やはり俺のDQ3はまちがっている。   作:KINTA-K

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この8話で冒頭から始まった1日がようやく終わるとか、展開が遅いにも程がありますね。
なお、ゲームであればナジミの塔の老人からは盗賊の鍵を貰うのですが、普通に物語で考えた時にその理屈は可笑しいと言うことで設定を変えました。
余談ですが、八幡は盗賊のスキルを習っていた関係で、盗賊の鍵程度の扉なら自力で開錠する技術を持ってます。


8話

「ほら、焼けたぞ」

 俺の正面で顔を心なし青くしている雪乃に、俺は木の皿に盛ったこんがり焼けた一角ウサギの骨付き肉を差し出す。

「え、ええ……」

 雪乃は明らかに気乗りしない様子で、おずおずと片手を伸ばして受け取る。そして、受け取ったそれを見て、躊躇するかのようにじっと見つめた。

 そんな彼女を他所に、俺は自分の分の肉を、骨の部分を手でつかんで豪快にかぶりつきながら食べる。うん、上手に焼けましたー!そして手に持った肉を雪乃に向けて、さっさと食べるように促す。

「折角目の前で一角ウサギの解体ショウまでやってやったんだから、遠慮なく食え。美味いぞ?」

「……思い出させないでちょうだい」

 思わずうっと口を押えてえずる雪乃の様子に小さく含み笑いを漏らしながら、俺はもう一度肉に齧り付いた。

 

 

 

 最初の戦闘の後、さらに数回の魔物との遭遇を終えて日が暮れてくるまで進んだ俺達は、森の中の開けた場所で野営をしていた。

 最後に一角ウサギと遭遇したのは幸運だった。一角ウサギは脂身が少ない割に肉が柔らかく、そして美味い。別にオオガラスも食えなくもないが、筋張ってて固いうえに、元がカラスなせいか独特な臭いがするからあまり好きではなかった。

 と言う訳で即血抜きしてもち運び、森の中に入って枯れ木を拾って火をつけて野営をすることにしたのだ。

 因みに、火は雪乃にメラで着けてもらった。あんなに簡単に火が熾せるとか、マジ魔法万能。本日一番の雪乃の活躍と言っても過言ではない。まあ、火を熾すのは俺でもできるし、そのための道具も無論携帯しているが、結構面倒なのだ、あれは。種火を作って枯れ木に燃え移らせて、その上で消えない様に注意しながら風を送って火を強くしてやらなければならないため、慣れてもそこそこ時間がかかる。種火を移すのにまず失敗する時があるし、火を強くする時に突風が吹いて消えたらやり直しだしな……

 でも魔法を使えばあら不思議。メラと唱えるだけで焚火の完成だ。正直、あまりにあっさりやられすぎて嫉妬するレベル。川崎と二人だった時には(野外訓練な)地味に苦労したのに……

「どうかしたのかしら、比企谷君?目が腐っているわよ。いえ、それはいつものことなのだけれども」

「マジで一言余計だからな、それ。別に、ちょっと世の中の不条理が身に染みてな…」

 不審な目を向けてくる雪乃に対し、誤魔化す様に咳払いしてから続ける。

「とにかくあれだ。今後、野営前にメラも使えないほど魔力使い果たすなよ。マジで」

「メラなら消費魔力も少ないし大丈夫だと思うけど……一応、攻撃魔法なのだから、攻撃に使うべきではないかしら?」

「お前に必要なのはまず体力だ。そりゃ実戦経験も大事だし日に1、2度くらいは魔物とも戦わせるつもりだが、基本魔力はほとんどホイミに費やすつもりでいろ。あ、でも野営時のメラは残しておけよ。絶対だぞ」

