ホッグズ・ヘッドでの一件から数日経ったが、オスカーはクラーナにどう接したらいいのか分からなかった。そもそも話題にだすと二人とも不幸になる気がしたのだ。誰かに相談しようにも、ファイア・ウィスキーを飲んだことを大人に言うことはできなかったし、そもそも女の人にアレをかけられた経験がある人がどれくらいいると言うのだろうか? オスカーはちょっと悩んだあと考えるのをやめた。
「オスカーくらいになると女の子の汚いところでも受け止めてくれるってことよ」
オスカーとクラーナは無言で黙らせ呪文をトンクスに唱えた。トンクスはしばらくウーウー言っていたが、そのうち静かになった。
オスカーはレアとチャーリーの無言呪文のいい手本になったと思った。
レアはすでにオスカーたちが一年生で覚えた魔法をすべてマスターして、無言呪文の練習を始めていた。チャーリーの方はクィディッチの練習もあり、無言呪文には結構苦労しているようだったので、二人の上達度はオスカーの見た目では同じくらいに見えた。
レアとチャーリーはクラーナの張った青い保護呪文の泡の中で向かい合っていた。お互いに無言で武装解除を唱える練習をしているところだった。
レアが集中した顔もちで杖を振ると紅色の光線がチャーリーの胸にあたり、チャーリーの杖が弧を描いてレアの方へ飛んで行った。しかしレアはできたことが信じられないのか飛んできた杖に反応することができず、顔に当たってしまった。
「やったの!チャーリーは追い抜かれちゃったね」
エストが呼び寄せ呪文で杖を回収しながら二人に声をかけた。チャーリーはちょっとだけ悔しそうな顔で、レアは杖が当たった額を抑えながらも嬉しそうだった。トンクスはまだウーウー言っていた。オスカーはちょっと可哀そうになったので呪文を解くことにした。
「夏休み前は浮遊呪文くらいしかできなかったのに…… 先輩方のおかげです!」
レアの額はちょっと赤かったが満面の笑みだった。オスカーはあの朝、浮遊呪文を一緒に練習したときのレアの顔や声と比べて、自信が感じられると思った。
「これでレイブンクローの連中がレアに何か言うようなことはないでしょう」
「レアは俺よりよっぽど自分の寮の人間と仲がいいだろ」
オスカーが廊下でレアと会う時は、常に誰かレイブンクローの学生と一緒だったし、スリザリンの寮生とはちょっと喋るくらいでほとんど一緒にいないオスカーと比べれば、よっぽど受け入れられているとオスカーは思っていた。
「うーん抜かされちゃったなあ…… 粉々呪文とかは上手いことできるんだけど……」
「まあ他の呪文ができるんなら、だいたいコツはつかめてるだろ、俺らの時もどれかできるようになったら、他の呪文もできるようになったしな」
「そうね、これならクリスマス前に劇の練習と守護霊の呪文にとりかかれそうね」
オスカー達はチャーリーとレアの進み具合に合わせて、守護霊の呪文を練習してはおらず、先に劇に必要な物品だとか、セリフの書き起こしだとかの準備をしていた。
「やっぱり難しいのかな? ドージ先生もあれがつかえるんなら、ふくろう試験で特別点が貰えるって言ってたし」
「そりゃそうでしょう、そもそもホグワーツの指導要領に乗ってるか怪しいレベルの呪文ですから」
「守護霊の呪文を無言で使えるようになったら、寮のみんなに自慢できるかな……」
守護霊の呪文には幸せな記憶が必要だと聞いていたので、今のいい雰囲気なら意外と簡単に覚えることができるのではないかとオスカーは考えた。
「ねえ、いっかいハグリッドのところに行かない? 劇で使えそうな魔法生物を見せてくれるって言ってたんだ」
チャーリーは少し上気した顔でそう言った。オスカーはチャーリーが武装解除されたのは、魔法生物が気になって集中しなかったせいではないかと思った。
「たしかに最近、ハグリッドの小屋に行ってないな」
「ボクも今年はあんまりハグリッドに会いに行けてないです」
「そうですね、そろそろ違法な生き物を飼ってないか見に行かないとドラゴンやキメラが禁じられた森に出現しかねないです」
そう言えば、レアはクラーナと同じようにハグリッドに引率されて、ダイアゴン横丁に買い物に行っていたことをオスカーは思い出した。オスカーはみんなで顔を出した方がハグリッドは喜ぶだろうと思った。
オスカー達は空き教室を片付けて、六人で校庭の外れにあるハグリッドの小屋へと向かった。
