オスカー、エスト、クラーナ、チャーリー、トンクスは目の前の光景に圧倒された。五人はホグワーツでここまで巨大な空間に出会ったことはなかった。
そびえ立つ壁のような何かが積み上げられ、遥か高くにある天井そばの高窓から日差しが優し気に差し込んでいる。よく見ると、その積み上げられたものが雑多な物品だと分かる。
もし、これがエストの言うように、ホグワーツの住人が隠したいものを隠す場所ならば、あの物品は千年にもわたって隠され、積み上げられたものであり、この部屋はまさにホグワーツの歴史そのものだとオスカーは思った。
「凄いの、こんなにみんな隠したいものがあったんだね」
「ほんとね、私もなんかやらかしたらここに来ることにするわ」
「流石に必要の部屋もトンクスは吐き出すでしょう」
「人間隠してどうするんだ」
「うわ‼ これ、もしかしてキメラの骨じゃないのかな……」
何千、何万冊もの本、そのどれもが何やら血痕やどす黒い染みがついていたり、そもそもカバーが明らかにヤバイ革を使って作られていたりと禁書か盗品の類と思われるものばかりが置かれている。
折れた箒が空を飛んでいたり、何か魔法薬がまだくすぶっている大鍋、半分だけ透明なマント、今まさに首を切り飛ばした後のような血がついた斧、ありとあらゆる禁じられた物品があるような場所だった。
「もし、失われた髪飾りがあるとしても、この中から探すのは難しいんじゃないのか?」
「うーん、こんなに一杯色々あるとは思わなかったの、アクシオ‼‼ 髪飾りよ来い‼‼ うーん、ダメみたい……」
エストが呼び寄せ呪文を唱えたが、エストの声だけが巨大な空間に木霊して何かが動く様子はオスカーには感じ取れなかった。
「そういう重要な物品や、武器、透明マントなんかには呼び寄せ呪文は効かないでしょうね」
「じゃあ、この山の中を探さないといけないってこと?」
「ざっと見て千年分はありそうだよね」
「多分ほんとに千年分あるぞ」
オスカー達は千年分の山を見て途方にくれたが、何もしないわけにもいかないのでとりあえず探し始めることにした。
「失われた髪飾りってどんな特徴があるんだっけ?」
「銀色で、計り知れぬ英知こそ、われらが最大の宝なり! って書いてあるんじゃないんですか?」
「そうなの、それで青い宝石が真ん中についてるってレイブンクローの寮で見てきたの」
オスカーはレイブンクロー寮へ一緒に連れてかれたことを思い出した。だがあの方式だとちょっと賢い人なら誰でも談話室に入れてしまうのではないだろうか? オスカーは合言葉の方が安全な気がした。
「へ? どうやってエスト、レイブンクローの寮に入ったのよ」
「レイブンクローの寮の合言葉はなぞなぞだったから、簡単に入れたの」
「へえ、レイブンクローは合言葉じゃないんだね」
「いやいやおかしいでしょう、私はスリザリンの合言葉を当てただけで、なんかからかわれたのに……」
五人の騒ぐ声が巨大な空間に響いていたが、そもそも部屋が大きすぎて全然見つかる気はしなかった。
「そう言えば、なんで髪飾りって銀色なんだろうね?」
「銀色がどうかしたのか?」
「だって、レイブンクローの寮の色は青と銅なの、銀はスリザリンの色じゃない?」
「確かにレイブンクローの色ではありませんね、まあただ単にゴブリンの銀を使っただけな気もしますけど」
「てか見つかる気がしないんだけど、これ見つけ出すのは不可能じゃない?」
「うん、これは一日どころか一年は探さないと見つからないと思うよ」
正直、五人は途方にくれていた。主にこの部屋が巨大すぎることと、部屋の中の物品が危険すぎることが髪飾りの捜索を邪魔する大きな原因だった。
かみつきフリスビーのようなものがヘロヘロになりながらぶつかってきたり、牙のついた本がトンクスの手に噛みついたり、終いにはオスカーとエストがベッドに押しつぶされかけた。
五人は夜になるまで探したがそれらしきものを見つけることはできなかったし、必要の部屋から出るころには五人とも傷だらけになっていた。
「わかったの、多分髪飾りは必要の部屋にはないの」
髪についた動く新聞紙のようなものを杖で吹っ飛ばして、疲れた声でエストが言った。
「なんでそんなことがわかるの?」
