ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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ホッグズ・ヘッド

 

 

 オスカーは必要の部屋に入って拍子抜けした。てっきりあの大講堂や大広間よりも広い、ホグワーツの隠し事すべてが収められている場所に繋がっていると思っていたのだ。

 しかし、オスカーとエストが入ったのは小さな部屋だった。椅子も机も窓もない。石造りの床と壁があるだけの部屋だ。燭台におかれた五本のろうそくが寂しげに部屋を照らしていた。

 

「レアがいないの、でも必要の部屋の中に入れたしなんかおかしいね?」

 

 そう、エストの言う通り、必要の部屋に入れたということはレアがそこにいないとおかしいはずなのだ。もし、必要の部屋の中にレアがいなかったり、レアが誰とも会う気がないのなら、入れないはずだとオスカーは考えていた。

 二人が狭い部屋のなかほどまでくると、壁が動き出し、オスカーの身長だと少しかがんで入らないといけないくらいの高さがある扉が現れた。オスカーの目測だと、レアやエストの身長くらいなら無理なく入れるように思えた。

 

「必要の部屋からどこかにつながってるってことなのか?」

「八階以外にも必要の部屋とつながってる場所があるってこと? 位置検知不可能呪文? 変幻自在呪文? ぜんぜんわからないけど、とんでもない魔法なの」

 

 扉をあけると中は結構な高さのあるトンネルだった。トンネルは真鍮製のランプがいくつも取り付けられていて、ゆっくりとした傾斜の階段を照らしていた。

 二人は恐る恐る、トンネルの中を進んでいった。しばらく石造りの階段だったが、階段が終わって、角を曲がると踏み固められた土の地面に変わった。

 

「オスカー、やっぱりこのトンネルって忍びの地図には写ってないの?」

 

 エストにそう言われて、オスカーはポケットにある地図をとりだしてみてみたが、一見した感じではオスカーとエストの名前はホグワーツの中にはなかった。

 

「ないな、必要の部屋には忍びの地図がきかないのか、悪戯仕事人たちがこのトンネルのことを知らなかったのかはわからないけど、写ってないみたいだ」

「叫びの屋敷へのトンネルは地図にのってたのに、ここはのってないんだね、さっきの階段は八階から地面か地下まで降りてきた感じだったし、このまま学校の外までいくのかな?」

 

 たしかに石造りから土に地面が変わったのは八階から降りてきて地面の下の秘密の通路を通っているのかもしれない、オスカーもエストと同意見だった。それに叫びの屋敷への通路は途中で登ったり、下がったりしたがこの通路はずっと平坦なようだった。

 

「叫びの屋敷は丘の上にあったから途中から登りだったけど、この道の行先はそんなに高い場所じゃないのか?」

「うん、必要の部屋の中で方角がちゃんとあってるのかわからないけど、多分ホグズミードの方に向かってる気がするの」

 

 つまり、このトンネルはホグズミードに向かう八番目の道だということだろうか? オスカーはいったい誰がこの通路を作ったのか気になった。それとも誰かが作ったのではなく、必要の部屋が作り出したのかとも思った。

 

「レアはホグワーツの外に行きたかったのかな?」

「ホグワーツの外に?」

 

 オスカーは自分がレアのことをちゃんとわかっているのか分からなかったが、確かに他の誰かと会いたくないのなら、どこか誰とも会わない遠くに行きたいと思うのかもしれないと考えた。灰色のレディやハグリッドにすら会いに行かなかったのはそういうことなのかもしれない。そして、オスカーは頭の中で果たしてレアに会っても何を話せばいいのか、それをやっと考え始めた。

 

「うーん、そうじゃないならレアが必要な何かがこのトンネルの先にあるのかな?」

「必要な何か? 必要の部屋でも用意できないものってことか?」

 

 オスカーの頭の中に必要の部屋が用意できそうにないものが浮かんだ。最初に浮かんだのは食べ物だった。確か変身術の授業で出現や変身させることができないものの一つとしてあげられていたはずだった。

 

「そう、必要の部屋で用意できないものをどうにかして用意するためなら、必要の部屋がその場所まで連れて行ってくれるんじゃないかって思うの」

 

