真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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「決戦と書いてデュエルと読む」「ドロー、ってやつか」「エクストラドロー?」「俺の場合は、タケミカヅチかな」「・・・ね、ねえ、月ちゃん、ギルさんたちは何の話をしているの・・・?」「さ、さぁ・・・」

それでは、どうぞ。


第二十三話 三国と五胡と決戦と

午後からは自分の部隊の訓練である。

俺の部隊はほとんど遊撃隊のようなものなので、陣形の訓練はほとんどしていない。

基礎体力の向上や騎乗の訓練といった、いつでもどこでもどんな時でも戦い続けられるように基本的な訓練ばかりをしている。

まず隊長である俺からしてほとんど一人で動くような奴なので、カリスマで指示を与えておけば後は各々がんばってくれるのだ。

・・・あれ、俺必要かなぁ・・・? 

隊員と一緒に一緒に城壁の上を走りながらうんうん唸っていたからか、隊員たちの変人を見るような視線には最後のほうまで気づかなかった。

さて、ランニングの後はそのまま筋トレである。超回復を前提とした訓練内容にしているので、一日筋肉を苛め抜くのである。

英霊である俺もやってればギルガメッシュの体を十全に扱えるようになるのではないかと思って隊員たちと同じメニューをこなしている。

結論としては大成功で、しばらく続けていた俺はあまりにも高い身体能力に振り回されることなくなったし、隊員たちも急造部隊としてはかなり使えるようになったと思う。

 

「次は何だっけ、副隊長」

 

「えーと、組み手ですね」

 

その言葉とともに、全員が俺から離れる。

・・・二度目くらいまでは俺と戦いたがる隊員もいたのだが、三度目あたりで俺から目をそらすようになり、四度目からはこうして距離をとられるようになった。

原因としては・・・素手で模造刀を叩き折ったり震脚で地面をへこませたりしていたからだろう。俺が兵士の立場だったら確実に距離を取ってる。それくらい自重しなかった。

 

「・・・いいよいいよ。俺は一人でやってるから」

 

「た、隊長、不貞腐れないでください」

 

「じゃあ副隊長、組み手するぞ」

 

「ごめんなさい、お腹が痛くて」

 

「よし分かった、俺もう寝る」

 

即答だと。というかさっきまで一緒に走ってたじゃないか。仮病使うほど嫌か! ・・・うん、嫌だろうな。

本格的にどうしようかと思っていると、言伝を預かっているという兵士がやってきた。

 

「ん? どうした?」

 

「はっ! 関羽さまがお呼びです! 政務室に来てほしい、とのことです!」

 

「了解。ご苦労様。・・・さて、副隊長。任せたぞ?」

 

「ええ。こちらのことはまったく、ありえないぐらいに気にせず行ってきて下さい」

 

「・・・後で俺の部屋で話し合おうか。主に隊長への接し方について」

 

「遠慮しておきます」

 

天の鎖(エルキドゥ)で縛ってでも今後の俺への対応を考えてもらわないとな。

 

・・・

 

政務室の扉をノックして、入室する。

 

「あ、お兄さんっ」

 

「ん? 桃香だけか」

 

呼んだ張本人である愛紗の姿が見えない。

 

「あ、愛紗ちゃんはね、別のお仕事が入ってるんだって。だから、自分の代わりにお兄さんにお願いしようって話になって」

 

「ああ、そういうことか」

 

成長したとはいえ、桃香一人で政務をさせるのは無茶だろう。

ま、俺も一人村八分にされていたことだし、問題はないだろう。

 

「よし、手伝うよ。何からやればいい?」

 

「んーとね、部隊の再編制の処理がもう少しで終わるから、そっちからかな」

 

「了解。ええと、なになに・・・?」

 

筆と竹間を取り、机に広げる。

それからしばらく、黙々と事務作業を続けていった。

 

・・・

 

あと少しで、曹魏との一大決戦の日がやってくる。

城内は出立の準備で慌しくなっており、誰一人として余裕を持った表情をした人間はいない。

 

「・・・なぁ、ギル」

 

そんな中で、ある程度余裕の表情を浮かべる・・・人間ではない者なら、二人ほどいた。

 

「なんだよ、セイバー。神妙な声を出して」

 

「いやなに、ついに決戦かと・・・感慨深く感じただけだ」

 

「そういうことか。・・・ま、変に考え込みすぎると危ないぞ?」

 

「・・・そうだな。三国の決戦が終わった後は・・・バーサーカーとキャスターを相手取って聖杯戦争を進めていかなくてはならないんだよなぁ」

 

「俺たちにとってはそれを終わらせないと・・・日常に戻れないからな」

 

