真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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もう八月も中盤ですね。
まだまだ暑いところは沢山ありますが、作者の住んでいるところではすでに夏が終わりかけているので若干過ごしやすくなってきています。
油断して熱射病にならないように気をつけながら過ごしていきたいと思います。

それでは、どうぞ。


第三話 剣士と戦いと共闘と

翌日、連合軍が虎牢関に向かって進軍し始めたと伝令が来た。

確か汜水関から虎牢関までは二日かそこらかかるはず。ならば、もう少しは時間がある訳か。

宝具を使う練習をしておこう。乖離剣エアも、天地乖離す開闢の星(エヌマエリシュ)は使えなくても普通よりは強い剣として使えるだろう。

思い立ったが吉日。・・・だが、練習の相手が居ないなぁ。素振りでもしてるか? 

手合わせもなんだかんだ言って霞としかしてないんだよなぁ。呂布とかともしておけば良かったか。

サーヴァントとの戦い、大丈夫かなぁ。鎧に行く魔力はじゅうぶんだし、一応王の財宝(ゲートオブバビロン)も使える・・・よな? 

 

「・・・今日は王の財宝(ゲートオブバビロン)の練習にしよう」

 

月を連れて行かないとな。予定は大丈夫だろうか。

 

・・・

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)を展開していると、少しだけ使いやすくなっていることに気付く。

月からの魔力供給も結構マシになってきたし、これならサーヴァントとの戦闘も行けるかもしれないな。

 

「月、体に不調はないか?」

 

「はい。大丈夫ですよ?」

 

「そっか。なら、もう少し練習しても良い?」

 

「大丈夫ですよ。でも、無茶はしないでください」

 

「了解。・・・む」

 

聖杯からのお知らせだ。久しぶりだな。

 

「・・・アサシン・・・」

 

召喚されたのはアサシン。・・・小次郎じゃないよな? 

 

「暗殺者さんが召喚されたんですか?」

 

「そうみたいだ」

 

ならば、警戒は高めないといけないだろう。

気配を遮断されて近づかれては、未熟な俺では対応できないだろうし。

幸いまだみんな動く気はないみたいだし、宝具をちゃんと扱えるようになれば大丈夫なはず。

 

「残るはライダーとバーサーカーか・・・誰が来るんだろうか」

 

・・・

 

「むっ」

 

虎牢関へと進軍中の連合軍の中に、セイバーとそのマスターはいた。

歩いている途中、セイバーは声を上げる。

 

「どうした?」

 

「アサシンが召喚されたらしい」

 

「そうか・・・。後は二人か」

 

「ああ。早ければこの戦いが終わった後にはサーヴァントは全て揃っているはずだ・・・と、思う」

 

「ふぅん。・・・ま、それよりも虎牢関だ。あの飛将軍呂布が居るんだってさ」

 

「それは興味深い。結局汜水関ではあまり戦えなかったしな」

 

「まぁ、虎牢関でも戦えるかどうか解らないけどな。関羽様に張飛様もいるんだし」

 

「・・・うむ」

 

・・・

 

今頃虎牢関では戦いが起こっているのだろうか。伝令の兵士が来ないから、全然状況が解らない。

月もなんだか参ってきてるみたいだし・・・。

 

「で、伝令です!」

 

「虎牢関に連合軍が着いたか?」

 

「はい!陣を張って準備を完了し、今頃はすでにぶつかり合っている頃かと・・・!」

 

「解った。下がって良いよ」

 

「はっ」

 

最近は月が落ち込んだりしているので、俺が代わりに兵士とやりとりするようになっている。

兵士達もそれが解っているのか、極力俺の方へと話を持ってくる。

木簡を読んで、状況を把握して、月には要約して告げる。

そんなことができるのも、ギルガメッシュの能力なんだろうか。確かカリスマとかがあったはずだが、それが関係してるのか・・・? 

 

「詠ちゃん達・・・大丈夫かな・・・」

 

連合軍が虎牢関へと進んだと伝えた後、月が呟いた。

確か呂布が陳宮と一緒に突撃して、それを追って霞も出撃・・・で、詠は洛陽に戻ってくるんだっけ。

呂布と陳宮は敗走して袁術の元へ流れて、霞は曹操の元へ。そんで、月と詠は劉備に匿われる、はず。

何故かいる俺達みたいなサーヴァントという不確定要素が何を巻き起こすかが問題だけど・・・。

取り敢えず、連絡は密にするようにしておこう。

連合が近づいてきたら一旦城から月達を逃がさないといけないし。

詠が帰ってきたら、作戦スタートか。

 

・・・

 

「おーおー・・・あれが飛将軍かー」

 

セイバーの前方では、人間が木っ端のように吹き飛んでいるのが見える。

 

「うえぇー・・・。前には出たくないなー。セイバー、いける?」

 

「・・・この剣では、どうもな」

 

「かといって宝具を使うのも出来ないか・・・」

 

駆けてくる呂布とその隊。

だんだんと近づいて来る呂布にどうしようかと思った瞬間、関羽から撤退の言葉。

 

「呂布を逃がすのか?」

 

「まぁ、このまま押しとどめていたら向こうもこっちも被害が大きくなるだけだしな。良い判断だと思うぞ」

 

「ふぅん。・・・じゃ、呂布隊を全力で見逃しますか」

 

「そうしよう。・・・次は洛陽か」

 

「らしいな」

 

「・・・董卓、か」

 

「どうした?」

 

「ん、いや、少しな」

 

「・・・そっか」

 

