真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

21 / 30
主人公君の制服の着こなしは、「胸元を・・・露出する!」。冗談です。

それでは、どうぞ。


第十八話 漂流と天の御使いと覇王と

「ホントだって! 俺と桂花を抱えて跳んだのは、俺と同じ時代から来た奴なんだよ!」

 

北郷一刀は、こっちの世界に来てから五指に入るぐらいの勢いで自身の主・・・曹操に事情を説明していた。

 

「・・・まぁ、他の兵士達もそれを見てるようだし? 疑う気はないのだけれど・・・」

 

将達はほとんど全員集められており、話を食い入るように聞いていた。

・・・ただ、難しそうな顔をして顎に手を当てる張遼だけを除いて。

 

「うぅー、男に抱えられた男に触れられた男に男に・・・んもー! 同じ天から来たんなら、ちゃんと躾ときなさいよ!」

 

「け、桂花・・・そんな無茶なことを言われても・・・」

 

「それにしても・・・問題は実際にそいつを見た将が居ない、と言う事ね。兵達も混乱していたから余り情報が取れないし・・・」

 

「で、でも・・・!」

 

「失礼します!」

 

一刀が反論しようとした瞬間、伝令の兵士が焦った様子で天幕の中へと入ってきた。

 

「何事?」

 

「はっ! 見張りの兵士が、川岸で倒れている・・・その、天の御使い殿を見つけた、とのことです」

 

「・・・はぁ?」

 

「その、北郷様と同じ服を着て、光り輝く金の髪をした方でして・・・」

 

伝令のその言葉に、一刀は自身の限界を超えた速度で反応した。

 

「そいつだ! 俺、そいつに助けられたんだ!」

 

「は、はぁ・・・」

 

「それで? 今はどうしているの?」

 

一刀の行動に驚いた物の、すぐに落ち着きを取り戻した曹操が兵士に聞く。

すると、兵士は言いづらそうに口をもごもごとしながら、話し始めた。

 

「ええと、下手に声をおかけして天の怒りを受けてはいけないと、遠くから見張るだけにしておりますが・・・」

 

「・・・分かったわ。私が直接赴く」

 

「か、華林様っ!?」

 

曹操のいきなりの言葉に、まず反応したのは夏候惇だった。

そんな危ない奴の所に行くなんて、とか危険です、とかまくし立てる間に、荀彧や夏候淵も曹操を止めに入る。

だが、曹操は涼しい顔で止める言葉を一蹴すると、すたすたと天幕の外へ歩いていってしまった。

 

「ああもう! みんな、華琳を追うぞ!」

 

「言われなくても!」

 

少しだけ呆けていた将達を正気に戻し、一刀達は急いで曹操の後を追った。

 

・・・

 

「起きたのは良いけど・・・ここ、何処だよ」

 

私がその場所にたどり着いたとき、天の御使いと同じ格好をしている男は、胡座の格好で、川と対面するように座っていた。

後ろから春蘭たちの声も聞こえるし、一刀の話しによると天の人間は武力を余り持たないらしいから、危害は加えられないでしょう。

そう結論づけると、私は笑顔を作り、口を開いた。

 

「此処は私たち・・・曹魏の駐屯所よ」

 

びくり、と男の体が震える。

やはり、彼は天から落ちてきたのだろうか。最初にあったときの一刀も、こんな反応だった。

だったら、やはり天の御使い。二人も魏に御使いが来ると言うことは、こんな状況でも天運は私にあると言うことか。

 

「取り敢えず、事情を聞きましょうか? ・・・もう一人の天の御使いさん」

 

ぎぎぎ、と音が聞こえるような動作で彼はこちらに振り向く。

後ろで一斉に春蘭たちが警戒する気配が伝わってくる。

 

「・・・なんでさ」

 

そう言いたくなる気持ちも分かるわ、と心の中で呟きながら、一歩、彼に近づいた。

 

・・・

 

後ろを振り向くと、魏の将達が警戒心マックスで並んでいた! コマンド? 

・・・いや、逃げる一択だろ、これ。

だがしかし、俺の体には力が入らない! 

