ミラージュside
お昼時、私はスリザリンのテーブルの端っこの方で一人、教科書片手に昼食を取っていた。側から見れば行儀が悪いけど、魔法薬学の教科書は読み出したら止まらない。だって思ってたより面白いもん。
そんな感じで食べながら本読んでると、気が付けば隣に誰か座ってる。教科書から視線を上げてみると、そこには少し怯えた表情のダフネ・グリーングラスが鎮座していた。なんで怯えてるの?初めて部屋に来た時から、この子はずっとビクビクして、何かに怯えるみたいにずっと。多分私なんだろうけど。ほんと、先祖の『ホーエンハイム』は何したんだろ…。ま、私関係ないしいいや。
「あ、あの…」
そのまま黙って座ってるだけだと思ってたグリーングラスが話しかけて来た!
「……なに?」
「えっと…何の本読んでるの?」
「魔法薬学の教科書。面白いよ?」
「そ、そうなんだ…」
会話終了。マジか…まさか話しかけてくるから何か聞きたい事でもあるのかと思ったのに。とりあえず無視しよう。絶対面倒くさいヤツだコレ。
「………」
「…………」
ダメだ。本当に会話がない。何か話そうっていう気配は感じるんだけど、何話していいか分かんないみたいな。それでも黙って私の隣に座ってるから、どうしたものか…ってか、私が耐えられない。
「あのさ」
「は、はい!?」
「そんなに怯えなくても…」
「ご、ごめんなさい…」
「うん、もういいよ…なんかこっちがごめん…」
ダメだ。もう面倒くさい。
「あ、あの…」
「はい?」
「ほ、ホーエンハイムさんは、その、どうしてスリザリンに?」
「んー、グリフィンドールとハッフルパフにも行けたんだけど、騎士道とか面倒くさいし、ハッフルパフは顔触れがイヤだった」
「じ、じゃあ『純血主義』だから、とか?」
「ないない、そんなの興味ないし。ただ、他の寮より少しマシな感じがしただけ」
「そ、そうなんだ…」
「グリーングラスはそうなの?」
「わたしは、正直に言うと…どっちでもいい、かな?」
「そうなんだ。てっきりそうなのかと」
「そ、そんなことないよ。それに、わ、わたしなんか、全然…」
「…なんかバカらしくなってきた」
「な、なにが?」
「ねぇグリーングラス。貴女には私がどんな風に見える?」
「え、えっと…」
「正直に言って」
「…き、気の強い、とても勝ち気な、女の子…」
「どうして私の側にくるの?」
「め、迷惑だったらごめんなさい…」
「迷惑じゃないから。どうして?」
「え、えっと…その…」
視線を伏せて黙り込むグリーングラス。とりあえず返答が返ってくるまで、私はグリーングラスを見つめる。
「…あ、貴女の側に、い、いたら、だ、誰からも、バカ、にされないし…わ、わたしも、少しは、強くなれるかなって…」
絞り出すようにグリーングラスが呟く。でも、私の目をしっかり見て。
「ねぇグリーングラス。もう少し自分に自信持ったら?可愛いんだからさ」
「そ、そんなことないよ!ホーエンハイムさんの方が全然可愛いよ…」
「そりゃそうよ。むしろ私より可愛い娘を見てみたいくらい」
「……スゴイね、ホーエンハイムさん。わたしはそんなこと、絶対言えないよ…」
「それくらい自信があるってこと。それからミラージュでいいわよ」
「は、はい!だったらわたしの事もダフネ、でお願いします!」
「じゃ、改めましてよろしく、ダフネ」
とう様、かあ様、私、初めて女の子の友達出来たよ。
昼食の後は『飛行訓練』とかいう箒に乗って空飛ぶ授業らしいけど、ぶっちゃけ興味がない。ってか受けるのもイヤになってきた。だってマルフォイが昼食食べてる間ずっと箒自慢してたし。グリーングラス…ダフネが私に気を使ってか、別の話題を振ってくれたお陰でまたケンカせずに済んだけど。
飛行訓練は外でやるらしく、指定された場所に行ってみるとグリフィンドールとスリザリンが絶妙な距離でにらみ合っていた。なんでこの2つはこんなに仲が悪いのか。ダフネもビクビクしながら私の影に隠れるし…。ダメだ、ため息しか出てこない。
それから少しつり目の教師、マダム・フーチが箒を並べていて、その横に立ち、上がれ。と唱えるように言ってきた。
とりあえず言われたようにやってみよう。
「上がれ」
反応なし。もう一度やってみるけど反応なし。なんかムカついてきた。周りはみんな成功してるし、私だけできてない。何度かやっているうちにマルフォイやその取り巻きがクスクスと笑い始めた。うん、我慢の限界だ。こうなったら…
