空っぽ勇者と魔王   作:しゃらく

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長編が間に合わなさそうなので短編を


EX-1. 勇者と魔王とアルコール

 

ある金曜、酔いつぶれた魔王を背負って夜道を歩きながら、この魔王と出会った頃のことを思い出していた。

 

「雪ノ下さん、飲みすぎでは」

「まだまだ」

 

当時、海の見える民宿でバイトをしていた俺の元に、ひとりの女性がやってきた。

驚くほど整った顔立ちの彼女はなぜか一人で、荷物も少なかった。

一人旅ってやつだろうか。

一人が嫌いでない俺は多少の親近感を覚えたが、彼女は一人が好き、というタイプには見えず、想像通り、食後の晩酌に付き合わされていた。

 

この時のことを、雪ノ下はよく覚えていないだろう。

よく見ればスニーカーを脱いだ足はマメでも潰れたのか絆創膏が貼ってあるし、かなり疲れた様子で勢いよくビールなんかを飲むものだから、相当ろれつも怪しかった。

 

後から知ることだが、雪ノ下陽乃は酒に弱いわけではない。

ただたまに潰れたくなる時もあるらしい。

 

「佐倉さんには私がどう見えます?」

「どうとは?」

「そこそこかわいい?」

「世間一般からみたらそうではないかと」

俺は自分をかわいいなんて言ってしまう女子が大嫌いだが、その時の雪ノ下は媚びるような雰囲気がなかったことと、自分で言ってもおかしくないくらいに、彼女は美人だった。

「あなた個人の感想」

「それはタイプかどうかってことですか?」

「そうそう、佐倉さんみたいな人は私みたいなのが嫌いでしょ?」

「…」

「いつも笑ってさ、完璧に振舞って」

「大人なんじゃないですか?」

「本当はそう思ってないでしょ?」

「嫌いではないですよ、多分、少なくとも自分よりは」

「自分が嫌い…か、私もきっとそうなの」

「あなたみたいな人でもですか」

「私はきっと、誰かから見た私でしかない。私ひとりでいる時の私はひどく空っぽで、つまんない人間」

「自分で自分が面白い人なんてそんなにいませんよ」

「佐倉さんは?」

「僕はもっとひどいかもしれませんね。僕は、誰かから見た自分ですらなく、人の夢で作った服を着ているだけの人形みたいなものですから」

「その夢は誰のものなの?」

「手の届かないところにある人です」

「どんな人?」

「長くなりますよ」

 

「いいの、時間はいっぱいあるし、お金もかからないもの」

この時のことを、きっと雪ノ下陽乃は覚えていない。

 

 

 

「誰かに話したのは初めてだったかもなぁ」

「…なんの話?」

「起きてたのかよ、自分で歩けよ」

「やだ、寒い」

「あのなぁ…」

「役得でしょ?」

「もう慣れたよ…」

「えっち」

「はいはい」

いつのまにか雪が舞い始めて来た。

雪ノ下陽乃、相反するイメージの名前を持つ彼女。

まさにぴったりだと思う、人前の彼女と、今のような彼女、どっちが陽の光か最近ようやくわかって来た。

夜道は続く。背中に当たる感触からは気を散らしつつ、軽い身体を背負って俺は家路を急いだ。

 

 

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