あ、詰んだな。

 

「や、やっぱりあんたは!」

 

曹操の横に立った北郷くんが俺を見るなり驚愕の表情を浮かべる。

いや、そうだろうなぁ。俺も同じ立場だったら同じ気持ちになったんだろう。

 

「・・・初めまして、かな」

 

ゆっくりと立ち上がる。

かなりの長身であるこの体では、ほとんどの人を見下ろす形になってしまう。

 

「・・・へぇ。あなた、一刀とは違って戦える天の御使いなのね」

 

素人臭い俺の動きのクセでも見つけたのだろうか。

曹操が面白そうな物を見る目で俺のつま先から頭のてっぺんまでを眺めた。

 

「まぁ、こんなところで立ち話もなんだし・・・いらっしゃい」

 

そう言って、曹操は背中を向けて歩き始める。

今なら。おそらく逃げられる。

水中をゆく体力はないが、地上を走るならまだ無理はきく。

・・・だけど。

 

「・・・そんな目で見るなよ」

 

北郷くんがこちらを見る目が、あまりにも力にあふれているから。

俺と話しをしたいんだろうなぁ、と簡単に推測できてしまい、逃げるに逃げられなかった。

意志の弱い俺は、月からのパスを通じてゆっくりと魔力が送られてくるのを確認しながら、曹操の天幕まで周りを将達に囲まれながらテクテクと歩いていくのだった。

 

・・・

 

「ギルの反応が無い?」

 

「ああ。先ほどの魔力の奔流が起こった場所へ赴いてみたが、ギルはいなかった。魔力反応もなし・・・流されたか?」

 

「おいおい、あいつ、かなり幸運高くなかったか?」

 

「・・・まぁ、取り敢えず女難の相はあるよな」

 

ちらり、とセイバーは泣き始めた月と、そんな月を介抱しつつ自分も泣きそうになっている詠、本人に貰ったという上着を抱きしめながら俯く響を見る。

恩人が消えたというのが心苦しいのか、孔雀は先ほどからなにやら魔術を使って魔力を感知しようとしているし、女性の卑弥呼はさっきから不機嫌そうに貧乏揺すりをしている。

 

「・・・劉備達蜀の少女達も泣きそうになってたよ。関羽あたりが何とか士気を保ってるって感じだな」

 

「成る程。・・・あの黒い泥によって次の決戦までは数日空いた。その間にギルが帰ってくればよいが・・・」

 

「大丈夫だろう。奴はなんだかんだいって運は良いからな」

 

「違いない。・・・さて、ギルのことはいったんおいといて・・・バーサーカー達の反応はあるか?」

 

「・・・俺のセンサーにも反応はない。・・・退いたのか?」

 

「あの聖杯を置いてか? ・・・無いだろうな」

 

二人は、少女達に刺激を与えないよう、そっと船の甲板へ出た。

 

「あらん? セイバーとライダーじゃない」

 

太陽に向かって己の筋肉をこれでもかと強調していた貂蝉が、後ろを振り向く。

二人は苦笑い気味に返事をして、貂蝉の言葉を待った。

 

「聖杯は無事に修復したわ。もちろん、泥はアーチャーが頑張ってくれたおかげで、被害は無し」

 

「やはり、あれはアーチャーか」

 

「ええ。でも、彼は今、存在が希薄になっている。・・・月ちゃんとのパスが薄いのもその所為よ」

 

「・・・宝具の使い過ぎか?」

 

ライダーの言葉に、貂蝉は頷く。

 

「普通の宝具ならアソコまでの消耗は見せなかったでしょうねん。でも、彼の乖離剣は対界宝具。世界を破壊するほどの威力を、あれだけの時間放っていたのだもの。並のサーヴァントなら消えていてもおかしくないわ」

 

「貂蝉、お前ならギルが何処にいるのか分かるのでは?」

 

貂蝉は、俯いて首を横に振った。

 

「私と卑弥呼は、聖杯の修復に力を使いすぎて、今は感知することすら出来ない。・・・申し訳ないわねん」

 

「かまわねぇよぉ。・・・何も出来ないのは、俺達も同じだしさぁ」

 

ライダーは自分を卑下するようにそう言った。

自嘲の響きを持った言葉は、その場の空気をより重くしていく。

今回の聖杯戦争では、魔力を使わなければお互いの位置さえ解らない曖昧な戦争。

 

「兎に角今は、曹魏との決戦を考えなくてはな・・・」

 

一人呟いたセイバーの言葉は、まるで中身のない、空っぽな呟きに聞こえた。

 

・・・

 

「・・・で? あなたは天から来たの?」

 

「あー・・・天と言えば天かなぁ」

 

神様っぽいのがいたし、召喚という形で降りてきたんだし・・・。

間違ってはいないはず。

 

「貴様ぁっ! 華林様の質問にそんな言葉で返すなどっ!」

 

ああ、夏候惇が常時バーサーカー状態! 

