真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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親子丼? 好きですよ。卵が美味しいんですよね。

それでは、どうぞ。


第二十二話 暗躍と回復と母娘と

恋は、アーチャーに言われたことを実行しようと月と詠の部屋の前へと来ていた。

教えられたとおりにこんこんとノックする。

はーい、という言葉の後、扉が開き・・・

 

「あれ? 恋じゃない。どうしたのよ」

 

詠が出迎えてくれた。

珍しいわね、と声をかけてくる詠に、恋は探し人の名前を告げる。

 

「月は・・・いる?」

 

「月? いるにはいるけど。何かあった?」

 

「ん。ぎるに、説明お願いされた」

 

基本的に恋は言葉少なめの武将である。主語述語修飾語が抜けるのはしょっちゅうで、途中の説明すら省くことがある。

今回もその例に漏れずよく分からない言葉だったので、取り敢えず詠は恋を部屋の中に入れることにした。

 

「・・・詠ちゃん、誰だったの?」

 

卓につきお茶を飲んでいた少女は、詠に訪問者について尋ねた。

 

「ん、恋よ」

 

「・・・月」

 

「あ、恋ちゃん。どうしたんですか?」

 

「ん、さっき起きたこと説明する」

 

月と詠の二人の前で、恋は淡々と起こったことを説明した。

バーサーカーと戦ったこと、アーチャーがセイバーとライダーを探しに行ったこと、響がいればアサシンにセイバー達の事を聞いてきて欲しいと言われたこと等である。

 

「狂戦士さんと・・・ですか」

 

「ん」

 

「・・・そう言えば、恋。それ、方天画戟じゃないわよね?」

 

話しているときも離さなかったその武器は、いつも使っている方天画戟とは似ても似つかず。

詠は疑問をそのまま口に出した。

 

「ん。軍神五兵(ゴッドフォース)っていう」

 

「ごっどふぉーす?」

 

「ぎるから貰った」

 

「え? ギルから? ・・・って事はそれ、宝具!?」

 

「ほうぐ?」

 

今度は恋が首を傾げる番だった。

詠は宝具についてと、ついでにサーヴァントについてもう一度説明した。

 

「っていうか、あいつの蔵は何でも入ってるのね」

 

「いつも使ってるみたいに馴染む。・・・だれの宝具、かな」

 

「さぁ・・・。でも、戟とか、矛っぽいですね、それ」

 

「ま、ギルが帰ってくれば分かるでしょ。取り敢えず、折れた方天画戟はねねに渡しときなさいよ。あれ、確かねねが設計したんでしょ?」

 

「ん。そうする」

 

「・・・ギルさんからの贈り物、かぁ・・・」

 

「っ・・・!?」

 

突然の寒気に襲われた恋は、敵襲の時よりも警戒し、辺りを見回していた。

 

「・・・ふふふ、良いんです。私はギルさんの・・・ふふふ」

 

月の怪しい笑みには、誰も気付かなかった。

 

・・・

 

町を警邏中のセイバーを見つけ、駆け寄る。

 

「セイバー!」

 

「ギル? ・・・どうした、そんなに息を切らせて。バーサーカーでも来たか?」

 

はっは、と軽い調子でそう言うセイバー。

 

「ああ、よく分かったな。さっき戦って、今撃退したところ」

 

「は? ・・・本当だったのか」

 

冗談のつもりだったのになぁ、と呟くと、一人で倒したのか? と聞かれる。

俺は頭を振って否定する。すると、ああ、と何か納得した表情で頷く。

 

「成る程、ライダーか」

 

「いや、恋・・・呂布と」

 

「・・・あれ? あの子って英霊・・・」

 

「じゃないぞ」

 

混乱し始めたセイバーに詳しく説明していく。

恋の方天画戟が折れて、代わりに呂布奉先の宝具である軍神五兵(ゴッドフォース)を渡し、対英霊戦での戦力になるからしばらく貸し出しておく事にした、と説明した。

 

「・・・成る程、英霊の呂布奉先の宝具を、英雄の呂布奉先に渡した訳か」

 

「まぁ、使えるかは半分賭けだったけどな。・・・ところで、ライダーは見なかったか?」

 

