「何度言ったらわかるのよ!!」
「ん?」
正門から入ると、高城の怒声がまず聞こえてきた。それに続いて、ここに逃げ込んでいる住民たちの困惑の声も響いてきて、俺は気になって荷物もそのまま『引き吊りながら』そちらに向かった。
「だいたい死んでも動き続けるものに納得のいく説明がつくはずないじゃない!」
「そうはいっても実際に起きている現象だから必ず納得のいく理由が存在するはずだ!」
「そうよ! 理由もなしに起こる事なんてないわ!」
「それならそれでいいけど、理由を確かめるのは素人じゃ無理よ! 専門家が落ち着いて研究できる環境でたっぷり時間をかけないとダメ!!」
「何やってんだ?」
近付いていくと、住民たちに対峙するように高城が、その後ろに小室と平野が待機するように立っていた。
住民たちの言い分に高城が怒声と共に正論を浴びせて、住民たちが発言できないような状況を作り上げている。
そして、俺の声が届く範囲に到着すると、小室と平野に何をしているかを聞いた。
「ああ、それが―――ッ!?」
「? 小室どうし―――ッ!?」
「ちょっと、なに―――ッ!?」
「んあ?」
小室と平野が振り返った瞬間、二人とも所持している銃器を構えて臨戦態勢を取った。高城も小室と平野の雰囲気が可笑しいのを感じ取って何事かと俺を見ると一瞬驚愕した後に周囲と俺―――俺の後ろをじっくりと観察しだした。他の住民たちは三人と同じように驚愕した後、絶望という言葉がよく似合う表情をしていた。
その反応に小室達の視線に沿うように振り返ると、二つ、一括りにされている朽ちた肉体があるのが見えた。一方は全てが頭がなく、もう一方は頭はあるが鼻の下から顎までをゴッソリそぎ落とし、四肢も切り落とされている状態で。
「あ、ずっと引き摺ってたから忘れてた」
「わ、忘れてたって……あんた、それ―――」
「ああ、<奴ら>だ。捕獲の任務はもう少し先の予定だったんだが、予定変更でさっき捕獲してきた」
この状態の<奴ら>を見た住民達は全員警戒心が解かれていた。だが小室と平野、そして高城は警戒心は和らいで構えは解いたものの、多少警戒しているさまは実戦経験を積んだ差なのだと感じられた。
高城が大きくため息をこぼすと、呆れた表情で俺に言い放ってきた。
「あんた…何をしに行っていると思えば、そんなことをしていたのね。確かにバスの中でそんなやり取りはあったけど、本当に一人で捕獲してくるなんて…」
「生け捕りの経験は数えきれないほどあるんだ。紛争地帯であんまり人を殺したくはなかったからな。そういう奴には必要な技術だ」
「一生いらないわね。そんな技術」
「まあ、高城のお袋さんには許可取ってるから、明日中にはこいつらも搬送されていなくなるだろうよ」
そう言って、この場から高城夫人に貸してもらった倉庫に行こうと、くるりと方向転換したところで住民の一人で化粧の濃いおばさんが甲高い声を上げた。正直耳が痛かった。
不快感を顔に出そうとしたが、先ほどの話の内容からして住民たちを説得?(内容以外は言い負かしていうようにしか見えなかった)しているようだったので、仕方なく相手に失礼のない表情を作って振り返る。
「……そうなのね。結局それが言いたいのね!? 高校生のクセに銃なんか振り回している連中と挙句、その<殺人病>に蔓延している人たちを人とは思わないような扱いをする冷酷人間と一緒にいると思ったら!」
「「「「はあ?」」」」
その光景を見た俺は、以前から抱いていた一つの疑問の答えが分かった。この状況で―――いや、この状況だからこそ、俺はこれまで疑問に思ってきた俺とこれまで見てきた一般人の決定的な違いに気付かされた。
「お疲れ、綾部。どうだった?」
「どうもしねぇよ、小室。倉庫に<奴ら>ぶち込んで鍵占めて見張りを立ててもらっただけだ。何か起こったら俺がこんな綺麗な状態で帰ってきてねぇよ」
「それもそうだな」
「んで? なんでお前は高城を羽交い絞めにしてるんだ? 襲うならもう少し人目につかない場所でやれよ」
「「「なっ!?/////」」」
高城を羽交い絞めにしている小室に冗談交じりに言うと、三人とも顔を真っ赤にして俺を睨んできた。だがすぐに、高城の視線は平野に向けられた。それでなんとなく状況が理解できた。平野が何か高城の癪に触るようなことを言って怒鳴ろうとしたところを小室が押さえ込んで、この状況になっているということが。
俺と小室も平野に視線を向けると、平野は顔を俯けながらポツポツと話し始めた。
「さっきも言った通り、俺はあいつらの気分が少しわかります。けどそれはあいつらの言っていることに共感しているということではなくて、あいつらがどうしてあんな言動と行動をとるのかということです。
それは、人間って見たくないものは見ないで生きようとするんです」
「あ……」
「……」
それは俺が先ほど気付いた俺と一般人の決定的な違いだった。
俺は物心ついてからずっと非現実な世界で育ち、見たくないものを常に見ないといけない状況でそこから逃げられない生活を送っていた。だが、ごく平凡に過ごしていた彼らは見ないといけない状況は限られていて、見たくない状況からいつでも逃げられるような生活を送ってきた。
俺は一般人との接触は限りなく少なく、その機会があってもごく短時間だった。そのせいで俺は普通の人間とどこかずれている所があるということに、この街に来るまで全く気付かずに成長してしまった。その事に気付いた今、俺がなぜ学校で孤立していたのかが分かってしまった。みんな俺のことが分からず、理解できなくて、それが恐怖心に変わってしまったのだ。
「誰も自分を否定されたくない。だからほとんどの人は何かが起こっているとわかっていても…何もしないんです」
「でも何かが変わったと認めざるをえないじゃない。今は」
「え、ええ、でも。そういう時一番に出てくる反応は……現状を元に戻そうとします。どんなことでも。時にはうまくいかないことが最初から分かっていてさえ……なぜかっていえば」
「変化を認めなければ自分の過ちや愚かさを認めないで済むから」
「そ、そうです。僕は、あの…学校とかでいろいろあった時に考えてそれがわかりました」
「ふーん。ちょっと見直したわ。あんたの事」
「!?////」
ポツポツと語っていた平野に高城の言葉で一気に顔を真っ赤にして黙りこくった。その反応にさっきまで考えていた思考を切り捨てた。今の俺にはもう必要のないものだ。なぜなら、今この場には、俺を慕って俺が慕う仲間たちがいるのだから。
三人を眺めていると、小室が腕を組んで頷いているところが映った。
「ん? どうした小室?」
「勉強になったよ」
俺が問うた瞬間に返答が来て、俺と高城、平野は驚きながらも少し微笑んで息を吐いた。
小室は何か恥ずかしいのか、耳が赤くなっている。
「そういうところかな」
「な、何がだよ。恥ずかしいけど、素直に認めてるんだぜ//」
「だからだと思わない?」
「あー、あ。確かにそうかも」
「だから何がなんだよ!?」
「わかんねぇか? お前は俺たちの誰よりもリーダーに向いているってことだよ」