ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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お酒は成人になってから



ファイア・ウィスキー

 トンクスがオスカー達に何も言わずに色々勝手に決定してから、数週間が経った。

 オスカー達は当初の予定通りにレアに一年生の時練習した呪文を教えたり、チャーリーの無言呪文の練習に付き合いながら、劇の準備を進めたり、守護霊の呪文についてドージ先生に聞いたりした。

 

「もっと苦労するのかと思ってましたけど、普通に全部マスターできたじゃないですか」

 

 エストが変身術で出現させた、フェレットやアナグマといった小動物をレアが見事に失神させるのを見ながら、クラーナが言った。

 

「そうですね…… 最近何か調子がいいんです。杖が言うことを聞いてくれるっていうのか……」

 

 レアが自分の杖を少し不思議そうに見ながらそう言った。オスカーは灰色のレディが杖について言っていたことを思い出した。

 杖を信じないと魔法を使うことができないという話だ。

 

「レアの杖の素材ってなんなの?」

「素材ですか? ボクの杖の素材は黒クルミだったはずです」

 

 エストはレアからの返答を聞くと、何かを思い出すような顔をして、その後目を見開いて笑顔になった。オスカーはその顔が何か考えたことが現実であった時にする顔だと知っていた。

 

「黒クルミの杖はね、心に迷いがあるとあんまり力を発揮しないって、オリバンダーさんが言ってたから、レアの心の迷いが無くなったから、魔法を使えるようになったんじゃないかな?」

「心の迷い? ですか……」

 

 レアは少し目をつぶり、何か考え込むような顔をした。オスカーにはレアが自分自身に迷いがないか考え直しているように見えた。

 

「そうなの、最悪の場合は杖の持ち主を変えないと使えなくなっちゃうって言ってたけど、レアは杖に認められたんじゃないかな」

「杖の持ち主…… 認められた……」

 

 レアはもう一度自分の杖を見つめ直し、強く握りしめた。

 オスカーはエストとレアのやり取りを見て、もしかするとレアにかかった武装解除呪文と自信を少しレアが取り戻したことが、黒クルミの杖に影響しているのではないかと思った。

 

「というか、なんでエストはそんなに杖の素材に詳しいんですか? オリバンダーさんは私が杖を買った時も喋りたがりでしたけど、他の人の杖の話なんてしないんじゃないですか?」

「うーんとね、エストが杖を買った時は半日くらいかかったの、それであんまり時間がかかるから、試す杖の素材について色々教えて貰ってたの」

 

 オスカーは組み分けの時といい、エストの何かを判断するときは何にでも時間がかかってしまうのだろうかとちょっとだけ考えた。

 

「半日って、あほみたいな時間ですね……」

 

 オスカーもあの不気味なオリバンダー老人と半日一緒に過ごすのはちょっとごめんこうむりたかった。

 

「色々教えてもらったし、ちゃんと杖も見つかったから楽しかったの、そうだ、クラーナの杖がなんの素材なのかも聞いていい?」

 

 エストは少しオスカーに視線を送りながらクラーナに聞いた。オスカーもクラーナの杖の素材は気になった。オスカーはエスト、自分、レアの杖の素材しか知らなかったが、オリバンダー老人の言う杖と持ち主の関連性の方が占い学よりも信頼できそうだと思ったからだ。

 

「私の杖ですか? 私の杖はイトスギですよ」

 

 クラーナは自信満々に人よりも明らかに大きな杖を突き出してそう言った。

 それを聞いたエストの顔はさっきのレアの杖について聞いた時よりも笑顔で、正に考えていたことが当たったという顔だった。

 

「イトスギの杖は英雄になる人が持つ杖って言ってたの! すごく勇気があって、自分やほかの人の心に向き合える人、人のために自分を捨てられるような人が持つ杖なんだって」

 

