ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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残酷描写あり、長いです


三人目の魔女

 クラーナが突然帰ってしまってから数日経った。オスカー達はそのことについて誰も触れなかった。クラーナもそのことについて触れなかった。

 ガラス瓶に捕らえられたリータ・スキータは未だ捕らえられたままだった。正直なところ、オスカー達はこの瓶詰めにされた記者をどうすればいいのか分かっていなかった。

 魔法省に突き出す。日刊預言者新聞に密告する。ダンブルドア先生に報告する。色んな案がオスカー達の間で浮かんだが、結局どれが一番いいのか分からず、ただ瓶詰めにされたままだった。

 それよりもオスカーは前のエストの様にクラーナがなってしまわないのか心配だった。守護霊の呪文の練習を前よりも懸命にやっているようだったし、ドージ先生に頼んで、何か別の練習もしているようだった。

 今日もクラーナはドージ先生の所に一人で向かった。クラーナはオスカー達に何をやっているのか話す気はないようだった。

 

「今日、朝ご飯食べてる時にハグリッドがアッシュワインダーが生まれすぎて大変だから、来てくれないかって言ってたんだけどどうする?」

 

 チャーリーが待ちきれないという顔でそう言った。

 

「凍結呪文が必要なら、エストを連れて行けばいいんじゃないの? ちょうどクラーナもいなくなったし、オスカーが取られる心配はないわよ?」

「なんなのそれ…… 別にクラーナがいたからってそんな心配はしてないの」

 

 エストをからかったトンクスの髪色がピンク色ではなかったので、オスカーはちょっと不思議だった。

 

「俺はここで呪文の練習をしとくから、みんなで行ってきてくれ」

 

 オスカーは最初からそのつもりだった。オスカーはクラーナがドージ先生の所から帰ってきた後も守護霊の呪文の練習をしていることを知っていた。オスカーは少なくともクラーナが戻ってくるまではここで練習をしているつもりだった。

 

「ボクは今日はトランクでセリフと動きの練習をしようかなって思います」

「じゃあ私もレアに付き合うわ、そしたら他の人の動きと合わせられるでしょうし」

 

 レアとトンクスの二人も今日はハグリッドの所へ行く気はないようだった。

 

「じゃあエストとチャーリーで行ってくるの、肥らせ呪文をかけなければ多分魔法で運べるの」

「多分、卵も貯まってるんだよね…… 僕たちは愛の妙薬を作るわけじゃないから使えないけど」

 

 オスカーはエストとチャーリーを見送って、一人で呪文の練習に戻ろうとした。

 

「それで? オスカーは何か言われてないの?」

「何か? どういう意味だ?」

 

 何故かトンクスはトランクの中に入らず、オスカーに質問してきた。トンクスの髪色は赤みがかった紫と言ったところだった。

 

「その様子なら、オスカーにも何も言って無いのね」

「クラーナ先輩のことですか?」

 

 レアがちょっと心配そうな顔でそう言った。

 

「そうよ、明らかにおかしかったでしょ? いつものクラーナならリータ・スキータを捕まえたら喜ぶと思わない?」

「確かに、そうかもしれません……」

「絶対そうよ、だってファッジ先輩ごと階段を爆破して喜ぶようなやつよ?」

 

 オスカーはそんなことをしていたのかとファッジ先輩が少し可哀想になった。そして、それをトンクスがオスカーの顔でやっていたことを思い出して、先日会ったファッジ先輩の反応に納得がいった。

 

「オスカーもおかしいと思ったからあの時そう言ったんじゃないの?」

「そうだけど…… 正直なんでクラーナがああなってたのかはわからないしな」

 

 オスカーはそういってローブのポケットからガラス瓶を取り出した。エストにオスカーが持っててと言われ、忍びの地図と一緒に渡されたのだった。

 ガラス瓶の中は大量の葉っぱが詰められていて、太ったコガネムシの姿は見えなかった。

 

「その人に聞けばわかるんでしょうか?」

 

 レアはガラス瓶を指で指した。オスカーも確かにこれを見てクラーナの様子がおかしくなったのだから、この人物、リータ・スキータに聞けば何か分かるのかもしれないと思った。

 

「けどそいつから話を聞くには、人間の姿に戻さないといけないわよ? 逃げられちゃうかもしれないし、ホグワーツの中で元の姿に戻られても、どうやって先生に説明するの?」

 

