ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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このスポーツ…… 何も言うまい


クィディッチ

 

 クィディッチ年内最後の試合が間近まで迫っていた。今年はグリフィンドール対レイブンクローの試合が長引いたせいで、雪の降り始める十二月まで試合がずれ込んでいたのだ。

 試合を見に行っていた生徒達や先生達もスニッチが二日経っても見つからないとは思っていなかった。

オスカーもいい加減この競技のスニッチと言う要素は少し欠陥があるんじゃないのかと思っていたが、シーカーであるチャーリーとエストの手前、そんなことは言えなかった。

試合自体はマクゴナガル先生の熱願により、一週間後に再開され、チャーリーが四日目にスニッチをやっと取って終わった。

なので残る試合はスリザリン対ハッフルパフだけだった。

 

「試合は明日だしそろそろ終わった方がいいんじゃないのか?」

 

 ホグワーツには連日吹雪が吹き荒れていて、スリザリンもハッフルパフも体力温存のために前日は練習をしないことにしたらしく、エストとトンクスの二人も守護霊の呪文と劇の練習に来ていた。

 オスカーは緊張を紛らわすために二人がいつもと同じことをしたいのだろうと思っていた。

 

「うーん、守護霊の呪文ができたらなんか試合も上手くいく気がしたんだけど……」

「じゃあなおさらエストに成功してもらうわけにはいかないな」

 

 オスカーの顔に変身してクラーナとセリフの読み合わせをしていたトンクスがオスカーの顔でオスカーの口調を真似ながら言った。

 

「もう! オスカーの顔で言うとややこしいの!」

「まあ本物のオスカーの言う通りにそろそろ切上げた方がいいかもね、僕の試合みたいに四日もスニッチが見つからなかったら体力が大事になるから」

 

 チャーリーが少し疲れた声で言った。オスカーもまたスニッチが四日も見つからなかったらクリスマスが先に来てしまう気がした。

 

「まあ焦らなくてもいいんじゃないですか? 実際、私たち誰も有体の守護霊を創り出せていないわけですし」

 

 クラーナの言う通り、オスカー達は誰も守護霊を創り出すことはできていなかった。オスカーはエストができないような呪文があるということが意外だった。

 もう一つ意外なことがあるとすればレアが一番進んでいるように見えることだろうか、オスカー達が白いモヤのようなものしか出せないのに対して、レアの白いモヤは時々何かの形をとる時があったのだ。

 

「そうね、レアも明日はお仕事があるしね」

 

 トンクスがいつもの自分の顔とショッキングピンクの髪に戻りながらレアに言った。

 

「ホントにボクが明日やるんですか? 台本と紹介文はマクゴナガル先生から貰いましたけど……」

「大丈夫よ、逆にもっと有名になっちゃえばいいのよ、レアは特別功労賞を貰ってるせいでちょっと有名だし大丈夫、大丈夫」

 

 トンクスは何かをレアのために取り付けてきたようだったのだが、もったいぶってオスカー達には言ってはくれなかった。

 他の四人は多分トンクスなりにレアを励ましているのだろうということで何も言わなかった。ただオスカーはまたホッグズ・ヘッドでファイア・ウィスキーを飲んだ時のようにオチがつかないか心配だった。

 

「エクスペクト・パトローナム! 守護霊よ来たれ!」

 

 エストが懸命な顔で、何かを必死で思い出すような顔で守護霊の呪文を再び唱えたが銀色のモヤのようなものが辺りを漂っただけで形をとることはなかった。

 それを見たエストの顔は酷く疲れているようにも何かに失望しているようにも見えた。オスカーはエストが守護霊の呪文を失敗するたびにこの顔をすると知っていた。

 

「まあほんとにそろそろ帰るか、夕食の時間もあるし」

 