 メラ大事、絶対。モンスター相手に無駄打ちとか勿体無いにも程がある。

「どれだけメラが好きなの、あなたは……はぁ、しばらくはアレを繰り返すのね」

 さすがに少しばかりうんざりしたように呟く雪乃。

 最初の戦闘の後、雪乃は一切戦闘には関わらせず、只管限界まで歩いてホイミで癒すを繰り返させた。限界まで歩いてホイミで癒せばいい――簡単に体力を付けるための至言だな、うん。地味だけに中々心にクル鍛錬だけどな。おかげで、思ったよりは距離が稼げたと言える。

「それで、これからどうするの?」

「こいつを食べる」

 先ほどの戦果である一角ウサギを、角を掴んで持ち上げて示す。雪乃はきょとんと首を傾げた。

「どうやって食べるのかしら?まさか、そのまま噛みつくつもりかしら、さすがは獣谷君ね」

「おい、それだと俺が野獣みたいだろ。つか人相手に使うと違う意味に聞こえちゃうだろ」

「……?それは、どういう意味かしら?」

 本当に分からないようで、またきょとんと首を傾げる。くそ、地味に可愛いじゃねえか。

 女としての意識が欠けているのか、単純にこう言った言い回しを知らないだけかは分からないが、これを説明するとか俺には難易度高すぎるんだけど。と言う訳で無視しよう。

「……まあいい。とにかく、こいつを解体して焼いて食べるんだよ。一角ウサギならちょっとしたご馳走だな」

「……解体?」

 ヤベェ、こいつ……まさか動物と肉が一致していないのか?どんだけ箱入りなんだよ。

「……ステーキくらい食べたことあるよな。こいつを切り分けてステーキにすると思ってくれ」

「え?……そ、そうね。見たことはないけど、肉は牛や兎を殺して切り分けるものと言うことくらいは知っているわ。……それをここでやるの?」

 若干ビビっている雪乃に、俺は口の端を上げた。

「ああ。喜べ、一角ウサギの解体ショウだ。あ、何か合った時のためにやり方覚えて貰うから、目を反らすなよ。まあ、どうしても怖くて無理なら許してやるが」

「馬鹿にしないで貰えるかしら。いいわ、やって見せなさい」

 挑発に乗って睨みつけてくる雪乃に対し、俺はニヤリと笑った後「よく見てろよ」と告げて一角ウサギの解体を始めた。――雪乃は5分と持たずに顔を青くしていた。

 そして、冒頭に至る。

 

 

 

 で、回想している間に結構時間が経ったというのに、未だ躊躇している雪乃に、俺は改めて告げた。

「体力付けなきゃならんから、マジでしっかり食え。お前細すぎだ。もっと肉食え、肉」

「……分かったわ」

 そこまで言われてさすがに観念したのか、雪乃は小さく嘆息すると、諦めてナイフとフォークを手に取り、骨付き肉を器用に切り分け始める。音を立てない様に(木の皿だからそもそもナイフとフォークが当たったくらいでそう音は出ないが)丁寧に扱っている辺り、相当食事マナーは躾けられているな。こんな所で披露しても仕方がないが。

 雪乃は一口サイズに切り分けた肉を上品な仕草で口に入れて咀嚼した後、意外そうに呟いた。

「――骨付き肉なんて初めて食べたけど、意外と美味しいわね」

「塩振って焼いただけだから、料理とも言えないけどな」

 なお、付け合わせは食べられる野草のサラダと、森で見つけた果物。野営で簡単に食材を見つけてこられる辺り、アリアハンは本当に自然に恵まれていると思う。ついでに言うと、海が近いアリアハンは塩だって簡単に手に入る。内陸部だと塩が高級な所もあるらしいし、そう言った面でも恵まれている。

「それでも、私は料理が出来ないから羨ましいわ」

 そう言って、雪乃は自嘲する様に口元を歪めた。

 料理は使用人の仕事で、貴族が料理をすることは使用人の仕事を取り上げてしまう、だから貴族は自ら料理をするべきではない、と言う考えが貴族の中にはある。かなり傲慢そうに思えるが、あながち間違いではない。金を持っている者が仕事を与えてやらねば経済は回らない。多くの庶民を働かせるために仕事を与えるのは、貴族の義務だ。