「必要の部屋はその人が必要な形になるはずなの、見つからないってことは、部屋はここにはないよって言ってるんだと思うの」
「まあ私たちには必要ないって思われたんじゃないですか? もうちょっとエストの成績が悪かったら見つかったかもしれませんね」
クラーナが悪戯っぽく笑いながらエストをおちょくった。
「もう、エストはレディに見せにいこうと思ってただけなの‼」
「クラーナはエストとオスカーがベッドインしたからご機嫌ななめなのよ」
「どっちかと言うと、二人共医務室のベッド行きだったけどね」
五人は話ながらも足早になっていた。必要の部屋で時間を使い過ぎていて、もしかすると外出禁止の時間になろうかとしていたからだ。
「じゃあ私たちにはここで失礼しますよ」
「じゃあね、またなんか探すんだったら言ってよ?」
クラーナとチャーリーがグリフィンドールの寮がある方へ消えていった。三人は足早に寮へと急いだ。城に人が全然いないあたり、どうも外出禁止時間になっている気がしたのだ。
秘密の通路や動く階段を足早に三人は走り抜けた。
前方に真珠色の影が見えた。オスカーにはそれがグリフィンドールの寮霊、ほとんど首なしニックだと分かった。
「あ、ニックなの、もしかしてもう外出禁止の時間なのかな?」
「おお、エスト嬢、そうですな少し生徒が出歩くのは不味い時間です。近くにフィルチもいましたから早く帰ったほうがいいですよ」
「ニック、ありがとうなの」
ニックの忠言を聞いて、オスカーはちょっと不味いなと思った。フィルチに捕まると面倒なことになると思ったのだ。三人はタペストリーの裏の秘密の通路を使って、近道し、仕掛け階段を上った。
「ああっ‼ 痛っ、クソっ このっ」
トンクスが何段目かが絶対に消える仕掛け階段に足を挟まれていた。向こうの廊下にミセス・ノリスの姿が見えた。オスカーは少しだけ、ため息をついた。
「エスト、先に寮に戻っててくれ」
「えっ? でも……」
「トンクスを助けてすぐ追いつくから、早く、フィルチが来る」
「わかったの、ちゃんと寮に戻ってきてよ、オスカー」
オスカーは階段から足を抜こうとして、うんうん唸っているトンクスに駆け寄って、からだごと引っこ抜いた。
「ああ、ごめんね、私いっつもこれに引っかかるのよ」
オスカーはそのまま、トンクスをタペストリーの後ろの通路に隠した。
「トンクス、そこでちょっと黙ってろ」
ミセス・ノリスがオスカーの隣でにゃあと鳴き、オスカーが息もつかない間に勝ち誇った顔のフィルチがその後ろからやってきた。鼻息が荒く、獲物を見つけたどでかい野良猫と言った感じだ。
「捕まえたぞ、この時間にうろついてなにをやってたんだ? ええ? どうせ廊下を壊したり、クソ爆弾を爆発させたりしようとしてたんだろう?」
「ちょっと、先生に呼ばれたあとに忘れ物をして、教室にとりにいこうと思ってたところなんだけど」
オスカーはできるだけ、タペストリーに目線を移さないようにしながら、そこから離れようとした。
「ダメだ、この時間は外出禁止だ! ドロホフ、ついてこい!」
オスカーはため息をついてフィルチの後に従った。オスカーはなんだかんだ言って、一度も校則を破っていなかったが、今度はダメそうだと思った。
当たり前だがオスカーはフィルチの事務室に入るのは初めてだった。鎖と手錠が天井からぶら下がっているし、何やら魚のような生臭い匂いが漂っていた。
壁には大量のファイルが並べられていて、それぞれ生徒の名前らしきものが書かれている。擦り切れてよく読めなかったが、ジェーム……なんとかと、……ウスなんとかという生徒は恐るべき量のファイルで棚を占領していた。
「オスカー・ドロホフ…… 罪状……」
フィルチが汚らしい羊皮紙にオスカーの名前を書いていた。どうも罰則に関する書類のようだ。
「夜間外出禁止を破った…… 反抗的…… 以前にも廊下の爆破で疑いあり……」
嫌な単語が沢山聞こえてくる。オスカーは自分が廊下を爆破したことはないのにとばっちりだと思った。
ずるずると鼻をすすりながら、フィルチはあることないことオスカーの書類に書き連ねていた。
するとドンドンとフィルチの事務室の扉が叩かれた。
「フィルチ、いますか? マクゴナガルです」