「ハグリッドいる? 僕たちだけど」
「おお、はいっちょくれ! ちょっと散らかっとるがな」
チャーリーがドアを叩くと小屋の中から、ハグリッドの野太い声とファングがうれし気に吠えるのが聞えた。
オスカーはいつもとハグリッドの小屋の様子が変わっている気がした。ハグリッドの小屋の暖炉はあんな形をしていただろうか? ファングに飛び掛かられながらそう思った。
「一緒にいるのはレアか? 久しぶりだが大丈夫だったんか? ダンブルドア先生が色々あったちゅうてたが」
「うん、ボクは大丈夫だよ、ハグリッド」
エストは何やら暖炉の方へと歩いて行った。オスカーはファングに顔をなめられ続けていてそれどころではなかった。
「ハグリッド…… これ…… もしかして? すごい! 誰が作ったの? フリットウィック先生? それとも、もしかしてダンブルドア先生なの‼?」
エストはなにやら暖炉の火を見て大興奮しているようだった。オスカー以外の四人も暖炉の方へ近づいていった。オスカーは中々ファングを引き離せなかった。どうもファングは久しぶりにオスカーに会ってうれしいようだった。
「おお、これはダンブルドア先生が創ったんだ。しかし、よーく分かったな、これがちょいっと特別な火だって」
「特別な火ですか? 悪霊の火みたいな魔法がかかった火なんですか?」
オスカーはクラーナが言った火の名前にいい思い出はなかったが、暖炉の中で燃え続けている火は、オスカーの知っている悪霊の火とは比べ物にならないほど、暖かでどこか神々しさまで感じられる気がした。
「なんの火なんですか? エスト先輩?」
「そうよ、ハグリッドもエストももったいぶらないで教えてくれればいいのに」
「ほんとにこれがダンブルドア先生が作ったんなら、多分、グブレイシアンの火なの」
オスカーはその火の名前を聞いたことはなかった。しかし、レアは何かピンと来たようだった。
「グブレイシアンの火って、グブレイシアンの火の枝のことですか? 絶対に消えない?」
「そうなの、創れる魔法使いなんてもうほとんどいないはずなの」
今度はチャーリーがそれを聞いて、何かに気付いたようだった。オスカーは魔法生物関連なのは間違いないだろうと思った。
「もしかして、これでアッシュワインダーを呼び出す気なの、ハグリッド?」
「おお、さすがに良く分かっとるな、アッシュワインダーは魔法の火をほうっておくとうまれてくるわけだから、この火があればいくらでも捕まえることができるっちゅうわけだ」
「じゃあ、劇に使えそうな生き物ってアッシュワインダーなんだね」
オスカーの脳裏にところどころ焦げた昔の台本が浮かんだ。前回ホグワーツの劇が禁止になった原因はアッシュワインダーが主だったはずだが、結局アッシュワインダーを使うのだろうか? しかし、オスカーはダンブルドア先生が一枚嚙んでいるのなら、そんなに心配しなくてもいい気がした。
「結局アッシュワインダーを使うの? ハグリッド? 私たちの劇は外でやる予定だから、大講堂みたいに燃えないとは思うけど大丈夫なの?」
さすがのトンクスも大炎上は不味いと思っているようでオスカーは安心した。
「ダンブルドア先生がじきじきに凍結呪文をとなえてくれるっちゅうことだから、心配せんでもええ、この小屋にもおんなじ呪文をかけてもらっちょるから大丈夫だ」
「なら大丈夫なんじゃないですか? まあ前回の劇もダンブルドア先生がいたのに燃えちゃったらしいですけど」
クラーナがちょっとだけ幸先の悪そうなことを言った。しかし、それは事実だった。
「ちょっとクラーナ、そんな不吉なことばっかり言ってると口から汚いも……」
「ぶっ殺しますよ」
トンクスは懲りずにホッグズ・ヘッドでの一件でクラーナをいじりたいようだった。オスカーはファングにローブをよだれまみれにされていて、その一件をちょうど思い出していたところだったのでやめて欲しかった。
「ねえ、そう言えばあの時なんでクラーナはオスカーに抱き着いたの?」
エストが首を傾けてそういった。オスカーはさらにファングのよだれまみれになることを選んだ。これ以上、あの出来事の話に関わりたくなかったからだ。チャーリーがオスカーの方を気の毒そうに見ていた。
「ええ! そ…… そんなの覚えてないですよ! トンクスがオスカーについてなんか言ったのでそれでオスカーの方に行っただけです」
