ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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三年目 豊かな幸運の泉
プルウェット邸


 オスカー・ドロホフは最近幸運だった。

 去年までは嫌だったドロホフ邸での日々もどこか楽しく感じていたし、今日にでもエストたちが迎えに来て、エストやチャーリーの大叔母である、ミュリエルの家に遊びに行く予定だったからだ。

 

 それに魔法省からの監視も最近になって弱まってきた。キングズリー曰く、魔法大臣がミリセント・バグーノルドからコーネリウス・ファッジに変わったため、闇払い局と魔法惨事部の力関係が変わりつつあるのが理由らしい。

 なんでも、次の魔法大臣筆頭と思われていたバーティ・クラウチが左遷され、これまでの対処が重すぎたのではないかと反動がきているらしいのだが、オスカーにはその辺の力関係は良くわからなかった。

 少なくとも、家の玄関から吸魂鬼が消えたことや、キングズリーの許可や監視が無くても好きなところへ行けることはオスカーにとって望ましかった。

 闇払いが云云かんぬんとか、魔法省の力関係がどうのこうのはクラーナの領分であって、自分の領分ではないとオスカーは思っていた。

 

「オスカーお坊ちゃま、忘れ物はありませんか?」

「ああ、大丈夫なはずだ、教科書類は全部詰まってるし、新しい必要品は向こうで買いに行く予定だから」

 

 ペンスが忘れ物がないかを聞くのはもう七回目だったので、完全に大丈夫なはずだった。

 オスカーはすでに夏休みの宿題をやってしまって、教科書や大鍋なんかもトランクに詰め込み終わっていた。

 

「今年もクリスマスはパーティを開かれるのですか?」

「それは分かんないな、できればいいと思ってるけど」

「ペンスめは万全の準備をしてお待ちしております」

 

 ペンスは明らかな期待を込めてオスカーを見た。

 オスカーは毎年クリスマスパーティーを開かないといけなくなったと思った。魔法史の宿題レポートで火あぶりされる魔女や魔法使いの考察について書いたが、もしオスカーについてレポートを書くのなら、クリスマスパーティーを毎年自宅で開くようになった理由は屋敷しもべ妖精だと書かねばならないだろう。

 暖炉の赤とオレンジの炎がエメラルド色に染まり始めた。暖炉の中から人影がコマのように回転しながら現れる。

 チャーリーと同じ赤毛のウィーズリーおじさん、エスト、チャーリー、トンクスが暖炉から吐き出されてきた。

 ウィーズリーおじさんはオスカーの顔を見てにっこりした後、隣のペンスを見て少し申し訳なさそうな顔をした。

 

「やあオスカー、元気そうだね、ペンスも元気かな?」

「ええ、ウィーズリーおじさん、迎えにきていただいてありがとうございます」

「とんでもない無礼を働いたペンスめにお言葉を頂けるとは、恐悦至極であります」

 

 クリスマスの時も大丈夫だったのでオスカーは余り心配していなかったが、今回も問題はなさそうだった。

 

「オスカーお坊ちゃまの家は相変わらず広いわね」

 

 トンクスがドロホフ邸の応接間を見回してそう言った。相変わらず、この家にいるときはオスカーのことをお坊ちゃま呼ばわりしないといけないらしい。

 

「ミュリエルおばさんの家もオスカーの家と同じくらい広いし、やっぱり旧家の家は広いんだろうね」

「確かにミュリエルおばさんの家は広すぎて、昔迷子になったことがあるの」

「やったじゃないオスカーお坊ちゃま、子供はいくらいても大丈夫じゃない?」

「なんでトンクスの発想は家の広さと子供の数が直結してるんだ?」

 

 どうもトンクスはクラーナがいないからか、オスカーにやたらと絡んできそうだとオスカーは思った。

 

「オスカー準備はいいかな? とりあえず直接おばのミュリエルの家に向かうことになる」

「いつでも大丈夫です」

「じゃあチャーリー、先に煙突飛行でどこに行くのか例として見せてくれるか?」

「オッケー、パパ」

 

 チャーリーはそう言うと暖炉の傍にあった煙突飛行粉を手に取り、炎をエメラルド色に変え、「プルウェット邸‼‼」と叫んで消えていった。

 