城壁の下では、何人かのメイド服を着た少女たちが奔走しているのが見える。

月や詠、響の姿もちらほらと目に入る。

彼女たちの近くには、気配遮断で誰にも悟られないように護衛を勤めてくれているアサシンがいるのだろう。

・・・月たちをもう心配させないために。俺たちは勝ち残り・・・聖杯を起動させないようにしなければならない。

黒く汚れた・・・この世全ての悪(アンリ・マユ)を解き放つわけにはいかない。

 

「キャスターはどうか分からないが・・・バーサーカーにはかなりのダメージを与えたはずだ。あの戦いで魔力を使いまくって、さらにバーサーカーの修復にも魔力を回すのなら、しばらくは出てこれないはず」

 

だから、決戦が終わるまでは決戦に集中しても大丈夫だろう、とセイバーに伝える。

セイバーは頷いていたが、顔は思案顔のままであった。

 

「おーい! セイバー!」

 

少しの沈黙が俺たちの間に降りた時。

遠くから、銀の声がした。

 

「ん? ・・・どうした、マスター」

 

「そろそろ休憩終わりだってよ! おら、さっさと行くぞ!」

 

「おお、もうそんな時間か。・・・それじゃあな、ギル。また後で、だ」

 

「おう。きっちり働いて来い」

 

「何をえらそうに」

 

お互いに笑みを交わし、俺はセイバーが去っていくのを見た後、再び城壁に寄りかかった。

下では相変わらず決戦への準備を進めている兵たちが慌しく走っているのが確認できる。

「敵サーヴァントに対する警戒任務」を愛紗から任され、こうして城壁を歩いたり見張ったりしているが、どう考えても敵サーヴァントが来るようには思えない。

 

「・・・いいや。月の手伝いでもしてこよう」

 

そうと決まれば話は早い。さっきの月の進行方向だと・・・あっちだな。

早速城壁を降り、月の元へと向かう。

ええと、たぶんこっちだと思うんだけど・・・。お、いたいた。

 

「月!」

 

「え? ・・・あ、ギルさんっ!」

 

俺を見つけ、嬉しそうに笑う月に俺も笑顔になる。

決戦が終わり・・・聖杯戦争も落ち着けば、こうして笑顔の月と話す時間が増えるんだろうな、と夢想する。

 

「どうしたんですか? 何か御用でしょうか」

 

「いや、上から月が見えたから・・・何か、手伝えないかなと思って」

 

最近、一緒にいられなかったし、と続けると、月は両手を頬に当てて照れはじめる。

 

「そ、そうですよね。一緒にお仕事をすれば、一緒にいられますよね。・・・じゃあ、私たちにできない力仕事を手伝ってください」

 

「ああ、何でも手伝うぞ」

 

「えへへ・・・。それじゃ、行きましょう。ギルさん」

 

そういって歩き始める月の隣に並び、そっと手を差し出す。

最初はきょとんとその手を見つめていた月だが、すぐに得心いったのかその手に自分の手を重ねてくれた。

荷物を運ぶために両手がふさがるまで・・・月と手を繋ぎ、一緒に歩けたのはかなり幸福だな、といまさらながら思った。

 

・・・

 

「キャスター。キャスター、いるかい?」

 

「・・・なにかな?」

 

長髪の男に呼ばれ、霊体化を解いたキャスターが目の前に現れる。

体は表面上なんともないように見えるが、とりあえず魔力で覆っただけなのでいまだ右腕は動かせないようだ。

 

「ん、回復具合はどうかなと思って」

 

「順調といえば順調だけど・・・このままだと、決戦には間に合わないかもね」

 

「・・・ふむ、バーサーカーは間に合いそうだと言われてね。キャスターとの共同戦線を張れれば言うことはないんだけど・・・」

 

「はぁ、そんな事言われても・・・。そうだ、令呪のバックアップがあれば何とかなるかも」

 

「へえ。まだ二画あるし・・・やってみる価値はあるか」

 

「ああ。回復しろ、とかそんな感じのお願い」

 

「了解。・・・令呪によって命じる! キャスター、体を修復しろ!」

 

令呪が一画減り、キャスターへと魔力が流れ込む。

「回復する」事に関して行動する限り、魔力のバックアップを受けられる状態になったキャスターは、腰に下げている剣の柄からいつものようにさらさらと粉を取りだす。

石にはせず、そのまま粉を右半身へと振り掛ける。

外見上に変化は無いように見えるが、先ほどまでだらんと下がっているだけだった右腕を動かせるようになっていた。

 

「うん、成功だね」

 

「便利だねぇ、その宝具」

 

「はは、まぁ、宝具だからね」

 

