真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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主人公君は、自分は普通の学生なので、ギルガメッシュの能力がないとこの世界では役に立てないと思っていますが、実は指揮の才覚があるけれど気づかない、と言う非常にもやもやする設定を持っています。スキルにカリスマがあるのもその勘違いに拍車を掛けているようですね。

それでは、どうぞ。


第六話 手合わせと集合と添い寝と

成都へと入城した後、まずは広大な蜀を統一することから始まった。

朱里に雛里、ねねも協力しての大変な仕事だ。

そして、俺も今、大変なことになっている。

 

「・・・えっと、なんで?」

 

確か、今日は町に出てカリスマA+を発揮しながら兵士達に指示を出していたはず。

そうしたら、恋が出てきて俺の手を引き、ずかずかと何処かへ引っ張られて・・・。

気付いたら、此処にいたんだが。

・・・目の前には、青龍偃月刀を持った愛紗。

そばでは、肉まんを頬張っている恋が方天画戟をもって準備していた。

 

「ギル殿。前に聞いた話では、戦えるのですよね?」

 

「・・・一応」

 

「今日の兵士への指示の手際の良さを見るに、指揮も出来るようですね」

 

・・・嫌な予感が・・・。

 

「ギル殿の力を見たいので、私と手合わせしていただきます」

 

「・・・その後、恋とも」

 

な、なんだってー!? 

冗談じゃない。関羽と呂布を相手に手合わせとはいえ連戦とか! 

 

「ちょ、ちょっと用事が・・・」

 

「にゃー? お兄ちゃん達、何してるのだ?」

 

何とか逃げようと言い訳を試みると、手を頭の後ろで組みながらこちらに近づいてくる鈴々に話しかけられた。

 

「今からギル殿と手合わせをする事になったのだ」

 

「お兄ちゃん、戦えたのかー? じゃあ、愛紗の次は鈴々ねー!」

 

「・・・愛紗の次は恋」

 

「そーなのかー。じゃあ、最後で良いのだ!」

 

・・・おーまいがー。

どうしろっていうんだ。

関羽、呂布、張飛・・・歴史に名を残す武人達ばっかりじゃないか。

 

「さぁ、ギル殿。鎧と武器の用意を。私は少し準備運動をしていますので」

 

・・・逃げたら追いかけてきそうだなぁ・・・。

諦めて、手合わせするか。

英霊以外とも戦っておいて損はないだろうし。

・・・部屋へと戻って鎧を装着し、王の財宝(ゲートオブバビロン)からエアを取り出す。

間違っても魔力を流し込んじゃいけないよな。

まぁ、蛇狩りの鎌(ハルペー)よりは危険も少ないと思うし・・・大丈夫かな。

少し素振りしてから、愛紗達の待つ中庭へと向かった。

 

・・・

 

「それは・・・以前使っていた奇妙な武器ですね?」

 

「それ、斬れるのかー?」

 

「・・・変」

 

エアを持って愛紗達の元へと着いた瞬間に三人からそう言われた。

・・・恋の一言が結構ショックだった。

 

「・・・そうだよ。乖離剣エアっていう剣だ」

 

「エア・・・なんだか、その剣には妙に体が反応しますね・・・」

 

だろうなぁ。

確か、原初の恐怖の具現だからしいし、EXランクの宝具だ。サーヴァントじゃなくても反応してしまうんだろう。

 

「・・・ま、今はエアのことは良いんだ。愛紗、お手柔らかに」

 

そう言って、エアを構える。

構えると言っても、両腕をだらりと下げた格好だが。

セイバーに稽古をつけて貰った時、いつのまにかこうしてだらりと腕を下げて構えるようになってしまった。

聞くと、それは俺が一番戦いやすいスタイルに自然となっているかららしい。

俺が、とは言うが、正確には俺に宿ったギルガメッシュの力がそうさせているんだろう、とセイバーは結論づけていた。

 

「ええ。まずは力試し、といきましょうか」

 

偃月刀を構えて、愛紗は姿勢を低くする。

 

「いきますっ! はぁあああああああああああ!」

 

低い姿勢から駆けて、高速の突き。

 

「っ!」

 

セイバーに稽古をつけられる前ならばそれだけで終わってたかもしれないが、今は何とか凌げる。

霞と同じか、それ以上・・・。凄いな、やっぱり。

愛紗の最初の一撃をエアで弾く。英霊だから出来る力業である。

 

「・・・中々やるようですね。少し本気を出しましょう・・・!」

 

更に早くなる突き。

その一撃を弾くことだけを考えて、エアを振るう。

ギャイン、と音を立ててぶつかる偃月刀とエア。

立て続けに薙ぐように振り抜かれる偃月刀を後ろにステップを踏んで避け、すぐに前に出る。

こんな無理な運動が出来るのも英霊の体になったからだな・・・。

そのままエアを上から振り下ろすが、すでに読んでいたのか、愛紗は危なげなく横に避ける。

 

「せやっ!」

 

後ろに回り込む勢いで避けた愛紗は、そのまま俺の死角から攻撃を加えてくる。

突きか!? それとも横薙ぎに・・・ええい、取り敢えず避けなければ! 

飛び込み前転で何とか距離をとる。

回っている途中に見えた景色では、愛紗が偃月刀を横に薙いで居るところだった。

すぐに体制を立て直し、愛紗の方を向く。

 

「・・・アレを避けるとは・・・ギル殿、予想以上です」

 

「そりゃどうも・・・。でも、結構辛いなぁ・・・」

 

「確認したいことは終わりました。・・・恋、次良いぞ」

 

愛紗の声を聞いて、立ち上がる恋。

 

「・・・本気で連戦か・・・」

 

「・・・休む?」

 

「少しだけ。・・・そういや、なんで恋は俺と手合わせしようって思ったんだ?」

 

「・・・霞とは手合わせした」

 

「だから、自分もってこと?」

 

こくり、と首肯する恋。

・・・霞と手合わせしたとは言っても、すぐに終わってしまったから手合わせもなにも無いんだが・・・。それじゃあ納得しないだろうなぁ。

ま、三國無双の呂布奉先と戦えるなんて普通はないんだし、胸を借りるか、位の気持ちで頑張ろう。

 

「・・・よし、良いよ、恋」

 

「・・・いく」

 

前回の反省を生かし、待たずに飛び込む。

恋も同じくこちらに向かって来ていた。すぐにお互いの武器がぶつかり合う。

愛紗の一撃も十分重かったが、恋の一撃はその上を行く。

思わずエアに魔力を流しかけるが、自制する。

やっぱり、強い・・・! 

