ミラージュside
待機室でダフネと別れた後、私はいつも持ち歩いている杖の代わりに箒を握り、首からぶら下げている石を軽く握った。
例の棚からパクってきた『研究書』からある程度得た情報で、本物とはいかないけどそれに近いものを生み出せる方法が書いてあった。その方法を使って作り出したのがこの『石』だ。見た目や魔力の纏い方は本物の石となんら変わらないけど、その効力は本物程はない。あくまでも『賢者の石』の盗難防止用のシロモノらしい。
私がこの『石』を持っているのにはいくつか理由がある。一つはコレで周囲(主にダンブルドア)を騙せるかどうか。そして、私と同じように『賢者の石』を狙う誰かがこれに引っかかり、手を下してくるか諦めるか(後者はないだろうけど)を確かめたかったから。
そしてこの確認を行うのにもっとも適した状況、ダンブルドア含む教師陣が揃い、尚且つ学校の殆どの人間が集まり、私が少しでも目立てる状況が、このホグワーツで行われるクディッチの試合だ。最初はめんどくさくて嫌だったけど、この偽物の石の生成方を知ってからどこかで試せないかとずっと考えてた。
そして今日、いよいよクディッチの試合が始まる。先頭を歩くマーカス・フリントの後ろを私が歩き、その後ろを先輩選手たちがゾロゾロと歩いていく。そして、グラウンドに入るや否や観客席からものすごい声援や罵声が飛んできた。声援はもちろんスリザリン側からだけど、罵声はグリフィンドール側から。あ、ダメだ。めっちゃムカついてきた。もうやめようかな…。でも、ここで引き返したら後でグリフィンドールの連中に何言われるか分からないし、それはそれでムカつくし。よし、グリフィンドールの代表をコテンパンにしてやろう。
「ねぇねぇフリント」
「なんだホーエンハイム?」
「少し提案したいことがあるんだけど」
「ほぅ。言ってみろ」
「私もチェイサーに混ざってひたすら攻める。攻めて攻めてグリフィンドールが追いつけない点差をつけてスニッチを取る」
「それは構わんが、もしポッターがスニッチを見つけて追い始めたらどうする?」
「そうなる前にビーター二人でちょくちょくハリーを狙うの。それでももしハリーがスニッチを追いかけた場合、私が直接妨害する。ただし、ルール上問題ない範囲で」
「それが出来るのか?」
「やってやりますとも。ただし、チームにもルール上問題ない範囲で動いて欲しいの」
「どういうことだホーエンハイム?」
「卑怯だなんだと言われて勝つのって面白くないでしょ?」
私の一言にフリントは少し考えたあと、独りでにクスクスと笑い始めた。
「良いだろうホーエンハイム。ただし負けたらどうなるかわかっているな?」
「もちろん。んじゃ、行きましょう」
話が終わって私とフリントはグリフィンドール選手の前(私はハリーの前)に並ぶ。マダム・フーチが互いに握手をするよう促すが、互いに無視。その中で、私とハリーだけが握手をしていた。
そしてマダム・フーチが箒に乗るよう指示を出して、他の選手が箒に跨る中、私は箒を地面に落とし、細いトネリコの柄に両足を乗せる。ここ数週間でこの乗り方が一番安定して、尚且つ一番はやく飛べる乗り方だとわかった。私のこの乗り方に解説のリー・ジョーダンが何か言ってるけど無視無視。マダム・フーチがホイッスルを鳴らすと同時に私は空中高く飛び上がり、競技場全体を見渡せる位置に着く。それから少しして、下の方で歓声が上がった。どうやらクアッフル、ブラッジャー、スニッチが放たれたらしい。
さぁここからが勝負だ。私はまず競技場全体を見渡して、スニッチを探す。それは案外簡単に見つかった。スニッチはグリフィンドール応援席の上をふよふよと飛んでいたのだ。私はスニッチの位置を確認して、真っ逆様に急降下する。その途中、運良くクアッフルが飛んできたのでそのままキャッチして、競技場の地面スレスレで急停止して上を見上げる。
上空では、グリフィンドール、スリザリンの両選手が目を丸くしていた。それを無視して私はクアッフルを片手に低空飛行のまま、全速力でグリフィンドールのゴールに向かって飛んだ。それを妨害するようにブラッジャーが飛んでくるけど、私はまた急停止してクアッフルを上に放り投げ、私もそのまま上に飛び上がる。そしてクアッフルに追い付くと同時に一回転してクアッフルをグリフィンドールのゴール目掛けて蹴り飛ばす。あっけに取られたグリフィンドールのキーパーの顔面スレスレを通過して、クアッフルはゴールポストを通過する。
クアッフルがゴールポストを通過して数秒たってから、スリザリンから大歓声が上がった。ジョーダンが相変わらず何か言ってるけど、スリザリンからの大歓声にかき消されて聞こえない。私は先生たちが座る席に視線を向けると、ダンブルドアはヒゲを撫でながらも普段通りの装い。スネイプ先生はなぜか頭を抱えていた。その中で気になったのがクィレルだ。クィレルだけが、私を真顔で凝視していたのだ。
それからも同じように、私がチェイサーに混ざり次々と得点を得ていく中、すこし奇妙な事が起こり始めた。少しづつだけど、箒が言うことを聞かなくなってきたのだ。私は箒に『探知』の魔術をかけると、箒になんらかの呪いがかけられようとしていた。チラリと先生たちが座る席に視線を向けると、やはりクィレルが私を真顔で凝視していた。仮にクィレルが私に呪いをかけようとしているとしたら、恐らく相手を凝視することで発動する呪いの類なのだろう。だったら私にだって考えがある。今日はなんと都合の良いことに『狂気』が使えるのだから。けど、ここからだと少し遠いなー。
クアッフルをパスしながら横目でハリーを見ると、ハリーが何かを見つけたかのように急発進していた。ハリーの視線の先、そこには黄金色に輝く小さな物体がふよふよと飛んでいた。ヤバい、ハリーのヤツもうみつけたの!?