 オスカーもそれを聞いて、クラーナにピッタリの杖だと思った。去年の叫びの屋敷や必要の部屋での出来事が頭の中に浮かんだからだ。

 

「自分の心に向き合うですか……」

 

 しかし、クラーナの顔色は映えなかった。クラーナの目線はさっきのエストと同じように一瞬だけオスカーの方を向いた後、話相手のエストではなく、どこかなにか違うものを見つめているようだった。

 オスカーは考えていたクラーナの反応と違ったと思った。クラーナなら、自信満々の顔で未来の闇払いに相応しい杖ですねとか言いそうだと思ったのだ。

 

「イチャイチャしてるとこ悪いけど、おじいちゃん先生から理事会の話を聞いてきたわよ」

「エストと話してただけですよ」

 

 トンクスがドアを開けるなり、クラーナをからかっていた。

 

「へえ? だれと話してたら『だけ』じゃなくなるのかしら?」

「いいから理事会の話がどうなったか言えばいいでしょう」

「チャーリー、どうだったんだ?」

 

 オスカーは話が進みそうにないので、トンクスの後ろにいたチャーリーに聞いた。ダンブルドア先生がホグワーツの理事会にかけあった内容の判断が今日伝えられるはずだったのだ。トンクスとチャーリーはドージ先生にその結果がどうであったかを聞きに行っていたのだ。

 

「オッケーらしいよ、理事会は反対は一票だけで他はみんな賛成なんだって」

「これで大手を振って練習できるってことよ、さあクライマックスは情熱的なラブシーンにしないとね」

「あたまわいてるんですか? 教養的な内容にしないと、せっかく許可されたのにまた禁止されてしまうでしょう」

 

 トンクスの髪色がピンク色だったので、正直なところ理事会の結果がどうであったのかチャーリーに聞かなくてもオスカーは分かっていた気がした。

 

「じゃあこれから劇の練習をし始めるんですか?」

「そうよ、レア、頭の固いクラーナとオスカーにちゃんとダメ出しするのよ?」

「顔の形がすぐ変わるトンクスの脳みそはポリジュース薬よりやわらかいですけどね」

 

 レアもトンクスとクラーナが騒ぎ始めると話が終わらないことに最近気づいたのか、話題を振ってくれているようだった。

 

「台本とかは昔のがあるんだよね?」

「そうよ、ビーリー先生がホグワーツでやってたころの台本がでてきたのよ」

「あの台本なんか焦げてましたけどね」

 

 ホグワーツの歴史ある台本がどこからともなく見つかったらしい。オスカーもその台本を読んだが、確かにところどころ焦げ跡があって、焦げ臭い匂いすらするようだった。

 

「台本には大道具の演出はダンブルドア先生がやったって書いてあったの、きっとすごい演出だったはずなの」

「すごい演出過ぎて大講堂が大炎上でしたけどね」

 

 どうもクラーナはよっぽど劇をやりたくないらしい。オスカーはいちいちクラーナが辛らつだと思った。

 

「ちょっとクラーナはメインヒロインなんだからもっと乗り気になりなさいよ」

「はあ? ラブシーンがどうとかあほなことばっかり言うからでしょう」

「豊かな幸運の泉でアマータをやりたい女の子なんて魔法界にどんだけいると思ってるのよ」

「そ…… それはそうかもしれませんけど、トンクスからは悪意がひしひしと感じられるんですよ」

 

 確かにトンクスがいつもにましてクラーナにからみ続けているのは、他の人から見ても一目瞭然だった。

 

「オスカーはやる気満々なのに、可哀想よ?」

「なんですかそれ! オスカーも黙ってないでなんか言ってくださいよ!」

 

 それに最近みんなが止めようとしても止まらなくなっていて、最後に流れ弾が飛んでくるとオスカーは思っていた。

 

「トンクスにいちいち反応するのは、まね妖怪と正面から戦うようなものだろ」

「いいねオスカーそれ、相手がトンクスだとそれっぽく聞こえるよ」

 