「じゃあオスカーから行ってくれるかな? またノクターン横丁とかに行ってしまうと今度こそ私はモリーに消失させられてしまうからね」

「分かりました、トンクス押すなよ?」

「押さないわよ」

 

 オスカーはトンクスの方をちらっと見ながらそう言った。前回煙突飛行を行った時はトンクスとフレッド・ジョージのせいでとんでもない所に飛ばされたことは、オスカーの記憶に新しかったからだ。

 

「じゃあペンス、あとはよろしくな」

「はい、オスカーお坊ちゃま、お元気で」

 

 オスカーは煙突飛行粉を投げ入れ、エメラルド色の炎の中へと消えていった。

 回転しつつ沢山の暖炉が見える中、オスカーは目標の暖炉へとたどりついた。少なくとも、前回のようにヘンテコな闇の物品は見当たらなかったし、ウィーズリー家の人たちとダンブルドアと同じくらい年がいっているであろうおばあさんがオスカーの方を見ていた。

 おばあさんは鉤鼻で羽の着いたピンク色の帽子を被っていたがオスカーには彼女がミュリエルおばさんなのであろうことが分かった。眼がエストにそっくりなのだ。縁がどこか赤く見えるその眼はオスカーが良く見るエストの眼によく似ていた。

 暖炉からはどんどん後続が吐き出されていた。エストとトンクス、最後にウィーズリーおじさんが出てきた。なぜかトンクスは糖蜜パイを持っていた。恐らくペンスにねだったのだろうとオスカーは思った。

 

「ああミュリエル、ご機嫌よろしく……」

 

 ウィーズリーおじさんがそう言ってミュリエルおばさんに挨拶しようとしたが、ミュリエルおばさんは完全に無視してエストの方へと歩いてきた。

 

「エストレヤ、やっと来てくれたね、去年のクリスマスも来なかったじゃないか」

「だってオスカーのうちに遊びに行ってたもん、去年も夏休みの最初は行ったでしょ?」

「オスカー? ああドロホフの家の子かい?」

 

 そう言ってミュリエルおばさんはオスカーの方を見てきた。ウィーズリー家の兄弟はみんな赤毛だったのでオスカーの存在はわかりやすかった。

 ミュリエルおばさんは胡乱気な値踏みするような目でオスカーを見た。

 

「確かにドロホフの家の子だね、顔の作りがそっくりだよ」

 

 ミュリエルおばさんはそう言って次にトンクスの方に視線を移した。

 

「あんたはブラックの家の子かい? あんたも顔の作りが似てるよ」

「ブラック? 確かにママの実家はブラックらしいけど」

「まあ、赤毛以外だとわかりやすくていいね、ウィーズリーの子はみんな赤毛で見分けが付かないよ」

 

 ミュリエルおばさんはもうオスカーとトンクスに興味をなくしたのかエストの方へと視線を戻した。

 

「オスカー、トンクス、先にトランクを運んじゃおう、ミュリエルおばさんは当分エストに付きっきりだと思うからね」

 

 チャーリーがやれやれと言う顔をしてオスカーとトンクスに言った。

 確かにウィーズリー家の人たちが口々に言うミュリエルおばさんはエストがお気に入りというのは事実のようだ。

 それに物事に対する興味のあるなしが大きいというのはどこかエストにつながるものをオスカーは感じた。

 

 

 

 チャーリーの言う通りプルウェット邸は広かった。少なくとも、ウィーズリー家のみんなとオスカー、トンクス達全員分の部屋があったからだ。

 ただオスカーは隠れ穴のみんなが嫌でも近くにいないといけない狭さが少し懐かしくもあった。

 ミュリエルおばさんとエストとの協議の結果、オスカー達はWADA(魔法演劇アカデミー)の公演が終わるまではプルウェット邸に滞在するらしい。

 

「チャーリー、エスト、トンクスの三人がクィディッチのチームに入ってんの?」

「オスカーの兄貴とクラーナの姉貴だけクィディッチをやってないの?」

 

 オスカー、チャーリー、トンクスの三人はフレッド・ジョージの話相手になっていた。

 確かにオスカーの周りには双子の言う通り、各寮のクィディッチチームに入っている人間が多いのは確かだった。これはクィディッチチームが全寮合わしても二十八人しかいないことを考えると恐るべきことだった。

 