 オスカーはエストの話を聞いて、学期末のダンブルドア先生の話を思い出した。必要の部屋はレアに必要なモノを渡した。そしてホグワーツでは助けを必要としている者には必ずそれが与えられるという話だった。

 オスカーはもう一度忍びの地図を開いた。真鍮のランプに照らされて、ホグワーツの中を動く人の名前が見える。ハグリッドの小屋のそばにはスネイプ先生の名前が、占い学の塔の近くではさっきレアを探しにきたレイブンクローの一団らしき名前があった。

 レアがどう考えているのかオスカーにはわからなかったが、少なくともオスカーはレアがホグワーツに必要とされていると思った。

 しばらく真っすぐな土の地面が続いていたが、二人の目の前にまた石造りの階段が現れた。階段を上ると入り口の扉と同じような扉があった。オスカーはゆっくりとその扉を開けた。

 扉を開けるとオスカーは最近かいだことのある臭いを感じた。強烈な家畜のような臭い、ヤギのような臭いだ。扉の先には擦り切れた絨毯が見え、泣きそうな顔のレアと不機嫌そうな顔をしたホッグズ・ヘッドのバーテンがオスカーとエストの方を見ていた。

 オスカーは二人を見下ろすような位置にいることがすぐわかった。下の方からぱちぱちと暖かい音が聞こえる。どうもこの扉は暖炉の上にあるらしい。

 二人は扉を閉めて降りようとしたが、その途中でオスカー達が扉だと思っていたものが肖像画だということに気付いた。肖像画の中で金髪のオスカー達と同年代くらいの女の子が虚ろに微笑んでいた。オスカーはその女の子にもバーテンやアラスター・ムーディに感じた様な既視感を感じたのだった。

 

「今日はずいぶんと来客が多い様だな」

 

 バーテンが不機嫌な声で二人の方に声をかけ、その青い眼でオスカーの眼をとらえた。青い眼はまるでオスカーの全てを見通しているようだった。オスカーは今度こそこのバーテンが誰に似ているのかがわかった。むしろなぜ気づかなかったのかと考えた。

 

「ダンブルドア先生?」

「えっ?」

 

 バーテンはオスカーがそう言うのを聞いて、さっきよりもよっぽど不機嫌な顔になった。しかし、その顔もひょろりと長い体もアルバス・ダンブルドアにそっくりだった。

 

「俺はお前たちの先生になったことは一度もないがな」

「ミュリエルおばさんが言ってたの、ダンブルドア先生には弟さんがいるって、名前はアバーフォースさん」

 

 アバーフォースはミュリエルおばさんの名前がでるとダンブルドア先生の名前が出たのと同じくらい嫌な顔をした。しかし、否定はしなかった。

 

「性悪のミュリエルか、どうせあることないことお前たちに吹き込んだんだろう」

「妹さんの葬儀の席でダンブルドア先生を殴り飛ばしたって言ってたの」

 

 アバーフォースはさっきまでの顔と違うが、嫌悪感のある顔をした。オスカーはその顔をよく知っていた。オスカーが自分自身を嫌だと思ってるときにする顔と同じだったからだ。そして、エストの話を聞いてさっきの肖像画の女の子がだれなのかわかった気がした。

 

「ふん、俺が誰かはどうでもいいことだろう。お前たちはこの娘に用があるんじゃないのか?」

 

 アバーフォースは視線をオスカー達からレアの方へ移した。レアは自分が話題になったとたん、ビクっと震えた。レアのまぶたは赤くなっていて、オスカーから見ても泣きはらしていたであろうことがわかった。

 

「どうでもいいことはないけど、エスト達はレアを探しに来たの」

「ああ、いろんな人がレアを探してるぞ」

 

 レアの瞳に涙が浮かんだ。レアは机の上に置いてあったバタービールをがぶ飲みした。

 

「もう、ボクはホグワーツには戻れないんですよ、日刊預言者新聞にあんな記事が載ってしまったし、記事の通りに聖マンゴに入院した方がいいんです」

「そんなことないの、だってこの三か月くらいレアと一緒にいたけど、別に入院しないといけないことなんてしてないの」

 