「ん? ああ、見ていないぞ。・・・そう言われると変だな。こうして町を歩いていると二回くらいは会うんだが」

 

今日はまだ一度も会っていないぞ、と真剣に考え出すセイバー。

そう言えば、バーサーカー組にはもう一人・・・キャスターがいるんだったな・・・。

セイバーも同じ考えに至ったのか、俺達は二人して目を合わせる。

 

「・・・まさか、キャスターに襲撃された?」

 

「可能性はあるな。ライダーは直接攻撃には強いが魔術なんかの攻撃は炎以外耐性がほとんど無い。それにキャスターにはホムンクルスや宝具の精霊みたいな手勢もいるし・・・」

 

「急がないと、拙いな」

 

「ああ、取り敢えずは貂蝉達に協力して貰って隔離された空間がないか探して貰おう」

 

俺の提案に首肯したセイバー。

走り出そうとしたその時、雑踏の向こうから多喜が歩いてくるのを見つけた。

 

「多喜!」

 

声をかけ、駆け寄る。

・・・なにか、違和感を感じる。

 

「ん? ・・・ああ、お前らか」

 

「・・・ライダーがいないようだが・・・?」

 

セイバーの言葉に、多喜は一瞬体を震わせた。

 

「・・・ライダーは、やられた」

 

「キャスターに、か」

 

セイバーが唇を噛みながらささやくような声量でそう聞いた。

多喜は、ただ頷きを返すだけで、それ以降何も言わなかった。

 

「そう、か」

 

俺も、ただそう言うのが精一杯で、多喜になんて声をかけて良いのかすら分からない。

ただ、城へと帰る滝を見送るくらいしか出来ない自分に気付いて、思わず悪態を付きそうになった。

 

「・・・ギル」

 

とがめるようなセイバーの声。言外に何を言わんとしているのか、聞かずとも分かる。

 

「大丈夫だ。分かってる。単独行動なんてしない。・・・もう、月は泣かせたくない」

 

「分かってるなら良いが・・・」

 

警邏へと戻ったセイバーと別れ、町で何かする気も起きなかった俺は、多喜に遅れて城への道を歩き始めた。

 

・・・

 

「・・・予想外、かな」

 

長髪の男は、目の前にいるぼろぼろのキャスターを見ながら、そう呟いた。

 

「そう、だね。霊核は無事だけど・・・他はいろいろと大変だ。修復にも時間が掛かると思うね、私は」

 

肩で息をしながら、キャスターは抉られたように無くなっている右の上半身へと魔力を回していた。

ライダーの宝具、『お菓子をくれな(トリック・オ)きゃ悪戯するぞ(ア・トリート)』は、令呪の後押しもあり、ホムンクルスごとキャスターを物量で押しつぶそうとに迫っていた。

キャスターも何とか自身の手勢で防ごうとしたが、いかんせんライダーの宝具は数が多かった。自身の宝具を使って防御を試みたものの、防ぎきれずに右の上半身を・・・狼男に、右肩を中心とした円形状にえぐり取られた。

だが、その怒涛の攻撃に何もしなかったわけではない。

ライダーの唯一の弱点だと思われる、頭部。そこに向けて、魔力の石を投げつけた。ほとんど賭けだったが、自身は運がいいらしい。敵の隙間を縫って、ライダーの頭部に当たり、その頭を消し飛ばしたのだ。

それによって、ほぼ相打ちの様にライダーの霊核を破壊し、聖杯へと送り返すに至った。

その後は長髪の男によって作られた隔離空間を解除し、急いで隠れ家まで戻ってきて、今に至る。

 

「・・・そっちのほうはどうだった?」

 

バーサーカーのマスターは、魔力を増幅させる装置に、キャスター製の魔力がつまった石、更に令呪まで使ってバーサーカーをバックアップし、アーチャーを襲わせて今度こそ退場させようとしていた。

 

「ふん。失敗だ。この世界の呂布にあの世界の呂布の宝具を持たせて、バーサーカーを撃退された」

 

「・・・なるほど、それは考えたね」

 

素直に感心した、と言う風に頷く長髪の男に、バーサーカーのマスターは鋭い目を向ける。

 

「感心している場合か。キャスターは修復で使えんし、バーサーカーもまた然りだ。こちらの手札はほとんど無くなったと言っていい」

 

