真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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「もそもそ・・・」「もそもそ・・・」「(きっ、気まずい・・・!)」

それでは、どうぞ。


第十九話 帰還と花と口付けと

「ごちそうさま、です・・・」

 

「ご、ごちそうさまって! 全然食べて無いじゃない! 璃々ちゃんでももっと食べるよ!?」

 

「で、でも、ホントに食べられなくて・・・」

 

扉の向こうから、そんな会話が聞こえてくる。

焦る気持ちを抑えて、扉をノックする。

 

「く、くじゃえもん、助かったっ!」

 

響の声がしたあと、扉が開いた。

涙目の響の顔が、一瞬で驚きの顔に変化した。

 

「ぎ、ギルえも・・・じゃなくて、ギルさんっ!」

 

「ギルですってっ!?」

 

「ギル・・・さん・・・!」

 

俺を認識した瞬間に飛び込んできた響を受け止め、その後に抱きついてきた月をもう片方の手で受け止めた。

 

「ただいま、三人とも」

 

「はぅぅ、心からのお願いって届くんだねっ・・・!」

 

「うゅぅぅぅ・・・」

 

ホント流石っ、流石ギルさんっ、と言いながら嬉し涙を流す響と、なんだか可愛い声を上げる月を撫でる。

うわ、半日でもかなり久しく感じるな。

 

「・・・無事に、帰ってきたのね」

 

一歩離れたところにいる詠も、そう言って歓迎してくれる。

二人が落ち着くまでしばらく好きにさせた後、取り敢えずいろいろと説明するよ、と三人を座らせた。

 

「ん? ・・・おっと、飯の途中だったのか」

 

そう言えば、部屋に入る前になんだか問答していたような・・・。

俺がそんなことを考えていると、響が聞いてよギルさんっ、とこちらに詰め寄ってきた。

 

「月ちゃんと詠ちゃん、ギルさんの事が心配だからってご飯食べないの! 二人ともご飯食べるよりギルさんに怒られたいとか堂々と変態宣言してたのっ!」

 

なんだと。そんなおもしろ・・・心配になるような発言を!? 

 

「へ、へんたっ・・・!?」

 

「ちがっ、違うわよギルっ! そんなこと言ってな・・・い、事もないけどっ! 事実がねじ曲げられてるわっ!」

 

「変態・・・私、変態・・・」

 

「だって言ってたじゃんっ。私は聞いたんだからね! 嘘つき良くないっ」

 

「だーもうっ! 良い!? 響の言ってることは嘘なんだからっ。信じちゃ駄目なんだからっ」

 

「この手のつけられてないご飯が何よりの証拠だよ!」

 

「へ、変態なのかな、私・・・」

 

「月はいつまで落ち込んでるのよっ! ・・・って、何その笑み!? 怖い、怖いよ月っ!」

 

「ふぇ? ど、どうしたの詠ちゃん?」

 

・・・な、何だこのカオスは・・・。

取り敢えず、響の話しを纏めてみると、月と詠がろくに食事を取らなくなったのが問題と言うことだろう。・・・変態宣言云々は置いておくとして。

 

「月、詠、きちんとご飯は食べないと」

 

「・・・だ、だって・・・。ギルさんはもっと苦しいのかなって考えただけで、ご飯なんて・・・」

 

「そ、そうよ。・・・変な後悔みたいのが胸に浮かんできて、食欲なんて・・・」

 

・・・どうしようか。

二人の落ち込みレベルは半端じゃない。

ちらり、と響を見るも、凄い勢いで首を横に振られてしまった。

孤立無援。何ともまぁ、絶望的な状況である。

・・・だが、此処を乗り切れずして、何がサーヴァントかっ。

覚悟を決め、二人の頭にぽんと手を置く。

 

「ぎ、ギルさん・・・?」

 

「ギル・・・」

 

「心配してくれたのは、本当に嬉しい。・・・だけど、二人がそんなんじゃ、素直には喜べないな」

 

