空っぽ勇者と魔王   作:しゃらく

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思った以上に長くなってしまいました。

次の話と少し時系列が前後してたりします。

文化祭編-2は明日の昼頃に投稿します、よかったら読んでください。



4. 魔王様の回顧録 従者の休日

 

☆魔王様の休日

 

私、雪ノ下陽乃の朝は早い。

特に用事はなくても6時半に目覚め、新聞を読み、朝食を摂る。

土日であっても出かけることの多い父と、それについて行ったり、習い事に出かける母とは朝食くらいしか共にしない。

妹である雪乃が出て行って早一年半。世間知らずであるあの子が一人暮らしに根を上げるのは時間の問題だと思っていたのだが、意外に普通に生活できているようで、少し寂しさを感じたり。

(でも、本当の意味で自立するってのは、そんなに簡単じゃないのよね)

私は他人より賢い。だから使えるものは使う。

男子がいない雪ノ下家にとって、雪ノ下陽乃とは家を継がせるためのカードである。

両親の愛を感じないという事はない。

欲しいものは手に入るし、やりたい事もやれる。

しかし、父が経営する雪ノ下建設もまた、私たち子供や母と同じように彼の作り上げた家族であり、それを捨てる事は、父の人生を捨てることと似ているのかもしれない。

こんな風に割り切れてしまうから、私は大学生になっても自宅に残っているし、夜遊びをしても必ず家には帰る。

普通に勉強して、普通に好きな人と出会い、普通に結婚して、時には喧嘩をしながら幸せな家庭を築く。

そんな普通こそ、私から最も遠い暮らしであり、たまに憧れこそすれ、叶うべくもない望みである。

だからこそ、妹である雪乃をけしかけて家から飛び出させ(私の趣味嗜好が入っていないと言えば嘘になるが)、家の力が最小限にしか及ばないように、私が雪ノ下家を背負う。

それでいいんだと思ってきた。

しかし、私の思いは予想外の形で身を結び始めている。

雪乃に友達ができた、それはいい。

目の濁った男の子と、純粋無垢(本人なりに考えているところはあるのだろうが)な女の子。

彼らは歪な距離感を保ちながら、でも確かに本物と呼べるような関係を築きかかっている。

 

羨ましい。

と思ってしまった。

私にはそんな関係を築けるような人間はいるのかと。

だから夏休みのある日、両親に黙ってバイトをして、そのお金だけで、私はただの雪ノ下陽乃として旅に出かけた。

普段だったら絶対に歩かないような道を歩いたり、乗らないようなバスに乗って、田舎を巡っていた。

そしてこれまた普段だったら泊まらないような民宿で、彼に出会った。

佐倉若葉。

桜なのに花びらではなく、若葉。

その名前を知るまでにも数日かかったのだが、彼はぶっきらぼうながらも私を私として扱ってくれた初めての人だったかもしれない。

彼と過ごした数日間、私は思いっきり彼を振り回し、彼もまた嫌々ながらも私に付き合ってくれた。

残金が底を尽き、ついに家に帰る事になった日、私は彼に別れを告げ、誰もいないバス停でバスを待っていると、少ない荷物を持った彼がバス停になってきた。

見送りに来たの?と尋ねると、彼は明後日の方を向きながら。

「俺のバイトも今日で終わりだ」

 

余韻を返して。

ここから駅方向へのバスはこれしかないし、下手したら駅からも一緒の可能性もある。

もう二度と会えないと思って感慨にふけっていた私を返して。

 

程なくバスが到着し、彼はまっすぐ一番後ろの窓際に座った。

バスの乗客は私たちだけ。夕焼けに染まる海と、夕日に照らされながら早くも寝るつもりの彼はなんだか絵になった。

「おい」

私は荷物を端の席に置くと、彼の隣に座った。

「なに?若葉くん」

「わざわざ隣に座るな」

「どこに座ろうと私の勝手でしょ?それにどうせ寝るんだからいいじゃない」

「暑苦しい」

「失礼な!」

こんな美人に隣に座られて暑苦しいなんていう男がいるのか、いた、ここに。

「寝るから邪魔するな」

「ねぇ、結局若葉くんって幾つなの?」

それはこの数日間、ずっと聞いてははぐらかされて来たこと。

大学生のようにも見えるし、ときどきもっと大人のようにも見える。

 

「答えないと寝させてあげないよ」

ここから駅までは1時間程かかる。

いつもどこか眠そうな彼にはよほど眠れないのがきつかったのか、観念したように呟いた。

 

「同級生だよ」

「え?」

「お前と俺は同じ大学の同級生だって言ったの」

「なんで知ってるの?」

「民宿で会計する時学生証が見えた」

「年まではわかんないでしょ」

「おかみさんに話しただろ?それで同級生じゃないの?って言われたんだ」

私の住む千葉からここまではかなり遠い、しかもど田舎、そんな土地で同じ大学の同じ同級生に会うなど、そんな偶然があるものなのか。

「ふーん、じゃあきっと運命かなにかだよ、これからもよろしくね、若葉“ちゃん”」

「ちゃん付けはやめろ、あとよろしくする気ないから」

そう言って彼は本当に眠り始めてしまった。

 

 

 

 

「羨ましいねぇ、大学生は」

 

