「さて、こんなものか」
「そうだな」
「うん」
俺と小室と平野の男三人で職員室の扉を固定して、一息つく。
一先ず、廊下に居続けるのは危険と俺が提案して、職員室に入り、扉を固定している間に皆が自己紹介をし始めた。俺も便乗して一応自己紹介したのだが、未だに全員疑わしげな視線を向けている。高城が給湯室から戻ってきたので、いい頃合いだと思い、全員に俺の素性を明かすことにした。どうせ知ってもこの街には戻れそうにないしな。
「え~と、まずは俺の素性だが、名前はさっき言った通り、綾部 恭二。これは本名だ。んで、なぜ俺が手榴弾をあそこに隠していたのを知っていたかというと、隠したのが俺本人で、俺が自衛隊の人間だからだ」
「え!? 自衛隊の人(喜」
「まぁな。証拠としては、ほれ俺の鞄開けてみな」
俺の言葉を半信半疑で(一人は嬉々として)聴くと、全員俺が持っていた鞄を恐る恐る確認していく。
「!! これって…」
「ほ、本物!?」
「す、すげー!! デザートイーグル357Mと41M 予備マガジンが50本もある! それにこっちはベレッタM12 マガジンは40発入りが20本もある!!」
「何でこんなもの持ってるのよ」
「非常事態のために学園中に隠しておいたのと、常時持っていたものだ」
「以前から独特な雰囲気の奴だなと思ってたけど……自衛隊の人間だったとはな」
一応は信じてもらえたようだ。俺はズボンに挟んでいたノートパソコンとACアダプタを取り出して、ノートパソコンの充電をしはじめ、鞄からホルスター付きのツールベルトを取り出して愛銃のデザートイーグル357Mと同銃の41Mを両脇にセットして、後ろの腰にはベレッタM12用のホルスターと本体をセットする。他は移動手段や行動目的を話し合っていたが、丁度会話が途切れたところで俺は口を開く。
「良ければ、俺も手伝うぞ」
「え? いいのか? 綾部の両親は?」
「俺の家族はもういない。一人で行動するのには限界があるし、それに、俺は戦力になると思うぞ」
「……わ、わかった。よろしく頼む」
「ああ、よろしく頼まれた」
グリップに手を添えながら言うと、小室が少々おびえ気味に了承したので、苦笑しながら手を離すとその手をテレビのリモコンへと伸ばし、天井から吊るされているテレビの電源を入れる。
『―――でず。各地で頻発するこの暴動に対し、政府は緊急対策の検討に入りました。しかし自衛隊の治安出動については与野党を問わず慎重論が強く―――』
「なんなのよ……これ」
「暴動って…どういうことだよ」
すぐに地方の番組局に切り替えて情報を探る。今度は若い女性キャスターが映り、後ろの情景を見ると救急隊が黒い死体袋をストレッチャーに乗せているところが移っている。
『―――ません。すでに地域住民の被害は千名を超えたとの見方もあります。知事により非常事態宣言と災害出動要請は―――』
パン!!
『発砲です! ついに警察が発砲を開始しました!! 状況はわかりませんが―――きゃあああ!!! いや なに! うそ た、助け うあ ああああ!!!』
ザザ――――――
女性キャスターが警官の発砲を確認するために振り返ると、死体袋に包まれて、すでに死んでいるはずの人間が突如動いたことに恐怖し、混乱し、絶叫したところで映像は停止して、しばらくした後でスタジオに映像が切り替わった。その後の情報といえば、世界各地で同じことが起こっていることだけだ。そのほかの信憑性があるのかないのか現状ではわからない。
「朝ネットを除いたときはいつもどおりだったのに」
「たった数時間で世界中がこんなになるなんて……」
「いつの時代も変化するときは急に変化するものだ。地震やパンデミックなんかは正にそうだろ」
「パンデミック?」
「感染爆発のことよ。世界中で同じ病気が大流行してることよ」
平野と宮本が弱気なこといっているが、それも当然のことだ。自分たちの周りが、いきなり常識から非常識に変わったのだ。一人の人間は環境の急激な変化に順応するにはそれなりに考え、受け入れる時間が必要なのだが、こいつらはその暇すらなかったのだ。二人のように表情には出してはいないが、未だに戸惑っている者たちもいるのだろう。
そんなことを考えている間に、パンデミックの歴史やら止まった原因やら<奴ら>が腐るかどうかなどの議論が続けられたが、結局成果は出ないまま話し合いは終わりとなった。
「家族の無事を確認した後どこに逃げ込むかが重要になるな」
「そこなら俺に任せておけ。<奴ら>が来られない、いい場所に連れて行ってやる」
「いい場所とは?」
「俺が所属しているところの本部。自衛隊の機密施設だが、海上にあるから<奴ら>は来れないはずだ」
「じ、自衛隊の機密施設!? そ、そんなところが…」
「あ、あんた…そんなこと言っていいの? 仮にも機密でしょ?」
「俺も常時ならこんなことは漏らさないよ。だが、こんな状況下で機密がどうのもないだろ。それに具体的な場所は絶対にもらさない。訓練で口は堅いからな」
「ともかく、好き勝手に動いていては生き残れまい。チームだ。チームを組むのだ。出来る限り生き残りも拾っていこう」
俺がノートパソコンとACアダプタを鞄にしまい、ナップサックと鞄の両方を背負いながら、軽々しく自衛隊の機密情報を漏らすことに呆れている高城に、やれやれと体で表すように両の手のひらを天井に向けて説明すると、毒島さんが団体行動を提示して、俺たち全員は頷きながら、職員室を後にした。