出来うる限り優しく、二人を宥める。

 

「・・・そうだな、俺も晩飯食べてないし・・・。一緒に食べようか」

 

「そ、それが良いよっ。待ってて、確か少し余ってるはずだから!」

 

響にアイコンタクトをすると、すぐに行動に移してくれた。

彼女は気配りの出来る良い子である。後で何かお礼しておこう。

・・・さて、後は・・・

 

「じゃ、響が帰ってくるまで詠でも撫でてるかな」

 

「ど、どうしてそうなるのよっ!」

 

「いやほら、さっき響と月は撫でたけど、詠はまだだったろ?」

 

「さっき撫でられたから良いわよ! あ、もう、なにして、きゃっ!?」

 

わたわたと混乱している詠の後ろに回り、椅子から抱き上げる。

そのまま俺の椅子へと戻り、詠を膝の上にのせて座る。

 

「もうっ。・・・な、撫でるなら、さっさとしなさいよっ」

 

そう言って、詠はゆっくりとこちらに体を預けてきた。

以前何か仕事で失敗してたとき、こうやって撫でると喜んでくれたので、またやってあげようと思ったわけである。

・・・長い付き合いだから、詠が本当に嫌がってるかツン子になっているのか位は分かる。

今は、恥ずかしいけど嬉しいというツン子モードだろう。こう言うときの詠は、口が少しつり上がるのだ。

俺に体を預ける詠の髪を、整えるように撫でる。さっき暴れたからか、少し乱れていたのだ。

 

「ん・・・。く、悔しいけど、安心するわね・・・」

 

「悔しいのか?」

 

「悔しいのっ」

 

・・・乙女心はよく分からない。

あと、さっきから瞬きもせずにこちらを見ている月もよく分からない。・・・っていうかちょっと怖い。

え、何これ。怒ってるのか? ・・・まさか、やきもち・・・とか・・・? 

 

「お待たせっ! ついでに私も食べるから二人分っ」

 

どうしようかと考えを巡らせる前に、扉を開けて響が入って来た。

 

「わわわっ」

 

その声に慌てて俺の膝の上から降りた詠は、自分の席へと戻って言ってしまった。

・・・ううむ、手が寂しい。

 

「ん? どしたの、詠ちゃん。なんか良いことあった?」

 

二人用の食事を盆に載せながら、響は首を傾げた。

 

「か、関係ないでしょっ。ほら、良いから食べるわよっ」

 

「そ? ・・・ま、いっか。はい、ギルさん」

 

ことり、と俺の前に置かれる料理達。出来てから時間が経ってるからか、少し冷えているが美味しそうだ。

俺の前に料理を置いた後、今日は俺の対面に座った。料理が置かれているのは少し大きめの四角い卓で、対面に響、両隣に月と詠という配置だった。

 

「じゃ、いただきますか」

 

「ああ。いただきます」

 

「いただきます」

 

「い、いただくわ」

 

四人それぞれ食前のあいさつをして、箸を取る。

 

「で、ギルさん。何やってたの?」

 

響が、料理を口に運ぶ前にいきなりそんなことを聞いてきた。

 

「・・・いきなり抽象的だな」

 

「えへ、だって難しいことは良く分からんのです」

 

・・・可愛く言われてもなー。

 

「取り敢えず、また何か面倒ごとに巻き込まれてるのは聞いたよ。聖杯の泥? とかと対決してたんでしょ?」

 

「まぁ、おおむねそんな感じかな。その後魏の駐屯所に流れ着いて、曹操と話し合った後に、こっちに帰ってきた」

 

「魏に!? ・・・良く帰ってきたわねあんた」

 

詠が驚きを露わにしてこちらを見た。

 

「まぁねぇ。取り敢えず、明日にはセイバー達にも報告しなきゃいけないし。今日はゆっくり寝たいなぁ」

 