 

「・・・っ!」

 

「うおっ!」

 

距離をとろうとするが、すぐに追いかけてきて方天画戟が振るわれる。

それを腕で逸らして、エアを振るう。が、方天画戟の柄で受けられ、弾かれる。

 

「・・・ギル、強い」

 

「本当かぁ?」

 

「ほんと。もっと練習したら・・・恋くらいに強くなる」

 

おお、呂布からお墨付きをいただいてしまった。

 

「嬉しいなぁ、恋にそう言われると」

 

会話しながらも、じりじりと動く俺と恋。

 

「・・・」

 

再び接近して放たれる一撃を、懐に潜り込んで抑える。

 

「っ!?」

 

初めて少し焦った顔をした恋を一瞬見てから、エアを恋の腹に当てる。

 

「・・・一本。・・・かな?」

 

「・・・負けた」

 

「けど、恋も全然本気じゃなかったでしょ? ・・・もしかして、お腹減ってる?」

 

確か、さっき肉まんを一つ食べていたが・・・腹が空いてるときに下手にものを食べるともっとお腹が減るらしいし・・・。

 

「・・・」

 

恥ずかしそうに頬を染めて、コクリと首肯。

 

「そっか。じゃあ、これ終わったら街に行く? 少しなら奢るよ?」

 

「・・・いく」

 

「じゃ、向こうで待ってて。鈴々とも手合わせだから」

 

「・・・待ってる」

 

「良い子だ」

 

頭を撫でる。

恋は気持ちよさそうに目を細めた後、すでに座って観戦していた愛紗の元へと歩いていった。

 

「やっと鈴々の番なのだ! 待ちくたびれたのだー!」

 

いつのまにか尺八蛇矛を持っていた鈴々が俺の前へやってくる。

 

「・・・お待たせ、かな」

 

連戦でも体力は持つようだ。セイバーとの訓練の賜物かな。英霊だっていうこともあるかもしれないけど。

 

「俺はもう大丈夫。・・・鈴々は?」

 

「いつでも来い! なのだ!」

 

「よし、じゃあ、行くぞ、鈴々!」

 

「来るのだ! にゃにゃにゃー!」

 

始まってすぐに蛇矛から突きが繰り出される。

リーチが長いので簡単に懐に潜り込むのは出来そうにないな。

それに、鈴々は小柄だから何処に潜り込めばいいのかも分からないし。・・・持ち上げるか? 

 

「守ってばっかりじゃ勝てないのだ!」

 

「分かってるって!」

 

鈴々の言葉に返答しながらも、猛攻を捌き続ける。

エアを持ってきて良かった・・・。普通の模造刀とかならすでに折れていてもおかしくないからな・・・。

宝具の強さを再確認、だな。

 

「お兄ちゃんしぶといのだ!」

 

ぶぉん、と真上から振り下ろされる蛇矛をエアで受け止める。

 

「うにににに~・・・!」

 

「重・・・!」

 

この小柄な体の何処にこんな力が・・・。

 

「遅いのだっ!」

 

上から押し込むようにしていた蛇矛を一気に返し、鈴々は半円を描くように攻撃する方向を変えた。

下から蛇のように蛇矛が迫る。

右下から襲いかかる蛇矛が、俺の鎧の直前で止まる。

 

「鈴々の勝ちなのだっ!」

 

満面の笑みの鈴々に苦笑を返して、撫でてあげる。

 

「やっぱり強いな、鈴々は」

 

「へへー。お兄ちゃんも中々だったのだ!」

 

「ありがと。・・・ん?」

 

くいくいと引っ張られる感覚。

振り向くと、恋が鎧の赤い布を引っ張っていた。・・・何故そんなところを・・・。

 

「街、行く」

 

「ああ、そうだったね。・・・じゃあ、愛紗、鈴々、また後で」

 

「はい。それでは」

 

「またねー、お兄ちゃん!」

 

にこりと笑って居る愛紗と、全力で手を振っている笑顔の鈴々に手を振ってから、恋と一緒に街へ。

おっと、その前に着替えないとな。

 

「ごめん、ちょっと着替えてくる」

 

「・・・ん」

 

着替えると言っても、一瞬なのだが。

 

・・・

 

で、ようやく街へと向かう俺と恋。そこに

 

「ちーんーきゅー・・・」

 

・・・おや、久しぶりの・・・。

 

「きぃーーーーーーーっく!」

 

「フィッシュ!」

 

がっしと足を掴む。

 

「・・・ねね、懲りないなぁ」

 

そのまま、きちんと下ろしてあげる。

 

「五月蠅いのです! ギルも逆さまに持つからお相子なのです!」

 

そうかなぁ? ・・・そうなのかなぁ・・・。

 

「そっか。・・・あ、これから街に行くけど、行く?」

 

「当たり前なのです! ギルと恋殿を二人っきりになんか出来ないのです!」

 

「・・・早く」

 

ねねと話していると、待ちきれなくなったのか俺の手を引いてくる恋。

 

「あ、そうだな。・・・ほら、いこう、ねね」

 

そう言って手を差し出してみる。

 

「ふ、ふん! 仕方ないから繋いでやるのですっ!」

 

そう言って、俺の手を握ってくるねね。結構強く握ってるんだろうけど、全然痛くない。

ああもう、可愛いなぁ、ねねも。

頭を撫でてやりたいが、両手がふさがっているため断念した。

 

・・・

 

給金は貰った後ろくに使っていないし、貯蓄を元にして賭け事で荒稼ぎした金もほとんど手を着けていない。

その大量の金は、このときのためにあったのかもしれない。

 

「・・・次、あれ」

 

「ん。・・・すいませーん、この桃まんじゅう・・・えーと、あるだけください」

 

