結論から言うと、小室達とは合流できなかった。
反応があった場所に大きく迂回しながら向かった結果、俺が住宅街のメゾネットマンションに着いた頃にはすでに日付が変わる直前だった。メゾネットに続く道は<奴ら>に埋め尽くされ、さすがにここに居続けるのは危険と判断し、早々にその場所から離脱した。
離脱した後、人けのない川沿いから少し離れた道で止まり、小室達の現在地を確認しようとして、ふとパソコンの時計が視界の端に移った。その時刻は警備課長と別れてから2時間直前になっていた。
「そろそろか、大分減ればいいが……」
―――――ゴオオオォオオオォオ!!!!!
俺がそう呟いた瞬間、突如小さな地震がおこった。
警備課長に言った通り、バイクを走らせている途中、30分置きに学園付近に設置した時限式爆弾とスタングレネードが起爆して、この辺り一帯に大きな音を発していた。
そうすることで<奴ら>の大半を学園付近に集結させていた。勿論、さっきの住宅街のように聞こえない若しくは、より近くの音に反応した<奴ら>に関しては対象の外にしてあった。
そして、まんまと誘き出された<奴ら>に致命的な『溝』を造ったことを、さっきの地震が音とともに証明してくれた。
「さて、これで橋から学園の主要の道路全て、『大穴』を開けたことになるが、始末書で済むかな~―――」
そう言い残して、暗い夜道にバイクの走行音を響かせながらその場を離れた。
「ふぃ~。何とか渡り切った」
ビニール袋に入れた旅行カバンからタオルを取り出して、ビショビショに濡れた服を脱ぎ棄て、ある程度身体の水気を拭き取ってから、新たな服と靴を履いた。
すでに朝日は昇りきって、絞った状態で数十分歩いていれば乾かないか? などと馬鹿な思考をしたが、面倒なので諦めた。
何をしていたかというと、御別川を泳いで渡っていたのだ。旅行カバンが防水性ということもあり、積み込めば銃や銃弾がぬれる心配はなかったのだが、念を入れてビニール袋にカバンを入れて泳いでいた。
一通りの後始末を終えて、俺は周りを警戒しながらパソコンで小室達の現在地を調べると、どうやら二丁目方面に向かっているようだ。
「移動が速い、車で移動してるのか…どこかで足を探さないと……」
周辺地図のデータを別ウィンドで開き、身近にある自動車店を探していると、一軒のバイク屋を見つけた。店名を見てある記憶が蘇ってきた。
「この店って…あ~、なるほどアイツが言ってた知り合いの店ってココだったのか……」
ある一人の部下が処分項目の中に入っていた新品同然の軍用バイクを知り合いのバイク屋に売ってほしいと要望があり、旧式のみならということで、その部下に預けたことがあった。無論、儲けた金額は全て軍に上納するはずだったのだが、一、二割その部下に金が行っているという情報があったのだが、証拠不十分でお咎めなしとなった。まぁ、処分項目を売却することはその一回きりだったが。
まぁそれはいいとして、この店なら走って五分位だし、小室達の方に向かうルートも組み易いということで、俺は軽くルートを決めて、まずはそのバイク屋に向かうことにした。
「さて、無事に合流してくれよ。みんな」
「ッ マガジンが! 誰かこれと同じ奴を後ろから取って!!」
「コータちゃん……」
「わんっ!」
停止したハンヴィーの上から平野コータがAR-10改を撃っていたコータだったが、装填していた銃弾と手持ちの弾倉がなくなったことで、車内の誰かに銃弾の切れた弾倉を見せながら同じ物を取ってくれと頼んだ。
その声に反応したのは、このメンバーで一番幼く、昨日助けた希里ありすという少女と犬のジークだった。
「これを!!」
「うん!」
ありすは弾倉を一瞥(いちべつ)すると、座席の後ろをジークと共に探し始めた。高城が助手席から弾倉を確認しようとしたが、ジークの吠えとありすの平野を呼ぶ声に両者とにもありすの方へと顔を向けた。
「コータちゃん! これ!」
「……」
両手に銃弾入りの弾倉を一つずつ持っているありすの腕はプルプルと震えており、それだけでも弾倉の重さで腕を上げるのが精いっぱいということが窺えた。その光景に、平野はどうしようもない憤りを覚えたが、今は自分を叱責している猶予はないと決めつけて、ありすから弾倉を受け取りAR‐10にセットする。そして、行き場のなかった憤りを目線と銃口の先にいる<奴ら>へと向ける。
「やっつけてやる……みんなやっつけてやる!!」
再びハンヴィーの上から銃声が轟き始めた。そして、車内の運転席では鞠川静香が何度もエンジンをかけていた。
「なんで!?エンストしてからエンジンがかからない!!」
苛立ちを声に出しながら尚もエンジンをかけようとするが、かかる気配は一向になかった。それを見かねた高城は助手席をたった。
「!? 高城さん何するつもり!?」
「小室の鉄砲拾って、あたしが使う!」
「あ、危ないわよ!」
「知ってるわ。先生」
それだけ答えると、高城はドアを開けてすぐにイサカM-37を手に取った。すぐさま立ち上がって後ろ手でドアを閉める。
「弾は足元に!! 使い方は分かりますか!?」
「あたしは天才なの!!」
足元のショットシェルを拾い集め、M-37に装填していく。そこで動けない宮本麗の身体に縛り付けてあるスプリングフィールドM1A1で<奴ら>を撃っていた小室孝が高城がM-37を持っていることに気が付く。
「高城!!」
「これからは名前で呼びなさいよ!!」
高城が顔を小室の方を向けた刹那、<奴ら>の一匹が高城に襲いかかろうとしたのを、毒島冴子が木刀の一線で頭を弾き飛ばして防いだ。だが、頭が弾き飛ばされた拍子に<奴ら>の体液が高城の身体に浴びせられた。吐き気が込み上げてくる悪臭を浴びせるも闘志は衰えず、しっかりと目を見開いて<奴ら>を見据える。
「あたしは臆病者じゃない。あたしは臆病者じゃない! あたしは臆病者じゃない!! 死ぬもんですか! 誰も死なせるもんですか!! あたしの家はすぐそこなのよ!!!」
恐らく、高城は自分の家に向かっている途中で仲間がこんな危険な状態に陥ったことへ責任を感じたのかもしれないと、その場に居合わせた全員が感じたのだった。そして、この絶望的な状況で誰もが諦め始めていた。
「よく言った!! 安心しろ!! ここにいる全員誰一人として俺が死なせん!!」