それからしばらく、食事をしながら三人からの質問に答えていると、数十分で食べ終わった。

食器を片付けに行った響を待ってから、次は俺から質問することに。

半日と少し程しか離れていないが、曹魏撤退のあたりから居なかったのだ。その後の事を聞いてみた。

 

「そうね・・・。こっちも似たようなものかしら。僕達が居た本営の船は泥から一番遠かったし、余裕を持って撤退してたわ」

 

「正刃さんと雷蛇さんは、それぞれ本営から少し離れた前線で負傷兵とかを纏めて岸に上げてたらしいよ」

 

カリスマ持ってて助かったって正刃さんが言ってた、とは響の弁である。

うん、カリスマって凄いんですよ。A+持ってると、ホントに実感する。

 

「後は・・・そうね、女の方の卑弥呼が明日来るとか言ってたかしら。金ぴかの無事な姿を見るまでは安心できないって」

 

ほう。卑弥呼(女)にそう言ってもらえるとは。決死の戦いを挑んだ価値はあったな。どうもあれから気に入られているらしい。

そうだ、孔雀はどうしてるだろうか。彼女にはサイズのあったメイド服を取り出そうとしても、何故か執事服しか出て来なかったからそれを着てもらってるんだが・・・怒ってないかな。

 

「孔雀ちゃん? あー、もう寝たんじゃないかな。今日は慣れないお仕事で疲れたって言ってたし」

 

「そっか。明日お礼しておかないとなぁ」

 

「・・・ま、何にしても、ギルさんが無事で良かった! ・・・ふぁぁ。安心したら眠くなっちった。じゃ、寝るねっ。おやすみー」

 

「ああ、ありがとうな響。助かった」

 

「えへへ、ま、明日何か奢ってくれるって事で」

 

「いくらでも。それじゃ、お休み」

 

「お休みなさい、響ちゃん」

 

「おやすみ。ゆっくり休みなさいよ」

 

三者三様の言葉を聞いた響は、小走りで部屋を出て行った。

 

「ふぅ、それじゃ、俺も寝るかな」

 

明日からはかなり忙しくなりそうだし。

そう思って立ち上がると、裾を引っ張られた。

 

「ん? 月、どうした?」

 

「あ・・・そ、その・・・ギルさんがお嫌でなければ・・・一緒に寝ませんか?」

 

・・・おっと。

上目遣いに上気した頬、トドメは潤んだ瞳か。我が人生に一辺の悔いも、とか言いそうになる。

思わず了承しかけたが、ちょっと待って欲しい。

月を隣にして、俺はゆっくりと眠れる保証がない。つまり、明日に響きそうだ、と言う結論に至る。

だけど、月と一緒に寝ると言う誘惑には抗いがたい。と言うか、抗いたくない。

そこで、俺はもう一人の意見を聞くことにした。詠が嫌がれば月と寝るのは諦めよう。詠が少しでも乗り気なら・・・ふふふ、明日は欠伸をかみ殺しながら仕事をする決意を固めなければいけなくなるな。

 

「そうだな・・・。詠は嫌じゃないのか?」

 

侍女扱いである彼女たちの部屋はやっぱり二人で兼用である。

しかもいつも使っている部屋ではないので、寝台も通常サイズだ。いや、それでも小柄な二人は余裕で寝れるのだけど。

 

「ボク!? ・・・そ、そうね・・・ボクは、その、いや、じゃ・・・ないかも・・・」

 

何故だ。

何故にこう、詠まで乙女っぽくなっているのだ。

いや、だが、こうなれば覚悟を決めよう。

目を閉じ、ゆっくり深呼吸。心の中で頷いて

 

「そっか。なら、ご一緒させて貰おうかな」

 

一晩中、戦うことを選んだ。

 

・・・

 

ただ今、深夜の二時頃である。

完全に感覚に頼っているため、時刻が正確である保証はない。

外は静かなものである。時たま風が気を揺らす音が聞こえる以外は、ほとんど何も聞こえない。

そんな中、俺はというと。

 

