ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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われらが最大の宝なり!

 髪飾りを破壊した瞬間、ヴォルデモートはエストの体はその場に倒れ伏した。つるに捕まっていたクラーナも魔法が解け、床へ叩きつけられた。

 オスカーはクラーナを助け起こし、ピクリとも動かないエストへと近づいた。エストの体には傷一つなかったが、意識を取り戻す気配がなかった。

 オスカーは最悪の想像に駆られて近寄った。しかし、近寄れば確かにエストの鼓動を聞き取ることができたし、エストの体に少しづつ温かさが戻ってきていることが分かった。

 後ろで扉が開く音をオスカーは聞きとった。クラーナが何か言っていたがオスカーにはあまり聞き取ることができなかった。オスカーはエストが無事に目の前にいることで頭と心が一杯だった。

 しかし、オスカーは何か先ほどの戦いでヴォルデモートから漂ってきたような、強烈なエネルギーが発せられているのを感じた。ヴォルデモートから感じたエネルギーは何か邪悪なものを感じ取ったが、そのエネルギーは純粋な怒りのように感じ取れた。

 オスカーがやっと背後を見ると、アルバス・ダンブルドアがこちらに走ってくるのが見えた。オスカーは何故、クラーナや他の大人たちが口々にダンブルドアならばヴォルデモートに対抗できると言っていたのか理解した。

 オスカーの見たことのあるアルバス・ダンブルドアの慈悲深く、全てを見通すような表情と視線はどこにもなく、その青い目からは冷たい怒りがエネルギーとなって発せられているように感じられた。

 ダンブルドアの後ろにはマクゴナガル先生とスネイプ先生がそれぞれ信じられないという表情で付いてきていた。スネイプ先生が倒れているレアを介抱している…… 灰色のレディはオスカー達が最期に頼んだ要件、しばらくたったら先生方に伝えるという頼みを聞き入れてくれたようだった。

 

「これは…… なんと…… 信じられん……」

 

 オスカーもクラーナも、すでに閉心術を続けるような体力は残されていなかったので、ダンブルドアは二人の眼を見ただけで何かを理解した様だった。

 ダンブルドアの表情がいつもの柔和なものに戻った。だがその表情は何か本当に信じられないものを見ているようでもあった。

 

「セブルス、ミス・プルウェットを医務室へ連れて行ってくれるかの? わしの考えじゃと体力を少し消耗しているだけじゃが、君の眼やポピーからも診断をして欲しい」

 

 ダンブルドアがそう言うと、レアの傍からスネイプ先生がこちらに走ってきて、エストを抱き上げた。

 

「先生…… エストは大丈夫なんでしょうか?」

 

 オスカーはさきほどエストが確かに生きていることを確認したが、このまま永遠に起きないのではないかという不安を消すことができずにいた。

 

「オスカー、大丈夫じゃ、セブルスは闇の魔法に魔法界でも最も詳しい男じゃ、ポピーも聖マンゴの最高峰の癒者と同じ腕を持っておる。二人に任せておけば大丈夫じゃ」

 

 ダンブルドアから言葉を貰ってやっと、オスカーは体の力が抜けた気がした。エストは戻ってくる…… 喋って、笑って、一緒にいることができる…… 叫びの屋敷で髪飾りをエストが触れた時から止まらなかった恐怖がさざなみのように遠くへと消えていく気がした。

 隣でクラーナの表情が同じ様に柔らかくなるのが見えた。

 

「しかし、三人には申し訳ないが今晩ここでなにがあったのか教えてもらわねばならぬ、事態そのものが終わったのは分かっておるが、まだ何かあるのか分からぬのじゃ」

「アルバス、この子たちにはどう見ても休息が必要です。それも、魔法睡眠薬による本物の休息が……」

「ミネルバ、もっともな意見じゃが、彼らは何がどうなったのか理解せずに休むことはできないじゃろう」

 

 オスカーの体は休息を求めていたが、心はダンブルドアに同意していた。オスカーはこの出来事にけりをつけ、そのついたという保証をダンブルドアという強大な存在にしてもらいたかった。

 