 オスカーは杖を振って、空き教室の机と椅子を元の位置に直し始めた。強制的にでも練習をお終いした方がいいと思ったのだ。

 オスカーも守護霊の呪文を練習したときに思ったのだが、この呪文は酷く体力や精神力を消費するように思えた。

 自分の一番幸福な記憶を思い出して呪文を唱えているはずなのに、呪文ができないと言うのはその記憶がまるで一番幸福なのではないと言われている気分になったからだ。

 オスカーはクラーナがこの呪文は生半可なものではないと言っていた意味がわかり始めている気がした。まね妖怪と同じく、自分と向き合うというのは酷く難しく疲れるものなのだ。

 実際に疲れるのが分かってからはクィディッチチームのメンバーはエスト以外、劇の練習の方を主軸にするようになっていた。

 オスカーは呪文の練習に妥協しないエストのくまが最近ますます濃くなっていることを知っていた。

 

「私も手伝うわよ」

 

 トンクスがそう言って杖を振ったが、机は上下逆さまになってもとの位置に戻った。

 

「まあ…… まあまあの出来ね」

「どう見ても全くできてないでしょう。どうやってこの机で勉強するんですか?」

 

オスカーはため息をついてトンクスがひっくり返した机を元に戻した。

 

 

 その後、エストは夕食の時も食べ終わって談話室にいる時も、オスカーに何か言うことはなかった。

 試合前になるとエストは毎回、オスカーにクィディッチのあれこれについて語ってきていたので、オスカーは今回もそうだろうと思っていた。

 しかし、クィディッチ試合前の緊張を吹き飛ばそうとする生徒達の騒ぎの中、エストはただ椅子に座って湖が見える窓を眺めている。

 黒い湖を写す窓に談話室の緑の光とエストの紅い眼が写っていた。オスカーはいつもの場所にエストといるだけなのに沈黙が嫌だった。

 オスカーは毎回のごとく聞かされる、万年最下位のチャドリー・キャノンズがどうのだとか、ウロンスキー・フェイント、ホークスヘッド攻撃フォーメーションなどと言ういつの間にか覚えてしまったクィディッチの技を喋っていたかった。

 

「緊張してるのか?」

 

 やっとエストにオスカーが言えたのはそれが精一杯だった。エストは窓から目を離してオスカーの方を見た。

 オスカーにはいつもの何倍もエストの顔が疲れているように見えた。

 

「うーんと、多分緊張はしてないと思うの」

 

 エストは首を傾けて笑った。オスカーにもエストは緊張してないように見えた。ならばどうしてそんなに疲れた顔になるのか不思議だった。

 

「緊張してるのか、試合するのが負けるのが怖いのか分かんないの、オスカーは自分のことって、自分がどうして何を考えてるのかって分かる?」

 

 オスカーはエストの言っていることが何なのかは分からなかった。何を言って欲しいのかも分からなかった。

 

「分からないと思うけど、とりあえず疲れてるんなら寝ればいいんじゃないか? エストが疲れてて喜ぶのはトンクスだけだろ」

「それはそうかもしれないの」

 

 エストは笑いながら何か違うことを考えているようだった。無意識のうちにエストの指が胸元の金色の鎖を触っていた。

 

「選手! 就寝だ!」

 

 そうこうしているうちにスリザリンチームキャプテンの声が談話室に響いた。オスカーはその声がありがたかった。とりあえずエストをベッドに向かわせた方がいい気がしていたからだ。

 

「うーん、じゃあオスカーまた明日ね」

「ああ」

 

 エストはそう言って女子の寝室の方へ消えていった。オスカーも寝室に戻ろうとするとスリザリンクィディッチチームの面々に取り囲まれた。

 

「それでオスカー君、うちのシーカーの調子はどうなんだ?」

 

 一番ガタイの大きいキャプテンとキーパーを務める六年生が言った。オスカーも身長は大分伸びてきたがキャプテンの顔はオスカーより顔一つ分上だった。

 

「どうとは?」

「それはウチの姫様の調子が良ければ俺たちが負けることはないからだ」

 

 ビーターを務めるキャプテンと同じくらいガタイのいい五年生が真面目な顔でそう言った。

 

「その通り、去年僕たちが唯一負けたのもエストレヤ嬢が医務室で出れなかったときだけなんだ」

「つまり、姫様が調子良く試合にのぞめればバカ勝ちできる」

「ということでオスカー後輩がウチのシーカーの機嫌を取れるかでスリザリンの勝ち具合が決まってくるんだよ」

 

