ドロホフ君とゆかいな仲間たち   作:ピューリタン

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苦しみの証・努力の証・過去の宝

 オスカーは大変だった。

 まずレア、エスト、クラーナの三人をチャーリーが爆笑する中、事の次第を説明するのが大変だった。

 次にそれからというもの、しばらくの間、エストはオスカーに怒ってろくに口を聞いてくれない上に、クラーナはオスカーが近づくだけで飛び退いた。

 さらにそれを誰かに相談しようにも、レアは自業自得ですねと言ってオスカーを助けてくれなかったし、チャーリーは爆笑するだけで役に立たず、トンクスはニヤニヤ笑っているだけだった。

 極め付きには、スリザリンのクィディッチチームがオスカーの所に大挙してやってきてエストの機嫌が悪いことでオスカーを責め立てた。

 オスカーは劇が終わって忙しく無くなったはずなのに疲労困憊だった。

 ただマシだったのは日刊預言者新聞が最近はボージン・アンド・バークスという店が全焼しただとか、ファッジ新体制の魔法省が吸魂鬼を一匹逃がしただとか、そういう普通のニュースを書くだけになり、リータが約束を守っていることを確認できていることだけだった。

 

 

 劇が終わって一週間ほどたった朝食の時間、何やらグリフィンドールのテーブルが騒がしい様だった。凄まじい数のふくろうがグリフィンドールのテーブルに襲来している。

 オスカーはミュリエルがエストにふくろうを送ってきた時でもあれほどの数では無かったなと思っていた。

 

「なんかあったのかな? 最近ふくろう便が遅れてたみたいだけど、それにしても凄い数のふくろうなの」

「ふくろうの土砂降りってああいうのの事を言うんだろうな」

 

 しょせん他人事だと話すオスカーとエストの前にも一羽のふくろうが降り立つ。茶色の森ふくろうだった。オスカーは朝食の皿を左右に避けて、ふくろうから封筒を受け取った。

 封筒には『ホグワーツ エストレヤ・プルウェット様』と書かれていて、封筒の後ろを見ると『週間魔女 編集部』と書かれている。オスカーは去年の事や今年の日刊預言者新聞の事もあってあまり郵便物が好きではなかった。

 

「エスト宛てだ。差出人は週間魔女編集部らしい」

 

 スクランブルエッグを頬張っていたエストがオスカーから無言で封筒を受け取った。頬張りすぎて喋れないようだった。

 封筒を破いて中からでてきたのは恐らく週間魔女の冊子だった。オスカーは同じ様な冊子をウィーズリーおばさんが読んでいたのを見たことがあった。

 しかし、エストは表紙を見るなり顔色を変えて、スクランブルエッグを全てのみ込んだ。中身を数ページ読んだ後、オスカーの顔を見て、次にグリフィンドールのテーブルの方に視線を移したようだった。

 オスカーもグリフィンドールのテーブルを見ると騒ぎが少し収まり、誰かがスリザリンのテーブルにやってきているようだった。

 ローブや髪の毛をふくろうの羽まみれにして、魔法薬の教科書より分厚い封筒の束を持って、こっちに歩いてくるのは顔を真っ赤にしたクラーナだった。

 

「エスト‼‼ 今すぐ、あのリータ・スキータとか言うクソ虫をアズカバン送りにしに行きますよ‼‼」

 

 クラーナはそう叫んで封筒の束をオスカーの目の前に叩きつけた。封筒は全てクラーナ宛てのようだった。

 

「それは無理なの、スキータさんは約束は破ってないの……」

「はあ? そんなの知りませんよ‼‼ 私が今すぐ魔法省に通報してやります‼‼」

 

 大広間の半分くらいの視線をクラーナとエストは集めているようだった。スネイプ先生が騒ぎを聞きつけてこっちに来るのがオスカーには見えた。クラーナを捕まえてグリフィンドールから減点するのがオスカーには簡単に想像できた。

 

「エストたちは約束しちゃったの……」

「私はこんな頭の軽い雑誌に載せてくださいなんて約束してないですよ‼‼」

「クラーナ、スネイプ先生がこっちに来てるからもうちょっと静かに……」

 

