キチガイが行くクトゥルフ   作:名枕(ナマクラ)

7 / 10
今回のリプレイはルールブック付属のサンプルシナリオ『悪霊の家』こと『悪霊の館』です。


2.悪霊の館
悪霊の館-1


 時は1920年代。場所はアメリカ、アーカムシティ。

 

 アーカムシティの駅に列車が到着する。そこから降りてくる群衆に紛れるように下りてきたのは、一人の絶世の美幼女であった。

 

 

 彼女の名前はアリス・メガトロン。幼子のように見えるが、きちんと成人している少女である。

 

 

 アリスは両親からは大切に育てられ、アリスもその愛情を受けてまっすぐに育った。所謂箱入り娘という奴である。

 

 そんな彼女が実家を出てこのアーカムシティまでやってきた理由は、簡単に言えば社会体験のためであった。

 

 箱入り娘のように大切に育てられてきたアリスは、本を読む事が好きで、本に書かれた外の世界に憧れを持った。

 

 いずれは自身も誰かに嫁いで家族を支える立場となる事は理解していたし不満もない。しかしその前に外の世界を少しでも感じたいと思ったのだ。

 

 その想いを両親に打ち明け、相談をした結果、アリスは故郷から離れたこのアーカムシティで図書館の司書として勤めることになり、そのために汽車に乗ってここまでやってきたのだ。

 

 アリスは一人荷物を運びながら、まずは駅からアーカムシティでの住居へと向かう事にした。

 

 慣れない街を地図を片手に歩き回り、ようやくその家に着いた頃には、すでに日が沈み、辺りは暗くなっていた。

 

 ガス灯の明かりを頼りにたどり着いたアーカムシティでの家は、中心街から少し離れた場所にある少し古めかしい二階建ての一軒家であった。

 

 借家であるとは聞いていたが、一人で暮らすには大きいのではないかと、箱入り娘のアリスも思ったが、そこを気にしても仕方がないだろうと開き直って中へと足を踏み入れる。

 

 家の中は多少埃っぽいが、思ったほどに荒れておらず、少し時間をかければ一人でもきれいにできるように思えた。

 

「ふう……でも掃除とか明日にしても、いいかな」

 

 本当は今から部屋の確認や掃除をするべきだとわかってはいるものの、慣れない長旅のため疲れていたアリスはその家の探索・掃除を明日することに決め、二階の一室に備え付けられたベッドへと入り込み、心身ともに疲れていたためか、すぐに眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ……その夜、ふとアリスは目を覚ました。

 

 

 

 何か前触れがあったわけではない。しかし不思議と意識が覚醒し始めたのだ。

 

 寝惚けながらも薄く瞼を開いた自身のその視界に――――何本かのナイフが宙に浮かんでいるのが目に入ったのだ。

 

 

 

「え……っ!?」

 

 

 

 頭が状況を把握し切る前に身体が咄嗟にベッドから転げ落ちると、先程までいた場所にナイフが勢いよく付き刺さった。

 

 

 

「き、きゃああああああ!?」

 

 

 

 アリスは訳の分からない状況に思わず悲鳴を上げてしまうが、そんな事など関係ないとでも言うかのように、ベッドに突き刺さっていたナイフがひとりでに浮かび上がり、その刃先をアリスへと向けた。

 

「ひっ……!?」

 

 

 アリスは急いで扉を開けて部屋から飛び出る。背後から鋭い物が固い物に軽く刺さる音が響くが、それを気にするほどの余裕はなかった。

 

 背後から迫りくる殺意を感じながらアリスは階段を駆け下り、外へと繋がる扉を開けて家の外へと倒れ込むように飛び出した。

 

 アリスが外へ出ると、宙に浮かぶナイフは外まで追ってくることはなく、開きっぱなしになっていた扉が独りでに閉じて、先程までの静寂が戻ってきた。

 

 先程までの異常な現象がまるで夢であったかのようにも思えるが、しかしアリスの脳裏には先程の独りでに動いて此方を刺し殺そうとするナイフがこびりついており、この静寂すらもその異常な状況の一つのようにも感じられてしまった。

 

「な、なに……!? 何なの……!?」

 

 アリスは混乱していた。今起きた事は何なのか、この家には何か潜んでいるのか、今からどうするべきなのか……

 

 そんな中、ふと背後に誰かがいるような気がして……

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 アリスは背後を振り向いて――――

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 

 

 アーカムシティのとある公園、その一画にある林、その木の枝の上で一人の大柄な男が器用にも横になっていた。

 

 

 

 男の名はオシリスク・()・不審兵。かつては軍隊に所属していた元兵士であり、今はアーカムシティのホームレスの一人であった。

 

 

 

 枝の上で人目を避けるように身体を休めていた彼の耳が、微かに絹を裂くような悲鳴を聞き取った。

 

 彼の感性に間違えがなければ、その声は間違いなく幼い少女のものであった。

 

「――――」

 