 もう片方のビーターと二人のチェイサーが口々にそう言った。後ろで残りのメンバーもうんうんと頷いている。みんなオスカーよりもガタイが良かった。オスカーはエストとこのメンバーがホグワーツでどう呼ばれているのか知っていた。それに男爵とピーブズの姫様呼びがいつの間にか広まっているようだった。

 

「調子は…… 多分色々あって疲れてるんだと思いますけど…… 機嫌はそんなに悪くないと思います。さっきも笑ってましたし」

 

 オスカーはまね妖怪やホッグズ・ヘッドでの一件、守護霊の呪文、胸元の特別措置を思い出しながらそう答えた。

 

「疲れている…… 練習しすぎたか……」

「僕らの基準で練習しすぎましたかね……」

「姫様が飛べなくなったら終わりだぞ……」

「これはキャプテンの責任では」

 

 オスカーの予想以上にスリザリンクィディッチチームはショックを受けているようだった。キャプテンなど目頭を掴んで悩んでいる。

 

「試合前にオスカー君を使おう」

「まあ幸運薬みたいなもんですね」

「幸運薬を使ったら失格処分だけどまあオスカー後輩ならいいだろう」

 

 なぜかオスカーが魔法薬のような扱われ方になっていたが、クィディッチチームの面々はオスカーの肩を順番に叩いて寝室へと消えていった。

 

「じゃあオスカー君、明日はよろしくな」

 

 最後にキャプテンがなぜかオスカーにバタービールを手渡して消えていった。とりあえずオスカーも寝ることにした。

 

 

 翌日、オスカーはいつものようにエストと一緒に大広間へと向かった。エストが大広間に入るとスリザリンのテーブルから拍手が起こり、ハッフルパフのテーブルからはやじが飛んだ。談話室で待ち受けていて、二人を護衛するように歩いていたクィディッチチームの面々がハッフルパフのテーブルに凄んだ。

 ハッフルパフのテーブルではトンクスが冗談を言ってハッフルパフのクィディッチチームを笑わせているようだったが、オスカーはトンクスの髪色からトンクスの気分があまり良くないことが分かった。

 オスカーが大広間の天井を見ると外は猛吹雪のようで、全く空はおろか雲さえ見えなかった。

 スリザリンのクィディッチチームはみんな余り食欲がないようで、エストもいつもの半分くらいしか食べていなかった。

 その後キャプテンがグラウンドと雪の具合を確認すると言って選手を急かした。エストが立ち上がる前にキャプテンはオスカーの肩を叩いてから出ていった。

 

「吹雪みたいだけど大丈夫か?」

「クィディッチのローブは防水呪文がかかってるから大丈夫だと思うけど、視界はどうにもならないかもしれないの」

 

 オスカーにはエストの声はいつも通りに聞こえた。

 

「じゃあ頑張ってくれ、隣のチャーリーの解説を聞きながら見てるよ」

「グリフィンドールのシーカーの解説を聞きながらってなんかおかしいの、じゃ、行ってくるねオスカー」

 

 エストが大広間から出ていくとまた拍手が起こった。オスカーも猛吹雪の中、クィディッチ競技場へと向かった。

 

 

 

 オスカー達はいつも座る場所があった。普通、ホグワーツの寮生たちはそれぞれの寮の場所に座って、それぞれのローブを着て、応援旗を振り回すのだが、オスカー達は二年生になってからは解説席の傍に陣取っていた。

 

「くっそ寒いですね、トンクスとエストには試合後に解凍呪文をかけないといけないんじゃないですか?」

 

 クラーナが震えながらそう言ったがオスカーも同感だった。正直この中で箒で飛ぶのは正気の沙汰ではないように思えるのだ。

 

「うん、この雪で四日もスニッチが見つからなかったら死人がでるとおもうね」

 

 チャーリーが自分の試合を思い出したのか遠い目をしながら言った。

 

「あれ? 先輩たちってここで見てるんですか?」

 