フィルチは虫食いだらけの椅子から飛び上がってドアを開けに行った。マクゴナガル先生が立っていて、オスカーの顔を見ると部屋の中に入ってきた。どこか足を引きずっているようにオスカーには思えた。
「マクゴナガル先生? なにか御用でしょうか?」
「ああ、ドロホフ、やっぱりここだったのですね、フィルチ、ドロホフは変身術の居残りから抜け出したのです、よく捕まえてくれました」
オスカーは去年からエストに付きっきりで教えて貰っているので変身術で居残りを食らうような、低い成績を取ったことはない。むしろ変身術でオスカーより上の成績を取っているのはエストくらいしかいないのだ。
「そうだったんですか、ドロホフは禁止時間に歩いていたので今つかまえたところなんです」
「ええ、フィルチ、ありがとうございます。じゃあドロホフは私が預かります。それと、また八階のトイレが水浸しになっていましたよ」
マクゴナガル先生のその話を聞くとフィルチは顔を真っ赤にした。
「またピーブズの仕業だ‼‼ 今度こそとっ捕まえてやる‼」
そう言って、ミセス・ノリスと一緒に箒を持ち出して、間抜けな恰好で飛び出していった。
マクゴナガル先生がさっきまでフィルチが座っていた虫食いだらけの椅子に座ってオスカーに向き合った。
「ドロホフ、プルウェットにうつつを抜かして、変身術の成績が下がったのでは目も当てられませんよ」
「トンクス、お前が仕掛け階段にはまるからだろ、いい加減ドジを直せよ、それと声があんまり似てないぞ」
そうオスカーが言うと、マクゴナガル先生は鼻をつまんでショッキングピンクの髪をした、トンクスの顔になった。
「あれ? どこでばれたの?」
「足を引きずってたからな」
「オスカーよく見てるのね、フィルチからかばってくれてありがとうね」
「ああ別にいいよ、俺の罰則もこれでチャラだ」
そう言うとオスカーはさっきまでフィルチが書いていた書類を手に取って、インセンディオで燃やした。
「オスカーもワルなのね、てかフィルチの事務室とか初めて入るわ」
「俺も初めてだ」
二人は主とペットのいなくなった部屋を見回した。石油ランプが天井からすこし寂しい光で部屋を照らしている。
オスカーとトンクスは一つの棚に目が行った。どうも生徒からの没収品が入れられている棚らしい、クソ爆弾、噛みつきフリスビーのようなゾンコで売っている商品や惚れ薬なんて名前の引き出しもある。
しかし二人はもっと気になる引き出しを見つけた。『没収品・特に危険』と書かれているのだ。それに引き出しは長い間使われていないのか埃が溜まっているように見える。
オスカーとトンクスは目配せした。トンクスが引き出しを引いて、オスカーが中のものをつかんだ。なにやらペラペラした質感だった。
「羊皮紙? これが特に危険なの?」
オスカーが棚から取り出したものはどう見てもただの羊皮紙だった。確かに随分と年季がはいった色をしているが、見た感じはただの羊皮紙だ。何も書かれていない。
「アパレシウム‼‼ 現れよ‼‼」
オスカーが呪文を羊皮紙にかけたが何も変化がない。白紙のままだ。
「透明インクじゃないってこと? うーんこういう魔法具にはあいさつよ、ママのヘアアイロンも挨拶しないとパーマが上手くかけれないしね、私はニンファドーラ・トンクスです、よろしく?」
トンクスがそう言って杖を向けると今度は羊皮紙に変化が現れた。
「私、ミスター・パッドフットがミス・トンクスにお礼申し上げる。埃っぽい引き出しから助け出していただいたことに感謝申し上げる」
なんと羊皮紙が挨拶をしてきた。オスカーとトンクスはまた顔を見合した。
「私、ミスター・プロングズはミスター・パッドフットに同意し、お礼申し上げる。また、間抜けのアーガス・フィルチからどうやって我々を救出したのか教えていただきたい次第」
オスカーは羊皮紙に杖を向けて喋った。
「マクゴナガル先生に七変化でトンクスが化けて、フィルチを追い出したんだ。それで、フィルチの部屋の中を探ったらこれが、あんたらがでてきた」
また羊皮紙が文字を吐き出した。
「私、ミスター・ムーニーは諸君らの度胸と悪戯心に感服申し上げる。可能であれば、我々の能力を最大限に使っていただきたいとここに記すものである」
