真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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二メートル近い外套を着た怪しい男・・・完全に不審者ですね。

それでは、どうぞ。


第二十話 お出かけと奇襲と真名開放と

・・・桃香の部屋へ向かう途中、兵士と出会い、「将は玉座に集まるようにとのことです」と言づてを貰った俺は、進路を変えて玉座へと向かっていた。

近くまでたどり着くと、中からは桃香や愛紗達が雑談しているのであろう、ざわめきが聞こえてくる。

しまった、遅刻か、と若干の申し訳なさが浮かび上がってくるが、それを抑えながら玉座の間へと入る。

 

「あっ、お兄様っ」

 

一番入り口に近かった蒲公英が俺を指さしてそう言った。

その瞬間、部屋にいた全員が俺のことを見て、時が止まったかのように固まった。

 

「お兄さーん、おっはよー!」

 

一番遠く・・・玉座にいる桃香が、大きく手を振りながら声を掛けてきた。

桃香のその行動で、他の将達はまた動き出したようだ。

その筆頭が愛紗で、こちらにずんずんと・・・あれ、おかしいなぁ。

 

「ギル殿っ」

 

「おお?」

 

ずいっ、と詰め寄られ、少したじろぐ。

その後すぐに手を掴まれ、そのまま玉座まで引っ張られる。

そのあと、腕を掴んだまま、愛紗は口を開く。

 

「・・・えー、赤壁での大決戦の後、何処かへ失踪していたギル殿ですが、昨日深夜、無事戻られました」

 

なんだこのニュースみたいな報告の仕方。

 

「さて、これで将は全員集まったので、会議を始めたいと思います」

 

あれ、俺はこの位置で固定なのか。

訳も分からぬまま、会議の内容を聞いていると

 

「お兄さん、お兄さん」

 

隣に立つ桃香が、小声で話しかけてくる。

 

「どうした?」

 

「えっと、今日は、覚悟しておいた方が良いかも」

 

「は?」

 

それ以降、桃香は全く話しかけてこなかった。

・・・謎である。

 

「・・・よし、後は無いな? これで、朝の会議を終了とする!」

 

愛紗がそう締めくくると、たたたっ、と素早く鈴々が走り寄ってきた。

 

「お兄ちゃんお兄ちゃんっ。お帰りなのだっ」

 

そのまま突っ込んでくる鈴々を避けるわけにもいかないので受け止める。

ぐりぐりと頭を胸に押しつけてくる鈴々を宥めると、右足にひしっ、と何かがくっついた。

 

「・・・璃々?」

 

「うんっ。璃々だよー」

 

元気いっぱいに答える璃々は、こちらを見上げながらお帰りー、と言ってくれた。

以前遊んで以来懐いてくれている璃々は、見ていてとても和むのである。

二人にただいま、と返すと、目の前には朱里と雛里が。

 

「あ、あのあのっ、昨日言いそびれちゃって・・・その、おかえりなさいっ」

 

魔女帽子で顔を隠すようにしつつお礼を言う雛里。

 

「ギルさん、お帰りなさいですっ」

 

隣に立つ朱里も、笑顔でそう言ってくれる。

 

「おー、二人とも律儀だなぁ。ありがと」

 

二人にそう返しながら鈴々を降ろす。

気付けば、周りを蜀の将達に取り囲まれていた。

隣に立つ桃香の話しによれば、聖杯戦争のことはすでに知っているので、俺の行方を心配していた将には泥のことを話したらしいのだ。

危険度も卑弥呼(女)の方から聞いているので、心配していたみんなが無事で良かったと声を掛けてくれているとのこと。

 

「・・・ぎる、無事で良かった」

 

「お、恋か。恋も無事で良かったよ」

 

「ん。恋は、いつも元気」

 

「そっかそっか」

 

長身なのに何処か小動物を彷彿とさせる恋を撫でながら、他の将達の受け答えをしていると、愛紗が

 

「もうそろそろ仕事を始めるぞ! ギル殿とは後でたっぷり話せるのだし、今は曹魏との決戦の為の準備を進めよう!」

 