「えへへ、ギルさん、温かいです」

 

「・・・別に、抱きつきたい訳じゃないんだからねっ。こ、こうしないと、落ちそうってだけで、別に、その・・・」

 

両手に花状態になっていました。

俺が寝ころんでから、月と詠の二人は両隣から俺に密着。

月は嬉しそうにしながら抱きつき、詠は先ほどから言い訳をしながら抱きついてきているのであった。

今日は風呂の日だったのか、月と詠からは良い匂いがするのである。何で女子ってこう、良い匂いがするのだろうか。反則じゃないか。

 

「ほら、明日から月達も仕事に復帰するんだろ? 早く寝ないと」

 

そう言ってみるが、俺の両隣の少女達はと言うと

 

「へぅ。・・・もうちょっと、お話していたいです」

 

と、寂しそうな顔をして言い放つ月と

 

「い、今までの分、取り戻さないとだから・・・」

 

なんて、意味不明の供述を続ける詠の二人にはまだまだ寝るつもりはないらしく、ぽつぽつとつぶやきのような会話をしながら時間を過ごした。

そのうち、眠気が襲ってきたのか、二人は静かな寝息を立てるようになった。

さて、このままじゃ眠れないので抜け出すか、と体を起こそうとすると、二人が俺の腕を一人片腕ずつ拘束していた。

 

「・・・もういいや。眠ろう」

 

目をつぶっていれば何とかなるだろ。

そう思い、寝台の上で目を閉じる。

すぅすぅ、と言う月のものらしき寝息が聞こえてきて、全く眠れない。

しばらく目をつぶって静かに耐えていると、腕の感触が片方無くなった。

・・・? 

右に抱きついていたのは・・・詠だな。どうしたんだろうか。

疑問に思いつつも目を閉じていると、ぎっ、と寝台が鳴った。

俺の上に誰かが乗っている。・・・っていうか、この状況では詠しかあり得ない。

 

「・・・ギル、寝てるわよね?」

 

やはり。この声は詠である。間違いない。

どうしたんだろうか、と思うが、一瞬で月に言われたことが思い浮かぶ。

他の人の想いも受け止めろ、と言われたあれである。

 

「起きてても別に良いわ。・・・もう、我慢できないんだし」

 

投げやりにそう言った詠は、俺に覆い被さるようにこちらの唇に自分の唇を当てた。

おお、月もだったけど、詠も柔らかいな、なんて思っていると、すぐに口は離れていった。

 

「し、しちゃった・・・。ぎ、ギルが悪いんだからねっ」

 

「・・・何で俺が悪いんだよ」

 

しまった。そう思ったときにはもう遅かった。

いつものノリを引き摺っていたのか、思わずツッコミを入れてしまった。

目もバッチリ合ってしまっている。驚く詠は新鮮だなぁ。

 

「お、おきっ、おお起きてっ!?」

 

「しっ、月が起きる」

 

「あ、う、うん。・・・起きて、たの?」

 

「実は」

 

「ど、どのへんから?」

 

「寝てないから、全部聞いてた」

 

「あうっ・・・。起きてるのって、聞いたじゃないっ」

 

何故か怒られる俺。至近距離で会話しているため、とても顔が近い。

 

「・・・で、改めて聞きたいんだけど・・・」

 

「い、言わないわよっ」

 

「そんなこと言わずに。な?」

 

そう言って、詠の頬を撫でてみる。

一瞬で真っ赤にゆであがった詠は、ううう、と唸りながらも声を絞り出すように言った。

 

「な、なにを、聞きたいのよ・・・?」

 

「そりゃあ、何でこんな事したか、だな」

 

ある程度予測は付いている・・・と言うか、一つしかないだろうとは思うけど。

 

「そ、そんなの、決まってるじゃない。察しなさいよ」

 

いまだに俺の上に乗っかっている詠は、顔を逸らしながらそう言った。

 

「詠の口から聞きたいなー」

 

だが、今日の俺は意地が悪いのである。

 

