ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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なんで隠れ穴って名前なんだろう?


隠れ穴

 隠れ穴での生活はドロホフ邸とはまるで違っていた。ドロホフ邸ではオスカーとペンス以外は時々やってくるキングズリー以外は誰もいなかったし、一人でいることがほとんどだった。

 しかし、隠れ穴では寝ているときには隣にチャーリーがいたし、起きる時から寝るときまで常にだれかと一緒だった。

 オスカーが不思議だったのはウィーズリー家の誰もがオスカーと話したがっていることだった。アーサー・ウィーズリーとモリー・ウィーズリーはまずオスカーが着いたときに自分たちのことをおじさん、おばさんと呼んでほしいと言ってきたし、チャーリーの兄のビルもオスカーには好意的だった。

 とにかく、ウィーズリー家の誰もがエストと仲良くなったオスカーのことを知りたがっているらしかったのだ。

 

「つまり、オスカーはエストに決闘でボコボコにされたってことかい?」

 

 昼食の時間にウィーズリーおじさんとビルとオスカー、クラーナはエストとオスカーの決闘の話をしていた。ラジオからはセレスティナ・ワーベックの歌が流れている。

 

「そうです、あの時のエストはなんの容赦もなかったですね、あとちょっとでオスカーはそこのハンバーグみたいになっていたと思います」

「まああんまり否定はしないけどさ……」

「うむ…… なんというか、エストはモリーに似たみたいだね……」

 

 ウィーズリーおじさんはなにやら神妙な顔もちだ。

 

「父さんも母さんとそういう経験があるってこと?」

「いやあまあ、その、モリーとのデートをメリィソート先生の罰則を食らって受けられなかったときは恐ろしいことになったね」

 

 ウィーズリーおじさんは無意識のうちに何か肩をさすっている。

 

「あの時の呪いで父さんの肩は未だに変な動きをするというか、なんというか」

 

 オスカーはクラーナと目を合わせ、これからはできるだけエストを怒らせないようにしようと思った。

 

「クラーナ!! オスカー!! 外に遊びにいこうぜ!!」

「いこうぜ!!」

 

 話していると後ろから瓜二つな声がかけられる。チャーリーの弟のフレッドとジョージだ。二人はまだホグワーツに入れる年齢ではなかったが、すでに手が付けられないほどのやんちゃ坊主だった。

 

「トンクスが庭小人の面白い遊び方を教えてくれたんだ」

「一緒にやろう!!」

 

 さらになお悪いのは、クラーナとトンクスが二人にさらに悪知恵を教え始めたということだ。チャーリーとオスカーはすでに何回も、クラーナ、トンクス、フレッド、ジョージの悪戯に巻き込まれていた。この四人を抑えることができるのはウィーズリーおばさんと怒った時のエストだけだった。

 

「ふっ…… あほのトンクスの浅知恵がどれほどのモノか確かめてあげましょう。オスカー行きますよ」

「ああ、じゃあちょっと失礼します」

 

 と言って二人が席を立とうとした瞬間、何羽ものふくろうが部屋に入ってきた。ウィーズリーおじさんが手紙を受け取って、ビル、オスカー、クラーナに手渡す。

 

「学校からの手紙だね、ダンブルドアは君たちがここにいることもお見通しというわけだ」

 

 手紙は黄色い羊皮紙にオスカーとクラーナの名前がそれぞれ書かれている。

 

「フレッド、ジョージ。チャーリー、エスト、トンクスを呼んできてくれるか?」

「合点承知!!」

「パパ、了解!!」

 

 そう言って双子は別々の方向に飛び出してった。

 少しの間、居間は手紙を読んでるため静かになった。そうこうしているうちに大量の洗濯モノを持ったウィーズリーおばさんとフレッドとジョージに呼ばれたみんながやってきた。

 エストはなにやらチャーリーのもう一人の弟、パーシーに教科書の内容を教えているようだったし、トンクスとチャーリーは何か泥だらけだった。

 

