「後で絶対どんなのだったか教えてよ?」
「ああ、まあ生きてる奴が行って楽しいものなのかは分かんないけどな」
「絶命日パーティ自体もそうだけど、髪飾りの方もだよ」
「まあ寮に帰ったら私が談話室で話しますよ」
クラーナがやれやれという顔をしてチャーリーに言った。
「絶対だよ? クラーナ」
「チャーリーが練習から帰ってくる時間に眠くなってなかったらいますよ」
「クラーナそれ絶対寝る気満々でしょ?」
「失敬な、あほのトンクスと違ってほんとに眠くなかったらいますよ」
「絶対寝る気なの」
そういって、チャーリーをクィディッチの練習に四人は送り出した。ちなみにチャーリー、エスト、トンクスの三人は無事クィディッチの選抜に合格した。
チャーリーとエストはシーカー、トンクスはチェイサーになるらしい。オスカーはそれを聞いて、クィディッチの試合の際にどのチームを応援するかが難しくなると思った。
「で、太った修道士の絶命日パーティっていうのはどこでやるんですか?」
「地下牢だって、こういうのは地下牢みたいな雰囲気のある場所でやるのがゴーストの常識らしいよ」
トンクスが答える。トンクス先生に聞いた後、トンクスが太った修道士に聞いたところ、直近で太った修道士の何百年目かの絶命日パーティを行うことが分かったのだった。
「魔法薬の授業といい、スリザリンの寮といい、地下牢にはそういうのを集めるなんかがあるんですかね?」
「もう、なんかってなんなの? そもそもなんでクラーナはスリザリンの寮の場所を知ってるの?」
「油断大敵です」
地下牢に向けて歩きながらクラーナが答える。
「答えになってないだろ」
「敵の本拠地は知っておかなければならないんですよ」
「こんなこと言ってごまかしてるけどほんとはオスカーの寝室を襲撃するためでしょ」
「意味わかんないこと言わないでください」
こんどはクラーナがやれやれとトンクスの方を見た。
「そもそも合言葉がわかんないと入れないの」
「どうせ純血とか聖二十八の一族とか穢れた血とかその辺でしょう?」
「ええ!? なんで知ってるの?」
「オスカーと秘密で会うためにお互いに教え合ってるとか?」
「しばきますよ、適当に言っただけですよ」
なぜかそのあとオスカーが二人に問い詰められたが、そもそも多分クラーナは本当に適当に言っただけなので、オスカーには答えようがなかった。
絶命日パーティに出席するため、四人は地下牢へ進んでいたが、地下牢へと続く道はいつもと違いなにやら黒い蝋燭に青い炎を灯して飾り付けられていた。
「やっぱり、レイブンクロー寮に関連するゴーストに聞くのがいいのかな?」
「まあ普通に考えるとそうだよな」
「レイブンクローの寮霊は灰色のレディだったっけ?」
「そうですけど、一概には言えないんじゃないですか? むしろ千年前からホグワーツ城にいるゴーストとかに絞ったほうがいいんじゃないですかね」
オスカーは確かにもし、創始者たちと同じころからいるゴーストがいるのなら、簡単に髪飾りの場所がわかるのではないかと思った。
「そんな昔からゴーストがいるのかな? ニックも太った修道士もそんなに前の人じゃないよね?」
「そうですね、ニックは十四世紀だか十五世紀だかに死んだとか言ってた気がします」
「太った修道士も何百回目とか言ってたから、そんなに前じゃないわね」
地下牢へと足をさらに進めると四人は凄い勢いで温度が下がってきているのを感じた。オスカーは寒さを防ぐためにローブから体がでないようにした。
地下牢の方から、非常に耳障りなガラスを金属でこするような、黒板を爪でひっかくような音が聞こえてくる。
「めっちゃ行く気なくなってきたんだけど」
トンクスは身震いして、やる気のない顔をした。
「貴方が取り付けてきたんでしょう。主賓なんだからしっかりしてください」
「私まだ生きてるから招待に値しないんじゃないかな」
「四人共生きてるの」
「太った修道士がこっちに手を振ってるな」
地下牢の中は文字通りに現実の世界とは思えない光景だった。
何百もの真珠色のゴーストが浮かび、ダンスやら談笑なんかをそれぞれがしている。地下牢は道中にあった青い蝋燭と真珠色のゴーストで全体が青白く光っているのだ。
ステージの上にはノコギリで耳障りな音楽を演奏している一団がおり、その横で太った修道士がオスカー達に向けて手を振っていた。
「凄いわね、デットテッドマンションみたい」
「なんですか? デットテッドマンションって?」
「マグルの映画よ、こんな風にゴーストが一杯でてくるお話があるのよ」
