ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

3 / 95
組み分け帽子って開心術なんだろうか


ハットストール

 扉が開き、中から背の高い魔女が出てくる。顔からして厳しいんだろうなとオスカーは感じる。

 

「マクゴナガル先生、イッチ年生を連れてきました」

 

 巨漢が言う。

 

「ご苦労様です。ハグリッド。ここからは私が案内しましょう」

 

 マクゴナガル先生の先導に従って巨大な玄関ホールを通り過ぎ、暖かなたいまつの火に照らされた大理石の階段を上る。

恐らく、全校生徒が集まっているホールについたが、一年生はその隅にある小さな部屋に案内された。

 

「ホグワーツ入学おめでとうございます」

 

 マクゴナガル先生がこちらを見て挨拶する。

 

「新入生の宴が始まる前にあなた方の寮を決めないといけません。寮の組み分けはホグワーツでは大事な儀式なのです。ホグワーツにいる間は寮生こそが家族のようなものになります。教室で学ぶのも、宿舎で寝るのも、談話室で遊ぶのも全て寮が基準となるのですから」

 

「ホグワーツには四つの寮があります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。それぞれ偉大な歴史と偉大な卒業生がいます。ホグワーツでの皆さんの行動は寮への評価として与えられます。どの寮でもその寮に入っているという自覚をもって行動してください。そうすれば学年末に名誉ある寮杯が所属する寮に与えられるでしょう」

 

「これから全校列席の前で組み分けの儀式が行われます。待っている間、身なりと精神を整えておいてください」

 

 そういった後、マクゴナガル先生はオスカーの隣で目をつぶって、ふねをこぎ始めているエストをちらりと見た。

 

「学校側の準備が終わり次第、戻ってきます」

 

 そういってマクゴナガル先生はどこかへ行ってしまった。

 オスカーは取りあえず、隣のエストを起こすことにした。

 

「あれ? もう組み分けは始まるの?」

「マクゴナガル先生が戻ってきたら始まるだろうな」

 

 オスカーは全校の前での組み分けが苦痛だったが、隣で気の抜けた顔をしているエストを見ると馬鹿らしくなってきた。

 

「プルウェット、お前緊張しないのか?」

「緊張? なんで? 組み分けって絶対面白い魔法だよ? あとプルウェットじゃなくてエストだから」

 

 チッチ、みたいな感じで指を振ってエストはオスカーをバカにした。

 

「生徒の性質を見分けて寮を分けるなんて、きっとすごい儀式だと思うな」

 

 確かに、どうやって性質を見分けるのだろうか? 魔法で身体の性質とか精神の性質を見分ける方法でもあるのかとオスカーも思った。

 

「さあ行きますよ、ミス・プルウェット、私語はそれくらいにしてください」

 

 厳しい声がエストを注意した。

 

「組み分け儀式が始まります。一列になってついてきて下さい」

 

 一年生は玄関ホールをでて、大広間に入った。何百という瞳が彼らを見つめている。

 オスカーは視線が嫌だった。視線はオスカーという個人ではなく、ドロホフという苗字や、アントニン・ドロホフの息子という自分を見ているような気がしたからだ。

 

 キラキラと輝く皿やゴブレットが飛び交う光景や、外の星空がそのまま見え美しい天井を見てもオスカーの心は重いままだった。

 唯一心が晴れるとすれば気の抜けた声で、凄い、凄いと騒いでいる隣のエストくらいだろうか。

 

 そうこうしている間に、マクゴナガル先生は一年生の前に椅子と、ボロボロのとんがり帽子を置いた。

 一瞬の静寂の後、帽子が動き、歌い出した。

 

『私の姿はみすぼらしい

 けれども人は見かけによらぬもの

 果たして私は誰なのか?

 私は思う、私は誰?

 それは皆が知らぬこと

 

 ならば私は伝えよう

 君の頭にあるものを

 

 組み分け帽子はお見通し

 かぶれば君は知るだろう

 君の頭にあるものを

 

 四天王のそれぞれは

 四つの寮を作り出し

 自らの持つ徳目を

 それぞれ寮で教え込む

 

 グリフィンドールが持ちよるは

 何にもくじけぬ勇猛さ

 

 ハッフルパフが持ちよるは

 何にも負けぬ勤勉さ

 

 レイブンクローが持ちよるは

 何をも知る賢明さ

 

 スリザリンが持ちよるは

 何をも阻まぬ狡猾さ

 

 四天王の亡き後に

 誰が選ばんその素質?

