ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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ムーディ先生(クラウチJr)って先生の中でも屈指の有能だったと思う。


死喰い人と騎士団と闇祓い

 二人で百味ビーンズをつつきながら、授業はどれが面白いのだろうかとか、アルバス・ダンブルドアはなぜ結婚しなかったのかだとか、闇の魔術に対する防衛術の授業は毎年教師が変わるだとかを話していた。

 するとコンパートメントがノックされ、ピカピカのローブを着た女の子が入ってきた。 

 身の丈はありそうな巨大な杖を持ち歩いているせいか、元々小さい背丈がさらに小さく見える。

 ダークグレーの髪に黒い目をしているが、なぜかその黒い目はオスカーを凝視している。

 

「今年アントニン・ドロホフの息子がホグワーツに入学するって聞いたんですけど、貴方がそうなんですか?」

「そうだったらどうなんだ?」

 

 オスカーが喧嘩腰にそう答えると女の子はニヤリと笑った。

 まるで獲物を見つけた肉食動物のようだとオスカーは思った。

 

「へえ、名前を聞いてもいいですか?」

「オスカーだ。オスカー・ドロホフ」

 

 エストは何も言わずに二人を見守っている。オスカーにはその顔が何か、面白がっているように見えた。

 

「ふん、ではオスカー・ドロホフ。私の眼が黒いうちはホグワーツでやりたい放題できないと思うことですね」

「私の名前はクラーナ・ムーディ‼‼ ムーディ家の一員として闇の魔術師は許しません‼‼」

 

 クラーナはマントを翻し、自身満々に杖を高く上げた。

 

 

「オスカーってもう闇の魔術師だったの? 腕に闇の印とかあるの? グリンデルバルドの三角のやつ?」

 

 エストは机の上に顔を乗り出してオスカーの腕をみようとしてきた。

このクラーナとかいう女の子もヤバイやつだが、エストの方がもっとヤバイやつなんじゃないかとオスカーは思った。

 

「ホグワーツに入ってもいないガキがどうやって闇の魔法を覚えるんだよ」

 

 そしてクラーナは今初めてエストの存在に気付いたような反応をした。

 

「おやおや、アントニン・ドロホフの息子と一緒にコンパートメントにいるなんて、貴方も死喰い人の娘とかなんですか?」

 

 またもクラーナはニヤリと笑った。どうもこの女の子は自分の獲物が増えるのが嬉しいみたいだとオスカーは思った。

 

「うーん、エストの親は死喰い人じゃないよ? というか、ムーディって、あのマッドアイのムーディ?」

 

 そうエストが聞くとクラーナは誇らしげに返す。

 

「そうです、ムーディ家は闇祓いの名門ですけど、叔父のマッドアイこと、アラスター・ムーディは一番有名です」

 

 なるほどとオスカーは思う。マッドアイと言ったらアズカバンの半分を埋めたなんて言われてる凄腕の闇祓いだ。

 ただ目の前の女の子は頭もマッドなんじゃないかとオスカーは思った。

 

「あ、やっぱりそうなんだ。あとエストの名前はエストレヤ・プルウェットだよ、よろしくねクラーナ」

 

 クラーナはその名前を聞いたとたん、はあ? という顔をして杖をとり落としかけた。

 

「ど、どういうことですか? ドロホフとプルウェットなんて、今すぐにでも死の呪いをかけ合ってもおかしくない関係じゃないですか‼‼」

 

 クラーナはオスカーとエストの顔を交互に見て叫ぶ。

 やっぱり、エストの方がヤバイやつで、自分の感性は間違っていなかったとオスカーは思った。

 

「あなたたちが仲良くするなんて、スリザリンとグリフィンドールとか吸魂鬼とレシフォールドが仲良くするようなものでしょう?」

 

 吸魂鬼とレシフォールドなんて、実質同じものなんじゃないのかとオスカーは思ったが、どうもクラーナは結構混乱しているらしい。

 

「ん~ レシフォールドと吸魂鬼って住んでる場所の違いだと思ってたけど、まあオスカーとエストも同じ人間だし、そのくらいの違いなのかも……」

 

 やっぱりエストの考え方はどこかおかしいとオスカーとクラーナは顔を見合わせる。

 

「あっそうだ。クラーナはどこの寮に選ばれると思う?」

 

 エストはそんなに寮の組み分けが気になるのだろうか?