天気の良い平日の昼下がり、講義もゼミもない今日は、俺は自宅から少し足を伸ばして知り合いの経営するカフェで本を読んでいた。

「美春だって似たようなもんだろ、こうもお客がいなくて大丈夫なのか?」

「うちは本業があるからね」

ひきたてコーヒーの良い香りとともに現れたのは

、女性にしては背の高いオーナー、綾瀬美春。

俺と彼女は小学校以前から家族のような付き合いで、昔から背の高かった彼女は物心ついた頃から俺にとって姉のような存在である。

美春には芸術の才能があり、中学生頃から絵画を描いては何度も賞を取っており、美大を卒業した今では現代アートの世界の新生として海外でも有名らしい。

そしてここは彼女の自宅兼アトリエ兼カフェだ。

大学卒業と同時に知り合いの老夫婦から譲り受けてカフェを営業しており、彼女がやりたい時に店を開けている。

俺はいつも予め連絡を入れておいて店を開けさせ、コーヒーを飲みながら読書をしたりしている。

 

「で、例の魔王様とはどうなのよ」

美春は自分の分のコーヒーをカウンターに置くと

、頬杖をつきなから俺を見てきた。

「どうもこうもない、相変わらず面倒臭く絡まれてるよ」

以前、この店に寄った時にうっかり雪ノ下のことを美春に言ってしまった。

「何だかんだ面倒見がいいからなぁ」

「誰かさんに昔は振り回されていたせいだろ」

「小さい頃は若葉も可愛かったのになぁ、うちと姉妹だって言われたりしてたもんね」

「今じゃ俺の方が背も高いし、もう女子には見えんだろ」

「うーん、化粧すればひょっとして?」

「やらないからな」

「残念」

 

美春はコーヒーに一口飲んだ。

「それで、魔王様とは付き合ってないの?」

「絶対ない。美春こそ、早く彼氏でも作れよ」

「うちはいいの、恋愛に関しては人の話を聞いてる方が好きだもん」

そろそろ20代も半ばだし、そこそこ顔も整っているんだから、いても不思議ではないと思うのだが。

「美春がそれでいいならいいか」

「珍しくうちのこと考えてくれてるんだ、素直になったねぇ」

「別に俺の周りの女は恋愛不適合者ばっかりだと思ってな」

「あんたには言われたくないわ、若葉」

 

「それで、最近は何させられてるの?」

「この前、あの女の母校に連れていかれた」

魔王に絡まれない昼下がりはとても穏やかなのに、気がつけば雪ノ下の話をしている自分がおかしくて、俺は話しながら笑ってしまった。

 

 

「佐倉氏なにしてんの?」

土曜の昼下がり、休日にも関わらず研究室で古ぼけたノートを見ながらパソコンで作業していると、後ろから高杉が声を掛けてきた。

典型的な大学生男子。髪の毛こそ黒髪だが、流行りの洒落た格好をした長身のイケメン。

大学四年生にして卒業研究の真っ只中であり、俺と雪ノ下が出会う原因を作った男でもある。

「高杉先輩、いいところに来ました」

「佐倉氏が俺を高杉先輩って呼ぶ時は嫌な予感しかしない」

大げさに一歩後ずさる高杉。

ちなみに普段は他の研究室のメンバーに習って「高さん」と読んでいたりする

「高杉先輩は結構顔が広いですよね?」

「急に何だよ、友達は多い方だけど」

この男、いわゆるウェーイ系男子であり、祭り好きで、サークルを4つも掛け持ち、運動から音楽、学祭までなんでもやって来た、俺には理解不能な男だ。

しかし、ノリは軽いが人付き合いに関しては律儀で、中学から付き合っている彼女と今も仲良しという、少女漫画に出てくるような主人公みたいな男でもある。

必然的に知り合いどころか友達が多く、こいつの友達がいないサークルは存在しないとまで言われている。ある意味純粋培養雪ノ下陽乃。

 

「実は僕の知り合いが通ってる高校で、文化祭があるんですけど、今年は付近の学校や商店街も巻き込んだ壮大なものにしたいらしいんですよ」

「佐倉氏、高校生の知り合いとかいるの?女子だったら犯罪じゃ…」

「めんどくさいですね、妹ですよ」

そう言えば、雪ノ下に兄弟はいないって言ってしまったな。まあいいか。

「なんだ、安心」

「血は繋がってませんが」

「お前はアニメの主人公か!」

「高杉先輩には言われたくありません」

 

それで、本題ですが、と話を戻す。

「大学の出張オープンキャンパスみたいな形で、ウチの大学のサークルで何かやってもらえませんか?出店でも、ライブでもなんでもいいんで」

「いきなり大ごとだな」

話が長くなりそうなのを感じたのか、高杉は俺の隣の椅子に座り顎に手をやった、真面目な顔になるあたり、真剣に考えてくれているのだろう。

「やれますよね」

「ちょっと待ってくれよ…」

「卒研、手伝いましたよね?」

「それは…」

二日とは言え、徹夜したのを忘れはしない。

「バイト、変わりましたよね?」

「あれは…」

そのせいで魔王に出会ってしまったのだ。

「やれますよね?」

 

「あーもう、わかったよ!大学とサークル連と他色々に聞いてくるから!ちょっと待ってろ!」

 

そう言ってスマホを操作しながら研究室を飛び出していく高杉。

俺はデスクトップから研究室の共有フォルダに入り、高杉のフォルダから書きかけの卒論を開くと、グラフやら文章やらを修正し始める。

 

「まぁ、直してやるくらいなら教授も怒らないだろ」

 

これで第一関門は突破だ。

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