 なぜかチャーリーにはバカうけした。オスカーはチャーリーのつっこみが一番鋭いのではないかという考えを最近するようになっていた。

 

「ほらオスカーは否定してないじゃない?」

「相手にされてないだけなの」

「まね妖怪、トンクス先輩…… なるほど……」

「あほですねトンクス」

 

 トンクスが集中砲火を浴びていたので、オスカーはなんとか鎮火させることができた気がした。最近のオスカーの対トンクス・クラーナの戦績を考えると上々の結果だった。

 

「ホグズミード休暇はどこいくんだ? もうハロウィーンだろ?」

「先輩方はホグズミードに行けるんですね、いいなあ」

「そりゃマダム・パディフェットの店……」

「ホッグズ・ヘッドの方がまだましでしょう」

 

 オスカー達の話題は劇から直近に迫っているホグズミードへいける休暇へと変わっていった。忍びの地図でいくつも学校の外にいける道を知ってはいたが、オスカー達は結局去年色々あって秘密の通路を使うことはなかったし、純粋に学校の外へいくことはみんな楽しみにしていた。

 

 

 

 ハロウィーンの朝、オスカーとエストはほかの三人と玄関ホールで待ち合わせして、ホグズミードへと向かった。オスカーはフィルチがやっている許可証の検査で、他の人の三倍も時間を取られた。フィルチはなんとかして、オスカーに罰則を与えたいようだった。

 

「ええ? こんど夜中に城を出歩いたり、廊下や肖像画を爆破してみろ、先生方が来られる前にお前を鎖で宙づりにしてやるぞ」

 

 オスカーは肩をすくめるしかなかった。その中でやったのは夜中に出歩いたことくらいだったからだ。フィルチの中でオスカーは狡猾に罰則をすり抜けている生徒に見えているらしい。

 

「未来の死喰い人は検査も厳重みたいですね」

「みんなの悪事が全部俺のせいになってる気がするんだけどな」

「気のせいよオスカー、さあどこから回るの?」

 

 ホグズミードにはいくつか生徒に人気の場所があった。英国一荒々しいゴーストが住む叫びの館、ハニーデュークスのお菓子のお店、ゾンコの悪戯専門店、バタービールが飲める三本の箒といったところだ。

 

「ねえ先に叫びの館を見に行かない? 多分あの屋敷を中から見たことがある生徒はエスト達だけなの」

「確かに、ゴーストの正体を知っている僕たちが見に行くのも面白いかもね」

 

 オスカー達はエストの先導にしたがって、叫びの屋敷に向かった。叫びの屋敷は村外れの小高い丘の上に建っていて、すべての窓やドアは打ち付けられてふさがれており、ぼうぼうに生える草と湿っぽい地面が合わさって確かに不気味ではあった。叫びの屋敷の傍にはオスカー達と同じような三年生たちが遠目から叫びの屋敷を眺めていた。

 

「丘の上だからトンネルでいけたんですね」

「あのトンネルが途中からずっと上りだったのはそういうことだったのか」

 

 オスカー達は不気味そうにして一定の距離から近づかない生徒達に一べつもくべずに叫びの屋敷のすぐそばまで近寄った。確かにあけようとしても打ち付けられた木材はびくともしなかったし、それ以上に入れないように何か魔法がかかっているようだった。

 

「パパはこの屋敷を回っただけで腰を抜かしたらしいけど、ゴーストの正体がレアだと思うとちょっと悲しくなってくるわね」

「テッドさんの時は違うものだと思うけどね、明らかに爪や牙の跡があったから」

「そうですよトンクス、腰を抜かさないように気をつけたほうがいいですよ」

 

 オスカーはテッドさんのころに話題になったものの正体も、少なくともゴーストではない気がした。学生なのか先生なのかは分からないが、何か生徒達にみせられないような状態になった誰かをここに閉じ込めていたような気がしたのだ。正直、人が変身して牙や爪を持つような存在などオスカーは一つくらいしか思いつかなかったので、想像するのをやめた。