と声を掛けたので、俺もそうした方が良いな、と促し、解散となった。

 

「ギル殿は午前中、桃香さまと私と朱里の三人と、政務をしていただきます」

 

玉座の間から桃香の部屋・・・執務室へと向かう途中、愛紗から今日の予定を聞いていた。

・・・と言うか、なんだか愛紗が俺の秘書のようなポジションに着いている気がする。

 

「その後は午後から部隊の様子を少し見ていただければ、後は特に仕事はありません」

 

「あれ、そうなのか?」

 

「ええ。部隊の再編成もほぼ終わりかけていますし、曹魏との決戦の準備は朱里と雛里がほとんど纏め終えてますので」

 

後は文官達に任せるだけなのだという。まぁ、新しい問題が起きたらまた呼び出すとのことなので、今日の所はリハビリと行きますか。

 

・・・

 

執務室にて、竹簡と格闘すること一時間ほど。

昨日山のようにあった竹簡はほとんどが処理され、机の上に少量の竹簡が残っているのみとなっている。

 

「・・・やはり、ギルさんの処理能力は素晴らしいです」

 

月がお茶を煎れて来てくれたので、休憩となった時、朱里がそう言った。

うんうんと頷く桃香と愛紗に、俺は英雄王の頭脳のチートさを再確認していた。

草案に対する改善策はすぐに思いつくし、問題に対する解決策も今までの経験や学んだことから引っ張り出して解決策を提示できる。

桃香達の仲間になってから政務仕事をしてきたので、慣れもあるだろう。

高性能な身体能力も相まって、かなり高速に政務を処理できるようになっているのだ。

 

「お兄さんが帰ってきてくれて助かったよぉ~。私たちだけだったら、夜まで掛かってたかも知れないし・・・」

 

お茶を飲んでふぅー、と一息ついた桃香が、しみじみとそう言った。

話を聞きながらお茶を飲み干し、手持ちぶさたになると、月が笑顔でお茶を注いでくれた。

 

「お、ありがと、月」

 

「どういたしまして、ギルさん」

 

にっこり、という擬音が似合うくらいにほほえんだ月は、幸せそうにお茶を飲んでいる。

 

「さて、そろそろ再開しようか、桃香」

 

半分くらいまでお茶を飲んだ後、そう切り出す。

 

「んー、そだね。あとちょっとだし、頑張って終わらせちゃおっか」

 

そう言って、再び姿勢を正す桃香。

愛紗や朱里も、再び筆をとって竹簡を開き始める。

 

「月、お茶ありがとうな。仕事に戻って良いよ」

 

片付けを始めた月を撫でて、お礼を伝える。

月は、はいっ、と返事をしてくれる。うん、いつも通り可愛い。

その後、片付けを終えた月が部屋から出て行くと、再び沈黙が場を支配した。

桃香がたまに俺や朱里に質問する以外は、とても静かなのである。

・・・そして、更に半刻ほどが過ぎる。

 

「・・・終わったー!」

 

筆を置いて、うーんっ、とのびをする桃香。

愛紗も流石に疲れたのか、肩を回しつつため息をついた。

朱里も自分で肩をぐいぐい、と押している。全員お疲れのようだ。

 

「さて、昼か」

 

今日の昼飯はどうするかなぁ。月や詠とは昼休みの時間が合わないし・・・。

町にでも出て、屋台でも覗いてみるかな。街が変われば味も変わるだろうし。

そんなことを考えていると、こんこん、と静かに扉がノックされた。

 

「ん、誰だろ。はーい」

 

一番扉に近かったので、俺が扉を開けた。

すると、そこにいたのはいつも通り無表情の恋が、直立不動で立っていた。。

 

「・・・ぎる、いた」

 

「ああ。居るぞ。で、どうかしたか?」

 

言葉のニュアンス的には、俺に用があるようだが・・・? 