もうやだこの国! 帰りたい! 

良く北郷くんこの国にいてストレスで急性胃腸炎とかならなかったな。

 

「な、なぁ! えっと、フランチェスカの生徒・・・なんだよな?」

 

騒ぐ夏候惇を尻目に、北郷くんが話しかけてくる。

これはどう返すべきなんだろうか。

うん、と言ってもただ無駄な希望を与えるだけか。

 

「いや、違う。この服は気付いたら着ていただけだ」

 

嘘は言っていない。

 

「そ、そう・・・か」

 

「すまんね」

 

そこで、俺は周りの将を見渡し・・・霞と目が合った。

 

「・・・っ、っ」

 

なにやら目配せ身振り手振りで何かを伝えようと頑張っているが、すまん、分からん。

取り敢えず、霞は洛陽にいたときに俺と一緒にいたので、俺については魏の人達より詳しいだろう。

だが、何も言わずに沈黙していると言うことは・・・何か考えがあるのだろうな。

 

「それで? あなたはどうするつもりなのかしら」

 

「どうするって・・・行くところもあるし、解放してくれると嬉しいって感じかな」

 

「行くところ?」

 

「ああ。これでも意外と忙しい身でな。ささっと向かいたいんだけど・・・」

 

俺の言葉に、曹操は腕組みをして、何かを考えるように俯く。

すぐに顔を上げると、そうね、と呟いてから

 

「ま、いいわ。もうこちらには一刀もいるし・・・」

 

「隊長~! 流石にそろそろ誰か寄こし・・・て・・・」

 

曹操が俺に自由を言い渡しかけたその時。

事情を知らされていなかったのであろう李典が天幕の中へ入ってきて、将達が集まっているのと、俺が居るのを見て、目を丸くした。

 

「あ、あ、ああああんたっ! あの時船斬った奴やないかっ!」

 

「え!? あ! ホントなのっ。もう、あの時は服がびしょびしょになっちゃったの!」

 

「・・・」

 

魏の三羽烏が、天幕の中へ入ってきて俺に詰め寄ってきた。

なんで俺此処まで言われなきゃならないんだろうか。・・・船斬ったからか。

 

「船を・・・斬った?」

 

ああ、もう。曹操さんが興味を持ってしまった! 

 

「それ、どういう事かしら、真桜」

 

「え!? えーっと、なんて説明したらええのか・・・。兎に角、そこの兄ちゃんが良く切れる剣で船をまっぷたつにしたんや!」

 

「その後、気による爆発も起こし、短時間で船を一隻沈められてしまいました・・・」

 

李典の説明を、楽進が引き継いだ。

その言葉でますます興味を持ったのか、曹操さんの笑みが本当に半端じゃない。

こう、荀彧を苛めるときのような、うふふ、とでも表現できそうな笑み。

 

「あのー・・・帰っても、よろしい・・・」

 

「訳無いでしょう?」

 

「ですよねー」

 

ごめん、月。決戦が始まる前に・・・帰れたらいいなぁ。

 

・・・

 

あの後、曹操から条件を満たせば自由にする、と言われた。

その条件とは・・・。

 

「はっはっは! 華林様の為に、貴様を切り刻む!」

 

目の前に立つ猪、夏候惇を倒すこと。

もし倒せなければ、俺は此処で船をぶった切った責任を取らされるらしい。

まずい。そんなことになった日には処刑される未来しか浮かばない・・・! 