四十個程度なら恋も食べられるだろう。俺も少し食べてみたいし。

驚いた顔をした店のおばちゃんから大量の桃まんじゅうを受け取って、近くの芝生に座る。

子ども達が走り回っているのを見ながら、紙袋から桃まんじゅうを一つ取って、一口。

 

「あ、おいしい」

 

俺が一口かじっている間に、恋は五個くらいをすでに口に運んでいた。

ねねはそんな恋を見ながら、もふもふと桃まんじゅうを食べている。

なんだこの和みワールド。

考え事をしながら食べていたせいか、二つめを食べきったところで桃まんじゅうは無くなっていた。

恋、凄いな。

 

「さ、次は何食べる?」

 

立ち上がって、恋に聞いてみる。

 

「・・・肉まん」

 

「おお、良いねえ」

 

まだまだ、食べ歩きの旅は続きそうだ。

 

・・・

 

「・・・おや?」

 

「どうしたんだい? キャスター」

 

「アーチャーだ」

 

「えぇっ!?」

 

「しっ。うるさいよマスター。ほら、隠れる隠れる」

 

こそこそと建物の陰に隠れる二人。

顔だけ出した二人は、人混みに視線を走らせる。

 

「ど、何処?」

 

「ほら、あの黒い服を着た男。呂布と陳宮と一緒にいる人だよ」

 

「あれが・・・ふうん、中々良いねぇ」

 

「・・・マスター?」

 

「え? あ、ううん。なんでもないんだ。で、どうする?」

 

「どうするって・・・私の能力的に、夜討ちくらいしか策はないよ。後は・・・呂布と一緒にいるって事は、城に住んでるって事かな? だったら・・・」

 

「だったら?」

 

「城ごと爆破するとか・・・。ま、その他大勢の被害を考えないなら、だけどね」

 

「それは却下。僕はそう言うの嫌いなんだ」

 

「だろうねぇ。じゃ、一人で歩いているところに奇襲を掛けるか・・・」

 

「そのくらいだろうね」

 

「それに、いくら英霊でも・・・私じゃ呂布には勝てないよ」

 

「・・・貧弱だね、キャスター」

 

「言わないでくれ。・・・まぁ、否定はしないが」

 

「後は・・・アーチャーがどんな英霊なのかを確認するだけ、か」

 

「そうだね。・・・まぁ、此処にアーチャーが居るって事が分かっただけで僥倖だよ。・・・ああ、それと」

 

「ん?」

 

「マスター、向こうはこっちに気付いてない。・・・ってことは、やっぱりこの戦いではサーヴァント同士、マスター同士は気付きにくいんだと思う」

 

キャスターの言葉に、マスターが考え込む。

 

「やっぱり何かがおかしいな、この戦いは」

 

「ねえキャスター?」

 

「ん?」

 

「じゃあ、僕一人でも外に出かけて大丈夫なんだね?」

 

「あ~・・・手の令呪は隠してくれよ? そればっかりは誤魔化しようがないから」

 

「じゃあ、手袋をすれば良いんだねっ?」

 

「え? あ、ああ、そうだけど・・・。マスター、嬉しそうだね・・・?」

 

「当たり前じゃないか! 今まで君が「危険だから一人では出かけないように」とか、「買い物は私が行くよ」とか言って外に出してくれなかったんだから」

 

マスターの妙な熱意にキャスターはたじろぎ、顔に苦笑いを浮かべた。

 

「まったく、変なマスターに変なルール。・・・何かがおかしいんだよねぇ」

 

キャスターのつぶやきは、興奮しているらしいマスターには聞こえなかった。

 

・・・

 

「はーあ、あのサーヴァントさん、劉備軍と一緒に行っちゃったのかなぁ」

 

本屋で店番をしている少女は、フリフリのエプロンを着けて本棚の竹簡やら本やらを整理しているアサシンに話しかける。

アサシンは手を止めて、視線をマスターに向ける。

 

「・・・」

 

「・・・えー? 追いかけろって言ったって・・・お金そんなに無いし。旅って結構お金かかるんだよー?」

 

「・・・」

 

「うーん、それも一応考えたけど・・・。ここから離れて新しい働き口が見つかるとは思えなくて」

 

そう言うと、マスターは溜め息を吐く。

 

「ま、決定的な何かがないとここからは動かないよ。多分ね。・・・あ、そろそろお店閉めようか」

 

マスターは立ち上がり、本屋を閉店させる準備を始める。

 

「えっと明日はお休みで~・・・」

 

ぶつぶつと明日の予定を確認するマスターの目の前に、影が降りる。

 

「あれ? お客さん? ・・・ごめんなさい、今日はもうへいて・・・んっ!?」

 

いきなりの爆音と、衝撃。

爆音はさっき目の前にいた影が振り下ろした武器が地面に当たった音。

衝撃は、マスターを抱えて飛んだ、アサシンの物。

 

「あ、アサシン・・・ありがと」

 

着地した後、アサシンはマスターを下ろした。

 

「あれ・・・あれも、サーヴァント?」

 

「・・・」

 

「そっか。・・・仲間になりに来たって訳じゃ・・・無さそうだね」

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

「うわっ!?」

 

再びマスターを抱えて飛ぶアサシン。

相手が振り下ろした武器で、本屋の入り口は崩れ、本棚も幾つか倒れた。

 

「あーあ、明日困るだろうなぁ・・・。仕方がない・・・戦おう、アサシン!」

 

少し離れたところにマスターを下ろし、右腕の包帯を外すアサシン。

 

「アサシン、無理はしないこと。駄目だったら逃げるよ。・・・もう、こんなに早く決定的な何かが来るとは思わなかったよ!」

 

マスターは相手の姿をようやくまともに見た。

 

「おっきい男の人だね・・・。えっと、アレを見るに・・・狂戦士ってやつ?」

 

「・・・」

 

「そっか」

 

「おおおおおおおおおおおおおお!」

 

雄叫びを上げて突っ込んでくるバーサーカー。

 

「私は私で逃げるから、アサシンは戦いに集中して!」

 

「・・・」

 