「そりゃ二人は私たちのいない間は秘密の通路を使ってホグズミードのお店でデートしてるから、クィディッチなんてやってる暇はないのよ」

「三人共ホグワーツでは有数の飛び手だからな、フレッドとジョージも入学したら十分チームに選ばれるくらい上手いと思うぞ」

 

 オスカーはトンクスの戯言を無視してフレッド・ジョージを褒めることにした。ウィーズリー家はクィディッチに熱くなる人が多いのでどうにかなるだろう。

 オスカーが過去にエストにクィディッチの話を振った時は、半日の間、チャドリーキャノンズとかいう万年最下位のチームの話をされて困ったことがある。

 

「秘密の通路? ホグワーツにはそういうのがあるの? かっけえ」

「入学したら教えてよ? ホグズミードには三年生からしかいけないんでしょ? 二年生から破ってデートとか流石オスカー兄貴だ」

 

 オスカーは頭が痛くなった。オスカーはトンクスほど双子を操れそうになかった。オスカーが秘密の通路を知っているのは確かだが、クラーナとデートに行った記憶などない。

 

「そうよ、オスカーは死喰い人の息子だけあって、管理人のフィルチの書類を燃やしたり、没収品・危険!! って書いてある棚からヤバイものを取り出したり、やりたい放題なのよ」

「まあ確かにトンクスの言ってることは大体はあってるよね、危険動物を飼ったり、一年生から決闘したりだもんね」

 

 チャーリーまで敵側に回ったことにオスカーは驚愕した。これだとまるで自分が超危険人物ではないかとオスカーは思った。そもそもそのほとんどがオスカーは巻き込まれただけのはずであるのにだ。

 

「ヒュー!! それなのに先生につかまったりしてないんでしょ?」

「これが本物のワルか…… 俺たちも見習わないと……」

 

 フレッド・ジョージがオスカーを見習ってホグワーツを抜け出したり、廊下やトイレを爆発して捕まったなんて話がウィーズリーおばさんに伝われば、オスカーの信用が、ドジをしないトンクスなんて存在くらい信じられなくなる気がした。

 

「けど五人は色んな寮なのに、レイブンクローだけなんでいないの?」

「レイブンクローってやっぱりがり勉なの?」

 

 確かにオスカーの周りにはレイブンクローだけ同級生はいなかった。がり勉、確かにあの寮の連中にはそういうところがあるかもしれない。

 

「まあ、普通はあんまり他の寮の連中とは付き合わないからな」

「フレッド・ジョージ、安心しなさい、すでにレイブンクローの下級生をオスカーが攻略済みよ」

「レアのことだね」

 

 チャーリーが完全に敵側に回ってしまい、オスカーには手の打ちようがなかった。

 

「レア・マッキノン、オスカー犠牲者三号の純血の魔女よ」

「いい加減しばくぞ」

「流石オスカー兄貴だ!!」

「全寮制覇だ!!」

 

 オスカーはさらに頭が痛くなってきた。トンクスとフレッド・ジョージは年々手が付けられなくなっている。

 去年はロンのティディベアをフレッド・ジョージがタランチュラに変えてしまって大騒動だったらしい、とにかく、成績以外ではポンコツなトンクスがただでさえうるさいフレッド・ジョージに加わると大事故が起こりかねない。

 それにいつもならからかわれるクラーナがいないせいでオスカーは自分が防波堤状態になっていると思った。

 

「トンクスはそんなにクラーナがいなくて退屈してるのか? 俺をサンドバッグにしてもなんも出ないぞ」

「え? 確かにクラーナいないと張り合いがないけど、オスカーと話してても私は楽しいわよ?」

「僕も楽しいけどね」

 

 そう言って普通に二人が笑うとオスカーは何も言えなくなってしまった。

 

「そう言えばなんでクラーナの姉貴はいないの?」

「去年は最初に来たのにな」

 

 フレッド・ジョージが顔を見合わせてから、オスカーに聞いてきた。確かにこの双子は悪戯こそするが、なんだかんだクラーナと一緒にいることが多かった気がオスカーはした。

 

「そりゃオスカーとエストのいないとこでデートしてたからでしょ」

「少なくとも夏休み始まってからは会ってないけどな」

「マッドアイと用事があるって言ってたよね」

 