 

 グリフィンドールその人が

 ボロボロにしたその帽子

 四天王のそれぞれが

 自分の徳を吹き込んだ

 帽子が素質を見分けるよう

 

 被ってごらん。恐れずに

 君の知らない君の頭

 私が見よう。知らぬ頭

 そして知るのさ、寮の名を!』

 

 帽子が歌い終わると、広間の全員が拍手喝采をする。

 帽子はそれそれのテーブルにお辞儀をして静かになった。

 

 隣のエストはさっきとは打って変わって静かになり、じっと帽子を見つめている。

 マクゴナガル先生が前に出て、長い羊皮紙の巻物を持っている。

 

「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組み分けを受けてください」

 

 A、B、Cの苗字を持つ生徒が呼ばれ、それぞれ組み分けを受けた後、それぞれのテーブルへ座っていった。

 組み分けはかなりのスピードで行われていた。

 ほとんどの生徒は帽子をかぶって一分もたたない間に寮の名が告げられる。

 そしてオスカーの番がやってきた。

 隣のエストがなにやらこっちにガッツポーズをしている。

 

「ドロホフ・オスカー!」

 

 オスカーが前に進み出ると、広間に少し静寂が起こる。

 

「ドロホフ? アントニン・ドロホフの息子か?」

「あの殺人鬼に息子がいたのか?」

 

 オスカーが帽子をかぶるまで、オスカーの視点には明らかに友好的でない視線が向けられていた。

 それも帽子をかぶると中の闇しか見えなくなった。

 オスカーは少し待った。

 

「ほう、これは面白い」

 

 なにやら低い声が耳の中で聞こえた。

 

『君の血と魔法は間違いなくスリザリンに向いている。その力を求める思考も抜け目のない頭も、目的の為に規則を無視するであろう傾向もだ』

 

 オスカーは黙って聞いていた。

 

『だけれども君は勇気も持ち合わせている。君が頭を巡らすのも、力を求めるのもそれぞれを求めているわけではない。君には勇気と怒りが満ち溢れている。これはグリフィンドールに向いている』

 

 勇気? そんなものはない。オスカーはそう思った。

 現にドロホフの息子だと思われるのが嫌でコンパートメントは人がいない場所を選んだし、今も視線にあてられるのが辛いのだ。

 

『それは違う、君に勇気がないのなら君はそれらを気にしないだろう。君は自分や自分の周りあるものに危害を加えるものと正面から戦う勇気があるのだ。ふむ……。難しい。グリフィンドールならば君はその勇気を、スリザリンならば君は守るべきものを得るだろう』

 

 自分がもつ勇気? 自分が守るべきもの? それぞれ自分には値しないものだとオスカーは思った。

 

『ふむ、やはり、君は守るべきものを持つべきだろう。よろしい、君がスリザリンで真に守るべきものを見つけられるならば、グリフィンドールよりも偉大になれることだろう。スリザリン‼‼』

 

 最後の一言は頭の中でなく、帽子が外へと叫んだものだとオスカーには分かった。

 オスカーはスリザリンのテーブルへと向かった。

 

「やっぱり、スリザリンか」

「カエルの子はカエルだな、絶対闇の魔法使いになるに違いない」

「なんであんな奴の入学を認めたんだ?」

 

 スリザリンのテーブルに向かう最中もほとんど拍手は起きなかった。

 聞こえてくるのはやはり闇の魔法使いがどうとか父親の話ばかりだ。

 だが、オスカーの内心では先ほどの組み分け帽子の話が反芻されていた。

 

 オスカーはスリザリンのテーブルに座ったが、隣にはだれも話しに来なかったし、スリザリンの上級生でさえ、オスカーを腫物として見ているようだった。

 その間にも組み分けは続いた。

 

 Mの苗字が呼ばれる順番まできた。

 

「ムーディ・クラーナ!」

 

 さっきホグワーツ特急であったクラーナが呼ばれていた。

 クラーナは自信満々にでかい杖を引きずりながら組み分け帽子をかぶると、触れるやいなや帽子が「グリフィンドール!!」と叫んだ。

 

 クラーナは拍手喝采でグリフィンドールに迎えられた。

 どんどん、順番が過ぎていき、そろそろエストの順番が回ってくることになった。

 

「プルウェット・エストレヤ!」

 

 エストは自信満々に組み分け帽子を被った。

 しかし、なにやら様子がおかしい。

 これまでの組み分けは少なくとも1分以下かそれくらいで寮の名が叫ばれたのに、組み分け帽子が10分ほどたっても微動だにしないのである。

 それに隣のゴーストの様子がおかしい。

 隣のゴーストは人がいないのを良いことにオスカーの隣にいた血みどろのゴーストなのだが、エストの姿を見てから全く動かない。

 