 

「ん。お昼、一緒に食べる」

 

そう言って、恋は俺の服の裾をつまんだ。

・・・うむ、ちょうど良いし、久しぶりに恋と食事をするのも悪くない。

 

「良いぞ。・・・桃香、愛紗、朱里、お疲れさん。恋と昼飯食べてくる」

 

「うぅ・・・先を・・・。お疲れ様、お兄さん」

 

「・・・お疲れ様です、ギル殿。また、午後に」

 

「はわ、おちゅ、お疲れですっ」

 

三人に手を振りながら、部屋を出る。

恋は相変わらず俺の服の裾を掴んでいた。

 

「恋、もっときちんと掴んで良いぞ?」

 

裾だけというのは、どうよ? と思っていってみると、いいの? と返ってきた。

駄目な理由もないし、大丈夫だよ、と答えると、何と俺の手に自分の手を絡めてきた。

 

「・・・手・・・繋ぐの、駄目?」

 

驚いたのが伝わったのだろうか、恋が少しだけ目元をつり下げながら、不安そうに聞いてくる。

 

「・・・いや、少し驚いただけだから。構わないよ」

 

きちんと掴む、というのは服を、と言うか腕を、と言う意味だったのだが、まぁいいか。

手を繋いだ方がはぐれなくていいというものだ。

 

「・・・嬉しい」

 

いつも無表情の恋には珍しく、誰から見ても分かるぐらいの笑みを浮かべた恋。

・・・今日は、恋の行動に驚いてばかりだな、なんて事を思いながら、城から町へ歩いていく。

 

「・・・あれ、今日はねねがいないな」

 

このくらい歩いていれば、ちんきゅーきっくが飛んできてもおかしくないのに。

 

「ねねは、お仕事」

 

「あー。そっか、あれでも軍師だからなぁ」

 

俺がそう言うと、こくこくと頷く恋。

頷く度にアホ毛が揺れて面白い。

 

「さて、今日は何食べようか。久しぶりだし、奢るよ」

 

別に久しぶりでなくとも奢るのだが、何となくそう言ってしまった。

 

「ん。・・・まずは、拉麺」

 

「よし、どこか屋台を探そうか」

 

「そうする」

 

取り敢えず、目に付いた屋台から入る。

 

「へいらっしゃい!」

 

採譜をみる。・・・やはり、特盛りはないようだ。そりゃそうか。

 

「・・・特盛り、無い」

 

「そうみたいだな。・・・でもま、これからいっぱい店を見るんだし、大盛りで良いだろ」

 

「・・・ん。そうする」

 

恋を説得すると、屋台の親父にラーメンの大盛り一つと、普通一つを注文する。

あいよっ、と元気に答えてくれた親父は、麺をゆで始める。やはり慣れているのか、動きは手早い。

 

「良い匂い・・・。ぎる、此処は美味しい」

 

「匂いで分かるのか・・・。凄いな、恋」

 

「・・・恋は、凄い?」

 

首を傾げて不思議そうな表情を浮かべるので、ああ、凄いよと撫でながら言った。

 

「・・・ぎる、優しい」

 

「恋だからな」

 

「・・・恋、だから?」

 

「そ」

 

「・・・」

 

再び正面を向いてしまった恋。

んー、んー、と時折唸っているのは、何か考え事をしているのだろうか。

拉麺が来るまでの良い時間つぶしになるだろう、と放っておくことにした。

 

「へい、拉麺大盛り!」

 

どん、と俺の目の前に置かれた拉麺大盛り。

・・・いや、これ恋のなんだけど。やっぱり恋みたいにスタイルの良い少女が大盛り拉麺食べるとか無いんだろうな、この町。

 

「ほら、恋」

 

すすす、とどんぶりを恋の前まで移動させる。

 

「なんでい、そっちのお嬢ちゃんのか」

 

わりいな、あっはっは、と笑う親父に会わせて笑う。

まぁ、間違えるよね。俺も親父の立場なら男の方に大盛り渡すよ。

 

「へい兄ちゃん。拉麺普通盛り!」

 

「ありがとう。いただきます」

 

箸をとって、拉麺を食べ始める。因みに、すでに恋は三分の一ほどを食べ終わっている。

 

「美味しいな」

 

麺を口に入れると、そんな感想が口をついて出た。

恋の鼻は利くんだな。それとも、今までの経験からの物だろうか? 