「そりゃあ、エストが寝てた朝に二人は熱烈な……」
「グブレイシアンの火で永遠にその口を焼き続けてやりますよ!」
「ちょっと、全然わかんないの」
三人が大騒ぎを始めてしまい、ハグリッドがそれを楽しそうに見ていた。
「そうだ、誰か薪を取ってきてくれないか? おまえさんたちのお茶やケーキを出すにはちょっと火がたりねえ」
「僕がいくよ」
「あっ、ボクも行きます」
オスカーはファングと戯れていた結果、小屋から出る切符を逃してしまった。チャーリーとレアの二人が薪をとりに行っても、三人は相変わらず騒ぎ続けていた。
「しかし、おまえさんたちとレアが仲良くなって、俺は安心したぞ」
ハグリッドがオスカーの横でロックケーキを取り出しながら言った。オスカーはあまりロックケーキが得意ではなかった。火であぶらないと歯の方がやられてしまうからだ。
「安心したって、ハグリッド、何が?」
オスカーはこの短時間でファングの腹をなでることでよだれまみれにならない術を身に着けていた。
「レアは去年しょっちゅうここに来とったからな、寮にもなじめんと言っとった」
「ああ、でも今は寮の友達もいるみたいだし大丈夫だと思うけど」
オスカーはレアがここによくきていた理由はなんとなくわかった気がした。ハグリッドは動物にも人間にもやさしいからだ。
「ダンブルドア先生もレアのことは心配しとったし、ダイアゴン横丁でおまえさんたちと会った時も、おまえさんたちならレアと仲良くなれるかと思っとったんだ」
トンクスがオスカーの顔に化けながら他の二人をからかっているのを横目で見ながら、オスカーはダイアゴン横丁で初めて出会った時のレアを思い出した。思えばあの時から、レアが魔力をあまりコントロールできず、木の葉やごみを浮かべていた気がした。
それに、レアの出自を考えれば、エストやクラーナとなら仲良くなれそうだとハグリッドが考えるのは無理のないことだと思った。
「あの時はなんかタイミングが悪かったと言うか…… 俺の名前がなければあんなことにならなかったと思うけど」
「おまえさんのことを責めてるわけじゃねえぞ、オスカー、おまえさんたちはよくやっとる。少なくとも俺が見てきた同じ年の魔法使いや、魔女の中でもおまえさんたちは一番だし、ダンブルドア先生だって、おまえさんや、おまえさんたちのことはこれでもかっちゅうくらい褒めてるんだ」
やっぱりオスカーはレアがハグリッドの小屋に来ていたのは間違っていないし、正解だったと思った。この小屋はグブレイシアンの火がなくても暖かいのだ。
「だから俺はおまえさんたちと今日、レアが一緒にいるとこを見て、安心したっちゅうわけだ。笑っとったし、去年みたいにびくびくもしてねえ、いまのあの娘を見て、誰が他の生徒を傷つけると思うんだ?」
「レアが他人を傷つけられるとは思えないけど……」
「ほんとにな、あの娘自身がそれを一番怖がってるっちゅうのに、理事会の一部の連中は……」
オスカーはハグリッドのコガネムシのようなまんまるい瞳がどこか濡れているような気がした。ハグリッドは巨大なキッチンペーパーのようなもので鼻をかんだ。
トンクスが黙らせ呪文を受けて、またウーウー言っているのが見えた。なんと言葉がだせないのにクラーナの前で吐く真似をしているようだった。オスカーは本当に永久粘着呪文でトンクスの口をふさいだ方がいい気がしてきた。
「ハグリッド、戻ったよ、薪はどこに置いたらいいの?」
チャーリーが戻ってきて、ハグリッドに聞いた。薪はレアが浮かべて持ってきたらしい。
「おお、ありがとうな、じゃあ暖炉の傍に置いといてくれ」
「ほらハグリッド、ボクもこうやって魔法で薪を運ぶくらいできるようになったんだよ?」
レアは薪を杖で操って暖炉の横に置こうとしたが、迫真の演技をしているトンクスが低空を飛行していた薪にけつまずいた。トンクスは黙らせ呪文を受けているせいで、痛いとさえ言えないようだった。
オスカーは杖を一振りして薪を暖炉の横に集めた。
「まあ今のはトンクスのあほが悪いからノーカンだろ」
トンクスはなにかオスカーに向けて悪態をついているようだったが、口をパクパクさせているようにしか見えなかった。
オスカー達は笑った。薪を入れなくても、ハグリッドの小屋はやっぱり暖かいようだった。
その日は外出時間ギリギリまでオスカー達はハグリッドの小屋で話したり、ロックケーキに自分の歯で戦いを挑んだりした。