 オスカーは正直、ガラス瓶の中身がどうなろうと知ったことではないと思っていたが、確かに話を聞くのならホグワーツの外の方がいい気もした。戻られてもホグワーツの外に追い出す方法がない気がするのだ。劇が終わるまではガラス瓶の中身には瓶の中でじっとしてもらうか、ホグワーツの外にいて貰いたかった。

 

「先輩たちのホグズミード休暇はずいぶんと先ですよね……」

「そうね、それにホグズミードで元の姿に戻すにしても、逃げられないような場所でやらないとダメな気がするし、他の人に見られても言い訳するのが面倒ね」

 

 コガネムシが突然三本の箒でリータ・スキータに変身するのを想像して、オスカーはこれはないなと思った。つまり、ホグズミードで元に戻すにしろ、リータ・スキータが逃げられない状況で、コガネムシから元の姿に戻っても大丈夫な場所が必要だった。

 ホグズミードについて考えている時、オスカーは何か最近、ホグズミードに関連することを言われたことを思い出した。そして、同様に悩んでいるレアの顔を見て完全に思いだした。

 

「ホッグズ・ヘッドのバーテンなら大丈夫なんじゃないか? 何があっても黙っててくれそうだし、何なら今からでもいけるだろ?」

「アバーフォースさんですか? 確かにあそこなら誰にもばれずに行けますけど……」

 

 レアがちょっと気後れした顔で言った。オスカーはレアがアバーフォースに言われたことを思いだしているのだろうと思った。ただ、アバーフォースの方はレアが来ることを拒みはしない気がした。

 

「ホッグズ・ヘッド? ファイア・ウィスキーを飲んだとこよね? 忍びの地図の秘密の通路で行くってこと?」

「あんまりみんなには言って無かったんだけど、必要の部屋からあのバーにいけるんだよ」

「はあ? 何よそれ、レアをファイア・ウィスキーでいただこうとしてたってこと?」

 

 オスカーはやっぱりトンクスと喋っていると頭が痛くなってくる気がした。

 

「バ、バタービールしか飲んでないです……」

「あほだろ、あそこのバーテンはダンブルドア先生の弟なんだよ、だからもし何かあっても大丈夫だろうし、大抵のことをしても黙っててくれると思うんだよ」

「何よそれ! すごい重大な情報じゃないの! ダンブルドア先生に弟さんがいたなんて初耳だわ」

 

 トンクスの髪色はほとんどピンク色にもどりつつあった。オスカーは本当にトンクスは調子のいい人間だと思った。

 

「じゃあ今から行きましょうよ、クラーナもいないしちょうどいいわ」

「今からですか? エスト先輩たちが戻ってきたら誰もいないのは不味いんじゃ……」

「大丈夫よ、どうせチャーリーとハグリッドが盛り上がって帰ってこないわ」

 

 オスカーにもその様子が容易に想像できた。それにガラス瓶の中身をクラーナがいない間に処理してしまいたいのは確かだった。

 

「でぶちんのコガネムシを捕まえたエストには申し訳ないけど、こんなキモイ虫はとっとと処分するに限るわ」

 

 トンクスはガラス瓶を指ではじきながらそう言った。葉っぱの中で何かがガサガサと慌てて動いたようだった。

 

 

 

 オスカー達三人が必要の部屋につくと、必要の部屋はまるで待っていたように扉を創り出していた。オスカーは一年生のころにクラーナとトンクスと来た時は幾度か壁の前を行ったりきたりしないと出なかったのに、エストやレアの一緒の時はいつもそこにあるように扉が現れると思った。

 三人は真鍮のランプに照らされた道を進んでホッグズ・ヘッドへとたどり着いた。

 

「うわ、この臭い…… 確かにホッグズ・ヘッドね」

 

 トンクスは着くなりだしぬけにそう言った。オスカーは肖像画になっているドアを閉めて、暖炉から降りた。肖像画のアリアナは虚ろではあったが、確かにオスカー達に向けて笑っていた。

 

「また来たのか? ホグワーツに戻れと言っただろう」

 

 アバーフォースが扉を開けて、部屋に入ってきていた。オスカーには隣のレアがビクッと震えるのが見えた。

 

「アバーフォースさん、ダンブルドア先生がよろしく言ってくれと言っていました」

「ふん、兄がそう言うときは大抵ろくでもないことが起こる前触れだ」

 

 アバーフォースは鼻を鳴らしながらそう言った。だがオスカーはアバーフォースの目線の動き方がダンブルドア先生にそっくりだと思った。人を見るときの視線の動きが、目をみてそれから体全体を見るような視線の動きがそっくりだった。