 エストはレアが何を言っているのかまるで理解できないという声のトーンだった。

 

「あの記事をみんなが持ってきて、すごく怖くなったんです。みんなが私のことまるで化け物を見ているような気がして、それに自分……」

「あの娘達はそんなこと考えてないはずなの、だってさっきもレアを探しに来てたし」

「そうじゃないんです! ボクは、自分が自分が怖いんです!」

 

 レアが勢いよくバタービールをテーブルにたたきつけた。しかし、明かにその振動では揺れないような場所の椅子が部屋の端まで吹き飛ばされた。レアはそれを見て真っ青になった。それを見ていたアバーフォースの顔がオスカーが見たことがないほど痛々しい顔に変わった。

 

「ほら、今のを見ましたか? 朝だって、ボクはテーブルの上のモノを壊してしまったんです、今も一緒です。皿やグラスや椅子ならいいですけど、これがヒトだったらどう思いますか?」

 

 レアはバタービールを離して、自分の手を握ったり開いたりしながら見つめた。レアの眼は明確な恐怖に彩られているようだった。

 

「でもスネイプ先生と一緒に訓練をしてるんだろ?」

「してます。最近は発作が全然起きなくなってたんです。でも今のを見ましたか? ボクはちょっとあんな新聞記事を読んだだけでも、いつ誰を傷つけるか分からないんですよ? スネイプ先生だって、オスカー先輩たちだって、寮のみんなだって、ボクがそばにいたらどうなるかわからないんです!」

 

 オスカーはレアに何を言えばいいのか分からなかった。オスカーはレアと同じどころか明確に誰かを自分の力でもとに絶対に戻らないように傷つけたことがあるのに、レアになんと言えばいいのか分からなかった。レアの気持ちがきっとこの中で一番わかるはずなのに、オスカーはいくら考えても、レアを慰めるような言葉が浮かんでこなかった。

 

「魔法の力はレアが信じていればきっと答えてくれるはずなの、レアの杖もそうだったでしょ? 魔法は自分を信じて、杖を信じて、誰かを信じないと使えない特別なものなの、だって魔法は自分やみんなを幸せにするためのものでしょ?」

 

 エストはレアの眼をはっきりと見ながら、ゆっくりと力強くそういった。しかし、それを聞いたレアの顔は信じられないくらい憤った顔だった。オスカーにはその怒りが他の誰でもなく、レア自身に向けられていることがわかった。

 

「ボクの…… ボクの魔法の力は誰かを幸せになんかしない! 誰もボクを信じないほうがいいんだ! 魔法の力だって、何も何一つコントロールできないボクを信じない方がいいに決まってる!」

 

 今度はバタービールのビンが吹き飛ばされて、肖像画の傍の壁にあたり、大きな音をたてて割れた。肖像画の女の子が悲しそうな目でオスカー達を見ていた。

 

「あのとき…… あのとき…… ボクが魔法の力をちゃんとコントロールできていたら、パパに外で見せようなんて思わなかったら、パパもママも誰も死なずにすんだんだ! 二人がボクだけ助けて死ぬ必要なんてなかった!」

 

 レアの瞳から大粒の涙が滝のように流れて、擦り切れたカーペットを濡らした。オスカーはエストの手が震えているのが見えた。それでもエストはその紅い目でレアのことを真っすぐに見つめていた。

 

「だからボクは魔法なんて使えない方がいいに決まってるんです…… 自分も魔法も何一つコントロールできないボクなんて、ずっと閉じ込めてられているほうが何倍もいいんだ」

「そんなの絶対絶対おかしいもん! だってレアのお父さんやお母さんはレアを助けたんでしょ! 命が無くなってもレアが大事だったんでしょ! なんでそんなこと言うの!」

 

 エストは手はおろか肩まで震えていて、その眼はレアの方を見据えていたが今にも泣きだしそうだった。オスカーは二人に何も言うことができなかった。アバーフォースは二人のやりとりを見て、青い眼を大きく見開いていた。そして、さっきのレアと同じくらい自分自身に対して憤りを感じているように見えた。