 まあ、そこまで徹底できるのも力をもつ貴族だからで、下級貴族の中には普通に料理をする者も多いが。雪ノ下家は糞オヤジのせいで権威が低下したとは言っても、それでも大きな財をもつ上級貴族だ。雪乃は使用人の仕事を奪う様なことはやらせてもらっていないだろう。雪乃に料理が出来ないのは当然と言えた。

 尤も、俺もそんなに料理ができる訳じゃないけどな。家では母さんと小町が台所やってたし、精々野営で大雑把に味付けして焼く程度だ。動物の解体とか食べられる野草の見分け方とかはしっかり覚えたが。

「ま、機会がありゃ色々やってみればいいだろ。何なら、明日の野営の飯はお前に任せてもいいぞ」

「さすがにまだ一人でやるのは無理だと思うけど……そうね、手伝わせて貰えたら嬉しいわ」

「お、おう」

 随分と素直に言われて、思わずどもってしまう。短い……と言うか、まだ出合って一日も経っていないが、出合った時は随分と当たりの激しい気の強い女だと思ったが、今はもうこんな風に素直な面を見せてくる。何か心境の変化でもあったか、元からこういう性格だったのか――どっちでもいいが、そう言う不意打ちは勘違いしそうになるから止めてもらいたい。

「おっ、次の肉が焼けたな。ほら、やるよ」

 誤魔化す様に、焼いていた肉を取って雪乃の持つ皿に載せる。それが不作法だっただからだろう、雪乃は一瞬顔をしかめた後、不満そうに呟いた。

「……そんなに食べられないのだけど」

「それでも食え。明日は今日よりも長時間歩くからな。しっかり食べとかないと途中で体力が尽きるぞ」

 ホイミにも限界がある。体力の元になる栄養を取ってなければどうにもならないのだ。

「……そうね。頂くわ」

 雪乃は意を決したように頷いて、食事を再開した。

 

 

 

 食事を終えて人心地付く。雪乃は少々苦しそうだったが、なんとか全ての食事を平らげた。

 残った一角ウサギの肉は、とりあえず大量に塩を塗して松明の上に吊るした。燻製とまでは言わないが、こうすれば多少は日持ちさせることができる。と言っても、ちゃんとした干し肉ほど日持ちはせず、精々2、3日程度なのであまりたくさん作っても意味がないが。街が近ければそれこそ残った肉を買い取ってもらうことも出来なくはないが、次の街までは結構かかるためそれはできない。結局、処分するしかない。

 と言う訳で残った肉は取り除いた内臓ごと最初に剥いだ一角ウサギの皮に包み、適当な蔦でぐるぐる巻きにして縛り、闘気を使って遠くへ放り投げておいた。いや、血の臭いが強いものを置いていると獣やモンスターが寄ってくるし、手元に置いておくのは単純に良くないからな。それに、遠くへ放り投げておけば周囲の獣やらモンスターもそっちに引き寄せられるから、その分こっちの危険も減る。

 それらをすべて終えてから、俺は改めて雪乃に話しかけた。

「さて、これで食事も終わったし、後は休むだけだが……その前に話しておくことがある」

「……何かしら」

 無理して食べ過ぎたからか、心なし苦しそうに答える雪乃。ま、食える時に食うのが冒険者の鉄則だからな。おいおい慣れてもらうしかない。

「明日以降の旅の予定だ。最初は直接レーベの村に向かうつもりだったが、ナジミの塔に行くことにする」

「ナジミの塔に……?でも、あそこは今は何もないと思うのだけど」

 以前は灯台や物見台としても使われ、アリアハン近隣の海域を監視する立派な建物だったのだが……糞オヤジの封印でアリアハンは今船も使えなかったりする。解りやすい封印の目印はロマリアへの旅人の扉を塞ぐ壁だが、実はアリアハン大陸全体が結界に覆われているのだ。よって、現在アリアハンと他国の行き来の手段は、以前他国に訪れた者によるルーラの魔法しか無いのが現状だ。そら、外交と貿易はガタガタになるわな。それは兎も角。