 

「あなたがダンブルドア先生の弟さんね」

「お前は…… 前にカウンターに金をぶちまけた魔女か……」

 

 アバーフォースがものすごく嫌そうにトンクスを見た。オスカーはあの時のトンクスは大人の姿だったはずなのに見破られていると思った。

 

「お前じゃなくて、トンクスよ。じゃあアバーフォースさんにお願いがあるんだけど」

 

 オスカーはこういう時のトンクスの図々しさは役に立つと思った。自分ならこんなに嫌な顔をしている人間に何か頼もうとは思えないと考えたからだ。

 それからトンクスはリータ・スキータのことをアバーフォースにありのまま話した。アバーフォースは話を聞くとさっきのトンクスを見た時と比べて、百倍くらい嫌なものを見る目で、まるで汚物を見るような目でガラス瓶を見た。

 

「この部屋には姿くらましができない呪文がかかっている。部屋の外に出さなければそいつが逃げることはないだろう。下にいるから何かあったら言え」

 

 アバーフォースはそう言うと扉を開いて下の階へ消えていった。オスカーはずっと気を張っていたレアが息を吐くのを見た。

 

「じゃあこいつを出せばいいのね」

「トンクス、先に俺らが杖を出しておいた方がいいだろ」

「おっと…… そうね、いきなり暴れられても困るわ」

 

 オスカーは杖を抜いて、この部屋唯一の扉の前に立った。ガラス瓶はエストが防音呪文をかけていたはずなので中のリータ・スキータにはオスカー達の会話は聞かれていないはずだった。

 三人はそれぞれ杖を抜いて、ガラス瓶を取り囲んだ。トンクスが瓶のふたをあけて、中身の枝や葉っぱごとテーブルにぶちまけた。

 その瞬間、テーブルの上に女が現れた。折れた宝石縁の眼鏡、カールした髪型、長い爪、オスカーはその手に杖が握られているのが見えた。女が何か言おうとした瞬間、オスカーは反射的に盾の呪文を発動した。

 傍の二人と女はオスカーの放った盾の呪文で体勢を崩した。その瞬間を逃さず、オスカーは杖を振るい、紅の閃光が女の胸を貫いた。女は壁まで吹き飛ばされ、杖だけがオスカーの手に収まった。

 女は壁際に座り込んでゲホゲホとむせ込んでいたが、オスカーは杖をずっと向けていた。動物もどきは杖が無くても変身できるはずだったからだ。

 

「ヒュー、オスカー容赦ないわね」

「あほか、杖を持ってただろ」

「全然反応できなかった……」

 

 オスカーが改めて女を見ると強烈な既視感に襲われた。オスカーはこの女を見たことがあった。それも今と同じ様な場所で…… ヤギのような臭いと女の宝石縁の眼鏡がオスカーに思いださせた。

 

「お前、ファイア・ウィスキーを飲んでいた時にいただろ」

「え? 私たちがホッグズ・ヘッドで飲んでた時ってこと?」

「そうだ。羽根ペンで何かを書いてた魔女があのときいたはずだ」

 

 オスカーは頭の中で色んなものが繋がっていく気がした。あのとき、確かクラーナが劇のことを話していたはずだった。そして、レアの記事が出たのはその後のはずだということを思いだしたのだ。

 

「流石に死喰いの息子さんは容赦ないざんすね」

「そこの椅子に座れ、変身するそぶりをちょっとでも見せたら、失神させて、ダンブルドア先生か闇払いに突き出す」

 

 オスカーはできるだけ抑揚のない声で女にそう言った。女は怖い怖いとばかりに体を震わせるふりをしながら椅子に座った。

 オスカーはこの女がこの状況を楽しんでいるようにしか見えなかった。つまり、何か余裕のある状態に見えた。

 

「リータ・スキータですよね?」

 

 レアがおそるおそるそう言うと、女はニッコリと笑って、レアに喋りかけた。

 

「そうざんす。日刊預言者新聞のエース記者こと、リータ・スキータとはあたくしのことざんす。アシャ役のお嬢さん?」

「うるさいわよ、あなたは私たちに聞かれたことだけ答えてればいいのよ」

 

 トンクスは髪色を赤くしながらリータ・スキータにそう言った。

 

「へえ、それでアンドロメダ・トンクスの一人娘さんと、アントニン・ドロホフの一人息子さんはあたくしに何を聞きたいざんすか?」

 