 

「だって、ボクが魔法を使えなければ、使わなければ、ボクがいなければ二人とも助かったんだ!」

「絶対絶対間違ってる! レアは魔法が使えても、コントロールできなくても全部レアでしょ? 二人はどんなレアでも、二人にとって特別でしょ! なんで、どうしてそんなこと言うの!」

 

 二人はお互いに立ち上がって、涙を流しながらにらみ合っていた。オスカーには二人が何も悪いことをしていないはずなのに、どうして、こんなに傷つけあわないといけないのか分からなかった。それに二人に何も言うことができない自分自身が情けなかった。

 するとアバーフォースが立ち上がって、二人がにらみ合っているテーブルの上に大きな音をたてて、バタービールのびんを三本置いた。二人はハッとなって椅子に座り直した。

 

「愚かで間抜けで救いようのない魔法使いの兄弟の話を聞け」

 

 アバーフォースが唐突に不機嫌な声で話を始めた。アバーフォースが杖を振るとどこからかコップがやって来て、オスカー達三人にバタービールを飲むようにつつき始めた。

 

「あるところに父と母、長男、次男、そして末っ子の娘の家族があった。五人は魔法使いだった」

 

 オスカーはアバーフォースの顔がさっきの二人と同じくらい、苦痛にまみれているように見えた。

 

「娘が六歳の時、マグルの子供たちが娘に乱暴をした。娘が魔法を使うのを見て、怖がったのだろう。説明のできない不思議な力を見て、それを娘が説明することができないのを見て、恐ろしくなったのか、彼らは娘に乱暴した」

 

 アバーフォースは果たしてこの話をオスカー達以外にしたことがあるのだろうか? オスカーはアバーフォースの顔を見て、彼がよほどの怒りに耐えながら喋っていることがわかっていた。

 

「娘は様子がおかしくなった。魔法を使うことができなくなった。しかし、魔法の力は消えたりしない。その力は外ではなく内へと、娘の体と心に向かった。娘は心と頭がときどきおかしくなった。決して誰かを傷つけるような娘ではなかった。それでもときおりおかしくなった心と力を止めることができなくなった。まるで爆発するようにその力は荒れ狂った」

 

 レアの眼が恐怖で丸くなったように見えた。オスカーはその娘がどんな状態だったのか、どうしてアバーフォースがレアの話を聞くたびにあれほど苦痛にまみれた顔をするのかようやくわかり始めた。

 

「父はマグルのやつらに復讐した。復讐はできたが父はマグルを襲った罪でアズカバンに収監された。父はなぜマグルを襲ったのか絶対に言わなかった。言えば娘が一生聖マンゴに閉じ込められるかもしれないことを分かっていたからだ。父は娘に会うことなくアズカバンで死んだ。娘のことを分かる人間が一人いなくなった」

 

 アバーフォースは立ち上がって喋り始めた。座って話すのは、じっとして話すのは耐えられないようだった。

 

「家族は違う場所に引っ越した。娘を隠す必要があったからだ。娘は病気だという噂を流し、できるだけ外に出さないようにして、母親がつきっきりで娘の面倒をみた。弟は娘と仲が良かったから、母親が娘の面倒をみることや、発作を止めることをよく手伝った。そうしている間に上の兄弟はホグワーツにいく年になっていた」

 

 暖炉の炎に照らされてアバーフォースの深いしわのある顔が照らされた。オスカーは年をとっても彼の怒りと失望と悔しさがその時のまま刻まれているようだと思った。

 

「兄弟の兄は非常に優秀で有能な魔法使いだった。後の世にその世紀で一番偉大な魔法使いと呼ばれるほどの魔法使いだった。彼にとってはホグワーツですらその能力と野心をとどめることができなかった。同格のような相手もいなかった。もちろん、娘の面倒をみることや家に縛られることは彼にとっては才能の浪費だと思えただろうし、わずらわしかったに違いない」

 

 オスカーはミュリエルおばさんがプルウェット邸でエストやダンブルドア先生について言っていたことを思い出した。

 