 それからさらに十分くらいだろうか、時間が流れ、大広間のざわめきが大きくなってきたころに組み分け帽子が叫んだ。

 

「スリザリン‼‼」

 

 エストはスリザリンのテーブルに向かってくる。

 エストは拍手喝采で迎えられた。

 オスカーは対応の違いに笑わざるを得なかった。

 

 上級生たちに話しかけられているにも関わらず、エストはオスカーの隣に座った。

 

「オスカー、同じ寮だね、これからよろしくね?」

「いや、周りをみたほうがいいぞ、俺がスリザリンでさえ避けられてるのがわかるだろ」

「ん~ そうなの?」

 

 エストは周りを見回す。エストとオスカー周りには誰もいなかった。少なくとも人間は。

 すると隣のゴーストが喋りかけてきた。

 

「少年、この姫は君を気遣って話しかけてきてくれたのだ。そのような態度は失礼だろう?」

 

 血みどろの髭が言うと何か変な迫力があった。

 

「おじさん? 別にエストは気遣ってオスカーの隣に座ったんじゃないよ? オスカーとはコンパートメントで喋ったからもう友達だもん、あとおじさんだれ?」

 

 エストがそう言うと、血みどろのゴーストは感極まったみたいな顔をした。

 

「おおそうでしたか、姫がそういうならそうなのでしょう。あと私のことは血みどろ男爵とでもお呼び下さい」

 

 男爵はエストとオスカーに会釈して消えていった。

 

「うーん? なんで血みどろ男爵はエストのこと姫って呼んだんだろう?」

「さあ? 昔あった姫様に似てたとかじゃないのか?」

 

 またエストは何やら悩んでいる。

 組み分けはそのあと順調に進み、見るたびに髪の毛の色が変わっており、ちょっと気になっていた女の子はハッフルパフに組み分けられた。

 さっき、船で一緒になったウィーズリー家の男の子は当然のようにグリフィンドールに選ばれた。

 

「あのテーブルに座ってるのが先生かな?」

 

 エストが指すテーブルには幾人も先生らしき人が座っている。さっき名前を読み上げていたマクゴナガル先生。小さすぎて頭しか見えない先生。鉤鼻の脂っこい髪の毛をした先生。優しそうな恰幅のいい先生。麦わら色の髪の毛をした人……。

 

「あれ? スタージスが座ってる」

「スタージス?」

「ほらあの麦わら色の髪の毛の人、知り合いなの」

 

 そういってエストが麦わら色の髪の毛をした人に手を振ると向こうも満面の笑みで振り返してきた。

 その横に座っていた。白い髭を蓄えた魔法使い。ダンブルドア校長もこちらを見る。一瞬、オスカーにはダンブルドアがエストとオスカーの方を見て虚を突かれたような顔をした気がした。

 ダンブルドアが立ち上がって挨拶をする。

 

「おめでとう! ホグワーツの新入生、おめでとう! 歓迎会を始める前に、二言、三言、言わせていただきたい。眠れるドラゴンを起こさぬように学業に励むこと、以上!」

 

 ダンブルドアの短い挨拶が終わると拍手が鳴り響き、何もなかったテーブルの上にごちそうが現れた。

 

「ダンブルドアってへんな人だね? 二言三言って言ってたのに」

「偉大な魔法使いはだいたい変な人なんだろう」

「確かにカエルチョコの人もみんな変な顔してるかも」

 

 変な人という意味だとエストも変な人のようにオスカーには思えたので、いつか偉大な魔法使いになるんだろうかと思い、カエルチョコのカードに乗っているエストを思い浮かべ吹き出しそうになった。

 

「オスカーなんか変なこと考えたでしょ?」

「いや、全然」

 

 オスカーはこんなに明るく楽しい夕飯を食べたのはいつ以来だろうかと思った。

 




※ハットストール
組み分け帽子が悩むこと、作中ではハリー・ポッターやネビル・ロングボトム等の組み分けで帽子が悩んでいた。
なお、帽子が五分以上組み分けに時間がかかる場合、組み分け困難者と呼ばれる。

※スタージス・ポドモア
不死鳥の騎士団創立メンバーの一人。ハリーの先遣護衛隊の一人でもある。
作中では服従の呪文をかけられて、神秘部に侵入させられ、アズカバン送りとなった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。