「あら学校からお手紙が届いたのね、アーサー、みんなを連れてダイアゴン横丁に行ったらどうかしら?」

「ああモリー、そう言おうと思っていたところだ。ロンとジニーの面倒を頼めるかい?」

「大丈夫よ、アーサー」

 

 ということで、ウィーズリー家と愉快な仲間たちは煙突飛行粉でダイアゴン横丁へと買い物をする予定になった。

 

「さあ、お客様からだね、オスカー お先にどうぞ」

 

 そう言って、オスカーはウィーズリーおじさんから煙突飛行粉の鉢を突き出された。少しだけ、オスカーの後ろでなにやら話し込んでいるトンクスとフレッド、ジョージが気になった。

 

「じゃあお先に失礼します。ダイアゴンよこ……!?」

「ちょっと押さないでくださいよ‼? うわっ」

 

 オスカーが煙突飛行粉を投げて、エメラルド色の炎にダイアゴン横丁と言おうとした瞬間、フレッドとジョージがクラーナごとオスカーを暖炉の中に押し込んだ。

 エメラルド色の炎の中に二人は回転しながら飲み込まれていった。後ろにクラーナの感触があったが、そもそもダイアゴン横丁と最後まで発音できなかったのではとオスカーは思った。

 回転が長い間続き、いくつも暖炉を通り過ぎたように感じた。気づくと二人は埃と煤だらけの暖炉に放りだされていた。

 

「ほんとにあのあほのトンクスはろくなことをしませんね」

 

 オスカーは石畳みに放り出された衝撃で思いっきり額を打っていたが、少なくとも自分の体自体は五体満足だと確認できた。

 目の前のクラーナは肩を打ったのか、痛そうに片方の手を当てている。だがそれ以外は大丈夫そうだった。

 

「オスカー大丈夫ですか? 普通に額から血がでてますよ?」

「そうなのか? まあそれよりとりあえずここから出た方がよさそうだ」

 

 オスカーはローブの袖で額の血を拭った。周りを見回すと少なくとも、ホグワーツの一年生では使うことはないような怪しげな物品が並んでいた。

 緑色のネックレス、しなびた白い手、あやしげな棚…… オスカーは魔法の道具に詳しくなかったが、これらの物品が生易しいモノではないことくらいは分かった。

 

「クラーナ、とっとと通りに出よう」

「そうですね、私たちが教科書を買えるような店ではないみたいです」

 

 店の外にでてもここがどこなのかはよくわからなかった。怪しげな物品を販売する店がいくつも並んでおり、通り過ぎる人もどこか脛に傷がありそうな人ばかりだった。

 木の看板にはノクターン横丁と書かれている。

 

「クラーナ、ノクターン横丁って知ってるか?」

「ええ、ダイアゴン横丁に隣接する、闇市場みたいな場所のはずです」

「つまり、その辺を歩いてても戻れるかもしれないってことなのか?」

「まあ戻れるんじゃないですかね、帰ったらトンクスを灰まみれにしてやりますよ」

 

 そう言って二人で歩いていくが、明らかに低学年の二人組は浮いていて、ノクターン横丁を歩く人々はオスカーとクラーナを指して、なにかぶつぶつ言っているようだった。

 

「陰気な場所ですね、死喰い人のドロホフに文句があるならかかって来いって言いますか?」

「ムーディの名前の方が効果的だと思うけどな」

「クラーナ!! オスカー!! おまえさんたち、こんなとこで何しちょるんか?」

 

 オスカーとクラーナはその大声に飛び上がった。後ろを見ると見間違うはずのない大男、ホグワーツの森番のハグリッドが近づいてきていた。

 ハグリッドはオスカーとクラーナをひょっと持ち上げてそのまま運び始めた。まもなく、日の光とフォーテスキューのアイスクリームの看板、グリンゴッツ銀行が見えてくる。

 