「あの策はどうする?」

 

長髪の男が、意味深な発言をする。

バーサーカーのマスターは少し考えるそぶりを見せた後、溜め息混じりに口を開く。

 

「・・・この状況の今、そっちに頼らざるを得ないだろうな。仕方がない、準備を進めろ」

 

「了解。・・・今のところ、ランサーとライダーが脱落、か」

 

「やはり、アーチャーとセイバーが問題だな・・・この二人が組んでいる限り、ほとんどの英霊は勝てないだろう」

 

「だろうね。前衛と後衛・・・完璧に役割分担できるからね」

 

「後はアサシンもいたな。・・・ちっ、どっちみちこちらの手札が少ない事には変わりないか」

 

長髪の男は自信の手の甲を見て、呟く。

 

「令呪も私が二つに君が一つ・・・。ライダーの最後の攻撃は予想外だった。あれさえなければ、もっとマシだったのに」

 

「ふん。終わったことをとやかく言っても仕方有るまい。・・・気分が悪い。奥で休む」

 

「魔力不足だね・・・ゆっくり休むと良い」

 

ふらふらと覚束ない足取りで、男は闇へと溶けていく。

長髪の男は余った石を拾い、キャスターの所へと戻っていった。

魔力の固まりであるこの石が有れば、少しはマシになるだろうと考えながら。

 

・・・

 

ライダーが消えてしまった次の日。

俺は机の前で、ある一冊の本と対面していた。

 

「・・・なんで?」

 

以前、政務でのコツやらなんやらを書いて残しておけば、ほかの文官たちの助けになるのではないかと思いたった。

愛紗も賛成してくれたのでせっかく作るのならきちんと保存されるようなものに残そうと決めた。

黄金率で稼いだ金をフル稼働して材料を集め、金に物を言わせて職人たちを集めたところまではまだ正常だった様に思う。

どんな形にするかを相談されたとき、大学ノートのような形なら書きやすいと思って職人にそう伝えた。

それが完成したと先ほど届けられたのだが・・・。

・・・つい口をついて某有名なノートの名前をつぶやいたのがいけなかったのだろうか。

目の前のノートには、海の中で揺れるワカメの絵が描いてあり、「ジャプニカ暗殺帳」とタイトルがついていた。

 

「・・・え、間桐さんちの養女とかいないよね?」

 

ついついきょろきょろとあたりを見回してしまった俺は悪くないはず。

とりあえず、気を取り直して筆をとる。

指南書、と空白の部分に書き込み、内容を書いていく。

 

「ええと、まず最初に・・・っと」

 

さらさらと筆を滑らせていく。長く筆を使っている所為か、字はかなり達筆だ。

しばらくして、第一章と銘打った数ページが完成する。

 

「うぅむ、この分だと一冊でまとまってしまうな」

 

余裕を持って二冊作っていたのだが、一冊あまってしまうことに。

もう一冊のほうは・・・

 

「そうだな、日記帳にでもするか」

 

娯楽の少ないこの時代でも、手慰みにはなるだろう。

 

「・・・暇だな」

 

午前中は休みをもらっているのでまだまだ余裕はある。

・・・うぅむ、指南書の続きを書くのは明日にしたいし・・・。

ま、部屋を出れば誰かに会うだろ。

 

「よっと」

 

立ち上がり、扉に手をかける。

部屋から出ると、心地よい風が通り過ぎていくのを感じた。

 

「うん、いい天気だな」

 

散歩には丁度いい気温だ。

 

「あっ! ギルおにーちゃーん!」

 

遠くから、声が聞こえる。

この呼び方と声は・・・璃々か。

 

「璃々。久しぶりだな」

 

「うんっ! 久しぶりっ」

 

うむ、元気でよろしい。

だが・・・紫苑、こんな危険なところに娘を連れてくるなよ・・・。

 

「・・・あれ? 紫苑は?」

 

「おかーさんは弓の訓練してるのー!」

 

「ほう」

 

「でもね、璃々に弓ひかせてくれないし、つまんないからお散歩してるっ」

 

「・・・ほほう」

 

アグレッシブだな、璃々。

とりあえずは、紫苑のところへ行こうかな。

 