『
持ってる魔力の一部を放出して、箒に対して威圧をかける。すると、箒はガクガク震えだして、すぐさま私の手の中に収まった。最初からそうしてたら良かったんだ。
『魔力放出』を解いて、隣にいるダフネを見るとやっぱりできてない。いや、ビクビクしすぎだから…
「ダフネ、もう少し強気で言ってみなよ?」
「つ、強気で?」
「そうそう。私の言うこと聞かないとへし折るぞ!みたいな?」
「う、うん。やってみる…上がれ!」
ダフネが少し強気で呪文を唱えると、箒はスッとダフネの手の中に収まった。
「やった…やったよミラージュ!」
「おめでとうダフネ」
ダフネが嬉しそうな顔をして、その場でぴょんぴょん跳ねる。うん、可愛いなー。尻尾とか付いてたらぶんぶん振ってるんだろうなー。
そんなことを思いながら周りを見てみると、箒が上がっているのは私、ダフネの他にマルフォイとハリーだけだった。酷いのはロングボトムで、箒が上がるどころかピクリとも反応してない。グレンジャーはようやく出来たようで、私と目が合うと嬉しそうに手を振ってくる。それから数分して、フーチ先生の指導の元、ようやくロングボトムも箒を上げる事ができた。
「それでは箒に跨って、私が合図をしたら地面を強く蹴って飛んでください。ただし高く飛びすぎてはダメですよ。それでは3、2、いーー」
「うわぁあー、た、助けてー!」
フーチ先生の合図の前に、ロングボトムが先に飛んでしまった。しかもコントロール出来てないらしく、フラフラと徐々に高度を上げていく。
フーチ先生がロングボトムに戻るよう叫ぶが、コントロール出来ていないのにどうやって戻れというのだろうか。ってかめちゃくちゃ高く飛んでるなー。落ちたら危ないだろうなー。あ、箒が暴れだした。ヤバい落ちる。
ロングボトムが箒から落ちるほんの少し前に、私は地面を蹴って空高く飛び上がり、杖をロングボトムの服に引っ掛ける。でも、落下の勢いなのかロングボトムが重いせいなのか、私も一緒にドンドン落ちていく。
ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!落ちる落ちる落ちる落ちる!?ってかロングボトムが重いだけでしょコレ!?ってかこのままだと私も一緒に落ちるし!こうなったら…
『魔力放出!!』
魔力を全力で解放して、ロングボトムを力任せに上に放り投げる。なんか悲鳴上げてたけど知るか。それから箒の上に立って、落ちてきたロングボトムをしっかりキャッチする。『魔力放出』を使ってるから、難なくキャッチできたので、そのままゆっくりと降下していく。
それから、ロングボトムと一緒にフーチ先生に連れられ医務室に連れて行かれ、更にスネイプ先生から怒られ、減点を食らって、罰則の書き取りをやらされてから、ようやく解放された。
とでも思った!残念!罰則の書き取りが終わると、スネイプ先生が紅茶を出してくれた。まだなにか話してがあるんだろうか…
「さてミラージュ。吾輩はお前に注意しておかねばならん事がまだある」
「なんですか?」
「お前の扱う『魔術』についてだ。アレは極力人前で使うのはよすのだ」
「えー」
「吾輩たちの住む世界では『魔術』などと言うものは存在しない。それにマグルの世界においても、『魔術』は秘匿すべき事柄だと聞いたが?」
「仰る通りで…」
「お前は『魔法』を学びに来たのだろう?ならば、ここでは『魔術』ではなく『魔法』を扱うべきであろう」
「はい…」
「だが、今回の件は褒めてやろう。よくやった」
ほ、褒めてくれた…だと…!?あの根暗教師が人を褒めるなんて…
「そして、お前には明日からスリザリンのクディッチのチームに入ってもらう」
「拒否権は?」
「無しだ。実は先程、マクゴナガル先生より連絡があってな。『ハリー・ポッター』をクディッチの選抜に入れると、な」
「それでなんで私なんですか?」
「お前が飛行訓練の授業で飛んでいるのを見たのでな。なかなかスジがいいと思った次第だ」
「やったこと無いですけどクディッチ」
「安心しろ。吾輩が一から説明してやる」
その日、私はスネイプ先生からクディッチに関する事を全て聞かされ、有無を言わされずにスリザリンのクディッチ選抜チームに抜擢されてしまった。
クディッチ大抜擢だぜ!
さて次回はクディッチの練習と真夜中の決闘です。