 エストは他人からの評価や見解を気にするような性格には思えなかったから、少しオスカーは疑問を抱いた。

 

「ふん、当然グリフィンドールでしょう。勇猛果敢で、せこくて汚いスリザリンとは違うんです」

 

 クラーナは当然です。みたいな顔をした後、オスカーを睨んできた。

 

「まあ、ドロホフはスリザリンでしょう? どっちかいうとアズカバンの方がお似合いだとは思いますが」

「アズカバンは寮じゃないだろ」

「アズカバンが寮だったら、やっぱり動物は吸魂鬼なのかな?」

「吸魂鬼が象徴の寮とか少なくとも人間は入らないだろ」

 

 クラーナは茶化されたと思ったようだ。

 

「まあ、仇の息子を見張るとはいい神経をしてると思いますよ、エストレヤ・プルウェット」

 

 また、感心しましたみたいな顔をするクラーナ。

 この女の子は凄く顔に感情が出やすいとオスカーは思う。

 

「見張りなんかしてないよ? オスカーとはもう友達だもん。クラーナもよろしくね?」

 

 それを聞いたクラーナがあっけにとられる。やはり、エストの考え方にはなかなかついていけないようだ。

 

「まあ、プルウェットがそういうスタンスならいいですけど、周りがどう見るかは考えた方がいいと思いますよ」

「クラーナも優しいんだね? オスカーと一緒のこと言ってるもん」

 

 そう言ってエストはクラーナを見てからオスカーを見て笑顔になる。

 オスカーとクラーナは顔を見合わせた後、二人共微妙な顔になった。

 

「二人共、ローブにってすでにドロホフは着替えてますね、プルウェットは着替えた方がいいと思いますよ、そろそろつくらしいですから」

「プルウェット、廊下に出とくからその間に着替えろ」

「うん。ありがとうね」

 

 オスカーはコンパートメントの外に出る。するとクラーナもオスカーについて外に出てきた。

 

「ドロホフの息子って聞いていたので、もっとヤバイやつだと思ってましたよ」

「お前やプルウェットの方がよっぽどヤバイやつだと思うね」

 

 そう言い返すとクラーナはまた獲物を見るような目でオスカーを見てきた。

 

「まあ何にせよ、私のような印象を持って見てくる人が沢山いることを忘れないことですよ、オスカー・ドロホフ。それに皆がプルウェットのような人間だとは思わない方がいいですよ、じゃあまたホグワーツで会いましょう」

 

 クラーナはまたマントを翻して違う車両へと消えていった。

 彼女の巨大な杖がカンカンと床を打ち付ける音だけがしばらく聞こえていた。

 

「オスカー、着替え終わったよ? あれ? クラーナは戻っちゃったの?」

「ああ、杖を打ち鳴らして帰って行ったよ、ホグワーツでよろしくだそうだ」

「そうなんだ。クラーナってなんかオスカーに似てたね、考え方とか優しいとことか」

「止めてくれ」

 

 オスカーはあんな風にマントを翻して自己紹介するなんていくつになってもできそうにない気がした。

 そもそも、死喰い人の子供と闇祓いの一家の子の考え方が似ているなんてオスカーには思えなかった。

 

「あと五分程度でホグワーツに到着いたします。荷物につきましては別途学校に届きますので、車内へ置いていってください」

 

 そう車内放送が流れると間もなく駅に着いた。オスカーはエストと一緒に人で溢れかえる車内を出て、プラットホームで待つことにした。どうも上級生と一年生の道は違うようだ。

 少し待っていると向こうの方からランプが近づいてくる。

 

「イッチ年生! イッチ年生はこっち! クラーナ、元気か?」

 

 凄まじい図体をしたひげ面が、一年生ばかりが残るプラットホームの上から笑いかけた。

 