「へえ、映画ってのはなんなのかよくわからないですけど、マグルにはゴーストなんて見えないのに不思議ですね」
「そんなの私にだって分からないわよ、てかめっちゃ寒いわ」
「それには同意するの」
「早く話を聞いて帰らないと俺らもゴーストの仲間入りしそうだな」
四人はブルブルと震えながら、話を聞くゴーストを探そうとしたがそもそもゴーストが多すぎて誰に話かければよいのか皆目見当がつかなかった。
しばらくあてもなく歩いてみたが、ゴースト達は生きている四人に驚いたり、自分の首でポロを始めたり、足と手を交換した状態で歩いていたりとどんどん四人の精神力を奪って行った。
すると、明らかに他のゴーストとは毛色の違う、けばけばしいオレンジ色のパーティ用の帽子を被ったゴーストが現れた。
「あれ、ピーブズじゃないんですか?」
クラーナがそう言うとピーブズはこちらを振り向いた。最初は意地の悪いニヤニヤ笑いをクラーナに向けていたが、その横のオスカーを見ると微妙な顔になり、エストの顔を見るとめったに見せない緊張した顔になった。
「姫様はなぜこんなところに? 男爵様はいらっしゃいませんが?」
ピーブズは直立不動の敬礼をエストに見せながら訪ねた。相変わらずエストには逆らえないらしい。
「エスト達はね、失われた髪飾りっていうのを探してるの、それでゴーストさんに聞こうと思ってきたんだよ」
「失われた髪飾りですか? ピーブズめは存じあげません」
そういってピーブズは後退して、消えようとしたがエストが引き留める。
「ピーブズ待つの。千年くらい前からいるゴーストって誰がいるのかな?」
「ピーブズめが存じ上げているのは男爵様とレイブンクローの姫様です」
「男爵様って血みどろ男爵ですよね? レイブンクローの姫様って誰なんですか?」
クラーナがそう聞くとピーブズはさらに怯えているというか、恐れ多いというか、おおよそピーブズに似つかない顔をした。オスカーがピーブズのそんな顔を見たのは、入学時にエストにちょっかいを出した瞬間に血みどろ男爵が激高したときだけだった。
「ピーブズめの口からは恐れ多いですが、レイブンクローの姫様とは灰色のレディと呼ばれている方のことです」
「なんで姫様なの?」
「それは灰色のレディがホグワーツ城主のお嬢様だからです」
一瞬の沈黙があった。今ピーブズは重要な事実を言ったのは間違いがなかった。オスカー達が探していたのは失われた髪飾り、ホグワーツ創始者の一人、ロウェナ・レイブンクローの持ち物だった。
「それって、灰色のレディがロウェナ・レイブンクローの子供ってことなの?」
「そうピーブズめはうかがっております」
「灰色のレディは今日ここに来てるの?」
「レイブンクローの姫様がこのような場所に来られるとは思いません。生者である姫様がこのような場所に来られていることにもピーブズめは驚いております」
四人は顔を見合わした。衝撃の事実だった。間違いなく、灰色のレディならば失われた髪飾りがどうなったのか知っているはずだと考える。なにせ所有者の子供なのだから。
ピーブズは四人が事実を受け止めている間に消えていった。男爵にエストと話しているのを見られれば、とんでもないことになるかもしれないと思っているのだろう。
「とりあえずここから出ない? 寒すぎてとてもじゃないけど何も考えれないんだけど」
「俺もそう思う」
トンクスとオスカーが震えながらそう言って、オスカー達は絶命日パーティを後にした。
地下牢から離れると体の芯から震えるような寒さはなくなり、四人はホッと一息をついた。
「で? 灰色のレディがレイブンクローの娘だってことが分かったわけですけど、とりあえずレディを探せばいいんですかね?」
「そうよね、そりゃあ持ち主の娘ならどこにあるか知ってるんじゃないの?」
「でも、灰色のレディはレイブンクローの寮霊だよね? エストがレイブンクローの生徒なら絶対最初に聞くと思うな」
「聞いたところで教えてくれるとは限らないってことか」
そう言いながら、あてもなく歩いていた四人はいつの間にか玄関ホールについていた。
ちょうどレア・マッキノンが校庭から玄関ホールを通って中に入ってきた。
「おや? マッキノンじゃないですか、ダイアゴン横丁ではお世話になりましたね」
クラーナがそうレアに声をかけると、レアは可哀想になるくらいにビクッと反応した。
「クラーナが喧嘩売るから怯えてるじゃないの」
「ダイアゴン横丁では向こうから喧嘩売ってきたんだから問題ないでしょう」
「問題しかないだろ」
しかし、オスカー達がそうやりとりしている間もレアはびくびくしており、ダイアゴン横丁で見られたような威勢の良さや自信のようなものが見られないとオスカーは思った。
