ぐだ子のぐだぐだ旅   作:魂魄せんむ

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 この作品には、近鉄沿線市町村に対する作者の偏見が多数盛り込まれておりますが、悪意は全くもってございませんので、ご了承ください。


第5話 田原本線と大和八木

 御所駅から再びJR和歌山線に乗り、王寺(おうじ)駅を目指した。夕暮れの陽が車内に入ってくる。普通列車だから各駅に停車するのだが、焼畑が盛んに行われているせいか、車内が煙たい。しかし、他の乗客たちは慣れているのか、咳の1つもしない。

 揺られること約20分。王寺駅に到着した。もう太陽も沈んでいる。関西線との乗り換えもあり、駅は大きい。

 改札を出ると、私はもうひとつの王寺駅、新王寺(しんおうじ)駅を探した。近鉄には2つの王寺駅が存在する。生駒(いこま)線の王寺駅と田原本(たわらもと)線の新王寺駅である。場所はほとんど変わらないものの、改札と駅舎は別になっていて、別もの扱いされている。JR王寺駅からは2つとも一緒ぐらいの距離だ。

 しかし、私は新王寺駅を見つけられないでいた。王寺駅はあったものの、なぜか見つからない。

 「おかしいな」と、首を傾げつつ、JR王寺駅から通路が続く商業施設に入った。すると、意外なものを見つけてしまった。

「なんで…、こんなところにスーちゃんが…?」

 名古屋人なら誰もが知ってる。スーちゃんとは、名古屋のソウルフード、「スガキヤ」のマスコットキャラクターだ。愛知、岐阜、三重と台湾ぐらいでならよく見かけるが、まさか奈良で出会うとは、私も思っていなかった。あの独特な魚介豚骨スープがクセになるラーメンが恋しい。

「食べたいけど…、またねっ!」

 独り言を呟きながら、私はダッシュで階段を下りた。列車の発車時刻は、刻一刻と近づいていた。

 

 やっと駅を見つけたときには、もう発車ベルが鳴っていた。仕方なく1本を見送り、私は次の列車を待つことにした。駆け込み乗車は危ないからね、やめようね。

 列車が行ってしまった後のホームは、どこか寂しげだった。駅員の靴音だけがホームに響く。寂しげな雰囲気だったのは、この駅だけではなかったが、日が暮れていたせいか一段と、しんとしていた。

 列車がやってくると、また賑やかになる。西田原本(にしたわらもと)行きの普通列車。

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学校帰りの学生たちの姿が車内には目立つ。私は空いている、今日見慣れた赤いロングシートに腰を下ろした。窓から見える外の景色は、黒一色だった。

 発車すると、列車はカーブを描く。田原本線はところどころに小さなカーブが多い。列車は今まで以上に左右に揺れながらゴトゴトと進んでいく。ワンマンなので、車掌の車内巡回もない。

 終点の西田原本駅に着くと、気温はぐっと下がっていた。薄着なので、肌寒く感じる。

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 さて、私は橿原(かしはら)線の田原本駅まで歩かなければならない。駅までは相当距離があるのかな?とかいう心配は無用だった。ロータリーを挟んですぐのところに灯りが見える。大きさからみて、一軒家ではなさそうだ。近づいていくと、次第に輪郭がハッキリしてきて、その建物が駅であることがようやくわかった。西田原本駅からわずか徒歩2分足らずである。

 近すぎる!駅を分ける必要があるのか?王寺駅と新王寺駅もそうだが、そういうところが近鉄の不可解な点だと私は思った。まあ、そういうのがあるから鉄道は面白いのだが。

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 田原本駅から橿原神宮前行きの急行に乗った私は空腹だった。昼から水さえも飲んでおらず、これが夏だったら倒れていただろう。

 時間ももう18時を過ぎていたので、あとは帰るだけなのだが、なにぶん計画をそこまで緻密に立てていた訳ではない。夕食まで考えてなかった。

 無計画のまま、乗り換え駅である大和八木(やまとやぎ)に到着した。

 せっかくなので、フリーきっぷの特権を活かし改札外に出てみる。

 どこか飲食店があればいいと思っていた。しかし、それが裏目に出た。

 女子が1人が入れるような店が無い。居酒屋はよく見かけるが、ファーストフード店のようなところは見つからない。ミスタードーナツはあったが、夕食に甘いスイーツはやめておこう。最近体重が増えたので、甘いものは極力控えるようにしている。

 唯一見つけたのは、喫茶店だった。駅の1階、バスターミナルに面して店を構えている。店に入ると、煙草(たばこ)珈琲(コーヒー)の香りがする。狭い店内には、店員と談笑する常連客らしき人の姿があり、雰囲気は明るかった。

「空いてる席どーぞ」

 私に気づいた店員はそう言うと、いそいそと厨房に向かった。

 厨房からほど近い席に座ると、先程の店員が水の入ったコップと水差し、メニューを持ってきた。私より少し背が高い女性で、どこがとは言わないが、私より大きい。無意味にも湧き上がる憤りと無力さを圧し殺しつつ、メニューを受け取り、開いて眺める。まあ、私も無い訳ではないんですけどぉ?「無い」とか言ったら他の人たちに殺されかねないぐらいはありますけどぉ?