ものの数分で恋は食べ終わってしまった。

俺も少し遅れて食べ終え、驚いている親父にお金を払って屋台を後にする。

 

「ふぅむ・・・次は何を食べるかな・・・」

 

「あれ」

 

屋台を出た瞬間から再び手を絡めてきた恋が、もう片方の手で饅頭の店を指さす。

 

「桃まん」

 

「あるかな。取り敢えず行ってみるか」

 

「ん。行ってみる」

 

人を避けつつ饅頭の店へ。恰幅の良いおばちゃんが店番をしているようだ。

近づいてくるこちらに気付いたのか、いらっしゃい! と大声で接客してくれた。

 

「えーと、桃まんあるかな」

 

「あるよ! 幾ついるんだい?」

 

「えーと、取り敢えず20個かな」

 

「はいよ、20個ね! ちょっとまってな!」

 

おばちゃんが引っ込み、桃まんを用意してくれているようだ。

その間に、代金を用意しておく。

 

「ほら、桃まん20個!」

 

大きい紙袋に入っている桃まんを受け取り、恋に手渡す。

代金を払い、再び歩き出す。

 

「・・・片手じゃ、食べれない」

 

「なら、手を離せば良いんじゃないのか?」

 

今の恋は片手に桃まんの入った袋を持ち、片手は俺と繋いでいる状態なので、食べられないと訴えているようだ。

 

「・・・手は、離したくない」

 

俺が手を離そうとすると、きゅ、と力を入れられた。

理由は不明だが、恋は手を繋いだままでいたいらしい。

 

「じゃあ、あそこに座って食べようか」

 

木陰を指さして、恋に提案してみる。

璃々と桃まんを食べたときにも、木陰で座って食べたし、大丈夫なはずだけど

 

「・・・そうする」

 

再び人を避けていきながら、木陰へと腰を下ろした。

足を伸ばして座った恋は、自身の足の上に置いた袋からひょいぱくと桃まんを食べ始めた。

もちろん、片手は繋いだままだ。たまにむにむにと手が動くのは面白い。

 

「ぎる、食べる?」

 

「ん? ・・・ああ、いただくかな」

 

恋が差し出してきた桃まんを、貰うよ、と言って受け取った。

口に含んでみると、うん、まぁこういう饅頭の味は余り変わらないかな。

桃まんも圧倒的な速さで食べ終わり、次に行こうと恋が手を引いて急かす。

 

「大丈夫だって恋。急がなくても店は逃げないぞ」

 

「・・・お店は逃げない。けど、ぎるはお昼が終わると仕事に行っちゃう」

 

ほほう。

俺が昼休みの間に出来るだけ店を回りたい、とな。

やっぱり、俺と居ると沢山食べられると学習してるんだろうな。

 

「そうかそうか。なら、出来るだけいっぱい回らないとな」

 

「ん。ぎると、いっぱい回る」

 

大きく頷いた恋は、いつもより少し早めのペースで次の店へと向かった。

 

・・・

 

「・・・ばいばい、ぎる」

 

名残惜しそうな顔をして去っていく恋に、手を振る。

昼休みも終わり、午後の仕事として恋は部隊の訓練に。俺は軍師達の陣形訓練に付き合うこととなっている。

 

「えっと、朱里は何処にいるかなぁ、っと」

 

キョロキョロしながら歩いていると、前を歩く人影を発見する。

あれは・・・ねねか。

 

「ねね」

 

後ろから声をかける。ぴくりと反応した後、ねねはこちらを振り返り、不機嫌そうな顔をする。

・・・いや、まぁ、恋と居るとき以外は大抵不機嫌そうだし、余り気にしてもあれなんだが。

 

「・・・なんですか」

 

「いや、ねねが見えたから声をかけたんだ。・・・何かあったか?」

 

「・・・なんもねーです。用事がそれだけなら、失礼するですよ」

 

「あー、ちょっとまったちょっとまった。ねねも陣形訓練行くんだろ? 一緒に行こうぜ」

 