 

「・・・仕方ない、よな。うん、仕方ない」

 

貸して貰った模造刀を振って感触を確かめる。

うん、まぁ、戦えるだろう。

見つかったときにはこの格好だったので、鎧も原罪(メロダック)も使えない。

だが、此処まで戦ってきた俺の経験と、基本能力の高さでなんとでもなる。

 

「・・・二人とも、用意は良いな?」

 

夏候淵が確認するようにゆっくりと俺と夏候惇をみる。

俺はうなずきを返し、夏候惇はああ! と元気よく返事をした。

 

「それでは・・・始めッ!」

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

始めの合図と共に、猪武将、夏候惇が突っ込んでくる。

彼女の動きは直線的でなにも捻りのないただの突進のような物だが、それを補うほどの速さ、野性的勘がある。

ならば、まずは彼女の速さに慣れることから始めよう。

そう結論づけ、振り降ろされる剣を受け止めずに受け流す。

・・・模造刀で受け止めるなんて無茶はしない。そんなことすれば、折れてしまうからだ。

それに、受け止めるなら両手を使わなければならないが、受け流すならば片手で事足りる。

 

「ぬっ!?」

 

そして、彼女が両手で剣を振るうのに対し、こちらは片手で殴ることも出来る。

風を切る様な音を立てて、俺の拳が無防備な夏候惇の側頭部へと向かっていく。

 

「なめるなぁっ!」

 

しかし、彼女は剣を振り下ろした勢いを利用して、そのまま前に跳んだ。

拳は標的を見失い、何もない空間を拳が通り過ぎる。

 

「中々早いな、夏候惇」

 

「当たり前だ! 私は強いからな!」

 

「ああ、本当にそう思うよ・・・。この人も死後英霊になってるんだろうなぁ、やっぱり」

 

思い浮かぶのは、今回の聖杯戦争でセイバーのクラスになった劉備の姿。

三国志の英雄達は全員英霊化していること間違い無しだろう。

・・・仕方ない。彼女との決着をつけるには、リスクを少し負うしかないだろう。

 

「勝負の最中に考え事とは・・・余裕だなッ!」

 

数歩でこちらとの間合いを詰めた夏候惇は、有り余る膂力で剣を振り下ろした。

振り下ろし始めた瞬間に、俺は地面を蹴り、彼女との間合いを更に詰める。

一瞬でお互いの吐息が聞こえる程までに接近すると、模造刀を持っていない腕で彼女の肩を殴った。

 

「ぐっ・・・!?」

 

剣の軌道はずれ、俺の片腕すれすれを削るように掠っていった。

この隙を逃す物かと片腕で夏候惇の腕を取り、回転させる。

 

「うおっ!?」

 

腕をねじられたことによって、彼女の体はくるりと反転する。

そのまま地面に押し倒して、模造刀を突きつける。

 

「俺の勝ちだ。夏候惇」

 

「・・・くっ!」

 

一瞬呆けていた夏候淵が、慌てて俺の勝ちを宣言し、一騎打ちは何とか終了した。

 

・・・

 

曹魏は撤退し、蜀呉は曹魏を追撃するために一度国境の城まで戻ることになった。

約一週間の間に曹魏の兵を減らす為の策を朱里が思いつき、少しでも有利になるようにと実行されることとなった。

 

「・・・お兄さん、心配だなぁ」

 

「お兄さんって言うのは・・・ギルのこと?」

 

国境へ戻るための片付けをしている最中。桃香の呟きに、孫策・・・雪蓮が反応した。

 

「あ、雪蓮さん。・・・はい、お兄さんは私たちのことを沢山助けてくれました。今度は私たちがって思ってたんですけど・・・」

 

たはは、と桃香は頬をぽりぽりと掻いて苦笑する。

いなくなったと判明したとき、すぐに捜索のための兵が動いたが、一人の将のために何人も人員を割ける訳もなく。

少数での捜索部隊は、いっこうに成果を上げていなかった。

 

「そう。ウチのシャオも世話になったみたいだし、こっちも少し兵を出してみるわ。彼、初対面の人でもすぐに顔を覚えられる位目立つし」

 

「ありがとうございますっ! 助かりますっ」

 

真名を交換してからと言うもの、桃香と雪蓮は更に距離を縮めていた。

 

「いいのよ。作業の方は蓮華に任せちゃってるし、暇だもの」

 