「ねえ? レアはレイブンクローだよね? 灰色のレディがどこにいるかって知ってる?」
「灰色のレディ? ですか? 時々、天文台の塔じゃない方の塔で話を聞いてもらっているので、今日もそこにいると思いますけど……」
「レアってもしかして、灰色のレディと知り合いなの?」
「ボクはレイブンクローにしては…… その…… あんまり魔法ができないから、そしたら灰色のレディが話しかけてくれたんです」
エストが尋ねると、おずおずとレアは灰色のレディとのいきさつを話してくれた。
確かに、知識や成績偏重のレイブンクローでは魔法に対する実績がないと追い詰められてしまうのだろうとオスカーは思った。
「マッキノンと言えば、ちょっと前までは魔法界でも指折りの名家だったはずだと思ってましたけどね」
クラーナがそう言って、またレアに視線を向けるとレアはまたビクッと体を震わせた。唇は嚙みしめられていて、こぶしはぷるぷると震えている。
「クラーナうるさいの、ねえ今エスト達は灰色のレディに会いたいと思ってるんだけど、紹介してくれる?」
「そうね、灰色のレディに会わせてくれない? クラーナはなしでいいから」
「いいですけど……」
そう二人がクラーナをぞんざいに扱うとやっとレアは少しだけ笑った。それでもクラーナとオスカーの方を見ようとはしなかったが。
「いいじゃないですか、私たちが探しているのは失われた髪飾りですからね、マッキノンの成績もあがるんじゃないですか?」
「失われた髪飾り?」
「レイブンクローがつけてた髪飾りのことなの、なんかつけると頭が良くなるらしいの」
「先輩たちは成績をあげたいんですか?」
「エストの成績をこれ以上上げようとするんなら、まず成績の上限を上げないとだめだろうな」
「それには同意するわ」
「面白そうだから見つけようとしてるだけなの」
五人はレアの先導に従って天文台ではない方の塔へ向かっていた。確か三年生では占い学か何かをやるための塔のはずだった。
今日は太った修道士の絶命日パーティのせいか、ホグワーツのゴーストはほとんどいなかったが、肖像画は別だった。
「小さな少女よ! 今宵もまた知恵ある姫に迷いを打ち明けるのか?」
「ついてこないでください‼‼」
「少女よ、その刃を抜き放ち、世間にその勇気を示すのだ! さすれば迷いはなくなり、道は開けるであろう!!」
「だからついてこないでってば‼‼」
カドガン卿と書かれた肖像画からずっと肖像画を渡り歩いてついてくるその人物は、なにやらレアに向けて叫び続けている。
「めっちゃうるさいんだけど、どうにかならならないのこれ?」
「そうですよ、マッキノン、どうにかしてください」
「そんなこと言われても、カドガン卿はどうにもならないよ、ボクがここにくるといつもこうなんだ」
レアは困り果てている顔だった。このカドガン卿とかいう肖像画は隣の肖像画が迷惑しているのも無視してレアを追いかけてくるのだ。終いには馬や鎧を落としても追いかけてきた。
「友に心を打ち明けることこそ、戦場に出向くことに匹敵する本当の勇気の一つである!! さあ、紳士、淑女諸君!! 進め、進むのだ!!」
塔の階段を上り、肖像画がない場所になってやっと、オスカー達はカドガン卿を振り切った。最上階と思わしき場所に出ると、天文台やグリフィンドールの寮があるであろう塔。黒い湖や禁じられた森といったホグワーツをあらゆる場所が見渡せる場所だった。
「いい場所ですね」
「そうだな、ホグワーツの全部が見える」
そろそろ日が沈み始めようとしており、ホグワーツは茜色に包まれようとしていた。
「レディ? レディ? いますか? ボクです。レア・マッキノンです」
レアが四方に向かって声をかけて、灰色のレディを呼ぼうとしている。オスカー達もどこからでてくるのかと思い、それぞれに別の方向を見回した。
「レア、今日はお友達が沢山いるのね」
声が聞えた。どこから聞こえたのかオスカーにはすぐに分かった。灰色のレディと思わしきゴーストは塔の床下から現れた。
オスカーはそのゴーストは幾回か廊下で通り過ぎたのを見たことがあったが、ちゃんと顔を見たことはなかった。
そのゴーストは長身で長い髪と床まで続く長いマントを着た、確かに美しいゴーストだった。
そして顔をみると、なぜ血みどろ男爵やピーブズがエストのことを姫と言っていたのか分かった気がした。
※カドガン卿
間抜けで恐れを知らない騎士の肖像画。
原作中ではシリウス・ブラックに襲撃された太った婦人のかわりを務めた。