キチガイが行くクトゥルフ   作:名枕(ナマクラ)

9 / 10
今回のシナリオは、bubudog様が作成・公開されています『アクセス』を使用させていただいております。


3.アクセス
アクセス-1


 とある昼下がり、杜或高校に通うナタリー・ランペイジは、学校の食堂にて友人である麻月加奈子とともに昼ごはんを食べながら雑談をしていた。

 

 ナタリーは目が見えない。耳も聞こえない。足も不自由な少女だ。

 普段から車椅子で行動し、目には『心眼』と書かれたアイマスクをしている、可憐な少女で、そんな彼女を溺愛している兄のロローシュ・ランペイジは普段からナタリーのサポートを率先して行なっており、そんな兄を妹ナタリーも好ましく思っている。

 ナタリーは耳が聞こえない。しかし会話が成立する。彼女は血の滲むような努力によってなんと、読唇術を身に付けたのだ。 ……あれ?目も見えないはずじゃ……

 

 今は昼食のサーモンのお造りを食べながら最近ロローシュにおねだりして買って貰ったマグロ養殖路について熱く語っていた。

「マグロ養殖路? それってどういうものなの?」

「止まったら死んでしまうマグロのためにジェット水流を人工的に起こす装置のことだよ。これに切れ味のいいマグロを入れたんだけど、物凄い勢いで流されてしまって……ふふ。あ、このマグロおいしい」

「ナタリーはマグロが好きなんだねー……あれ、マグロ?」

 そんなニッチな話題にも朗らかに対応しながら、お母さんお手製の弁当を食べ終えた加奈子は思い出したように鞄から和菓子の袋を取り出した。

 加奈子は食べる前に成分表を見ましたが、ため息を付きながらそれを開けることなく机の上に置いた。

「ナタリー、これよかったら食べる? これソバが入ってるから私食べられなくて……」

「これには蕎麦が入っていないから、交換してあげる」

 なら、とナタリーもデザートとして準備していたビチビチと動いているヒラメをまな板ごと加奈子に差し出した。

「う、うーん……遠慮しておくよ」

「残念……、おいしいマグロなのに」

 そう言ってナタリーはビチビチ動いているヒラメに加奈子からもらった饅頭を食わせる事にした。

「私アレルギーでソバ食べられないんだよ。昔蕎麦を食べて本当に死んじゃうと思ったらこともあるんだ。一応もしもの時のためにエピペンっていう薬も持ってるんだけど……というかデザート?」

 ナタリーの奇行に少し戸惑う加奈子にナタリーも答える。

「以前旅行にいった後、なぜかマグロ以外のものを体が受け付けなくなって。うっかり普通の食べ物を口にするとアレルギーで失神してしまうの」

 そうはにかむナタリーの後ろでロローシュが「マグロとマグロとマグロで、マグロが被ってしまったな……」と呟いている。

「ナタリーもアレルギー持ちなんだ。……あ、そうだ。ちょっとお願いがあるんだけど」

 と、加奈子はナタリーたちにある話を持ちかける。

「実はね、携帯代とかネット代が無料になるアンケートがあるんだけど、協力してくれないかな?」

 加奈子の話によると、携帯代やネット代が無料になるアンケートがあるらしい。無料の恩恵を得るためには自分が答えるだけではなく、友人を紹介してその友人にもアンケートに答えてもらう必要があるという。

 加奈子は自分も無料の恩恵を受けるためにアンケートに答えてくれる友人を探しているとのことだった。

 その話を聞いたナタリーは「良いですよ」と答えながら、デザートであるお饅頭ヒラメを飲み込む。

 腹の中がグルグルと音を立てている。

「ホント!?じゃあ……」

 と詳しい話をしようとしたときに休み時間が終わるチャイムがなった。

「あ、じゃあ続きは放課後で!」

「うん、じゃあ教室に戻りましょうか、お兄様」

 と言うことで一旦お開きとなった。

 