 三人が後ろを見るとマクゴナガル先生に連れられたレアの姿が見えた。

 

「レア? マクゴナガル先生?」

「おや、ドロホフにウィーズリー、ミス・ムーディ、そう言えば貴方達はいつもここにいますね」

 

 マクゴナガル先生が鼻についた雪を取り払いながらそう言った。マクゴナガル先生が連れているということは…… オスカーはトンクスが取り付けてきたことが何なのか理解した。

 

「マクゴナガル先生、もしかして、新しいクィディッチの解説ってレアなんですか?」

 

 チャーリーがマクゴナガル先生に尋ねると、マクゴナガル先生は神妙な顔で頷いた。

 

「そうです。ミス・トンクスがあんまり薦めるものですからやってもらうことにしました。まあミス・トンクスよりも暴走しない解説になることでしょう」

「ボクはあんまり自信なかったんですけど、トンクス先輩がとりあえずやってみろって」

 

 レアは少し恥ずかしそうだった。

 

「大丈夫ですよ、あほのトンクスよりましな解説になるでしょう」

「まあそうだろ」

 

 オスカーもクラーナに同意だった。トンクスが解説したのではハッフルパフ偏向の解説になることは間違いなかったからだ。

 

「ではミス・マッキノン、行きますよ、拡声魔法のチェックをしないといけません」

「あっ…… わかりました」

 

 レアが解説席へと消えていって、すぐにフィールドに選手たちの姿が現れた。吹雪であまり良く見えないが、緑のローブを着ている一番小さい人影がエストのはずだった。

 

「えーと、聞こえていますでしょうか? あー、あー、本日は晴天なり」

 

 レアの声がクィディッチ競技場に響き渡った。オスカーはいくらなんでも今日は晴天じゃないと思った。他の観客もそう思ったのか吹雪の音に負けないくらいの笑い声が起こった。

 

「本日の解説はボク、レア・マッキノンが担当します。よろしくお願いします」

 

 緊張したレアの声が響く。フィールドの真ん中ではハッフルパフの黄色とスリザリンの緑が相対するように並んで、真ん中でそれぞれのキャプテンとフーチ先生が立っていた。

 

「ええ、ちょっと台本通りですけれどもそれぞれのチームの紹介をします」

 

 先にスニッチが放されて吹雪の中へ消えていった。

 

「スリザリンチームは最早周知の事実としてこう呼ばれています。プルウェット親衛隊です。紅一点のエスト先輩…… プルウェット選手の周りを守る男たちのチームです」

 

 観客たちから大きな笑い声が起こり、スリザリンのスタンドからは大きな拍手が起こった。最早この名前はスリザリン寮すら受け入れているようだった。

 

「ハッフルパフチームはええっと、トンクス先輩…… ええっと失礼しました…… ニンファドーラとゆかいな仲間たちと呼んで欲しいと書かれています」

 

 今度はスリザリンスタンドからの大きなやじが巻き起こった。オスカーは一年生のクリスマスに貰った万眼鏡でトンクスの方を見た。トンクスはどうもハッフルパフのチームに仕組まれてレアにニンファドーラと呼ばれたようだった。

 髪色がピンクやら赤やらに点滅しているのがその証拠だった。

 

「なお、ニンファドーラ選手が相手チームのチェイサーに変身して、ゴールを決めるのは禁止だとフーチ先生から通達するように言われています」

 

 観客、特にハッフルパフの観客は大爆笑のようだった。確かにオスカーもあれはせこいと思っていた。クィディッチの反則は七百以上あるらしいが七変化を使った反則は多分珍しいだろう。

 

「オスカー、良く見えないんですけどもう始まりますか?」

「ああ、いまフーチ先生がキャプテン同士に握手するように言ったところだと思う」

 

 オスカーはハッフルパフのひょろっとしたキャプテンが握手したあとに顔を苦痛にしかめながら箒に乗るのを見た。スリザリンのキャプテンが指をへし折る勢いで握ったのだろう。

 フーチ先生のホイッスルと大歓声とともに十四本の箒が飛び上がった。

 

「さあ、試合が始まりました。クアッフルはスリザリンのチェイサー、ギャンボル選手が持っています……」

 