翌日、オスカーとエストはドージ先生がとってくれているはずの空き教室に向かった。今日から守護霊の呪文の練習をしようと話していたので、オスカーは楽しみだった。
二人が空き教室につくとまだ誰もいなかった。オスカーはレアが先に来ていないのが意外だった。レアは授業が終わると真っすぐに練習しに来ていたし、この曜日はレアの授業が六人の中で一番最初に終わるはずだったからだ。
「レアが遅いね? グリフィンドールとハッフルパフは午後も薬草学があるはずだし、これだと人があつまんないの」
オスカーはレアが連絡もなしに休むとは思えなかった。昨日はハグリッドの小屋で楽しそうにしていたし、突然風邪でもひいたのかと考えた。すると、教室のドアが叩かれた。
「はーい?」
エストが気の抜けた返事をすると、ドアが開かれた。そこにいたのはオスカー達の寮監、スネイプ先生だった。
スネイプ先生は相変わらずドロドロの髪の毛に暗い表情だったが、オスカーにはスネイプ先生が少し困っているように見えた。
「ミス・プルウェット、ミスター・ドロホフ、今日、ミス・マッキノンを見たかね?」
「見ていないです、スネイプ先生、レアに何かあったんですか?」
オスカーは少し不安になった。レアは叫びの屋敷でレアの発作を見てくれていたのはスネイプ先生だと、オスカーとクラーナに話していた。レアの寮監ではないスネイプ先生が探しているということは、その関係で何かあったのではないかと思ったのだ。スネイプ先生の目がオスカーの眼をとらえたが、スネイプ先生の顔色に変化はなかった。
「いや、今朝の朝食の後からミス・マッキノンの姿が見えないとのことだ。もし何か分かったら、我輩や他の先生方に伝えるように」
スネイプ先生はそのまま扉を閉めて去っていった。オスカーはポケットにあった忍びの地図を取り出そうとした。またドアが叩かれた。
「はーいなの」
またエストが返事をすると今度はスネイプ先生ではなく、オスカー達より年下に見える女の子たちが数人入ってきた。オスカーはその女の子たちがレアと一緒に行動をしていた一団だとわかった。
「あの…… プルウェット先輩とドロホフ先輩ですよね? レアを見ませんでしたか?」
先頭に立っていた女の子がオスカー達に聞いた。どうも彼女たちもスネイプ先生と同じくレアを探しているようだった。
「さっきもスネイプ先生が来て同じことを聞いたけど、エスト達は昨日ハグリッドの小屋で別れてから、レアを見ていないの」
「そう…… ですか……」
一団は落胆しているようだった。オスカーはなぜレアがいなくなったのか気になった。忍びの地図を開けばレアがいる場所はすぐにわかるだろうと思ったが、理由があって隠れているのなら、先生方に伝えるのを待った方がいいと思ったからだ。
「スネイプ先生は朝食の後にレアがいなくなったって言ってたけど、何があったんだ?」
オスカーが聞くと一団はすこしびくっとした。しかし、恐る恐るといった感じで紙の切れ端をオスカーの方に差し出した。
「なにこれ? 日刊預言者新聞?」
切れ端は真新しい日刊預言者新聞のようだった。切れ端の中にある写真の人物がオスカーの方にウィンクした。オスカーはホッグズ・ヘッドのバーテンに会った時と同じ感覚にとらわれた。誰に似ているのかはすぐにわかった。白黒だが、髪の質も瞳もレアにそっくりだ。写真の右下にはマーリン・マッキノンと書かれている。
「私達、新聞でレアと同じ苗字でそっくりの人がいたからレアに知らせてあげようと思って……」
オスカーは日刊預言者新聞の記事を走り読みした。ホグワーツで演劇が再開されることについて書かれているようだ。ダンブルドア校長のインタビューは得られなかったので、数人の理事のコメントを得たと書かれている。
「それでレアに新聞を渡したら、すっごく青い顔になって、その時テーブルに置いてあるグラスとか皿が揺れたり割れたりして、それを見たレアがもっと青くなって、そのまま走り出して行っちゃったんです」
オスカーは何が起こったのかだいたい察しがついた気がした。この新聞の内容が悪いのだろう。一団の一番後ろにいた女の子が涙目で、鼻をヒックヒックさせながら喋った。
「私達あんまり新聞の内容は読んでない状態で渡しちゃったんですけど、よく読んだら、なんか、レアが病気じゃないかみたいなこととか、他の生徒にとって危険なんじゃないかって書かれてたんです……」