 そしてその日の放課後、ナタリーの席に加奈子がやってきて

「ごめん、さっきのアンケートのことだけど、やっぱりいいや。よく考えたら何か怪しいもんね。ごめんね、それじゃまた明日!」

 と笑って足早にさっさと帰ってしまった。

 ナタリーとしては昼休みのアンケートが気になっていたが、まあまた明日にでも聞けばいいかと思い見送る形となった。

 

 

 

 次の日、加奈子は学校を休んだ。翌日も、その翌日も、学校に来なかった。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 加奈子が3日連続で学校を休んだ日の放課後、教室にいたナタリーに担任の先生が声をかけた。

「ランペイジ、悪いけどプリントとかを麻月のところに届けてやってくれ。頼んだぞ」

 そうしてナタリーは加奈子宛のプリントを渡して去っていきました。

 何故足の不自由な私に……と思ったが、加奈子の事は気になっていたので別にいいか、と担任の横柄さを許すことにした。

 一度自宅に寄って見舞い品としてビチビチのマグロを持って行く事にしたナタリーは、ロローシュに車椅子を押して貰い、新鮮な魚介を手に持ってお見舞いにいく。

 ……お見舞いに意識を向けすぎたせいで頼まれたプリントはうっかり学校においたままだった。

 

 

 

 加奈子の家は学校から徒歩圏内にあり、ナタリーたちは散歩がてらに徒歩で――正確には車椅子をロローシュに押してもらう形で向かっていた。

 

 二人が加奈子の家に向かう途中、葬儀をしている家の前を通過する。

 ロローシュはそれが「石塚家」の葬儀だということ、また参列客がナタリーたちとは違う学校の制服を着た学生が多い事を見て判断できた。

 しかし目の見えないナタリーにはわからなかった。車椅子のスピードが変わった事に疑問を抱いたナタリーは兄に尋ねる。

「どうかしたお兄様?」

「……葬式だ」

「……! では、参列しましょう」

「……? ああ、わかった」

 ロローシュにはナタリーが参列しようと言い出した理由がわからなかった。しかし溺愛する妹の言う事だ。ならばその希望はできるだけ叶えてあげなくては……、そう考えた。

 

 一方ナタリーは、何故かこの葬式が加奈子のものであると早とちりをしてしまっていた。

 

 加奈子が休んでいた事、葬式が石塚家の物だと知れなかった事……理由は様々あるが、この葬式が加奈子の物であると思い込んでしまったが故に、ナタリーの中でこの葬式に参列する事は当然の事であった。

 

 しかしそれはあくまでナタリーの中での事だ。当然、葬儀の関係者には何ら関係のない事である。

「あの、どういったご関係の方ですか……?」

 参列しようとするナタリーは、当然の如く喪服を着た関係者に止められる。

 葬式が加奈子のものだとだと思い込むナタリーは「友達でした」と涙を流す。

 その際に思わず漏れた「加奈子、加奈子」という泣き言は関係者の耳に届いていた。

「加奈子……? もしかして、麻月加奈子ちゃんのこと? ……ふざけないでください! こっちは娘が死んだというのに、まるで加奈子ちゃんまで死んだみたいに……! 茶化しにきたのならもうここに来ないで!!」

 と激怒されて追い出されることになった。

 そこでようやくナタリーは気付いた。「あっ、これ加奈子の葬式じゃねーわ」と。

 加奈子の死が誤解とわかって「ならここに用はねぇ」と唾吐いて加奈子の家に向かう事にした。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 塩を撒く石塚家を背に、ナタリーたちは加奈子の家を目指して進んでいく。

