ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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この呪文目立ちすぎだと思う


武装解除

 もう今学期に入って何度目になるのか分からない必要の部屋。その内部はオスカー、エスト、クラーナの三人ならば一度は見たことのある仕様になっていた。

 

「すっごい豪華な決闘場ね!!」

 

 トンクスが周りを見回して興奮気味に叫ぶ。確かに、これまで三人で呪文を練習していた実用的な部屋の内装とは違い、色々と意匠がこらされた内装になっていた。

 

「僕は初めてこの部屋に入るけど、やっぱりホグワーツって本当に凄い」

「いやあ、こんなに豪華な場所で一年生から決闘とはね、エスト君とオスカー君が決闘チャンピオンになるのは時間の問題だろうね」

 

 必要の部屋に入るのが初見になるチャーリーとポドモア先生の二人もそれぞれに感嘆の声をあげていた。

 

「いいですかオスカー、貴方が負けるということは貴方に教えた私が負けるのと同じことなんです。腰抜けのオスカーと言われて一生エストのケツに敷かれたくなかったら今日ここで勝つべきなんですよ」

 

 オスカーはクラーナ以外に腰抜けのオスカーという渾名で呼ばれたことはなかったが彼女なりの激励なんだと思うことにした。

 なんだかんだ三ヵ月以上も彼女はオスカーの練習に付き合ってくれたのだ。

 

「ああ、ありがとうな、クラーナ」

「礼はエストに勝ってからにしてください 油断大敵!! ですよ」

 

 そう言ってクラーナはオスカーにウィンクをして、トンクスたちのいる観客席の方へと下がっていった。

 

「何々、クラーナ。今から死にゆくオスカーへの末期のキスはできたの?」

 

 トンクスがまたクラーナの顔に変化してクラーナを煽っている。

 

「あほなこと言っているとインセンディオでそのあほ変化ができないように、顔を焼いてやりますよ」

「オスカーがエストにみじん切りにされないか心配なんですって言えばいいのに」

「こいつ、全然ルーンスプールの件から懲りてませんね!!」

 

 観客席ではもう一件決闘がおきそうな様相だった。

 オスカーはステージの上に立つ。

 前を見れば、エストはすでにステージの上で伸びをしている。以前同じようにここに立った時と違い、彼女の眼には隈がないし、なによりその顔と目は楽しそうに輝いていた。

 オスカーは自然と少し緊張でこわばっていた体が柔らかくなった気がした。

 

「ねえ、エストが勝ったらクリスマスにクラーナと何があったのか教えてくれる?」

「分かった。じゃあ俺が勝ったらクリスマスプレゼントの百味ビーンズを一気食いしてくれ」

「なんかそれ、全然難易度が違う気がするの」

 

 エストはそう言って笑う。観客席からは「オスカー! 負けたら殺しますよ!」とか、「え? 何々、やっぱりクリスマスになんかあったんだ」、「あほが食いついたじゃないですか!! エストも決闘が終わったら覚えておくことですよ!!」みたいな騒々しい声が聞える。

 

「じゃあ二人共準備はいいかな?」

 

 ポドモア先生の麦わら色の髪がゆれる。

 

「危なくなったらすぐに僕が止めさせて貰うからね? じゃあ二人共お辞儀からだ」

 

 二人はステージに立って真っ正面に向かい合い、お互いにお辞儀をした。

 

「俺、オスカー・ドロホフはエストレヤ・プルウェットに決闘を挑みます」

「では、私、スタージス・ポドモアが立会人を務めよう」

「私、エストレヤ・プルウェットはオスカー・ドロホフからの決闘を受けます」

 

 ポドモア先生がステージ脇に下がった。

 オスカーはエストの眼をはっきりと見た。先に呪文を唱えようとしたのは前回と同じくエストだった。

 

「グラディウスソーティア!! 剣よ出でよ!!」

 

 エストが呪文を唱えて前回と同じく、剣を複数召喚する。さらにエストは肥大呪文を剣にかけようとしたが、オスカーは無言で杖を振って剣を粉々に破壊した。

 エストの顔色が変わる。

 

「無言呪文とか反則だと思うな」

「一年生で召喚呪文を使いこなすやつに言われたくない」

 