 その声を聞きとった彼の行動は早かった。

 

 すぐさま周囲の状況を確認し、枝から飛び降りて地面へと降り立ち、悲鳴の聞こえた方角へと駆け出したのだ。

 

 人気のない通りを、目立たぬように、なおかつ全速力で走り抜ける。足音を完全に消す事は出来ていなかったが、それでもかつて軍の訓練で身に付けた技術は未だにオシリスクの身体に染み付いており、その動きに澱みはなかった。

 

 

 そしてついに、オシリスクの視界に一人の少女の姿を捉えた。

 

 

 それは、家の前で何かに怯えたように座り込んでいる幼い少女だった。その少女の可憐さは、オシリスクが今まで見てきた少女の中でも群を抜いているものであった。

 

 

 そんな少女へと近付いていく。周囲に人影は見当たらないが、もし人が見ていれば事案になりかねない光景だろう。何せ何かに怯えている絶世の美少女に一人の大柄な男が話しかけようとしているのだ。勘違いされかねない。

 

 彼はそう考えながら慎重に近づいていき、そして後ろから少女へ手を伸ばす。

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 オシリスクの伸ばした手が届く直前に少女――――アリスは後ろにいるオシリスクの存在に気付き振り向いたが、それよりも前に――――オシリスクの手刀(、、)がアリスの意識を刈り取った。

 

 

 

 オシリスクの一撃を受けて気を失った少女の身体は力を失って地面へと倒れ込んだ。その様子を冷静に観察していたオシリスクは、上手くいったとほくそ笑む。

 

 

 

 

 ――――オシリスク・()・不審兵。彼は夜な夜な街を見回り、夜道を彷徨う幼い少女を保護(拉致監禁)して可愛がる(殺害)する行為を幾度となく繰り返して、今アーカムシティを騒がしている幼女連続誘拐殺人犯(ロリコンのシリアルキラー)であった。

 

 

 

 

 少女の意識が完全に失われている事を確認したオシリスクは、人のいない間にこの場を早く離れるべく彼女を抱えようとしゃがみこみ――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――待ちな。そこのお前、何してやがる?」

 

 

 

 

 ――――背後からかけられたその言葉に動きを止めた。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 再び、時を少し遡る。

 

 

 夜のアーカムシティを一人で歩くガタイのいい青年の姿がそこにあった。

 

「まったく、所長(先生)も面倒な仕事を押し付けてくれるぜ。もっと楽な仕事にしてくれりゃいいものをよー……」

 

 彼の名前はヨセフ・ジョブスター。このアーカムシティを拠点にしている探偵事務所にて見習いとして勤めている青年である。

 

 今彼は探偵の先生でもある所長に任せられた仕事がようやく終わり、肩の荷が下りたかのような清々しい気持ちで岐路についているところだった。

 

 

 そんなヨセフの耳に、何か声のような音が入り込んでくる。

 

 

「……? 何か、声が聞こえたような……?」

 

 

 悲鳴のようにも聞こえたが、その確証が持てず、しかし無性にその声のような音が気になったヨセフは、その声が聞こえただろう方向へと進路を変えた。

 

「まっ、何もなければまた帰ればいいしなぁ」

 

 そんな軽い気持ちで歩みを進めていると、ヨセフの目に一つの光景が映しだされた。

 

 

 

 

 

 それは、一人の男が倒れた少女を抱えようとしている姿だった。

 

 

 

 

 

 その光景を見たヨセフは、気付けば考える前に行動に移していた。

 

 

 

「――――待ちな。そこのお前、何してやがる?」

 

 

 ……ヨセフ自身理解していた。状況だけみれば、このセリフを口にする場面ではないと。

 

 少女に意識がない様子ではあるが、この男がどうこうしたという証拠は何一つないのだ。故にまずかけるべき言葉は「どうした?」や「何かあったのか?」などの状況確認のための言葉であるべきだった。

 

 

 しかし、ヨセフの勘が強く訴えていた。この瞬間、まさに一人の少女の命運が左右される場面であると!

 

 

「…………」

 

 

 対する男――――オシリスクは内心舌打ちを付きたくなった。

 

 今まさに目的を果たせるという所での邪魔だ。不愉快になるのも仕方ないだろう。

 

 だが同時に今それをすべきではないという事もオシリスクは理解していた。

 

 何せ今オシリスクの体勢は悪い上に、相手に背後を取られている。この状況で襲い掛かられたなら、自身の不利になる事は明白であった。

 

 さらにヨセフの言葉から決定的な状況は見られていないものの、完全に怪しまれている事も理解していた。

 

 その証拠に少しでもオシリスクが体勢を整えようとすると……

 

 

「おっと、変に動くんじゃね~ぜ!」

 

 

 このように釘を刺してくる始末。決定的な何かがあればすぐにでもヨセフが攻撃してくるだろうことをオシリスクは察していた。

 

 

「さて、もう一回だけ聞くぜ? テメ~、何してやがる?」

 

 