キャスターだし、これくらいは無いと、と笑うキャスターに、長髪の男は改めて、どれくらいで回復できるかを問う。

キャスターはそうだね、と前置きしてから口を開く。

 

「後二日。それだけあれば、戦闘に支障がないくらいに回復できる」

 

「十分だ。じゃあ、そう伝えておくよ」

 

「ああ」

 

長髪の男は質問を終えるとすぐにどこかへ去っていく。おそらく相方の男の下へと行ったのだろう。

 

「・・・数日後には、決着がつく、か。・・・あの子、元気にやってるかなぁ」

 

キャスターは以前マスターだった少女のことを思い浮かべる。気絶させられてて細かいところまでは覚えてないけど、確かアーチャーに拾われたんだったかな。

腕、切られたって聞いたけど助かったかな。

ま、アーチャーが拾ってくれてたんなら何とかしてくれるだろう、とキャスターは自身の考えを締めくくり、霊体化する。

マスターが変わろうと、聖杯さえ手に入れば、私は・・・

 

・・・

 

作業も一段落し、俺は月とともに東屋でお茶を飲んで休憩していた。

お茶は月が煎れてくれたのだが、腕が上達しているのを感じ取れる味になっている。

月の笑顔を見ながらお茶を飲めるとは・・・何というか、満腹です。ごちそうさまでした。

 

「えへへ、ギルさん」

 

「ん?」

 

「・・・ふ、二人きり、ですね?」

 

「・・・そうだな」

 

頬を染めてそんな事を言われると、ここが外だということを忘れてしまいそうになる。

何とか苦笑いで乗り越えたが、俺には月の二撃目を耐え切る自信がない。

たぶん、同じようなことをもう一度言われたら天の鎖(エルキドゥ)で捕まえて茂みに連れ込んでしまいそうだ。

うむ、お茶で落ち着こう。俺は今、たぶん人生の岐路というか、ゲームで言うならば選択肢の前にいる。

理性を応援するか、本能に任せるか、とかそんな感じである。

もちろん俺は理性を応援する。がんばれ理性。俺もお茶を飲んで心を落ち着かせるから。

 

「その、戦いの前にこんなことを言うのって、変だと思うんですけど・・・」

 

「なんだ?」

 

「・・・私、こ、心の準備、整えておきますね?」

 

「・・・は?」

 

「その、あの・・・く、詳しいことは恥ずかしくていえませんっ! ・・・へぅ」

 

顔を真っ赤にしてあたふたした後、一息にそう言って俯く月。

・・・危ない。後ちょっとで王の財宝(ゲートオブバビロン)を開きそうになった。よくやった理性。

まぁ、取り合えず帰ってきたら何の心の準備かは聞けるんだし・・・今は目の前の戦いにだけ集中しておこうかな。

たぶん決戦の後の・・・聖杯戦争にあたっての心の準備だろうし。

 

「じゃあ、帰ってきたら聞くことにするよ」

 

月の頭をなでる。この感覚も、久しい気がする。

隣に座る月は俺の手を笑顔で受け入れてくれている。

 

「へぅ・・・。はい、帰ってきたら、また撫でて下さいね?」

 

「もちろんだ。・・・さてと、そろそろ仕事を再開するか」

 

「はいっ。・・・あ、私はお茶を片付けておくので、詠ちゃんと響ちゃん、後孔雀さんを呼んできてください」

 

「了解。またここに集合でいいかな?」

 

「大丈夫です。それでは、また後で、ギルさん」

 

「ああ。気をつけろよ、月」

 

そういって月と分かれた後、響たちを探しに歩き出す。

・・・うん、こういう時間があるっていうのは、幸せだ。

 

・・・

 

詠を発見して声をかけようとした時、思わず悪戯心が湧き上がる。

背筋を伸ばして歩く詠の背後に忍び寄り、わっ、と驚かせる。

 

「うひゃうっ!? ・・・な、なんだ、ギルじゃない。どうしたのよ」

 

・・・いつもの詠なら、ここで一つツン子モードに変わって「驚かせないでよ、馬鹿!」くらいは言いそうなんだが・・・。

以前俺に夜這いをかけた日から、詠のツン子はすっかりなりを潜めてしまったようだ。

 

「ちょっと、何落ち込んでるのよ」

 

「・・・いや、なんでもない。・・・月が呼んでるんだ。一緒に来てくれるか?」

 

「・・・別に、いいけど」

 

「そっか。後は響と孔雀だな。ほら、行こう、詠」

 

「あ・・・」

 

月と同じく手を差し出す。

詠はなにやら言っていたが、最終的に手をとることにしたらしく、おずおずと手を伸ばしてきてくれた。

さて、次は響か。

 

