「見たか?」
「あれだよあれ」
「黒髪の女の子の隣」
「いかれた顔してるぜ」
「日刊預言者新聞にでてた親父の顔にそっくりだ」
「なんでホグワーツに入学できたのかしら」
翌日オスカーが寮をでてから毎日のようにささやき声がついて回った。
ほとんどは遠くから見る視線やひそひそという噂声だけだったが、中にはほとんど殺意のような視線を向けてくるものもいる。
オスカーが幸運だったのはオスカーが一人でいると言っても無理やりついてくるエストが、ホグワーツの複雑な階段や仕掛け扉を数日で理解したことだろう。
ゴーストや肖像画達もなぜかエストには好意的だったし、特に血みどろ男爵がエストにピーブズが近づいた途端にフルボッコにしていたので、二人はピーブズに出くわすことはなかった。
天文学、薬草学、魔法薬学、妖精の魔法、魔法史、変身術、闇の魔術に対する防衛術等色々な授業があったが、そのどの授業でもエストの優秀さをオスカーは思い知らされた。
変身術ではあっという間にマッチ棒を針に変えてしまったし、闇の魔術に対する防衛術の先生である、スタージス・ポドモアという先生はエストがお気に入りだった。
先生の出身はグリフィンドールらしいのだが、エストが何か質問やら回答するたびに彼はスリザリンに得点を与えた。
レイブンクローの学生たちは何故エストがレイブンクローでないのか疑問でしかたないようだった。
エストが嫌でも目立つために、オスカーは授業の間は生徒たちの話題に上らずにはすんだ。
しかし、段々とオスカー…… ではなく、親のアントニン・ドロホフに怨みを持つ生徒たちの行動は直接的になってきた。
オスカーが何もせず大人しくしていたのもあったかもしれない。
大抵、エストがいないときを見計らって、ゾンコの悪戯専門店で売っているような道具での悪戯や、最悪の場合、直接呪いをかけてきたのだ。
まだ呪いをかけてくる生徒は低学年であったから大した呪いではなかったが、オスカーは何度かマダム・ポンフリーの世話になった。
オスカーは呪いをかけてくる生徒に会わないように早めに朝食を取りにいくのだが、エストもそれに合わせて早起きするようになっていた。
ほとんど学生がいない大広間で朝食を食べていると、グリフィンドールの生徒がスリザリンのテーブルにやってきた。
先生方がいる大広間で何かするとは思えないが、オスカーは思わず身構えた。
やってきたのは赤毛の男の子、たしかチャーリー・ウィーズリーだったはずだ。
「おはようエスト、今日の午後ハグリッドに会いに行かないか?」
「チャーリー、おはよう。ハグリッドってあのでっかい人?」
チャーリーはエストを誘いに来たらしい。二人はいとこ同士らしいので不思議なことではないとオスカーは思った。
「そうだよ、あの人は凄く魔法生物の扱いがうまいんだ。なんかすごく面白い生物を見つけたらしいから、エストも一緒に見にこないかなと思って」
なるほど、確かにあの図体ならドラゴンやキメラなんかでも互角に戦えるかもしれないとオスカーは思う。
「うーんエストはいいけど、オスカーも一緒でもいい?」
「ああ、別に問題ないよ、こっちもクラーナが付いてくる予定だしね」
どうもエストの中ではオスカーが一緒にくることは前提であるらしい。
クラーナ・ムーディがいると聞いて少しオスカーの気分が下がった。彼女は直接的に呪いをかけてきたりしないが、コンパートメントでの態度からオスカーに好意的でないのは明確だからだ。
「じゃあまた午後にね」
「じゃあねー」
チャーリーはそのままグリフィンドールのテーブルに戻っていく。
「ね? ハグリッドの珍しい生物ってなんだろう? ドラゴン? バジリスク? ヌンドゥ? それともアクロマンチュラとかかな?」
「そんなもんホグワーツにおいておけるわけないだろう。闇祓いから木っ端役人まで引き連れないと討伐できないだろ」
やっぱり、エストの発想はどこかぶっ飛んでいる。ホグワーツにヌンドゥが現れた日には日刊預言者新聞の一面は間違いない。
今日の授業は午前までだったので、昼食が終わり次第エストとオスカーはハグリッドの小屋に向かった。
ハグリッドの小屋は禁じられた森のはずれにあるので校庭を横切ってたどり着く。
小屋の戸をエストはノックした。
「こんにちは~」
小屋の中でガタガタと音がする。
「大丈夫だよハグリッド、多分エストとオスカーだから」
「プルウェットはともかく、ドロホフの息子が信頼できるかは怪しいですけどね」
扉が開いて小屋の中に案内される。
「プルウェットの娘っちゅうのはあんたか?」
ハグリッドはエストに聞く。彼の黄金色の瞳はなにやら懐かしいものを見る感情が溢れている。
「そうだよ? エストはエストレヤ・プルウェットだよ? ハグリッドさん?」
「おお、あの兄弟によく似とる。よくきてくれた。あと俺のことはハグリッドでいいぞ」
オスカーはハグリッドとエストのやり取りを聞いて居づらくなってきた。
「そっちのはプルウェットの仇の息子ですよ、ハグリッド」
クラーナがニヤリと笑って、オスカーを指で指す。
ハグリッドの黄金色の瞳がオスカーを覗く。そしてニコリと笑った。
「確かにお前さんも親父さんによく似とる。けどな、ファングも吠えなかったしエストとも仲がいいんだろう? 心配することはねぇ。あとクラーナ、人を指で差しちゃいけねえぞ」
「ハグリッドはいい人だね?」
確かにこのハグリッドという人物は人を偏見で見る人物ではないようだ。
それにハグリッドに注意されてむくれるクラーナが面白くてオスカーは仕方なかった。
「ハグリッド。もう孵りそうだよ」
待ちきれないといった感じのチャーリーの声。
「なんの卵なの?」
「孵ればわかるよ」
パリっ、パリっという音がして卵が孵る。
中からでてきたのは頭が三つある蛇だった。長さは人間の腕位だろうか?