 ハンバーグステーキとナポリタンで迷った挙句、結局は焼飯を注文した。

 しばらくすると、他の客は勘定を済ませて出ていってしまったので、店内には厨房にいる店員2人と私の3人だけになっていた。

 厨房からは炒め物を作っているときのジュワァァァーという音と、野菜を塩コショウで炒めているときの独特な香りが、余計に空腹を刺激する。

 出された焼飯はできたてで、ボリュームがあり、ホカホカと湯気がたっている。

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口の中が火傷するのを覚悟で、スプーンで焼飯を掻き込む。口の中に野菜の旨味と塩コショウで味付けされたごはんの風味が広がる。具材は至ってシンプルだが、塩コショウで味付けされた素朴な味が、どこか懐かしい。熱さも忘れて、一心不乱に焼飯を掻き込んだ。

 美味い、美味すぎるっ!まさに隠れた名店だ。

 あっという間に食べ終わってしまった。水を1杯飲み、口を紙ナプキンで拭くと、私は席を立ち、会計に向かった。

「600円になります」

 私はマシュの顔を形どった小銭入れから100円硬貨を6枚出した。

「その小銭入れ、かわいいですね」

 店員が私の小銭入れに気づいた。

「私の大切な人が作ってくれたんです」

「じゃあ、宝物ですね」

 ニッコリと笑って話してくれる店員のお姉さんは、とても美人だった。

「ごちそうさまでしたっ!」

 私も知らずしらずのうちに、笑顔になっていた。

 

 大和八木から再び近鉄に乗車する。19時過ぎの快速急行 五十鈴川(いすずがわ)行きだ。2人掛けシートの8両編成で、伊勢中川まではたっぷりと時間がある。車内は空席が無いほど混雑していた。しかし、混雑していたのは途中の赤目口(あかめぐち)までで、それ以降は乗ってくる人はおらず、また降りる人もほとんどいなかった。

 長い長い青山のトンネルを抜け、林の中をズンズン進めば、伊勢中川である。

 伊勢中川では、多くの人が列車から降りた。私も、その人々に混じって下車した。降りたホームの向かい側には、名古屋行きの急行が停車していた。しかし、私はあえて別の列車に乗ることにした。

 1日頑張った私へのご褒美に…。急行の後から来る特急のきっぷをホーム上にある自動券売機で買った。

 伊勢志摩(いせしま)ライナーやアーバンライナーではないが、ゆったりとリクライニングシートの特急で帰りたかった。

 列車が来るまではしばしの時間がある。ホームのベンチに座り、私は待った。11月の伊勢中川は、名古屋よりも気温が低く感じられた。薄着で出かけたことを、ほんの少し後悔している。

 しかし、伊勢中川という駅は夜でも賑やかだ。都会というほど栄えている訳ではないが、列車がやってくる頻度は、今日見てきたどの奈良の駅よりも多い。行ってしまったと思ったら、またすぐにやってくる。

 何本も何本も列車が行き交うのを見ているうちに、私が乗る予定の特急がやってきた。

 車体更新工事がされていない、昔ながらの近鉄特急だ。折りたたみ式の扉が開き、乗車する。

 始発駅は鳥羽のはずだが、私の乗る1号車は誰1人乗っていなかった。

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この駅から乗ったのも、1号車は私だけである。こんな特急は初めてだ。まるで貸切のよう。

 列車は動き出した。ポイントを抜け、名古屋線に入っていく。

 津は思っていたよりも、伊勢中川からずっと近い。津からは1号車に2人が乗車した。

 その後も特急は白子、四日市、桑名と停車していく。しかし、津から以外には乗客は乗ってこなかった。

 

 名古屋に近づいてきた。見慣れたスーパーのサイン看板が真っ暗闇のまちなかを照らしている。地下に入れば、もう終点だ。

 終着放送が流れ、駅に着く。扉が開けば、もうそこは私がよく知っているまちである。

「ただいま、名古屋」

 私は誰にも聞こえないような声で、ボソリと呟いた。




 どうも、作者の魂魄せんむです。
 奈良の南編、ついに完結しました!しかし、物語自体は終わってませんよ。奈良の北編と伊勢編がありますからね。
 引き続き、お楽しみください!では、また。
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