「俺も午前中は暇なんだ。よかったら、一緒にお出かけするか?」

 

「ほんとっ!? するするっ!」

 

「よし、じゃあまずは紫苑にお出かけしてくるって言いに行かないとな」

 

「おーっ」

 

両腕を万歳するように上げながら返事をした璃々は、早速とてとてと走り出す。

 

「ああもう、転ぶぞ、璃々ー」

 

「大丈夫だよーっ。ギルおにーちゃんも早くー!」

 

「ほらほら、危ないから肩車してやる」

 

追いついてわきの下に手を入れて肩の上へ上げる。

こうしておけばしばらくはおとなしいだろ。

 

「ほえっ? ・・・わー! 高いねー!」

 

いきなり抱き上げられた璃々は素っ頓狂な声を出したが、すぐにうれしそうな声に変わる。

 

「高いだろう。さすが英雄王だよなー」

 

182センチとはさすがである。

・・・まぁ、かの征服王は二メートルを超えるんだが。

 

「? ・・・えーゆーおー?」

 

「ああ、こっちの話だよ」

 

「そーなの? ・・・あっちだよ、ギルお兄ちゃん」

 

「おー」

 

ゆっさゆっさと璃々を揺らしたりしながら通路を進んでいく。

次第に、破裂音のような高い音が聞こえてくる。

 

「お、紫苑やってるなぁ」

 

「やってるねぇ」

 

俺の口調を真似た璃々が、頭の上で嬉しそうに笑う。

そんな璃々につられて、俺もくっくと笑い声が出てしまう。

 

「? ・・・あら、ギルさん。璃々も」

 

俺たちの笑い声に気づいた紫苑が、振り返って微笑む。

俺はやあ、と片手を挙げて答える

 

「こんにちわ、紫苑」

 

「やっほー、おかーさん!」

 

俺に肩車されている璃々を見て、あらあらまぁまぁと口に手を当てて笑う紫苑に、事情を説明する。

紫苑が訓練している間町の散策ついでに璃々の面倒を見るというと、紫苑は何かを思いついたような顔をした。

 

「あら、それでしたら私も一緒に行こうかしら」

 

「ん? 構わないけど・・・。訓練は?」

 

「もともと個人的な練習みたいなものでしたから。そろそろキリがいいですし、丁度いいかなって」

 

ま、紫苑がいいのなら別に俺が断る理由もない。

紫苑とは訓練か政務の時にしか話さないから、こういうときに交友を深めておかないとな。

欲を言えば桔梗も一緒に来てほしかったが・・・まぁ、あまり欲張ってもいけないだろう。

 

「よし、璃々。どこから行こうか」

 

「おまんじゅーやさん!」

 

「饅頭か。・・・紫苑もそこでいいかな?」

 

「ええ。あなたが璃々とどんなところに行くのか、楽しみです」

 

うふふ、と艶やかに笑う紫苑に疑問符を浮かべながら、とりあえず行こうかと歩き始める。

饅頭は・・・ああ、そういえばあそこがあったか。

 

・・・

 

町を歩き始めてしばらく経った。

饅頭から始まり、ちょっとした小物を見たり、髪留めを売っている露天を覗いてみたりといろいろ回ったが、終始紫苑は横に並んでいるだけだった。

璃々にちょっと注意したり、たまに俺に話しかけたりするだけで、ほとんど黙ってついて来ていた紫苑。

どこか行きたい所ある? と聞いてみても、ギルさんと璃々にお任せします、と笑顔で言われてはそっか、としか返しようがない。

謎である。紫苑はいったいどうしたんだろうか。勇気を持って聞いてみるべきだろうか。

 

「ギルお兄ちゃん、どしたの?」

 

「ん? あ、ああ。なんでもないよ。ちょっとボーっとしてただけ。どうかした?」

 

「えへへ、これ、どお?」

 

そういって見せてきたのは、蝶の仮面。

・・・って、それは・・・! 

 

「うん、いけない。返そうか」

 

「えー。かっこいいよ?」

 

「璃々、返そうか」

 

「でも・・・」

 

「・・・」

 

「・・・わかった」

 

ごめん璃々。でも、どんなに悲しそうな顔をされても・・・璃々を華蝶仮面にするわけには・・・! 

