

「これでも親父達が生きてる頃は畑耕したりしてたんだ。体力には自信あるさ」

 

「いいのか?」

 

「いいっていいって。それに、マスターを置いていこうなんて良い度胸だな、セイバー」

 

「・・・その危険をすっかり失念していた」

 

頭を抱えるセイバーを見てマスターは苦笑いをする。

杯を卓に置くと、マスターは立ち上がる。

 

「行くぞ、セイバー。取り敢えず城へ行って志願したいって言いに行かないと」

 

「うむ。ゆこう、マスター」

 

・・・

 

「月、こうしてただ待っているだけと言うのもなんだし、魔術の練習をしておこう」

 

詠達が汜水関と虎牢関に出かけていって二日ほど。

ずっと暗い表情をしている月に声を掛ける。

 

「・・・そう、ですね・・・」

 

無理矢理笑顔を作って、ゆっくり玉座から立ち上がる月。

・・・無理させない方が良かったか・・・? 

一瞬後悔しかけるが、言ってしまった言葉は撤回できない。

いつもの練習より短めに切り上げることにしよう。

 

・・・

 

「おおお、これが汜水関・・・でかいな、セイバー」

 

「うむ、でかいな」

 

セイバーとそのマスターは劉備軍の鎧をつけて汜水関の近くの陣に立っていた。

 

「・・・それにしても、凄いな、袁紹」

 

「なんだっけか。『華麗に敵を撃退しろ』だっけか?」

 

「大体そんな感じ。・・・宝具使っちまえば?」

 

「一瞬それを考えさせる作戦だったな」

 

二人とも苦笑いをしながら先ほど近くを通っていった袁紹の兵の言葉を思い返していた。

 

「・・・で、我等が劉備様が一番槍、って訳か」

 

「袁紹は何を考えているのかねぇ」

 

「何も考えてないと見た。・・・あ、あれって汜水関の将かな?」

 

城壁を指さすマスター。

セイバーはその指の先へ視線を移す。

 

「・・・らしいな。二人か。あの旗は・・・華雄と張遼だったか」

 

「なんだ、将について詳しいのか?」

 

「一応な。さて、そろそろ出陣らしい」

 

「よっし。・・・宝具は使うなよ?」

 

「当たり前だ。此処で兵士として戦う限りは他の者と同じ獲物を使う」

 

関羽達将が前へ進む。

劉備軍の兵達もそれに続き、汜水関の前まで進軍し、そこで止まる。

関羽と張飛は大声を張り上げて汜水関の将へと罵声を浴びせる。

途中で孫策も罵声を浴びせ始める。

 

「・・・成る程ねぇ」

 

マスターが一人呟く。

 

「・・・出てきたぞ。マスター、背中は任せろ」

 

セイバーがそう言ってマスターの肩を叩く。

開いた門からは、華雄の隊が駆けてきていた。

 

「ゆくぞ! はああああああああああ!」

 

関羽が先駆けとして馬を走らせる。

他の将や兵士もぶつかり合うために駆け出す。

 

・・・

 

伝令の兵士が、汜水関に連合軍が到着したと知らせてくれた。

今その知らせが来ると言うことは、多分もう汜水関と連合軍はぶつかり合っているのではないだろうか。

玉座の月は祈るように手を合わせ、堅く目をつぶっている。

・・・無理してでも行けば良かったか・・・いや、そうなれば月を連れて行かないといけなくなるし・・・。

何より月を戦場に連れて行くのは詠が許さないだろう。

 

「・・・ギル、さん?」

 

玉座で祈る月の頭を撫でる。

こうでもしないと月は悪い事ばかり考えそうだし。

 

「もうちょっと力を抜け」

 

「・・・それは、難しいです」

 

「だろうなぁ。ま、言うだけ言っておくぞ。もうちょっと楽に構えろ」

 

「・・・解りました」

 

頭の隅にでもとどめておいてくれれば良いかな。

 

・・・

 

二日後、伝令の兵士が来た。月は緊張した面持ちで知らせを聞く。

 

「汜水関が・・・落ちた・・・?」

 

伝令の言葉を聞いた月が表情を暗くする。

 