マスターの言葉に頷いたアサシンはバーサーカーの攻撃を避け、ダークを三本投擲する。

バーサーカーはダークを弾き、アサシンに狙いを定め、疾走。

 

「おおおおおおおおお!」

 

屋根の上を飛び回るアサシンに翻弄され、ダークが少しずつバーサーカーに刺さっていく。

だが、威力が足りないのか、決定打にはならない。

 

「・・・どうしよう」

 

建物の影でマスターの少女は考える。

アサシンの宝具は一応教えて貰っているが、それを発動するには条件がいる。『相手に触ること』である。

だが、あの様子では触るどころか近づけすらしない。

 

「あの巨体で中々素早いみたいだし・・・逃げるには、どうにかして足止めしないと・・・」

 

だが、魔術師ではない少女に案が出るわけも無く、ただアサシンのダークだけが減っていく。

隠れている建物からのぞき込むようにしながら、少女は戦いを見ている。

 

「・・・あ・・・!」

 

そして、見えたのは戦うアサシンとバーサーカー。・・・そして、その向こうに・・・。

 

「あれも・・・サーヴァント・・・?」

 

一人は中々品の良い服装の男。

もう一人は、見た事のない服を着て、見た事のない武器を持った男。

少女は見つけた瞬間に悟る。これは、チャンスかもしれない。

 

「せっかく向こうで良い家を見つけたというのに。また引っ越しのし直しではないか」

 

「マスター、いかが致しましょうか」

 

「やれ、ランサー。今までの旅の鬱憤を晴らすぞ」

 

「はっ!」

 

ざっ、と音を立てて、ランサーが前に出る。

 

「おおおおおおおおおおおおお!」

 

乱入者に、バーサーカーは雄叫びを上げて突っ込んでいく。

アサシンよりも脅威だと感じたらしい。

そのバーサーカーの一撃を避けたランサーは、いつのまにか五人に増えていた。

増えた四人は最初のランサーよりも少し服が質素になっているが、持っている武器は同じである。

 

「いけ、ランサー。数の暴力を見せてやれ」

 

「はっ! 突撃ーーーーー! !」

 

ランサーが号令を掛けると、四人が突っ込んでいく。

二人ずつ左右に分かれ、統率のとれた動きでバーサーカーに迫る。

 

「おおおおおおおおおおおお!」

 

バーサーカーは右から来た二人を切り裂くが、残った二人に突き刺される。

 

「ふむ・・・ランサー、この魔力消費量ならもう少し増やしても問題ない」

 

「はっ!」

 

会話の後の一瞬で、再び質素な格好のランサーがランサーの傍らに立っていた。

その数は十人。

 

「突撃ーーーー!」

 

先ほどバーサーカーに武器を突き刺した二人も含めて、十二人のランサーらしき人物がバーサーカーに攻撃をしかける。

数人は左右から挟撃をしかけ、数人は屋根に登って上からバーサーカーに飛びかかる。

振り落とされる者もいるが、すぐに立ち上がって再び取り付く。

 

「おおおおおおおおおおおおお!」

 

薙刀を消し、素手で自分に取り付く男達をはがし始めるバーサーカー。

剥がして地面に叩き付ける、を繰り返し、その内の何人かをランサーとそのマスターに投げつける。

 

「むっ!」

 

ランサーはマスターを押し倒して地面に伏せる。

 

「大丈夫ですか、マスター!」

 

起きあがり、マスターを立たせてからランサーは無事を確認する。

 

「大丈夫だ。それより、バーサーカーは!?」

 

「・・・今の一瞬で、逃げられたようです。申し訳ありません」

 

「・・・いや、初陣にしては中々だった。それに、この町にはアサシンとバーサーカーが居ることが分かったのだ。良いではないか」

 

「はっ」

 

ランサーとマスターはきびすを返し、宿へと戻る。

 

「前の街にはサーヴァントはすでに居なかったからな・・・。今度こそ、家を買っても大丈夫なようだな」

 

「そうでありますね」

 

・・・

 

「ふぃー、助かったー」

 

馬に乗って駆ける少女は、隣で併走するアサシンを見ながら、話しかける。

 

「いやー、危なかったねー。あそこで槍兵が来てなかったら、私たちやられてたね」

 

「・・・」

 

「うん。本屋のオジサンには悪いけど・・・このまま逃げよう。狂戦士と槍兵が居る街より、あのサーヴァントさんが居るところが良いよ。遠くてもね」

 

「・・・」

 

「そうだね。ちょっと遠いけど、頑張ろう、アサシン」

 

ふと、少女はあることに思い至る。

 

「・・・そう言えば、なんであの雄叫びで起きてくる人居なかったんだろう。・・・いや、居たら困ってたけど」

 

・・・

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)を今まで練習してきた成果か、大分戦闘に使えるようになってきた。

まぁ、落ち着いて集中した時のの話しだから、戦闘中に同じように使えるかはまだ不安であるが、それでもこっちに来た当初に比べれば進歩した方である。

後は、接近戦。宝物庫から次々と宝具を抜いて、相手に振り抜く。

それができるようになれば、多分大体の相手と渡り合えるだろう。

 

「・・・あーくそ!」

 

だが、現実は中々厳しいのである。

背後に手を回して剣か槍か鎌か分からないものの柄を取るというのはかなり難しく、キーボードのブラインドタッチのように慣れが必要なのだ。

 

「そう考えると、似てるのかもしれないな。ブラインドタッチと」

 

一人ぶつくさ考えながら、もう一度挑戦する。先ほど取り落とした宝具が地面に沈むように消えていく。宝物庫へと帰ったのだ。

もう一度、背後に武器を出して柄を手に取る。剣ならば成功率は9割を超えるのだが、槍や鎌が入ってくると持ち手が変わるために迷ってしまうのだ。

 

「せいっ、はっ、やっ!」

 

剣、剣、槍。

 

「ほっ、はあっ! たぁっ!」

 

鎌、剣、剣。

・・・おお、これはまさか、まさか最高記録行くか・・・!? 