「あそこの屋上には変わり者の爺さんが住んでいるからな。あんな爺さんでも賢者だから、お前のこと相談するにはちょうどいいだろう」

「ああ、ナジミの賢者様のこと……知り合いだったの?」

「以前、野外訓練で立ち寄った時に、ちょっとな」

 先ほどの言葉を聞く限り、深窓の令嬢をやっている雪乃でも名前を聞いたことがある程度には、ナジミの賢者のことはアリアハンではそれなりに知られた名ではある。今では陽乃さんの出現によってすっかり立場を失ってしまったが、以前はこれでもアリアハン最強の賢者だったのだ。…賢者の人数が圧倒的に少ない上、爺さんは上級魔法(メラゾーマとかな)は使えないそうだが。

「ナジミの賢者様相手にちょっとしたことで知り合うものかしら」

「あの爺さん、俺のオヤジとも知り合いだしな」

 さすがに他人に話すときは『糞』を付けたりはしない。世間では英雄だからな、あの糞オヤジ。

「オルテガ様の……それなら納得ね」

「ま、野外訓練ついでに挨拶した程度だけどな。あの人なら魔法の契約も出来るだろうし、色々話も聞けるだろ」

 俺の言葉に、雪乃はきょとんとした顔でこっちを見たあと、少し頬を染めて俯いた。うん、勘違いするような行動は止めような、いや、俺が勘違いさせたか?

「あの……もしかして、私のためかしら」

「いや、俺のためだ」

 雪の言葉をバッサリと切って捨てる。

「お前がヒャドを覚えれば水の調達が楽になるし、キアリー覚えればうっかり毒物食った時に回復してもらえるしな。そうなれば旅の快適さがまるで変わる。だから、しっかり覚えろよ、俺のために」

 後ルーラとか、インパス……は、必要ないか……イオやバギは……攻撃くらいだな。あれ、思ったより役に立つの少なくないか?

「なるほど、自分が楽をするためには苦労を惜しまないなんて、さすがはサボりが谷君ね。呆れを通り越して……呆れたわ」

 小さく嘆息しながら、罵声……かどうか判断に悩むことを言って嘆息する雪乃。おいおい、通り越した先が同じとか、語彙が残念な人みたいだぞ。

「……それでも、新しい魔法の契約が出来るのは私にとっては嬉しいことよ。ありがとう、比企谷君」

「……おう」

 だから一々素直になるな。反応に困るだろ。どもった俺が可笑しかったのか、雪乃は小さく笑みをこぼし、それから不思議そうに首を傾げた。

「でも、別に先にレーベに寄ってからでもいいんじゃないかしら?」

「あー……まあ、こっからなら距離的にレーベと変わらんし、逆方向だから。どうせ後からレーベに寄らなきゃならないんだから、同じ道を二度歩きたくない」

 俺がアリアハンに望まれている役割的に、あまり寄り道は好ましくないし、そもそもできるならさっさとアリアハン大陸を出たい。

 ――雪ノ下家の事情もあることだしな。

「ま、だからレーベに行くのはしばらくお預けだな」

 そんな風に締める俺を、雪乃は何故かじっと見つめてきた。な、なんだ?

「あなたは、本当に……」

「…ん?なんだ?」

 雪乃が何か呟いたので聞き返したが、彼女は「何でもないわ」と小さく首を振った。そう言う意味深な態度は逆に気になるんだが…まあ、無理して聞くことでもないか。穏やかな彼女の顔を見ていると、深く突っ込むような気にはなれなくなる。

「じゃ、そろそろ休むぞ。明日は日が昇ったらすぐに発つからな」

「分かったわ」

 そこで会話を終えて、俺たちは眠りにつく準備を始める。

 こうして、長かった一日がようやく終わりを告げた。

 

 


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