「すごい、ルーンスプールでしょ! これ」
「おお、よく知っとるな。こいつは卵が魔法薬の材料になるからっちゅうて数が少ないんだ」
確かに幻の動物とその生息地で見たことがある。
けど、確かこの生き物の卵は販売が制限されていたはずだが。
「こいつらなんか頭同士で喧嘩してますよ、ハグリッド」
クラーナの言う通り蛇はその三つある頭がお互いに威嚇し合っていた。
「クラーナ、ルーンスプールは頭が互いに攻撃するせいで短命なんだ」
チャーリーが解説してくれる。
「ドロホフ。あなたパーセルタングだったりしないんですか? 闇の魔術師の特徴の一つじゃないですか」
「あほか、パーセルタングなんてほとんど絶滅してるだろ、ルーンスプールより珍しいだろうよ」
近年でパーセルタングなんて例のあの人くらいだろう。
だいたい、パーセルタングだってわかっても自分で言うやつなんていないだろうとオスカーは思う。
「なんだ使えないですね、パーセルタングならこいつらを説得できるかと思ったんですけど」
そうこうしているうちにルーンスプールはお互いの首にかみつき合おうとしていた。
するとエストが噛まれるのも構わずルーンスプールを取り上げた。
「あっ。ちょっと痛いかも」
ルーンスプールはしばらくエストの指に噛みついていたが、しばらくすると疲れたのか噛みつくのをやめた。
「おい、プルウェット大丈夫なのか?」
「オスカー、プルウェットじゃなくてエストだから。あと別にあんまり痛くはないかな」
エストがもとの場所にルーンスプールを戻す。
チャーリーとハグリッドはやれ、ウロコの赤みがかった色が美しいだの、こいつはメスなのかオスなのかみたいな議論をし始めている。
「あの二人は魔法生物に関わるとあほになるんです」
クラーナがやれやれみたいな顔をしている。
「エスト、マントを取って腕を見せて見ろ」
ハグリッドが先ほどルーンスプールに噛まれたエストの腕を見ている。
見てから、なにやら小屋の奥でガサガサと探し物をして、なにやら銀色の軟膏を取り出した。
「これで大丈夫だ。あんまり無茶をするもんじゃねえ」
「うん、ありがとう」
そのあと何やら、ハグリッドとチャーリーの議論が白熱したり、クラーナがひたすらオスカーを煽ってきたり、エストがルーンスプールをしつけていたりした。
しかし、そろそろ夕食の時間が近づいてきたので学校に戻ることとした。
「じゃあ先に戻るね、ハグリッド、チャーリー、クラーナばいばーい」
エストとオスカーはグリフィンドール組よりも先に戻ることにした。
しかし、エストがさっき軟膏を塗ってもらうときにマントを取り、そのまま忘れたことに気づいた。
「ちょっと取ってくるから待ってて」
ハグリッドの小屋と城の中間くらいでオスカーはエストを待っていた。
それが悪かった。ちょうどオスカーが暗い校庭で一人でいることが外からよく見える状況になっていたのだ。
城から数人の生徒が出てくる。
見た目からしてグリフィンドールの生徒で、明らかに敵意のある視線をむき出しにして、杖を取り出していた。
数えると6人はいるようで、恐らく学年は一~三年生だろうか?