「申し訳ないが、ここでは安心して話すことはできないじゃろう。わしの部屋へ来てもらおう」

 

 ダンブルドアがそう言って杖を振ると、三人の体と壊れた髪飾りが浮き上がった。オスカー達はそのまま、優しい力で浮かんだままダンブルドアの校長室へと運ばれた。

 三人とマクゴナガル先生を連れてダンブルドアは進み、ガーゴイル像にスイートポテトと言って道を開けさせ、螺旋階段を上った。

 オスカーはダンブルドアの部屋に初めて入ったが、何やら沢山飾ってある肖像画達が興味深そうにオスカー達を眺めていた。オスカー達は優しくソファーの上に下ろされた。

 ダンブルドアは注意深く慎重に壊れた髪飾りを銀の道具が沢山置いてあるテーブルの上に乗せた。マクゴナガル先生は心配そうにオスカー達三人の方を見ていた。

 

「三人とも心体ともに疲れ切っておるのは分かっておる。じゃが、今回の出来事について、できるだけ丁寧に喋ってはくれぬか?」

 

 ダンブルドアはキラキラした瞳でオスカー達の方を向いてそう言った。

 オスカーが口火を切った。

 

「僕たち…… 俺たちはその髪飾りを探していました」

 

 オスカーが壊れた髪飾りを示した。レアがウッと息を呑んだのが分かった。

 

「そうじゃの、この髪飾りがすべての原因なのじゃろう。だがどのようにそれを見つけ、どのようなことがあったのかゆっくりと教えて欲しい」

 

 それから、オスカーはゆっくりと髪飾りをどのように探したのかをダンブルドアに喋った。

 エストが首なしニックから髪飾りと剣の話を聞いたこと…… 五人で探そうと決めたこと…… トンクス先生からゴーストに聞けばいいのではないかとヒントを貰ったこと……

 絶命日パーティでピーブズから灰色のレディがヘレナ・レイブンクローその人であると聞いたこと…… レアと一緒に髪飾りはアルバニアにあると聞いたこと…… そしてオスカー達以外の誰かにそれを言ったことがあると聞いたこと……

 そこまで聞くとダンブルドアは感心したという顔でオスカー達にこう言った。

 

「君たちは千年間にも及ぶ歴史の中で、たった二組しかしることのできなかった秘宝のありかを知ったわけじゃな」

 

 またレアがヒッっと声を震わしたのが聞こえた。オスカーはまた話をつづけた。

 エストがクリスマスにレディが教えた誰かならば必要の部屋にそれを置くのではないかと考えたこと…… 必要の部屋を探しても見つからなかったこと…… 暴れ柳の特性に気付いて叫びの屋敷に行ったこと…… そして叫びの屋敷にくるように手紙が届いたこと……

 そこまで話してオスカーはレアの方を見た、レアは恐らく自分の責任に怯えていた。しかし、髪飾りを最初に見つけたのはレアだったから、オスカーはそのことを話さなければならなかった。

 

 レアが叫びの屋敷にいたこと…… 髪飾りを触ったエストがヴォルデモートだと名乗ったこと…… 死の呪文とオスカーの武装解除呪文が対抗したこと…… ヴォルデモートが兄弟杖だと言って、必要の部屋で待つと言ったこと…… レアが必要の部屋で髪飾りを見つけたと喋ったこと…… レアが操られていたこと…… またダンブルドアは優しい顔でこう言った。

 

「ミス・プルウェットは確かに、トム・リドル以来の秀才と言っていいじゃろう。恐らくあやつとは違う考えとは言え、同じ結論に至り、それは真実だったのじゃから、それに兄弟杖とは、オスカーはミス・プルウェットと並々ならぬ絆で結ばれているようじゃ」

 

 オスカーは話し続けた。ヴォルデモートがオスカーの心を読んだこと…… ヴォルデモートに対抗するために閉心術が必要だと考えたこと…… クラーナと閉心術の練習をしたこと…… なんとか心を閉じる術を見つけたこと…… そこまで話してオスカーはここからは自分の考えが主になり始めると思った。

 