そうそう、聞きたいことがあったのよ。と、雪蓮はぽんと手を叩いた。

 

「あの黒い泥みたいなの・・・あれ、なんだか分かる?」

 

雪蓮が思い浮かべるのは曹魏が撤退している最中のこと。

曹魏の向こう側から、黒い泥のような物が流れ出してきたのだ。

その後、川を逆流するかのように怖ろしい波が起こったかと思うと、二つ共が消えてしまった。

そんな怪現象を目の当たりにして、気にならないはずがなかった。

 

「え!? え、えーっとぉ・・・」

 

「何か知ってるのね?」

 

「・・・はいぃ・・・」

 

それからしばらく桃香は雪蓮の質問攻めにあい、桃香を呼びに来た朱里も巻き込んで、聖杯戦争という世界を揺るがす戦争について説明することとなった。

他の将達には決して口外しないこと、と念を押して、桃香と雪蓮はそれぞれの部隊へと戻っていった。

 

「・・・うぅ、ごめんねお兄さん。喋っちゃった」

 

「はわわ・・・ごめんなさいです・・・」

 

桃香と朱里は、二人仲良く肩を落としてとぼとぼと歩いていった。

 

・・・

 

「国境近くの城まで戻るようだね」

 

「・・・大きな戦が終わった後は気が緩む。そこを狙うぞ」

 

「了解。キャスター、出陣するよ」

 

「・・・分かってるよ。準備は万端だ」

 

「なら良い」

 

「バーサーカー、俺に戦果を寄こせ」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

・・・

 

夏候惇を打ち破り、曹操にしつこく勧誘されながらも、何とか自由を勝ち取った俺。

その後、蜀の部隊へと戻ろうと魏の駐屯所を去ろうとしたとき

 

「あ、あの!」

 

北郷君に呼び止められ、少し話しがしたいとかで人気のないところで二人、じっくり話すこととなった。

 

「・・・お、俺は北郷一刀! えーっと、あなたは?」

 

「俺はギル。宜しくな」

 

「ギル、か。・・・ギルもやっぱり、現代から?」

 

「そんな物かな。交通事故にあって、気付いたら此処にいた」

 

中々端折った説明だが、間違ってはいない。

 

「交通事故・・・。でも、体は無事だよな?」

 

「まぁね。ま、その後蜀の人に拾われて、今まで過ごしてきたんだけど」

 

「そ、そうだったのか・・・。俺達、どうなっちゃうんだろうなぁ」

 

どうなっちゃう、か。

いくら曹操達魏の武将達と仲良くなっても、ホームシックとでも言うような郷愁の念はあるのだろう。

 

「・・・ま、お互い頑張ろうじゃないか、北郷くん」

 

「そうだな・・・。あ、俺のことは、一刀で良いぜ。・・・いつか、平和になったら・・・また、話そうな」

 

「ああ。・・・きっとすぐに、平和になるさ」

 

一刀に別れを告げ、今度こそ曹魏の陣地を後にしたのであった。

 

・・・

 

国境近くの城へとたどり着いた蜀の部隊。

休息や部隊の再編成、離れていた間に新たに起こった問題なども解決しなければならず、軍師や文官はもちろん、武将達もあわただしく城を行き来していた。

その中で、自室での待機を命じられた月と詠。理由は、精神的な消耗だった。

 

「・・・ギル、さん」

 

以前は離れていても一日やそこらで帰ってきていたし、倒れてずっと話せなかったときも、そばにはいられた。

今回は何日も離れているというわけではないが、何処に行ったのかも分からなくなり、ただまだ生きていると言うことがかろうじて分かるだけ。

蜀呉同盟の話しの時に独断で戦いに赴いた事もあるアーチャーは、かなり無茶をすることを経験で知っていた。

そんな状況に月が耐えられるはずもなく、仕事が何も手に付かなくなってしまっていた。

 

「もう・・・何処に行ったのよ、あいつ・・・」

 

詠は、ある意味で月よりも消耗しているかも知れなかった。

軍師としての考えが、ありとあらゆる最悪の事態を想像してしまう。

更に、詠には月のようにパスでアーチャーと繋がっているわけでもないので、アーチャーの存在を感じ取れない不安もある。

休もうとしない二人は桃香達に叱られ、心配した蜀の将達から無理矢理にでも休むようにと伝えられてからも、二人はこうして落ち込んでいたのだった。

そんな中、コンコン、と扉が叩かれる。

 