オスカーはこれは不味いと思った。いつも襲われるのは城の中なので隠れる場所があるが、ここにはなにもない。
しかもあの大人数で上級生がいるのではこちらに勝ち目がないのは明白だった。
「オスカー・ドロホフ。いい度胸だな。お前みたいなやつがホグワーツを堂々と歩くなんて反吐がでるぜ」
オスカーよりも大柄な上級生であろうグリフィンドールの生徒が言った。
「そうだ、お前みたいな死喰い人の子供がなんでホグワーツにいるんだ?」
「よく、プルウェットの隣を歩けるよな? 死にたくならないのか?」
「こいつがプルウェットに錯乱呪文か服従の呪文でもかけてるに違いない」
「俺の家族はドロホフに殺されたんだ。なのになんでお前はぬくぬくホグワーツで暮らしてやがる!!」
生徒達が次々とオスカーを呪う言葉を吐く。
「なんとか答えたらどうなんだ? おい!!」
何も答えないオスカーに生徒達はいら立ち始めた。
「お前、ホグワーツにいないときは闇祓いの監視がついてるんだろ? 魔法省でパパが聞いたぞ」
「いつもやり返してこないのは暴力事件を起こしたら退学になるからなんだろ?」
「ほら、いつもみたいに逃げてみろよ。ここには隠れる物もお前を守ってくれるエストちゃんもいないぜ」
そういって、生徒たちはついに呪いを打ち始めた。
「おらおら逃げてみろよ、ペトリフィカストタルス! 石になれ!」
「インペディメンタ‼ 妨害せよ! おら逃げてんじゃねえ!」
「インカーセラス‼‼ 縛れ‼‼ この野郎 ボコボコにしてやる!」
オスカーはプロテゴを唱えながら、呪文をよけ、なんとか活路を探ろうとした。
しかし、ハグリッドの小屋にはまだエスト達がいるし、生徒たちは城の方向に陣取っているので逃げることができない。
「インセンディオ! 燃えろ!」
「エクペリアームス! 武器よ去れ」
「クソっ ちょろちょろ逃げやがって! おとなしくボコられろよ!!」
オスカーはしばらく無傷で逃げ続けていたが、それがさらに生徒達の怒りを誘った。
「なんなんだよてめぇはよお! 襲われてるんだからもっと怖がれよ!! そのなんでも分かってますみたいな顔がむかつくんだよ!!」
大柄な上級生が激高する。
「レダクト!! 粉々!!」
上級生の放った呪文がオスカーの下の地面を粉砕した。
オスカーは衝撃で吹っ飛ばされ、砂煙で何も見えない。ただ後ろから誰かが走ってくる音が聞こえた。
「これでよけられねえだろ!! おら!! ディフェンド 裂けよ!!」
吹っ飛ばされ、倒れているオスカーに呪文が飛んでくるがその呪文がオスカーに届くことはなかった。
オスカーの前でエストが立ってかばったからだ。
エストの顔が上級生の放った呪文で裂けて、血が出ていた。
「ちっ! 親が殺したやつの娘に守られていい気分だろうなあ!! オスカー・ドロホフ!!」
上級生が叫ぶ。だが、上級生以外の生徒はエストがけがをしたことで及び腰になっていた。
「エクスパルソ!! 爆破せよ!!」
後ろから呪文が飛んできて、生徒達の足元を爆破した。
「抵抗できない相手に複数人で挑むとはなんて卑怯な!! グリフィンドールの風上にもおけません!!」
クラーナとチャーリーが来たらしい。二人はエストと一緒に倒れているオスカーの前に立った。
「クソっ!! グリフィンドールの癖にドロホフをかばいやがって!!」
そう上級生がいうと生徒たちは城へと引き上げていった。
「オスカー大丈夫か?」
そう言ったチャーリーの手を借りてオスカーは立ち上がる。
「俺より、プルウェットは大丈夫なのか?」
オスカーは自分より、自分をかばって呪文を受けたエストの方が心配だった。
「プルウェットじゃなくて、エストだから。オスカー」
そう言って笑ったエストの頬からは血が流れていた。
「情けないことです。プルウェットに守られるドロホフもですが、抵抗しないドロホフを集団で襲うグリフィンドールの生徒はもっと度し難い」
クラーナの言う通りだった。こうなることは随分前からオスカーには分かっていたはずだった。
なのに、オスカーは自分に甘えて、エストの傍にいてしまったのだ。
オスカーは自分の情けなさを呪った。
※ルーンスプール
三頭の頭を持つ蛇、口から卵を産むことで知られる。
その卵は頭を良くする魔法薬の原料となることで知られている。
※ヌンドゥ
非常に危険な魔法生物。口からあらゆる疫病を振りまくと言われる。
魔法使い百人レベルでやっと討伐が可能。