オスカーは日刊預言者新聞の切れ端を下の方まで読んだ。なんと、劇の配役としてレアがアシャ役をやることが書かれている。オスカーはどうやってその情報をこの記事を書いた人間が知ったのかわからなかった。
その後に書いてあることをオスカーはあまり読みたくなかった。昨日、ハグリッドと喋った心配ごとが本当になる気がしたからだ。
日刊預言者新聞にはレアが国際魔法使い機密保持法に引っかかる存在、オブスキュリアルではないのかということがご丁寧に聖マンゴの癒者のコメント付きで載っていた。それによるとレアは非常に危険で、とても少年や少女が魔法を学ぶホグワーツに置くことはできないだろうと書かれている。しかも、レアの殺された家族の写真まで載せて、先の戦いで心が壊れてしまったのだろうと煽り文句まで載せられているのだ。
オスカーは思わず強く切れ端を握ってしまい、ちょっとやぶいてしまった。切れ端の最後には記者、リータ・スキーターとあった。
「それで? レアを見つけてどうしたいんだ?」
オスカーは自分の声が少し低くなっていることに気付いたが、そのままレイブンクローの一団に聞いた。後ろではエストが心配そうにやりとりを眺めていた。
一団はさらに怯えているようだったが、一番後ろの鼻声の女の子がこういった。
「レアに戻ってきて欲しいんです。だって、レアは私たちに魔法を撃ったりなんてとてもすると思えないし…… 最近はすごい楽しそうだったのに、走っていくときすごい真っ青だったし……」
すると一団の女の子達は勢いづいたのか、口々にオスカーに尋ねた。
「そうです、だから先輩方、レアがいきそうな場所を知りませんか?」
「私達、レアと仲良くなったのは夏休み前からだから、あんまりどこに行ったのか分からなくて……」
「レイブンクロー塔の中にはいなかったんです。灰色のレディにも探してもらってるんですけど、まだ見つかってないみたいだし……」
オスカーはレアがいくのなら、灰色のレディがいた占い学の塔か、ハグリッドの小屋ではないかと頭の中に浮かんだのだが、スネイプ先生や灰色のレディがわからないとなると、別の場所のようだった。
「わかった。何かわかったらすぐに伝える。さっきスネイプ先生にもそういわれたところだったしな」
「「おねがいします」」
レイブンクローの一団はオスカーにちょっと礼をして、そのまま去っていった。オスカーは間髪を容れずに忍びの地図を開いた。
「レアはどこにいっちゃったんだと思う?」
エストがオスカーの横から地図をのぞき込んでそういった。
「忍びの地図を見ればわかるはずだ、城の中にいるならな、我、よからぬことをたくらむものなり」
羊皮紙に地図が完全に表示され、オスカーはエストと手分けして、地下から順番に丁寧にレア・マッキノンの名前を探した。しかし、オスカーとエストは五回、それを繰り返してもレアの名前を見つけることはできなかった。
「ホグワーツにいないってことなの?」
忍びの地図はうそはつかない、なにせゴーストや猫すら表示してしまうのだ。しかし、オスカーは忍びの地図が完全ではないことを知っていた。そして、レアが追い詰められた時に行きそうな場所、レディのところでも、ハグリッドのところでもなく、助けが必要な時に行きそうな場所、地図に見えない場所がどこなのかわかった気がした。
オスカーは地図をポケットにそのまましまって走りだした。
「ちょっとオスカーどこにいくの!?」
「八階だ」
オスカーは仕掛け扉や秘密の通路を使って、最短の順路でそこへ向かっていた。オスカーは一年生の時にグリフィンドール生に会わないように、いろんな道を使ってそこに行っていたので、最短の道も覚えていたのだ。
「八階? もしかして、必要の部屋なの!?」
「そうだ。ホグワーツの外にでていないんなら、あそこしかありえないはずだ」
次の階段を登れば、必要の部屋が現れる壁のはずだった。オスカーとエストは数段飛ばしで階段を上った。そして、やはり壁には扉があった。その扉はオスカーが必要の部屋に入るときにみたどの扉よりも小さな扉だった。
オスカーは扉を見てそっと一息ついた。扉が現れるということは、レアが少なくともオスカーとエストに会う気があると思ったからだ。
オスカーは大きく息を吸って、エストと目線を合わせた後、ゆっくりと扉を開いた。