「響はどこにいるかわかる?」

 

「・・・んー、たぶん厨房じゃないかしら。ボクと響の二人は厨房で作業してたから」

 

「じゃ、厨房に行ってみるか」

 

進路を厨房へと向け、歩き始める。

時間を経るごとに握る手に力が入ってくるのを感じる。詠は可愛いなぁ。

しばらく歩いて厨房を覗き込むと、響と孔雀が二人何かしているのを見つける。

 

「響、孔雀。良かった、一緒にいたのか」

 

声をかけた瞬間、詠は恥ずかしいのか手を離してしまった。

 

「ん? どしたの、ギルさん」

 

「おや、詠とお散歩かな?」

 

「ちっ、ちがっ! 違うわよ! 月があんたらを呼んでるから、探してただけよ!」

 

「はいはい。そういうことにしておこうか。行こう、ギル」

 

「ちょっと! 何でボクじゃなくてギルに言うわけ!?」

 

・・・女三人集まると姦しいというが、本当なんだな。

ま、元気なのはいいことだ。

 

・・・

 

東屋では、すでに月が待っていた。

こちらを見つけるとゆっくりと手を振ってくる。

 

「ボクたちを呼ぶなんて、何かあったの? 月」

 

「うん、ちょっと手伝ってほしいことがあって・・・」

 

取り合えずこっちに来て、という月について行く。

何でも、保存食をまとめる作業に人手が足りないらしく、侍女たちにお呼びがかかったんだとか。

月たち侍女組が保存食をまとめ、それを箱につめて俺が運ぶ。完璧な役割分担だ。

 

「これで最後ね。ほらギル。きりきり持ってきなさい!」

 

「分かってるって。どうせなら詠も乗ってくか?」

 

「乗らないわよ。恥ずかしいじゃない。もう」

 

「それもそうか」

 

「じゃあ私乗る!」

 

「ちょ、響!?」

 

保存食をまとめてある箱に乗った響。

響ごと箱を持ち上げると、響はおおー、と感嘆の声を上げた。

 

「これ、なんかいいかもー」

 

「うぅ・・・」

 

「へぅ。いいなぁ、響ちゃん」

 

「ふふふ。暇しないねえ」

 

箱を運んでいる間、変なものを見る目で見られていたのは気にしないことにした。

 

・・・

 

出立の日。

どうしてもついてくると言う侍女組は本陣に預け、桃香ごとアサシンで守ってもらうことにした。

これで大半の脅威を防ぐことができるだろう。俺の部隊はやはり遊撃に使われるらしく、本陣に近いところに布陣するとの事。

セイバーと銀は前線に配備されると聞いた。まぁ、あいつらならそれが一番だろう。

多喜は・・・分からない。警邏の仕事を続けているのは知っているが、この決戦に参戦するのかはいまだ不明だ。

 

「行くぞ! 曹魏との決戦へと!」

 

愛紗の号令で、蜀の大軍は呉との合流場所へと歩き始める。

 

・・・

 

「蜀呉が動き始めたか」

 

「ああ。魏と決着をつけるためにね」

 

「ならば、そこをつくほかあるまい」

 

彼らのサーヴァント・・・バーサーカーとキャスターはすでに回復を果たしており、全力とまではいかなくとも、十分な戦力となりうる。

 

「白き軍団を動かし、その本陣に聖杯を配置する」

 

「私たちはどうする?」

 

「決まっているだろう。白き軍団とともに進軍し、敵を蹴散らす。蜀、呉、魏がそろっているのなら、北郷一刀も他のサーヴァントもいることだろうしな」

 

「・・・秘匿は、どうする?」

 

「もう無視してもいいだろう。聖杯さえ完成すれば壊れる世界なのだ。昼間から来ないだろうという油断を突けば、ある程度は奴らも堪えるだろう」

 

長髪の男は楽しそうに顔を歪ませ、くつくつと笑い声をもらした。

 

「なるほど。それはいい。それじゃあ、軍団を動かすよ?」

 

「ああ。五胡の兵たちも動かせるんだろうな?」

 

「もちろんだよ。さぁ・・・どうするのかな、彼女たちは」

 

・・・

 

「あっ! ギルー!」

 

「ん? ・・・おお、小蓮。元気にしてたか?」

 

「うんっ! シャオは元気ー!」

 

それは良かった、と頭をなでる。

遠くには孫権や孫策の姿も見える。

それから、小蓮と一緒に行くことになり、馬に乗った俺の前に小蓮が座っている。

一週間の間に何があったかから始まり、この戦いが終わったら蜀に遊びに行きたいだの雑談をしながら決戦の場へと向かった。

 