 オスカーはやはりこのリータ・スキータという女は全く油断できないと思った。恐らく、オスカー達全員のプロフィールを、オスカー達がお互いに知っているより深く調べているに違いなかった。

 

「レアとエストを記事にしたのは何故だ? いや、そもそもなんでホグワーツの劇のことを記事にしようとした?」

「なんでって、感動的ざんしょ? 二人はまさにアシャ役とアルシーダ役にふさわしい生い立ちざんす。実際に反響も大きかったざんす」

 

 オスカーはこのリータが話をずらそうとしている気がした。オスカー達をわざと怒らそうとしている気がしたのだ。

 

「なんでホグワーツの劇を記事にしようとしたのか聞いてるんだ。そもそもなんでお前はあの時ホッグズ・ヘッドにいた? 答えろ」

 

 オスカーは杖を上げてリータの胸に狙いを定めた。リータは少し唇を噛み、なぜかトンクスの方をちらっと見た後、喋り始めた。

 

「情報提供があったざんす。ホグワーツの校長が無理やり危険な劇を復活させようとしているから、記事にしてくれというお話だったざんす。それでホッグズ・ヘッドに行ったらあんたたちがいたざんす」

「何よそれ、一体だれがそんなこと頼んだのよ」

 

 オスカーはそれが誰なのかおおよその検討はついていた。劇に反対していて、日刊預言者新聞の記者を動かせるような人物…… リータは質問したトンクスの方を向いてニヤリと笑った。

 

「あんたたちの学校の理事のひとりざんす。これ以上は守秘義務で言えないざんす。記者には信用が大切ざんす」

「ボクには貴方に信用があると思えないです」

「マーリン・マッキノンの一人娘さんに教えてあげるざんす。記者にとっては売上こそ信用ざんす。読者はわたくしの記事を沢山買う。つまり、読者はあたくしのことを信用しているざんす」

 

 そう言って笑うリータの顔は、オスカーが見たことのない種類の邪悪さを持っていた。

 

「お前はまだ記事を書く気だっただろ、何について書く気だったんだ? 俺のことか?」

 

 オスカーが杖を突き出しながら喋ってもその邪悪な笑みは消えなかった。

 

「死喰い人の息子の記事なんて怖くてかけないざんす。それにヘタレた騎士の話なんかしなくても、泉の魔女は、メインヒロインはまだ残っているざんしょ?」

「やっぱりクラーナについて書く気だったのね!」

 

 トンクスの髪の毛はオスカーが見たことのないほど真っ赤に染まっていた。そして、オスカーもこのリータという女がオスカーが知らない種類の残酷さを持つ人間だと認識しつつあった。

 

「当然ざんしょ? 劇の配役を誰が決めたかは知らないざんすけど、今回の三人の配役は完璧だったざんす。仮にあたくしが決めれたとしても、怖くてやれないざんす」

「どういう意味よ!」

 

 リータは両手で自分を包んで、怖いとばかりのリアクションをした。オスカーはリータの言葉を聞くたびに気分が悪くなる気がした。

 

「もしかして知らないで役を決めたざんすか? まあもし知っていて決めたんなら、あんたは真ん中の妹の方ではなくて、あの残酷な姉の方の性格に似たとしか思えないざんすね、ああ、確かにあんたがここで変身していた姿は、あたくしの同級生にそっくりだったざんす」

 

 トンクスの髪色が赤ではなくて、もっと暗い色に、どんどん黒い色に近づいているようだった。

 

「それにあんた達が知らされていないということは彼女はあんた達に知られたくなかったということざんしょ? あたくしだったらあんな配役をされたら傷つくざんすねえ……」

「黙れ! 聞いたことだけに答えろと言っただろ!」

 

 オスカーはまるでこのリータの言葉は毒のようだと思った。いったいどうしてこんなに人を傷つける言葉を吐くことができるのだろう? オスカーにはこのリータという女の言葉は考えに考え抜かれて、人を傷つける様に創られているように感じられた。

 

「どうしたんざんす? ああ、二人は身内がアズカバン送りだから仲がいいざんすか? 確かにアントニン・ドロホフの息子がベラトリックス・レストレンジの姪と仲がいいと書いた方が受けはよさそうざんすね、マッキノン、プルウェット、ムーディなんて名前よりよっぽど信憑性があるざ……」

 