 そう言ってオスカーは妨害呪文を唱えながらエストへの距離を詰めようとした。

 しかし、エストは妨害呪文をひらりと避けながらまた召喚呪文を唱える。

 

「ルーペスソーティア!! 岩よ出でよ!!」

 

 そう呪文を唱え終わると今度は巨大な岩が召喚され、呪文をあてることができなくなる。

 

「フラグランテ!! 熱せよ!!」

「レダクト!! 粉々!!」

 

 オスカーは呪文に力をこめる為、粉々呪文を発音して唱える。

 エストが熱した岩が粉々になって吹き飛ぶが盾の呪文でオスカーは回避した。

 

「アグアメンティ!! 水よ!!」

 

 エストが熱した岩のかけらに大量の水をかけると、ステージの上は水蒸気で見えなくなった。

 蒸気で隠れられれば、いかに無言呪文といえどもエストを視認していない以上、当てることができない。

 しかし、見えないのは相手も同じだとオスカーは思ったが、召喚呪文を使いこなすエストに時間を与えるというのは致命的だと思い直す。

 

「プロテゴ!! マキシマ!!」

 

 オスカーは盾の呪文を最大に展開して、先ほどエストが見えた場所に走り出した。蒸気の中にエストの赤い目と黒い髪が見える。

 

「グラディウスソーティア!! 剣よ出でよ!! スクートゥムソーティア!! 盾よ出でよ!!」

「エンゴージオ!! 肥大せよ!!」

「オバグノ 襲え!! ロコモーター‼‼ 周回せよ!!」

 

 オスカーがエストに与えてしまった時間で、エストは剣と盾を召喚し終わる。オスカーは無言の粉々呪文と最大展開した盾の呪文で強引に突っ切ろうと試みた。

 エストに時間と距離を与えてはならない、前回の決闘の教訓であり、クラーナと延々に対エストの戦術を練った結論だった。

 エストの傍にある盾に粉々呪文を唱えるのをオスカーは躊躇わない。その躊躇いは決闘の練習に付き合ってくれた二人とポドモア先生、そして目の前に立っているエストへの侮辱に当たるとオスカーは気づいたからだ。

 

「プロテゴ!!」

 

 もう一度盾の呪文を唱えて、浮かんでいる盾と襲い掛かってくる剣をはじき飛ばした。

 オスカーとエストの間にはもう何もなかった。

 次の呪文で勝負が決まる。オスカーはそう思った。

 

「エクスペ……!?」

 

 エストが呪文を唱えようとした瞬間、オスカーの杖から紅色の光線が出て、エストの胸に突き刺さった。

 エストの杖はゆっくりと、半円を描いてオスカーの左手に収まった。

 あたりに立ち込めていた蒸気が収まったのも同時だった。武装解除の光線と同じくらい紅いエストの眼がオスカーを見つめていた。

 エストははっきりと笑った。

 

「オスカーはやっぱり優しいね」

「お前ほどじゃない」

「だから、お前じゃなくてエストなんだってば」

 

 そう言うエストにオスカーは杖を渡す。

 

「ええっと、勝ったのはオスカー君でいいのかな?」

 

 ポドモア先生がいつの間にか二人の傍に立っていた。何か二人の顔を交互に見て、罰の悪そうな顔をしている。

 

「そうだよ、ごめんねスタージス。エスト負けちゃった」

 

 エストがポドモア先生に謝る。そう言えば、エストに決闘術を教えたのはポドモア先生だったのだった。

 

「エスト君の召喚呪文も見事だったよ、ただオスカー君の無言呪文はもっと見事だったということだけさ」

 

 ポドモア先生はにっこり笑ってオスカーとエストを褒める。

 どうも、ポドモア先生はオスカー達に無言呪文を教えたことをエストにバレたくないようだ。

 

「いやあ、ポドモア先生に無言呪文を教えて貰った甲斐はありましたね、オスカー」

「ほんとね、ポドモア先生の教え方が上手かったおかげね」

 

 わざとらしく、クラーナとトンクスがポドモア先生にお礼を言う。この二人はだれかをからかうときには息がぴったりなのだ。

 