 

「はっ、えいやっ! せい、や・・・」

 

剣、剣・・・からんからん。

取り出した剣は、誰かにたたき落とされ、地面に落ちた。

 

「・・・最高記録の八回を超すかと思ったのに・・・」

 

「何をやっているのかと思えば・・・」

 

「・・・セイバー。お前か」

 

「私以外に誰が居る。宝具をたたき落とせるのは、サーヴァントか・・・呂布くらいのものだろう」

 

まぁ、そうだが。

というかセイバーの中で呂布はデフォルトで人外認定されてるのか。

 

「で、何をしてたんだ? 端から見たら、変な男がいろんな武器を振り回しているようだったが」

 

「そのまんまだよ。宝物庫から出てる宝具を見ないでキャッチして振る練習してたんだ。接近戦で使えるだろ?」

 

「・・・成る程。一振りごとに武器が変わると言うことは、相手にとっても戦いにくいな。・・・考えたじゃないか」

 

ふぅむ、となんだか感心したように声を上げるセイバー。

 

「よし、ならば私も協力しよう。剣術は大分上達してきている。何せ関羽、張飛、呂布を相手取って無事だったのだからな」

 

「・・・あまり思い出させるなよ。あれからあの三人のこと思い出すだけで体が震えるんだ」

 

「はは、まぁ、良い経験じゃないか。さて、じゃあ行くぞ。おぬしが宝具を使うのならば、私も模造刀ではなく・・・」

 

セイバーの両手に雌雄一対の剣が現れる。

 

「これで、行かせて貰おう」

 

「・・・良し」

 

セイバーが戦闘態勢に入ったのを確認して、俺は鎧を着ける。

俺の体が光に包まれ、一瞬の後に光が収まると、金色の鎧を着けた戦闘スタイルに早変わりだ。

いつも思うのだが、サーヴァントってかなり便利だなぁ。

 

「・・・いくぞ、ギル」

 

「ああ、よろしく。セイバー」

 

背後に王の財宝(ゲートオブバビロン)を展開させる。

 

「はっ!」

 

一本目。剣。

右手を左肩の上に伸ばして掴み、引き抜く勢いで振り下ろす。

 

「ふんっ!」

 

セイバーはそれを剣で反らす。剣と剣がぶつかり、火花が発生する。

左手を腰の後ろに回し、二本目を取り出す。槍だ。

 

「はぁっ!」

 

リーチを生かして、足下を薙ぐように振る。それを跳んで避けたセイバーは、剣を逸らしたのとは逆の剣を横薙ぎに振るう。

首に一直線のその剣を避けるためにしゃがみ、立ち上がる勢いを生かして引き抜いた鎌を上に振り抜く。

 

「ぬっ!?」

 

跳んだ状態では避けられまい、と思ったが、流石最優のサーヴァント。ハルペーを蹴って軌道を逸らしやがった。

鎌を蹴られると言うことは、俺もそれに釣られると言うことで・・・。

 

「ふむ、30点だな」

 

バランスを崩して倒れた俺に、セイバーは剣を突きつけるのだった。

 

・・・

 

「まず、宝具の選定が遅い。一々剣だ槍だ鎌だと選んで、更にそれを視認してから引き抜くのでは、だんだんと引き抜く速度が遅れていく。さらに」

 

びしぃっ! と剣を突きつけられる。

 

「おぬし、まだ宝物庫の中身を把握し切れてないな?」

 

「・・・う」

 

「図星か。先ほどの練習で出した宝具ばかりが出てきて、不思議に思ったのだが・・・。やはりか」

 

「うぅむ。だけど、宝物庫の中を確認するには丸一日潰して集中しないといけないんだよ。今は流石にそんな余裕無いんだって」

 

朱里や雛里、ねねが主だってやっているとは言え、俺も結構仕事をしているのだ。

桃香を始め、鈴々、翠、蒲公英、魏延などは完全な武官タイプだし、愛紗、紫苑、桔梗は文官の仕事も出来るとは言えメインはやはり武だ。

軍の訓練もして、こちらの事務処理もして・・・では完全にオーバーワークだろう。・・・でもまぁ、たまに手伝って貰っているのだが。

紫苑の娘さんである璃々なんてもってのほかである。恋は・・・あれは、猫みたいに気まぐれだから、多分無理だろう。

後は・・・月と詠も駄目かな。二人は表だって動けないし・・・ってあれ? 確か原作じゃ・・・。

 

「そうだ!」

 

「うお!?」

 

「あ、すまん。・・・ああ、そうだよ。そうだった。なんで忘れてたんだろ」

 

「なんだ? どうしたんだ?」

 

「・・・ごめん、セイバー。ちょっと今日はここまでにして貰って良いかな」

 

「構わんが・・・何か用事でも出来たか?」

 

「少しね。ホントにすまん! じゃっ!」

 

セイバーに謝罪してから、出来るだけ早く執務室へ向かう。

居てくれよ、詠・・・! 

 

・・・

 

「詠っ!」

 

「うひゃあっ!?」

 

「わわわっ・・・!」

 

「な、なにっ!?」

 

「何事っ!?」

 

ドアを勢いよく開けると、桃香、月、詠、愛紗の驚いた声が聞こえた。

 

「って、お兄さん!? どうしたの、そんなに急いで・・・?」

 

「あ、いや、なんて言うか・・・」

 

しまった。勢いだけで来たのは良いけど・・・なんて切り出そうか。

ふと詠を見ると、愛紗と対になるように立っていた。

・・・おや? 

