「助かりました。リーダーは毒島さん? それとも、綾部君ですか?」
「そんなものはいない。逃げる為に協力し合っているだけだ」
「……」
バスが学園から出てすぐに俺は鞄からUSBケースを取り出して、ケースを開けて十数個あるUSBの中から必要なものを取り出して接続する。紫藤が何かを言っているが、そんなものはガン無視して、キーボードを打ち続ける。
「それはいけませんね。生き残るためにはリーダーが絶対に必要です。目的を明確にさせ、秩序を守るリーダーが……」
粘つくような声音を耳にしながら、パソコンを眺め続け、画面が切り替わったところでツールベルトから無線機を取り出して、鞄からケーブルを出して無線機とパソコンを繋ぎ無線機を最低音にして耳に押し当てる。未だ無線機からはノイズが聞こえ続けていたが、俺は片手でキーボードを忙しなく打ち続ける。バスの風景が木々から町全体が見渡せるようになった時、恐らく俺以外の全員が自分の目を疑っただろう。街のいたるところから黒煙が上がり、車や人は街の外へ向かおうと走り続け、<奴ら>の数は学園より何百倍も多いのだから。
それから、一分ほど経過しただろうか。全員落ち着いて、頭が冷えたように見えたが、立っていた金髪のヤンキー風の男子生徒が声を上げた。
「おい…このまま進んだところで危険なだけだろ!! だいたいよぉ……なんで俺らまで小室たちに付き合わなけりゃいけないんだ? お前ら勝手に町へ戻るって決めただけじゃんか」
イライラしながら、その不満をキーボードを打ち続ける力を少し強くすることで少しでも消化しようとするが、そんなことをやってもイライラは消化しないし無線機からノイズが消えることはない。だが、コンビニ前で<奴ら>を一体跳ね飛ばした瞬間、ノイズだけ流れていた無線機から一瞬だけ人の声が聞こえた。
「!! バス止めろ!!」
「っ!!」
キキィーーーーーー!!!!!
運転席の真後ろから俺が怒鳴ったことで、鞠川先生は驚きながらバスに急ブレーキをかける。全員前のめりになり、さっきまで喋っていたヤンキーは倒れる寸前のところまでつんのめった。全員が非難の目を向けるが、そんな事は1mmも気にせず、俺は無線機に耳を傾け続けた。そしてまた人の声が聞こえて、俺はパソコンで無線機の電波を固定し、その電波の精密を上げるために無線機を一端置いてキーボードに手をかける。
「おいてめぇ―――」
「貴様は黙っていろ」
「!?」
ヤンキーが声を荒げて俺に文句を言うのを遮り、今までの怒りを最大限声に乗せ、殺気を最低限目で送ると、ヤンキーはそのまま黙った。電波の精度を上げ終わり、無線機を手に取り耳に当てると、万全の状態で向こうの音声が聞こえた。耳から話して無線機の音量を上げて、脇のスイッチを入れる。
「こちら綾部! 誰か応答してくれ!!」
『!? 総長!! 綾部さんからの応答を受信しました!!』
「「「「「!!」」」」」
スイッチを離すと同時に向こうから男性の声がハッキリと聞こえた。ホッと安堵しながら、次の応答を待つ。全員が息を呑むのが伝わってきたが、俺は周りに声をかける余裕はなかった。そして、俺が所属している所の最高権力者で、俺が信頼している人の声が無線機から流れた。
『恭二! よかった。繋がらないから心配していたのだけれど、大丈夫ね?』
「総長ですか!? 大丈夫です。心配したということは既にこの状況は把握済みということですか?」
『ええ、でも現場にいるあなたの方が詳しいと思うわ。早速だけど報告をお願いしてもいい?』
「わかりました。ですが、その前に一つだけ聞かせてください。『秋奈』は無事ですか?」
『大丈夫、無事よ。他の任務で本土に向かわせていたのだけれど、任務地が海辺の方だったから、異変が起こってすぐにこっちに連絡して、今こっちに向かっている最中よ』
「そっか……よかった…」
総長への……南條 玲奈(なんじょう れいな)総長への報告の前に俺は、この事態が起こってからずっと気にかけていた人物の安否を確認して、今まで溜まっていた物を吐き出すように息を吐いた。それから、<奴ら>の特性や増殖方法、倒し方、その他、今までの<奴ら>の行動を全てを報告した。一応本部の方でも特性や倒し方などは知っていると思ったのだが、俺の情報整理もかねて全て報告した。
『そう、わかったわ。報告ありがとう』
「まぁ、仕事ですから。それで? 救助活動とかの目処は経っているのですか?』
『今はまだ難しそうね。こちらも後手に回りっぱなしだわ』
「? 事態が起こってから少なくても六時間は経過していますが…窪田防衛大臣がそんなに後手に回っているとは思えないのですが…」
『窪田防衛大臣は――――――噛まれたわ』
「!! そうですか……指揮系統は?」
『バラバラよ…一時間前までは長野防衛副大臣が指揮をしていたけれど…噛まれたと報告がきてから、防衛省内部との連絡が取れなくて…恐らく、防衛省は機能していないようね』
「……」
報告が終わった後、俺は今の状況を知るために総長から近況を聞いた。だが、思っていた以上に自体は進んでいたようで、防衛省は既に機能していないとの報告を聞いて、俺は自分の浅はかさを嘆いた。チラリと周囲を窺うと、全員絶望的な表情で無線機から発せられる総長の報告を聞いていた。
俺は早々にこの話を打ち切るべきだと判断して、別の話をすることにした。
「そちらの状況は概ねわかりました。それで今後の対策についてですが、やはり数体の実験体が必要になると思います。冶雲(やぐも)は研究室に籠りっぱなしですよね?」
『ええ…でも、実験体といっても<目標(ターゲット)>を捕獲するには、それなりの人員が必要に……』
「ですから、あの試験運用中の武器を俺に送っていただければ、生け捕りに出来ます」
『アレを? 確かに現状、アレは恭二以外には使えないけど…未だ未完成よ? それに恭二の体に影響を受ける可能性があるわ』
「現状でアレを使う以外には相当数の人員を割く必要がある上に、その人員が<目標>になる可能性もあります。ですので、これが一番得策だと思うのですが…」
『…………わかったわ。最終調整した後、床主市の方に搬送させるわ。信号弾は?』
「今はないですが、今夜中には回収できるはずです」
『急ピッチで仕上げても二日…いや、そっちに搬送するのをあわせて三日はかかるわね…』
「ではその間に、他の待機人員で今から言う武器と弾丸を用意してくれますか? アレだけだと不安なので」
『了解。それも合わせて送るから安心して……それで、必要な武器って言うのは?』
「それは―――」
それからは必要な武器と弾丸の数を総長に伝えた。一応パソコンでメールを送ってみるが、やはりというか予想通り送れなかったので全て口頭で伝えた。仮住まいまでの移動経路を考えながら、伝え終わると総長がやけに真剣な声音で、俺にある命令を下した。
『恭二。この命令はどんな事柄よりも優先してクリアしなさい。最悪周囲の人間を蹴落としてもかまわないわ』
「総長がそんなこというとは……最重要任務ということですね」
『ええ、そうよ……恭二―――生きて、家(ここ)に帰ってきなさい』
「…………はい、了解しました」
『じゃあ、健闘を祈るわ』
「はい」
ブツッ
「ふー……あの人の結婚相手、何で離婚したんだろ?」