「へえ、じゃあオスカーもエストもポドモア先生に決闘術を習ってたのか、僕も習おうかな」

 

 チャーリーがまるで凄い人を見るようにポドモア先生を見る。

 

「なにそれ!! スタージスどういうことなの?」

「いやあ、エスト君だけに教えるのはなんというか不公平というかね?」

「うぅ…… でもやっぱりずるいの」

 

 召喚呪文を自分だけ教えて貰った手前、エストは大きくでれないようだが、その顔が明らかに納得できないと語っていた。

 

「なんでオスカーは勝っちゃうのよ、エストに百味ビーンズ食べさせるより、オスカーとクラーナのクリスマスの方が気になるんだけど」

「ほんとに貴方はどっちの味方なんですか?」

 

 クラーナがあきれた顔でトンクスを見る。

 

「面白くなる方の味方よ」

「やっぱりあほはあほですね」

「じゃあ、クラーナ、オスカーとクラーナのクリスマスロマンスの謎をかけて、私と決闘しない?」

「なんでそんなあほな理由で私が決闘しないといけないんですか? だいたい私が得る物が何もないじゃないですか!!」

「面白いじゃない?」

「私は面白くないですよ!!」

 

 また二人は騒ぎ始める。本当にこの二人は騒いでいないとだめらしい。彼女達一人一人ならまだうるささはましなはずなのだが、乗算でうるさくなるんだろうなとオスカーは思う。

 

「いやあ、これ以上私の胃腸を痛めないように、決闘はちょっと遠慮してくれると嬉しいんだけどね?」

 

 そう言って、ポドモア先生は困った顔をして笑った。

 

 

 

 オスカーとエストの決闘が終わって、ルーンスプールの世話も終わってしまったので、オスカー、エスト、クラーナ、チャーリー、トンクスの五人は中々集まることも少なくなった。

 ただ、そもそも集まる余裕がない時期に突入しようとしていた。学年末のテストである。

 うだるような暑さの中、筆記試験や実技試験が行われた。正直いって、オスカーは呪文学や闇の魔術に対する防衛術、変身術の実技は完璧だったと思った。

 呪文学や魔術に対する防衛術で使用するような呪文は、クラーナとトンクスと一緒に練習した数々の呪いに比べればなんてことはなかったからだ。

 変身術は身近にエストという心強い味方がいた。エストは最早呪文も必要とせず、動物をゴブレットや嗅ぎタバコ入れに変えることができたので、オスカーに付きっきりで変身させるイメージを教えてくれた。オスカーは代わりに無言呪文のイメージを教えることを約束させられた。

 唯一、てこずったのは魔法史だったが、これもなんとか大教室のうだるような暑さに耐えて、乗り切った。オスカーは試験中に十回くらいエストに頼んでアグアメンティを唱えて涼しくして貰おうかと思ってしまった。

 

 そんなこんなで、オスカーのホグワーツでの一年は終わった。

 寮対抗杯ではスリザリンが何年連続かの優勝をしていたが、これはポドモア先生がエストに点数を与えすぎたせいじゃないのかと、グリフィンドール生どころか、四寮全体の一致した意見だった。

 ただ、残念ながらポドモア先生は今年で闇の魔術に対する防衛術を辞めてしまうらしい。

 ポドモア先生曰く

 

「ちょっとホグワーツは寒すぎたので、南の海でバカンスに行ってくる」

 

 らしいが、グリフィンドール出身なのにスリザリンに点数を与えすぎたので、ホグワーツに居づらくなったのじゃないかと専らの噂だった。

 

 試験の結果も出たが、予想通りにオスカーはほとんどの教科を難なくパスすることができた。特に実技がある教科はほとんど最高の評価を貰えていたし、薬草学や魔法薬学も隣に座っているエストのおかげか最高から一つ下だが、十分な結果だった。

 隣のエストの結果を見ると、大方の予想通りに全ての科目で最高の評価を貰っていて、学年トップの成績なのは間違いがなかった。

 