「・・・どなたですか?」

 

「私ー。響。入るよ?」

 

「・・・どうぞ」

 

扉を開いて入って来たのは、二人には及ばずとも、目の下にくまができている響だった。

月と詠が抜けた穴を埋めるべく、侍女として働き、アサシンにアーチャーの行方を捜させたりと、他のことだけを考えることによって彼女はギリギリ精神の平衡を保っていた。

 

「ごはん、食べない? そろそろハサンも戻ってくるから、何か情報があるかも知れないし」

 

響は今、アサシンとの念話を切っていた。

仕事中にアサシンと話していれば集中力がとぎれてしまうし、最悪の報告を聞いたとき、取り乱さない自信が無かったからだ。

そのため、報告を竹簡に纏めて持ってくるよう、響はアサシンに言い含めていた。

 

「・・・ごめんなさい。今は、何も・・・」

 

「そんなこと言わないのっ。ほら、ギルさんが帰ってきたときにそんなんじゃ、怒られちゃうよ?」

 

「無事に帰ってきてくれるなら、いくらでも怒られます。・・・怒られた方が、ましです」

 

手強い・・・響の脳裏には、その一言だけが浮かんだ。

そのすぐ後、はっとした響は、再び口を開く。

 

「月ちゃん・・・それでも、だよ。魔力は主から流れるんだよ? 月ちゃんがご飯を食べなくて元気が出なくちゃ、ギルさんに魔力がいかないんだから」

 

月本人が駄目ならアーチャーも絡めて話せばいい。

これならどうだ・・・? 

おそるおそる月の言葉を待つと・・・

 

「・・・わかり、ました。頑張って食べます」

 

よし、と心の中でガッツポーズ。

このままの調子で、と詠にも視線を向け、話しかける。

 

「ほら、詠ちゃんも」

 

「ボクは良いでしょ。月と違って、マスターじゃないんだから」

 

・・・うわ、こっちの方が厄介だ。助けて、ギルえもん。・・・ギルえもんってなに? 

そんな益体のないことを考えていると

 

「マスターじゃないからってご飯を食べない言い訳にはならないんじゃないかな」

 

突然、四人目の声が聞こえた。

三人が声の聞こえた扉の方を向くと、器用にも片腕で腕を組んだ孔雀の姿があった。

 

「全く、響が中々戻ってこないから見に来てみれば・・・」

 

アーチャーから貰った執事服の上から白衣に身を包んだ孔雀は、ため息をつきながらも二人の前まで歩いてきた。

 

「ちょっとは食べておかないと、ただでさえ低い身長が伸びないよ?」

 

「っ、ボクと同じくらいの身長のあんたに言われたくないわよっ」

 

「ふっ、ボクの方が少しだけ高いの、知らないんだ」

 

詠の反論に、孔雀は余裕の笑みを浮かべる。

そんな言い合いをしている二人は、なんだか姉妹のように見える。

そして、孔雀の余裕たっぷりの笑顔は、詠の怒りの沸点を軽々と超え・・・

 

「ふんっ! 分かったわよ! 食べりゃいいんでしょっ?」

 

「それで良いんだよ。・・・全く、世話を焼かせるマスター達だ」

 

きびすを返した孔雀は、やれやれと肩をすくめながら部屋を出て行った。

 

「ありがとねー、孔雀ー」

 

「良いって事よー。・・・洗濯当番、二回。よろしくねー」

 

「うっ・・・い、いいよっ。二人が元気になるならっ・・・!」

 

去り際にさらりと当番を押しつけた孔雀に唇を噛みながらも、響は二人のご飯を用意していくのだった。

 

・・・

 

徒歩でしばらく。そこから森の中へ入り、夜を待つ。

元々無い人気が更に無くなったところで、飛行宝具、黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)を取り出す。

魏の駐屯所で休憩し、歩いている内に何とか魔力が回復して使用可能になった飛行宝具に乗り込み、一路国境近くの城へ。

戦闘が終わったのなら、何処かの城には居るだろうと考えてのことだったが、幸運のおかげか一度でその城を見つけることが出来た。

 