「・・・シャオの面倒を見させて悪いな、ギル」

 

しゃべりつかれたのか、俺にもたれかかるようにして眠った小蓮を見ながら、孫権が申し訳なさそうにそう言った。

 

「いやいや。小蓮と話すのは楽しいし、別に苦じゃないから大丈夫だよ」

 

「そういってくれると嬉しい」

 

そっと微笑む孫権。おお、いつも硬い表情だから、かなり新鮮だな。呉を担う孫家の王族といっても、やっぱり少女ってことだな。うむ、いいことだ。

 

「あら? なになに、楽しそうにしちゃって」

 

そんな孫権の横から孫策が顔を覗かせる。

とてつもなくいい笑顔で、あらあら、シャオになつかれるなんて珍しい、とか言った後に

 

「そうだ・・・ねえギル?」

 

「ん? どうした、孫策」

 

「シャオもこうしてなついてることだし、このままシャオと結婚する気はない?」

 

「・・・は?」

 

確実に、時が止まった。

何言ってるんだこの人。ほらみろ、孫権も固まってるじゃないか

 

「お、おおお姉さま!? いきなりそんな事を言うからギルが困ってるじゃないですか!」

 

「えー? いいじゃない。シャオにも一回聞いたけど、かなりノリノリだったしー」

 

「そういうのには、段階があってですね―――!」

 

孫家の三姉妹に巻き込まれながら、苦笑いをするしか俺には手段がなかった。

・・・ふぅ、孫策の相手も疲れるなぁ。周瑜の苦労が分かった気がする。

その後、シャオの夫になるんだったら私の真名も預けておかないとね、と変な理論を展開され、孫策の真名・・・雪蓮という名を預かった。

ご機嫌な孫策が周瑜の元へと戻っていき、同じタイミングでため息をついた俺に何かを感じたのか、疲れた表情で孫権も真名を預けてくれた。

 

「・・・蓮華、なんていうか・・・がんばって」

 

「・・・ありがとうギル。初めて理解者に出会った気分だ・・・」

 

俺に寄りかかって眠っている小蓮だけが、幸せそうな顔をしていた。

 

・・・

 

曹魏の大軍は新野城で防御体制を整えていると朱里が語る。

その後、新野城にすべての魏軍は入りきらない。そのため、最後には野外での決戦となるでしょう、と雛里が付け足す。

一週間の間、逃げる曹魏軍に対してかけてきたちょっかいが功を奏し、曹魏の軍勢は大幅に縮小している。

兵力的には互角。・・・だが、曹操相手にそんな油断ができるはずもなく。

将たちが戦意を燃やしている中、桃香だけが暗い表情を浮かべている。

 

「・・・どうした、桃香」

 

話を聞くと、これでいいのか、迷ってしまっていると彼女はつぶやいた。

これ以上曹操と戦って、悲しみを増やしていいのかと、彼女は静かに疑問を口にした。

それは、優しい彼女にとって当然の悩みだろう。仕方がない、と犠牲者を容認できない彼女の優しさに惹かれ、将達はここに立っているのだから。

桃香の理想とする『平和』と現実の『平和』の間には、越えられないほどの壁がある。

たぶん、桃香の心は今揺れているんだろう。

もう曹操と戦わなくてもいいんじゃないか。これ以上人の命をなくすことは無いんじゃないかと、彼女は悩んでいるんだろう。

 

「・・・ごめん、変なこと言っちゃって。・・・今は、目の前の戦いに集中しないといけないのにね」

 

えへへ、と気まずそうに笑う桃香は、少し悲しそうな顔で、新野城があるであろう方向を見ていた。

そんな彼女に声をかけられるはずも無く、無言でそこを去るしか、俺には選択肢が無かった。

 

・・・

 

呉の雪蓮たちと最後の打ち合わせを終えた俺たちは、魏の前方で陣形を整えていた。

これが最終決戦。大陸の運命はこの戦いで決まる。

朱里も、自分の生まれ故郷が近くにあるというのにそれをあえて考えないようにしているぐらいの決意を見せてくれている。

ならば、それに答えるしかないだろう。

そこで、俺の後ろに並ぶ我が隊の兵士たちの顔を見る。

・・・もう、大丈夫だ。彼らはきっと生き残る。

 

「・・・うん、じゃあ、最後に一つ、命令しておこうかな」

 

ざわめく戦場の中で、静かに語りかける。全員の目は俺に向いていて、誰一人聞き逃していないことをあらわしていた。

・・・頭に浮かぶのは、一人消えてしまった騎兵。そして、主を頼むと消えていった槍兵。

 