 レアはクアッフルのありかを解説していたが、観客の視線は全く別の場所を向いていた。

 

「パーキン挟みだ!」

 

 隣のチャーリーが興奮して叫んだ。オスカーは過去のエストの語録の中からその単語を引っ張ってきた。確か、二人のチェイサーが相手のチェイサーを挟みこんで、最後に真っ正面から三人目のチェイサーが突進する技だったはずだと思い出した。

 オスカーがあわてて観客の視線の先を追うと、なんとエストがハッフルパフの二人のチェイサーに挟まれるようにして飛んでいた。そしてその真正面からハッフルパフのビーター二人がやってきて、ブラッジャーを打ち込もうとしていた。

 

「序盤から凄い展開になりました! ハッフルパフは攻撃と防御を放棄して、スリザリンのシーカーを潰しにかかりました!」

 

 オスカーは万眼鏡の倍率をあわてて合わしてエストの顔が映るようにした。エストは口を真一文字にして飛んでいる。オスカーはその顔を何度か見たことがあった。何かをやると決めた時の顔だ。

 ブラッジャーが撃ち込まれる寸前でエストは一度両手を箒から離して、箒を支点に一回転して逆さまにぶら下がった。オスカーもこの技を知っていた。

 

「なんとプルウェット選手、ここでなまけもの型グリップ・ロールです!」

 

 エストはそのまま下が見えない状態で地面へと急降下した。エストを挟んでいた二人のチェイサーはその勢いのまま衝突し、そこに二つのブラッジャーが撃ち込まれ、もんどりうって失速した。

 エストは急降下しつつ綺麗な円を描いて何事もなかったかのように飛び始めた。

 観客から吹雪にも負けないような大歓声が上がった。スリザリンのスタンドでは緑色の絨毯がゆれながら大きな拍手をエストに送っていた。

 

「レアは普通にクィディッチの解説できてるじゃないですか」

 

 オスカーは一息つきながらクラーナの言う通りだと思った。少なくともオスカーは技の名前がパッとはでてこなかったからだ。

 

「ハッフルパフは試合開始から思い切った手に出ましたが代償は高くつきました。スリザリンが三十点のリードです」

「でもこれでスリザリンのビーターは当分エストにかかり切りになるだろうね」

 

 チャーリーの言う通り、スリザリンのビーター二人はまるでエストを護衛するように周りを周回していた。

 エストは何かを二人に言っているようだったが、二人は盛んに首を振っている。エストは説得を諦めたようで、スニッチを探すためかさらに上空へ飛行した。

 その間にスリザリンがもう一度得点した。これでハッフルパフとスリザリンは四十点差だった。

 

「クアッフルがやっとハッフルパフに戻りました! ハッフルパフの三人のチェイサー、ブラッグ選手、ラフキン選手、ニンファドーラ選手が矢じりのような陣形でスリザリンのスコア・エリアへと向かっています!」

 

 オスカーにもこの陣形が何なのかはわかった。ホークスヘッド攻撃フォーメーションだ。スリザリンのチェイサーがクアッフルを奪おうとして突っ込んだが、三人が絶妙なタイミングでお互いにパスをしてクアッフルを渡さない。

 

「さあ、スコア・エリアまであと少しです。スリザリンのビーター二人はまだシーカーの傍…… 上空からスリザリンのシーカーとビーターが突っ込んできました!」

 

 レアの言う通り、上空から加速をつけてエストとビーターの二人がハッフルパフの三人目掛けて急降下してくる。しかもブラッジャーがその軌道上を飛んでいる。

 スリザリンのビーター二人が、同時にブラッジャーを打ち込んだ。さっきブラッジャーをくらったチェイサーのラフキンの背中に命中し、ラフキンはジグザグに落ちていき、なんとか地面ギリギリで箒の制御を取り戻した。

 

「ドップルビーター防衛です! この試合は次々に伝統的なクィディッチの戦術が飛び出します! ブラッグ選手もプルウェット選手を避けようとして失速しました。しかし、ニンファドーラ選手がスコア・エリアに突入します!」