「・・・うん、間違いないな」

 

あの戦闘以来、薄くなっていたパスでも感じ取れるぐらい、月を近くに感じ取れた。

 

「行くか。また、泣かせることになるだろうけど」

 

もしかしたら、嫌われちゃうかもな。

そんな事を考えつつ城へと足を進める。黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)に乗ってきたが、近くの森で降りたので目撃者は居ないだろう。

夜だからか、城壁に数人の見張りがいる以外は人を見ない。

・・・おや、誰か走ってるな。

てってって、と軽い足音が聞こえる。小柄な体格の人が走っているようだ。

 

「あわわ、えとえと・・・」

 

きょろきょろと周りを見回しながら現れたのは、蜀のあわわ軍師こと、雛里だった。

 

「お部屋はどっちに・・・ふにゃっ!」

 

考え事をしていた所為か、雛里を避けられずにぶつかってしまった。

雛里は尻餅をついてこちらを見上げると、驚きで目を見開いた。

 

「ごっ、ごめんなさ・・・っ!? あわわっ、ぎ、ぎぎっ、ギルさんっ!」

 

「久しぶり。・・・って程には離れてないかな?」

 

せいぜい半日程度だ。

尻餅をついた雛里を抱き上げながら、片手で抱いて頭を撫でる。

 

「あわわ・・・。い、いつ、お帰りに?」

 

「今さっき。誰か居ないかなって探してたら雛里がいたんだ。いやぁ、偶然とはいえ、こっちに来てくれて助かった。良い子だなぁ、雛里は」

 

「ひゃわっ、そんな、良い子だなんて・・・!」

 

「取り敢えず桃香に帰ってきた報告をしたいんだけど、何処にいるかな」

 

「あ・・・ごめんなさい、私もその、慣れてないお城で迷ってしまって・・・」

 

「そっか。なら、適当に歩いていこうか。そのうち見つかるよ」

 

「は、はいっ!」

 

にっこり、と笑って返事を返してくれる雛里。

この子の満面の笑みは、たまにしか見られないからかなり貴重だ。

風呂上がりなのか寝る前だったのか珍しく髪を結っていないので、髪を梳くように撫でながら城内を歩く。

見回りの兵士に桃香の居場所を聞いてみたり、道を聞いている内に、一つの扉の前にたどり着く。

 

「此処か・・・意外と長い道のりだったな・・・」

 

「あわわ・・・失礼ながら、ギルさんがあそこで東と西を間違えなければ・・・」

 

「うっ・・・。ある歌に釣られて逆に覚えてたんだよなぁ・・・。そういうけどな、雛里。雛里もその途中で兵士の言葉を聞き間違えてたよな?」

 

「あ、あれはっ、その、ドキドキしてて聞き逃してしまったというかなんというか・・・!」

 

二人の間に一瞬の沈黙が降りた後・・・

 

「・・・不毛だな」

 

「・・・不毛ですね」

 

ふぅ、と二人同時にため息をつく。

 

「ま、たどり着いたから結果オーライだ」

 

「おーらい?」

 

「・・・終わりよければすべてよしってこと。さて、桃香ー?」

 

こんこん、とノックしてもしも・・・ノックして声を掛ける。

すると、寝てないっ、寝てないよっ! と部屋の中から声が聞こえ、ばたばたと扉まで走ってきた桃香は、勢いよく扉を開けた。

 

「あのね、私は別に寝て無くて・・・って、ギルさんっ!?」

 

「こんばんは。夜分遅くに済まないな。お邪魔しても良いか?」

 

「こ、こんばんは、桃香さま」

 

「・・・ふえぇ、私、まだ寝ぼけてる?」

 

小首を傾げてそんなことを言い放ったので、ほっぺたを軽くつねる。

や、柔らかい・・・この子に堅い所とかあるのかな。骨すらふにゃふにゃっぽそうなんだが。

 

「ふぃふふぁん、ひゃめふぇーっ」

 