「恥ずかしいわよっ。月も隣にいるのよ。そんな、恥ずかしい事・・・」

 

「えーいー?」

 

再度詠の名前を呼ぶと、鬼畜、変態と罵りながらも、諦めたのか

 

「あ、う、その・・・ボク・・・ギルのことが、好き、みたい・・・」

 

顔を真っ赤にしながらも、そう言ってくれた。

 

「・・・ありがとう、嬉しいよ、詠」

 

「で、でも、その、月とあんたって・・・恋仲、なのよね・・・?」

 

不安そうにそう呟く詠。

・・・あ、そうか。月とそう言う関係だから、自分は・・・と言うことへの不安だろうか。

詠の不安そうな表情をほぐすように撫でながら、俺はゆっくりと説明した。

 

「あー・・・。そうなるのかな。でも、月本人が他の子の思いにも答えてくれって言ってたから、大丈夫だと思うよ」

 

「・・・そうなの?」

 

「そうなの。詠の気持ち、嬉しいよ」

 

「・・・ん。・・・あんたは、私のこと、す、すすす、好き、なの?」

 

「当たり前じゃないか」

 

何を言ってるんだ、と言う風に俺は答えた。

いやほら、いつもツン子で可愛かったし、友達のために自分の命を張れる子だし。

 

「あ、当たり前なんだ。・・・そっか。・・・そっかぁ」

 

一度目は静かに。二度目は嬉しそうに呟いた詠は、再び俺に口づけをして、隣に戻った。

 

「・・・明日、月に言わないとね」

 

「ああ」

 

そう言って、詠は俺の右手に、自分の右手を絡めた。・・・おお、この子、デレたら一直線だぞ。

・・・さて、一通りまとまったところで話は変わるが、先ほどから俺は我慢していることがある。

詠が可愛くて襲いたいのを我慢しているとか、そう言うことではない。いや、それもあるけど。

我慢していることとは、詠が握っているのと反対側の手・・・左手のことである。

寝る前、こっそりと月が手を絡めて寝ていたらしいのだが、今、俺の手の甲には月の爪が食い込んでいる。

・・・うん、分かると思うけど、月、起きてるんだ。

寝息はすぅすぅと聞こえるが、手はギリギリと締め付けてくる。

黒月再びである。

 

「あ、あと、一緒に寝てるからって、襲ったりしたら、ぶっ飛ばすからねっ」

 

「そんなことしないって」

 

「わかってるなら、いいのよ。・・・おやすみ」

 

その後、俺の頬に三度口づけしてから、詠は目を閉じた。

しばらくして、寝息が聞こえる。・・・本当に寝ているようだ。幸せそうな顔をしている。

 

「・・・ぎーるーさーん?」

 

「・・・は、はーあーいー」

 

小学生が人を呼ぶときの様な声に、思わず調子を合わせて答えてしまう。

ランサーと戦うときですら此処まで冷や汗はかかなかったぞ・・・? 

 

「うふふ、もう、詠ちゃんったら可愛いですね」

 

「そうだな、本当にそう思うよ」

 

「三回もギルさんに口づけするなんて、本当に可愛いですよね」

 

ぎゅう、と絡めていない方の手で俺の腕を締める月。月の細腕で英霊の体にダメージを与えられるとは思えないのだが、何故かとてつもなく痛い。

その後、月は俺の耳元に口を近づけて、ゆっくりと語り始める。

 

「私だってまだ一度しかしてないのに。詠ちゃんだから二回目を譲ったんですよ? その後私もしようと思ってたんですけど、まさか三回目も四回目も取られるなんて・・・。うふふ、詠ちゃん、好きな人にはツンツンしつつも一直線ですから、その気持ちは分からなくもないんですけど、私とギルさんの関係のことを知ってるならもうちょっと自重するべきですよね。そう思いません? ギルさん。ええ、分かってるんですよ? 私も許可を出していますし、怒るつもりは毛頭無いです。ギルさんの様な素晴らしい人を私一人が独り占めするなんてそんなこと・・・。でも、隣に私が寝てる状況で堂々と寝込みを襲うとか・・・。私もそうですけど、大概詠ちゃんも変態さんですよね。見られて興奮するとかそう言う人なんでしょうか。どう思います? ギルさん?」