蜀の軍の包囲に穴が開いて、そこから呂布隊が抜けていく。

 

「張遼隊は曹操に下ったらしい。虎牢関はもう落ちたな」

 

・・・

 

「虎牢関が・・・」

 

「はい。虎牢関は落ち、張遼様は隊と共に曹操へと下り、呂布様と陳宮様は行方不明。賈駆様がこちらへ向かっています」

 

「・・・解った。ご苦労様。下がって構わない」

 

「はいっ」

 

伝令役の兵士が玉座の間から出て行く。

後は、詠が帰ってきて、逃げるのを言い出すのを待とう。

それから、劉備に匿って貰う話を言い出せばいいかな。

原作通りなら、劉備は優しい性格だ。洛陽の現状を見て圧政なんて無かったと知れば、匿ってくれるだろう。

匿ってくれるなら月が狙われることはほぼ無くなる。そうすれば、俺ももう少し行動できるようになる。

 

・・・

 

「そろそろ洛陽だな」

 

虎牢関を出発して数日。洛陽の近くまでやって来た連合軍。

 

「・・・それにしても、此処まで戦闘無しって言うのも不思議だな」

 

「確かに。少しは奇襲があるかもと思っていたけど・・・」

 

「洛陽に全軍を集結させているというのが結構噂になっているらしいぞ」

 

「そうなのか?」

 

「ああ。兵士達と話してたらそう言っていた」

 

「・・・いつの間に仲良くなってるんだ・・・」

 

セイバーのマスターははぁ、とため息をつく。

 

「兎に角、洛陽は一番激しくなるのか?」

 

「そうなるだろうな。だが、洛陽には主だった将が居ない。物量で押せばすぐに終わるだろう」

 

「ふぅん。・・・さて、最後まで頑張りますか」

 

・・・

 

「詠ちゃん!」

 

「月!」

 

玉座の間に詠が飛び込んできて、月に駆け寄る。

 

「大丈夫だった!?」

 

「うん。こっちには何もなかったよ」

 

「そう」

 

詠は息を吐いて、決意が籠もった目で月を見つめる。

 

「・・・ねぇ月」

 

「なに、詠ちゃん」

 

「・・・逃げよう? こっちにはギルも居るし、きっと逃げ切れる」

 

「でも、いつかは見つかっちゃうよ? ・・・それに、お父さん達にも迷惑がかかっちゃうかもしれない・・・」

 

「このままじゃ死ぬだけだよ!?」

 

「・・・詠ちゃん・・・」

 

「・・・それなら月だけでも逃げて。私が代わりになるから」

 

「それはだめ!」

 

「じゃあ、逃げようよ!兵士達は投降するように言ってある! ね?」

 

「・・・うん」

 

「じゃあ、荷物を纏めに行こう? ・・・ギル、最後まで付き合ってよね」

 

「・・・詠。一つだけ、可能性がある」

 

二人の会話が終わった後に話しかける。

会話中に黙っていたのは、ちょっと空気に押されていたとかそんなことは全然無く、ただ二人の会話の邪魔をするのもなぁ、と考えていたからなのだ。

・・・ほ、本当だぞ?

 

「何? 何か良い案があるの?」

 

「・・・何処かに匿って貰うんだ」

 

「何処かって何処よ? だいいち、私たちみたいなのを匿う所なんてあるの?」

 

「・・・劉備軍だ」

 

「劉備?」

 

「劉備は義と情を重んじると聞く。なら、もしかしたら匿ってくれるかも」

 

「董卓を匿ってると知られたら次の矛先は劉備達に行くわ。そんな不利益を抱えるなんて思えないんだけど?」

 

不機嫌そうに眉を寄せる詠に、人差し指を立てながら答える。

 

「だったら、董卓じゃなくなればいいんだよ」

 

「は?」

 

「董卓はこの戦で死ぬんだ。劉備達に討たれてな」

 

「何を・・・って、ああ、そう言うこと?」

 

やっぱり賈駆は頭が良い。

隣で疑問符を頭の上に浮かべている月に、詠が説明する。

ほとんどの人に月の顔を知られていないことを利用し、劉備に討たれたことにして匿って貰う事にする、と説明を受けた月は、感嘆したように息を吐いた。

 

「そんなことが・・・」

 

月と詠は少し渋ったが、それしか方法がないと悟ったのか、俺の案に乗ってくれた。

 

「なら、早めに荷物を纏めておいた方が良い」

 

「はい」

 

「解ったわ。ちょっと待ってなさい」

 

そう言って玉座の間から出て行く二人。

その背中が消えるのを見てから、ふぅ、と息をつく。

天の御使いが蜀ルートにいるのならこんな事しなくても匿ってくれるだろうが、なんと天の御使いは魏に居るらしい。

ならば、こっちから気付かせないと駄目だろう。

交渉も俺がやる必要があるかな。

さて、ここからが正念場かな? 