「去年のクリスマスにみぞの鏡の前で見た二人が互いに想う心は本物だったわけじゃ、お互いに真の信頼を示したことでオスカーは心を操る術を身につけた。なんと素晴らしいことか……」

 

 ダンブルドアは感慨にふけるように目を閉じた。

 

「俺は…… やつに…… ヴォルデモートに対抗するためにはあいつを出し抜かないといけないと思いました。正面から勝てるはずがないと思ったので、あいつが気にも留めないことを考えないといけないと思いました」

 

 オスカーがヴォルデモートと言い放ったことで、マクゴナガル先生とレアがビクッと震えた。

 

「ドロホフ、貴方は先生方に言おうとは思わなかったのですか?」

 

 ここにきてマクゴナガル先生が初めて発言した。マクゴナガル先生の声はどこか震えているようだった。

 

「あいつは誰かに言えばエストは戻らないと言いました。俺にはそれが怖かった…… それにあいつは必要の部屋で待つと言いました…… エストは必要の部屋のことを理解していました…… あいつもエストと同じくらい理解していたはずです…… エストは必要の部屋は必要なモノが分かっていないと入れないと言っていました。だから、恐らくあいつが部屋の中にいる間は俺たちが入らないと他の人には入れないと思ったんです。だからレディに俺たちが入ってから先生を呼ぶように言いました」

 

 マクゴナガル先生はオスカーの言葉の意味をなんとかかみ砕いて理解しようとしているようだった。

 

「ですが、灰色のレディには相談をしたのでしょう?」

「はい、俺はあいつのヴォルデモートを理解しないといけないと思いました。あいつはエストのことや俺の杖のことを特別だと言っていました。自分はスリザリンの後継者だとも…… だけどあいつはそれ以外のことには興味を持たないと思ったんです。それは多分、ここにいるレアのことや、あいつが囚われないといった死に敗れたゴーストであると思いました。つまり、あいつにとって特別じゃないものを使わないとあいつを出し抜けないと思ったんです。だからゴーストはあいつの人の範疇には入らないし、利用するべきだと思いました」

 

 マクゴナガル先生はオスカーのその言葉を聞いて衝撃を受けたような顔になったが、ダンブルドア先生は微笑みながらオスカーを見ていた。

 

「それは正しくトム・リドルを理解できておるじゃろう。トムは自分と同じ様に髪飾りのありかを知った君たちを特別じゃと思った上、その中でもレイブンクローの血脈を強く感じさせるミス・プルウェットに強く惹かれたのじゃろう。自分と同じ様な創設者の血脈となればあやつが惹かれぬわけもない…… そしてあやつの死に対する恐怖をオスカーは正しく理解できたわけじゃ」

 

 オスカーはダンブルドアが同意を示してくれているのでなんとか喋ることができていた。今考えると一体どれだけ危険と恐怖に溢れた行動をしていたのか、今になってその考え方の無謀さが理解でき始めていた。

 

「レディはあいつがヴォルデモート本人、トム・リドルであろうこと、兄弟杖で何が起こるのかということ、エストの杖の所有権が俺に移っているのではないかということ、そのためにあいつの呪文が俺に対しては有効でない可能性があること、そしてあの髪飾りを破壊しなければならず、髪飾りは尋常な手段では壊すことができないことを教えてくれました」

「君はまさに正しい人間を頼ったわけじゃ、計り知れぬ英知そのものを持つ人間を頼り、ヴォルデモートを打ち破るための知識を手に入れたわけじゃ」

 

 ダンブルドアは真っ二つに破壊された髪飾りの半分、『計り知れぬ英知こそ』と刻まれた部分を指でなぞった。

 オスカーは少しだけクラーナとレアに視線を送ってから、喋り始めた。

 

「俺はその尋常でない手段を自分が持っていることに気付いていました。クラーナの開心術が、かつてヴォルデモート自身が俺に使わせた術なら、髪飾りを壊せるであろうことを思い出させていました…… そして、レアの…… コントロール不能の力なら、あいつが気にも留めない力なら、ヴォルデモートを出し抜けるであろうと考えたんです」

 