詠と愛紗の間には一枚の報告書のような物が。

 

「・・・もしかして、詠と愛紗、その案件の事で話し合ってたり?」

 

おそるおそる聞いてみると・・・

 

「すごーい! お兄さん、なんで分かったの?」

 

桃香が驚きの声を上げる。

まじかよ、じゃあ・・・。

 

「・・・で、詠が案を出し渋ってたり・・・」

 

「すごいすごーい! その通りだよ!」

 

・・・やはりか。このイベントは覚えていたらしい。天の邪鬼な脳みそだなぁ。

 

「で? ギルはそれを知ってどうするのよ?」

 

詠が腰に手を当ててふん、と鼻を鳴らす。おお、久々のツンだ。

 

「どうするって言われても・・・。月、何とか説得できないかな?」

 

「え? ええっと・・・あ。・・・良いこと思いつきました」

 

そう言うと、月は詠に耳打ちをする。

だんだんと詠の顔色が変わっていき、最終的には顔を俯かせ・・・。

 

「し、仕方ないわね」

 

なんて、言い出した。

詠は良い? と前置きしてから、話し出す。

兵をいくつかの小隊に分けて、それぞれの部隊に旗を持たせ、その取り合いの演習をすればいい、と言う案を聞いた愛紗はほう、と感心している。

 

「成る程、それは効率が良い。訓練が出来て副官も見いだすことが出来る」

 

「流石董卓軍の名軍師だね~!」

 

「ふんっ、この程度の案は朝飯前よ」

 

得意になって偉ぶる詠。メイド姿で偉ぶるのも可愛いなぁ。

因みに、二人のメイド服は何故か宝物庫に入っていた物を着せている。

一着ずつしかなかったが、その二着を元にスペアを作り、着回して貰っているのだ。

・・・採寸がぴったりだったので、二人は頬を染めて恥ずかしがっていたが。

 

「あ、桃香、愛紗。ちょっと話しが」

 

そろそろ、切り出しておかないとな。

 

「え? なーに?」

 

「なんでしょう」

 

「詠を軍師にして欲しいんだ。詠の能力は今見ただろう? 敵軍の軍師だったけど、今は仲間だし・・・。駄目かな・・・?」

 

「は、はぁっ!?」

 

詠が驚きの声を上げる。月も少し驚いているようだ。俺がいきなりこんな事を言ったからだろう。

 

「ん~・・・。私は良いと思うな。詠ちゃんが加わったら、とっても心強いし!」

 

「・・・そうですね。詠の能力は高い。今も、桃香さまと私の二人が悩んでいた案件もすぐに解決したしな」

 

二人は乗り気のようだ。後肝心の詠は・・・。

 

「・・・どうかな、詠。相談役として・・・手伝ってあげれないかな?」

 

しゃがんで目線を合わせる。お願い事をするには、目線を合わせるのが大切なのだ。

 

「う、あ・・・その・・・」

 

詠の視線は月の方へ行ったり桃香の方へ行ったり愛紗の方へ行ったりと様々なところに移った後・・・

 

「そ、そこまで言うなら・・・。手伝ってあげても良いわよ」

 

そっぽを向きながら、そう言ってくれた。

 

「そっか! 詠、ありがとう!」

 

思わず詠の両手を握ってしまう。

 

「なっ、何はしゃいでるのよ! ばかじゃないのっ!?」

 

詠は俺に向かって怒鳴るが、耳まで真っ赤になって恥ずかしがっているので、全然怖くない。

 

「良かったぁ~」

 

「そうですね。・・・詠、これから宜しく頼むぞ」

 

桃香と愛紗も笑顔で歓迎する。

 

「・・・ふん。今までのみんなは見る目が無かったってこと、証明してあげるわ」

 

「・・・詠ちゃん、嬉しそうです」

 

月が、俺だけに聞こえるように呟く。

 

「そうなの?」

 

「はい。口の端がにやけて緩んじゃってますから」

 

「ああ、成る程。ツン子だなぁ」

 

「ツン子ですねぇ。ふふっ」

 

こうして、詠はメイド兼軍師として能力を活用することになったのだ。

・・・良かった良かった。何とか詠を登用できたか。これで、少しは蜀の事務仕事も楽になるだろう。

その後、メイドの仕事を続けるかなんとかで一悶着あったが、舌先三寸で丸め込んでおいた。・・・カリスマというのは、とても便利なスキルである。

 

・・・

 

詠を軍師として桃香達に推薦し、無事登用して貰った後、俺はセイバーを探して中庭をうろついていた。

さっき別れたばかりで少し失礼だが、手が空いていたら訓練の手伝いをして貰おうかと思ったのだ。

訓練場へとはいると、兵士達が俺に挨拶をしてくる。街の復興やその他の集団活動の時、俺が指揮したのが影響したのか、彼らは俺も慕ってくれるようになったのだ。

その中の兵士の一人を捕まえてセイバーの居場所を聞いてみる。俺とセイバーは結構有名人なので、こうやって聞いて回れば見つかるだろう。

 

「正刃ですか? 確か街の警邏に行ったはずですが・・・」

 

「あー・・・そっか」

 

仕事ならば仕方がないな。確か銀も同じ班だったはずだ。その銀も居ないと言うことは、警邏に行ったのは本当だろう。いや、兵士を疑う訳じゃないけどさ。

なら、一人で練習するしかないか、と結論にたどり着き、俺は兵士に礼をいって、その場を去った。

蜀に来てからは、人気のない所を探すのも一苦労である。

 

・・・

 

「おー、出来た」

 

「・・・何が?」

 

「私の手下さ。人工生命体だね」

 

「そんな物も作れたんだ」

 

「ああ。フラスコの中でしか生きられないこいつを改良するのは骨が折れたよ。あと、体の大きさを調節しないと巨人か小人のどっちかにしかならない所も改良した」

 

「へぇ・・・。キャスターらしいこともするじゃないか」

 

「ふふん。・・・さて、これから調整して、量産だ。それから、アーチャーを倒すよ」

 

「期待してる」

 

「マスターはゆっくり休んでいてくれたまえ。魔力切れを起こされたらたまらないからな」

 

「了解だ。何か手伝うことはあるかい?」

 

「その時は頼むよ。今は何も無い。それじゃあ、私はもう少し籠もることにする。工房も、一応造らないとね」

 

「あれ? 工房は自分、とか言って無かった?」

 

「ん? ああ、自分の中にも工房はあるよ。でも、それとは別に工房が必要になったのさ。これからすることには、私の体だけでは狭いからね」

 

「ふぅん。・・・ま、魔力切れで消える、なんてことにならないようにねー」

 

「分かってるよ。・・・さて、まずはアレを作ることから始めようか」

 

そう言って、キャスターは含み笑いをする。

マスターは改めて、ああ、こいつ大丈夫かな、と不安になるのだった。

 

・・・

 

「・・・今日は休みだよな、朱里」

 

「はい、詠さんがいろいろと手伝ってくれることになりましたし、ギルさんの分の事務仕事はすでに終わっています」

 