 

・・・

 

「・・・静かだな」

 

「・・・ああ」

 

劉備達の軍は一足早く洛陽に着いていた。それからすぐに斥候が放たれる。

帰ってきた斥候から話を聞いた劉備は、洛陽の中に入ることを決断する。

 

「お。ついに入城か」

 

・・・

 

「・・・兵士は大体投降したみたいね」

 

城壁からそれを見た詠は、俺と月に声を掛ける。

 

「なら、劉備に接触するわよ。他の連合軍が来る前に話をつけないと」

 

「・・・交渉は俺がしよう。もしもの時には俺だけの方が楽だし」

 

「任せるわ。・・・頑張りなさいよ」

 

「あいよ。・・・それじゃ、行きますか」

 

城から出て、隠れるように進んでいく。

兵士達が巡回しているので、そこで見つかったらアウトだ。

しばらく歩いていると、劉備達を発見。

 

「あれが劉備達ね」

 

「よし。・・・何か危険なことがあったら真っ先に逃げろよ?」

 

「分かってるわよ。これだけの兵士じゃ、抵抗するまもなくほんとに殺されちゃうしね」

 

「ギルさん、お気をつけて」

 

「ありがと。・・・行ってくる」

 

月と詠に見送られながら、俺は歩き出す。

来た場所から月たちの場所が分からないよう少し迂回して、劉備達の前に出る。

 

「何やつ!」

 

俺が出てきた瞬間、綺麗な黒髪の少女・・・関羽が偃月刀を構える。

 

「お兄ちゃん、だれなのだ? 町の人?」

 

ちびっ子・・・張飛が聞いてくる。

 

「町の人・・・だよ。一応。劉備って誰かな」

 

声を掛ける。解っているが、一応だ。

予想通り、桃色の髪の女の子が手を挙げながら答える。

 

「劉備は私ですけど・・・」

 

「そっか。・・・俺はギルガメッシュ。ちょっと話があるんだ」

 

「お話、ですか?」

 

「そう。董卓と賈駆を匿って欲しいんだ」

 

俺の言葉に、劉備達が一瞬体を強ばらせる。

 

「どういう事だ?」

 

関羽が警戒を抜かないままに聞いてくる。

 

「董卓は圧政や暴政なんかしてない。・・・それは、この町を見て解るだろ?」

 

今は戦争中と言うこともあって閑散としているが、平時は活気のある街だ。

それに、月が圧政なんか出来る性格じゃない。

 

「そう、ですね・・・。私たち、この町を見て回って、いろんな人に話を聞いたんですけど、それは噂だって言われて・・・」

 

「そうだ。だけど、この戦は董卓を倒さなければ収まらない。だから、一つ案がある」

 

「案?」

 

「董卓と賈駆を討ち取ったことにして、そっちに匿って貰うんだ。それなら、そっちは董卓を討ったと言うことに出来る」

 

俺の言葉に、後ろの諸葛亮が顎に手を当てて考える姿勢を取る。

 

「・・・確かに、それならどちらも損はしませんね・・・」

 

「あの、私は二人を匿ってあげたいな」

 

劉備がそう言い出す。

 

「・・・私は桃香さまに従うだけですから」

 

「鈴々は難しいことわかんないのだー」

 

関羽と張飛はほとんど賛成のような物だな。

後は諸葛亮と鳳統、趙雲だけだが・・・。

 

「私も、反対しません。・・・雛里ちゃんは?」

 

「私も・・・賛成です」

 

「うむ。私も良いと思うぞ」

 

残りも賛成してくれた。

予想通り、優しい娘たちがそろっているのだろう。

 

「・・・なら、二人を連れてくる。待っててくれ」

 

「え? 私たちが行くよ。良いよね、お兄さん」

 

「む? そうか?」

 

「うん。早く挨拶したいし。良いよね?」

 

「構わないけど。・・・じゃあ、行こう」

 

劉備たちを連れ、月達が隠れている所へと足を進める。

月達のもとにたどり着いたときに一瞬警戒されたが、特に問題となることも無く合流は済んだ。

 

「あ、ギルさん・・・と、劉備さん?」

 

「はいっ。初めまして、えっと、董卓ちゃん」

 

「初めまして」

 

ぺこり、と挨拶をかわす二人。・・・国の長には見えないよなぁ。

それから、董卓と賈駆は名前を捨て、真名を預けていた。

偽名を考えるよりは、そっちの方が良い、と月と詠が言ったのだ。

もちろん俺も真名を教える。

ギルガメッシュが真名だ、と言った瞬間の妙に驚いた顔はちょっとクセになる。

劉備達からも真名を教えて貰い、彼女たちの所へと匿ってもらえることが決定したのだった。

・・・原作通りになって良かった。肩の荷が下りたよ。

 

・・・

 

とある家に、少女と男が居た。

男は真っ黒な体に、右腕に巻いた包帯、顔に着いた骸骨のような面を着け、体を折り曲げるように立っていた。

 

「・・・えっと、だれ?」

 

少女は少しずつ後ずさりながら質問をする。

 

「・・・」

 

男は答えない。

その代わりに、視線を少女へとあわせた。

 

「・・・ウチには本以外の物はないよ。お金もそんなないよー・・・?」

 

「・・・」

 

しかし、少女の言葉には反応せず、キョロキョロとあたりを見渡すアサシン。

 

「どしたの?」

 

少女は相変わらずキョロキョロと辺りを見回す男を見て、ため息をつく。

 

「・・・ま、いっか。あんた、危ない人じゃ無さそうだ。外見はともかく。・・・暇してた所だし。おいで。お茶くらいならごちそうするよ」

 

そう言って、少女は奥へと進んでいく。

男は少し首を傾げ悩んだ後、その後へと着いていく。

 

・・・

 

桃香達に匿って貰って数日が経った。

月と詠は何故かメイド服を着て侍女をしている。董卓の時に月が着ていたあの服とか、詠が軍師をするときの服も良いが、こっちも中々・・・。

げふんげふん。閑話休題。

そして、俺はと言うと、桃香達に呼び出しをくらい、執務室へと向かっているところだ。

 

「・・・俺、何かしたかなぁ」

 