「兄の卒業とほとんど同時に、娘が十四歳の時、事故が起こった。弟がいれば発作を止めることがきたかもしれない、しかし二人の兄弟はホグワーツだったし、母は老いていた。娘を止めることができないほどに。母は死んだ。娘のことがわかる人間が一人いなくなった」

 

 レアとエストの眼が大きく見開かれた。オスカーはこの話をあまり聞きたくないと思った。アバーフォースの顔はこれまでのどれよりも怒りに満たされているように見えた。

 

「兄はホグワーツを卒業した。ホグワーツで得られるほとんどの栄誉に加えて、いろんな雑誌や有名人にも称賛されて。だが娘の面倒を見る人間が必要だった。娘のことがわかる人間は世界に二人だけだった。弟は娘の面倒を見ると言った。兄が娘のことをわずらわしいと思っていることがわかっていたし、自分なら娘をなだめられると思っていたから。しかし、兄は弟のことを思ったのか、それとも兄としての責任感からか弟をホグワーツに通わせ、自分が面倒を見るといった」

 

 三人にはその兄弟が誰なのか、優秀な兄が誰なのか分かっていた。その弟がいったい自分自身と誰に怒りを抱いているのもだ。

 

「兄は優秀な魔法使いだったから、数週間の間。娘が家や色々なモノを壊すのを発作を止めることができていた。しかし、兄は飽きていたし、自分の境遇に失望していただろう。兄の偉大な能力が使われるのは頭のおかしい娘を止めるためだけ、正に才能の浪費だ。そして兄は自分と同格の相手に初めて出会った。運命的だっただろう」

 

 もはやアバーフォースは怒りを全く抑えられないように見えた。凄まじい怒りがその青い目を通して伝わってくるようだった。

 

「ひと世代前はその世紀で一番危険な魔法使いと言われていた魔法使いだった。しかし、まだ彼は若く才能ある魔法使いだった。その魔法使いとその世紀で一番偉大な魔法使いが出会った。彼らが意気投合するのは早かった。唯一同格で相手のことがわかる友人ができたからだ。兄が娘のことをないがしろにするのは時間の問題だった。世界で二人しか娘のことがわかる人間はおらず、その一人は娘から遠い場所にいるのにだ」

 

 オスカーは本当にこの話を聞きたくなかった。誰も悪いことをしようとしていないのに、父は娘の仇をとっただけなのに、母は娘の面倒をみただけなのに、兄はやっと自分の理解者を手に入れることができたのに、弟は家族のことを思っていただけなのに、娘はなにも悪いことをしていないのに、全てが不幸な方へ向かっていたからだ。

 

「兄と危険な魔法使いはある計画を立てていた。自分たちの力と頭を使って、魔法族たちを日の元にだして、娘を隠せなくてもいい世界を作る計画だ。そのために娘をつれて世界を旅して、演説をして、仲間を増やす計画だ。そして弟も休暇で家に帰ってきていた。弟は娘がないがしろにされていること、そしてそんな計画についていくようなことは、娘がそんなことに耐えれないことは見ただけでわかった」

 

 エストは手が白くなるほど強く自分の杖を握っていた。まるで杖を持っていないとアバーフォースの話を聞くのが耐えられないようだった。レアは大きく眼を見開いて、青い顔で震えていた。

 

「弟はそれを兄と魔法使いに言った。魔法使いは怒り狂った。彼にとって兄との計画を有象無象に止められることは許せなかった。彼は弟に磔の呪文をかけた。兄が弟をかばって杖を抜いた。弟と兄とその親友とみつどもえの決闘になった。娘は決闘の音にも自分の兄たちが争う姿にも耐えられなかった」

 

 アバーフォースの顔が真っ青になった。彼の顔には先ほどまでの怒りよりも、自分のしたことに対する恐れと後悔がありありと表現されていた。

 

「多分、娘は兄たちを助けたかったのだろう。世界で二人だけ自分のことを分かる人間が争うのを止めたかったのだろう。娘の力と三人の呪文が交錯した。三人が気付いた時には娘は死んでいた」

 