 

 髪の毛を真っ赤にしたトンクスがスリザリンのキャプテンであるキーパーが守る三本の輪っかに向かって飛んでいく。トンクスがクアッフルをシュートしたが、キャプテンは箒の柄でそれを弾き飛ばした。

 

「シュートは失敗です! 再度スリザリンの攻撃になります!」

 

 スリザリンのスタンドから大歓声が上がる。エストと二人のビーター、そしてキャプテンを称える歌のようなものをスリザリン生が口ずさんでいるのが吹雪を通しても聞こえた。スリザリン生の先頭ではスネイプ先生が陰気そうな顔で笑っているのが見える。

 

「ハッフルパフが最初にエストを潰そうとしたのは正しい気がしますね」

「そうだね、スリザリンはエストが活躍するだけで目に見えて士気が上がるからね」

 

 オスカーも二人と同じ考えだった。実際にエストの突撃で防衛に成功したスリザリンはさらに二十点加点して、六十点のリードだった。

 しかし、それよりも大きな問題があった。吹雪がどんどん強くなっているのである。もはや観客たちからも途切れ途切れにしか選手たちの影は見えなかった。それに吹雪の轟音でレアの解説の声もかき消されつつあった。

 オスカーは万眼鏡でエストの姿を探したが、時々映るのはスリザリンの緑のローブとハッフルパフの黄色いローブが切れ切れに見えるだけだった。

 

「スリザリンが八十点のリー…… 攻撃は…… フルパフに移りました!」

 

 レアの声から、さらにスリザリンがリードを広げたことが分かった。吹雪が少し休まり、スリザリンのゴールポストにトンクスがまたシュートしているのが見えた。

 今度は完全にキャプテンがシュートをキャッチした。トンクスの髪色がほとんど黒のような青色になっていた。オスカーはトンクスの髪色がこんな色になるのを見たことがなかった。

 

「ハッフルパフの攻撃はまた失敗しました! スリザリンの勢いが止まりません!」

 

 吹雪で見えなくてもエストが作りだしたスリザリンの流れは止まっていないようだった。

 

「これはスリザリンが止まらないね、うーんあんまりスリザリンの勝ち点が増えるのは良くないんだけどなあ」

 

 チャーリーがこれは困ったという顔でそう言った。

 

「とりあえずエストでもハッフルパフのシーカーでもいいですから、スニッチを取って終わらしてくれませんかね、こんなのがチャーリーのときみたいに四日も続いたらホグワーツの人間は半減しますよ」

 

 クラーナはガタガタ震えながらフィールドの方を見ていた。オスカーは自分達でさえこんなに寒いのだからエストやトンクスはその比ではないだろうと思い、クラーナ同様早く終わって欲しかった。

 

「ここでギャンボル選手にブラッジャーが命中しました! 取り落としたクアッフルはニンファドーラ選手にパスされました! スコア・エリアに向かいっています。しかし、ゴールポスト付近ではすでにスリザリンのビーターが……!!」

 

 ここでレアの解説が止まった。そして観客が猛吹雪にも負けないくらい歓声を上げ始めた。

 

「スリザリンとハッフルパフのシーカー、プルウェット選手とスタンプ選手がスリザリンのゴールポストへ向かっています!! スニッチが見つかったのでしょうか!! しかし、プルウェット選手の方が速い!!」

 

 オスカーも万眼鏡をスリザリンのゴールポストへ向けた。トンクスの黒と黄色、エストの黒と緑色が凄い勢いでゴールポストへと向かって行くのが見えた。その後ろでハッフルパフのシーカーがなんとか追いつこうとしている。

 

「ブラッジャーもスリザリンですし、終わりですかね」

 

 クラーナがそう言った瞬間、ひと際大きな吹雪がフィールドを真っ白に染め上げた。オスカーはひどく嫌な予感がした。そしてブラッジャーが何かに当たる音が響いた気がした。

 白色の視界の中で黒と緑色の何かが雪で真っ白のグラウンドに向けて真っ逆さまに落ちていくのがとぎれとぎれに見えた。

 

 

 


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