 

「・・・ええ、全くその通りだと思います、月様」

 

「どうしたんですか、ギルさん。月様なんて呼んじゃって。いつも通り、月、と呼んでください」

 

ね? と言ってほほえむ月は、いつも通りの優しい笑顔をしている。

・・・きっと俺が寝ぼけてたんだ。そう思おう。

 

「ギルさん、私にも、してくれますよね?」

 

目を閉じ、口を突き出す月。

・・・思えば、されることはあっても自分からするのは初めてかも知れない。

そんなことを思いながら月の小さい口に自分の口を合わせた。

 

「・・・えへへ、嬉しいです」

 

いつものように恥ずかしそうに頬に手を当てる彼女からは、先ほどの暗黒面(ダークサイド)は見えない。

・・・黒月はサーヴァントにダメージを与えられる。・・・脳内メモにメモっておこう。

 

「それじゃ、おやすみなさい、ギルさん。良い夢を」

 

「あ、ああ。月も、ゆっくり休んでくれ」

 

「はい」

 

目を閉じ、俺の腕に顔を埋めるように月は眠った。

息が当たってくすぐったいが、別に嫌な気分ではない。

左腕も優しく握ってくれているし、ゆっくり眠れそうだ。

 

「・・・もうなにも考えたくないな。・・・寝よう」

 

・・・

 

「ギ・さん・・・可愛い・・・」

 

「ま、まぁ、・・・るけど・・・」

 

なにやら声が聞こえる。

もう朝なのだろうか。少ししか眠っていない気がする。

二度寝しようかなと思ってから、今日は仕事が盛りだくさんあることを思い出した。

・・・とても名残惜しいが、起きないと。

 

「・・・あ、ギルさ・、起き・・」

 

「ほん・・」

 

意識を急浮上させ、体の感覚を掌握する。

こちらに来てから身につけた、寝ている間に襲われてもすぐに対応できるようにするスキルである。

 

「ん・・・」

 

目を開ける。

すると、両隣には俺の顔をのぞき込むように寝間着姿で寝台に座っている二人の少女。

 

「おはようございます、ギルさん。良い朝ですよ」

 

「お、おはよ、ギル」

 

二人からあいさつされて、完全に状況を把握する。

そっか。そう言えば、昨日一緒に寝たんだった。

昨日の夜に起こったことを思い出しながら、手を伸ばして二人の頭を一撫でする。

二人は嬉しそうにそれを受けて、くすぐったそうにほほえむ。

 

「ギルさん、詠ちゃんからお話は聞きました」

 

「あ、あのね、ギル。手、繋いでるの見つかっちゃって・・・」

 

ごめんっ、と謝る詠。

状況がまだよく分からず、疑問符を頭の上に浮かべていると、月がこっそりと耳打ちしてきた。

 

「今日の朝、詠ちゃんを起こしたらギルさんと手を繋いでたんです。それでちょっと聞いてみたら、白状しちゃったんですよ」

 

「ああ、なるほど」

 

得心した。

つまり、詠は自分のうっかりで先に知らせてしまったと言うことを謝っているのだろう。

 

「・・・別に、怒りはしないよ。言うつもりだったんだし」

 

「うん。ありがと」

 

昨日は寝る前だったので詠は眼鏡を掛けていなかったのだが、眼鏡を掛けている詠を近くで見るのもなんだか新鮮である。

大抵は後ろから抱きかかえてたりだったからなぁ・・・。

 

「それじゃ、朝飯でも食べようか。月、詠、仕事まで時間あるよな?」

 

「はい。朝ご飯の時間なので、今ギルさんを起こそうとしてた所ですから」

 