 オスカーがクラーナにそう言うと、クラーナはさらに顔を赤くして、エストが持っていた冊子をひったくってオスカーに投げつけた。

 

「なんでオスカーは他人事みたいな顔してるんですか‼‼」

 

 オスカーは投げつけられたそれを見て、自分の顔から血が引いていくのがわかった気がした。週間魔女の表紙はどう見ても、劇の最後のシーンのオスカーとクラーナだった。

 ペラペラとページをめくると誹謗中傷等はないものの、こっぱずかしくなるような事が多分に書かれていた。オスカーは頭を抱えた。

 

「なんなんですか‼‼ このクソ雑誌に書いてある歯が浮きそうな文章は‼‼ 何が魔法界の深い溝を埋めるキ……」

 

 クラーナは途中まで自分で言って顔をさらに赤くした。そして今度は封筒の束をオスカーとエストに突き出した。

 

「ありがたくもない手紙が大量に届いて私のローブは羽だらけですよ‼‼ ああ、決めました。トンクスをふくろうに変えてやります‼‼ それでホグワーツを十周はしないと元に戻しません‼‼ それかチャーリーのアホが言ってたみたいにオスふくろうの群れに突っ込んでやります‼‼」

 

 トンクスがふくろうになるとやっぱり毛色が変わるのだろうかと考えながらオスカーはクラーナが突き出した封筒の中身を読んだ。

 届いた手紙にはクラーナを応援してるだとか、胸がキュンキュンしただとか、貴方の心情を考えると涙が止まらないだとか書かれていた。

 

「喧嘩かね? ミス・ムーディ、ミス・プルウェット」

 

 スネイプ先生がいつの間にかすぐそばまで来ていた。オスカーはスネイプ先生がオスカーとエストがグリフィンドール生と一緒にいるときに近づいてくるのは珍しいと思った。

 魔法薬学の授業の時でも、グリフィンドールの二人といるときは余り近づいてこない気がしていたからだ。それ以外のとき、スリザリン生とグリフィンドール生が分かれているときはいちゃもんをつけてグリフィンドールを減点し、エストが答えるたびにスリザリンに点を与えていた。そのせいでそんな印象があるのかもしれないとオスカーは考えた。

 

「スネイプ先生、ちょっとクラーナにふくろうが一杯来てたから大声がでただけなの」

「おやなるほど…… ミス・ムーディ、魔法界のヒロインにこんな事を言うのは酷かもしれないが、あまり朝食の席では騒がないでくれたまえ」

 

 スネイプは机の上に置かれていた週間魔女をチラッと見て、クラーナにそう言った。クラーナは怒りなのか恥ずかしさなのか、さらに赤くなってスネイプ先生に言い返そうとした。グリフィンドールから十点ばかり引かれるのが容易に想像できたので、オスカーはクラーナの肩を引っ張った。

 

「わわっ…… お、オスカー、なんなんですか……」

 

 クラーナはオスカーが触った途端に一気に飛び退いた。最近やっとマシになってきたと思っていたのに避けられてオスカーは結構ショックだった。

 

「スネイプ先生、クィディッチ競技場の予約をグリフィンドールより先にしたいってキャプテンが言ってたの」

「ああ、その件はマクゴナガル先生と交渉中だ……」

 

 エストがスネイプ先生との話題を変えてくれているようだった。オスカーはクラーナをとりあえず座らした。

 

「減点されたいのか? とりあえず週間魔女のことは無視するしかないだろ」

「そ、それはそうですけど……」

 

 オスカーとクラーナの様子を見て、血みどろ男爵が鼻を鳴らした。オスカーは今日はあまり話かけてこない人物ばかりがこっちに興味があるようだと思った。

 

「少年、寮外の友人をつくるのは好ましいことだが寮生とも仲を深めた方がいいぞ」

「そうですね……」

「血みどろ男爵って喋りかけてくるんですね……」

 

 血みどろ男爵と二人が喋っている間に、エストと話し込んでいたスネイプ先生がやっと教職員のテーブルに戻るのが見え、入れ替わりにトンクスとチャーリーがこっちにやってくるのがオスカーには見えた。朝食の時間はもうほとんど終わっていて、大広間はだんだん人気が無くなり始めていた。

 