「お前たち一体ノクターン横丁なんぞで何をしとった? 特にオスカーはあんなとこにいると不味いことになるかもしれん」

「私たち、あほのトンクスに暖炉飛行を妨害されて、出る暖炉を間違えたんですよ、ハグリッド」

 

 クラーナがハグリッドに説明する。確かに、キングズリーの見張りが無い状態であんな場所で捕まったりすれば不味いことになっていたかもしれないとオスカーは思った。

 

「まあなんでもええが、誰かと一緒だったんか?」

「チャーリーの父親と一緒にダイアゴン横丁を回るはずだったんだけど」

「アーサーか? まあそれならアーサーがくるまで俺と一緒におった方がええ」

「そのほうがいいでしょうね、なによりハグリッドと一緒なら目立ちますから」

 

 そう言って二人はハグリッドについて歩き出した。

 

「ハグリッドはなんでノクターン横丁にいたんだ?」

「俺はあれだ、その、卵とか色々…… まあほんとはレアの付き添いで来てたんだが、マルキンの店で時間がかかるっちゅうから……」

「卵?」

「大丈夫、何も買っちゃいねえ、ほれ、マルキンの店でレアが待っちょる」

 

 オスカーは去年のルーンスプールもノクターン横丁でハグリッドが卵を購入したのではないのかと思った。

 

「レアって誰ですか?」

「今年、ホグワーツに入学するイッチ年生で、家族がいないから俺がついてきとる。去年のクラーナと一緒だ」

 

 オスカーは去年のことを思い出した。去年はキングズリーに付き添われて、教科書や大鍋何かを購入したのだ。キングズリーが見張りでなければ、オスカーもハグリッドに付き添われていただろう。いやそもそも入学できていたのかも怪しいものだとオスカーは思った。

 

「ふーん、男ですかそれとも女?」

「女の子だ」

 

 マダム・マルキンの店についた。ハグリッドのことを待っている女の子は店の前にはいないことから、まだ採寸中なのだろうかとオスカーは思う。

 するとドアが開いて、目の覚めるような金髪だが、男の子と見間違うような短髪をした女の子がでてきた。

 

「おお、レア終わったか?」

「ああ、待たせてごめんねハグリッド」

「全然待っとらん、それにこの二人共に会えたしな、ほれレア挨拶するんだ。ホグワーツの先輩だぞ」

 

 そうハグリッドが言うと、女の子がオスカーとクラーナの方を見た。笑顔で挨拶をしてくる。

 

「ああどうも、ボク、レア・マッキノンです。今年からホグワーツなんで、よろしく、先輩?」

 

 マッキノンと言う名前を聞いて、オスカーは思い出した。マッキノン。プルウェットと同じく、死喰い人の襲撃にあって一家がほぼ皆殺しにされた純血の一族だ。

 クラーナも同じく反応していて、オスカーとエストに初めて会ったときのような、獲物を見るような、値踏みするような目をしていた。

 

「ええ、よろしくお願いしますよ、私はクラーナ・ムーディです、こっちの男と一緒でホグワーツの二年生になります」

 

 そう言うとクラーナはもっと面白いことが起こるぞ、という目でオスカーの方を見てくる。間違いなく、ドロホフと名乗った時に目の前のレアがどういう反応をするのか楽しみなのだろう。

 

「オスカー・ドロホフだ。ホグワーツの二年生で寮はスリザリン。こっちのクラーナはグリフィンドールだけどな」

 

 効果は劇的だった。オスカーの口からドロホフと出た時点で、レアの顔色は真っ赤に変わり、眼を剥いてオスカーを凝視している。手はぷるぷると震えて、さっきマルキンの店で買ったであろう制服のローブを取り落としそうだ。

 さらに彼女が杖を持っていないにも関わらず、通りの木の葉やごみが舞い上がり、四人を取り巻く渦のようになっている。幼少期に見られるような魔力の暴発に近い現象が起こっていた。

 つまり、彼女は魔力が暴走しそうなほどの激情に駆られていることが外から見ても分かった。

 