 

「牙や爪があって、人がなっちゃう? うーん人狼がホグワーツに入れるとは思えないし…… 変身術で戻れなくなっちゃったとか?」

「もういないみたいですから、あんまり考えてもしかたないと思いますけどね」

「そうよ、正直ママとパパの時代とかどうでもいいわ、私たちは腰を抜かすこともないしね」

 

 オスカーはこういう時にエストの思考が止まらなくなるのを知っていたし、それを止めてくれる二人がいるのはありがたかった。暗い話をし続けてもしかたないと思ったのだ。

 

「テッドさんはファイア・ウィスキーを飲んでから行ったって言ってたよな、あれってそんなにうまいのか?」

「僕もファイア・ウィスキーは気になるよ、パパとママはあれをよっぽどのことがあった時だけ飲むようにしてるからね」

 

 ドロホフ邸にも何本かオグデンのファイア・ウィスキーがあることをオスカーは知っていた。ペンスも重要な客が来る時だけそれをお出ししますと言っていたはずだ。オスカーは魔法界の大人たちが口々に言うファイア・ウィスキーなるものがどのようなものなのか気になっていた。

 

「ファイア・ウィスキーは成人になるまで飲めないってミュリエルおばさんが言ってたの、お子様には分からないとかなんとか」

「そうですね、大人たちはあれを信仰してますよね」

「ファイア・ウィスキーを飲めば大人の階段を駆け上がれるってことね」

 

 トンクスはそう言うと鼻をつまんで、トンクス先生を優し気にしたような魔女に変身した。ローブのサイズが合っていなくてちぐはぐに見えるが、大人の魔女の様に見えた。

 

「エスト、ローブをどうにかしてくれない?」

「いいけど、大人に変身してどうするの?」

 

 エストが杖を一振りすると変身したトンクスの体に合わせてローブのサイズが変わった。今のトンクスとトンクス先生を比べればみんな姉妹だと思うだろう。

 

「三本の箒でファイア・ウィスキーを注文する気ですか? それだとトンクスしか飲めない気がしますけど……」

「ホグズミードにはもう一つバーがあるでしょ?」

 

 トンクスは悪戯っぽく笑った。オスカーはいつも知っているトンクスの顔と違うのにトンクスの笑い顔だとわかるのは不思議だと思った。

 

「ホッグズ・ヘッドのことだよね? たしかに、ハグリッドもあそこで昔キメラの卵を買ったって言ってたし、あそこなら僕らがファイア・ウィスキーを飲んでても大丈夫かもしれない」

 

 オスカーはキメラの卵が売られているような場所に入るのは果たして大丈夫なのかと思った。ノクターン横丁の怪しい店並みや脛に傷のありそうな人たちが頭の中に浮かんだのだ。

 

「念のために大人が買ったことにすれば大丈夫だと思うのよ」

「今のトンクスなら、生徒を引率してる先生みたいに見えるから大丈夫かもしれないの」

「ホッグズ・ヘッドに生徒を連れてく先生はだいぶヤバイですけどね」

 

 オスカーはホグズミードに来たのはこれが最初なのに、そんなに冒険して大丈夫かと思ったが、ファイア・ウィスキーには興味があった。

 

「トンクス、先に金を集めといた方がいいと思うぞ、あれけっこうな値段するだろうからな」

「オスカーお坊ちゃまにそういわせるなんてよっぽどね」

「そうじゃなきゃ、うちで家宝みたいな扱いになってないよ」

 

 オスカー達はトンクスを先頭にして、ホッグズ・ヘッドへと向かった。ホッグズ・ヘッドは大通りから離れた横道、その突き当りに建っていた。

 ドアの上にボロボロの看板がかかっている。イノシシの首が切られて、その首の血で白い布が赤く染まっている絵だ。オスカーはホッグズ・ヘッドがバーというよりは宿に見えた。