「やったじゃないクラーナ、全国デビューね」

「ほんとにぶっ殺しますよ、今なら許されざる呪文を使っても許される気がします」

 

 オスカーは二人が大騒ぎし始めたのを見て、逆転時計を使った方が本当に丸く収まったのではないかと思い、自分の判断力を疑い始めていた。

 

「週間魔女はママも料理のページを見るために読んでるからね、多分うちの家族は全員読んでるんじゃないかなあ」

 

 チャーリーがそう言うのを聞いて、オスカーは初めて夏休みに隠れ穴に行くのが少し嫌になった。これは深刻な事態だった。

 

「少年、選択は重要だぞ、それと余り他の寮に入り込むのは慎むようにな」

 

 血みどろ男爵は意味深なことを言って鎖をがちゃがちゃやりながら消えようとした。

 

「他の寮ってなんなの男爵」

 

 オスカーとトンクスは顔を見合わせた。二人は見られたハッフルパフの三人には口止めをしていたがゴーストや肖像画には口止めをしていなかった。血みどろ男爵が珍しくちょっと困ったような表情をしていた。

 

「髪飾りの時にエストと一緒にレイブンクロー寮に入り込んだんじゃないんですか?」

「今年はそんなことしてないの、ね? オスカー?」

 

 エストに同意を求められ、オスカーは返答に困ってトンクスの方を見た。トンクスはあからさまに目が泳いでいて、髪の毛の先っぽが赤くなっていた。エストがオスカーとトンクスの様子を鋭い眼で見ていた。オスカーはトンクスも閉心術をマスターした方がいいと思った。

 

「順当に考えれば、オスカーが入ったのはハッフルパフ寮なの、ね? 男爵?」

 

 男爵は何も答えずにオスカーの方をチラッと見ていた。無言は同意を意味していた。オスカーは灰色のレディがやってきて血みどろ男爵をアルバニアに連れて行ってくれないかと思った。

 

「なんでハッフルパフ寮なんですか?」

「だって、オスカーが黙ってどこかに消えたのは最近だと二回だけなの、劇の時と劇の後なの」

 

 そう言っただけでクラーナにはエストがどうしてそう思ったのか分かったらしかった。オスカーが思っている通り、二人共勘が冴えているようだった。

 

「問題はなんで二人が嘘をついていたのかって言うことですか?」

「そうなの、ハッフルパフの寮に逃げ込んだって言えなかった理由があるはずなの」

 

 

 何故かチャーリーはもう爆笑していた。最近、オスカーは自分が追い詰められているときに限ってチャーリーが笑っていると感じていた。オスカーはさっさとトンクスと言い訳を考えないとすぐにボロが出ると思った。

 

「で? なんでですか? トンクス?」

「なんで私なのよ、オスカーに聞きなさいよ」

「俺に聞かれても答えられないぞ、言うなって言ったのはトンクスだからな」

「ちょっと、あんた裏切るつもりなの!」

 

 オスカーはこれは明らかに状況が悪いと思った。それにどうもエストの機嫌が週間魔女が届いてから明らかに悪くなっている気がしていた。

 

「そう言えばトンクスって、オスカーを呼ぶとき、あんたじゃなくて。あなたじゃなかったの?」

「はあ? 何よそれ、オスカーをどう呼ぼうと私の勝手よね? ハッフルパフ寮に入ったっていうのもエストの想像だし、いちゃもんよ」

「ハッフルパフ寮で言いたくないことがあったってことだよね? ハッフルパフの学生に聞けば分かるんじゃないかな」

「そうですね、午後の薬草学の時間に聞けばいいですね」

 

 オスカーとトンクスはチャーリーを睨みつけたが、チャーリーは相変わらず半笑いだった。オスカーはここで黙っていてもあそこで何があったのかばれるのは時間の問題ではないかと思った。

 

「トンクス、どうするんだ」

「ここはあれよ、小さい事実で大きい事実を隠せばいいのよ、オスカー、上手く丸め込むのよ、魔女に対する攻略術でO優をとったあんたならできるわ」

 

 無理難題だとオスカーは思った。確かに逆転時計やエストの羊皮紙といい、何かに視点を集中させれば乗り切れるかもしれなかったが、そもそもオスカーは何を隠せばいいのか分からなかった。