 そして、目的地である麻月家が見えてくると、その玄関でなにやら揉めていた。玄関口でもみ合っているのは加奈子とその母親のようだった。

 それを見つけたナタリーは車椅子のスピードを速める。しかし急ぎ過ぎたためかバランスを崩して車椅子が横転してしまった。

 その間に加奈子の背後から追い縋る母親を、加奈子は容赦なく突飛ばし走り去ってしまった。その時の加奈子の表情は悪意にとりつかれたかのような形相をしていた。

 

 泣きながら加奈子に助けを求めたが、聞こえていたのかいなかったのか、ナタリーが倒れてロローシュがそれに対応してきる間に加奈子の姿はどこかに行ってしまった

 

 泣きたくなる気持ちを我慢してナタリーは地面に座り込んだ加奈子の母親に声を掛けることにした。

「救急箱……貸してください」

 思わず出た一言であった。倒れた時の怪我が痛かったのだ。

「え……あの、どちら様で……?」

 加奈子の母親はナタリーに対応しながらもその憔悴した様子を隠すこともできていなかった。目の下には隈ができており、手足にはどす黒い痣が散見された。

「加奈子の、友人で……届け物が……、ですがその前に……手当てを……」

 しかしナタリーは息も絶え絶えで、その母親の様子を気にする余裕はなかった。とりあえず加奈子の友達である事を明かして救急箱を貸してもらおうと思っての発言だった。

「加奈子の!? あの、加奈子の様子がおかしいんです! 3日前から人が変わってしまったようで、異常な食欲で何でも食べるようになって、少しでも口答えすると家の中で暴れて……う、ううううう……!」

 しかし加奈子の母親はそれだけ口にすると泣き崩れてしまった。彼女も娘である加奈子のことでいっぱいいっぱいのようだ。ナタリーの様子に注意を払えていない。

 仕方ないとはいえそんな扱いにナタリーも静かに泣き出した。ロローシュも泣き出した妹のために応急手当をしようとするが道具がないのでできずオロオロしていた。

 すこし泣いて落ち着いたのか、ナタリーは車椅子からウネウネと蠢く8本の触手の生物を取り出した。

「加奈子はマグロがどうしても欲しいと言っていたから……」

 冒涜的なヌメヌメとした肌を変幻自在に動かす、おおよそ骨らしいモノの見当たらない謎の生物が少女の手の中で上下している。

「加奈子はこれを、最近よく踊り食いしているの」

 ナタリーは静かに、泣きわめく母親を見つめてそう言うよ

「そして私も、これを踊り食いするのが大好きなの。加奈子がいないなら構わないよね……」

 そう言って、『見舞い品のマグロ』を踊り食いし始めた。

 その様子を見て少し落ち着いたロローシュは加奈子の母親に改めて声をかけ、落ち着かせることに成功した。

「す、すみません。取り乱してしまって……救急箱、いえよろしければ上がってください」

 ロローシュの言葉に落ち着いたもののナタリーの奇行にちょっと引き気味の加奈子の母親は、ひとまず二人を家の中に案内する事にした。

 

 ナタリーたちは加奈子母の案内で家にあげてもらうことになった。

 玄関に入った所でロローシュは運悪くあるものを見つけてしまう。

 

 

 それは引きちぎられた鳩の首であった。

 

 

「なっ……!?」

「どうしましたお兄様?」

「い、いやなんでもないよ」

 思わず声を上げたロローシュだが、妹のナタリーに気付かせてはいけないと誤魔化す。

 鳩の首を見つけたロローシュに対して加奈子の母親はこう説明した。

 ――――食事に満足できなかった加奈子が腹いせに公園で捕まえてきた鳩を生きたまま貪り食ったのだ、と。

 ロローシュは加奈子が自身の知る人間と大いに違っている事にゾッとしてしまった。

 その話を露とも知らないナタリーは生きた八本足の海産物を咀嚼していた。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 リビングに案内されたナタリーたちに加奈子の母親は救急箱を持ってきてくれた。