「死ぬな。それだけ守ってくれれば、良いかな。どんなにみっともなくとも、生き延びてほしい。・・・もちろん、敵を前にして逃げろって訳じゃないぞ?」

 

微笑交じりにそういうと、隊員たちにも笑みが浮かんだ。

・・・このくらいの緊張感なら、良いだろう。

 

「さぁ、行こう」

 

応、と、決して大きくない声が、一つに合わさったのを感じた。

 

・・・

 

布陣した戦場にて・・・曹操が、前へ出てきた。

大群を背後に歩みでる彼女の姿はまさに覇王というにふさわしく

 

「劉備よ! 孫策よ! 我が舌鋒を受け止める勇気はありや!」

 

小柄な少女から溢れているとは思えない圧倒的な気迫とともに、そう言い放った。

ゆっくりと俺のほうへ振り返った桃香は

 

「ギルさん、私・・・行って来るね」

 

決意を瞳に、そう宣言した。

・・・もともと、俺に止めるような権限はないし・・・そんな気も無い。

あの少女とぶつかり合う事は、とても大切なことだ。

うなずきだけで答え、桃香を送り出した。

 

「勇気、あります!」

 

そういって踏み出した一歩に、迷いは無いようだ。

 

「・・・あーあ、ギル、大丈夫なの?」

 

そんな桃香を見た雪蓮が、そんな事を言ってくる。

 

「大丈夫だろ。桃香なら負けないよ」

 

二人が相対し、曹操が口を開く。

負けじと桃香も反論し、お互いに激化していく舌戦。

お互いを認め合い、しかしお互いに自分の道を捨てられないという板ばさみに、二人の舌戦は熱を帯びていく。

・・・もはや、言葉による解決、和解は不可能だ。

すでに決戦は近い。・・・そう思っていた、その時。

 

「申し上げます!」

 

打ち合わせたかのように、蜀、呉、魏の王の下へそれぞれの伝令兵がやってきた。

緊張による沈黙の中、その兵士たちに否応無く注目が集まる。

 

「西方の国境が五胡の大軍団によって突破されました!」

 

魏の兵士が曹操に向けて

 

「南西も同様に・・・五胡の軍勢が!」

 

蜀の兵士が桃香に向けて

 

「南方も同様! ・・・五胡の軍勢は国境を突破し、破竹の勢いで北上を開始しております!」

 

呉の兵士が雪蓮へ向けて、一息に言い切った。

 

「ええっ!?」

 

「なんですって!?」

 

「なにっ!?」

 

それぞれの王は、同じように驚愕する。

三国のほとんどの軍勢がここに集まっている時に、五胡からの襲撃。

なおも兵士の報告は続く。

国境を突破した五胡の軍勢は各地の城を次々を落とし、すべての人間を根絶やしにするような殺戮を行っている。その数は、百万だと。

南西より進入してきた五胡の兵士も約百万であり、同じく城にいる人間をすべて殺害していると。

南方も、百万の軍勢が蝗のように進行し、各地を制圧し、暴虐の限りを尽くしていると。

その報告を聞いた桃香は、いち早く動いた。

 

「曹操さん!」

 

「・・・っ!?」

 

「こんなこと、やってる場合じゃないです! 今この瞬間、私たちの国は危機に瀕してる! ・・・戦いをやめて、一丸となって外敵からこの国を守らなきゃいけない時です!」

 

さっきの舌戦と同じか、それ以上に熱のこもった言葉を曹操にぶつける桃香。

曹操は、その姿を鋭いまなざしで見つめている。

 

「・・・私は行きます! この国を守るために! この国に住む、すべての人々を守るために!」

 

そう叫んだ桃香は、こちらを振り向く。

 

「ギルさん、お願い!」

 

以前話したカリスマの話を覚えていたんだろう。

大軍団を指揮する時の有利な補正は、今この瞬間にこそ生きるものだ。

 

「了承した。愛紗、鈴々は南西! 翠、蒲公英は騎馬隊を率いて西方へ先行してくれ! 星と白蓮は南方を頼む!」

 

俺の声に、全員が了解の声を上げる。

兵士も、もたつくことなく自分の配置へと付く。

 

「すべての敵の侵攻を止める!」

 

・・・俺も、宝具を開帳しなければいけないかもしれないな。

そんな事を思いながら出発しようとしたその時。

 

「待ちなさい」

 

曹操から、ストップがかかった。

 

「蜀だけで三百万の敵を防げるわけが無いでしょう」

 

曹操は一度目を閉じ、深い呼吸の後開く。

 

「春蘭、秋蘭! 関羽、張飛とともに南西へ赴きなさい」

 