取り敢えず、悪いことはしてないはず。

考え事をしていると、教えて貰った部屋の前にたどり着く。

 

「入りまーす」

 

ノックをしてから、入室。

 

「あ、ギルさん!ようこそ!」

 

「どうも。あの、何か用・・・なのか?」

 

「うん、ちょっとね。朱里ちゃんが質問があるらしくって」

 

「・・・俺に答えられるところは答えよう。なにかな、朱里?」

 

「あ、えとえと、ギルさんの着ている服は・・・魏にいた天の御使いさんと同じ服・・・なんですか?」

 

みんなの視線が俺の服に集まる。

全員少なからず疑問は持っていたらしく、俺の答えを待つ。

 

「天の御使い・・・そうだな、彼と同じ服だ」

 

タグにポリエステルと書いてあったしな。

あの土下座娘のおまけなのか知らないが、ギルガメッシュのライダースーツも入ってたし・・・。

宝物庫って言うより、便利倉庫になっている気がしないでもない。

宝具を取り出すより、日常品を取り出す頻度が圧倒的に多いってどうなんだろうか。

 

「じゃあ、ギルさんも天の御使い様なの!?」

 

桃香が期待を込めた目でこちらを見てくる。

 

「・・・それは、違うかな。俺は天の御使いなんてたいそうな存在じゃない。きっと、魏にいる天の御使いの方が、よっぽどそれらしいと思う」

 

俺は守りたい人を守るだけだしなぁ。それはただ我が儘なだけでで、この乱世を収めようなんてことは考えつかない。

天の御使いなんて呼ばれるほど立派なもんじゃない。

 

「そう、なんだ・・・」

 

がっかりしたような顔をする桃香。

愛紗や朱里も少しがっかりしている様に見える。

 

「ごめん。・・・でも、俺も出来ることは手伝うから、その時は遠慮無く言って欲しい」

 

「うんっ。これからお仕事のお手伝いもして貰うかもしれないから、宜しくねっ」

 

その後は朱里に俺の扱いをどうするか、と言うことを説明された。

俺は表だって活動してたわけじゃないし、月のように反董卓連合に狙われていた訳じゃないので、これから出来ることを見極めて、仕事を任されるそうだ。

 

「了解したよ。じゃあ、今日はこの城の中を見て回って良いかな」

 

「良いですよ。今日はギルさんに任せるお仕事を選別しておきますので、明日からいろいろとお手伝いして貰います」

 

「ありがとう。・・・それじゃあ、失礼します」

 

うーん・・・緊張した・・・。

ああいうところは、職員室とかと同じ雰囲気だ。

 

「さて、じゃあ、城の探索・・・ん?」

 

聖杯からのお知らせ・・・これっていっつもどこから来てるんだろう。

急に頭の中に来ては情報だけ残して行くんだが・・・。原作のサーヴァントもこんな感覚だったのかな。

 

「って、ライダーが・・・」

 

後はバーサーカーのみとなった訳か。

・・・ヘラクレスとかだったらどうしよう。天の鎖(エルキドゥ)の練習もしておいた方が良いかな。

取り敢えず、今日は城を回って構造の把握をして、明日仕事の手伝いして、明後日から誰かに手合わせして貰おうかな。

 

「うんうん、計画を立てるとなんか自分が頭良くなった気分になるなぁ」

 

取り敢えず、水回りやらなんやらを見て回ろう。後は・・・そうだな、月にそろそろ戦いが始まるかもしれないことを言っておかないと。

真っ昼間から戦いをしかけてくるとは思えないが、警戒するに越したことはないし。

 

「ま、歩き回って月を見つけられれば言っておこう」

 

・・・

 

「・・・抜かった」

 

「どうしたよ、セイバー」

 

「隊に居すぎて隊から抜けづらくなってしまった」

 

「・・・はぁ・・・」

 

「マスターもそうだろうに」

 

「まぁ、否定はしないが・・・。確かに、仲間が出来ると抜けにくいよなぁ」

 

「聖杯戦争などやめて、此処で従軍して過ごすか?」

 

「うーん・・・それも良いかも、と思える様な所だからなぁ、ここ。他の奴らも戦う気がなければ良いんだけど」

 

「そうだな・・・。戦わない仲間を集めることも視野に入れようか、マスター」

 

「ん。そうしよう。反董卓連合の戦いを経験して思ったよ。命あっての物種だ。平和が良いのさ、なんでも」

 

「・・・うむ」

 

・・・

 

「ランサー」

 

「はっ」

 

「後はバーサーカーのみ。そろそろ、動き出そうか」

 

「はっ。最初に誰を狙いましょうか?」

 

「やはり、此処は長引くほど強敵になると言われている・・・キャスターからか?」

 

「は。ですが、この国には居ません」

 

「そうなんだよなぁ。・・・仕方がない。戦いの反応があったところへ移動して、そこをしらみつぶしに探すことにしよう」

 

「了解しました」

 

「ならば、今から準備を始めよう。・・・お前、それ一着しか着ないのか?」

 

「はっ。この服だけで十分であります」

 

「・・・お前が良いのなら、良いんだが」

 

・・・

 

「お、もう文字を覚えたの?」

 

こくこく、と首肯するアサシン。

少女は嬉しそうにその竹簡をのぞき込んで、間違っているところを指摘する。

 

「それにしても、君は面白い人だよ。いい人だしね」

 

「・・・」

 

「あはは、まぁ、君の説明は聞いてるし、その聖杯を巡る戦いって言うのも、聞いたよ。でも、私はちょっといやかなぁ」

 