 手当を受けながらナタリーは加奈子の母親に質問をしてみることにした。

「加奈子が行きそうな場所とか、加奈子が変化する前によく話題にしてたこと、最近妙な付き合いは無かったか、教えてもらえませんか?」

「今の加奈子がどこに行ってるのかは私にもわからないの。夕御飯の時間には帰ってくるんだけどね……。変な話題も特にはしてなかったし、それに変な付き合いもなかったと思うわ。強いて言えば幼馴染みの子が訪ねてきたくらいかしら」

「幼馴染み、ですか? どういった人なんです?」

「えっと尚美ちゃん……石塚尚美ちゃんって言うんだけど、近所に住んでる幼馴染みで、昔から仲が良かったわ。今は違う高校に通ってて中々会う機会は減ってたみたいなんだけど……でも、その子数日前に亡くなって……あの子、尚美ちゃんのお葬式にも出ようとしなくて……」

 加奈子の母親は加奈子の変貌ぶりを思い出したのか、また少し涙を流しながら説明してくれた。

 その説明を聞いてナタリーは加奈子の変貌にその幼馴染の石塚尚美が関係していると考えた。

 また先程ひと悶着を起こした石塚家がその尚美の家で、あの葬式が尚美の葬式だったことにも気が付いた。

「尚美ちゃんのお葬式にもで出ないでどこかにいこうとしてたから呼び止めたけど……」

 調べようにも葬式に参列したせいで葬式場では動きづらい……そう思ったナタリーは加奈子母に石塚の高校名を確認する。そして、石塚の死因についても聞いておく。

 加奈子母は石塚尚美の高校の名前についてはまあ教えてくれたが、今は尚美の死亡の件もあるから学校関係者とかでもない限り取り合ってくれるかも怪しいと教えてくれた。

 しかし尚美の死因については難色を示している。

「加奈子の苦しみを少しでも理解してあげたい」

 ナタリーは親友アピールしつつ説得しようとするが、口からタコの触手を生やしながらでは説得力が足りなかった。

 それでも何かに縋りたいのか、加奈子母からお願いされる。

「こんなことをお願いするのはおかしいと思いますが、加奈子がおかしくなった理由を調べてもらえないでしょうか? なんとか元の加奈子に戻ってほしくて……」

「それを調べる為にも石塚尚美の死因の情報教えてほしい」

 その言葉に何を感じたのか、加奈子母は重い口を開いた。

 

「…………尚美ちゃんは、学校の屋上から飛び降りたの」

 

 石塚尚美の死因は学校の屋上からの飛び降り自殺だったらしい。詳しい事は加奈子母も知らないようだった。

 そして死因と関係があるかはわからないが、石塚尚美は一週間前に交通事故にも遭ってるそうだ。その時は運よくほぼ無傷の軽傷で済んでいて、入院した当日に退院してるが、加奈子がお見舞いに行くと悪態をつきながら追い返されたらしい。

 

 そこまで聞いたナタリーは、どうしたものかと考える。

 今の加奈子をナタリーたちは知らない。故に加奈子がどこにいったのか、予測すら立てられないのが現状である。

 試しに加奈子に電話してみるが、一向に出ない所か、どこからか携帯の着信音が聞こえてくる。どうやら可奈子は携帯を部屋に放置しているようだった。

 ……これは一度石塚尚美の事を調べた方がいいかもしれないと考えたナタリーは、加奈子母と連絡先を交換して一度家を出ることにした。

「何か分かったら連絡します」

「わかりました……私も何か思い出したら連絡しますね」

 あと可奈子の部屋を調べたいならそれも構わないと加奈子母は言ってくれたが、やめておいた。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 ナタリーたちは一先ず先程の葬式場に戻って、尚美の同級生であろう生徒たちに話を聞く事にした。