 ホグワーツ特急では行けるようになったら来ると言っていたので、用事が終わったら来るのだろう。オスカーはそれまでトンクスを封印する術を考えなければならないと思った。しかし、杖が使えない今、永久粘着呪文をトンクスの口にかけることは難しかった。

 

「「マッドアイってアラスター・ムーディ?」」

 

 フレッド・ジョージが何かを思い出すような顔をして言った。

 

「そうよ、クラーナのおじさんね」

「まえパパのとこに行った時にいた人だよな?」

「うん、魔法の眼がグルグル回ってて面白かったな」

「確かにクラーナに似てたね、フレッド・ジョージに油断大敵!! って言ってたし」

 

 なるほど、あのクラーナの口癖はマッド・アイ・ムーディから移ったものなのかとオスカーは思った。結構な回数、クラーナとの節目節目でそれを聞いた気がするからだ。

 

「そろそろ夕飯なんじゃない? この家にも屋敷しもべはいるのかしら?」

「テッドさんみたいなお腹になってもしらないぞ、さっきも糖蜜パイをペンスから貰ってただろ」

「オスカー良く見てるわね、あとパパと一緒にはならないから大丈夫よ」

 

 トンクスはそう言ったが、外見以外はテッドの方にトンクスは似ているとオスカーは思っていた。オスカーの予想ではこのままいけば外見もそっくりになるだろう。

 オスカー達は夕飯を求めて大広間の方へ向かって行った。

 

 

 夕飯が終わって、オスカーはお腹が少しもたれていたのでプルウェット邸の中を一人で歩いていた。オスカーは人が沢山いて賑やかなウィーズリー家の団欒が好きだったが、慣れてはいなかった。

 一人で歩くとこの家の大きさが良くわかった。少なくとも、ドロホフ邸と同じかそれ以上の大きさはあったし、古さはこの家の方が上だろう。

 部屋には時々名前が書いてあった。たしか客間として提供されていた部屋には書いていなかったので、家族用の空間に入り込んでしまったのだろうか? オスカーは他の家族の部屋を盗み見るようで少し気が咎めたので、戻ろうとした。

 しかし、オスカーの目線は良く知っている名前を捉えた。

 明らかにモリーの部屋と書かれている。そしてその隣にはギデオンの部屋、フェービアンの部屋と書かれていて、一番端にはエストレヤの部屋とある。

 オスカーは明らかに自分が踏み入れてはいけない場所に足を運んでしまったと思った。

 少なくとも、オスカーは自分がこの空間にいていい資格があると思えなかったのだ。だというのに、オスカーはギデオンとフェービアンという名前をしばらく眺めていた。

 

「死喰い人の息子だと言うから、もっと臆病なやつだと思ってたけどね、中々肝が据わってるじゃないかぇ」

 

 その声を聞いてオスカーがハッと振り向くと、ミュリエルおばさんがエストとよく似た眼でオスカーを見ていた。

 

「ええ? 自分の親父が殺した人間の部屋を眺めるなんてね、普通の人間にできるようなことじゃないよ」

 

 その眼はヴォルデモートやダンブルドアのような心を見通すような目ではなかった。だというのにオスカーは自分の心が丸裸にされているような気がした。

 

「すいません、勝手に屋敷の中を歩いて……」

 

 オスカーはなんとか口から言葉をひねり出した。

 

「別に私はあんたが屋敷のどこを歩いたって気にしないけどね、むしろ安心してるくらいだよ」

 

 ミュリエルはニヤリと笑ったが、オスカーはその笑いを見ても全く安心できなかった。モリーおばさんやエストの笑っている顔とどこか似ているというのに、彼女の笑い顔はどこか人の悪意が見えているように思えたからだ。

 

「私はね、エストレヤと同じくらい賢い魔法使いを一人だけ見たことがある、誰だか分かるかぇ?」

 

 ミュリエルおばさんのその言葉を聞いてオスカーには二人の魔法使いの顔が浮かんだ。最初にヴォルデモートが、次にダンブルドアだった。

 

「あんたも知ってるアルバス・ダンブルドアだよ、アルバスの学生時代を知ってるのはもう魔法界にも数えるくらいしかいないだろうけどねぇ」

 