少女は店の入り口から外を見る。

 

「私はこうして本屋でまったりと過ごせてればいいもん。たまに騒ぎが起こったりして、それを君と解決して・・・それで十分かな」

 

「・・・」

 

「うん。・・・巻き込まれるのは解ってる。でも、戦争は嫌だ。戦争は、私から家族を奪ったんだから。・・・その哀しみを知ってるから、奪う方に回るのは、嫌なんだよ」

 

「・・・」

 

「ごめんね。偶然とはいえ君の相棒になったのに、弱くって」

 

首を横に振るアサシン。

 

「・・・」

 

「うん、そう言ってくれて嬉しいよ。・・・さぁ、お昼にしよっか」

 

・・・

 

「さてさて、真っ先に私が狙われるだろうなぁ」

 

「どうする? 君の実力を見た事がないから、どうも不安なんだけど」

 

「うーん・・・まぁ、逃げに徹底すればどんな相手からも逃げる自信はあるよ」

 

「・・・アサシンのように戦うしかないかなー・・・」

 

キャスターに出会ってからすっかり定番となってしまった落胆の表情を見せつつ、諦めたように呟くマスター。

 

「ま、私は此処で知識を吸収できれば良いので、今吸収できるだけしておくさ。派手に動かなければ場所は解らないだろうし」

 

「はぁ、そうかい・・・」

 

キャスターの言葉に頭を抱えるのも、すっかり定番となってしまったマスターなのであった。

 

・・・

 

「うむ、予定通りだな」

 

「そうねぇん。この世界に居る魔術師と、その才能を持つ人達にこれから起こる事への抑止力を持たせる・・・。一応成功ね」

 

「ほとんどが勘違いしているようだが・・・教えなくて良いのか?」

 

「大丈夫よん。みんななら、きっと解ってくれるわ」

 

くねくねとおさげの人間が身をよじる。

 

「しかし・・・あいつめ・・・。まさか、あの世界から『アレ』を持ってくるとはおもわなんだ」

 

「それに、多分バーサーカーもあの人達の下へといってしまうわね」

 

「まぁ、他の六体を散らばらせられたのだから、よしとしようじゃないか」

 

「・・・ライダーは、少し無理があったんじゃ・・・?」

 

「うむ、それはワシも思っておった。じゃがまぁ、予定とは違ってしまったが、無理やりにでも枠に入ってくれて安心した、というところか」

 

「そうねぇ。でも、向こうの世界から借りてきた英霊達だけで、大丈夫なのかしら」

 

「・・・それ以上は世界の枠が開かない。一刻も早く気付いてくれることを願うしか、我らに出来ることはない」

 

「そうね・・・私たちが干渉できるのは此処まで・・・そういえば、アーチャーはギルガメッシュの予定だったはずだけど・・・?」

 

「それはな、強い英霊と言うことでギルガメッシュを借りようとしていたのだが・・・クセが強すぎてな」

 

「成る程ねん。同じような能力で、普通の一般人だった彼を代わりに持ってきた訳ね?」

 

「・・・すまないとは思っているがな。都合が良かったのだ。・・・英霊とは少し違う存在ではあるし、知識はあるのだから・・・後は、あやつの成長次第だな」

 

「セイバーと今一番近いみたいねん。・・・セイバーが成長させてくれることを願いましょう。・・・出来るだけ、戦いは好まない英霊は選んだつもりだけど」

 

「頼んだぞ、みんな・・・」

 

・・・

 

「だ、だ、誰だ・・・お前・・・?」

 

「よう、ご主人サマ。・・・っていうか、ここどこだよ・・・」

 

「ここは俺の家だけど・・・いやいやそれより! お前誰だっ! 何で俺の家に・・・!?」

 

「あん? 俺か? 俺はライダー。ホントはキャスターだったんだけどさ、取られたらしくて」

 

「ら、らいだぁ?」

 

「おう、そうだぜ、ご主人サマ。さ、俺と一緒に勝ち残ろうじゃないか」

 

「お、俺と一緒にって・・・お前、どうやって此処に現れたんだよ?」

 

「あれ? ご主人サマが呼んだんじゃねえの? ほら、手に令呪もあるし」

 

「は? 令呪? ってうぉ!? 俺の手が光ってるー!?」

 

「やっぱりご主人サマじゃねえか。ほら、早速行こうぜー」

 

「え? どこに? 何しにっ!?」

 

混乱しながらも引きずられるマスターの顔には、どこか悲しい空気が漂っていたとか・・・。

 

・・・

 

城の中を歩く。

探索ついでに月を見つけられれば、とか思っていたが、今はもうついでではなくそれが目的になってしまった。

 

「くそ、絶対見つけてやる」

 

二時間ほど歩いているはずなのに、仕事中の月と詠に会えないなんて・・・俺って幸運Aじゃ無かったっけ・・・? 

えっと、後回ってないところは・・・訓練場くらいか? 

・・・でもなぁ・・・月達がそこにいるとは思えないが・・・一応行ってみるか。

いつのまにか止まっていた足を動かし、兵士達のものらしき声が聞こえる方向へと足を進めた。

 

・・・

 

「おー・・・」

 

凄いな。

将の訓練は洛陽で何度か見たが、兵士の訓練を見たのは初めてだ。

こんな風に訓練してたのか・・・。

後で朱里に頼んで参加させて貰おうかな。

 

「・・・やっぱり、いないよなぁ・・・」

 

キョロキョロと見回してみるが、二人はやっぱりいない。

そう言えば、原作では執務室にお茶を持って行ったりしてたな・・・くそ、灯台もと暗し、と言う奴か? 