 

「それで? オスカーは何か言い訳を考えついたんですか?」

「どうせすぐにばれるの、魔法使いの口に戸は立てられないの」

 

 オスカーの事を良く知っているであろう二人から何かを隠すのは相当難しかった。ちょっとでも違和感があればすぐに気づかれてしまうからだ。オスカーはあのやり取りの中で一番インパクトがあるであろう事が何なのか考えた。

 

「トンクスは名前で呼ばれるのが嫌だろ」

「そうですね、あほのニンファドーラはそう呼ばれるのが嫌みたいですね」

「テッドさんとトンクス先生につけて貰った名前なのにもったいないの」

 

 オスカーはあそこで二人がベッドの上にいたことをハッフルパフ生に見られた事が一番の問題だと考えた。つまり、そこから二人の考えの焦点をずらせばいいと考えたのだ。

 

「それでなんだけど、劇が終わるまで隠れてる間暇だったから、トンクスが賭けに負けたら名前で呼んでもいいって言ったんだ」

 

 オスカーがそう言うと二人がトンクスの方を見た。さっきまでの視線と何か意味合いが違うような気がオスカーはした。

 

「それで俺が多分賭けに勝ったから、ニンファドーラって呼んでたら他のハッフルパフ生に見られて、それを黙ってくれって言われたんだ」

「オスカー、あんたバカじゃないの……」

 

 トンクスは信じられないという目でオスカーを見た。オスカーは特に問題ないはずだと思っていたので、その目線が意外だった。

 

「ニンファドーラはオスカーと何の賭けをしたの?」

「私も気になります、ニンファドーラ」

 

 オスカーは二人の口撃がトンクスに向いたのでちょっと一安心した。オスカーは二人にあまり嘘をつきたくなかった。

 

「なんでもいいでしょ、話はそれで終わりよ、あとニンファドーラって呼ぶのやめなさいよ」

「オスカーに呼ばれるのはいいのに、私たちはダメなんですか? ニンファドーラ」

「そうなの、友達なのに悲しいの、ニンファドーラ」

「ニンファドーラって、トンクスのお父さんやお母さんはそう呼んでるよね」

 

 トンクスはこれでもかという憎しみの表情でオスカーを睨みつけた。オスカーにはお手上げだった。

 

「つまり、ニンファドーラにとって私たちはただの友達で、オスカーは家族同然ってことですか?」

「バカ言ってんじゃないわよ‼‼ だいたいあのあとオスカーもニンファドーラって呼んでないでしょ‼‼」

「ニンファドーラ、髪の毛が赤くなってるの、図星なの」

 

 トンクスは自分の髪の毛を持ち、一度しかめるような顔をして、エストと同じ様な黒髪に色を変えた。

 

「オスカー、結局ニンファドーラとなんの賭けをしたんだい?」

「今、エストとクラーナがニンファドーラにやったことを俺ができるかできないかだけど」

「オスカー、ほんとに首から上を消失させるわよ」

 

 三人のやり取りを聞いて、またエストとクラーナのトンクスを見る目が変わった気がした。オスカーはそろそろこの話題をやめたかった。それに血みどろ男爵もいつの間にか消えていたし、大広間も人がほとんどいなかった。

 

「ニンファドーラって、もしかしてわざとドジをやってますか?」

「エストもニンファドーラは何も考えてないと思ってたけど、これからは考え直すの」

「どういう意味よそれ‼ だからあなた達に言いたくなかったのよ‼ オスカー、ほんとあんたアホじゃないの‼ いつか朝食にアモルテンシアを入れられるわよ‼」

 

 結局、五人は昼食の時間になるまで大広間で騒ぎ続けていた。オスカーは安易に他の寮に入ることをもうしまいと心に決めた。

 

 

 

 劇が終わってからの学校生活は矢の様に過ぎて行った。週間魔女が発刊されてからちょっと機嫌が悪かったエストがグリフィンドールチームのビーター二人を叩き落とし、スリザリンのビーター二人が大暴れした結果、スリザリンはスニッチこそチャーリーにとられたものの、クィディッチトーナメントで優勝した。