 

「じゃ、いくわよ」

 

 トンクスが楽しそうな声で言い、先頭に立って入っていった。オスカーはトンクスの髪の一ふさが赤くなっていることに気付いた。

 ホッグズ・ヘッドのバーは非常にみすぼらしく、汚く、不衛生に見えた。ペンスはオスカーがここに行ったことを知ったらすぐにでも風呂に入れと言うだろう。それに何か家畜のような臭い、ヤギのような臭いがした。

 窓はほこりと煙か何かで黒く染まっていて、外の光をほとんど取り込んでいなかったし、床は土だと一瞬思ったが、実際には石畳の上にありえないほどのほこりが積もっているようだった。

 オスカーはあたりを見回したが、あやしい人物ばかりだった。ほとんどの人間がマスクかフードのようなもので顔を隠していたし、血にしか見えない怪しい液体をグラスに入れて飲んでいる人、生肉にしか見えないものをむさぼっている人、人間にはありえない勢いで羽ペンを動かしている人などとにかく話しかけるのをためらわざるを得ない人物ばかりなのだ。オスカーはクラーナのおじさんでさえここでは目立たないのではと思った。

 オスカー達はテーブルを確保したあと、バーテンに注文をしに行った。

 

「ファイア・ウィスキーをグラスで五本よ」

「二ガリオン、三シックルだ」

 

 トンクスがさっきみんなからかき集めたお金をテーブルにだそうとして、そのままぶちまけたのでバーテンは非常に嫌そうな顔をした。

 バーテンは長い白髪にあごひげを伸ばした人物だった。オスカーはその人物を見た瞬間にいつかと同じ感覚を覚えた。ミュリエルおばさん、マルフォイ氏の妻らしき人、クラーナのおじさん…… オスカーはその人が誰か知っている人に似ていると思ったのだ。

 バーテンがファイア・ウィスキーを五本のグラスになみなみと注ぐ間、オスカーは誰と似ているのか考えていたが、結局誰なのか思い出すことができなかった。

 五人はそれぞれグラスを持って、テーブルに戻ることにした。オスカー達はトンクスに運ばせるとファイア・ウィスキーが全て床に飲まれてしまう気がしたのだ。バーテンは明らかに子供なオスカー達がグラスを持っていくのに嫌そうな顔をしたが、何も言わなかった。

 オスカー達は埃っぽい椅子に座って、それぞれグラスを持った。

 

「えーと、じゃあ、豊かな幸運の泉の成功を祈って、乾杯よ」

 

 トンクスがそう言ったのに合わして、オスカー達は互いに乾杯した。

 オスカーはファイア・ウィスキーを初めて飲んだが、確かに大人たちが重要に思う飲み物なのは間違いないと思った。飲んだ瞬間はのどが焼けるようだったが、のどを通り過ぎ、胃のあたりまで入ると、何か体に火が付くような感覚があった。

 

「すごいね、これ、なんか体が燃えているみたい」

「そうなの、ファイア・ウィスキーって名前の通りなの」

「ワオ! って感じだわ、大人はずるいわね」

「確かにこれなら言われるだけのことはあるな」

 

 四人は口々にファイア・ウィスキーの感想を言い合ったが、クラーナは黙ったままだったので、オスカーがクラーナの方を見ると、グラスのファイア・ウィスキーは四分の一も減っていないのに、クラーナの顔はすでに真っ赤になっていた。

 

「クラーナ、大丈夫なのか?」

「だいじょうぶってなにがだいじょうぶなんですか? おすかー?」

 

 オスカーは全く大丈夫ではないことがそれだけでわかった。

 

「これパパが外で脱ぎだして、ママにボコボコにされた時と同じくらい出来上がってる気がするわ」

「クラーナ、大丈夫なの?」

「なにができあがっているんですか? えすともなにがだいじょうぶなんですか?」

「ダメだねこれ」

 