執務室に戻ってみよう。

 

・・・

 

「・・・やっぱり」

 

執務室から出てくる二人を発見。

 

「月!詠!」

 

「え? ・・・あ、ギルさん」

 

「ギル? あ、ホントだ。あんた、何してるわけ?」

 

「少しぶらぶらと。仕事は明日以降らしいし」

 

「私たちは働いてるって言うのに・・・はぁ」

 

詠にため息をつかれた。・・・結構傷つくな。

 

「それはまぁ・・・すまん。・・・あ、そうだ。月に話があったんだよ」

 

見つけた嬉しさで本来の用事を忘れるところだった・・・。

 

「私に、ですか? ・・・はい、なんでしょうか?」

 

「ライダーが召喚されたんだ。これで六体。・・・そろそろ、始まるみたいだ」

 

「そう、ですか・・・」

 

「ギル、月は絶対守りなさいよ!」

 

「解ってるよ。安心しろって」

 

そう言って、詠の頭を撫でてやる。

少し抵抗されたが、諦めたようにされるがままになる。

それに気分を良くした俺は、月も同じように撫でる。

洛陽にいたときは二人とも帽子をかぶっていたので少ししか撫でることが出来なかったが、今はメイド服。

このさらさらと気持ちいい髪の毛を楽しむことが出来る。・・・って、なんだか変態みたいだ・・・。

ちょっと自分に嫌気が差したので、頭から手を放す。

 

「それじゃあ、もう少し城の中歩いて来るよ。仕事、頑張ってな」

 

「ふん。良い身分ね」

 

「詠ちゃん」

 

ふん、と鼻を鳴らして顔を逸らす詠に、それを窘める月。

久しぶりに見た気がするな、うん。

 

・・・

 

城壁の上。

意外と風が無く、ちょっとがっかりしたが、まぁそれは良いとしよう。

城壁から見下ろすと、先ほどの訓練場が見える。

アーチャーのクラススキルなのか知らないが、目がかなり良くなっているので、細かいところまでよく見える。

おお、あの兵士、凄い強いな・・・。

 

「ふぅむ。やっぱり、訓練をして貰おう。かっこわるいところ、月には見せれないしなぁ」

 

となると・・・誰に頼むか、だな。

やっぱり愛紗か鈴々に頼みたいところだが・・・いきなり高レベルすぎるだろうか? 

うーん、後は・・・星か・・・。

 

・・・

 

城の中は大体見て回った。

倉庫やなんかもあったが、流石に今入るのは怒られるだろう。

すっかり日も暮れて、月や星が出てきた。

 

「・・・ふぅ、えっと、俺の部屋はっと」

 

朱里に言われた部屋へと向かい、扉を開ける。

特に何がある部屋でもなく、寝台に机、卓。そして、椅子が何脚か。

 

「うーむ、なんというか、扱いが良いな。・・・さすがは桃香と言うべきか」

 

部屋の家具を見て回る。

・・・なんか、暇だなぁ。

月の所にでも行こうか。もう仕事終わってるだろうし。

 

「・・・あ」

 

そう言えば、今日は仕事の初日と聞いた。

なら、二人とも疲れているんじゃないだろうか・・・。

だったら、わざわざ話し相手にさせるのはまずいか。

ノックしかけた手を下ろして、扉から離れる。

さて、じゃあどうしようか。

 

・・・

 

結局中庭へと来た。

兵士達は居ない。当たり前か。

取り敢えず、いつものように王の財宝(ゲートオブバビロン)の練習でも・・・と鎧を着けて、宝物庫から蛇狩りの鎌(ハルペー)を取り出す。

鎌と言えば、曹操も武器は鎌じゃなかったか。・・・仲間がいると安心する。

さて、練習だ、と蛇狩りの鎌(ハルペー)を振ろうとした瞬間、じゃり、と音がした。

慌ててそちらを振り向くと、男が二人。

 

「・・・こんばんは」

 

取り敢えず挨拶。

 

「ああ、こんばんは。そして初めましてだな」

 

返事を返した男には見覚えが・・・ああ、城壁の上から見た、やけに強い兵士じゃないか。

だが、アレは此処の鎧じゃないな。と言うか、鎧にあんなにひらひらしてる布を着けるのは普通じゃあり得ないだろう。

 

「お前・・・サーヴァントか?」

 

もう一人の男がそう言った。

・・・え? 

 

「何故それを・・・って、もしかして・・・」

 

「そうだ。私もサーヴァントだ」

 

最初に声を掛けてきた男が答える。

 

「・・・そうか。戦いに来たか」

 

聖杯戦争はまだ始まっていないが、向こうがその気ならやってやる。

相手に体ごと向き合い、蛇狩りの鎌(ハルペー)を構える。

こうして前に出てきたと言うことは、セイバーかランサー・・・今更宝物庫から新しい武器を取り出している暇はない。

早速の戦いに心臓はバクバク言っているが、鎧があると自分を落ち着かせる。

 

「・・・行くぞっ!」

 

強化された体で、疾走する。

足下を狙って獲物を振り抜く。

 

「むっ!」

 

マスターを抱えて後ろに下がるサーヴァント。

 

「自己紹介ぐらいはさせてくれても良いじゃないか」

 

「巫山戯るな! それに、出てきたんなら・・・戦うしかないんだろ!」

 

マスターを下がらせ、男は両手に剣を握った。

 

「話を聞いて貰いたいだけなんだがな。・・・仕方がない。一度たたきのめしてからにしよう。・・・セイバー、推して参る!」

 

姿勢を低くして、駆けるセイバー。

大丈夫だ。練習した。それに、セイバーの動きも見えてる。・・・いける!

