微妙な長さになってしまったので
こちらで初出です。
いちゃついているだけです。
クリスマスが近づいて、イルミネーションや飾り付けには彩られてはいなかった。
日本が異常なのだ、あれはただのイベント。帝都の神の子らは戦場にいる家族を思い、帰りを待つ者たちが祈りを捧げていた。
私はいつもの様に教会で存在Xへの恨みを込めて祈っていた。
そして先程の事も、くどくどと心の中で叫んでいた。気持ちの持って行き場が無く、こんな所で祈るなど私としては大いに不本意でしか無い。
礼拝堂ではクリスマスのミサの為に子供達が劇や聖歌の練習をしていた。
懐かしい。神とやらの為に祈った事などないが、育った孤児院が教会預かりだったのであそこにいた歳までやらされた。聖母役など何の因果か。
私は現実逃避の為に思い出に耽っていた。
「熱心だな、、。君なら教会だと思った。」
現実に引き戻したのは覚えのある声。私はその聞こえて来た方向には目線を合わせなかった。
「わざわざ追いかけてきたのですか?」
「そうだ」
彼はあっさりとそんな返事を返してきた。
「外に出ましょう、、」
静かな礼拝堂。人の目線が自分達に向けられていた。私は溜息をひとつついて、彼を外へ促した。
「何をしに来たのですか?エーリッヒ。」
会う時間すらも惜しい位に仕事漬けになっているのはお互い様。会えない事は辛いが祖国の為を思えばそれも我慢できた。
それでも。今回ばかりは違う。
「何だったのですか?さっきのあれは!」
「言い訳位して欲しかったです!」
「ターニャ、だから追いかけて来た。」
そのいつも真面目で隙が無さそうに見える態度も、今は私の神経を逆なでしている。
「ほう、では、詫びの一つでもしてくれるのでしょうね、、」
私は普段彼には見せない、戦場で敵を撃つ時にする表情に変えた。
この今の態度で、私から引いたのなら彼とはもう終わりだな。とも思いながら。
「済まない」
頭を下げる彼。
「最高の珈琲を用意しよう。今日は私が夕食を奢る。勿論何処か良い所で。デザートも付けよう」
私の扱いを彼は知っている。だがこれで許してしまったら、私は食べ物に釣られた子供みたいでは無いか。
「それだけですか?」
むっ!と黙る。
たまには少し我儘でもいいだろう。
エーリッヒが悪いのだから。
周りを少し見渡すと彼は私を抱き寄せた。
「本当に済まなかったターニャ」
そう言い私にキスをした。
狡いです。結局いつも私が貴方を許して終わるのだから。
「約束、、、して下さい」
「ああ。」
「きちんと守って下さい!」
「ああ。」
「君には敵わない、、」
私だって、貴方には敵わない。
「クリスマスの約束は必ず守る、、、 。
「約束、、ですよ。」
「ああ」
私の怒りの熱がようやく冷めたのを確認すると、彼はほっと息をついた。
「まずは、一つ目の約束を果たさないとならないな。」
彼はそう言い、体を離し私の手を取る。
「ターニャ。私と食事を一緒にして欲しい。」
「エーリッヒ、容赦はしませんよ。」
ニヤリと笑う私。
参ったとばかりに表情を変えた。
「存分に。」
食事の会計の時に青い顔になったエーリッヒを見て私はようやく彼を許した。