ターレルです。
「ターニャ」
名を呼ばれて目が覚めた。
自分の官舎では無い。眠っていたのは大きくて柔らかいベッドの上。
「おはよう。よく眠れたかね?」
隣には紺の髪色の男。
私に声をかけた後メガネを探している。
ベッドの脇の鏡台にあるのを見つけて、それを渡す。
「ああ、ありがとう。」
きっちりとして真面目な性格の彼も、朝では髪型も崩れてしまっている。
普段とのギャップに少し可笑しくなってしまい、「ふふっ」と笑い、髪を弄った。
ようやく貰えた休暇にこの男、エーリッヒ・フォン・レルゲンの屋敷に泊まり込んだ。
帝都ベルンの中心部からそう遠く無い場所に
居を構えているというだけでその身分の高さが分かってしまう。
「おはようターニャ。、、どこか体に違和感などは無いだろうか?」
上半身が裸のままで体を起こし、真面目に心配そうな顔で聞いてくる彼。
そういえば、脚の間がヒリヒリする。
下腹部も何だか重い。
ああ、、、、
思い出した。
昨夜、2人はようやく結ばれたのだ。
身体に関しては気にするほどでは無いので
「特には。おはようございます。エーリッヒ」
心配をさせない様にそう答えた。
私達は2人でいる時は名前で呼び合っていた。
………
隣で寝ている、金髪の幼女。
私は彼女をようやく手に入れる事が出来たのだ。愛しいターニャ。
思えば彼女との出会いは最悪であった。
外見は幼女、中身は完璧な軍人。
私は暫くそのギャップについていけなかった。
彼女のお守りを命令された時は貧乏くじを引いたものだと思ったのだが、
いつからか彼女の騎士になった気分になっていった。その高潔さを守るために、側にいる事が誇らしかった。
彼女の大隊の部下達は恐らくこんな気分で彼女の側で戦っているだろう。
「ターニャ」と声をかけると彼女が目を覚ました。私が眼鏡を探していると渡してくれる。
何が面白いのか少し笑って、私の髪を弄った。
とうとう昨晩してしまった行為に後悔は無かったが、私が犯したまだ小さなその身体の心配をした。
だが、平気な様に答えたので安心をした。
おはようのキスをして服を着替えさせるが、着ていたネグリジェとほぼ変わらないシンプルなワンピースを選んだ。
彼女は部下に貰ったというサイズの合わないネグリジェと軍服以外ロクな衣服を所持していなかったので急いで幾つか用意をしたのだが、着ないのであれば余り意味はなかった。
私も軍服に着替えが終わると部屋に朝食が運ばれてきた。
「こんなに食べられません。珈琲だけで大丈夫なのですが。」
彼女は普段から少食過ぎる。正直その体躯は痩せ過ぎではなかろうか。
「食べなさい。君は成長期だろう。食べたら珈琲を淹れよう。」
私が言えば少しは口に運ぶのだが、よくこれで戦場を駆け回っていられるものだ。
「私は仕事があるので参謀本部だ。何かあったらそこに。夕食までには帰る予定だ。昼間は好きにしていて構わない。」
「わかりました。」
珈琲を飲みながら会話を交わす。
正直1人にするには昨日の今日でもあるし、何よりせっかくの彼女の休暇を2人で過ごせないのに気が引けるが仕方ない。
彼女を置いて屋敷を出た。
……………
食器類が片付けられて、部屋に1人。
エーリッヒがいないので暇になってしまった。
暫くは本を読んでいたが、結局、軍服に着替え屋敷の外に出た。マガジンスタンドで新聞を購入し、いつものゾルカ食堂へと向かう事にした。
いつもの珈琲を飲みながら考える。
エーリッヒは優しいが、
私が軍人である事があまり好きでは無い気がする。守られ過ぎるのだ。まるでそこから私が逃げ出さないように。
私は守られるより、守りたい。彼の役に立ちたい。私にはその力もあるのだ。宝珠を触りながら彼を思う。
そもそも私は男なのだ。なのに彼の側にいたい。矛盾しているのはわかっている。
1人でいると冷静になれるのに、、、。
新聞を開いていたが頭に入らず、彼の事ばかりを考えていた。
……………
今日は仕事中に上官に上の空だと言われてしまった。この私とした事が、、、
帰路につき、煙草を咥えながら以前の記憶を蘇らせていた。
いつかの参謀本部での軍議の時であった。