私も急発進して、黄金色に輝く小さな物体、スニッチに向かって飛び出した。スニッチの方も私たちに気付いたのか、急発進して逃げ始めた。さすがにスニッチの全速力に私の箒が追い付けるはずもなく、徐々に離されていくが、驚いた事にハリーの乗る『ニンバス2000』は徐々に差を縮めて行っている。流石は最先端の箒だ。でも、箒の性能差が戦力の決定的な差ではない事を教えてあげよう!!
私は急旋回して、ハリーとは別方向に飛んでいく。スニッチが飛ぶ方向を予測しての先回り。この賭けに失敗すれば、私はスニッチを取れず、フリントからのお仕置きが待っている。それでも『ニンバス2000』を駆るハリーに勝つにはそれしか方法は思い付かない。
横目でスニッチを追いながら、私は飛ぶ方向を少しづつ修正していく。時折ブラッジャーに襲われるけど、それを避けつつ飛び続ける。そして、スニッチが向かう方向が職員席に向かって飛んでいくのを確認して、私はクィレルを見た。まだ見てる。めちゃくちゃ見てる。しかも瞬きしてないんじゃないのアイツ?キモっ。
私は職員席の頭上を越える際に、そっと左眼の眼帯を外して、クィレルを左眼で凝視する。そして、
『堕ちろ』
と私が唱えると同時に、クィレルは急に笑い始めピクピクと痙攣までし始めたのだ。私は急いで眼帯を付けて、再びクィレルの様子を確認する。職員席は大騒ぎになっていた。なにせクィレルが急に笑い始めた挙句、痙攣まで起こし始めたのだから。そして急にホイッスルが甲高く鳴り響くと同時に、マダム・フーチが試合中止を宣言。先生たちがおかしくなったクィレルを運ぶ様を競技場に集まった全員に見られる事になった。ついでに首からぶら下げていた石はその辺に捨てておいた。
その後私は更衣室で着替えたあと、スネイプ先生から呼び出しをくらった。
魔法薬学で使われる教室に行くと、スネイプ先生が心配そうな顔をしていた。
「先生?」
「あぁ、ホーエンハイムか。問題はないのか?」
「はい。私は大丈夫ですけど」
「すまなかった。吾輩がいながら君の安全を確保できなかった」
「どういうことですか?」
「君に呪いがかけられているのをしっていながら、吾輩はある人物を守るのに精一杯だった…」
「あぁ。別に大丈夫ですよ、対処は出来ましたし。それに先生が守る人が無事で良かったじゃないですか」
「本当にすまない…」
「いいですよ本当に。それに今日はそれ以上に収穫がありましたから」
その後、私とスネイプ先生は他愛ない会話をして解散した。
今日の一番の収穫。それはあの『石』でダンブルドアを騙せた、ということ。職員席の上を通過した際、私の首からぶら下げていたモノを見たダンブルドアのあの表情。自分が見たものを疑うような、目の前にあるものを疑うような目と表情で私を見ていたのだから。
恐らく騙せているだろう。けど、あのフェイクの石はまだ未完成。もう少し研究が必要だろう。けど、あまり時間をかけられないのも事実。なんとしても、クリスマスまでには完成させないと。
ミラージュの飛び方は桃白白を想像して下さい。アレです。