パン!
「さて、皆さん。先ほど、綾部君のお陰で情報が得られました。防衛省の混乱で救助活動の目処が立っていない。この状況で争いなく生き延びるには、リーダーが必要ですよ。我々には!」
無線機とパソコンの電源を落とし、鞠川先生がバスを発進させて少ししたところで、紫藤教師が手を叩いてそんなことを言ってきた。小室達は訝しそうに見ながら紫藤教師の話を聞いていた。俺はさして興味もわかなかったので、鞄の中に入っていた二つのポーチを出して、デザートイーグルとベレッタM12のマガジンに銃弾を込めてながら紫藤教師の話を聞くだけ聞いていた。
「で? 候補者は一人きりってわけ?」
「私は教師ですよ? 高城さん。そして皆さんは学生です。それだけで資格の有無はハッキリしています。どうですか、皆さん? 私なら、問題が起きないように手を打てますよ?」
高城の問いかけにさも当然といったように紫藤教師が答え、後半は振り返ってバスの後半の席に座っていた生徒に話しかけるように言い放っていた。それに呼応するかのように、後ろの生徒連中は紫藤教師の言葉に賛同を込めて拍手をしていた。俺たちは一人も賛同なんかはしなかったが。
「ちょっと待ちなさい。一介の教師がこの状況で何が出来るの? それよりかは、現自衛隊員の綾部がやったほうがマシだと思うけど?」
「ほう? ですが、自衛隊員といってもその若さですからね~。それならまだ、まとめ役として教員を務めていた私の方が適任かと……」
「若さ…ねぇ~……」
高城の反論に紫藤教師は一瞬興味深そうに俺を見たが、まるで経験不足とでも言いたそうな言動を放ち俺から視線を外した。今度はデザートイーグルのマガジンに銃弾を込めていたが、俺の名前が出た為、さすがに無視は出来ないと諦めたが、銃弾を込める手は休まず動かし続けた。それに、さっきの言動は少しイラッときていた。
「経験なら丸々17年あるぞ。生まれた時点から自衛隊特殊部隊の訓練を受けてきたからな。それに、戦場で指揮したこともあるし、今では所属しているところの副総長でもある。紫藤教師とは経験も違えば人間の動かし方も知っているし、どうすれば最善に生き残れるかも知っている」
「くっ…」
俺が頭に浮かんだ全ての利点を言い終えると、紫藤教師は苦虫を噛み潰した顔をしていた。後ろの生徒連中は明らかに動揺の色が窺え、小室達は少しだけ勝ち誇ったような顔をしていた。最後の一発を込め終えると、デザートイーグル357Mと41M、ベレッタM12にマガジンを装填し、スライドを引いて銃弾を薬室に送り込み、脇と腰のホルスターに収める。ナップサックから二種の手榴弾を三つずつとスタングレネードを全てツールベルトに取り付けると、運転している鞠川先生に声をかけた。
「すみません、鞠川先生。車を止めてもらえますか?」
「え? ええ。わかったわ」
訳もわからず鞠川先生がバスを止めると、俺は助手席のドアを開けてバスから降りた。
「ちょ、ちょっと、綾部!?」
「え? え?」
「何のつもりだよ!? 綾部!」
「心配しなくても、別に小室達を見捨てるわけじゃないよ。ただ、少しだけ別行動を取るだけだよ。俺の仮住まい、このまま歩いたほうが早いし」
「だったら―――」
「一緒に乗ってる奴らが、許可してくれそうもないんでね」
高城が驚愕の声を上げ、鞠川先生が俺の行動に混乱し、小室が俺の行動を問いただしてくる。俺はいつも通りの声音で小室達を安心させるように言うと、全員に背を向け、そのまま手を振って去ろうとした。
「あ、おい!! 麗!?」
「ん?」
俺が顔だけ振り向くと、宮本が俺と同じように助手席から降りていた。それも、ありったけの憎悪を表情に込めて。
「いやよ!! そんな奴と絶対一緒にいたくなんかない!!」
「お二人とも、行動を共に出来ないというのであれば仕方ありませんね」
「なに言ってんだあんた!」
口論しようにも宮本がスタスタと歩き始めているのを確認した小室は、助手席から飛び降りて宮本の腕を掴んで引き止める。
「街までだ! 街まで我慢するだけじゃないか!! それに歩きじゃ危険―――」
「だから後悔するって言ったのよ!!」
「とにかく今は!!」
ビイィィイィィ!!!!!!!!