 ヨセフとオシリスク、その両者の間の空気が張り積めていく。もはや対立は避けられないようにも思えた。

 

 どちらかが何か行動を起こせば、それを合図に戦闘に発展しかねない状況……そんな緊迫した状況の中で、先に行動を起こしたのはオシリスクであった。

 

 

 

「……何をしていると言われても、悲鳴が聞こえたので急いで駆けつけて倒れていた彼女を介抱しようとしていただけだが?」

 

 

 

 ――――意外! それは対話! 完全に怪しまれているこの状況でオシリスクが選んだのは、ヨセフを言いくるめる事であった。

 

 ヨセフから逃げる事が困難であるのなら、その逃げなければならないこの状況自体を変えてしまえばいい。まさに逆転の発想である。

 

 確かにこの状況、怪しまれる要素はあるものの、決して断定できるものではない。オシリスクの言い分を否定できる要因は何一つ存在しなかった。

 

 

 

「――――うるせぇ!! 信じられるか!!」

 

 

 

 ただし、それをヨセフが信じれば、の話である。

 

 

 

「臭うんだよ、プンプンと臭う! 探偵見習いの俺でもわかるね。テメェからはドブみてーな犯罪者のニオイがプンプンしやがる! テメーを逃がすなと、俺の勘が叫んでやがる!!」

 

 

 何を言っても無駄なようだ……オシリスクはそう思った。しかしそれを口にはしない。それを口にしてしまえば相手が攻撃を思い留まる理由がなくなるからだ。

 

 逆に言えば、ヨセフが断定できる決定的な何かがない限り、攻撃を抑制する事ができる、そうオシリスクは考えた。

 

 戦闘に入る前にせめて、この体勢から立ち上がるか、振り向いておきたい所であるが――――そう考えていたオシリスクだったが、しかしこのまま待っているだけでは状況が好転しない事も理解していた。

 

 であれば、この場から逃げ出して体勢を整えることが最善の選択だろう……普段のオシリスクならばそのように考えただろう。

 

 そのまま逃げるのもよし。追いかけてきた相手を叩きのめすのもよし。今取るべき最善はこれである。

 

 しかし、少女――――アリスの存在が、オシリスクにその選択を取る事を躊躇させていた。

 

 アリスの容姿は、最上の物であった。今まで犯してきた少女たちと比べても群を抜いて素晴らしかった。

 

 この少女を手放してしまう事、それがオシリスクの選択を鈍らせていた。

 

 

 しかし、オシリスクは選択した。多くの葛藤と欲望に苛まれながら、彼は一つの行動を選択した!

 

 

 

 

 なんと、オシリスクは気を失ったアリスを抱えて逃げ出したのだ!

 

 

 

「な、何ィ!?」

 

 

 

 これにはヨセフも驚きを隠せなかった。逃げるにしても荷物になるだろう少女を連れて行こうとするとは思わなかったのだ。

 

 しかし、オシリスクはそんな損得勘定よりも自身の欲望を優先した! この魔性とも思える美貌を持った幼き少女を己が物にしたい! そんな欲望を抑えることができなかった!

 

 

 しかし、それは自殺行為に等しかった。いくらオシリスクが軍隊出身で体力に自信があろうと、人一人を抱えて走れば当然その速度は落ちてしまう。

 

 そして、ヨセフもまた体力自慢の男であった。

 

 

 

「逃がすかよォ!!」

 

 

 

 逃げ出したオシリスクを追ってすぐさまヨセフは駆けだした。その速さはオシリスクの予想を超えていた。

 

 故に、すぐさま追いついたヨセフの繰り出した拳をオシリスクが躱す事は叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 拳の音が、そして倒れ込む音が、静寂な夜道に鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、連続少女誘拐殺人事件の犯人は捕縛される事となった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 数日後、アリスは駅にいた。

 

 

 連続少女殺人犯であるオシリスク・N・不審兵に連れ去られかけて心に傷を負った彼女は、アーカムシティを去ることにしたのだ。

 

 確かに彼女を襲った犯人は捕まった。しかし同じようにアリスを狙う犯罪者が他にもいるかもしれない。それがアリスの心を蝕んでいた。あるいは理性を保てる程度の傷であったことも要因かもしれない。

 

 とてもではないが恐怖に怯えながら頼れるもののいないこの町で独り暮らしていく事は出来ないと自身で判断したのだ。

 

 

「じゃあな。元気でな」

 

「はい、色々とありがとうございました……さようなら」

 

 

 汽車は走る。アリスを乗せてアーカムシティを離れていく。

 

 それを見送るヨセフもまた自らの波乱に満ちた日常へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

――――始めたかった悪霊の館  完――――

 

 




という事でCoCリプレイ『始めたかった悪霊の館』は完結です。
……うん、マジでこんな感じで終わったのです。なので続かないのです。

後日キャラの簡単な紹介と物語の裏側でのPLたちの簡単なやり取りを投稿させていただきます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。