空っぽ勇者と魔王   作:しゃらく

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1. 魔王と講義

夏休み明けの大講堂は日に焼けた学生で溢れかえっていた。

夏にどこへ行っただの、彼女が出来ただの、恒例のどうでいい話をしている連中を横目に、いつも空いている最前列中央左の席へ。

 

休み明け最初の講義など、基本的にオリエンテーリングがメインで、テストの日程、内容と、単位の基準さえ聞ければ十分である。

にも関わらず、習慣的にルーズリーフを取り出し、講義のタイトルを書く。

 

「さすが、真面目くん」

すぐ後ろから耳元で囁かれ、びっくりして振り返ると、休み明けに最も会いたくない人物が満面の笑み(100人いたら99人が惚れるであろう)を浮かべていた。

「げっ…」

「げっ、とは失礼な、休み明け、こんな美人と話せるなんて光栄でしょ?」

自分で美人とか言っちゃうから、話したくないんだけど。

「つれないなぁ」

「声に出てたか」

「顔を見れば分かるもの」

この女に遠慮とかいう言葉は要らないと俺は思っている。

「そうだ、この前の写真出来たんだけど」

こうやっていきなり爆弾を落としてくる。

ヒラヒラと見せびらかしてくる写真にはお世辞にも華やかとは言えない水着姿の俺と、モデルかと思うほど華があるこの女が写っている。

「捨てろ、早く」

「いいじゃない、あげるわ」

「元データは?」

「クラウド上」

予想通りの返答に大きなため息とともに、肩を落とした。

「そろそろ講義始まるから出てったら…」

「ん?私もこの講義受けるわよ?お、と、な、り、で」

この女、雪ノ下陽乃に出会ってしまったことが俺、佐倉若葉の夏の反省点であり、この先何年も後悔することになるのだった。

 

 

「ねぇねぇ、この問題、教科書の答え違わない?」

「違う」

人生において悪い予感というのは、予想した以上に悪い形で当たるものだ。

これまでもそうだったし、多分これからもそうなのだろう。

俺が受講した講義のほとんどで、雪ノ下は隣に座ってきた。

諸事情により教育学部にも関わらず単位の穴埋めに理数系の講義を受けた俺も悪いが、教育系の講義にまで理系のこの女がいるのは何故だ。

「だって、面白そうじゃない」

期待せず聞いてみたところ、一言で片付けられた。

 

 

現在、微積の演習中。

早めに問題を解いて参考書をペラペラみていると、雪ノ下も同じように参考書を眺めていた。

「問題終わったのか」

「んー、終わったよー」

演習中とは言え、講義中に私語は禁止だが、毎回そこそこ真面目に出席して、問題も解いているから、これくらいの会話は見逃してくれるだろう。

雪ノ下なんて、講義中にも関わらず話しかけてきても怒られてないし。

美人だからか、ちくしょう。

「結構難しかったろ、お前何者なんだよ…」

雪ノ下の嫌なところは、美人なだけでなく、普通の大学二年生以上に学業が優秀で、帰国子女で、社交的で(裏があるが)、それを鼻にもかけないところだ。

「そんなこと言ったら、若葉ちゃんも何者なのかしら?」

「若葉ちゃんはやめろ、俺は陰キャだから時間はあるんだよ」

「ふぅんー、まぁそういうことにしてあげる、答え合わせしよ」

そうそう、勘が鋭くて、察してるくせに聞いてこないところも、嫌いだ。

 

 

 

 

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