情報処理室に入った俺は内側から鍵を閉めて、授業中俺に宛がわれている机に歩み寄る。椅子を引いて、机の中に潜り込むと、背中に手を回して、刃渡り27cm『サバイバルナイフ』を取り出す。
「木の葉を隠すには森の中にってね」
カーペットの床を切り裂いて、中からノートパソコンとACアダプタを取り出す。一応起動してみるが、どこも異常はないようで一安心した。スリープモードで待機させ、一先ず、第一の目標はクリアと頭に言い聞かせる。ノートパソコンを背中側の腰とズボンの間に挟み込んで、サバイバルナイフを右手に常備装備と頭の中で決める。
取りあえず外の状況を確認するため、校門側の窓に移動して、外を見てみると―――
「ッ‼」
『きゃあああああ!! 痛い痛い‼ 誰か助―――』
『あぁ…………あぁ…………』
『く、来るな。来るなぁ!! ああああああああああああああ‼』
正に地獄絵図としか言いようがない光景だった。だが、俺には正直『見慣れている』ため、他人が死ぬことに関しては興味がないが、俺を驚かせているのは別の事だ。噛まれた人間が死なずに徘徊して人間が噛んでいることに関して驚いている。
「何か感染病の一種か? いや、まだ結論を出すには早い。取りあえず、必要なものを全て取りそろえるか。次は三階の『ベレッタM12』を取った後、俺の鞄を回収して―――」
ガン‼
「‼」
外に気を取られすぎていた為、廊下の気配に気づけなかった。振りかえったと同時に右手をパソコンにぶつけたが、そんなことは気にしていられない。ドアは破られていないが、俺は息を殺してそっとドアに近づいていく。俺が教室の中央くらいに来ると、ドアからミシッという不快な音が聞こえた。
「おいおい、アリかよそんなの。学校のドアは結構な強度だぞ」
冷や汗を垂らしながら、よりドアへの注視を高めながら近づいていく。その間にもミシミシというドアの悲鳴が続いていき―――
「オオオオ」
バキィ‼
死者の雄叫びと共に情報処理室のドアが壊された。しかし、幸いにも一匹だけのようだった。だがそんなこと死者には無縁なのか、ゆっくりと俺へと近づいてくる。
「実戦から一年半ほど離れているが、腕が鈍っていてくれるなよ‼」
踏み込んだと同時に体制を低くしながら一回転をして、遠心力を利用しながら、ナイフの切っ先を死者の心臓へと焦点を合わせる。ナイフの切っ先は吸い込まれるように胸の中心へと向かっていき。
ドスッ
『慣れ親しんだ』肉を刺す感触と死者の活動停止を確認して、一安心する。しかし―――
「うっ……」
「ッ!!」
死者の両手が俺を捕らえようと迫ってきて、逸早くナイフを抜き死者から距離を取り、息を殺す。この空間にはもう、死者の唸り声の混じった息遣い以外には何も聞こえない。徐々に俺の方にその息遣いが近づいてくる。
(どういうことだ? 確実に心臓を刺したはず……いや、そもそも奴はもう死んでいる。心臓を停止させる行為に意味はないか……なら、頭を潰すしかない…だが、奴がそう易々と―――)
ガシャン!
俺が対策を練っていると、突然死者の後ろから何かが崩れ落ちる音が聞こえてきた。俺がそれを確認する前に驚愕した。何故なら死者の方が『俺に背を向けて、音が発した方に身体を向けて歩いて行く』のを見たからだ。
しかし、一瞬で頭を切り替えると、俺は死者に音もなく距離を詰めて、その首をナイフで切り裂いた。死者は最後まで俺の接近に気付くことなく、その醜い頭を落として崩れ落ちた。
(やはり、頭を潰すか切り落とすかすれば活動は停止するか。しかし、奴はどうして突然俺に背を向けたんだ?)