 ハグリッドが操る湖を渡る船に乗って、一年生は全員ホグワーツに特急が止まる駅へとたどりついた。オスカー、エスト、クラーナ、チャーリー、トンクスの五人はハグリッドにさよならを言った。チャーリーは何か、来年も面白い動物を飼いたいとハグリッドと話していたので、オスカーは少し嫌な予感がした。

 あの二人のカワイイは他のみんなと違う概念だということをこの一年で思い知ったからだ。

 

 五人はコンパートメントでエストに決闘の約束通りにバーティ・ボッツの百味ビーンズを一気食いさせたり、今年一年の思い出、ルーンスプールのことなんかを語りあった。

 オスカーはエストやクラーナと出会ったホグワーツ特急に乗ったのが遠い昔のように思えた。

 楽しい時間はあっという間に通り過ぎて、キングズ・クロス駅の九と四分の三番線にホグワーツ特急はついてしまった。

 学生で込み合っていたのでプラットホームに出るには少し時間がかかった。

 

「ね? 夏休みはみんなで隠れ穴にいかない?」

「何ですか? 隠れ穴って?」

「僕の家のことだよ、ちょっとしたらみんなに招待のふくろう便を送るよ」

「いいわね、面白そう」

「オスカーも来るよね?」

「ああ、まあ闇祓いから許可がでたらだけど」

 

そうこう話ながら五人は改札の外にでた。

 

「いい一年だった?」

 

 チャーリーを思わす赤毛を持った女の人の、エストとどこか似ているような優しい声が聞えた。

 

「うん、友達も一杯できたし、いい一年だったと思うな、モリーおばさん」

 

 とエストが答えたので、オスカーには目の前の人物が誰なのか分かった。

 

「でも、モリーおばさんのセーターをオスカーはクラーナにあげちゃったんだよ?」

 

 エストが咎めるようにオスカーとクラーナを見る。

 

「ちょっとエスト! その話は止めてくださいよ!!」

「あらあら、本当に貴方達仲がいいのね、セーターがみんなが仲良くなる理由になったんなら素晴らしいことだわ」

 

 そう言って、モリー・ウィーズリーはオスカーにウィンクした。いつか見たエストのウィンクとそっくりだとオスカーは思った。

 

「セーターありがとうございました。少ししか着れませんでしたけど、凄くあったかかったです」

「まあ、どういたしまして」

 

 モリー・ウィーズリーはそう言って笑ったが、その顔からどうしてエストがあんな性格になったのか少しだけ分かった気がした。

 

「オスカー、準備はできたかな?」

 

 オスカーの背後から、深みのある、人を安心させるような声が聞えた。

 背が高く、肩幅の大きな黒人にも関わらず、威圧感を与えないその人物はオスカーを見張るために魔法省から派遣された闇払いだった。

 

「はい、いつでも大丈夫です」

 

 そう言ってキングズリー・シャックルボルトにオスカーが返すと、クラーナがオスカーを引っ張った。

 

「ちょっとオスカー、あなたの見張りの闇祓いってキングズリー・シャックルボルトなんですか?」

「ああ、ずっとそうなってる」

「結構な有望株だって、アラスターおじさんが言ってましたよ、スクリームジョールの次はあいつが中心になるだろうとかなんとか」

 

 確かにキングズリー・シャックルボルトは見張られているオスカーからしても、そつがなく実に有能な人物だった。

 死喰い人の子供であるオスカー本人にも正面から向かい合ってくれる人物であるし、魔法省が大っ嫌いなドロホフ家の屋敷しもべ妖精もキングズリーのことは認めているくらいだ。

 伝説の闇祓いであるアラスター・ムーディから評価されてもおかしくないとオスカーも思う。

 

「オスカーのご家族ですか?」

 

 モリー・ウィーズリーがキングズリーに尋ねる。

 

「難しいところですが、保護者という面では間違っていないでしょう」

「では、オスカーを夏休みにウチの家に招く許可を頂けますか? 恥ずかしながら、姪がどうしてもと言ってきかないので」

「魔法省に一度、許可を貰わねばなりませんが、アーサー・ウィーズリー氏のお宅なら間違いなく許可がでることでしょう」

 

 二人の後ろでエストとチャーリーがガッツポーズをした。

 オスカーも心の中でガッツポーズをした。

 

 

 

 


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