「さあ、ついてこいよ、イッチ年生はもういないか? 足元をしっかり見ろ! いいか! イッチ年生はついてこい!」

 

 暗い藪道を滑りそうになりながら、一年生の一団は巨漢について行った。

 

「ね、あの人ハーフかな?」

「ハーフ?」

 

 エストが話しかけてきた。

 確かにあの巨漢は人外じみた巨体ではあるとオスカーも思う。

 

「そう、巨人の血が入ってないとあんなに大きくならないと思うな」

「巨人なんて闇の生き物だろ? そんなのの血が入ったのをダンブルドアが許すのか?」

 

 巨人の多くは闇の魔法使いと結託して度々反乱を起こしているのだから、とてもあのダンブルドアが許すとはオスカーには思えなかった。

 

「む、確かに? でも半分なら大丈夫なんじゃないかな?」

「まあ半分じゃなくても爺さんがそうだったとかかもな」

「クオーターとかでもおっきくなりそうだもんね、あとクラーナの名前呼んでたね」

「まあ知り合いなんだろう」

 

 

そうこう言っている間に一年生は大きな黒い湖の前についた。

 向こう側に壮大な城が見えている。

 

「四人ずつボートに乗って!」

 

 巨漢が叫んで、ほとりにいくつかある小舟を指さす。

 オスカーとエストが乗ると、なにやら巨漢と話していたクラーナと赤毛の男の子が乗り込んできた。

 

「おやまた会いましたね、ドロホフとプルウェット」

 

 クラーナが話しかけてくる。

 エストはなにやら船にかけられた魔法に夢中だ。

 

「ああ、俺はあんまり会いたくなかったけどな」

 

 赤毛の方が話しかけてくる。

 

「あんたたち、エストと知り合いなのか?」

「まあ知り合いって言ってもさっきコンパートメントで一緒になっただけだけどな」

 

 エストが船から顔を離してこちらを見てくる。

 

「チャーリーなの? さっきぶりだね」

 

 四人で自己紹介をし合う。案の定、ドロホフの名前にチャーリーは驚いたが、エストが平然としているのでそれ以上突っ込んでこない。

 またクラーナはマントを翻して自己紹介した。

 

「ねえ? クラーナはあのおっきい人と知り合いなの?」

「ええ、彼はハグリッドと言って、ホグワーツの禁じられた森の番人ですよ」

「えっ、じゃあ禁じられた森の動物とかも詳しいのかな?」

 

 チャーリー・ウィーズリーが尋ねる。

 

「彼は動物に関してはアラスターおじさんより詳しいらしいです。下手をすればダンブルドア校長より詳しいでしょう」

「ほんとなのかそれ? じゃあハグリッドに僕を紹介してくれないか?」

「別に構わないですけど」

 

 どうもチャーリーは動物に興味があるのだろうか?

 

「チャーリーだけはずるいと思うな、エストとオスカーにも紹介してくれない?」

「まあハグリッドなら誰でも歓迎してくれるんじゃないですかね」

 

 オスカーは勝手に数に入れられていることに閉口した。

 その間にも船は進み、ホグワーツの城から続いている崖の下まで来た。蔦のカーテンをくぐれば地下の船着き場に到着した。

 ハグリッドのランプによる先導に従ってごつごつした岩の道を上る。

 

「こういう道だとその杖が便利そうだな」

「ふん、そんな老年のマグルが使う棒きれとこの杖を一緒にしないで貰いたいですね、ドロホフの息子」

「やっぱり、二人共仲いいでしょ?」

 

 オスカーとクラーナはエストの前では喋らない方がいい気がしてきたのだった。

 岩の道を登れば、立派な石段と巨大な樫の扉が見える。

 

「みんないるか? 今からホグワーツに入るぞ!」

 

 そう言ってハグリッドは扉をその大きなこぶしで三回叩いた。

 

 

 

 




※レシフォールド
リビング・シュラウド(生ける経帷子)とも呼ばれる希少な魔法動物。
熱帯地域に生息する。眠っている人間に覆いかぶさり、そのまま人間を消化する。
撃退法として知られているのは守護霊の呪文のみ。



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