第1話 富士山と横浜と
2017年7月30日午前6時30分。私は
事の発端はある日、私が呟いた一言から始まった。
私は毎日、種火の周回をしては、
ようするに、気分転換がしたかったのだ。
気分転換に旅行はうってつけだ。しばしの間、カルデアのことを忘れて、存分に羽をのばそうと考えていた。
私は早速そのことをロマニに伝えに行った。
「ロマン居るー?」
「ああ、居るよ。何せ手が離せないほど忙しいからね」
壁際の机の上から、ロマニはゆっくりと顔を上げた。
「もしかして寝てた?」
「いや〜、徹夜しちゃってね…」
「そんなに仕事ありましたっけ?」
「失礼だな〜、まるで僕が何もやってないみたいじゃないか」
やってないことはないけど…、と私は思ったが口に出すのはやめた。
「で、用件はなんだい?」
ロマニは寝癖がついた頭を掻きながら私を見た。
「旅行に行くので、少しの間カルデアを留守にするということを伝えに来たんです」
「へぇ〜、旅行かぁ。どこに行くんだい?」
「それがまだ決まってなくて…」
「決まってないなら、
「じゃあ、そこ行ってきます」
「決めるの早くない!?」
そう、私は決めるのがとても早い。おかげで戦闘中とかは何かとスムーズに進むわけだが。
「そういえば、1人で行くのかい?」
ロマニが私にそう尋ねた。
「ええ、今のところは」
「たまにはマシュと2人で行ってきなよ。マシュ、最近リフレッシュできてないみたいでね。昨日も夜中に寝れないとかで睡眠薬を貰いに来たから」
「じゃあ、あとで誘ってみます」
「うん、行っておいで。他の人たちには僕から伝えておくから。お土産よろしくね〜」
「ありがとう、ロマン」
このあとマシュを誘ったら、「いいんですか!?」と目を輝かせながら誘いにのってくれた。
※※※
そして今に至る。
「先輩、私を誘ったくださってありがとうございます」
「お礼なんかいいよ。たまには私もマシュと2人きりで過ごしていたいし」
私がそう言うと、マシュは頬を赤らめた。
可愛いなぁ、マシュは純粋で。
「先輩。私、生まれて初めて新幹線なるものを乗るんです。楽しみです。先輩は乗ったことあるんですか?」
「あるよー。マシュは知らないかな?東京の隣には夢の国があるんだよ」
「夢の国…、ですか?」
「うん、そこに行くときに乗ったかな。また今度連れてってあげるね」
私の言葉に反応してくれるマシュは本当に可愛い。私の横で子供のようにはしゃいでいる。
しばらくして放送が流れると、16両編成の列車がホームに入線してきた。6時41分発 のぞみ268号東京行きだ。白い車体に青のラインが映える。
ホームドアが開くと、私たちは7号車から乗り込んだ。
※※※
「先輩、あれ見てください、あれ。
私は、マシュの元気な声で起こされた。寝ていたのか。どこから寝ていたのかは知らない。やっぱ朝早くは苦手だなぁ。
「ほら、富士山ですよ。とってもキレイに見えます」
窓の外を見ると、大きな山が堂々とすわっていた。雲ひとつない空に向かって頂きをのばすその山の姿は、初めて見た。季節はもう夏なので山頂の雪は溶けていた。
この立派な姿を見ると、
新幹線は7時58分に
私たちはこの駅で降りると、乗り換え改札を通り、JR横浜線に乗った。今思えば、新横浜駅は乗り換え以外に使ったことがない。
「そういえば、今からどこに行くんですか、先輩?」
「
私の答えを聞いて、マシュはキョトンとしている。ああ、そうか。マシュは日本のことはあまり知らなかったか。
「横須賀はね、海軍のまちなんだよ」
「海軍…、ですか?」
「うん」
「あの…、ドレイクさんとか、いませんよね?」
「マシュ、ドレイクは海賊。横須賀にいるのは海軍。役割が違う」
マシュは気づいたのか、頬を赤らめた。
「そうですよね!私うっかりしてました。まさか極東の国のヨコスカというまちが野蛮なところだったら、先輩は行かないですもんね」
先輩は、ということは、誰かそんな野蛮なところに連れて行く奴が思い当たるのか?マシュの言動は偶に意味深だ。
横浜線のホームに降りると、ちょうど乗る列車がやってきた。
ラッシュ時間帯にも重なって、車内はごった返していた。
「マシュ、乗れる?」
「はい、なんとか…」
私とマシュはお尻でグイグイ押し、なんとか扉が閉まるまで車内に入った。
列車はゆっくりと動き出した。
途中、
列車の終点、東神奈川駅に着くと、ホームは人で溢れかえった。もともとホームが狭いためか、向かい側に停まっている列車に乗り換えることすら困難だった。
やっとの思いで列車に乗ると、後ろでドアが閉まる音がした。
『次は、横浜。横浜です』
車内放送がそう告げた。
よかった。間違えずに乗れたようだ。
実は、東神奈川駅は初見殺しの罠が仕掛けられていることがある。
東神奈川行きの列車のほとんどは、横浜方面の
しかし、一部の列車は違うホームに入るときがある。その場合、到着した横浜線の向かい側のホームに停まっているのは、
私は、はじめて1人で横浜に行ったときに、嵌められた。
ドアが開くと、そこは都会の空気で満たされていた。
横浜駅に着くと、目的を達成したような感覚に襲われるが、あくまでも目的地は横須賀だ。ここからさらに南下する。
階段を降りて、一旦改札を出た。そして、
横浜駅には、日本でも珍しい6社もの鉄道会社が乗り入れている。
JR東日本、京浜急行、
京浜急行の改札口は、JRの改札口からそんなに離れてないので、極度の方向音痴でもなければ迷うこともないだろう。
改札口を抜けてホームに上がると、やはりそこは人でいっぱいだった。
京浜急行の横浜駅は路線内屈指のターミナルだが、ホームは2面2線しかない。1日に何万人と利用する駅としては規模が小さすぎるのだ。しかし、ここで全ての列車を捌ききるという。
列車が入線してきた。普通・
普通列車が発車してすぐに、私たちが乗る列車、快特・
2扉の車両は座席が全て2人掛け、クロスシートの豪華仕様だ。これが特別料金無しで乗れるのはありがたい。
横浜で、
「これで横須賀に行くのですか?」
マシュが私に聞いた。
「そうだよ。あっという間に着いちゃうからね」
間もなくドアが閉まった。そして、列車は横須賀へ向けて走り出した。
どうも作者の魂魄せんむです。
久しぶりに旅の小説を書いてみました。理由は前まで連載していた小説が煮詰まってしまったからです。またそっちの方は追々復活させようと思います。とりあえず、筆休めということで。
また次回もお楽しみに!