 チャーリーが両手を挙げて首を振った。オスカーもダメだなと思った。

 

「今なら、クラーナに劇で言わせられないような恥ずかしいセリフもやってもらえそうね」

「げきですか? そうだ! なんでわたしがあまーたなんですか? とんくす?」

「なんでって一番似合いそうだったからよ、オスカーを励ましたり、一番芯が強そうでしょ? 意気地なしって一番いいそうじゃない」

「そんなことわないです、わたしより、あしゃやくのれあや、あるしーだやくのえすとのほうがあまーたにふさわしいです」

 

 クラーナはそう言うと、ファイア・ウィスキーを半分ほど飲み干した。オスカーが周りを見るとバーにいる人間がオスカーたちの方に聞き耳を立てている気がした。血のグラスを飲んでいる人も、生肉をほおばる人も、羽ペンの人もみんな動きをやめているようだったからだ。バーテンも汚いぞうきんのようなものでグラスを拭くのをやめているようだった。

 

「エストもクラーナはアマータにあってると思うの」

「あってないです! れあはまじめにじぶんとむきあってますし、えすともいろいろあるのにあかるくてゆうしゅうです、ふたりともまっきのんやぷるうぇっとのなにふさわしいです」

 

 クラーナの顔はさっきより赤くなっているようだった。オスカーはこれ以上クラーナに飲ませないほうがいい気がした。

 

「僕はクラーナも十分に優秀だと思うけどね、そうじゃないとグリフィンドールはみんな劣等生になっちゃうよ」

「俺もそう思うし、ちょっと飲むのやめたほうがいいんじゃないか? クラーナ?」

「だめです! わたしはだめです! いくじがないんです! おすかーみたいにはなれないし、むーでぃのなまえにもあまーたにもふさわしくありません!」

 

 クラーナはオスカーが止めたにも関わらず、また四分の一ほどファイア・ウィスキーを飲んだ。クラーナの眼はぼやっとしていて、完全に泥酔しているように見えた。

 

「ここはアレね、オスカー、キスでクラーナの酔いをさますのよ」

「あほか、とっととグラスをとりあげたほうがいいだろ」

「なんですか? とんくす、きすしてほしいんですか?」

 

 クラーナはなぜかトンクスの方に近づいていって、ほっぺたにキスしようとした。

 

「ちょっと方向がちがうわよ! ほら、オスカーの方にいきなさいよ! ちょ、ちょっと!」

 

 クラーナはトンクスのほっぺたにキスを敢行した。し終わったクラーナがオスカーの方を見たので、オスカーは嫌な予感がした。

 クラーナはグラスに残っていたファイア・ウィスキーを全て飲み干した。クラーナの顔色は赤ではなくもはや青くなっている気がした。

 

「おすかー? なんであのときだきついたんですか? なんでですか?」

「あのとき? ああ、あれはちょっとクラーナをちょっとびっくりさせようと思って……」

 

 クラーナがオスカーの方に距離を詰めてきたので、オスカーは後ずさったが残念ながらホッグズ・ヘッドは狭かった。

 

「ふぁいあ・うぃすきーをのんだのとおなじくらいあったかくなりました。でもすごくびっくりしました。だからおかえしです」

「おい、クラーナ?」

 

 クラーナはオスカーに抱き着いてきた。オスカーはペパーミントのような香りとファイア・ウィスキーの酒の匂いをかいだ。しかし、クラーナはなぜか風邪でもひいたようにブルブル震えているようだった。

 

「なんかきもちわるくなってきました。やばいです。ああ……」

「おい、クラーナ、ちょっと! やめろ!」

 

 二つの匂いとは違う匂いがしたのがオスカーにはわかった。オスカーは二度とファイア・ウィスキーをクラーナに飲ませないことを心に決めた。

 

 

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