甘いターレルです。
夫婦ネタとなります。
仕事が終わったのは、既に夜半も過ぎていた。帰り支度をして帰宅という時、ふと彼女の執務室に寄って見た。その部屋の灯りは落ちてはおらず、まだそこにいる事が分かった。
私はやれやれと部屋のドアをノックしたが、返事はなかったので、勝手に開けて入室をした。そっと扉を開けると、小さな明かりのみを灯して机に向かっていた彼女。
集中をしているせいか私の気配にも気づいていない様だった。
もう一度扉をコツコツと手の甲で叩いてみるとようやくその顔を上げ、
「ああ、エーリッヒ」
と私の名を呼び笑った。
「私より遅くまでいるとはね。」
呆れた様に言葉を吐くと、
「貴方の所為ですよ」と返されてしまった。
確かに昼間、新たな命令を彼女に伝えたばかりであった。
その為にこんな時間まで仕事をしているのだと彼女はその表情のみで私に訴えた。
「ターニャ。いい加減に帰るとしよう。」
彼女の副官や部下達は概ね帰宅した様で、ここはとても静かだった。
正直、過去私1人なら帰るのも面倒で参謀本部に連泊していた頃も多々あったのだ。
しかし、彼女と夫婦になってからは必ず帰宅をするようにしていた。なにせ一緒に居られる時間が限られている。
仕事中は仕方ないにしても、夜くらいは2人で過ごしたいと思っていた。
それを彼女も分かっていてくれてる様なのだが、今日ばかりはまだ片付けないと行かない仕事が残っている様だった。
「中間管理職なのだ。私も命令をされているだけだよ。」
「知っていますよ。エーリッヒ。もう間も無く終わります。そこで待っていらっしゃるつもりなら、珈琲の1杯位淹れてきて下さると嬉しいのですが。」
そう言い、空になっていたのカップを私に見せた。上官を顎で使うのかと思いつつも、
「分かったよ。ターニャ。」
着ていたコートと軍帽を脱ぎ、彼女に言われままにした。
彼女は大の珈琲愛好家だ。ただ、最近はカップはその小さな手の1つに持たれたままである。流石に飲み過ぎでは無いかと心配になっているのだ。カフェインは彼女の、女性の体に良くはないだろう。私達は夫婦なのだ、これからの事を考えると……。
…と、とても恥ずかしくなってのでそこで私の思考は停止していた。
カップを2つ用意して私もご相伴に預かった。机に置くと、「ありがとうございますと」私の顔を見ずに礼を返した。
私は特にこだわりは無いのだが、味にうるさい彼女の為に淹れるのもにも慣れてきた様で、我ながら美味しいと思った。
カリカリと滑るように右手で紙にペンを走らせ、左手でカップを口に運んでいた。私は待っている間にやる事もなかったので、椅子に座り、時計と彼女を交互に見つめていた。
孤児院育ちであったが、達筆で他の者にも引けを取らない書類をいつも書き上げていた。流石は12騎士の参謀将校だと周りは言うのだが、私は初めから知っていた。
「エーリッヒ。お待たせしました。」
身体を軽く揺らされ気がついたらターニャが私の顔を覗いていた。
「無理して待っていなくても、良かったのですよ。」
どうやら私はいつのまにか意識が無くなっていたらしい。
「済まない」
「いえ、少しでも休んでください。貴方は根を詰めすぎるから。」
まだ幼いと言える彼女に気を使わせてしまっていたので、
「それは君も同じだろう」
と同じ言葉をかけた。
彼女はふふっと髪を揺らしながら笑った。
外套を彼女に羽織らせると
「中佐殿に手伝わせてしまいましたね。」
と軍帽を被った。
私もそれに続いて支度をして、2人で部屋を出た。
街灯も殆ど付いていない夜道を彼女を1人で歩かせたく無かった。最近は物盗りや女性への暴漢なども少なく無いと聞いていた。
いくら優秀な魔導師で宝珠の力で大の大人に遅れを取らない事は分かっていても、彼女の見た目は幼いだけでない。私の妻なのだ。
少し冷たい風に肩を竦める彼女を引き寄せた。「流石に軍服のままでは」と言う言葉は無視をした。
「エーリッヒ?」
「明日はベルンを立つのだろう?」
「ええ。また貴方を1人にさせてしまいますね……。」
私が離れるのを拒んでいる事を彼女は知っている。
「戻りますよ。必ず」
「ああ…」
私はそれしか返せなかった。
「珈琲美味しかったです。ありがとうございます。」
「チョコレートでもあれば良かったのだが」
「いいえ」
彼女は笑っている。
ならば私も笑って送り出そう。
そして再び会えた時には最上級の珈琲を用意しておくと。
「約束ですよ。」
「ああ、必ず」
「チョコレートもあれば」
そのどちらも今では手に入りにくい物であったが、彼女はの唯一の可愛いわがままだ、喜んで用意をしよう。
私は彼女を抱きしめて、2人の家へと帰宅した。
2018.01.31