「・・・驚異的な速さです・・・」

 

「よし。じゃあ、今日一日、俺の部屋には誰も近寄らせないように言っておいて。頼むよ、朱里、雛里」

 

「はいですっ」

 

「了解です・・・」

 

よし、今日は完璧に休み。

言づても頼んだから、多分俺の部屋には誰も入ってこないだろう。

 

「なんかわくわくしてきたな」

 

・・・そう。今日は、王の財宝(ゲートオブバビロン)の中身を確認するために一日を丸々休みにしたのだ。

そのためにギルガメッシュの能力を全力で使い、明日の分までを終わらせておいた。

なので、明日の午後までは確実に自由だ。

自室のドアを開け、中に入る。

卓と椅子を動かして、部屋の中央に座り込む。

目をつぶり、集中・・・。

頭が少しくらりとして、俺の意識は引っ張られるように何処かへ飛んだ。

 

・・・

 

「・・・う、あ・・・?」

 

起きあがる。寝ていたようだ。

がちゃり、と起きあがる俺の動きに合わせるように鎧の音が聞こえる。

 

「あれ、いつの間に・・・」

 

金色の鎧をいつのまにか着けていたようだ。

・・・っと、あれ? よく見てみると、ここ、部屋じゃないな。

 

「何処だここ・・・」

 

まわりを見渡すと、辺り一面歪んだ空間が縦横無尽に走っている。

 

「・・・まさか、宝物庫の中か・・・?」

 

確認するために念じてみる。エア、来い。

すると、手にエアが現れる。・・・なんだか、新鮮な感じだな。

 

「えーと、どうすれば良いんだ? ・・・目録とか、無いのかよ」

 

そう毒づくと、頭に情報が流れ込んでくる。

聖剣、魔剣、聖槍、魔槍・・・それぞれジャンル別に分けられ、その中でまたランク別に分けられた目録のようだ。

 

「うおおおお・・・?」

 

あまりの情報量に脳がパンクしそうになる。

取り敢えず落ち着いて処理していくと、何とか余裕を持って見れるように。

 

「ほぉ・・・こんなにあったのか・・・。さすがは最古の王。英雄王の名前は伊達じゃないな」

 

目録をとばし読みしていく。

凄いな・・・原典ってこんなにあるのか・・・。

 

「最後は・・・エアで終わりか」

 

目録を見終わり、閉じろ、と念じると、頭の中の圧迫感が一気に無くなる。

 

「凄いな・・・これが宝物庫の中身・・・」

 

とばし読みの上に武器となる宝具しか見てないので、まだまだ見ていない目録のページはあるのだが・・・。

 

「今日は、戦いのための下準備だしな。使えそうな宝具を幾つかチェックしておこう」

 

さて、ホントに一日で終わるかなぁ・・・? 

 

・・・

 

「あん? ギル、ホントに一日潰してやってんのか?」

 

「ああ、どうもそうらしい。諸葛亮が言っていたからな」

 

「あ~・・・あのはわわ軍師殿か」

 

「うむ。今日はギルさんが大切な御用事で部屋に籠もっていらっしゃるので、近寄らないようにお願いします~・・・だったか?」

 

「今の、声マネか? ・・・気持ちわりぃ」

 

「・・・完璧に真似しろと言うのがまず無理であろう。私は男だし、諸葛亮は女だ。・・・自分で言ってて、悲しくなる事実だな」

 

「なんでだよ。・・・にしても、今日はギルとお前の手合わせ、見れないんだな」

 

銀の一言に、兵士達からも溜め息が漏れる。

 

「まぁ、これから何日も見られない訳ではあるまい」

 

「そうだけど。・・・あ、そろそろ警備の交代だぜ」

 

「うむ。参ろうか、マスター」

 

「あいよ」

 

・・・

 

「あ゛~・・・」

 

半ば馬にしなだれるように乗りながら馬を走らせる少女。

 

「アサシン、良く走ってられるねぇ、こんなに長い時間・・・」

 

「・・・」

 

「うぅ。旅なんかしたことないもの。・・・と言うか、書店で働き始めてから、一回も馬に乗らなかったかも・・・」

 

「・・・」

 

「慣れれば、ね。・・・まぁ、蜀までは後一日程度だし・・・。頑張りますか!」

 

うっし、と気合いを入れて、背筋を伸ばす少女。

 

「いくよっ、アサシン! 取り敢えず、早く寝っ転がりたい!」

 

更に速度を上げた馬を、アサシンは静かに追いかけた。

 

・・・

 

「ふーん、劉備ってやつ、なかなかいいやつみたいだな」

 

「あん? ・・・ライダー、いきなりどうした?」

 

「いやいや、ほら、ここの劉章ってやつ倒したらしいじゃん、劉備って。町のやつらも感謝してるっぽいからさ」

 

「ああ、劉備ってやつは民に慕われる人なんだってよ。どれだけすばらしいかって言うの、さっきも通りすがりのおばちゃんに聞かされたよ」

 

そう言って、マスターは芝生に寝転がる。

 

「っぷはー、やってらんねえ。あーあ、このまま寝転がって金を稼げる職業ないかなー」

 

「あるわけねぇだろ・・・。こいつ、意外に駄目なやつなのかもしれない・・・」

 

「ははっ、いまさら気づいたのかよー。もうマスターの交換は受け付けてないぞー」

 

「・・・分かってるって」

 

自分のマスターを見下ろしながら、ライダーはため息をついた。

 

「ま、そういうやつを導くのも、俺の役割だからな」

 

「あん? なにいって・・・ふぁぁ・・・ねみぃな。お休み!」

 

そういってマスターが目をつぶると、数秒後には寝息が聞こえてきた。

ライダーはおいおい、と呆れ気味に呟いてから

 

「ま、子供っぽいところが魅力、っていう見方もあるからな。・・・フォロー、そろそろ苦しくなってきたか?」

 

・・・

 

「・・・さん! ・・・るさん!」

 

「う・・・あ・・・?」

 

「ギルさん! しっかりしてください、ギルさん・・・!」

 

おおう? 