俺がそう言うと、ねねはふん、と鼻を鳴らし

 

「しかたねーですね。か、肩車、してくれるなら良いですよ」

 

次の瞬間、耳まで真っ赤に染めてそう言った。

 

「お、気に入ってくれたのか、あれ。良いぞ。ほら」

 

「にょっ」

 

ねねを脇から抱え、肩の上にのせる。

片手で俺の頭を掴んだねねは、出発しんこーですっ、と良いながらもう片方の手でぽんぽんと俺の頭を叩いてくる。

 

「よっしゃ、行くぜ行くぜー!」

 

「おおうっ、ぐらぐらするのですっ」

 

先ほどまでとはうってかわり、きゃっきゃとはしゃぐねねを乗せて、集合場所へと向かった。

 

・・・

 

「警邏って暇だよなぁ」

 

「・・・ギルがせっかく見つけてくれたんだ。きちんとこなせよ、マスター。俺も付き合ってやるからよ」

 

「はいはい、わぁってるよ。城で兵士やってるよりは性に合ってるしな」

 

二人組で町を歩くライダーと多喜。

たまに町の人間に声をかけられつつ、いつもの道を通って怪しい人影や暴力沙汰がないかを確認していく。

 

「あー・・・昼飯食ってから・・・一刻ぐらい経つのか」

 

「腹でも減ったのか?」

 

「小腹がなー。何かつまめるような・・・ん? 肉まんあるじゃん」

 

ふらり、と饅頭屋へ立ち寄り、肉まんを買う多喜。

ライダーはやれやれと言いつつも、多喜から一つ肉まんを受け取る。

 

「お、ガキどもじゃねーか」

 

多喜は、前日に知り合った町の子ども達が追いかけっこをして遊んでいるのを見つけ、嬉しそうに呟いた。

 

「俺、ちょっと行ってくるわ」

 

「は? ・・・行っちまった」

 

多喜は袋の中から肉まんを取り出して口に運びながら、子供たちの中に突っ込んでいったライダーを見る。

どうやら子供たちの間では人気者らしく、子供たちに囲まれながら仲良くやっているようだ。

 

「へー、人気もんなんだなぁ。人は見かけによらないって言うか・・・あいつ、人なのかも分からんけど」

 

そんな独り言を呟きながら休憩していると、肉まんが全て無くなる。

そろそろライダーを呼び戻すか、と立ち上がり声を上げる多喜。

 

「おーい! そろそろ行くぞ、ライダー!」

 

その声に手を振って答えたライダーは、子供たちに手を振りながらこちらに戻ってくる。

 

「ふう。ちょうど良い休憩になった」

 

「お前、子供好きだよなぁ」

 

「お? まぁな」

 

目前を走る子ども達を見るライダーの瞳は、多喜には優しげ・・・に、みえる。

被り物の奥にある目が見えないので、雰囲気で察するしかないのだが。

・・・空気が和んだ、次の瞬間

 

「じゃあ、今度は戦争を始めようか?」

 

その先にいるキャスターと、長髪の男を見て、ライダーと多喜は目を見開いた。

 

「ああ、大丈夫。結界は張ってあるよ。・・・子ども達が逃げられるかどうかは知らないけど」

 

長髪の男がそう言って怪しく笑う。

キャスターはやれやれ、と肩をすくめるようなジェスチャーをして、懐からいくつかの石を取り出す。

 

「やっべえ・・・! マスター、子ども達を頼んだ! 結界を張られてるってことは・・・逃げるのは無理か。何処か陰に隠して守っていてくれ!」

 

「わかってる!」

 

二人は同時に駆け出した。

ライダーは二人の男の元へと。多喜は突然張りつめた空気に疑問符を浮かべている子ども達の下へ。

 

「おいコラ逃げるぞッ!」

 

「どしたのー?」

 

「あ、あれ、被り物のお兄さんだー」

 

「これからライダーが暴れるからあっち行くぞー!」

 

「おー!」

 

「おいかけっこー?」

 