「!! 鞠川先生!! バスを路肩に!! …チッ! 小室、宮本こっちだ!!」
「!?」
クラクションの音が聞こえた瞬間、俺は音の聞こえた方向へ目を向けると、路線バスがこちらに向かって突っ込んできていた。遠目から中で<奴ら>に噛まれ続けて、中はパニックになっていることが窺い知れた。幸いだったのは運転手が最後まで噛まれていなかったことか…
俺は鞠川先生に忠告させると、路線バスの速度と俺達が乗ってきたバスの距離を計算して、バスに乗るのは不可能と考えて小室と宮本の腕を引っ張って、路線バスの突撃から非難させる。そして、路線バスが道路上で乗り捨てられていた乗用車に激突し、横転すると、辺り一面が爆発炎上した。爆発の衝撃で三人とも吹き飛ばされたが、俺は受身を取り、宮本は小室が庇ったが、小室の方も怪我は見られないようだ。路線バスと乗用車からガソリンが漏れて、道路が炎で塞がれてしまい、バスに戻ることは出来なくなってしまった。
「小室君!! 大事無いか!!」
炎の向こう側から、毒島さんの声が聞こえてきたが、思った以上に炎の勢いが強くて姿が視認できなかった。小室も毒島さんの姿が視認できず、苦虫を噛み潰したような顔をすると、声を張り上げた。
「警察で!! 東署で落ち会いましょう!!」
「時間は?」
「午後5時に!! 今日が無理なら明日も同じ時間で!!」
「毒島さん!!」
小室との会話が終わると同時に俺は毒島さんがいると思われる所に向かって、USBを投げた。風の悪戯か一瞬だけだが、毒島さんが何かを掴み取ったところが窺え、ホッと息を吐いて続けざまに言い放った。
「平野か高城に渡して無線機とそれを使ってください!! 説明は中に入ってます!! 後、パソコンのパスワードはローマ字で『AKINA』です!!」
「承知した!!」
バスの扉が閉まった音がした後、すぐにバスは来た道を戻り始めた。それを確認した後、俺は片脇のホルスターからデザートイーグル357Mを取り出すと同時に炎から出てくる<奴ら>に警戒しながら後退し始めた。小室と宮本も立ち上がって、俺と同じように後退する。
「急ごう!!」
「うん!」
「!! 小室!!」
「え?」
ガッ!! ドン!!
「うあっ!」
「孝!?」
前ばかり気にしすぎて後ろの警戒を疎かになっていて、<奴ら>の接近に反応が遅れた。フルフェース形のヘルメットを被った<奴ら>が小室を押し倒して、馬乗り状態となっていた。そして、<奴ら>が小室を噛み付こうと、顔を小室に近づける。
ガン!!
「う……あ……」
「え?」
フルフェース型のヘルメットがこめかみの部分から一直線に穴を開けて、小室に噛み付こうとした<奴ら>は小室の上から崩れ落ちた。未だに状況が理解できていないような小室に宮本が手を差し伸べて小室を立ち上がらせた。そこで初めて、俺がデザートイーグル41Mを持っていたことに気が付いたようだ。
「あ、ありがとう。助かったよ」
「礼はいいさ。それより小室。お前、バイク乗れる?」
「は?」
「ん…」
礼を言った小室に、突飛な質問をしたからだろうか、また理解できていない表情をする小室に、顎をしゃくって俺のすぐそばに倒れているバイクを指した。それで理解したのか、小室はバイクを起こしてエンジンをかける。宮本が訝しげに小室に疑問を聞いた。
「免許持ってたっけ?」
「無免許運転は―――高校生の特権」
二カッと笑いながら答えると、宮本をケツに跨らせた。その後俺を見ると、宮本と一緒にどうしよう? という顔になったので、ちょっとだけ嘲笑しながら、二人に向けて言い放った。
「時速40kまでなら30分位付いていけるぜ。こういう訓練もあったかなら」
「は…はは…… んじゃ、行くぜ」
「うん」
こうして、俺たちはバス組と別れて東署に向かって走り始めた。未だ、本当の終わりを知らないまま……