迎撃するように蛇狩りの鎌(ハルペー)を振るう。

 

「・・・あれ?」

 

目の前まで迫っていたセイバーは消えて、何もない空間を鎌が通った。

 

「甘いぞ」

 

「なっ・・・!」

 

いつの間に右に・・・!?

武器を振り切った右腕では迎撃出来ず、セイバーの剣をもろに鎧に受けた。

セイバーの名に見合った威力で、鎧に衝撃が走る。

次の瞬間、気がついたら俺は壁に向かって吹っ飛んでいた。

 

「がっ!」

 

壁にぶち当たり、ようやく止まる。

そのままズルズルと地面に落ちて、膝をつく。

 

「ぐ、あ・・・」

 

痛い。

鎧を着けてたのに!

・・・鎧がへこんでる・・・!

くそ、セイバーの正体はなんだ! それさえ解れば、対処のしようもあるのに!

 

「む・・・手加減などするなよ、名も知らぬサーヴァント」

 

セイバーがこちらを見る。・・・手加減なんてしていない!

何が足りなかった・・・? 

 

「くそ・・・」

 

立ち上がり、呼吸を落ち着かせる。

いつのまにか足は震えていて、歯の根も合わなかった。

・・・ああ・・・そっか。

怖いんだ。

そうだよな。聖杯戦争って殺し合いの戦いだったな。

じゃあ、俺は・・・死ぬ・・・? 

 

「それは・・・嫌だ・・・!」

 

右手を挙げる。

背後が城壁ではなくなり、赤く染まる。

そこから波紋が起き、宝物庫の中身が現れる。

 

「これは・・・おぬしはキャスターか・・・?」

 

「違う!俺は・・・アーチャーだ!」

 

答える余裕なんてホントはないが、何とかして自分を保つ必要があった。

少し声が震えていたかもしれない。声が裏返っていたかも。

だが、そんなこと、今の俺には考える余裕など無い。

今はただ、目の前の男を排除する!

 

「そうすれば・・・死なない!」

 

こちらに転生するまで一度も感じなかった明確な『死』の存在

車に轢かれたのだって一瞬で即死だったから他人事の様だったし、土下座娘に死の一部始終を見せられてもああ、こうやって死んだのか、位の感慨だった。

でも、今は違う。

右腕の鎧は凹んでいて、多分その下にある右腕は腫れてるかアザが出来てるか・・・。

ギルガメッシュの鎧越しにそんな威力だ。

多分まともに食らったらあの剣は俺を貫くだろう。

だったら、貫かれる前に、脅威を排除する!

 

「はああああああああああああ!」

 

右腕を振り下ろす。初めて的以外に発射するな、なんて何処か冷静に思う。

 

「くっ!」

 

両手の剣で宝具を弾き、中庭の木を縫うように疾走するセイバー。

その度に木は折れ、土埃を舞いあげる。

 

「くそ、くそくそくそ!」

 

さっさと排除しないと! こいつは俺の命を脅かす存在だから!

 

「アーチャー・・・成る程な。宝具を発射する弓兵とは。・・・驚きだ!」

 

宝具の雨をかいくぐり、接近してくるセイバー。

やばい、発射位置を修正して・・・! 駄目だ、今からじゃ間に合わない!

慌てて宝具の発射を止めにして、抜き取れるように柄が出るようにする。

こうなったら、接近戦でやってやる!

 

「はぁっ!」

 

「あああっ!」

 

左から来る剣を取り出した魔剣で弾く。

そのまま魔剣を宝物庫へ戻して、次に宝剣を取り出す。

宝剣でセイバーを袈裟切りにしようと振り下ろすが、もう片方の剣で止められる。

俺は必死に次々と宝具を取り出し、セイバーの攻撃を弾いて、反撃をしようとする。

だが、俺の戦闘経験はゼロ。向こうは動きを見る限り相当の使い手なんだろう。

セイバーのランク補正もかかっているのか知らないが、その一撃一撃が重い。

 

「はっ、はっ・・・」

 

「せいっ! はっ!」

 

駄目だ。

体力も無くなってきて、息が切れてきた。

王の財宝(ゲートオブバビロン)の展開を維持できない・・・!

 

「くっ!」

 

「はっ!」

 

最後の聖剣も弾かれた。

地面に刺さった宝剣は、黄金の粒子を撒き散らしながら消えていく。

感覚からして、宝物庫に帰っていったのだろう。あれ以外に宝具を出す余裕は無い。

 

「勝負あり、だな。アーチャー」

 

「く、そ、・・・っ!」

 

まともに喋れない。

戦うのってこんなに大変なことなのか・・・!? 

 

「アーチャー、おぬし本当に英霊か? この私でも勝てるとはな」

 

「・・・」

 

息を整えるのに必死で、言葉を返せない。

何とか落ち着いて、もう一度王の財宝(ゲートオブバビロン)を・・・!

 

「諦めろ。ばかすかと好き放題に宝具を使ったんだ。しばらくは魔力が回復するまで待つしかないぞ」

 

俺の心を読んだかのように喋りかけてくるセイバー。

 

「それに、戦いに来たんじゃないんだ。話があってな」

 

「は、なし・・・?」

 

ちょっと落ち着いてきたな。

にしても、話ってなんだろうか。マスターの居場所をはけ、とか? 