王の財宝(ゲートオブバビロン)の中から帰ってきた・・・で良いんだよな? ・・・途端にこの光景だ。

月が俺の肩を掴んで必死に揺らしている。ゆらゆらとその揺れが心地よくて、また意識が飛びそうになる。

・・・っとと、いけないいけない。

 

「月・・・。どうしたんだ?」

 

俺が言葉を発すると、ようやく月は俺の肩から手を放し、安堵の表情を浮かべ・・・。

 

「ギルさんっ!」

 

いきなり抱きついてきた。

 

「おおうっ?」

 

せっかく起きあがったのに再びばたりと倒れてしまう。

 

「ど、どうしたんだ月?」

 

「どうしたもこうしたも・・・一日中用事があるって言ってましたけど、流石に晩ご飯は食べるだろうと思ってご飯持ってきたら倒れてたんですよ・・・!?」

 

「倒れてた・・・? まじか・・・」

 

胡座をして居た筈なんだが、いつのまにか倒れたのか。

 

「呼びかけても全然起きてくれないし・・・どうかしちゃったのかと思ったんですよ!?」

 

倒れた俺に馬乗りになりながら、涙目で俺をしかる月。

 

「ごめんごめん。ちょっと集中しないといけないことがあってね。反応が遅れたんだ」

 

そう言って、安心させるように頭を撫でる。

そのまま頭を抱えるように抱きしめて、背中をさすってあげる。

 

「へぅ・・・。あ、あの、ギルさん・・・」

 

やっと月は落ち着き、自分が置かれている状況をやっと理解したらしい。恥ずかしさを誤魔化すようにもぞもぞしてから、諦めたように体から力を抜いた。

 

「落ち着いたか? 月。・・・月?」

 

「す、ぅ・・・すぅ・・・」

 

穏やかな呼吸が聞こえたのでゆっくりと月の顔を見ていると、泣き疲れて眠ってしまったらしい。顔に涙の跡を残しながら眠っていた。

月を起こさないように体を起こし、手ぬぐいで月の顔を拭って、寝台に横たわらせる。

 

「ごめんな、月。心配ばかりかけちゃうな」

 

寝台に腰掛けて、月の寝顔を見ながら独りごちる。

頭を撫でてやると、くすぐったそうに動いた後、笑顔を浮かべた。

 

「月が喜んでくれると、嬉しいよ」

 

よし、朝まで月を見ててあげよう。明日詠になんて言われるか分からないが、俺なりの罪滅ぼしだ。大目に見て貰いたい。

そう決心して頭を撫でると、月に手を掴まれた。月にしては強い力で握ってきている。

 

「ギル、さん・・・」

 

どうやら、俺をお捜しの様子だった。なら、ずっと握っててあげよう。

 

「此処に居るぞ、月」

 

手を握り返して、答える。聞こえてるかなぁ。聞こえてないだろうなぁ。

 

「えへへ・・・」

 

幸せそうな顔だ。・・・これを一晩中見ていられるのだから、こちらも幸せになれそうだ。

 

「幸い、今は眠くない」

 

しばらくは、幸せスパイラルが続きそうだ。

 

・・・

 

「ふ、あ・・・?」

 

朝日で目を覚ます。

なんだか、いつも寝ている寝台とは匂いが違う気がする。

 

「詠ちゃん・・・?」

 

寝ぼけ眼で親友の姿を探すが、寝台には居ないようだ。

 

「早いな・・・もうお仕事かな・・・」

 

確か、自分は今日休みの筈だ、と思い出して、もう少しゆっくりしていっても良いか、と結論づけた。

なんだか、昨日は幸せな夢を見ていた気がする。その余韻を楽しみたいと、思った。

 

「あ・・・れ・・・?」

 

気付けば、手にはぬくもりが。

繋いだ手から相手の腕へ。腕から顔へと視線を登らせていくと、見慣れた顔があった。

 

「ぎ、ギルさん・・・!?」

 

あわあわと慌てて起きあがる。

 

「な、なんで此処に・・・って、あ・・・!」

 

思い出した。昨日、ギルさんの部屋で寝ちゃったんだ・・・! 

寝台に寝ていると言うことは、ギルさんが運んでくれたんだろう。そして、幸せな夢の原因は多分・・・。

 

「へぅ・・・」

 

自分が放しても繋がっている手だろう。

彼の方からも握ってきているらしく、とても心地良い暖かさを感じる。

そこまで考えたところで、顔が真っ赤になるのを感じる。さらに、とても体中が熱い。

 

「ど、どうしよう・・・。・・・あ」

 

そこで、ようやく気がついた。彼は、座って寝ているのだ。

 

「いけない・・・体、痛くなっちゃう・・・」

 

うんしょ、と手を引っ張ると、彼の体が傾き、寝台に倒れる。

 

「ひゃぅっ」

 

自分も引っ張られ、一緒に寝台に受け止められる。

・・・いけない、起こしてしまっただろうか。

確認してみると、まだすぅすぅと寝息が聞こえる。良かった。起きてない。

 

「どうしよう・・・」

 

でも、まだまだ問題はある。彼と手を繋いで寝台にいるのは、恥ずかしすぎて大変なことになる。

 

「あ・・・詠ちゃんが来ちゃったら、大変だ・・・」

 

多分、勘違いをしてギルさんに当たるだろうし・・・。

照れ隠しも度が過ぎると嫌われちゃうよ、と何度か助言しているのだが、今だ効き目はないようだ。

・・・でも、まぁ。

 

「ふふっ」

 

それも、良いかもしれない。

決めた。詠ちゃんが来て、何してるのよ! と怒鳴るまで、一緒に寝ていよう。

今ならば、あの幸せな夢を、また・・・見られるかもしれないし。

恥ずかしがり屋な自分にしては中々大胆な選択をした物だと思ったが、寝ぼけて居るんだ、と言い訳して考えないようにした。

最後に彼の手を握り返してから、再び目をつぶった。

 

・・・




目をつぶった後の月さんは、ちょっと前までの冷静なモノローグがなかったことになったかのように、心臓をバクバク言わせて取り乱します。でも、主人公君を起こさないように表には出していないので、頭の中だけでぐるぐるしてる感じですね。とっても可愛いです。

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