その時、背後でからん、と軽いものが落ちた音がした。

 

「わあっ、見てみてギルお兄ちゃん!」

 

そういって璃々が見せてきたのは、以前とある事件で着用することになったあのひょっとこ仮面である。

何 故 出 て き た し ! 

その後の俺の反応はすばやかった。アサシンクラスに負けないほどの速度でそれを回収し、後ろに放り投げるようにして宝物庫に帰す。

 

「・・・あれ? なくなっちゃった」

 

「仕方ないよ、璃々。ほら、お面屋さんはもういいだろ? あっちにきれいな髪留めが売ってたから、見に行こうか」

 

「ほんとっ? うん、いくいく!」

 

品物を見るために肩車からおろされていた璃々は、俺の手をつかんで走り出した。

璃々とはぐれないよう強めに握りながら、元気いっぱい少女の後を追いかける。

 

「うわぁ・・・!」

 

目をきらきら輝かせて露天の品を覗く璃々。

やはり女の子というのはこういうものに興味津々なんだろうな。

 

「ギルお兄ちゃん、似合う?」

 

花の意匠をこらした髪留めを前髪につけた璃々が、こちらを振り向いてそういった。

璃々の紫色の髪に合う色合いで、違和感がない。

 

「お、似合うじゃないか。・・・おじさん、これとこれ、いくら?」

 

こんなに似合うなら買わないのは勿体無いだろう。幸いノートの作成資金の残りがあるので、大抵の物は買えるだろう。

露天の店主から聞いた値段を払うと、璃々は嬉しそうな顔でありがとう、といってくれた。

 

「ん、構わないよ」

 

「ごめんなさいね、ギルさん。璃々に贈り物なんて・・・」

 

「気にするなって。こういうときは男が払うのが常識なんだぜ?」

 

だから、はい。ともう一つの髪留めを渡す。璃々の髪留めを少し大きくしたものだが、紫苑の華やかさには丁度よいだろう。

 

「え?」

 

「今日一緒に来てくれたから、ありがとうの気持ちをこめて」

 

何故か一歩引いていた紫苑だが、それでも璃々と俺と三人で町を歩けたのは嬉しい。

月や桃香、恋とは違う物腰の柔らかさは、一緒に歩いているだけで癒された。

 

「そんな、私は別に何も・・・」

 

「良いんだって。な、璃々。お母さんがもっときれいになったら嬉しいもんな?」

 

「うんっ。おかーさんにも似合うよー!」

 

「・・・ふふ。じゃあ、ありがたくいただきますね」

 

璃々に笑みを返した紫苑は、渡された髪留めで璃々と同じ前髪を留める。

うん、紫苑の美しさに磨きがかかった気がする。

俺の見立てた髪留めでさらに良くなったと感じると、なんだか嬉しいものである。

・・・日記にも、いろいろと書けそうだ。

 

「ん、そろそろ昼か・・・。璃々、お腹空かないか?」

 

「んー、ちょっと空いたー!」

 

「そっか、じゃあ何か食べに行こうか」

 

「うんっ」

 

「紫苑は何か食べたい物とかある?」

 

「ええと・・・」

 

俺の言葉に、少し悩むそぶりを見せた紫苑。

さっきまでは「お任せします」のみだったので、一歩前進といったところか。

 

「そうですね、この前鈴々ちゃんに教えてもらったラーメン屋なんてどうでしょうか」

 

「それいいな。鈴々の見立てなら外れないだろうし。案内してもらって良いか?」

 

「はい。こちらです」

 

そういって歩き出す紫苑の横に並ぶように歩く。

さっきよりは紫苑との話も弾み、距離も縮んだと思う。

紫苑のように戦いの経験が多い将からは、とてもいいことを聞けると分かった一日だった。

 

・・・




「○月×日。ギルさんが桃香様と親しげに話していた。許せない。△月○日。ギルさんが恋さんと笑いあいながら訓練をしていた。許せない。×月△日。呉の弓腰姫と呼ばれる娘がギルさんのお嫁さんになるのだとはしゃいでいた。許せない。」「こ、こわっ・・・!」
平行世界が違っていたらの話。

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