子ども達は余り事態を把握していないらしいが、無理矢理背中を押したりと何とか向こうへと連れて行こうとしている。

 

「このあたりの一画は私の力で切り取ってある。いくら壊しても秘匿には問題ない。思いっきり暴れてくれ、キャスター」

 

「・・・分かってるって。どれだけ力をため込んだか、知らない訳じゃないだろう?」

 

「それならいい。いけ、キャスター!」

 

長髪の男の声と共にかけだしたキャスターは、まず一つめの石をキャスターに向かって投げる。

石は目前で爆発し、土を巻き起こし、土煙が視界を塞ぐ。

しかし、ライダーの視界は普通の人とは違う。

 

「そこっ!」

 

手に持った剣で斬り掛かってきたキャスターへと炎を吹き出して立ち向かい、キャスターの剣を打ち払った。

キャスターはすぐに後ろに下がり、石を二つほど取り出して

 

「やはり土煙は意味がない、か。なら、これでっ!」

 

一つを上空へと投げ、もう一つを握って走り出した。

上空へと投げられた石は激しい光を発し、ライダーの視界を一瞬だけ潰した。

その一瞬でライダーの近くまで近づいたキャスターは、石を握りしめたまま、ライダーの胴体へと拳を叩き付けた。

 

「直接攻撃はきかねえよっ!」

 

「だと思ったよ・・・! まだ終わらないけどねっ!」

 

石を握りしめていた手とは反対の手で剣を横薙ぎに振るうキャスター。

ライダーは間一髪体を捻ることでで避けることが出来たが、剣先がライダーの外套を掠っていった。

 

「やっぱり、キャスターの能力補正じゃこんな物か・・・」

 

冷静に呟きながら、キャスターは牽制に剣を振るうと、後ろへと飛んだ。

 

「キャスター同士の肉弾戦とか、需要ねえっての!」

 

後ろにいた子ども達が居なくなったのを確認して、ライダーはキャスターに迫る。

一瞬で最高速度まで加速し、握りしめた拳でキャスターの頭部を狙おうとするが・・・

 

「っ! ・・・くっ」

 

その寸前で急制動。すぐにその場を離れるライダー。

すると、先ほどまでライダーが居た地点には、四種類の弾丸が降り注いでいた。

 

四大元素の精霊(エレメンタル)。危なかったね。あのまま突っ込んでいれば、ただじゃ済まなかったよ」

 

「ふん。そういう反応には、鋭いもんでね!」

 

仮面の下で、ライダーは笑みを浮かべた。

 

「出し惜しみはしない。ホムンクルスよ!」

 

ぱりん、とガラスの割れる音。それと同時に、巨体が二つ、現れる。

 

「成る程・・・キャスターらしいと言えばキャスターらしい、か」

 

目の前には精霊が四体に巨大なホムンクルスが二体。更に、石を懐から取り出したキャスターまで居る。

 

「・・・マスター、少し魔力を多めに貰うぜぇ! 宝具のご開帳だ!」

 

魔力は力となって体中の回路を駆けめぐる。これならば問題なく宝具を使えるだろう。

ライダーの宝具。もともとはキャスターである彼がライダーとなったのは、人々の伝承に『乗って』きたからというこじつけのような理由。

それゆえに騎乗スキルもなく、それどころか頭部と外套以外は存在するかどうかも不鮮明という特殊なサーヴァント。

そんな彼にとって、ホムンクルスも精霊も、大雑把に解釈すれば自分の仲間のようなもの。

 

「おらおらおら、懐かしいもの見せてやるよ!」

 

宝具を発動させるため、ライダーはその真名を開放する。

 

「祭りだっ! 『お菓子をくれな(トリック・オ)きゃ悪戯するぞ(ア・トリート)』ォ!」

 

真名開放するのと、精霊の弾丸が着弾したのは、ほぼ同時だった。

 

・・・




「トリックオアトリート! お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ! ・・・なんつって、いやぁ、懐かしい行事だなぁ」「はわわ・・・これは、お菓子を上げないほうが状況的には良い・・・?」「あわわ・・・朱里ちゃんが軍師の顔に・・・!?」

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