「そうよ。感謝しなさいよねっ」

 

「ん。ありがとな、詠」

 

「ちょ、ホントにしなくていいのよ、もうっ」

 

「詠ちゃん、今日もツン子なんだね?」

 

「月っ、ツン子言わないのっ」

 

・・・なんて、一通り詠をからかった後、着替えるからと詠に部屋を追い出された。

部屋の前で準備が終わるのを待っていると、人影が近づいてくる。

 

「・・・おや、ギル。帰ってたんだ」

 

「孔雀か」

 

早朝にもかかわらず執事服に身を包んだ少女、孔雀が微笑みながらおかえり、と言ってくれた。

 

「ただいま。心配かけたみたいだな。ごめん」

 

「・・・ふふ、恩人が居なくなっちゃったんだ。心配するのは当然だよ。謝らないで欲しいな」

 

「そうか? じゃあ、ありがとう、だな」

 

「うん。そうだね。・・・それで、二人は着替え中かな?」

 

俺の後ろにある扉を見ながら、孔雀はそう言った。

こくり、と首肯すると、そっか、と呟いて

 

「じゃ、それまではボクが話し相手になってあげるよ」

 

「お、いいな。いろいろ話したいこともあったし、ちょうど良い」

 

「そうだな・・・。そう言えば、さっき部屋から出てきたみたいだけど・・・二人と一緒に寝たのかい?」

 

・・・ん? 何だろう。体に重圧が掛かっているような・・・空気が重くなったような・・・? 

よく分からない不調に首を傾げながら、そうだよ、と返した。

 

「部屋に戻るのも億劫なくらい疲れてたから、お邪魔したんだ」

 

「へぇ、そう。じゃあ、今度はボクと一緒に寝ようね?」

 

「・・・よし、ちょっと待とうか」

 

凄い一言を言いやがったぞ、この子。

 

「うん?」

 

「順序立てていこう。まず、俺の話を聞いてたか?」

 

「当たり前じゃないか」

 

「なら、何故孔雀と一緒に寝ることに?」

 

「え? だって、侍女である月と詠と一緒に寝たんだから、次はえーと、しつじ? であるボクの番でしょ?」

 

・・・魔術師の思考回路ってよく分からないなぁ。

やっぱり、特殊な才能を持っているから、思考回路も凡人には思いつかないような飛躍をして居るんだろうか。

 

「それに、理由がない訳じゃないんだよ? 聖杯戦争のことで相談したいこともあるし」

 

「ああ・・・そう言うことなら、別に構わないぞ。次の決戦まで一週間はあるし、そのうちお邪魔するよ」

 

「そ? ・・・じゃあ、いろいろ準備して待ってるね。約束だよ?」

 

「ああ、約束だ」

 

そう言って孔雀の頭を撫でた。

一瞬驚いた顔をした孔雀だったが、すぐに微笑みを浮かべて

 

「うふふ・・・。そっか、これは、良いね」

 

月達がああいう顔を浮かべるのも頷けるよ、と呟きながら、彼女は踵を返した。

 

「それじゃ、ボクはもうちょっと準備があるんだ。また後で」

 

「ああ。がんばれよ」

 

「・・・ギルこそ。今日の政務は地獄らしいよ?」

 

不安になる言葉だけを残して去っていく孔雀。

・・・うん、あの山を思い出すだけで身震いがする。

 

「お待たせしました、ギルさん」

 

「待たせたわね」

 

地獄かー、とこれから先の未来を案じていると、後ろの扉が開いた。

すっかり馴染んだメイド服に身を包んだ二人は、いつも通り可愛かった。

 

「さ、行くわよ」

 

そう言って歩き始めた詠に並ぶように、俺と月は歩き始めた。

 

・・・

 

月達と朝食を取る。席について食事を取り始めると、響と孔雀の二人もやってきた。

 

「あ、おはよー」

 

「おはよ。さっきぶり」

 