「連合軍はもう虎牢関へと向かっているのか?」

 

月の代わりに俺が聞く。

 

「いえ!汜水関で一旦休息を取るらしく、自分が出立するときは動きはありませんでした!」

 

それから、伝令が持ってきた木簡を読む。

被害や、連合軍の様子などが書かれている。

 

「・・・そうか。・・・ありがとう。下がってくれ」

 

「はっ」

 

玉座に月と俺だけになる。

 

「ギルさん・・・」

 

「・・・将は、無事らしい」

 

それだけは言える。

華雄は確か部下達が落ち延びさせ、霞は虎牢関まで下がっている筈だ。

 

「そうなん・・・ですか・・・?」

 

「・・・華雄と霞を信じろ」

 

「はい・・・」

 

少しだけ表情が軟らかくなる月。

 

「・・・詠ちゃん、大丈夫かなぁ・・・」

 

「大丈夫よ、きっと。それに、あそこには呂布がいる」

 

「そうですよね・・・」

 

「取り敢えず、今日はもう部屋に戻って休め。最近、あんまり休んでないだろ?」

 

「・・・それは、虎牢関の人達も一緒です」

 

「それでもだ。一番重要なときに判断力が鈍ったりされちゃあ、困る」

 

「・・・」

 

「無理矢理にでも連れてくぞ」

 

首を縦に振らない月に少しだけ凄むと、しばらくの間の後、ゆっくりと月は首肯した。

 

「・・・わかり、ました。お部屋に戻ります」

 

「そうしてくれ。寝付くまで見張ってるからな」

 

俺がそう言うと、月はくすりと笑い

 

「はい、お願いします」

 

と言って、玉座の間から部屋へと戻るため、歩き始めた。

その後ろから付いていく。

結局、月が寝付くまで、二時間ほど思い出せる限りの童話を話すことになった。

ちょっと喉が痛い。

 

・・・

 

「キャスターキャスター」

 

ドンドンと扉を叩く音。

扉が開き、キャスターが顔を出す。少し・・・と言うか、かなり顔色が悪い。

 

「・・・三徹明けなんだ。ちょっと静かにしてて欲しい」

 

ふらふらと頭を揺らしながら、キャスターは虚ろな目でマスターを視界に入れる。

 

「どうしたの? 徹夜なんて不健康な事して」

 

「ちょっと興味深くてね。此処の文字を勉強しながら本を読んでたら、すっかり三徹さ」

 

「・・・てっきり工房を造ってるのかと思ってたのに・・・」

 

ショックを受けるマスターとは対照的に、キャスターはあっけらかんとした声色で答える。

 

「大丈夫大丈夫。私の工房は私だから」

 

「成る程、分かんない」

 

「だろうね。・・・それより、外が騒がしいね」

 

「そりゃあ、連合軍が汜水関を破ったんだもの。その話題で持ちきりさ」

 

「成る程ねぇ」

 

「それよりも、自分たちのことを考えないと。アサシンとバーサーカーとライダー、どれか来てたりしない?」

 

「・・・いや、まだみたいだね」

 

「そう。・・・いつになったら揃うんだろう」

 

「私は揃わないで欲しいけど」

 

「なんで? 戦いは嫌い?」

 

「それもある。けど、もうちょっと此処を調べたい。なんだか、面白い事になってるみたいだからね」

 

「まったく・・・ほどほどにね?」

 

「善処するよ」

 

再びキャスターは自分に与えられた部屋に戻る。

街で買いあさった本が大量に置いてあり、歴史書から育児の本まであり、かなり節操がない。

 

「良くこんなに買ったね。・・・あ、これ読んで良い?」

 

マスターが一冊の本を取ってキャスターに聞く。

 

「良いもなにも、君がくれたお金で買った本だ。好きにしてくれ」

 

「そうする」

 

二人は、本の中へと思考を潜らせていく。

 

・・・




そういえば拙作を読んでいて聡い方は気づかれているかもしれませんが、私は月が大好きです。
皆さんにも月の可愛さが伝わってくだされば一番嬉しいです。
他の恋姫たちも可愛いんですけどね。

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