「曹操さん・・・!」

 

桃香が感動の面持ちで曹操を見る。

覇王の衣を脱ぎ捨てるのか、と夏口淵に問われ、笑顔で答える彼女は、先ほどの覇王然とした空気を纏ってはおらず・・・自然と、笑っているように見えた。

 

「孫策。・・・あなたは、どうするのかしら?」

 

「呉を守る。それが私の使命よ」

 

毅然と言い放った雪蓮。しかし次の瞬間には表情を崩して

 

「ま、ついでに呉の友人を守ってみせるっていうのは、私の誇りかな?」

 

「曹操さん・・・雪蓮さん・・・」

 

やわらかい微笑で二人を見る桃香は、夢をかなえた少女のような顔をしていた。

 

・・・

 

将たちを先行させた俺たちは、いざ本陣も動かすという時になって伝令から嫌な報告を受けた。

 

「報告! 報告です! 四方を囲むように白き軍団が迫ってきております! その数、十万!」

 

・・・十万・・・! 

五胡への対応でほとんどの兵が出払っている今の状況では、最悪の数字だ。

 

「伏兵!? 五胡はそこまで侵攻してきてたの!?」

 

雪蓮が驚いた声を出す。

曹操の親衛隊、俺の遊撃隊、雪蓮の側近の部隊以外はほとんど出払っている今は、勝ち目は無いといってもいい。

ちらほらと森も見えるし、そこで待機していたのだろうか。

・・・しかし、それぞれの方向へ向かった将たちにもばれないとは・・・ほんとに五胡か? 

そうこうしているうちに白い軍団はその姿を現し始める。

数千に満たないこちらの軍を包囲するようにゆっくりと進軍する姿は、恐怖の対象でしかないだろう。

朱里たち軍師が何か策はないかと頭をめぐらせているが、おそらく不可能に近いだろう。一点に軍を集中させて突破するにも、どこにも壁の薄い場所など見つけられず、ただ絶望が近づくのを待つだけ。

 

「・・・おいおい・・・本気かよ」

 

そして、東西南北それぞれの先頭には、色合いが違う存在が四人、それぞれ悠然と歩いてきていた。

一人は狂戦士。一人は魔術師。一人は管理者。もう一人も管理者。

なるほど、大体読めた。今、この状況なら俺も・・・北郷くんも片付けられると踏んだのか。

五胡で三国の戦力をほとんど散らし、白昼堂々とこないだろうと言う油断を突いて薄くなった本陣を強襲する。なんて素晴らしい作戦。完璧すぎて泣けてくる。

 

「・・・だが、やられるわけにもいかないな。セイバーは・・・そうか、あいつは前線に・・・。アサシン!」

 

俺の声に、音も無く隣に立つ黒き体。アサシンを知らない他国の王や将たちが驚いているようだが、そんなことはどうでもいい。

 

「・・・マスターを守るぞ、アサシン」

 

「・・・」

 

力強く首肯するアサシンは、右腕を解放する。

妄想心音(ザバーニーヤ)を宿した右腕は怪しく光り、いつでも真名開放ができることを表していた。

 

「ギルさん!」

 

「ハサン!」

 

月と響の声が聞こえる。この事態に、サーヴァントの力が必要だと悟ったのだろう。

その後ろから、残りの侍女組がやってきた。彼女たちは後発の支援部隊に所属していたため、最後まで残っていたのだろう。

 

「月か。・・・いやはや、泣きたくなるほど絶望的だな」

 

「・・・ギルさん、この大軍には、もう・・・」

 

「分かってる。分かってるよ、月」

 

月の頭を少し乱暴になでて、言葉を切らせる。

この戦力では、俺がバーサーカーを相手取ることになるだろう。王の財宝(ゲートオブバビロン)を発動させれば、バーサーカーの方角の軍団は抑えることができるだろう。

キャスターはアサシンに抑えてもらうことにして、後の二人・・・おそらくマスターであろう二人は、将たちに抑えてもらうしかないが・・・今いる将では魔術・・・いや、仙術を使う彼らには勝てないだろう。

 

「朱里、この戦力でどれだけ持つ?」

 

「・・・数秒と持たないと思います。ギルさん、あなたの・・・宝具に頼るしか・・・」

 

・・・妖術がどうとか、秘匿とかを考えてる暇は無いか。あの筋肉の塊とでも言うべき管理者たちがいないということは・・・おそらく、あの過激派に何かされたか、だな。

女卑弥呼がいてくれると助かるが・・・無いものねだりか。

 

「桃香、月。・・・二人の判断に任せる。宝具を使うのか使わないのか」

 