二人にあいさつを返すと、二人はそのまま俺達の座っている卓に食事ののっている盆を置いた。

お邪魔するよ、と孔雀に言われて、断る理由もないので了承。

 

「こうして落ち着いて食事をするのは久しぶりの気がするよ」

 

ぱくぱくと食事を摂りながら、孔雀は独り言のように呟いた。

 

「あー、確かにねー。戦場だったし、船の上だから落ち着いて食べるなんてほとんど無理だったからねえ」

 

しみじみと響がその言葉に反応して答えた。

・・・確かに、揺れる船の上での食事は辛そうだ。

 

「ギルさん、今日は桃香さまのところでお仕事ですよね?」

 

隣に座る月が、静かに問いかけてきた。

ああ、そのつもりだけど、と返すと、彼女はほんのりと笑って

 

「では、美味しいお茶を煎れますね。お仕事、頑張ってください」

 

おお、月のお茶はとても久しぶりだな。楽しみだ。

 

「楽しみにしてるよ、月」

 

「えへへ・・・」

 

「ほう」

 

「へーえ」

 

照れる月の正面で、孔雀と響が意味深に頷いていた。

疑問符が頭に浮かぶが・・・今は、照れる月を脳内メモリに保存するのが先だ。

 

・・・

 

しばらくして、食事を終え、仕事に行く月達と別れる。

そのまま桃香の部屋へと向かうと、途中で呼び止められた。

 

「金ぴか」

 

「ん? ・・・ああ、卑弥呼か」

 

「おはよ。元気みたいね」

 

以前襲撃してきたときと同じく、ミニスカートにした着物のような服装に身を包んでいる卑弥呼が、こちらに歩み寄る。

不敵な笑みを浮かべているが、どうしたのだろうか。

 

「何よ。わらわの顔に何か付いてる? ・・・目、とか鼻、とかいったらぶっ放すからね」

 

何を、とは聞かない。おそらく魔力光線だからだ。

 

「いや、何か嬉しそうな顔してるから・・・。何でかなぁ、と」

 

「嬉しそうな顔? わらわが?」

 

うん、と首肯する。

卑弥呼は自分の顔を不思議そうにぺたぺた触って、表情を確かめているようだ。

・・・腰に下げてる鏡を使えばいいのに。

 

「ん、んー・・・何でだろ。やっぱり、嬉しかったのかしらねぇ」

 

「嬉しかった?」

 

「金ぴかが無事で。わらわと正面からぶつかり合って無事だったのはあんたが初めてだったからね。気に入ってるのよ」

 

成る程。卑弥呼は感情をストレートに出せる人間らしい。

しかし、俺が無事だったから嬉しいとは、それこそ嬉しいことを言ってくれる。

 

「なによ、鳩が合わせ鏡食らったような顔して」

 

消し飛びませんか、それ。

もちろん口には出さない。『鳩』の部分が『ギル』になるからだ。

 

「いや、卑弥呼にそう言ってもらえると、俺も嬉しいなって」

 

感謝の意を伝えるために微笑みながらそう返す。

卑弥呼は一瞬驚きを顔に浮かべるも、すぐに胡散臭い笑みを浮かべる。

 

「当然よ。わらわが他人を褒めるなんて、ほとんど無いんだから」

 

男で認めた奴は金ぴかが初めてね、と付け足すと、くるりときびすを返した。

 

「じゃ、わらわはそろそろ行くわ。なんかあったら呼びなさい。大抵駆けつけるから」

 

俺が声を掛ける暇もなく、言いたいことだけを言って跳んでいった卑弥呼。

・・・うーん、何か用事でもあったのだろうか。

 

「・・・って、俺も用事があるんだった」

 

卑弥呼の行動に疑問を感じつつ、俺は桃香の部屋へ急いだ。

 

・・・




「――になったら。ギルさんもそう思うでしょう?」「・・・うんっ! そうだなっ!」
お味噌の発酵が進みそうですね。

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