 リータが最後まで言い終わるまでに、レアがテーブルに置いてあったバタービールの瓶でリータの顔をぶん殴った。リータの宝石縁の眼鏡が完全にひしゃげて、片方だけになって耳から下がっていた。

 

「なんでそんなひどいこと言えるんですか! もうこいつは絶対に許せない!!」

「な… 何をするざん……」

 

 レアの怒りは収まらない様で今度はバタービールの瓶を思いっきり投げつけて、リータの口に当たった。歯が何本がおかしな方向に折れた様にオスカーには見えた。

 

「トンクス先輩だって、オスカー先輩だってみんなのこと考えてるのに! なんでこんな…… こんな奴なんかにひどいこと言われないといけないんだ!!」

 

 次は椅子をかかげて殴りかかろうとしたので、オスカーとトンクスはレアを止めないといけなかった。

 

「お前は何も知らないくせになんでそんな分かったようなことを言えるんだ!! あることないこと書いて!! 皆の顔も知らないくせに! こんな奴、コガネムシの時にフクロウにでも食べさせてやれば良かったんだ!!」

 

 レアは泣きながら叫んでいて、二人に止められながらも椅子をリータに投げつけた。リータは手でかばおうとして、長い爪が折れたようだった。

 オスカーとトンクスがレアを落ち着かせるまで随分時間がかかった。オスカーはレアが杖を使わなくて良かったと思った。恐らく、杖を使っていたらリータの残骸を動物もどきの悪用者の残骸として魔法省に提出しなければならなかっただろうからだ。

 

「分かったか? お前は動物もどきだってばらされたら終わりなんだぞ? 俺の父親と一緒の場所に行きたいなら行かせてやる」

「分かったざんすから、あの娘をどっかにやるざんす」

 

 リータは酷い有様だった。眼鏡は完全に元の形を保っていなかったし、真っ白い歯も何本か折れ、髪の毛はぼさぼさになり、手入れされた長い爪は何本か折れたりはがれたりしていた。オスカーは治癒呪文をリータにかける気はさらさらなかった。

 

「いいか、じゃあお前はこの先、俺たちに関する嘘八百の記事を書かないと誓え、ちょっとでも俺たちの誰かがそう感じたら、お前は即刻アズカバン送りだ」

「この先ざんすね、分かったざんす」

 

 オスカーにはリータが神妙にしているように見えた。もうオスカー達に関わりたくないと思っているようだった。

 

「二人もそれでいいか?」

「私はいいわよ、これで劇の邪魔になることはなさそうだしね」

「ボクは…… それでいいです。どうせこんな奴、こんなこといつまでも繰り返してられないはずです」

 

 オスカーはこのリータという女をできるだけ早く自分達の周りから遠ざけたかった。この女がいるだけで皆が不幸になる気がしたのだ。

 一階へ続くドアを開けて、リータをオスカーは外に出した。そして杖を向けながら、先ほど武装解除した杖を渡した。

 

「ミスター・ドロホフ。もう一度聞くざんす。約束はこの先、あんた達のことについて嘘八百を書かないざんすね?」

「ああそうだ。お前が約束を守るなら俺たちも約束は守る」

 

 それを聞いてリータはニヤッと笑った。オスカーは全身に悪寒が走ったのが分かった。

 

「いいことを教えてあげるざんす。速報以外の日刊預言者新聞の記事は三日前に記事を投稿するざんす」

 

 リータは何を言おうとしているのか、オスカーはどんどん嫌な予感が高まってくるのを感じた。

 

「約束は守るんざんすよ、オスカー・ドロホフ、ニンファドーラ・トンクス、レア・マッキノン。あたくしは破っていないざんすからね、明日の新聞を楽しみにするざんす」

 

 オスカーが杖を上げようとした瞬間、リータは邪悪な笑みを浮かべてバチっという音と共に姿くらましをした。

 

 

 

 次の日、日刊預言者新聞にホグワーツの演劇に関する三回目の記事が載った。

 

 『幸せの記憶』

 本誌の特派員、リータ・スキータはこれまで二回にわたって、ホグワーツ魔法魔術学校における演劇の再許可の問題について記事を寄せてきた。

 本件は昨年度九月、ホグワーツ魔法魔術学校の変人校長、アルバス・ダンブルドアとその友人でもあり、長年ウィゼンガモットの評議員を務めているエルファイアス・ドージから理事会に提案があり、いくつかの反対があったにもかかわらず、強行採決された案件である。