 オスカーは何故かクィディッチチームのメンバーに胴上げされて、試合前にエストの機嫌を損ねる様にお願いされた。オスカーは丁重にお断りした。

 

 期末試験は特に問題がなかった。期末試験の頃にはエストの機嫌は直っていたし、オスカーは実技のある闇の魔術に対する防衛術、呪文学、変身術に加えて、薬草学と魔法薬学でもエスト以外に負けることが無くなった。エストは十科目の試験で最高の成績だった。オスカーがエストに勝てたのは占い学だけで、闇の魔術に対する防衛術は同じ点数だった。逆転時計も試験の時にエストがマクゴナガル先生に返却していた。

 

 今年も闇の魔術に対する防衛術の先生は一年で辞めてしまうようだった。ドージ先生いわく、もともと一年の約束だったらしく、体力的に持ちそうにないと言っていた。オスカーは闇の魔術に対する防衛術の先生とは、他の科目の先生よりも関りがあるのに毎年いなくなってしまうと思っていた。そしていい加減この科目は呪われているというのが本当ではないのかと考えていた。

 

 ホグズミード駅からキングズ・クロス駅へ向かう道中、オスカー達五人はまたコンパートメントを独占していた。相変わらず爆発スナップだの、百味ビーンズの一気食いなんかをしながら帰りの時間を過ごしていた。扉の外側に金髪が見えたのでオスカーは皆が何か言う前にドアを開けた。

 

「オスカー、魔女を呼び寄せる呪文とか覚えてるんじゃないの、あんた」

「どんな呪文だよ」

「あ…… す、すぐ戻りますからドアを開けたままでも……」

 

 オスカー達は詰めて座ってレアの場所を開けた。クラーナがレアを強引に座らせた。オスカーは良く考えなくても魔女ばかりになってしまって、チャーリーと自分は肩身が狭いと考え始めた。

 

「レアは夏休みは暇なの?」

「そうですね…… ボクは家で宿題をしてるだけだと思います…… レイブンクローのみんなは家族とバカンスにいっちゃうみたいなので」

「じゃあレアも隠れ穴決定なの」

「なんですか? 隠れ穴って?」

 

 レアは不思議そうに首をひねった。オスカーも隠れ穴という名前が何なのか最初は分からなかったので、真っ当な反応だと思った。

 

「僕の家だよ、夏休みは結構みんな泊まりに来てるんだ」

「ただレアも来るんなら人数的にあの家も限界かもしれませんね、そもそも男ばっかりの家ですし」

「クラーナ、そんなにオスカーの家に行きたいなら行きたいって言えばいいのよ」

「ニンファドーラは黙ってればいいんですよ」

 

 ふざけているトンクスを置いておいても、確かにあの家のキャパシティが限界に近付いているのは確かかも知れなかった。それに前に一緒にグリンゴッツに行った時にウィーズリー家が違う意味で限界ギリギリの生活をしていることもオスカーは知っていた。

 

「最初の方だけ、ウチかエストの所にいればいいんじゃないのか? 隠れ穴には屋敷しもべもいないしな、正直、あの量のごはんをつくるのは大変だろ」

「それはそうなの、モリーおばさんは確かに大変そうなの、エストたちは魔法使えないから手伝えないし」

 

 オスカーはクリスマス以外にも人が来た方がペンスも喜ぶだろうと考えた。それに今年になってやっと玄関から吸魂鬼が消えたので、外に遊びに行くこともできるはずだった。

 

「えっと…… どうなってるんですか?」

「うーん、とりあえずパパとママの様子を見てからふくろうを送るよ、エロールがみんなのとこに届くのはちょっと時間がかかるかもしれないけど」

「あれならローガンを先になんか持たせて送るけどな」

「その方が助かるよ、エロールは悪天候だとほとんど飛べなくなってるから」

 

 ウィーズリー家のふくろう、エロールはかなりの高齢になってきていて嵐の中だとよく行方不明になっていた。実際、去年の夏休みにも、オスカーの家にいるふくろうのローガンがエロールをわしづかみにして手紙ごと運んできたことがあったのだ。

 

「それでいいんじゃないの? 正直、隠れ穴は女の子の部屋が一つしかないし、限界だと思うわ、あとレアはなんか他に用事があるんじゃないの?」

「そうでした……」

 