 先程のナタリーの行動から石塚家の親族に見つかると追い出される可能性もあったが、ナタリーたちは運よく石塚親族に見つかることなく生徒に接触できた。

「実は加奈子という、亡くなった石塚と仲の良い女生徒が行方をくらましたのだが、この葬式に来ていなかったか?」

「可奈子……? いや、知らないな。同じ学校以外だと誰が来てるのかわかんないから家族の人に聞いてみたら?」

 ナタリーの望む答えは返って来ない。どうやら彼らは可奈子が誰なのか自体知らないようだ。

「分かった、それは家族の方に聞こう」

 ナタリーはその返答に頷いて、続けて問い掛ける。

「これは石塚さんの同級生に聞きたいことなんだけど、最近加奈子は石塚さんとの関係性で悩んでいたらしい。石塚という生徒に何か亡くなる前に変わったことはなかったか?」

 しかし生徒たちは流石にナタリーを怪しみ始めたのか口を噤んでしまった。

 もしかしたら学校側で緘口令でも出されているのかもしれない。故人について詮索しているナタリーを不審に思ったのかもしれない。

 真相はわからないが、話を聞けないのでは仕方ないと、生徒たちと別れ、ダメ元で家族に同じ内容の話を聞きに行く事にした。

 

 しかし話を聞く前に門前払い、というか追い出されてしまった。当然塩も撒かれた。

 

 撒かれた塩を、もう一匹もっていたマグロ(軟体動物)に刷り込んで食しながらナタリーたちはその場を後にした。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 石塚家を後にしたナタリーたちは次はどうするかと頭を悩ましていると、携帯から着信音が鳴り響いた。相手は可奈子母だった。

『思い出した事があるんですけど……3日前に尚美ちゃんが家を訪ねてきたの。突然だったから娘にすぐ帰って来てもらったんだけど、その時の尚美ちゃんの様子が少しおかしかったの。洋服とかも汚れてて、年頃の女の子らしくない不潔さがあって……ちょっと心配になったから様子を伺ってたら、娘の部屋から大きな音がして、「殺される!」って娘の叫び声が上がったの。私、慌ててドアのノックしたんだけど、中から元気な声で「何でもない」って返事がきて……それでも心配だったからドアをあけたら娘の胸にナイフが刺さってたの。慌てて駆け寄ったんだけど、そのナイフは手品とかである押すと刃が引っ込む偽物で。尚美ちゃんは悪戯だったって笑ってた。加奈子も「死ぬほどビックリしただけだっつーの、バカ!」と大声で笑ってた。よく考えたら、娘の様子がおかしくなったのはそれからかもしれないわ』

「そのナイフは残ってますか?」

『ごめんなさい、ちょっとわからないわ』

 その時のナイフに関して、尚美が持って帰ったのか、可奈子が持ってるのか、加奈子母は知らないようだ。

 その話を聞いたナタリーは、この出来事があった三日前というのが可奈子からアンケートの話を出して撤回された日のことで、可奈子が急いで帰っていった理由が加奈子母に呼び戻されたからだということに気付いた。

 加奈子が今の加奈子になった事に石塚尚美が関わっているのは間違いなさそうだが、ナタリーはそこから先へ進めずにいた。

 もしかするとあの時話していたアンケートが関係しているのでは……そう考えたナタリーは加奈子母にその事を聞いてみるが、加奈子母はその事に関して知らないようだった。

 

 一先ず加奈子母との通話を切ったナタリーはネットで色々と調べてみることにした。

 

 まずはこの街近辺の事件……具体的に言えば石塚尚美の自殺やそれに類似したニュースなど無いか調べる。

 しかし特にこれといった事件は見つからない。石塚自殺もそれらしき噂話はあるもののニュースにはなってない。おそらく個人情報とか人権とかの関係であまり大事にはなってないのではないかと推測できる。

「でも石塚尚美のその時の環境はわからない……」

 次にナタリーは加奈子から聞いたアンケートについて調べてみることにした。

 断片的に聞いたwifiが無料になるだののキーワードでネットを調べてみると、そういう怪しい話がたくさん見つかったものの、どれも怪しい噂の域を越えておらず、詳しいことはわからなかった。