 オスカーは肖像画の女の子を見た。女の子は痛々しい顔でアバーフォースを見ていた。オスカーはクラーナとクリスマスにみぞの鏡を見たあの日、ダンブルドア先生が何を言っていたのか、ダンブルドア先生が何を見たのかやっとわかった気がした。

 

「誰がやったのかはわからない。だが娘はいってしまった。永遠に」

 

 アバーフォースは踏ん張る様な、自分にかつを入れるような顔をして、レアの方を真っすぐにみた。

 

「これで分かったか? どうなるか分かったか? 娘がどうして死んだと思う? 二人しか彼女のことを分かる人間がいなかったからだ! 愚かでまぬけで救いようのない二人しかだ!」

 

 レアはうつむきながら、ヒックヒックと泣いていた。

 

「自分から閉じこまってどうなると思う? 今世紀で一番偉大な魔法使いさえ理解者がいないとどうなったと思う? 救いようのない弟が誰にも言わずにあほうな行動をした結果どうなったと思う? アリアナはどうやったら助かったと思う?」

 

 オスカーはアバーフォースの眼からはオスカーがダンブルドア先生から一度だけ感じたことのあるとんでもないエネルギーが発せられているように思えた。それは誰かを助けるために悪意に向けられている純粋な怒りのようだった。

 

「娘、お前が一人なら、閉じこもるのもいいだろう。だがお前を分かってくれる人がいるなら、それはお前自身だけではなく、周りを不幸にするだろう」

 

 オスカーはどうして必要の部屋とホッグズ・ヘッドがつながったのか、どうして必要の部屋はレアをここへ連れてきたのか、ようやくわかった。

 

「ここにお前を追ってきた二人が、さっきの兄弟のような愚かで間抜けで救いようのない人間に見えるのか? お前のために泣くような人間がそう見えるのか?」

 

 もはやアバーフォースの声はまるでレアにすがっているようにも聞こえた。エストは泣きながらもアバーフォースの話を聞いていた。オスカーはどうしたら彼のように自分を見つめ直し、まるで自分の罪の象徴のようなレアを助けて、励ますようなことを言えるようになるのだろうと思った。

 

「この二人の他にもお前を探している人間がいるんだろう? なら自分の場所へ戻れ、ホグワーツへだ!」

 

 アバーフォースの声が小さな部屋に響いた。明らかな怒りが込められているにもかかわらず、オスカーはその声がどこか暖かなものだと感じた。

 

「ねえ、レア、帰ろう? エストもレアと守護霊の呪文の練習をしたいし、レイブンクローの娘たちも、スネイプ先生もレアのことを探してるよ」

 

 エストがレアを肩を叩いてそう言った。

 

「ボク…… うう…… でも、やっぱりみんな記事を見たら怖がるに決まってるし、オスカー先輩たちやスネイプ先生は強いから……」

 

 オスカーはレアのカバンから変身術入門を取り出した。レアの変身術入門はオスカーやエストのものよりも新しいにも関わらず、何度も読み込まれたあとやたくさんの書き込みがあり、レアがどれほど魔法を練習しているのか示しているようだった。

 オスカーは目的のページを見つけた。そのページは何度も開かれているのがページの具合からわかった。オスカーはレアがオスカー達との練習を楽しみにしてくれていたことが伝わってくるようで、胸が温まる気がした。

 そのページはエストが呪文をかけた羊皮紙で、忍びの地図の写しが表示される場所だった。

 

「ほら、これを見ればわかるだろ、レアの友達はまだレアを探してる。それにあの娘たちは根拠もなくレアを怖がったりしないだろ、レイブンクローなんだろ?」

 

 レアはオスカーの差し出した地図を見た。地図の上ではオスカーがさっき見た時に占い学の塔にあった名前がホグワーツの色んな場所に表示されていた。レアはそれを見てもっと大きな声で泣いた。大粒の涙が地図の上の名前をにじませて、いろんな名前と重なって見えた。

 オスカーはオスカー達のやり取りを見て、肖像画の女の子が、アリアナ・ダンブルドアが少しだけ微笑んだのを見た。

 

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