 オスカー達の視線がレアに集まった。オスカーはレアの髪の毛が学期の始まりより伸びている気がした。それでも短いことに違いはなかったが。

 

「あの…… ありがとうございます。先輩達と練習したおかげで、守護霊の呪文も使えるようになりましたし、呪文学と変身術ではほとんどトップの成績になりました」

 

 レアは言うのが恥ずかしいのか、手を開いたり握ったりしていた。それでも視線はみんなと同じ高さだった。

 

「オスカー先輩とエスト先輩には他にもお世話になりましたし、ボクもちょっとだけ自分を信じることができたと思います。ありがとうございました」

 

 オスカーはレアの一言を聞いて、トンクスに胸を突かれた時から頭の中を時々グルグル回っているものがまた大きくなった気がした。

 

「あの時はアバーフォースさんがほとんど喋ってただけなの、だから来年ホグズミードに行けるようになったら、挨拶しに行けばいいの」

「そうですね…… ちょっと怖いですけど」

「大丈夫よ、あの人あのクソ虫を私たちよりヤバイ目で見てたもの、それにファイア・ウィスキーを飲んでも黙っててくれるしね」

 

 トンクスはそう言った後に意味深にクラーナの方を見た。

 

「ニンファドーラ、いい加減死にたいようですね」

「何よ、私は何も言って無いわよ」

 

 オスカーはレア、エスト、クラーナ、トンクスの順番に顔を見た。チャーリーはまた半笑いでトンクスとクラーナの漫才を見ていた。

 あの時、クラーナは酔っ払って何を言っていたのか、確かレアに対して自分と向き合っていると言っていたはずだった。オスカーはホッグズ・ヘッドのレアを、クリスマスのエストを、まね妖怪の前のクラーナを順番に思いだした。

 

「あのバーテンがダンブルドア先生の弟なんて、中々信じられないよね」

「弟さんと言えばチャーリー先輩の弟さんは来年入学なんじゃないですか?」

「パースは来年入ってくるの」

 

 みんな自分と向き合っているためにあれほどリータの記事に苦しめられたのではないのか? オスカーはトンクスの言葉を思いだした。まず自分からだと。オスカーは思った。自分はリータに記事にされたらみんなの様に悩むことはできたのだろうか? マルフォイが言っていたように何かを忘れていないのか? オスカーはだんだんとやるべきことが見えてきた気がした。

 

「パーシーはエストになついてたみたいですから、グリフィンドールになったら悲しみそうですね」

「誰かさんと誰かさんみたいね、スリザリンとグリフィンドールで」

 

 クラーナの守護霊の姿を見た時に、オスカーは守護霊が取る姿がその人にとって必然的なモノだと分かった。では自分の守護霊はどうなのか、オスカーはその意味を知らないといけないと思った。

 

「誰かなんて誰なのか私には全然わかりませんね、はっきり言ったらどうですか?」

「何よ、赤い顔してモジモジしてたくせに開き直ってるんじゃないわよ」

「やっぱり今すぐ窓から放り投げてやります」

 

 誰かが誰かの事を思って言ったりやっていることでも、時にはそれに真っ向から向かって行かないといけないとオスカーは一年間でやっと分かっていた。誰かを分かっているつもりで分かった気になっているだけだと、分かっていた。

 

「行きのホグワーツ特急とやってることが全く変わってないの」

「そのほうがいいのかもね、色々あっても変わらないんなら」

「トンクス先輩とクラーナ先輩は仲良しですよね」

 

 いいタイミングなのだと、ホグワーツから帰るタイミングほどいい時間があるとはオスカーには思えなかった。

 

「何が仲良しなんですか‼‼ このニンファドーラのせいで未だにクソみたいな手紙が週に十通は届くんですよ‼‼」

「あら良かったじゃないの、というかオスカー全然喋らないわね、黙らせ呪文でもくらったの?」

「お前らがうるさいからバランスをとってるんだ」

 

 そう、バランスが重要だった。オスカーはホグワーツ特急のスピードが下がっているのを感じながらそう思った。誰かのことを知ったのなら、自分のことも知らないといけない。オスカーはそう思った。

 

 


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