「おやおや、これは一番の反応なんじゃないですか? オスカー、好かれてますね」

「なんで闇祓いの家の娘と死喰い人の息子が一緒にいるんだ‼ だいたいグリフィンドールとスリザリンは憎みあってるんじゃなかったのか‼?」

「私が誰と一緒にいるかは私が決めることです。家だとか寮だとかどうでもいいことですね」

「家がどうでもいいだと‼? ふざけるんじゃない‼‼」

「なんですかボクちゃん? 私が自分の家やオスカーの家のことをどう思っていようと貴方には関係のないことですよ」

「クラーナ、やめろ」

 

 クラーナに任せておくと、このままレアは爆発しかねない状態だった。割と人通りのあるダイアゴン横丁を行き交う人々が四人をじろじろと通り過ぎる振りをして見ている。

 ハグリッドはこんな展開になることを予想できなかったのか、後ろでオロオロしている。

 

「あっ、アーサーおじさん、あれハグリッドとオスカー達なの」

「おおっ本当だ。良かった。見つからなかったら私がモリーに消失させられてしまうところだった」

 

 後ろから、エストとウィーズリーおじさんがやってきていた。オスカーはなんとかなりそうだと思った。

 

「やあハグリッド久しぶりだね、おや? 君はもしかして、マッキノン家の……?」

「やあアーサー、今レアを二人に紹介しようとしたところだったんだが、なんか相性が悪かったみたいでな……」

 

 ハグリッドとウィーズリーおじさんがレアのことを話に出してもレアはクラーナの方を睨みつけている。

 

「ねえ? 二人共、その娘はだれ?」

 

 エストがなんの空気も読まずにクラーナとオスカーに尋ねる。クラーナはさらに面白いことになったとばかりの表情になった。オスカーは嫌な予感がした。

 

「おやエスト、そうですね紹介しましょう。こちら、ホグワーツの新入生、レア・マッキノンだそうですよ」

 

 そう言ってエストの目線がレアを捉える。レアの方は未だにクラーナを睨んでいる。

 

「新入生なの? エストはエストレヤ・プルウェットだよ? スリザリンの二年生になるからよろしくね?」

 

 今度の反応はもっと劇的だった。エストの名前を聞いた瞬間にまるで電球が切れたようにレアの顔色は真っ青になり、その両目は目の前のものが信じられないとばかりにエストとオスカーの間をゆらゆらしている。ぶつぶつと小声で何か言っており、「プルウェット」とか「ドロホフ」とかあり得ないとかが聞えてくる。

 オスカーはレアが本当に不味い状態にあると思った。

 

「ハグリッド、マッキノンは次の買い物があるんじゃないのか?」

「おおそうだったな、ほれ、レア、オリバンダーの店に行くぞ」

 

 ハグリッドはレアを片手でひょいっと持ち上げて連れて行ったが、その間もレアの顔色は変わらず、ぶつぶつと何かを言っているようだった。

 

「あれ? いっちゃった。エストなんかしたかな?」

「クラーナが悪い」

「なんですかそれ、だいたいの原因はオスカーの名前ですし、私はオスカーの為を思ってマッキノンに忠告したというのに」

「どう見ても面白がっている顔をしてただろ」

「なんなの、またオスカーとクラーナがわかんない話してるの」

 

 エストまで怒りだしてしまった。オスカーにはお手上げだった。

 

「まあ、ハグリッド達は行ってしまったみたいだし、みんなと合流して買い物を始めようか?」

 

 そう言ったウィーズリーおじさんについてオスカー達は買い物を始めた。オスカーはその日間中、レアの顔や表情が忘れられなかった。

 

 

 




※マッキノン家
原作中ではヴォルデモート没落直前に全滅したと言われる家。
原作中で判明している人物はマーリン・マッキノン。

※マーリン・マッキノン
不死鳥の騎士団創立メンバー。
原作中ではトラバースら、死喰い人に襲われ殺害される。
リリーのシリウスに宛てた手紙では訃報を聞いて一晩泣いたとある。

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