 ダンブルドア? オスカーにはダンブルドアの学生時代と言われても全く想像ができなかった。あの絶対的な魔法力と慈悲深い性格を持つダンブルドアがオスカーやエストと同じ様にホグワーツに通っている姿を想像することができなかったからだ。

 

「アルバスの周りには色んな奴らが集まってたし、魔法界の偉大な方々とも文通をしてたけどね、アルバスの友達なんて呼べるのはドジのエルファイアスくらいだったろうねぇ」

 

 またミュリエルおばさんが笑った。やっぱりオスカーにはその笑い顔が何か悪意を含んでいるように感じた。憎しみとかそういうドス黒いものではなく、ただ単純に人を傷つけるとげとか針のような悪意だった。

 

「でもねぇ、少なくとも私はアルバスが自分と同格だとか、自分が理解されたいなんて相手をホグワーツで見つけられたとは思えなかったねぇ」

 

 ダンブルドアを理解する? あの今世紀で一番偉大な魔法使いを? オスカーにはミュリエルおばさんの言っている意味がいまいちよくわからなかったが、何か嫌な予感がした。

 

「色んな賞や栄光を得てアルバスが満たされたと思うかい? 私はね、その頭が良ければよいほど、魔法が上手ければ上手いほど、どうしようもなくなっていくと思ってるよ」

 

 このミュリエルという女性は何が言いたいのか? オスカーにはそれがもう分かっている気がした。だけどオスカーはそれを理解するのが嫌だった。

 

「アルバスは今世紀で一番の魔法使いなんて言われてるけどねぇ、少なくとも結婚もしていないし、親はアズカバン送りで、母親とスクイブの妹は事故で死んで、弟とは喧嘩別れだ、私はあんまり幸せとは言えないと思うねぇ」

 

 これもオスカーは想像などしたことがなかった。アルバス・ダンブルドアの家族がどうかなんて考えたこともなかったからだ。あんな優しい人の父親がアズカバン? 弟とも喧嘩別れ? 母と妹は事故で死んだ?

 

「ああ、あんたの父親もアズカバンだからアルバスとは境遇が似てるかもねぇ…… もう何が言いたいかくらいは分かるんじゃないかぇ?」

 

 つまりこのミュリエルはエストがダンブルドアのようになるのではないかと言っているのだ。オスカーはさっきエストと聞いて連想した二人の魔法使いの片方がどうなったのかを知っていた。そしてもう一人の魔法使いがどうであったのかも聞かされた。

 オスカーは不安になったが、一方で目の前のミュリエルに対する怒りがこみあがってきた。あの杖について話した時から、オスカーはエストの傍にいようと思った。ヴォルデモートの末路やミュリエルの言うようなダンブルドアのような状態には絶対にさせないと思っていた。

オスカーはエストに似ているその眼を真っ直ぐに見た。

 

「エストがそうなるんじゃないかって言うんですか?」

「別にわたしは何も言って無いけどねぇ…… いい目になったじゃないかぇ」

 

 ミュリエルおばさんはそう言って笑った。オスカーは自分の眼が変になったのかと思った。さっきまでの悪意のある笑いではなく、オスカーが良く知っているエストやモリーおばさんの笑い顔にそっくりだったからだ。

 オスカーはやり場のない怒りと、からかわれたという事実を持て余した。

 そしてミュリエルおばさんの後ろからエストの声が聞こえた。

 

「ええ? オスカーはミュリエルおばさんと何やってるの?」

「ああエストレヤ、お前のオスカーには私の話に付き合って貰ってたのさ」

 

 ミュリエルおばさんがそう言うと、オスカーは自分の顔が赤くなっていくのを感じた。完全にこのおばあさんにしてやられたと思ったからだ。

 

「エストの部屋の前で? ミュリエルおばさんが座りもしないで? 絶対ウソなの」

 

 そう言うとエストはオスカーの方に視線を移した。オスカーは自分の顔がもっと赤くなっていくのを感じた。

 

「なんでオスカーはそんなに真っ赤なの? もう!! ミュリエルおばさんいったいオスカーになにしたの!!」

「勝手に赤くなってるだけだよ、私の同級生の話をしていただけさ」

「ミュリエルおばさんの同級生なんてほとんど土の下に決まってるの!!」

 

 その後もギャアギャア口論する二人をよそにオスカーは、やっぱり隠れ穴かホグワーツに早く行きたいと思った。

 


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