 そして、これまでその劇の配役について先の戦争の犠牲により傷ついた二人の少女が選ばれていると記事上では記述した。

 本記事では三人目、魔法界でも屈指の人気演目である『豊かな幸運の泉』のメインヒロインであるアマータ役の少女がどうして選ばれたのかについて報告するものである。

 アマータ役に選ばれたのは、クラーナ・ムーディ。グリフィンドール寮、三年生に在学するダークグレーの髪と黒い瞳を持つ可愛らしい少女である。

 ムーディという苗字から、彼女がこれまで魔法界に何代にもわたって優秀な闇払いを輩出してきたムーディ家の血族であることがわかる。

 現に彼女は伝説の闇払い、マッドアイ・ムーディこと、アラスター・ムーディの姪にあたる。そして、変身現代を購読していた方ならば、彼女の姉、イライザ・ムーディについてもご存じではないだろうか。

 イライザ・ムーディは変身現代への寄稿回数二十回と若年ながら現代の変身術に多大なる功績を残した魔女であり、非常に困難な魔法の一つ、動物もどきの最年少登録記録、及び現在最新の登録者である。そして彼女は先の戦争で姿を消した闇払いの一人でもある。

 先の戦争で語られる悲劇において、闇払いはそのエピソードの多くを担っている。恐らく一番有名なのはフランク・ロングボトムとアリス・ロングボトムの悲劇であると考えられる。

 ロングボトム夫妻はベラトリックス・レストレンジ、バーティ・クラウチ・ジュニアと言った凶悪犯によって気が狂うまで拷問され、死んだ方がましとまで呼ばれる状態に、廃人へと変えられてしまい、例のあの人が没落して数年経つ今となっても聖マンゴ魔法疾患病院で治療を続けている。

 しかしながら人の形を保っているという意味ではかの夫妻でさえ慰めのある状態であるかもしれない。

 聖マンゴ魔法疾患病院には特別隔離病棟が存在する。この特別隔離病棟には他の人に危害を加える可能性のある状態にある人物が収容されている。そして、イライザもこの特別隔離病棟に収容されている。

 聖マンゴ魔法疾患病院のとある癒者は証言する。「あんなに痛ましく、恐ろしいものは見たことがない」また違う癒者は証言する。「あそこに行った後は彼女の叫びと彼女の爪の音がいつも耳から離れない」

 動物もどきは全てその変身形態が登録されている。魔法省の名簿で誰でも簡単に確認することが可能である。イライザの変身形態は高い知恵を持ち、人肉を好む蜘蛛、アクロマンチュラである。

 動物もどきの特徴は人の心を保ったまま動物に変身できることである。ただし、それは正規の手段で動物、人間に変身する場合である。この変身を何らかの手段で妨害されたり、正規のプロセスを踏まない場合、非常に不可逆で残酷な状態になる。伝説ではクィンタペッドと呼ばれる魔法生物は敵対する一族によってこの状態に変えられた動物もどきであると考えられている。

 彼女、イライザは戦争末期に死喰い人の集団に囚われ、不完全な変身の結果、半身半獣の状態になり、人の心を失い、その場の死喰い人を全滅させた後、魔法省闇払い局、魔法生物危険規制管理部が全員で出撃し捕らえられた。

 この事件は当時の魔法省にとって衝撃の事件であり、魔法大臣ミリセント・バグノールド自ら緘口令をしいた。本記事が掲載できるのは無論、魔法大臣が代替わりしたためである。

 さて、ここで元の豊かな幸運の泉の配役の話に戻りたいと考える。この演目でアマータが最後に捧げるのは捨てられた恋人との幸福な記憶である。

 ではアマータ役にイライザの妹を選んだ人物は何を考えて、配役したのだろうか? 姉妹は年の離れた姉妹であり、妹の物心がつかない年齢で両親は死去している。本記事を執筆している筆者から見ても、妹にとって姉がどのような存在であったのかは想像に難くない。

 そしてこの配役を考えた人物が、これまでの二人における配役を考えるにいったいどのような幸せな記憶を捨てろと言っているのかを想像するのも難しくないと考える。

 執筆者の私はこのような形で、先の戦争の犠牲者である少女たちを利用して劇に利用するような人物、今回提案を行ったアルバス・ダンブルドアとエルファイアス・ドージの人格を疑わざるを得ないと考える。

 果たしてこのような形で行なわれる豊かな幸運の泉に本当の幸せが訪れるのであろうか? 読者の皆々様には一考していただきたい。

 

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