ようやく解散という時には既に周りは真っ暗になっていた。
女性を1人で帰す訳にもいかず私の迎えの車で送っていこうと乗せたのだが、そのまま屋敷に連れ込んでしまった。
その夜、特に何かをした訳ではないのだ。
ただ、闇夜の月の光でその肌は透けて、私を見つめる碧眼は澄んでいた。
「私はあなたのお役に立てていますでしょうか?」
私にそんな事を問いかけた。
彼女が私の事を想っていた事を知った。私だけでなく彼女を私も欲しかったのだ。
私達は恋人として過ごす様になった。
だがしかし、
彼女は体も小さく、私の身勝手で乱暴に扱えば壊れてしまいそうで怖かった。彼女の成長を大切に待つ事にした。そう誓ったのだ。
互いに名前で呼ぶようになり2人の仲が進み、彼女に大人のキスや、体を触れられる喜びを教えてしまっても一線は越えなかったのだ。
だが、今回の彼女の久しぶりの帰都で、
もうお互い我慢が出来なかった。
彼女は私を求め、私は彼女を求めた。
……………
「お帰りなさい。エーリッヒ」
ターニャが本を読みながら部屋で待っていた。
椅子から立ち上がり、軍服を脱ぐのを手伝おうとして、彼女はつま先立ちでぷるぷるしている。
仕事中でもよく見る光景だがつい可笑しくて笑ってしまう。
ターニャがムッとした。
彼女は屋敷では基本この部屋にしかいない。
自由にして良いとは言っているのだが
気を使わせてしまっているのだろうか?
食事も専らこの部屋で2人でとる。
「街で流行りのお菓子を買ってきた。ターニャに食べて欲しくてね。」
「私を太らせたいのですか?」
1人にさせていたのでちょっとしたお詫びのつもりだったのだが、、、
確かにもう少し肉づきは良い方が触り心地も良いものになるのだろうかと、余計な事を考えてしまう。まあ、言えば怒るだろう。
「1人にしていたお詫びだ。」素直に言えば、
「ならば、いただきます。」素直に応えるのだ。彼女の扱いにも慣れてきた。
食後に珈琲を淹れ、ゆっくりと過ごす。
「なんですか?」
彼女を見ていた。
「いや、君の口にあったかな?」
「ええ!もちろん。こちらでいただける珈琲はいつも美味しいです。勿論お菓子も。」
笑み浮かべる。彼女が喜べば私も嬉しい。
「今日は1日何をしていた?」素朴な疑問だ。
「いつものゾルカ食堂でお茶をしていました。」
「それだけか?」「ええ。」
年頃の娘だと言うのに。
しかも軍服で出かけたのであろう。
見慣れない新聞。恐らく珈琲を飲んで読んでいた物だ。少し呆れてしまう。
「貴方といられればそれで。」十分です。と彼女は言う。
彼女の愛は献身的だ。何がそうさせるのか。
幼い頃より軍人として生きてきてそれしか知らないからだろうか?いつも自分の居場所を欲しがっている。
「心配は要らない。私は君の側にいる。」
彼女を安心させる為のセリフであったが、本当は逆だ。私が離れたくないのだ。その為の言葉。
彼女をこの部屋にずっと閉じ込めてしまいたい。私の側からいなくならない様に。
「エーリッヒ」名前を呼ばれる。
「私が貴方を守ります。」
私は銃を持って先頭で戦う部類の軍人ではない。確かに私は彼女の様にはなれない。
だが、「それは私の役目だ。守られる為に側にいたいと思った訳ではない」
「私も同じでなのです。」
ああ、そうなのか。同じなのだ。
お互いを思う気持ちがお互いに溢れ過ぎている。
次はいつ会えるかわからない。彼女は戦場へ戻る。彼女を失うのが怖い。
「必ず生きて貴方のもとに帰ります。」
その気持ちを悟ったのか、真っ直ぐに私を見つめ、その目は強い意志で私に伝える。
「そうだな」私は彼女を信じて待つしかない。
彼女の頰に手で触れる。
その肌はとても柔らかい
そのまま顎に手をやり顔を上を向かせ唇を
重ねる。
「愛している。ターニャ」
「私もです。エーリッヒ」
言葉で伝える事は大事だ。私と彼女で誓いを交わすのだ。
彼女を抱き抱えベッドへ連れて行く。
「明日は2人で何処かへ出かけよう。」
「そうですね。貴方となら何処へでも。」
明日の約束をし、今日も夜を迎える。
2度目の契りは優しく、2人で食べた菓子のように甘かった。