 気になった噂話の中には、掲示板やSNSでアンケートに答えたらネット代がタダになったという話題になっているものがあったが、「嘘乙」とか「ねずみ講じゃねーか」とか「明らかに詐欺です」みたいな批判とそれに対する反論の応酬の末に、結局は最終的に批判コメントを打ち破ることができず、ネタだの嘘だと結論付けられていた。

 ナタリーはよくそのやり取りを見てみると、実際にタダになったと主張する人たちは、否定派の意見に押し負けたというより、書き込みをやめてしまったのではないか、と感じた。

 意見として勝てないから黙るように消えたんじゃなくて、急に議論に興味がなくなったように感じた。

「……でもこれだけじゃ肝心のアンケートについてわからない」

 

 ならば石塚尚美の自殺も関係があるかもと、全国での自殺件数の推移を調べてみることにしたが、特に誤差の範囲でしか増減はしてない。

 

 ダメ元で知り合いのクラスメイト達に加奈子を見かけたら連絡をよこせとメールを流しつつ、付近で人だかりが出来ていないか捜索開始する。話に聞いた今の加奈子ならトラブルを起こしていてもおかしくはないと考えたからだ。

 

 しかし探索しても見つからなかった。クラスメイトへのメールも「加奈子休んでただろ」という返信はきても目撃情報はこない。

 

 色々と方策をとったナタリーだったが、完全に行き詰ってしまった。

 ……これは日が悪いのかもしれない、とナタリーは今日の所は探索を切り上げて帰る事にした。

 

 帰宅後、加奈子居なかったなぁ、明日には学校に来るかなぁ、とつぶやいてナタリーは眠りに落ちた。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 その夜中、ナタリーたちの携帯電話が鳴り響いた。

 

 ナタリーたちが携帯に目を向けると、特に操作はしていないにも関わらず着信音は消え、画面に映像が映し出された。

 画面は暗い闇に囚われた一人の少女を映し出している。

 ディスプレイに写し出された少女の悲鳴がスピーカーから大きく響いた。彼女は画面の向こう側で、近代的なユニットバスの洗い場に転がされていた。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

 彼女の全身は赤黒く焼けただれている。足元からは白い湯気がもうもうと立ち上がっていた。湯気の濃さは尋常ではない。まるで熱湯だ。それを頭から浴びせかけられ、また少女は絶叫した。

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」

 

 やがて、画面は違う場面へと切り替わる。長い髪を振り乱した女に、少女は殴られている。

 それは古い和室で、少女がどれだけ嫌がっても、のっぺらぼうの女に引き戻されて殴られた。両目は青梅のように腫れ上がり、前歯は折れ、裂けた唇には歯がのぞいている。ごつん、ごつん、と鈍い音を立てながら少女の肉体は変形していく。

 やがて断末魔の悲鳴とともに、通話はプツリと切れた。

 

 今の映像がどこで映されていたのか、何故自分の携帯に映されたのか、わからない。

 

 ただ一つ理解できたこと、それは可奈子がもう二度と戻ってこないことだけだ。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 温泉旅行に出掛けたあと、ありとあらゆる海産物を「マグロ」と表するようになってしまった盲目で耳の聞こえない妹。兄である自分だけでも、優しく接してやろうとそう決めていた。

 だがそんな妹の容態は、ある日を境に急変した。ガタガタと震えが止まらず、とうとう言葉をしゃべることすら出来なくなってしまったのだ。

 大好きだったスマートフォンを触ることすらしなくなり、無言のままに部屋の隅で怯えている。

 やがて学校にすら顔を出せなくなった妹を、どうにかして立ち直らせようと今日もカウンセラーを呼んでいるのだが……

 

「……」

 

 やはり、ナタリーの部屋が開く様子は無かった。

 

 

 







 ――BAD END――
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。