能力? 最大限? 文字で会話する以外に機能があるということだろうか? オスカーは首を捻った。
「貴方達の力を使うにはどうしたらいいの? なんか呪文を唱えるとか?」
文字がつづられ始めるがどこか要領を得ないというか、まるで答えが言えないように制限されているような内容だった。
「私、ミスター・ワームテールはその質問が正しいと申し上げる。貴方がたは正しい言葉を見つけなければならない」
羊皮紙を机の上に置いて、二人は少し考えた。つまり、この羊皮紙を使うための言葉を見つけなければならず、この羊皮紙の中の人物たちはオスカーとトンクスにその言葉を言えないらしい。
「こういう時は総当たりでいいんじゃないか?」
「総当たり? どういうこと?」
オスカーは羊皮紙に杖を充てて、アルファベットをAから順番に喋った。
すると最初に『わ』と『れ』に反応して羊皮紙が光り出した。
「ワオ、オスカーやるじゃない、最初の言葉はわれなのね」
さらにトンクスと交代で続けることで、『われ、ここに誓う、われ』までが判明した。
「だいぶいいとこまで来たんじゃないか? あと少しって感じだ」
「そうね、というかよっぽどの悪戯人が作ったんでしょうねこれ」
地図に文字がまた吐き出された。
「私、ミスター・プロングズは諸君らの智謀に感服する。われら魔法いたずら仕掛人を継ぐ者に諸君らはなれるだろう」
「魔法いたずら仕掛人? ちょっとだけ、よからぬ人たちって感じね」
トンクスの言葉に反応して、地図がまたさらに光り出した。
「さっきのが正解なのか? よからぬ人?」
地図はまた光った。どうもよからぬは正解の言葉のようだ。
そしてまた地図が文字を綴る。
「私、ミスター・パッドフットは諸君らのような、悪戯や冗談を考える人々に敬服の意を示すものである」
「これもヒントじゃない? この人たち、使われたくて仕方ないのよ」
「悪戯や冗談を考える? いや、たくらむか?」
地図がさらに輝いた。
「続けていってみたらいいんじゃないかしら?」
「えーと、われ、ここに誓う、われ、よからぬことをたくらむものなり?」
地図はこれまでにないくらいに輝いたが何も起きない。
「オスカー! 杖よ、杖を羊皮紙に当てないとだめなんじゃない?」
オスカーが杖を羊皮紙にあてると驚くべきことが起こった。オスカーの杖からインクがまるで生きているかのように出てきて、羊皮紙の隅まで、何度も何度も交差しながら伸びていった。
そして羊皮紙の最上部に文字が現れる。
ムーニー、ワームテール、パッドフット、ブロングズ
われら「魔法いたずら仕掛人」のご用達商人がお届けする自慢の品
忍びの地図
「これは地図か?」
「凄い、これ凄いわ、ホグワーツの地図よこれ!」
それは本当にとんでもない代物だった。これはホグワーツ全体の詳細な地図で、一年のころにエストにつき合わされて城の色んな場所にいったオスカーでさえ知らないような場所が大量に示されていた。
「この動いている文字って、もしかして人なのかな?」
「ああ多分そうだな」
トンクスの言うようにたくさんの文字が地図の上を動いている。フィルチの部屋にはトンクスとオスカーの名前があるし、地図の端にはダンブルドア校長と思わしき名前があり、歩き回っている。地下牢にあるスリザリンの談話室ではエストがまだオスカーを待っているようだ。さらになんとポルターガイストやゴーストまで表示されている。オスカーはこの地図が失われた髪飾りにも匹敵するような素晴らしいものなんじゃないかと思った。
「特に危険なのは納得ね、オスカーこれどうする?」
「エストは髪飾りがなくて意気消沈してたからな、これ渡したらそれも忘れるだろ」
「エストの点数ばっかり稼ぐのは良くないと思うけどね」
オスカーがもう一度地図を見ると、八階からフィルチが戻ってくるのが見える。オスカーとトンクスは興奮のあまり、ここがフィルチの事務室だということを忘れていた。
「ヤバイ、フィルチが戻ってくる」
「え? ほんとじゃない、戻りましょう」
もう一度、マクゴナガル先生に変身したトンクスとオスカーは地図のおかげで今度は誰にも会うことなくそれぞれの寮へ戻った。オスカーは合言葉で壁をすり抜けながら、談話室でオスカーを待ち、プンプンしているであろうエストに地図を見せるのが楽しみだった。