俺は音がした方向に目を向けると、先ほど死者が情報処理室前にいることを察知したときに誤って右手をぶつけたパソコンが床に落ちていた。
(コレに反応した? いや、違う。恐らく音に反応したんだろう。出なければ、目の前に獲物がいるのにそれに背を向ける行動はしないだろう)
そう結論付けて、長居は無用と体で表す様に静かに気配を殺して廊下の状況を確認して情報処理室を後にした。死者が音に反応するなら一つ確認することができたなと、また酷く楽しそうな表情を浮べて。
学園内に隠していた殆どの『武器』を回収した俺は、あと二つ必要な『武器』を獲得するため一階まで下りてきていた。死者に気付かれずに『武器』を回収する作業は結構苦労して、ここまで回収するのに夕方まで掛かってしまった。だがその間、死者の行動に関してはある程度判明した。
・音に反応して獲物の場所を特定する。また聴覚は異常に発達していること。それ以外の五感は機能していない
・筋力は怪物並みで、関節などを自力は外せる
・頭を潰すか体全体を焼けば活動は停止する。(焼却炉近くに隠していた物もあり、その時に死者を焼却炉にぶち込んだところ動かなくなった)
大体こんなところかな。まぁ、本部に連絡が取れたら報告事項に入れておこうと頭の中に刻んでおく。そう思って、階段前の廊下を壁越しに確認する。三体ほどいたが、目的地(男子更衣室)付近に死者はいない。静かに音を出さないように注意しながら、死者の横を歩いて行く。目的地に到着して、壁に背中を預けながら静かにゆっくり引き戸の扉を開ける。
「……」
「おぉ…」
全て開けると一匹中に隠れていたようで、死者が唸り声をあげながら出てくる。中を見回して、死者がいないことを確認すると、素早く中に入り扉を閉める。警戒をしながら普段俺が使っているのロッカーを開ける。ここのロッカーは全校生徒が使っていて、三クラスほど着替えられるように設計されていてロッカーの台数は130ある。一クラス40人程度なため当然10ほど余るため、俺はその一つを施錠して隠し場所の一つとして利用している。何? だったらそこにすべて隠せばいい? ここが入り込めなくなったら『武器』をすべて回収できないから、その対処だ。
ロッカーを開けると、中にツールベルト7本にデザートイーグル357マグナム用のマガジンが50本とベレッタM12のマガジンが20本が収納されている。全て、2-Bで回収した登下校用の鞄に詰めていく。
鞄の中に全て詰め終えて、また静かに扉を開ける―――
「きゃああああ‼」
「ッ‼」(今のは、高城か‼)
高城の叫び声に反応してか、周りにいた四匹の死者が高城の方向に向かっていく。俺は他にも高城の声に反応した死者がいると想定して、今まで使ってきたサバイバルナイフを一端口に咥えて、鞄の中からデザートイーグルを取り出し、前方の四匹の頭部に向かってトリガーを引く。その数四回。
バンバンバンバン‼
独特な硝煙の臭いと校舎中に響き渡る銃声を感じながら、目の前の四匹にヘッドショットがきまり、活動停止を確認すると、デザートイーグルを鞄にしまい、サバイバルナイフを持って声のした方向へと走る。時間にして数秒のところに高城沙耶と平野コータを視認する。高城は目の前の死者にドリルを死者の頭に突き刺していた。それと同時に俺と同じく高城の叫び声を聞いて駆け付けたのか、小室孝と宮本麗、毒島冴子、鞠川先生が息をあげながら出てきた。
俺はすぐに周りを確認すると、俺と小室達とは違う方向から死者共が群がってきた。数にして七匹。
「チッ! 平野こいつ持っていろ‼」
「え、わわ!」
鞄を放り投げて慌ててキャッチする平野を一瞬見て、俺はサバイバルナイフを構えながら走り、すれ違いざまに左右の二匹の死者の首を獲る。すぐに前後に並んでいた死者二匹を額に突き刺す。襲い掛かってくる一匹を首から斬り落とすと、ナイフに異変が起きた。
(ッ‼ ナイフの限界か…だが、まぁ、二回程度なら切れそうだ‼)
俺は背後の消火栓をナイフで二回切ると、消火栓の中からナップサックが出てきた同時に、ナイフが根本から折れた。
「!! 綾部‼」
「安心しろ小室‼ この程度何の問題もない」
小室に軽口を言うと、柄の部分を放り投げ、刃の方を空中で指に挟み込んで一匹の頭部に命中させると、すぐにナップサックから『武器』を取り出す。向かってきた死者の口の中に放り込んで、顎を押えながら『ピン』を抜くと、そのまま背負い投げで窓の外に投げ飛ばした。
「全員伏せろ!!」
「「「「「!!」」」」」
俺の言葉に全員が反応して(鞠川先生は毒島さんが伏せさせた)、伏せた瞬間――――
ドガアァァァァン!!!!!!!
爆音と熱風、衝撃を感じながら『慣れ親しんだ』感覚に思わず笑みがこぼれてしまった。他全員は驚きの表情で俺を見ていたが……