 

「俺とマスターは戦いを望んでいない。おぬしも、今のはほとんど恐怖で戦っていただけだろう?」

 

「う」

 

図星を突かれて声が出た。

 

「まぁ、お前がどんな英霊かは良いんだ。私たちと手を組まないか?」

 

「・・・はぁ?」

 

手を組むって・・・えぇ? 

 

「本来、私はセイバーに召喚されるほど剣が強くないのだ」

 

「・・・それは驚きだ」

 

「まぁ、生きてきた時代が時代だから、ある程度は戦えるがな。それでも、英霊と渡り合うには、少し不安が残る」

 

「そう、なのか」

 

呼吸が落ち着いてきた。

立ち上がろうとするが、腰が抜けていて立てない。

・・・情けない。これで守るなんて良く言えたものだ。

 

「なんで・・・戦いたくないんだ・・・?」

 

剣が強くないとは言ってもセイバーだ。それなりに良いところ行きそうなんだが。

 

「此処に従軍してるんだ、俺達」

 

セイバーのマスターがこちらに歩いてきて、説明をいれてくれる。

 

「それで、反董卓連合・・・あったじゃないか。そこで戦ってな。なんていうか、その。・・・できれば殺し合い、したくないって思ったんだ」

 

恥ずかしさを紛らわすように頬を掻きながら話すマスター。

 

「私も同じ事を思ってな。なら、私たちと同じ考えを持つ者を集めよう、と決めたわけだ」

 

セイバーがこちらに手を差し出してくる。

 

「見たところ、おぬしも此処に住んで居るんだろう? もしもの時、助け合える存在は必要だと思うが?」

 

「・・・成る程、ね」

 

少し考えて、俺はその手を取った。

セイバーは良い奴なんだろう。そのマスターも。

だから、本心から戦いたくないと思って居るんだろうし、それは信用できる。

 

「これから宜しく・・・で、良いのかな」

 

「ああ。こちらこそ」

 

セイバーに引っ張り起こして貰う。

セイバーのマスターとも握手をして、よろしく、と言葉を交わした。

・・・それにしても、英霊同士の戦いって凄いんだな。

霞との手合わせでもあんなに恐怖は抱かなかったぞ。

そうだなぁ・・・。何処かで、慢心していたのかもしれないな。

ギルガメッシュの能力を持っているから大丈夫だと・・・心の何処かで。

いらないスキルまで受け継いじゃったか、とため息をつきながら、セイバー達と情報交換をする。

 

・・・

 

セイバーのマスターの名前は丁宮。ていきゅう、と読むらしい。

真名は銀と言うらしい。なんだ、かっこいい名前だなぁ、畜生。

セイバーはマスターにも真名を明かしていないらしく、俺にも教えてくれなかった。

 

「まぁ、いつか話すさ」

 

と言っていたが・・・。

俺は真名を教えた。ギルガメッシュだ、と言うと、セイバーがほお、と唸る。

そう言えば、真名が解ったらその英霊の情報が頭に入ってくるんだったっけ。

 

「あと・・・言っておきたいことがある」

 

俺は、今まで誰にも言ったことのない秘密を二人に話した。

本当の英雄、ギルガメッシュではないこと。偶然に偶然が重なって、此処にアーチャーとして召喚されたことを話した。

 

「・・・そうか。だから、あんなに弱かったのか」

 

「悔しいがその通りだ」

 

「まぁいいじゃないか。セイバーもセイバーにしては中途半端。あんたも英霊としては中途半端。二人足せば丁度良くなるさ!」

 

銀がそう言って俺達の肩を叩く。

 

「はは、その通りだマスター!二人で一人前のサーヴァントも、おもしろい!」

 

なんだかセイバーはウケてるし。

・・・ああ、そうだ。月にも説明しないとな。明日は、面倒くさいことになりそうだ。

 

・・・

 

「・・・はぁ!?」

 

詠が素っ頓狂な声を上げた。

 

「それで、セイバーさんとマスターさんは仲間になったんですか?」

 

「ああ。・・・駄目だったかな」

 

俺がそう聞くと、月は微笑みながら首を横に振った。

 

「いえ・・・。戦いたくないのは私も同じですから・・・。良かったです」

 

「そっか。・・・そう言ってもらえると助かるよ」

 

「それにしても、戦いたくない英雄なんて居るのね」

 

詠がそう呟く。

 

「いるだろうさ。世界は広いんだから」

 

そう言って、俺は立ち上がる。休憩時間の月達を捕まえて話していたのだが、そろそろ休憩も終わる。

 

「さて、俺はちょっと朱里の所へ行ってくるよ。今日は仕事があるらしいし」

 

「そうでしたね。・・・頑張ってください」

 

「ああ、頑張るよ、月」

 

月の頭を撫でる。前回撫でたからか、躊躇無く撫でることが出来た。

 

「へぅ・・・」

 

「それじゃ、二人も仕事、頑張ってなー」

 

手を振ってから、執務室へと向かう。

・・・さて、どんな仕事が待っているんだろうか。

 

・・・

 

「・・・ランサー」

 

「はっ」

 

「戦闘が行われた」

 

「はっ。こちらでも捉えました!」

 

「ふむ・・・場所は・・・劉備の統治する土地・・・。近いな」

 

「それでは、出発を?」

 

「ああ。行くぞ、ランサー」

 

「はっ!」

 

・・・




この作品のランサーも幸運が低いので、しばらく扱いがかわいそうなことになります。
いつかランサークラスが報われると信じて・・・!

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