 ダンブルドアはオスカーのそこまでの話を聞いて、今度は感激した表情をしていた。オスカーはこれほどの人でもこのような表情をするのかと思った。

 

「君は、まさにスリザリンが誇りに思った特性を持つ生徒と言えるじゃろう。機知に富む才智…… 断固たる決意…… やや規則を無視する傾向…… そして周りを守る心を…… さらにそれらに加えて、素晴らしい勇気を持っておる。わしがグリフィンドールの出身だからかもしれんが、わしには君のその部分が眩しく見えてしまう」

「ダンブルドア、私の寮の学生に他の寮の方がふさわしいというのはやめて貰おう」

 

 後ろの肖像画の一人がダンブルドアとオスカーの方を見て言った。肖像画はオスカーの方を誇らしげに見ていた。

 

「おお、フィニアス申し訳ない、思わず羨ましくなってしまったのじゃ」

 

 オスカーはその肖像画の下にある組み分け帽子に目がいった。オスカーは去年組み分け帽子に言われたことを覚えていた。

 

「組み分け帽子はスリザリンとグリフィンドールで俺をどちらに入れるか悩んでいました…… 組み分け帽子は俺が真に守るべきものを見つけられるならグリフィンドールよりもスリザリンの方が偉大になれると、そう言いました」

 

 オスカーがそう言うと、今度はマクゴナガル先生とクラーナがショックを受けた顔をしていた。クラーナの方は特にそれが分かりやすかった。なにせ口を開けてオスカーの方を茫然とみているのだから。確かにオスカーはこの話を誰にも話したことはなかった。

 

「なるほど、君は間違いなくそれを見つけたわけじゃ、そして君は類まれなる勇気と信頼をも手に入れた。かつてスリザリンとグリフィンドールが断琴の交わりを結んだ様に」

 

 ダンブルドアはそう言って、オスカーとクラーナを交互に見た。オスカーとクラーナの顔は少しだけ赤くなった。

 

「三人とも『ホグワーツ特別功労賞』が授与される。それに、一人づつ各寮に二百点づつ与えよう」

 

 ダンブルドアがそう言ったのを聞いて、オスカーはトンクスが悔しがるだろうなと思った。これではハッフルパフが一人負けになってしまうからだ。

 

「ダメです! ボクは何もしていないです。ボクが髪飾りを見つけたせいでこんなことになってしまったのに…… ボクが髪飾りなんかに頼ったせいで……」

 

 レアは泣きながらダンブルドアに訴えていた。彼女はこの部屋に入って、髪飾りという言葉が出るたびに、机の上に置かれた髪飾りを見るたびに罪悪感を感じていたのだろう。

 

「レア、君よりも遥かに優秀で精神的にも肉体的にも大人な魔法使いたちがヴォルデモート卿にたぶらかされてきたのじゃ、それに二人は君のことを何もしなかったとは考えてはおらぬじゃろう?」

 

 ダンブルドアが悪戯っぽいキラキラした目でオスカーとクラーナを見た。

 

「ええ、レアがいなければ俺たちの誰も生きて帰れなかったと思います」

「私もそう思います」

 

 二人がそう言うと、レアはまた泣き出した。

 

「レア、ホグワーツを創り出し、その当時最も賢いと言われた魔法使いでさえ、最後にはその英知よりも必要なものがあると思っておったことを君は知っているじゃろう?」

 

 ダンブルドアは二つに破壊された髪飾りの残り半分、今度は、『我らが最大の宝なり!』 と刻まれた部分を指でなぞった。

 

「まさに君はこの最大の宝が何かわかったのではないかね? 必要の部屋は君にまさしく必要なモノを渡したわけじゃ、ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる。そしてそれは正しく、皆を救い、史上最も邪悪な魔法使いを打ち倒したのじゃ」

 

 ダンブルドアが誇らしげな目で三人を見て言った。

 

「わしは君たちのような生徒を持てたことを心から誇りに思う。こんなにもホグワーツの校長であって良かったと思ったことはない。さあ、三人とも今日は休むのじゃ、これからもホグワーツでの日々は続くのじゃから」

 

 

 

 


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