「・・・使って、お兄さん。隠して死んじゃうより、使って生きたほうが、何倍も良いよ」

 

「そうです。ギルさん。・・・生きて、帰りましょう」

 

「分かった。・・・開け、宝物庫」

 

背後で、息を呑む音が聞こえる。・・・それもそうか。

中央に固まる三国の兵士たちが見たのは、空中に浮かぶ数えるのも馬鹿らしくなるほどの武器の数々。

しかも、一つ一つに圧倒的な存在感が宿っており、ただの武器ではないと主張している。

 

「これ・・・は・・・?」

 

北郷くんの、驚く声が聞こえる。

 

「すまんね。このとおり、俺には超常の力が宿ってる。隠すつもりは・・・大いにあったが、騙すつもりは無かった」

 

そこまで言って、俺の目線はバーサーカーへと移る。

あいつを、何とかするほか無い。

 

王の(ゲートオブ)・・・」

 

右腕を上げる。この右腕を振り下ろした時が、この戦いの始まり。

 

財宝(バビロン)!!」

 

右腕を振り下ろす。聖剣魔剣聖槍魔槍・・・ありとあらゆる宝具の原典が、目の前のバーサーカーを串刺しにせんと殺到する―――! 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

剣軍に応えるのは大地を揺るがす雄たけび。その場に立ち止まり、薙刀を片手に、刀をばら撒いて狂戦士は抵抗する。

狂戦士の後ろに立つ白き軍団も倒れるが、俺の実力では王の財宝(ゲートオブバビロン)を一方方向にしか展開できない。

そのため、狂戦士がいる一面にしか斉射することはできない。

 

「ちっ、こんな時に女卑弥呼でもいれば・・・!」

 

「あによ、呼んだ?」

 

「卑弥呼をな・・・って、卑弥呼!」

 

つぶやいた瞬間、隣に卑弥呼が立っていた。・・・呼べばくるって本気でいってたのか、こいつ。

 

「なかなかに絶望的みたいじゃない。わらわの力が要るみたいね」

 

「頼む」

 

俺の言葉に、んー、と卑弥呼は考え込む。

 

「魔術師って言うのは等価交換が基本らしいわね。わらわ、その理念にはとっても共感できたわぁ」

 

「・・・何を望む?」

 

「金ぴか、あんたよ。この戦争が終わったら、わらわのものになんなさい」

 

なんでもないことかのように、卑弥呼はそう口にした。

 

「あんたのことは気に入ってんのよ? わらわと一対一で戦える存在なんて初めてだしね」

 

どうする? と目で訴えてくる卑弥呼。

そんなもの、悩むまでも無い。この戦いが終われば、いくらでも戦ってやる。

 

「良いだろう。無事、生き残れればな」

 

「ふふっ。交渉成立ね。いくわよ鏡!」

 

誰も当たっていない管理者の内、短髪の管理者のほうへ駆け出した卑弥呼。

これで三面は何とか止められるだろう。・・・だが、後一つが足りない。

長髪の管理者は、歩みを止めずにこちらへ近づいてきている。加速するでもなくゆっくりとした足取りなのは、恐怖を増やすためなのか。

実際、朱里たちはすでに顔面蒼白だし、他の国の人間たちは目の前の超常現象に驚愕の表情を浮かべている。自分の中の常識が全てひっくり返った気分なのだろう。

恋でもいれば、話は違うんだが・・・。いの一番に五胡の対応に向かわせちゃったからなぁ。

一番良いのはセイバーだな。固有結界で何割かそっちに連れてってくれれば最良なんだが・・・。

 

「うおおおおおおッ!」

 

長髪の男が森の横を通り過ぎようとした時。

森の中から、男が馬に乗って飛び出してきた。

全身を黒い外套に包んでいるあの姿には覚えがある・・・。

 

「多喜かっ!」

 

長髪の男も驚いたらしく、一瞬驚きに眼を見開くが・・・すぐに鋭い瞳に変わる。

馬から飛び降りた勢いを活かして殴りかかる多喜。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

多喜の雄たけびに感化されたのか、バーサーカーも雄たけびを上げて駆け出す。

・・・エアの真名を開放して、短期決戦をつけるべきか? 

いや、宝具すら散らすあの暴風に後ろの人間たちが耐えられるとは思えない。

数が少なくなってきた白い軍団に宝具の弾丸を打ち続けながら、俺はエアを抜いてバーサーカーに向かっていった。

 

・・・




「大丈夫、桃香なら負けないよ。・・・舌戦って早口言葉対決みたいなものだろ?」「全然違うわよ?」「生麦生米生卵・・・え? 違うの? じゃあ駄目かもしれないなぁ」「・・・え?」

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