ギルさん、やめてー、と言っているらしい。

名残惜しいが、手を離すことにした。さようなら桃香の柔らかさ。ただいま雛里のなめらかヘアー。

お風呂上がりでかなりしっとりしている髪を撫でて満足していると、桃香が慌てて俺達を部屋に迎え入れた。

 

「その、散らかってますがー・・・」

 

桃香の部屋に着いてから雛里を降ろし、奥まで歩いていく。

すると、そこには・・・書簡、書簡、書簡の山があった。

なにこれ、と聞くと、溜まっていた案件や問題、それに部隊の再編成に掛かる費用などの決済を求める書簡らしい。

昼間、朱里達とやればいいのにと返すと、夜の間に少しでも進めておきたかったとのこと。無茶するなぁ。

 

「そ、それでね、寝起きだったから混乱しちゃったんだけど・・・さっきのは忘れてくれると嬉しいかなぁ、とか思っちゃったり・・・」

 

「大丈夫だ桃香」

 

ぽん、と優しく桃香の肩に手を置き、目を合わせて語りかける。

 

「お、お兄さん・・・ありが」

 

「きっちりと、俺の脳内に保存しておいた!」

 

「と・・・う・・・? ・・・お、お兄さんのいじわるーっ」

 

おっとっと、桃香をいじくるのが楽しくて忘れるところだった。

ひとしきり笑ってから、こほん、と咳き込む振りをして話題を変える。

 

「ん、それで話は変わるんだけど」

 

「・・・なに?」

 

私怒ってます、と一目見て分かるくらいに頬を膨らませた桃香が、俺と目を合わせずにそっぽを向いてそう答えた。

ほほえましいなぁ、と笑いながら、泥についての話しと、その後何をしてきたかを報告した。

報告が終わった後、曹魏に行ってきた話しのあたりからずっとがくがくぶるぶる震えていた雛里が無事で良かったです、と泣き始め、いったん雛里を落ち着かせることになった。

 

「・・・落ち着いたか、雛里」

 

膝の上に抱え、俺の胸に顔を埋める雛里を落ち着かせると、恥ずかしそうに彼女は口を開いた。

 

「ふぇ・・・。お、お見苦しいところを・・・」

 

「見苦しくなんか無いって。泣いてる雛里も可愛いかったよ」

 

・・・言っている自分すらダメージを受けるこの台詞・・・! (自分への)圧倒的破壊力・・・ッ! 

だが、雛里を落ち込ませるくらいなら俺がダメージを引き受けよう! 頑張れ俺! 

 

「か、かわっ、きゃ、きゃきゃきゃ・・・!?」

 

ひなり は こんらん している ! 

再び落ち着かせるためになで回しつつ、その間に桃香の質問に答えていく。

 

「あ、あの、曹操さんは、私たちのこと何か言ってた?」

 

「いや。・・・俺が蜀の人間だって事は隠してたから」

 

「そ、そっか。・・・そうだよね」

 

蜀の将だと知られたら自由にされるかも怪しかったしな。

最悪の場合、曹魏のど真ん中で宝具を使う羽目にもなりかねん。

それからいくつかの質問に答え、よし、と立ち上がる。俺の代わりに、椅子には雛里を座らせた。

 

「そろそろ月の所へ行こうと思うんだけど、いいか?」

 

「え・・・? ま、まだ行って無かったのっ!?」

 

がし、と凄い勢いで肩を掴まれた。え、ちょっと、痛い痛い! 何この子、凄く力強い! 

 

「あ、ああ。まずは桃香に報告かなと思って・・・」

 

「まずは月ちゃんにただいまでしょっ! もう、一番に私の所に来てくれたのは嬉しいけど、月ちゃんも心配してたんだから、すぐに行かないとっ!」

 

「わ、分かった分かった! 部屋の位置は?」

 

「えっと、この廊下をまっすぐ行って・・・」

 

桃香から月の部屋の場所を教えて貰い、すぐに走り出した。

ああもう、いつも泣かせてばかりだな・・・。

せめてこの城へ滞在している間は、ずっと月を笑顔にしていてあげたいものである。

 

・・・




「交通事故・・・か・・・。今の体なら、車のほうが無事じゃすまないな・・・」「あいつ、あんなところで黄昏てどうしたんだ?」

誤字脱字のご報告、ご感想お待ちしております。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。